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民主主義社会では、人権尊重は基本である。だが、中国は「人権思想」そのものが存在しない。最高支配者の思いのままに罪を着せられ、社会から葬られるのだ。この中国が、世界覇権を狙っている。背筋の凍る話だ。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月30日付)は、「安泰でない中国エリート、名声しのぐ共産党支配」と題する記事を掲載した。

 

中国では富や名声、影響力があっても汚名を着せられたり行方不明になったり、もっと悪い事態に陥ったりする危険が常につきまとう。この問題は、米誌フォーブスが11年に掲載した寄稿「友人には中国の億万長者になってほしくない」も指摘している。

 


(1)「同寄稿は、中国共産党が発行する英字紙『チャイナ・デイリー』の記事にあるデータを引用し、それまでの8年間で72人の中国の億万長者が早死にしたと記している。引用元の記事はその内訳も明らかにしており、「72人の億万長者のうち15人は殺害され、17人は自殺、7人が事故死、14人は法に従い死刑が執行され、19人が病死した」とある。以来約10年、超富裕層を取り巻く状況が改善したと思う人は、中国の実業家で今は国外で暮らすデズモンド・シャム(沈棟)氏が9月に出版した「Red Roulette(赤いルーレット)」を読むとよい」

 

中国共産党が発行する英字紙『チャイナ・デイリー』は、2011年までの8年間に、72人の中国の億万長者が早死にしたと伝えているという。この72人の人たちの内、19人を除けば非業の死である。ゾッとする事件だ。中国社会の暗黒ぶりを示している。

 


(2)「シャム氏と元妻でかつてのビジネスパートナーだったホイットニー・ドゥアン(段偉紅)氏は貧困から身を立て、不動産開発で富を築いた。2人は絶頂期には北京で英高級車ロールス・ロイスを乗り回し、プライベートジェットで世界を飛び回った。ドゥアン氏は中国政界の大物との人脈を利用して事業を成功させていったが、17年に拘束され、行方がわからなくなった。突然の失踪が珍しくないことはこの本を読めば明らかだ。シャム氏とドゥアン氏は北京にある空港の拡張工事を手がけていた。だが北京の空港運営会社の総経理でこのプロジェクトの重要人物の一人だった李培英氏が何の説明もないまま姿を消し、両氏のプロジェクトは暗礁に乗り上げた。李氏は後に収賄罪で起訴され死刑が執行された」

 

このパラグラフに書かれている事柄は、民主社会では絶対に起こり得ない話である。それが、日常的に行なわれている無法社会である。

 


(3)「元妻のドゥアン氏は、政界との重要なコネクションとして、習近平(シー・ジンピン)国家主席の後継候補ともいわれた孫政才・重慶市党委員会書記(当時)と関係を築いていた。しかし、孫氏は党籍を剝奪され、18年に収賄罪で無期懲役の判決を言い渡された。シャム氏は、孫氏は「実は政治的な目的で葬られた」と主張する。ドゥアン氏がその後逮捕されたのは、孫氏とのつながりを問題視された可能性がある。あるいは、温家宝前首相の夫人との親密な関係があだになったかもしれない。温氏が今春、新聞としてはあまり規模の大きくないマカオ紙に寄稿した母を悼む文章は、暗に習氏を批判したものとして中国内のインターネット上で閲覧制限を受けた」

 

中国は純粋な市場社会ではない、コネを付けた者が勝ちとなる社会である。このコネは、賄賂で結ばれているので、公安が狙いを付けた人物は必ず拘束できる社会である。民主社会からみれば、想像もできない暗黒社会と言って間違いない。

 


(4)「
国際的な名声があっても、権力を自在に振るう現体制の下では、それが自分を守ることにはならない。中国のインターネット通販最大手、アリババ集団の創業者で中国で最も著名な実業家の馬雲(ジャック・マー)氏は20年10月、大胆にも中国の金融規制を批判して以降、公の場にほとんど姿を現していない。中国人として初めて国際刑事警察機構(ICPO)の総裁を務めた孟宏偉氏も18年、中国に一時帰国した際に拘束され、昨年収賄罪で懲役13年6月の判決を言い渡された。そもそも体制の恩恵を受けて富や権力を手にした億万長者や共産党幹部が、同体制により引きずり下ろされても同情する向きは少ないかもしれない」

 

アリババのジャック・マー氏は、政府批判をしたばかりに「追放」の身になった。秋口に欧州へ現れたことが報じられた程度である。ビジネスの第一線から姿を消してしまった。

 


(5)「中国の国家権力が、反体制派の弁護士やジャーナリスト、学者らを弾圧する際はもっと苛烈だ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)の最近の報告書によると、当局は反体制活動家の家族にまでも、しばしば追及の手を伸ばしているという。中国の現体制では、政治と一切かかわらないようにしても安全を確保できるわけではない。ビジネスの世界は不透明でコネが不可欠なため、誰もがシャム氏の言うところの「グレーゾーン」に踏み込まざるを得ない。そして、そのことが贈収賄の容疑を招くリスクとなる。あらゆる組織は中国共産党の支配下にある。当局に拘束されれば有能な弁護士や気骨あるジャーナリストがどう頑張っても救い出すことはできない。中国の裁判の有罪率は99.%だ」

 

中国の有罪率は99.%だという。公安の描くとおりの刑に処せられている。これで、「中国式社会主義」と嘯(うそぶ)いているから恐れ入るのだ。

 


(6)「この体制の頂点に君臨する習主席は、毛沢東だけでなくレーニンやスターリンの思想も信奉する姿勢を示してきた。スターリンの下で秘密警察トップを務め大粛清を陣頭指揮したベリヤは、警察国家であらゆる個人に及ぶ危険性についてこう語った。『誰でもいいから連れてくれば、私がその人物の罪を必ず探し出す』」

 

習氏は、権力を恣(ほしいまま)に使っている。この上、「歴史決議」によって、「終身国家主席」が約束されたようなものだ。習氏は、思いのままに国を操れてさぞやご満悦であろう。このことが、後になってどれだけ高いものに付くか。想像もできないのであろう。