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米国バイデン政権は、サプライチェーンの米中デカップリング(分離)に全力を挙げている。中でも、半導体企業の米国誘致に積極的である。その「勝利の証」として、サムスン電子が新規ファウンドリー半導体生産ライン建設地としてテキサス州テイラー市を最終選定したと発表した。予想投資規模は170億ドルに達する。

ホワイトハウスは、ディーズ国家経済会議委員長とサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)名義で、「米国のサプライチェーンを確保することは、バイデン大統領と政権の最優先課題である。サムスンがテキサス州に半導体工場を新たに建てることにした発表を歓迎する」と声明を発表した。こうした共同での声明は異例とされる。



米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月24日付)は、「
サムスンの米半導体工場、地政学が落とす影」と題する記事を掲載した。

 

最先端の半導体工場を国内に構えることは各国共通の望みだ。韓国サムスン電子が米国に半導体工場を建設するのは、こうした流れにうまく乗った動きと言える。だが、かつてないほど制約が増えている地政学と先端半導体生産の関係について、サムスンはこの先、交渉術を学ぶ必要があるだろう。世界最大の経済国において、世界で最も重要な業界の技術的覇権を握ることは羨望の的になるが、必ずしも居心地が良いとは言えない。

 

(1)「サムスンはテキサス州テイラーに170億ドル(約1兆9500億円)を投じてファウンドリー(受託生産)専用の先端半導体工場を建設する。半導体の国内生産増強を目指すバイデン政権にとっては、目標にさらに一歩近づくことになる。サムスンのライバルである台湾積体電路製造(TSMC)もアリゾナ州に120億ドル規模の半導体工場の建設に着手しており、2024年には量産体制が整う見通しだ。米インテルは3月、200億ドルを投じて同じくアリゾナ州に半導体製造工場2カ所を新設すると明らかにしている」

 

米国は、世界の二大ファンドリーの半導体工場を米国に建設させることに成功した。これで、米国の半導体自給率をぐっと高めて、中国をさらに引離す体制を構築している。むろん、米インテルも最高技術を駆使して、二大ファンドリーと共存体制を組む。米国が半導体の黄金時代を迎えることになった。

 


(2)「これら巨額の建設費用は、ますます小型化が進む半導体を製造するのに必要な投資額がこれまで以上に膨らんでいるという事情を反映している。TSMCは向こう3年間に半導体工場に1000億ドル余りを投じる計画だ。サムスンは2019~30年の長期計画としてロジック半導体に1430億ドルを投じる方針で、その大半は研究・開発(R&D)に振り向ける」

 

TSMCやサムスンは、さらなる投資として合計2430億ドルを投じるという。従来の米国から見れば、夢のような話が転がり込んできた形だ。米中デカップリングという戦略目標に沿った動きである。

 

(3)「とはいえ、その背後では地政学上の問題が重要な鍵を握っている。半導体の製造拠点はアジア地域に集中している。しかも最先端半導体はTSMCとサムスン2強の独壇場だ。トレンドフォースの分析によると、米アップルやエヌビディアを顧客に抱えるTSMCは、4~6月期にファウンドリー事業の市場シェアで半分以上を占めた。第2位のサムスンのシェアは約17%と、首位のTSMCに水をあけられているが、サムスンは自社製品に搭載する半導体を内製している」

 

米国は、これまでアジアに集中してきた半導体工場を米国へ移させて、地政学的な安全性確保に出ている。米国が、必要とする半導体を米国内で製造できれば、サプライチェーン・ショックを克服できる。それだけでも、中国に対して大きなアドバンテージとなる。

 


(4)「米中の競争が激化する中、中国の隣国に先端半導体の製造拠点を集中させることはリスクが増している。折しも、新型コロナウイルス禍によって、地理的に偏ったサプライチェーン(供給網)のぜい弱性が改めて浮き彫りとなった。さらに中国も、自国で半導体工場の建設に巨額を投じている。華為技術(ファーウェイ)を巡る一連の騒動は、外国の半導体技術に依存していることを露呈する形となり、中国の国産半導体への決意をなおさら固くした」

 

中国は、わざわざ米国にデカップリングを決意させる「ヘマ」をしでかした。豪州に攻撃型原子力潜水艦8隻を建艦させる要因も、中国がつくったのである。習近平氏は、自分から敵をつくって包囲網の中へ飛び込んでいる形だ。「戦狼外交」がもたらした、一連の外交的な失敗である。

 

(5)「半導体技術に熱いラブコールを送る各国政府は手厚い支援で誘致する構えで、その点はメーカーにとっては追い風だ。ただ、厚遇には政府による介入を伴う可能性がある。例えば、TSMCはトランプ前政権の輸出規制によって、ファーウェイを顧客として失った。新たな半導体工場(とりわけ外国資本の工場)への資金支援を有権者に訴えている西側の政治家は、いずれ規制強化を目指すかもしれない。サムスンとTSMCは半導体製造の技術を極めた。今度は緊迫の度を増す先端技術の供給網を巡る地政学という、従来とは異なる3次元チェスを習得する必要がありそうだ」

 

このパラグラフは、極めて意味深長なことを告げている。サムスンが、米国政府の補助金を受ける以上、米国政府の意図に従わざるを得なくなるという指摘である。サムスンの国籍は韓国でも、今後は米国政府の意向にも従わざるを得なくなろうと示唆しているのだ。サンムンの国籍は、韓国から米国へ移るほどの変化を予想しているのである。