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過去の中国政権では、国家主席が外交・安保、首相は経済を分担してきた。習政権になると、経済分野まで習氏が指揮する「独占状態」へ一変した。その弊害が、現在の中国経済を危機に追い込んでいる。

 

中国経済は、ゼロコロナによって窒息状態だ。WHO(世界保健機関)事務局長は、記者会見で公然と批判するほどだ。ゼロコロナ政策は、習氏が命令して実施しているものである。硬直した経済政策に弾力性を与えるには、今や李克強首相の登場を必要としているようだ。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)は、「忘れられた中国首相、経済低迷で再び表舞台へ」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は長年、ナンバー2の有力政治家である李克強首相(66)を蚊帳の外に追いやってきた。だが、ここにきて李氏は自身の強みを生かし再び表舞台にはい上がっており、10年近く不在だった政権トップの対抗勢力を形成する可能性が出てきた。中国経済が近年まれに見る不振にあえぐ中、李氏は西側の資本主義から距離を置き、かつ中国経済の減速を招いている措置を縮小するよう、習氏を促している。政府当局者や意思決定に詳しい顧問らへの取材で分かった。

 

(1)「中国はこのほど民間テクノロジー企業に対する規制を緩和し、不動産開発業者や住宅購入者への貸出規定を緩めるとともに、習氏の「ゼロコロナ」戦略により中国の大部分がロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされている中で製造業の生産を一部再開した。こうした動向は李氏の影響力によるものだという。あと1年足らずで退任する李氏は、後任人事にも自身の意向が反映されるよう努めている。意志決定に詳しい関係筋が明らかにした。権力固めを進める習氏は少なくともさらに5年は実権を握ると見込まれており、李氏は習氏の対抗勢力となれるような次期首相を望んでいるという」

 

最近、中国では部分的に規制を緩和する動きや不動産融資を緩める動きを見せている。これらは、李首相による影響とされる。李氏の姿が再び、表面に見られるようになってきた。下線部のように次期首相選びでも影響力を発揮しそうである。

 

(2)「中国の政治システムは極めて不透明なため、李氏が内部でどの程度の支持を得ているのかを判断することは難しい。ただ、意志決定に詳しい関係筋は、李氏の動きに対しては共産党内で一定の支持が集まっていると話す。習氏が経済成長を確保するための実利的な措置ではなく、毛沢東の社会主義的な構想に根ざした思想に準じることを過度に重視し過ぎていると懸念する党幹部らが後押ししているという。李氏の支持者には、中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)関係者も含まれる。共青団は胡錦濤元国家主席ら歴代指導者を輩出するなど強い影響力を持っていたが、習氏の時代になって影が薄くなった」

 

李氏の支持者の裏には、習近平氏の独裁スタイルへの不満が後押ししている。この点については、後のパラグラフで取り上げる。

 


(3)「李氏は4月、視察先の江西省で電子商取引(eコマース)企業が集積する産業パークを訪れた。eコマース業界はハイテク企業への弾圧に加え、制約のない自由市場主義的な行動を「無秩序な資本の拡大」として罰した習氏によって深刻な打撃を受けている。李氏は業界幹部や従業員を前に「プラットフォーム経済」の活性化と起業家精神の促進を確約。プラットフォーム経済とは、アリババグループなどネット関連のビジネスを指す。
その数日後に行われた中央政治局会議では、習氏によるハイテク企業への締め付けが一服する方針が示唆された。公式の声明文では「プラットフォーム経済の標準化された、健全な発展を支援する」措置が提唱されている」

 

李氏は、経済改革派である共青団の出身である。「プラットフォーム経済」の重要性について、完全に理解し応援している。習氏はこれを規制したが、修正段階に来ている。

 


(4)「今秋の共産党大会を控え、習氏の指導力に対しては不満が高まっている。習氏が共産党大会で3期目続投を決めるのはほぼ確実視されているとはいえ、忠誠な側近で周辺を固められるか、あるいは歴代政権の慣例に沿って反対意見を許容する余地を残さざるを得ないかは不透明だ。中国最高指導部の中央政治局常務委員会の人事については、現役幹部と長老らが参加する夏の北戴河会議で決定される見通し。党関係者が明らかにした。李氏は高い手腕を持ちながらも慎重な政治家で、市場開放を志向する一方、思想よりも実利を重視するというのが、関係筋の人物評だ」

 

今秋の党大会で、習氏は国家主席3期目を狙っている。習氏が側近人事で固めれば反対が出るのは必至だ。そこで、李氏の活動範囲が広がって、次期首相候補に李氏と同じ共青団出身者を推すと見られる。

 


(5)「李氏は首相として、銀行の巨額融資を抑制することで、借り入れを起爆剤とする経済発展モデルを変革したいと考えていた。また国営企業の規模を縮小して効率を改善するとともに、出稼ぎ労働者の世帯が都市部で教育や福祉を受けやすくすることも目指していた。バークレイズのエコノミストは李氏が重視する経済政策を「リコノミクス」と呼んだ。ところが、習氏が従来の首相と国家主席の役割分担を覆し、経済運営のかじ取りも担うことが鮮明になると、リコノミクスも表舞台から消えた」

 

李氏は、借入金依存の経済発展モデルを変革させたかった。国営企業の縮小による「民進国退」政策も目指した。これらの政策は、習氏によってすべて葬り去られて、不動産バブルと国有企業肥大化となり、習氏の構想と真逆の事態になった。

 

(6)「折しも、習氏の政策に対する党内の不満が高まる中で、李氏とその支持者らにとっては影響力を発揮する糸口が見えてきた。中国経済は不振にあえいでおり、金融市場にも痛みが広がっている。4~6月期に中国経済がマイナス成長に陥ると予想する声すら出てきた。また数百万人の卒業生がなかなか就職できずにいる。習氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親密な関係を築いていることで、中国はここ数十年で最も国際社会から孤立する事態にも陥った。党内の議論に詳しい関係筋は、習氏の独裁的なスタイルに対する不満は頂点に達していると明かす

 

中国共産党内部は、習氏のプーチン支持など独断スタイルに対する不満が頂点に達している。

 

(7)「習氏は次期首相として、上海市の共産党委員会書記を務める李強氏を推している。だが、同氏に対しては、上海市のコロナ感染拡大への対応を巡って党内で批判が上がっており、市民も長引く封鎖措置に怒りを爆発させている。意志決定に詳しい関係筋によると、こうした状況から、李首相が望む人物が有力な後任候補として台頭する可能性が出てきた。これには汪洋全国政治協商会議(政協)主席、貿易・外国投資担当の副首相である胡春華氏が含まれる。両氏とも(改革派の)共青団の出身だ」

 

李氏は、共青団出身の汪洋氏や胡春華氏を後継首相候補に推しているという。これらのなかから、将来の国家主席が出ることを望んでいるようだ。