あじさいのたまご
   


中国は、「共同富裕」の看板を高く掲げて貧困者へ夢を与えよとしている。その一環として3年ぶりに最低賃金引上げに踏み切る。最低賃金引き上げの恩恵に浴するのは、主として農民工とされる。この農民工の待遇改善が、共同富裕実現になるかと言えば、それは雀の涙にしか過ぎない。真の共同富裕実現には、所得再分配による格差縮小がカギを握るからだ。それには、税制改革で直接税の比重を上げることである。習近平氏は、この肝心の部分を逃げている。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月2日付)は、「中国、最低賃金引き上げラッシュ 『共同富裕』を意識」と題する記事を掲載した。

 

中国で最低賃金を引き上げる動きが相次いでいる。経済規模が最大の広東省をはじめ、2021年に入り20の省・直轄市・自治区が実施した。習近平指導部が掲げる「共同富裕(共に豊かになる)」のもと労働者の不満を抑える狙いだが、人件費の上昇は工場の国外移転を加速させる可能性もある。

 


(1)「広東省では12月1日、地域別に月額1410~2200元(約25000~39000円)としていた最低賃金を1620~2360元に引き上げた。ハイテク産業が集積する深圳市では2200元から2360元へ7.%、自動車産業が盛んな省都の広州市では2100元から2300元へ9.%上げた。同省での最低賃金の見直しは18年7月以来になる」

 

広東省は、18年7月以来の最低賃金引き上げを行なう。引上げ幅は7.3~9.5%である。消費景気を刺激する目的であろう。3年4ヶ月ぶりに一桁の最賃引き上げであるが、景況悪化の中だけにスムースに実現できるか見通し難である。

 

(2)「広東省には自動車の合弁工場を運営するトヨタ自動車やホンダ、日産自動車をはじめ、多くの日系企業が進出している。大手の事務所や工場ではもともと最低賃金を上回る額を支給しており、「直接的な影響は全くない」(日系車大手幹部)。ただ、清掃や食堂などの外注企業が従業員を低賃金で雇用している場合があり、今後は外注企業から値上げを要求されるなど間接的にコスト増加につながる可能性がある」

 

製造現場では、すでに最賃以上の賃金を支払っているので問題ないというが、サービス業での引き上げが、間接費引上げとしてはね返る可能性はある。

 


(3)「中国の人件費はすでにタイやマレーシア、ベトナムといった東南アジアの多くの国を上回っている。日本貿易振興機構(ジェトロ)がアジアとオセアニアに進出した日系企業から聞き取っている調査では、20年の「製造業・作業員」の基本給(月額)の平均は中国が531ドル(約6万円)で、タイ(447ドル)やベトナム(250ドル)を上回った。韓国サムスン電子が19年に中国でのスマホ生産から撤退しベトナムに移すなど、中国から東南アジアに拠点を移した製造業は多い。今後も人件費の上昇が続けば、移転への圧力がさらに高まる恐れがある」

 

中国の人件費は、すでにベトナムの2倍以上になっている。ここから、「脱中国」の動きに拍車をかけることは間違いない。

 

(4)「中国の最低賃金は31ある省・直轄市・自治区がそれぞれの地域の実情にあわせて個別に見直す仕組みだ。中央政府は地方政府に最低賃金を2~3年に1度見直すように求めている。21年は北京市や上海市などの直轄市のほか、沿岸部の江蘇省や浙江省、東北部の遼寧省や黒竜江省、内陸部の内モンゴル自治区や陝西省などが引き上げを実施した。21年に引き上げが相次いだのは、20年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済が落ち込んでいたため、多くの地域で見送っていた反動もある」

 

中国の最低賃金は2~3年に1度、各地方政府が実情に合わせて引き上げるシステムである。20年は、コロナ感染で引き上げを見送ったので、21年に持込まれた。

 

(5)「習指導部が掲げる共同富裕に呼応する面も強い。8月に習氏が開いた党中央財経委員会の会議では、共同富裕の実現のため富の配分を強化するという方針を確認した。21年に最低賃金を引き上げた20地域のうち、半数は9月以降に実施した。最低賃金の引き上げで最も恩恵を受けるのが、「農民工」と呼ばれる農村から都市への出稼ぎ労働者だ。工場で働く場合は残業代が多く出るため、一般に最低賃金の2倍程度が実際の賃金の目安とされるが、所得環境は厳しい」

 

最低賃金の引上げはむろん、所得向上を実現するから消費を刺激する。だが、間接税が全体の3分の2も占める現状は、個人への負担を大きくさせている。主要国では、間接税は3分の1、直接税が3分の2である。中国では、目に余る「大衆課税」を行なっている。この現状を改めるには、固定資産税や相続税を新設することである。だが、共産党幹部の反対で実現できずにいる。矛楯した税制を続けているのだ。

 

(6)「習氏は22年秋の党大会で異例の3期目続投に向けた足場を固めているが、3億人近くにのぼる農民工に待遇改善をアピールし、さらに盤石にしたいという思惑もありそうだ。地方政府にとっても、労働力人口の減少で続き働き手が不足するなか、最低賃金の引き上げによって他地域から農民工を呼び込む狙いがある」

 

習氏は、最賃引き上げで「善政」を施しているイメージをつくりたいのであろう。大衆が、これに騙され続けるとは思えない。いつかは、爆発するにちがいない。