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最近、中国経済の衰退見通しが増えている。本欄のように10年来、不動産バブルに支えられている中国経済の脆弱性を取り上げてきた側からいえば、世界がようやく「中国夢」から醒めてきたか、という認識である。

 

だが、世の中は広いものだ。中国経済の再興は確実とする見方もある。ただし、その根拠は「科学的」とは言い難い。プロパガンダであるから根拠はないのだ。これまで、中国経済「挫折論」が再三、言われても外れてきたから今回、見通しを誤るという「非科学的」なお託宣である。

 

『日本経済新聞』(12月4日付)は、「中国経済、行き過ぎた悲観論」と題する寄稿を掲載した。筆者は、元HSBCアジア太平洋株式調査責任者 ウィリアム・ブラットン氏である。ブラットン氏は、英ケンブリッジ大学博士。独大手銀ドイツ銀行を経て英大手銀HSBCへ。企業や株式の調査部門を中心に活動してきた。

 

(1)「中国の成長が債務に支えられていると警告する人々にとって、不動産大手の中国恒大集団などの信用不安をバブル崩壊とみなすのは簡単だ。中国経済への悲観派は、持続不可能な債務の水準を巡る不安が証明されて破滅的な結果につながる可能性があり、米国を抜き世界最大の経済大国になるのは夢のまた夢になったと考える」

 

不動産バブルは、中国経済に過剰債務を積み上げている。日本経済が平成バブルで破綻した時以上の対GDP比の債務残高である。この過剰債務は、いくら専制国家でもゼロに帳消しできる超能力を持っていないのだ。この現実を、しかと見届けることが必要である。過剰債務の返済が、中国経済の潜在成長率を押し下げるのだ。

 

同時に、起こっているのは合計特殊出生率の急低下と生産年齢人口比の低下である。いずれも、日本経済と瓜二つのパターンに落込んでいる。この現実を見れば、前記の二指標ではるかに優位な米国経済を追い抜くことの不可能性を示唆している。科学的=経済理論的に言えば、この現実の相違点は不可逆的である。つまり、中国経済は米国を抜けないのだ。

 

(2)「だが、事態は単純ではない。我々はこうした事態を何度も経験してきた。中国の急速な台頭については、中国の発展モデルが成功するとは信じられない、信じたくない西側の批判派の大合唱を伴ってきた。彼らはあら探しを続け、中国の経済成長が減速するか、旧ソ連のような経済の崩壊につながることを期待さえしてきた」

 

これまでの中国経済「悲観論」は、多くが高い経済成長率がいつまでも続くはずがないという視点であった。構造的な視点(過剰債務と人口動態)から議論されたのは、口幅ったい言いで恐縮だが、本欄の主張ぐらいであったと思う。今、この構造的脆弱性が、世界の識者によって注目され始めたのである。

 


(3)「1990年代には、「中国の改革は既得権益のために失敗する」という主張があった。2000年代に入ると、低コストの輸出モデルは持続不可能だという説に変わったようだ。2010年代には、中国の債務膨張をはらんだ成長の危険性や経済のハードランディング(急激な悪化)などを唱える説が中心になったといえる。様々な懸念にもかかわらず、中国は成長を続けた」

 

このパラグラフは、中国の高い経済成長率の高さから、過去の弱気論が当ってなかったと言いたげである。この裏には、GDPの水増しがされていた事実を覆い隠している。米シンクタンク、ブルッキングス研究所は2019年3月、中国経済の実態は公式統計を約12%下回り、近年は実質成長率が毎年約2%ポイント水増しされてきたと発表した。

 

2018年の偽りのない本当のGDPは、公式統計の90兆元(約1500兆円)を10.8兆元下回ると示唆している。分析によると、07~08年度以前はおおむね正確だったが、「これ以降は、もう正確でない」としている。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2019年3月8日付)が報道したのだ。

 


(3)「『永遠の弱気派』の多くは、経済的な現実よりもイデオロギーの違いに突き動かされているようにみえる。彼らは中国を硬直した共産主義国家とみており、旧ソ連のように最終的に失敗する運命にあり、いずれ西側のシステムの優位性が証明されるという固定観念でとらえる。中国は現在、民間部門が雇用や輸出、技術革新などの多くを担う混合経済だ。結果として、格差の深刻化など西側諸国と同じような問題にも直面する。永遠の弱気派の多くは、中国の権威主義的な統治構造では、政策の採用や修正はできないととらえている。だが中国は約50年、長期目標を追求するなか、柔軟性も示してきた」

 

このパラグラフの主張は、完全に「空論」である。筆者は、中国シンパと判断せざるを得ない。それほど、非科学的な主張を並べ立てている。経済データに基づく議論をすべきなのだ。例えば、限界資本係数の上昇による生産性の慢性的低下など、中国経済の抱える問題点を真っ正面から受け止めるべきである。漫談的な議論では説得力を持てないのだ。

 


(4)「現実主義者にとって、中国の新しい政策の多くは、西側と共通点の多い問題への対応だ。拡大する格差に対処し、大企業に対する国家の優位性を主張しようとしている。中国が「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げることが、毛沢東時代に回帰している証拠だという主張もある。だが、有効性については議論の余地があるものの、目的は格差問題の解決だろう」

 

「共同富裕」実現は、所得分配の実現によって可能である。だが、中国の税制は大衆課税である。間接税が3分の2、直接税3分の1と間接税偏重である。これを他国並みに間接税3分の1,直接税3分の2にして富裕者の税負担を増やすべきなのだ。共産主義国家が大衆課税とは、大きな欺瞞である。富裕者優遇政治が、中国の紛れもない実態である。

 

(5)「中国の最近の動きは、一部がどれほど望んでも、中国経済の長期的な軌道を変えるものではない。中国は活気あふれる民間部門や競争の激しい産業、政策の柔軟性などにより、先進国入りを前に経済成長が鈍る「中所得国のわな」から脱却できるはずだ。中国によるアジアの経済システムの支配は強化され、世界の国々に困難な結果ももたらす。中国経済が長期低落すると考えるのは無謀だろう」

 

最近のテック企業への規制は、どう説明するのか。付加価値を生むこの産業を規制した本当の理由は、共産党の支配権確立の目的である。これによって、「中所得国のわな」から脱却できるはずがない。それほど危険な政策を行っているのだ。中国経済の分析は、イデオロギーでなく、合理的理論に基づくことが不可欠である。それを最後に、筆者へ伝えたい。