文氏はレガシー造り狙う

最後まで北に賭ける哀れ

聞く振りの米国バイデン

対北問題は日米が主導権

 

 

北朝鮮が、年明け早々5日、11日、14日と極超音速ミサイルの発射実験を行なった。

韓国の文大統領は、昨年9月の国連総会で朝鮮戦争の「終戦宣言案」を公表。以来、この終戦宣言をめぐり議論されたものの、日米には反対論が強かった。北朝鮮の「終戦宣言」への回答は、3連続のミサイル発射実験で「ノー」と読めるのだ。

 

文氏によれば、この終戦宣言は米朝の協定でない、としていた。米韓が一方的に宣言することで、北朝鮮が話合いに応じるような環境整備を促すというものである。百戦錬磨の北朝鮮は、在韓米軍の撤退を話合い条件に付ける可能性もあろう。その意味で、「終戦宣言」は北朝鮮に利用されるだけ。反対論者は、こういう危惧を前面に出していた。

 


文氏はレガシー造り狙う

文氏が、反対論にも関わらず終戦宣言構想に固執した理由は、大統領としての「業績」にしたかったことであろう。大統領職は5月10日までだ。残りの任期期間は僅かである。3月9日には、次期大統領が決まる。こういう政治日程を考えれば、文氏にとって「終戦宣言」が最も手っ取り早い業績つくりに違いない。北朝鮮が喜びそうなこの案について、北朝鮮はこれまで沈黙してきた。

 

北朝鮮の金正恩氏は、北京冬季五輪への北朝鮮不参加を発表した。北京で文氏との遭遇機会を避けたのである。金氏が、文氏を忌避したのには理由がある。大統領の残り任期僅かな文氏と会って約束しても、実行される可能性がないことだ。金正日時代にも、盧武鉉大統領との面会でそういう事例があった。韓国次期政権が交代すれば、文氏と交わす約束も実行される保障はない。北朝鮮が、そうした無駄なことに時間を使う可能性はない。

 

文氏は、こういう見通しを持てなかったのである。換言すれば、文氏の外交認識はこれほど低いというのが現実だ。

 

韓国大統領は、国家元首である。誰の意見を聞かずとも、大統領一人の意見で政策を決められるという弱点がここに現れている。日本のような議院内閣制では、国会議員の意見が政策の舵を握る。韓国は「皇帝的大統領」ゆえに、間違ったことでも実行に付すという「裸の王様」である。韓国外交で起こりうる悲劇は、この大統領制にある。大統領が間違えば、国を滅ぼすリスクを抱える政治制度そのものにあるのだ。

 

文氏の外交知識は、浅薄そのものである。言葉は悪いが思いつきである。その源流は、1980年5月の光州事件に始まる80年代の韓国民主化運動にある。学生運動を初めとする民主化運動が、国を揺るがし激動の時代のさなかにあった。連日のように大学キャンパスで開かれる学生集会。学生と機動隊の衝突。学生たちは火炎ビンを投げ、石を投げつけていた。ここでは当然、「親中朝・反日米」が運動の起点になる。

 

文氏は、1975年の朴正熙時代の民主化闘争で検挙されている。その後、兵役に就いており、大学卒業は1980年だ。激動の韓国民主化時代を経験していることが、一生の政治姿勢を決めた。ただ、大統領就任後も前記の「親中朝・反日米」を無批判に受入れてきたことが致命傷になっている。現在は、2020年代である。すでに40年間のズレが生じている。その間の国際情勢変化を折り込まず、学生運動の「ノリ」で韓国外交を指揮した。その誤りは取り返しのつかない結果をもたらした。

 


文大統領の下に集まった大統領府の秘書官の6割は、80年代の学生運動経験者である。この一大「元学生運動家」が、「親中朝・反日米」外交政策で邁進したことは疑う余地もない。韓国外交は、「40年間」の時代のズレを伴って生き続け、ついに後述のように破綻したのである。

 

最後まで北に賭ける哀れ

北朝鮮は1月5日、弾道ミサイルと推定される飛翔体1発を日本海に向けて発射した。昨年10月の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射以来である。この際、文氏はなんと発言したかだ。驚くべきことを言ってのけたのである。

 

文大統領は、「南北間の信頼を蓄積していけば、ある日突然、私たちに平和が訪れるだろう」と述べたのである。何か、教会で牧師の説教を聞かされている錯覚さえ覚えるのだ。「神のお恵みによって地上へ平和が訪れるように」と祈りを捧げている場面である。もちろん、神への祈りを否定するものではない。だが、一国の運命を率いる大統領の発言としては、他人事のように聞えるのである。そこには、外交政策も安全保障政策も消えているからだ。

 


韓国では、北朝鮮のミサイル発射を「挑発」と規定せず、警告や遺憾の表明もしなかった。韓国政府は、北朝鮮をいつものようになだめることに汲々としている。これでは、北朝鮮が増長して、ミサイル発射実験をやりたい放題に行って当然であろう。

 

文氏にとって北朝鮮は、「主敵」の位置にない。大統領就任後に、韓国軍の「主敵」が北朝鮮であるとの規定を削除してしまった。「主敵」でない北朝鮮が、ミサイル発射実験を行なっても「隣国」の出来事くらいしか捉えていないのだ。恐るべき安全保障の「不感症」に陥っていると言うほかない。代わって、「主敵」は周辺国に置換えられている。つまり、日本である。1980年代、韓国学生運動の「親中朝・反日米」の「反日」が、現実の安保政策で実現したことになろう。(つづく)