勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 経済ニュース時評

    サンシュコ
       

    中国は、これからどのようにして経済運営する積もりか。6月末の総債務残高(金融機関を除く)は、295%にも達した。その後の経緯から見て、すでに300%になったと見られる。ゼロコロナでコストが増える反面、ロックダウンによる経済不振で対GDP比で3倍にもなったと見られる。

     

    中国人口は、今年から減少過程に入る。来年は、インドに抜かれて「世界1」の座を下りるのだ。こういう人口動態の変化から、全人口に占める60歳以上の高齢者の比率が2025年までに20%を超え、中程度の高齢社会(超高齢社会)の水準に達する。さらに、2035年にはこの比率が30%を超え、超高齢社会へ突入する見通しだ。これは、中国国務院(内閣)がまとめた「高齢化対策の強化と推進に関する報告書」のなかで示されたものだ。

     

    このように人口動態的に見た中国は、「老年期」へ差し掛かっている。この段階で、これだけの債務残高を背負って行くのは大変な負担だ。まさに、「中国終焉」というに相応しい状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月6日付)は、「中国の借金再び最高 GDPの3倍に迫る 政府債務膨張」と題する記事を掲載した。

     

    中国の債務が膨らんでいる。国際決済銀行(BIS)によると、経済規模と比べた債務残高の比率は6月末に過去最高を更新した。新型コロナウイルス対策の移動制限で景気が悪化し、地方政府がインフラ建設のため債券の発行を増やしている。一方、民間企業や家計は投資や住宅購入に及び腰だ。人口減少が始まり、成長余地が狭まっている。

     

    (1)「BISが5日公表した金融機関を除く債務残高は6月末時点で、51兆8744億ドル(約7100兆円)だった。国内総生産(GDP)比で295%となり、遡れる1995年末以降で最高となった。今の中国の債務比率は98年3月末の日本(296%)に近い。98年の日本の1人あたり名目GDPは3万2000ドル台だった。対照的に2021年の中国は1万2000ドル台にとどまる。今後は急速な少子高齢化で、財政に占める社会保障の負担は高まる。財政支出の硬直化が進めば、景気対策のために債務を拡大する余地も乏しくなる。豊かになる前に老いてしまう「未富先老」も現実味を帯びてくる」

     

    中国の債務比率295%は、98年3月末の日本(296%)に近い。当時の日本は、1人あたり名目GDPが3万2000ドル台。2021年の中国は、1万2000ドル台にとどまる。ざっと、日本の3分の1強だ。この高い債務残高比率が、中国経済にとって極めて高い負担になるのは間違いない。

     

    (2)「中央政府である国務院はインフラ建設を景気対策の柱に位置づけ、地方政府にインフラ債の発行を加速させた。22年の新規発行額は過去最大の4兆元(約78兆円)を突破したもようだ。部門別でみて、政府部門の債務膨張が際立っている。6月末時点の比率は、これまでピークだった20年末より6ポイント上がった。対照的に企業や家計の債務比率は同期間に低下した」

     

    中国は、景気対策としてインフラ投資に頼っている。民間経済の活性化には全く関心を持たないという、極端な「国進民退」スタイルを貫いている。民間経済の活性化は、習氏の政敵である上海閥に力を持たせて復活させるという「勢力争い」が理由で低俗だ。

     

    (3)「中国人民銀行(中央銀行)によると、銀行から見た企業の資金調達需要を示す指数は46月に、59カ月ぶりの水準に悪化した。79月も戻りは鈍い。なかでも民間企業は投資に及び腰だ。110月の固定資産投資は前年同期比2%増にとどまった。国有企業が11%増と大幅に伸びているのとは対照的だ。政府が景気のテコ入れへ国有銀行を動員して、国有企業向け融資を積み増しているとみられる」

     

    習氏は、「共同富裕論」に基づいてIT関連や住宅開発に規制の網を張った。これでは、民間企業が投資をする筈もなく、模様眺めに終わっている。国有企業が、国有銀行からの融資で投資をしている程度である。

     

    (4)「家計も住宅ローンなどの借金を膨らませようとはしない。政府の不動産向け金融規制の強化や景気の悪化で住宅市場の低迷が長期化しているためだ。人民銀行の預金者向けアンケート調査をみると、79月の住宅に対する値上がり期待は確認できる09年以降で最小を記録した。新型コロナを徹底して封じ込めようとする「ゼロコロナ」政策などで景気の先行きが読めないことが、民間企業や家計の慎重姿勢の背景にある。さらには人口減少など中長期的な不安も慎重さを増幅させている可能性がある」

     

    住宅は、これまでの過剰供給が災いしており、今後は少なくも数年間にわたり「鳴かず飛ばず」の時代が来るはずだ。これが、不動産バブル崩壊の後遺症である。

     

    (5)「国連は7月に公表した最新の人口予測で、中国の71日時点の総人口は前年比で減少したと推計した。過去の産児制限の影響で今後は減少が加速する。25年後の47年までの減少幅は、総人口の6%に当たる約9000万人に上る。高齢化も急ピッチで進み、今は38.5歳の平均年齢も47年には50歳を超える」

     

    全人口に占める60歳以上の高齢者の比率は、2025年までに20%を超える。「高齢社会」になるのだ。国際標準では、65歳以上の人口が基準になるが、中国では「60歳定年制」ゆえに、60歳を高齢社会の基準にしている。中国は、5年間のギャップを背負っている。

     

     

     

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    米国は、米中デカップリングの重要な一環として、台湾半導体メーカーTSMCによって最先端半導体「5ナノ」(ナノは、10億分の1)生産で工場建設に着手している。続いて、「3ナノ」の工場も建設するとTSMCが発表した。これで米国は、台湾の地政学的リスクから自由になれるという「特等切符」を手に入れた。だが、台湾防衛という責任を負っていることに変わりない。

     

    2次世界大戦では、鉄鋼の生産能力が各国の戦争遂行能力を左右した。米国が、日独伊枢軸を打ち破れたのは鉄鋼生産力が物を言った。1990年の湾岸戦争あたりから、半導体が戦争遂行能力を規定することになった。

     

    ロシアのウクライナ侵攻をめぐる現状では、半導体が戦局を圧倒的に左右している。ロシアは、経済制裁を受けて半導体輸入がストップした結果、家電製品から半導体を取り出して、戦車の部品に使っているほど。安全保障においては、高度の武器になればなるほど、最先端半導体が必要になるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月6日付)は、「TSMC、最先端半導体も米国生産 投資3倍の5.5兆円に」と題する記事を掲載した。

     

    半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、米西部アリゾナ州に最先端半導体の工場を新設する。「3ナノ(ナノは10億分の1)メートル品」と呼ぶ製品を生産し、米国での総投資額を従来計画比3倍超の400億ドル(約5兆5000億円)に拡大する。台湾有事などのリスクを念頭に、半導体を安定調達したい米国の要請に応え、生産拠点を分散する。ホワイトハウス当局者が明らかにした。

     

    (1)「先端半導体はスマートフォンやサーバーに搭載され、頭脳の役割を果たす。特に最先端の3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルになく、TSMCはまず台湾で2022年中の量産を予定している。米国の新工場はそれに続く形で、26年の量産開始を目指す。TSMCは先端半導体の生産で世界シェア9割を占め、これまで全量を台湾で生産してきた。だが仮に台湾有事などで供給が途絶えれば、関連産業に広く打撃が及ぶことになる」

     

    TSMCは現在、アリゾナ州で「5ナノ品」と呼ばれる先端の半導体を生産する新工場を建設している。120億ドル(約1兆7000億円)を投じて建設する海外初の先端工場で、2024年からの量産を予定する。今回、新たに明らかにした3ナノ品の新工場は、5ナノ品を超える技術で、米国の第2段階の大型プロジェクトになる。

     

    3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルにはない。TSMCが台湾の新工場で年内に量産を予定しており、米国もTSMCに対し、3ナノ品の米国での量産を求めていた。それが、26年に実現の運びとなった。米国が、国内に「5ナノ・3ナノ」の工場を持つことは、戦略上も大きな強みを持つことになる。

     

    先端半導体の量産に不可欠な製造装置市場を牛耳るのは、オランダASML、米アプライドマテリアルズ、東京エレクトロンなど日米欧のビッグファイブ(5社)だ。ハイエンド半導体の設計ソフトは米国がほぼ独占する。TSMCが、米国に工場を持つメリットは、需要先のほかに、半導体製造に関わる一切の技術の起源が米国にあるということの目に見えないメリットを享受できることだ。

     

    米国が、「5ナノ」に続き「3ナノ」という世界最先端半導体工場を持つことは、中国に対して圧倒的な優位性を確立することになる。中国は、米国から半導体の製造装置・技術・ノウハウなど一切の入手を禁じられた。中国の早まった「米国打倒宣言」が招いた事態である。

     

    (2)「米国は中国への対抗を念頭に、台湾や日本などの主要国・地域と先端半導体での国際連携を進めている。8月には半導体の国内生産強化に向けて総額527億ドルの補助金を投じる新法を成立させた。TSMCの投資拡大はこの流れを受けたものとなる。バイデン米大統領やTSMC幹部らは現地時間の6日午後(日本時間7日朝)、工場建設予定地の視察を予定する。TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏や、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)も参加する見通しだ。米政府の政策を背景に、米インテルや韓国サムスン電子も、米国内で数兆円規模の投資を進めている」

     

    米国は、TSMCだけでなく米インテルや韓国サムスン電子も、国内に半導体工場を新・増設する。半導体のメーカーが、米国へ集結する格好だ。米国の早手回しな米中デカップリングが、中国を大きく引き離すことは言うまでもない。

    あじさいのたまご
       

    サムスンなどを含む韓国10大財閥の経営実態は、高金利・輸出急減などによって急激に悪化していることが分かった。世界経済の好調時には輸出急増で潤うが、縮小に向かう現時点では、大きな逆風になっている。しかも、政策金利が3.25%の現在、金利負担の増加が重なり、10大財閥といえども安心できない状況を迎えている。

     

    こうした逆風に弱い理由の一つは、企業の内部留保が少ない結果であろう。利益を上げても高賃金を支払っているので、内部留保できる余裕がないのだ。日本企業とは、全く逆である。日本は内部留保第一で、賃上げを渋っている。これもまた、困った事態である。

     

    『中央日報』(12月6日付)は、韓国10大企業の財務指標 金融危機当時の水準に悪化」と題する記事を掲載した。

     

    内外の悪材料と経営環境の不確実性により企業が悪化の一途をたどっている。中央日報が全国経済人連合会に依頼して金融危機が発生した2008年から今年まで売上額10大企業の毎年7-9月期の主要指標を分析した結果、金融危機に近い低迷が懸念される水準であることがわかった。企業の財務安定性は金融危機後に改善傾向を見せ、2020年のコロナ禍後急激に悪化したことが調査の結果判明した。企業の経営活動性も、やはり金融危機当時の水準を下回っている。今年の10大企業はサムスン電子、ヒョンデ(現代自動車)、SKハイニックス、起亜、ポスコインターナショナル、LGディスプレー、LGエレクトロニクス、現代モービス、エスオイル、サムスン物産を調査対象にした。

     

    (1)「7-9月期基準でサムスン電子の在庫は、昨年末より38.5%も増えた。特に半導体部門の在庫は60%の増加だ。売上額を在庫資産で割った在庫資産回転率が高いほど企業の経営活動性が高いとされるが、サムスン電子の7-9月期の在庫資産回転率は8.1回で世界金融危機当時の14.3回よりもまだ低い状態だ」

     

    世界のサムスンも在庫が急増している。特に、半導体部門の増加ぶりが目立つ。今後の市況急落予測から判断すれば、操業度を落とさない限り、在庫圧迫に苦しむことになろう。

     

    (2)「テレビ市場の不況などで業績悪化に陥っているLGディスプレーは、7-9月期に181%の負債比率を記録した。業況不振で設備投資を増やしただけに収益性を改善できないためだ。液晶パネル(LCD)分野で中国の追撃もますます強まっている。LGエレクトロニクスの負債比率も193.8%で200%に迫る。これら企業の金融危機当時の負債比率は現在の水準を大きく下回る70.5%と106.1%だった」

     

    テレビ関連は、中国企業の存在もあって苦境に立たされている。負債比率(自己資本に対する負債の比率)は、200%に接近している。金融危機当時(2008年)を大きく上回っているのだ。苦境ぶりが分かる。経営的には、100%以下が望まれる。

    (3)「安定性を計る代表指標としては短期債務に充当できる資産がどれだけあるかを示す流動比率を挙げられる。比率が高いほど企業の短期支払い能力が高いという意味だ。この比率を見ると、2011年に最低点である119.8%を記録してから2019年には188.3%まで上がったが、コロナ禍で3年連続下落し今年7-9月期127.5%まで落ちた。これは金融危機当時の125.5%と同水準だ。全経連のイ・サンホン経済政策チーム長は「企業が経営環境の不確実性に備えるため短期借入金などの負債をコロナ禍前の2019年の97兆6000億ウォンから今年は158兆2000億ウォンと40%近く増やしたのが主要因」と説明した」

     

    流動比率(流動負債を流動資産で割ったもの)も低下している。金融危機当時の125.5%と同じレベルまで低下している。100%を割れば支払い困難(デフォルト)と背中合わせだ。韓国10大財閥がこの事態であれば、一般企業は推して知るべしであろう。

     

    (4)「別の安定性指標であるインタレストカバレッジレシオは、企業の利子負担能力を示す。2018年の半導体特需で収益性が高まり50.2倍まで上がったが、その後は悪化し今年7-9月期は22.8倍に再び落ち込んだ。まだ2008年の金融危機当時の17.1倍よりは高い水準だが、基準金利引き上げが始まった昨年8月以降は急速に下落する傾向だ。企業の負債償還能力を示す負債比率は金融危機当時に73.9%を記録し、コロナ禍直前の2019年には半分水準である34.9%まで大きく下がったが、コロナ禍により再び悪化し51.2%まで上昇した」

     

    インタレストカバレッジレシオとは、営業利益と受取利息・配当金が、金融費用(支払利息・割引料)の何倍であるかを示すもの。今年7-9月期は22.8倍で金融危機当時の17.1倍よりは高いが、最近の金利急上昇を受けて安閑とはしていられない。負債比率は、51.2%であり金融危機当時の73.9%を下回って「安全圏」にある。ただ、今後の状況次第で急変の懸念もある。負債比率は、100%以下が健全状態である。


    (5)「全経連は、「追加利上げで市中流動性縮小が予想されるところに1%台の経済成長率を記録すれば、企業の収益性が悪化し財務安定性指標が現在よりさらに悪化する可能性が大きい」と予想する」

    今年の7~9月期の現状で、かなり危ない指標も出ている。来年の世界経済成長率は、2%を割込むという厳しい予測がIMF(国際通貨基金)などから出ているほどだ。世界経済が、3%割れ成長率では不況とされている。それだけに、韓国経済へは大きな逆風となろう。

     

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    文政権時代は、中国の「魔術」に掛かったように万事、北京の顔色を伺っていた。だが、ユン政権は中国との距離を置きながら日米の推進するインド太平洋重視の外交路線へ切り変えつつある。

     

    韓国左派はロシアのウクライナ侵攻以来、少しずつ世界情勢の急変に気づき始めたようである。しだいに、中国重視という主張が弱まりつつあるのだ。こうした状況変化を受けて、韓国外交は本来あるべき外交路線へ戻りつつある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月5日付)は、「韓国の外交、『インド太平洋』重視に転換 中国と距離」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係を強めている。自由や人権が基調の「インド太平洋戦略」で日本や米国と歩調を合わせ、経済協力の相手をインド太平洋の全域に広げる。中国とは距離を置く。日米への接近に慎重で中国や北朝鮮に配慮した文在寅(ムン・ジェイン)前政権との違いを鮮明にする。

     

    (1)「尹大統領は5日、初めて国賓として迎えたベトナムのフック国家主席とソウルの大統領府で会談した。韓国側によると、防衛産業やレアアース開発で連携を広げる方針を確認。包括的戦略パートナーシップをうたう共同宣言には、中国がほぼ全域の「管轄権」を主張する南シナ海の軍事化や現状変更に反対する考えを盛り込んだ。尹氏は会談後の記者会見で「ベトナムは韓国の『インド太平洋戦略』と『韓・ASEAN連帯構想』の核心的な協力国だ」と語った」

     

    各国は、米中デカップリングの影響を受けて、幅広く工場立地の再検討を進めている。台湾有事の際は、否応なく大きな余波を受けるからだ。韓国も、こういう視点から中国の顔色を伺っている余裕はなくなっている。韓国自身の国益に関わる問題であるからだ。

     

    (2)「ベトナムはASEANのなかで、韓国との経済的なつながりが最も深い。2009年にサムスン電子が携帯電話の組み立て工場をベトナムに建てた。スマートフォンに搭載する半導体などの輸出が増え、進出する韓国企業の裾野が広がった。尹政権は11月の国際会議で、半年かけて練り上げた対ASEAN戦略を打ち出した。外交の軸に据える「インド太平洋戦略」は、日米が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」の考え方と同じだ。尹氏はカンボジアの首都プノンペンで開いた東アジア首脳会議で「韓国は普遍的価値を守るインド太平洋(の構築)を目指す。自由や人権が尊重されなければならず、力による現状変更は認められない」と述べた。海洋進出を強める中国を念頭に置いており、その後の日韓首脳会談でも岸田文雄首相と連携を確認した」

     

    ベトナムは、中越戦争で中国の短期間の侵略を受けた苦い経験で、根強い「反中意識」を持っている。これが、西側諸国へと接近させている理由だ。国を挙げて「改革開放」路線を歩んでおり、インドとともにベトナムが、脱中国の受け皿になっている。韓国が、遅いとは言えインド太平洋へ外交基軸を広げることは当然なことである。

     

    (3)「日米韓で足並みをそろえるASEANでの立ち位置を明確にする一方、中国とは一定の距離を保つ構えだ。尹氏はバリ島で会談した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に「韓中関係を相互尊重と共同利益に基づいて発展させる」との考えを伝えた。尹政権のアプローチは、文前政権と異なる。文前政権は「新南方政策」と名づけたASEAN諸国との経済連携を掲げたが、外交的な立ち位置は曖昧だった。経済面で依存する中国を刺激するような言動は控えた」

     

    文政権の外交姿勢は、「ヌエ」的なものであった。「曖昧路線」が、国益に適うという考え方である。文政権の民族主義思想とも重なり合い、中国へは親愛の情を込めて接していた。これが、皮肉にも中国から軽んじられる理由になった。外交とは、難しいものだ。

     

    (4)「尹政権はASEANとの経済協力を巡り、「韓・ASEAN連帯構想」を掲げる。ベトナムやシンガポールに集中する韓国の投資をASEAN全域に広げ、電気自動車(EV)向けのリチウムやニッケルなど鉱物資源のサプライチェーン(供給網)を整備する考えだ。ASEANで韓国の存在感は高まっている。韓国の投資額は10年前の2倍に増え、K-POPなど「韓国カルチャー」の人気が韓国製品の市場を広げる追い風となっている」

     

    ユン政権は、はっきりと「インド太平洋」へ外交の舵を切っている。中国経済の後退を計算に入れれば、今が転換する最後のチャンスであろう。

     

    (5)「尹氏は11月、ASEANの首脳と個別に会談した。カンボジアのフン・セン首相とは、インフラ整備などにあてる経済協力基金の支援限度を15億ドル(約2000億円)に倍増する方針でまとまった。フィリピンのマルコス大統領とは同国への原子力発電施設の輸出を巡って協議した」

     

    韓国は、カンボジアにも外交の焦点を合わせている。フィリピンへも手を伸ばし始めた。文政権時代には見られなかった展開である。

     

     

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    中国はここ3年間、新型コロナウイルスに振り回され続けている。これまで羊のように温和しかった若者が、ついに「牙」を剥いて街頭へ繰り出し不平不満を公然と言い募る事態だ。アップル製品を組立てる主力工場(河南省鄭州市)では、労働者がコロナによる閉じ込めに反発し、工場を脱出して帰郷する騒ぎまで起こっている。こうした一連の騒ぎの中で、アップルは中国依存の生産体制に見切りを付ける段階になった。 

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月5日付け)は、「米アップル、生産拠点を中国外に移す計画加速」と題する記事を掲載した。 

    米アップルは生産拠点の一部を中国外に移す計画を加速している。協議に関わる複数の関係者が明らかにした。中国は同社のサプライチェーンで長らく支配的な地位を占めてきた。関係筋によると、同社はサプライヤーに対し、インドやベトナムなどアジアの他の国でアップル製品を生産することをもっと積極的に計画するよう伝えている。電子機器受託製造大手、鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)を中心とする台湾勢への依存を減らしたい考えだという。

     

    (1)「iPhone(アイフォーン)」シティーと呼ばれる中国・河南省鄭州市の大規模製造拠点での混乱がアップルの生産移転の加速につながった。フォックスコンが運営するこの工場では約30万人が働いており、iPhoneなどのアップル製品を製造している。市場調査会社カウンターポイント・リサーチによると、一時期はこの拠点だけでiPhone Proシリーズの約85%を製造していた。この工場では11月下旬、従業員による抗議活動が起きた。オンラインに投稿された動画では、賃金や新型コロナウイルス関連の制限に憤慨した従業員が物を投げ、「権利のために立ち上がろう」と叫んでいる様子が映っている」 

    鄭州市で、iPhone Proシリーズの約85%を製造していた。こうした一カ所での集中生産リスクが、今回の労働者の「大量帰郷」によって現実化した。このリスクを避けるのは、経営として当然である。

     

    (2)「アップルのサプライチェーンの関係者やアナリストによると、安定した製造拠点としての中国の地位を弱める出来事が1年にわたり相次いだ末に起きた今回の混乱で、アップルは事業の大部分を一つの場所に依存するのは問題だと考え始めた。フォックスコンの元米国幹部は「以前、人々は集中リスクを気にしなかった」と指摘。「自由貿易が標準で、状況は十分に予測可能だった。今は新しい世界に入った」と述べた」 

    中国では、これまでの低賃金と社会安定という二大要因が消えかかっている。厳格な社会統制のもたらした歪みである。アップルは、中国に代わる新たな生産拠点が求められる時代に転換していることを認識した。

     

    (3)「アップルのサプライチェーンに携わる関係者によると、対応策の一つは、中国に拠点を置く企業を含め、より多くの組み立て業者を利用することだ。アップルとの取引拡大を狙う中国企業としては、立訊精密工業(ルクスシェア・プレシジョン・インダストリー)と聞泰科技(ウィングテック)の2社が挙げられるという。ルクスシェアの幹部は今年行われた投資家との電話会議で、消費者向けエレクトロニクス製品企業の一部顧客が、コロナ対策や電力不足などによって引き起こされた中国のサプライチェーンの混乱を懸念していると述べた。企業名は明かさなかったが、これらの顧客はルクスシェアに中国国外の生産を増やす手助けをしてもらいたいと考えているという」 

    アップルは、鴻海(ホンハイ)と深いつながりを持ってきたが、新たに中国の二社とも関係を持ち、中国国外の生産に進出する。

     

    (4)「アップルが生産拠点を中国以外に移す動きは、中国の経済力を脅かす二つの要因によって進行している。中国の若者の中には、裕福な人が使う電子機器の組み立てを低賃金で行うことに抵抗感を抱くようになった者もいる。不満の原因の一つは政府の強引なコロナ対策だが、そのコロナ対策自体もアップルをはじめとする多くの西側企業にとって懸念材料だ。コロナの流行が始まってから3年たつが、他の多くの国々がコロナ禍前の日常に戻ったのに対し、中国はいまだに隔離などの措置で感染を抑え込もうとしている」 

    下線部こそ、中国が異質の社会であることを自ら証明した。「ゼロコロナ」という非科学的な措置を「中国式社会主義」として押し通す感覚は、完全に世界の動きからずれてしまっているのだ。

     

    (5)「中国の各都市で最近行われた抗議デモでは、習近平国家主席の退陣を求める声も上がり、コロナ対策の規制措置に対する批判が政府に対するより大きな運動に発展する可能性がうかがえた。加えて、中国の軍事力の急速な拡大や中国製品に対する米国の関税などを巡り、米トランプ・バイデン両政権下で米中間の軍事・経済的緊張が5年以上続いている」 

    中国は、台湾侵攻という地政学的リスクを抱えている。台湾有事になれば、中国での生産はストップしてアップルは大損害を被る。こういうリスクを計算に入れる段階になっているのだ。

     

    (6)「アップルのサプライチェーンに詳しい天風国際証券のアナリスト郭明錤氏によると、アップルの長期目標は、インドからのiPhone出荷割合を現在の1桁から40〜45%に拡大することだという。アップルのサプライヤーによれば、ベトナムはAirPods(エアポッズ)やスマートウオッチ、ノートパソコンなど他のアップル製品の製造をより多く担うとみられる」 

    インドからのiPhone出荷割合は、現在の1桁から40〜45%に拡大するという。インドが、いずれ中国に代わって主力工場所在地に踊り出ることになろう。ベトンナムは、iPhone以外のアップル製品を生産すると見られる。こうなると、中国は空洞化するはずだ。

     

     

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