テイカカズラ
   

ドイツは、12月上旬にも新政権が発足する。環境と人権を重んじ、理想主義がにじむ左派リベラル政権である。気候変動対策で欧州をけん引すると意気込み、中国やロシアには人権で注文をつける姿勢である。北京冬季五輪への外交ボイコットに追随する可能性が出てきた。メルケル氏の「親中政策」には、大きな修正が加えられる。

 

9月の総選挙で第1党になった中道左派・ドイツ社会民主党(SPD)と環境政党の緑の党、中道リベラルの自由民主党(FDP)の3党が24日、政権樹立で合意した。外相は、緑の党から出るとみられている。緑の党は、これまで中国に対して厳しい姿勢で臨んでいる。

 


『ハンギョレ新聞』(11月26日付)は、「『中国は…』ドイツ連立政権の合意文に10回登場、対中政策変わるか」と題する記事を掲載した。

 

ドイツでいわゆる「信号連立」政権樹立の交渉が終わり、ドイツの対中国政策の変化の可能性が強まったという指摘が出てきた。

 

(1)「香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は25日、「社会民主党のオラフ・ショルツ代表が、緑の党および自由民主党との連立政権の樹立に合意した。これまで対中国強硬論を主張してきた政治家の相当数が内閣に参加することになるものとみられる」と報じた。特に同紙は「連立政権樹立の合意文には、中国に対する言及が10回ほど登場するが、新疆ウイグルでの人権弾圧問題と香港の基本権蹂躪、台湾状況などについての言及も含まれている」と報じた。いずれも、中国側が「内政」と規定し、外部からの介入に強く反発している内容だ」

 

これまで、対中国強硬論を主張してきた政治家の多くが、入閣する見込みという。これは、中国にとって、極めて好ましくない現象である。ドイツ新政権が、ここまで対中政策を変えるのは、ドイツ国内の事情だけでなく、欧州全体の対中観の変化を示している。それは、同時に台湾への接近である。

 

民主主義の友邦である台湾を支えることが、政治的にも経済的にも利益になるという判断が生まれてきたことと無縁でない。これが、台湾海峡の現状を守り平和を保つことにも役立つと考えるようになってきた現実を反映している。中国は、台湾にも欧州にも攻撃的な姿勢を強めているが、これにひるまず中国へ剛速球を投げ返す姿勢だ。10月には欧州議会が、台湾との関係を強化し「包括的かつ強化されたパートナーシップ」の確立を求める決議を採択しているほどだ。

 


(2)「実際、合意文では「欧州連合(EU)レベルでの単一の対中国政策の一部分として、ドイツは民主的な台湾が国際機関に実質的に参加することを支持する」とし、「新疆ウイグル自治区の問題を含む中国の人権弾圧に対してより明確に発言し、香港の一国二制度(一つの国家に二つの体制)の原則が復旧されるよう促す」と強調している」

 

合意文書では、新疆ウイグル自治区の問題や香港の一国二制度の原則復旧が取り上げられている。中国としては、とても応じられない内容だ。ドイツも中国も、ともに妥協できなければ対立するしかない。中国にとって、「親中のドイツ」が反中に転じる事態は、余りにも打撃の大きい変化である。

 

(3)「次期政権の内閣のメンバーも、ドイツの対中国政策に変化が生じることを予告している。外相として有力視される緑の党のアンナレーナ・ベアボック代表は、「価値に基づく外交」を強調し、中国の人権問題について批判的な発言を続けていたことがある。財務相を担当するとみられる自由民主党のクリスティアン・リントナー代表も、前任のアンゲラ・メルケル首相の政権での穏健で合理的な対中国政策を攻撃していた」

 

ドイツ新政権は、中国に対して厳しい要求を出すことは確実と見られる。これに対して、中国は当然、強くはね返すであろう。その結末は、北京五輪への外交ボイコットである。すでに、米英が「検討中」となっている。検討中とは、外交ボイコットへ踏み切る前提であろう。米英が踏み切れば、ドイツも追随する可能性が強まるであろう。

 


(4)「『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は専門家の言葉を引用し、「合意文に出てきた中国関連の表現は、ドイツ政府がこれまで使ってきた表現よりはるかに強力であり、習近平主席の統治下の中国の方向性に対するドイツ内の懸念が強まっているという点を反映したものとみられる」とし、「中国側が越えてはならない線だと規定した問題まで取り上げたことは、今後、これらの問題について、さらに公開の場で対応するつもりだということを示したもの」だと報じた」

 

中国の示すレッドラインへ、欧州もドイツも挑戦して一歩も引かない姿勢を取っている。かつて欧州は経済的利益優先で、中国の人権問題へ目を瞑ってきた。その中国経済が落ち目になっている。「金の切れ目が縁の切れ目」は、古今東西の外交政策において現実のようである。