a0960_006624_m
   


ガンは労働分配率の低下

働きに見合う賃金が必要

無力化された日本の労組

日本株の魅力は内部留保

 

世界のサプライショックによって、世界的な物価上昇が起こっている。その中にあって、日本もエネルギー価格の上昇はあるが、物価水準として均せば「さざ波」程度である。依然として、低物価に変わりない。

 

欧米の金融当局は、消費者物価上昇に頭を悩ませている。日本では、物価が少しは上がって景気が刺激されれば良いという、「期待感」をのぞかせている。日本経済は全く、別次元をさ迷っているが、低物価だけ突出しているのではない。「低物価・低金利・低成長・低失業」の4点セットになっている。これが特色である。

 


将来の先進国経済が進むべきひな形が、日本に見られるというイメージもある。だから、このままで良いかと思われるがちだが、そうでないことを指摘したい。日本の労働生産性が低い結果でなく、労働分配率が低い「異常現象」である。労働生産性に見合った賃金でないのだ。こういう事実を認識して、「労働に見合った賃金」を受取り、日本経済を正常化させるべきである。

 

ガンは労働分配率の低下

こういう書き方をすると、煽動しているように見えるがそうではない。日本経済に活力をもたらすには、労働に見合った賃金を受取ることで所得が増え消費増につながれば、「万年低物価」という沈滞ムードを打破できる。

 

1980年代まで、高度経済成長時代の家庭は、すべて「共稼ぎ」でなくても家計を維持できた。それは、年々の賃上げがそれなりに期待できたからである。現在は、共稼ぎが普通である。それでも、住宅を買えば苦しくなる状態だ。むろん、当時とは潜在成長率で天と地もの違いがあるから当然、起こるべきことである。ただ、今の「雀の涙」程度の賃上げでは、日本経済が循環しないのだ。30年前の労働分配率は、現在よりに約10%ポイントは高かったのである。

 


そこで、せめて生産性上昇に見合った賃上げを行なうべきだ。実は、生産性上昇率に見合った賃上げをしていない結果、企業の内部留保(利益剰余金)は増える一方である。財務省の「法人企業統計」によれば、
2020年度は過去最高の484兆円に達している。2020年、日本の名目GDPは538兆円である。何と、名目GDPの89.9%にも相当する金額が、内部留保となって眠っているのだ。

 

むろん、これだけの内部留保があるから、安定した雇用を確保できるというメリットを否定するものではない。大きな経済的なショックが起こっても、従業員を解雇せずに一時的な赤字で凌げる体力をつくっていることを認めなければならない。だが、そういう「保険」のために日々、生活に苦闘している従業員を犠牲にすることは、回り回って自社の業績にも響くという「合成の誤謬」に気付くべきであろう。

 

先に、「低物価・低金利・低成長・低失業」が4点セットになっていると指摘した。これは、日本的経営の特色を100%表している。日本企業が、名目GDPの約90%にも相当する内部留保を抱えていることの必然的結果だ。誤解ないように指摘したいが、名目GDPはフロー概念であり、内部留保はストック概念である。単なる比較論で言っているだけである。

 


日本の消費者物価上昇率(前年同月比)は、1993年以来、2008年夏場の2ヶ月をのぞけば、2%を超えたことがない「超安定状態」である。消費者物価が上昇しても、必ず「0%」に引き戻されるほど、このラインが強い吸引力を持っていることが分かる。これには、次に述べるような「メカニズム」が、消費者の中に出来上がっているのでないかと思わせるほどである。

 

所得上昇率が低いという事情があるものの、「物価上昇は悪」という認識を決定的に刷り込ませてしまっていることだ。過去、消費税率引上げのとたんに景気を冷やしたのは、この「物価上昇は悪」というイメージに逆らったからである。賃上げ率を上まわる消費税引上げは、消費者にとって容認しがたいことなのだろう。現状の低い賃金引上げ率が続くならば、今後の消費税引上げは絶望と見たほうがよい。

 

政府が将来、消費税引き上げを考えているとしたら、生産性に見合った賃上げルールを確立して実行することが大前提になる。消費税率を引き上げられるほどの体力(賃金引き上げ率)を持つ日本経済へ回復させるには、賃上げルールをどのように確立するかである。

 

政府が、民間企業の賃上げに干渉することは不可能である。だが、望ましい経済運営に当っては、労働生産性上昇率に見合った賃上げが不可欠である。税制で、その誘導策をいかに設けるかである。政府は、労使の自主交渉を見守りながら適正に誘導する政策手腕が問われる。岸田政権は、労働分配率問題に触れているので、そのルートを早く示すべきである。(つづく)