テイカカズラ
   

海外投資家の中国経済を見る目は、一段と厳しくなっている。中国のゼロコロナに加えて、ロシア支援が新たな地政学的リスクとして加わっているからだ。これらリスクは、欧米の価値観から全く外れていることの結果であり、中国がますます「異次元世界」に映るのであろう。それ故の中国脱出である。

 

世界最大の資産運用会社であるブラックロックは5月9日、中国に関する強気スタンスを撤回した。5月9日付のリポートで中国資産に関して、「感染抑制のための広範囲なロックダウンで中国の成長見通しが急速に悪化した」ことが変更理由だと説明。「ロックダウンは経済活動を抑制する見込みであり、中国の政策当局者は成長減速を予防するため緩和策を予告しているが、まだ行動は不十分だ」と指摘した。『ブルームバーグ』(5月10日付)が伝えた。

 


ブラックロックは、2020年末の運用資産残高が8
.6兆ドル(約1030兆円)もの巨大規模である。この資産運用会社が、中国に対してこれまでの強気姿勢を変えたのは、「最後の砦」が崩れたようなものだろう。ただ、本欄のように中国経済への警戒論を長く説き続けて立場からいえば、「今さら」というのが実感だ。「航空母艦」は、急旋回できぬ悩みでもあるのだろう。

 

『ブルームバーグ』(5月10日付)は、「中国の純資本流出39兆円に倍増へ、都市封鎖で成長圧迫ー国際金融協会」と題する記事を掲載した。

 

(1)「国際金融協会(IIF)の6日のリポートによると、中国は今年約3000億ドル(約39兆円)の純資本流出(誤差脱漏を含む)が見込まれる。昨年は1290億ドルの純流出だった」

 

IIFの予測は、衝撃的である。今年の純資本流出が3000億ドルと前年比2.3倍に膨れ上がることだ。実は、4月末の外貨準備高が前月末より683億ドルも減少して、3兆1197億ドルであった。減少幅は16年11月以来、5年5カ月ぶりの大きさになった。IIFの予測では、今年の純資本流出が3000億ドルである以上、中国の外貨準備高は3兆ドルを割ることは確実であろう。

 

この点は、未だ世界共通の認識になっていないが、いずれは共通話題になるはず。中国の国際収支が大きく揺さぶられることは間違いない。この問題は、人民元相場安へはね返るであろう。

 


(2)「IIFのエコノミスト、青馬氏らはリポートで、「中国の経済成長と資本フローは、2022年に山積する問題に直面することになる。新型コロナウイルスのオミクロン株対応で延々と続くロックダウン(都市封鎖)と政治不安、エネルギー価格高騰がいずれも中国の成長の重石となる」と分析した。世界の投資家は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学的リスクも懸念しているとリポートが指摘。非居住者ポートフォリオの流入額は500億ドル未満と昨年の1770億ドルを下回る一方、居住者ポートフォリオは流出が増加すると予想した」

 

これまで中国は、海外企業に対して国内投資を勧奨してきた。これが、外貨準備高3兆ドル台を維持し、対外的信頼度を高めるという基本戦術に寄与してきた。ところが、ゼロコロナとロシアリスクが災いし始めたのである。中国投資には、習近平氏の独断で突然、規制が高まるなど多大なリスクを持つことに気づき始めたのである。

 


(3)「外貨準備も今年は減少する見通し。貿易黒字縮小と資本流出の急増、中国人民銀行(中央銀行)による人民元相場安定の意向が背景にあるという」

 

中国は、いくつかのリスクを抱えているので、対内直接投資は減る基調になっている。一方、既存投資もリスクを恐れて流出基調に転じれば、資本が純流出に転じるのは、ごく自然な流れとなろう。これは、人民元相場の下落となる。

 

『日本経済新聞』(5月10日付)は、「強まる人民元の先安観、中国人民銀 利下げ環境整備急ぐ」と題する記事を掲載した。

 

中国人民元の先安観が強まっている。中国人民銀行(中央銀行)の指導により商業銀行が定期預金の金利を下げてコストを抑え、5月の政策金利の引き下げに向けた環境整備との観測が広がる。政府が新型コロナウイルスを抑え込もうと「ゼロコロナ規制」を徹底するなか、中国経済を金融政策でどう支えるかが国際金融市場の焦点になっている。

 


(4)「外国為替市場で人民元相場が急落している。中国景気の急減速と米利上げが重なり、対ドルでは4月半ばから5%超下落した。10日の上海市場では一時1ドル=.74元台をつけて1年半ぶりの安値をつけた。人民銀は10日までに3営業日連続で基準値を元安・ドル高方向に設定しており、一定の元安を事実上、容認する姿勢をとる」

 

オンショア人民元は10日に4日続落し、0.1%安の1ドル=6.7388元と、2020年11月以来の安値を付けた。現在(5月10日午後20時40分)では、1ドル=6.7245元である。この状況から言えば、当局が介入している様子は見えない。現状追認であろう。つまり、利下げへの準備を始めていることだ。

 


(5)「人民元の先安観はなお強い。人民銀が利下げの準備と受け取れる措置を相次いでとっているためで、その一つが商業銀の定期預金金利の引き下げだ。国有大手の中国工商銀行は4月下旬、2年物と3年物の金利をそれぞれ0.%引き下げた。新たな利率は大口の預金でそれぞれ2.%、3.25%になった。人民銀が9日発表した「金融政策執行報告書」によると、4月25日~5月1日に全国の新規預金の金利は加重平均で2.37%と、前の週から0.%下がった」

 

中国は、世界中がインフレ基調に悩み政策金利を引き上げている中で唯一、利下げして景気立直しを行なう羽目になっている。これは、米中金利差の縮小になるので、人民元相場の下落を招く。これにより,輸出のテコ入れをするはずだ。

 

4月の輸出は前年同月比4%増。伸び率は、3月の15%から大きく縮小した。原材料の調達などサプライチェーン(供給網)が混乱している面もある。だが、海外からの新たな注文も減っているのだ。4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)によると、輸出に限った新規受注は41.6と節目の50を大きく割り込んだ。米国のPMIが3カ月ぶりに悪化するなど外需の影響も受けている。人民元安を誘導して、輸出テコ入れするのは間違いない。2020年には1ドル=7元割れになっている。