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習近平氏にとって、今年は国家主席3期目を実現する上で重要な時期である。ところが、上海を襲っているゼロコロナ騒動で、市民の不満は沸点に達している。2500万市民をロックダウン(都市封鎖)したのだから、評判が良いはずもない。上海は、中国を代表する経済都市である。中国市民だけでなく欧米人を含めて非難の嵐である。

 

これに加えて党幹部の間では、習氏がロシアのプーチン大統領と蜜月関係であることも不満の種になっている。一見、盤石に見えた習近平氏の支持基盤に大きな亀裂が入っているのだ。中国の評価が、ロシアによって傷つけられたというのだ。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)は、以下のように報じている。

 


習氏が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親密な関係を築いていることで、中国はここ数十年で最も国際社会から孤立する事態にも陥った。党内の議論に詳しい関係筋は、習氏の独裁的なスタイルに対する不満は頂点に達していると明かす」

 

この状況下で、上海の都市封鎖が起こったのだ。上海市のトップ李強氏は、習近平氏の側近中の側近とされる人物である。予定では、今秋の党大会で中央政治局常務委員に選ばれ、次期首相になる筈と評されてきた。だが、上海はゼロコロナで大混乱に陥っている。習氏としては、いくら子飼いの側近といえども、次期首相に引き立てることは困難であろう。

 

習氏はこれまで、コロナ対策で失敗した地方政府幹部をすべて左遷してきた。この手前、上海市のトップ李強氏に対して「不問」に付すわけにはいかなくなっている。こうして、習氏の人事権がかなり低下している、と予測されるにいたった。何と言っても、習氏が「プーチン氏の友人」であることが、威光を鈍らせていることに注意すべきだ。

 

最近、行なわれている国内人事で、習近平主席派が後退する反面、李克強首相派が次々と栄転していることが話題になっている。

 

『時事通信 電子版』(5月12日付)は、「習近平派幹部、予想外の「落選」ー閑職異動で次期指導部入り成らず」と題する記事を掲載した。筆者は、時事通信解説委員・西村哲也氏である。

 

中国の習近平国家主席にとって、今秋開かれるとみられる第20回共産党大会は自分の党総書記3選だけでなく、どれだけ多くの直系幹部を昇進させることができるかも重要になる。しかし、最近の高官人事では、次期党指導部入りの可能性が高いといわれていた習派有力者が閑職に異動させられるなど、政権主流であるはずの習派に勢いが感じられない。

 

(1)「中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)常務委員会は4月20日、前湖北省党委書記の応勇氏を全人代憲法・法律委の副主任委員(副委員長)に任命して驚かれた。地方トップから実権のない名誉職への転任であるからだ。応氏は警察出身。習氏の信頼が厚く、第20回党大会で党指導部メンバーの政治局員に昇格し、警察、裁判所などを統括する党中央政法委書記に就任するか、政治局入りしなくても最高人民法院院長(最高裁長官)など閣僚より上位の国家指導者になるとの見方が多かった。ところが、実際には党大会前に全人代へ異動。応氏は今年11月に閣僚級の党・政府高官の定年とされる65歳になるので、高齢を理由とする退任ではあるが、昇格せずに事実上の半引退となった」

 

習派の前湖北省党委書記の応勇氏は、出世コースに乗ると見られていたが、なんら実権のない全人代憲法・法律委の副主任委員(副委員長)に転任した。予想外の人事と受取られている。

 


(2)「地方トップでは、昨年12月にも新疆ウイグル自治区党委書記が突然交代。前書記の陳全国氏は党政治局員なので、今年3月の全人代で政治局員級ポストの副首相に任命されるという説もあったが、そうはならなかった。陳氏はウイグル族を徹底的に弾圧し、少数民族に抑圧的な大漢族主義の習路線を忠実に実行したにもかかわらず、米国で新疆からの輸入を全面的に禁じる法律が成立した直後に更迭された」

 

新疆ウイグル自治区党委書記が、突然の交代になった。米国で新疆からの輸入を全面的に禁じる法律が成立した直後の人事である。陳氏は、ウイグル族を徹底的に弾圧していたが、「使い捨て」された。

 

(3)「後任は馬興瑞広東省長が抜てきされた。馬氏は、党指導部ナンバー4で国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)主席である汪洋氏が広東省党委書記時代に中央の工業・情報化次官から広東に引っ張った実務派幹部。汪氏は胡錦濤前国家主席や李克強首相と同じ共産主義青年団(共青団)出身で、習政権では非主流派に属する。公式報道によると、汪氏は3月に新疆を視察した際、「民生改善、団結増進」や「法律・規定に沿った反テロ・安定維持工作」を指示した。新疆当局では馬書記の赴任後、恒常的に休日返上で「安定維持工作」に当たる過酷な勤務態勢が改められたといわれる」

 

新疆ウイグル自治区党委書記の後任が、李首相派の中央政治局常務委員・汪洋氏派の馬氏である。汪洋氏は現在、次期首相候補の1人とされている。李首相が、支援しているもの。

 


(4)「天津市では4月27日に廖国勲市長が急死した。廖氏は官僚としては貴州省出身で、習氏の権力基盤となっている浙江省での勤務経験もある。貴州時代は習氏の盟友とされる栗戦書全人代常務委員長(党指導部ナンバー3)、浙江では政協副主席と国務院(内閣)香港マカオ事務弁公室主任を兼ねる習派大幹部の夏宝竜氏が上司の省党委書記だった。党中央委メンバーではないのに近年急速に出世しており、習派有力者たちの評価が高かったのは間違いない。いずれ政治局入りしてもおかしくない人材だった。廖氏の死去について、天津市当局は「突発的な疾病のため、不幸にも他界した」と発表したが、死亡時の詳しい状況は不明。汚職取り締まりの調査対象になって自殺したとの説もある」

 

中国の「反腐敗闘争」は事実上、政治的粛清の手段として使われている。汚職調査絡みの自殺説が事実とすれば、廖氏は習近平派だったにもかかわらず、粛清の標的になった。習氏は、下手に動いて自分の評価を下げたくないのであろう。守りの姿勢である。

 


(5)「一方、4月30日に内モンゴル自治区党委書記の退任が発表された石泰峰氏は、最大級の公式シンクタンクである社会科学院の院長に就任した。複数の香港紙は、来春には政協副主席を兼ねる見通しだと報じた。石氏は1歳年上の李首相と同じく北京大で法律を学び、李氏に近いといわれる。昨年9月、定年の65歳になったが、内モンゴル自治区党委書記を続投していた。社会科学院に移ったことから、権力中枢の政治局に入ることはないだろうが、政協副主席になれば、国家指導者に昇格する」

 

内モンゴル自治区党委書記で退任の石泰峰氏は、李首相派であるメリットを受けて、社会科学院の院長に就任する。このポストは、対外的にも高い評価を受けている。

 

(6)「今年3月以降の地方トップ人事で、中央から異動した5人のうち3人は、国務院の住宅・都市農村建設相、退役軍人事務相、税関総署署長(閣僚級)らである。いずれも李首相の部下だ。主要閣僚ではない国務院の高官が、相次いで地方トップに起用される人事は単なる偶然なのか、それとも、政権内で力関係の変化や人事ルールの変更があったのかは今のところ判然としない」

 

以上の人事録は、この3月以降の話である。中国の内外事情が大きく揺れている中で、習vs李の権力関係が微妙に動いている背景を見落としてはならない。地方トップ人事で5人のうち3人は、国務院で李首相の部下が、相次いで起用されたのである。習派が後退し、李派が躍進している。中国の権力構造に変化が起こっている前兆かも知れない。