勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国恒大が、世界の株式市場で「悪玉」扱いされている。デフォルトが目前に来ていると、市場関係者は身構えるからだ。これから、起る問題点を整理しておく。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月21日付)は、「よくわかる中国恒大 4つのポイント」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産大手、中国恒大集団の債務問題を世界が注視している。中国発のリスク連鎖を警戒する金融市場の動きは欧米、日本へと波及した。恒大の成り立ちと債務問題、今後の見通しをおさらいする。

     


    恒大とは?創業者・許家印氏の政治的背景は?

    (1)「中国を代表する不動産開発業者である恒大は1996年、中国南部の広東省広州市で創業した。当初は従業員10人弱の小さな会社だったが、低価格の小型マンションで足場を築き、中国の不動産ブームの波に乗り2000年代に急成長した。2020年12月期の売上高は5072億元(約8兆5000億円)にのぼり、物件販売面積は中国で2位だった。創業者で経営トップである許家印・董事局主席は、1990年代に勤めていた商社で不動産事業の立ち上げに関わり、中所得層向けの住宅物件で大きな成功を収めた。その知見を生かし恒大を設立した後は、物件デザインや資材調達の社内ルールを整備、原価を抑制する戦略で会社を急成長させた」

     

    商社的なセンスが、経営規模を急激に拡大させた。

     

    (2)「中国調査会社の胡潤研究院がまとめる中国富豪番付では、2017年に許氏の資産額が2900億元(約5兆円)で首位になったこともある。18年には改革開放政策40周年に絡んで中国共産党などから経済成長への貢献が大きい「傑出した」民営企業家100人の1人にも選ばれた。経済界での存在感を増した許氏は中国の政策助言機関、全国政治協商会議の常務委員に名を連ねるようになり、政治にも接近した。習近平(シー・ジンピン)指導部が掲げる「脱貧困」などに積極的に呼応、地方の産業振興や教育支援へ資金を投じて有力政治家とのコネクションを築いてきた」

     

    かつては、模範的な企業家として注目された。

     


    (3)「不動産業で大きな成功を収めた許氏は様々な領域へと進出する。その代表格がスポーツで、保有するサッカークラブ「広州FC(旧・広州恒大)」はアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を2度制覇、名門となった。またバレーボールなどの振興にも力を入れた。ビジネスではテーマパーク事業、電気自動車(EV)開発などにも手を広げた。一方で借り入れや社債発行は膨らみ、グループの財務は安定性を失った」

     

    急激な経営多角化が、体力を消耗させた。経営の焦りが、そうさせたのであろう。

     

    経営難に陥った理由は?

    (4)潮目の変化は20年夏に訪れた。中国人民銀行(中央銀行)は大手不動産会社に対して負債比率など守るべき財務指針「3つのレッドライン」を設けた。「総資産に対する負債(前受け金を除く)の比率が70%以下」「自己資本に対する負債比率が100%以下」「短期負債を上回る現金を保有していること」の項目だ。不動産会社は守れなかった指針の数に応じて銀行からの借り入れ規模などが制限される。重い債務を抱える恒大は人民銀の示す指針を守るべく財務改善に動き始めた。方策のひとつが値引きによるマンションの販売加速だ。今年7月、同社の物件販売単価は1平方メートルあたり8055元と前年同月比14%下落した。現金の捻出により一部の負債などは圧縮できたが、それでも改善の足取りは鈍い。不動産市場調査を手がける貝殻研究院によると216月末時点で、恒大は「3つのレッドライン」のうち2つを守れないままだ」

     

    政府の不動産バブル抑制の動きを察知できなかった。リスク意識が欠如していたのだろう。

     


    (5)「恒大と取引する工事会社や資材会社からは、恒大の代金支払いが滞っているとの声が上がるようになった。本来デベロッパーは絶対的存在で、代金支払いなどで問題が生じても下請け側からは文句が言いにくい。恒大の財務不安が力関係を変化させているようにみえる。ある地方銀行は恒大の預金凍結に走った。融資を巡るトラブルがあったとみられる」

     

    資金管理が上手くいかなかった。昔でいえば、「バジェタリー・コントロール」ができなかったのだろう。「行け行けドンドン」という計画のなさが招いた経営蹉跌だ。

     

    なぜ世界の株式市場は大きく反応したのか?

    (6)「限界まで膨張した債務の巨額さと、200億ドル(約2兆2000億円)に上る外債を通じた海外投資家へのインパクト、そして習指導部の政治姿勢を改めて占う試金石になるとみられるためだ」

     

    巨額の外債を発行している点が、政府の間接的な責任に帰着する。政府が、外債発行を薦めたからだ。

     


    (7)「取引先への未払い分などを含めた恒大の負債総額は、1兆9665億元(約33兆4000億円)と中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当し、処理に失敗すれば中国の金融システムを揺るがしかねない。恒大は9月下旬以降、過去に発行した社債の利払い日が集中しており、債務不履行が起きるか市場が注意を寄せている。資金繰りが一段と悪化すれば、建設中のマンションプロジェクトが頓挫し、既に購入した消費者に引き渡されない恐れもある。中国では財産の大半を住宅につぎ込む人が多く、恒大問題へは市場関係者以外も大きな関心を持っている」

     

    連鎖倒産を起させず、恒大を整理することである。既に代金を支払った消費者には、政府が物件を引き渡す保証をすることだ。恒大が、過去に支払った法人税を「基金」にして行えばよい。超法規的なことでも行い、不安心理を鎮める工夫が必要。そうでなければ、取り返しのつかない騒ぎになろう。

     


    恒大は倒産してしまうのか?

    (8)「資金繰りに窮する恒大、今後自力での経営立て直しが不可能となれば「破産重整」と呼ぶ再建型の倒産手続きがひとつの選択肢になる。債権者の同意の下で債務をカットし、営業を継続しながら再建を目指す法的整理の枠組みだ。直近のケースでは航空事業を中心とする複合企業、海航集団(HNAグループ)が地方政府の管理を受けながら今年2月以降に破産重整のプロセスに入った。債権者や裁判所と協議しながら更生計画を練っている。現在は、会社更生のカギとなる再建スポンサーを探している最中だ」

     

    不動産バブルの破綻である。再建スポンサーが、見つかるだろうか。この後に起こる住宅価格の暴落を考えれば、安易な期待をすべきでない。

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    「草木もなびく」勢いで、中国へ工場進出した時代が懐かしくなってきた。今や、中国の人件費高が足かせになって、中国から撤退することが珍しくなくなっている。中国経済の斜陽化を象徴する一面である。

     

    中国南部広東省の深圳市が6月末、企業の賃金抑制に乗り出している。条例を17年ぶりに本格的に改正し、残業手当の規定撤廃などを盛り込んだ。中国では、人件費の高騰で生産拠点を東南アジアなどに移転するケースが増えている。今回、深圳市が行った残業手当の規定撤廃などは、企業負担の抑制を狙うもの。深圳市は、中国産業モデル地区であるので、今回の施策は全土に広がる可能性も指摘されている。

     

    中国はこうした、労働条件の切り下げによって、外資系企業の中国残留を狙っているが、「脱中国」の動きは止められない流れになっている。日韓を代表する企業である、東芝とサムスンが撤退方針を明らかにした。

     


    『大紀元』(9月16日付)は、「東芝とサムスン、中国から相次ぎ撤退 補償金に不満の従業員は抗議活動」と題する記事を掲載した。

     

    中国から撤退する外国企業が増えている。日本の大手電機メーカー東芝、韓国最大の財閥企業サムスングループはこのほど、相次ぎ中国工場の閉鎖を決定した。

     

    (1)「東芝は中国大連市の工場を9月30日で閉鎖する。1991年に産業用モーターなどの製造拠点として設立され、東芝グループ初の中国工場だった。今後、ベトナムや日本国内での生産に切り替える。同工場は液晶テレビや医療機器なども生産してきたが、東芝の経営再建で事業整理を進めた結果、生産品目が少なくなった」

     

    東芝グループが1991年、初の中国工場として産業用モーターなどの製造拠点として設立した工場である。そこからの撤退だ。今後は、ベトナムや日本国内での生産に切り替えるという。生産技術の進歩で、少量生産でもコスト切り下げが可能になっている。

     


    (2)「中国メディアによると、同工場の経営は長らく低迷しており、現在の従業員数は約650人、平均月給は約3000元(約5万円)。撤退に伴う従業員への補償など具体案はまだ公表されていない。一部の情報では、東芝は年内に中国24都市にある33工場と研究開発機構を引き上げる予定だという。開発機構と精密部品の製造は日本国内に戻し、電気製品の生産ラインはベトナムに移転する。東芝は2013年にも大連市にあったテレビ製造工場を閉鎖した」

     

    東芝は、年内に中国24都市にある33工場と研究開発機構を引き上げる予定という。開発機構と精密部品の製造を、日本国内に戻すというのは、中国での拠点メリットが消えたということ。中国にとっては深刻な事態だ。

     


    (3)「中国浙江省寧波市にある韓国系企業、サムスン重工業の造船所もこのほど閉鎖を発表した。同造船所はサムスンの中国での初の造船所であり、1995年12月から稼働。従業員数は4500人を超える。数千人の従業員は工場の閉鎖に反対し、会社側の補償案を受け入れられないとして、98日から連日抗議を続けている」

     

    韓国のサムスン重工業の造船所も、このほど閉鎖を決めた。造船では人件費が大きなウエイトを持つが、これも技術革新で中国での立地メリットをカバーできる見通しがついたのであろう。

     

    賃金上昇分を生産性向上で吸収できなくなれば、撤退するほかない。詳細は不明だが、生産性向上の見通しがつかいないとなれば、中国における「中所得国のワナ」問題は、現実化するに違いない。中国経済の危機である。

     


    (4)「大紀元の取材に応じた工場関係者によると、サムスン側は「(勤続年数+1×月給」という補償案を提示したが、従業員側が要求する「勤続年数×月給×3」の金額と約2倍の開きがある。9月12日時点で労使交渉は続いている。従業員の話では、従業員全体の平均給与は約1万元(約17万円)、新入社員は約3000元(約5万円)。外資系企業のなかでは高い水準とみられる。中国の法律では、会社の都合による労働契約解除時、義務として従業員に支払われる補償金は、「勤務年数(最大12年)×直前平均月給」となっている。従業員側の要求は法律から大きく乖離していることがうかがえる」

     

    中国労働者側は、補償金で過大要求を突付けている。普段から、こういうルールに乗らない無理な要求を出しているのであろうか。

     

    (5)「サムスングループは中国からの撤退を加速させている。昨年、中国最後の携帯電話生産拠点だった広東省恵州市の工場、天津市にある中国唯一のテレビ製造工場、今年8月には、蘇州の最後のパソコン工場を立て続けにたたんだ。外資が相次ぎ撤退を決めた一因として、労働コスト(人件費)の高騰が挙げられる。外国企業の撤退が続けば、失業者が急激に増え、国民生活や中国経済への打撃は必至だ。中国政府が今年8月に発表した資料によると、外資企業での就業人口は4000万人と、全就業人口の1割を占めている。税収の6分の1に貢献しているという」

     

    サムスングループも、中国からの撤退を加速させている。すでに、東芝グループも同様の決定をしている。外資企業での就業人口は4000万人とされ、全就業人口の1割を占めている。外資系企業は、こういう高い雇用ウエイトを持っているのだ。それだけに、中国からの撤退は雇用へ悪影響を及ぼす。

     

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    中国の不動産開発企業大手の恒大集団は、金融危機に見舞われている。この20日に支払う銀行への金利を繰り延べる手続きをするほど窮迫状態である。問題が、対金融機関で止まっている段階は、まだ危機も本格化しないと見られる。ただ、高利の理財商品を約110社以上から借入れていることが判明している。ここへ、本格的に波及すると、事態は予断を許さない状態になるとみられる。恒大集団も理財商品の扱いについて神経過敏になっている。

     

    恒大集団は18日、グループで取り扱っている投資である理財商品の前倒し償還を受けた複数の幹部を処分したと発表した。投資家よりも早く情報を得る幹部の公平性を欠く行為は一段の批判を招きそうだ。

     


    グループ傘下の恒大財富の投資商品に関して、51日から97日の間に6人の幹部が前倒しで償還を受けていたことが判明した。償還を取り消し、厳しい処分を下したという。「公平性、公正性を確保し、(すべての人に対し)分け隔て無く振る舞う」とする。

     

    恒大は巨額の債務問題に揺れており、グループで取り扱う投資商品も焦げ付きが懸念されている。中国メディアなどによると12日には広東省深圳市の恒大本社ビルに数百人の投資家らが押し寄せて抗議した。投資商品が期限内に償還されなかったことのほか、グループ幹部が財産保護のために前倒しで償還を受けたとの疑念が広がっていたためとされる。以上は、『日本経済新聞 電子版』(9月18日付)が報じた。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月17日付)は、「中国の不動産バブルははじけたのか」と題する社説を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は次の課題として、経済面でこれまでで最も難しい離れ業に挑戦しようとしている。それは経済の崩壊を避けながら不動産バブルに穴を開けることだ。危険を感じ取るには、不動産大手の中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の状況を見てみるのがいいだろう。深圳市に本社を構え香港市場に上場している同社は、中国最大級の不動産開発業者だ。同社の負債総額は3000億ドル(約32兆9000億円)前後に上る。このケタ数はタイプミスではない。同社は債務の返済方法が分からないようで、返済計画を作成するため外部のアドバイザーを招き入れている。

     

    (1)「恒大集団は一部の債券や銀行融資についてデフォルトを認められる可能性があるが、中国政府には恐らく同社の全面的な崩壊を回避できる能力があるとみられる。中国は金融システムが比較的閉鎖されており、国有銀行が多くあるほか、法の支配が緩いこともあり、政府が企業再編の指揮をとりシステミックな崩壊を回避することが可能だ。しかし、この比較的明るいシナリオでも、経済は党が歓迎しないような痛みを感じる可能性がある」

     

    恒大集団の問題が、この金融機関レベルで止まっている間は、政府も事態の解決が可能であろう。だが、これ以上に炎が燃え広がり個人レベルへ拡大すると局面は変わると指摘している。ここが、重大なポイントである。

     


    (2)「主な問題は、どこに危険があるかを理解することだ。恒大集団の890億ドルの借り入れと債券発行による債務は、問題の一部に過ぎない。それよりはるかに大きいのは、同社がサプライヤーに負っている債務だ。債務の一部は現在、中国のグレーな金融市場を循環しているはずだ。そうした市場では、売掛金などの資産の売却が、普通の銀行融資の代わりになっている場合がある。恒大集団はまた、新築物件を多くの個人購入者に引き渡さなければならない。購入者はまだ完成していない物件について一部ないし全額を支払っており、購入のためにお金を借りた可能性もある。恒大集団絡みで誰がどれほどのリスクを負っているかを当局が理解するには、時間とかなりの労力が必要となるだろう

     

    下線部分が重要である。「借入金」として処理されていれば銀行マターだが、資材サプライヤーの「売掛金」になると手形として流通している。これが、最終決済されていなければ時限爆弾になって「爆発」する。当局が、このリスクを把握するには相当の時間がかかるので危険である、としている。

     


    (3)「一部の債権者たちは我慢できなかった。中国各地の恒大のオフィスでは、債権の返済を要求するサプライヤーや住宅購入者の抗議行動が起きた。抗議した人々の中には、恒大によって保証された資産運用商品である、
    いわゆる「理財商品」の投資家も含まれていた。この商品は、銀行の低金利な普通預金の代わりに家計部門が投資してきた規制の緩い金融商品である。現在、中国当局は抗議行動を抑え込む手段を持っているとはいえ、これは中国政府が恐れるある種の社会不安だ」

     

    理財商品は、中間層が購入している。この理財商品が現金で償還されなければ、不満として爆発する。当局は、これを抑え続けることは不可能である。社会不安に繋がるのは必至である。

     


    (4)「北京の住宅市場の冷え込みが続く中で、トラブルに直面する可能性が大きい他の不動産業者が出てくることで問題が何倍にもなり、それに加えてこうした事業者のサプライヤー、所有する物件の価格下落が見込まれる住宅購入者、融資を行った銀行も巻き込まれることを想定してみよう。中国版の「リーマン・モーメント」、つまり2008年の米リーマン・ブラザーズ倒産をきっかけとする金融市場の崩壊と景気後退に似た状況が起きるという説は時期尚早だ。しかし、中国政府が打ち出した信用部門の修正は、共産党中枢の政策立案者が考える以上に対処が難しい可能性がある

     

    事態が、恒大集団だけの不始末で終わればまだ救われる。だが、不動産全般への不安として拡大すれば、「燎原に火がつく」状態へ拡大する。まさに、「金融不安」や「取り付け」ということになりかねない。

     

    ましてや、現在の中国経済は最悪事態へ突入している。SNSで経済見通しの悪化を伝えるようなものは、すべて閉鎖されるという異常事態である。こういう中で、中小の不動産会社が倒産して物件を投げ売りすれば、万事休すとなろう。現在は、その瀬戸際に来ているのだ。不動産市況は、一斉に暴落へ転じる。収拾がつかなくなるだろう。

     

    この社説の「副題」は、「恒大集団の苦況は崩壊の始まりに過ぎない可能性も」とある。なかなか、意味深長なサブタイトルである。

     

     

     

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    習近平氏は、経済が最悪事態へ突入していることを隠すために必死である。当局が、金融関連情報を投稿するブログやSNS(交流サイト)の取り締まりに乗り出しているからだ。投資家は、中国経済に関して信頼できるデータの入手が一層困難になっている。

     

    不動産開発企業に最大手である中国恒大は、銀行に対して9月20日の金利支払いが不可能な旨を通告する事態である。普通の感覚であれば、デフォルト間違いなしだ。ここまで追込まれているだけに、中国当局は「臭いものに蓋」という戦術に出ている。

     

    中国で抜本的改革の行方を知っているのは、習近平国家主席を含め10人程度にとどまるという。この秘密主義を守らせるには、「見ざる聞かざる言わざる」の「三猿主義」になるほかない。中国経済は、死に急いでいる。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(9月16日付)は、「中国が『金融ブログ規制』、投資家は情報不足に」と題する記事を掲載した。

     

    対中投資が賢明な選択だったのかどうか、米ウォール街トップの見解の相違が広がるなかで、当局が金融情報の取り締まりをさらに強化した。ベテラン投資家でさえ相次ぐ政策の全面的な見直しには意表を突かれた格好で、市場は動揺し、中国政府の次の標的はどの部門かという疑念を呼んでいる。

     

    (1)「中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が8月に始めた「特別是正」キャンペーンの対象となったのは、市場に疑心暗鬼を生じさせたり、中国経済について悲観的な意見を述べたりするブログのほか、誤情報や違法行為を拡散する金融ニュースサービスやSNSのアカウントだ。中国を専門とするエコノミスト、アナリスト、研究者もネット上での不正確な論評や詐欺的行為の横行が金融市場の問題になっている点は認める」

     

    8月からインターネット上での経済情報の取締りが始まっている。中国経済危機の進行を反映している。

     


    (2)「一方で、過剰に規制すれば中国政府の公式見解とは異なる有益な意見の口封じになりかねないと心配する。匿名を条件に取材に応じたベテランの中国市場アナリストは、中国に関する情報の不足は計算違いや誤った判断を誘発する環境を「確実に」生み出していると懸念し、こう話した。「リスクが大きすぎる。どんな発言にも気を使うようになる。とても心配だ。いま何が起きているのか、本当に知ることができるのか。これまでもデータの内容には問題があったが、今後はさらに社会の実態が見えにくくなるだろう」

     

    明らかに詐欺的な情報はチェックしなければならないが、正常な情報まで規制されているのは、危機襲来の証明である。

     

    (3)「地方政府は、規制当局の取り調べに素早く呼応し、無謀な株価操縦をしたとされる容疑者を次々に逮捕した。ライブ配信や対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を使って株価を「操作」したとされる事件の被疑者たちだ。上海では当局による一斉逮捕を受けて、証券会社とインターネット企業が1万7000件超の「有害情報」を削除し、約8000件の違法アカウントを閉鎖した。深圳でも当局が株価操縦事件を暴き出し、14人の容疑者を逮捕した」

     

    地方政府は、株価操作を目的にしたライブ配信などは取締り対象になろう。問題は、それで済まないことだ。正しい分析までも弾圧されている。

     


    (4)「500万人超のフォロワーを持つ広東省の著名金融コメンテーター、黄生(フアン・シェン)氏も逮捕され、ウィーチャットとウェイボのアカウントが凍結されたもようだ。フォロワー400万人のシュ・シャオフェン氏のウェイボのアカウントは7月上旬以降、更新されていない。同じく金融ブロガーで数十万人のフォロワーを持つイ・ウェイ氏の投稿は削除されたもようだ。中国の警察当局が不正取り締まり専用アプリを使い、海外の金融ニュースサイトの利用者を突き止めて取り調べているふしもあるとフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は今週報じた」

     

    下線部は、海外から中国の正しい中国情報の入ることを禁止している。

     

    (5)「中国在住のある金融アナリストは、「基本的に中国政府のデータ解釈に異論を唱える人たちが対象になる。少々客観的または否定的にデータを解釈しようする人なら誰でも今回の取り締まりに危惧を抱くだろう。はっきりしたことはまだ何も言えないが」とこのアナリストは匿名を条件に話した。中国専門のある欧米エコノミストは匿名で取材に応じ、社会の混乱に関する統計など「多く」の時系列データの公表が打ち切られていると指摘した。説明のつかないデータの補正も頻繁に行われ、経済調査には不可欠な家計や企業の「ミクロデータ」が入手できなくなっているという

     

    このパラグラフでは、中国当局の取締り意図がはっきりしている。経済データの隠匿が始まっているのだ。中国経済悪化を隠すためにデータを入れ換えている。

     


    (6)「中国の抜本的改革の行方を知っているのは「世界で10人」程度ではないかとベテランエコノミストはみている。「恐らく習近平(シー・ジンピン、国家主席)と党中央政治局常務委員会委員、それに数人の規制当局首脳だけだろう」という。しかし今、中国は不確実性に覆われ、投資家は規制強化や税率引き上げ、高額寄付の呼びかけ、経営判断に対する政府の影響拡大など様々な脅威に直面している」

     

    中国の真実を知っている者は、10人程度しかいないという。極端な秘密主義で、中国経済は滅びの道を歩んでいる。気の毒なことである。

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    中国は来年の党大会において、習近平氏の「国家主席3期目」を実現すべく動き出している。毛沢東時代の悲劇を繰返さないという教訓の下に、「国家主席2期10年」の原則が設けられた。それが、習氏によって撤廃されたのである。中国の悲劇が、ここに始まるのだ。

     

    中国4000年の歴史において、一度も民主化時代を経験していないというのは民族固有の「非人権思想」に基づくものである。人間を人間として対等に尊重したことがない。支配する対象でしかないという上から目線の悲劇は、儒教による「秩序尊重」という無難を好む「事なかれ主義」の表れである。問題山積の中国に、事なかれ主義は通用しない。事態は、さらに悪化するにちがいない。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月14日付)は、「習氏こそ中国のリスク 個人崇拝の悲劇、歴史が示す」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ギデオン・ラックマン氏である。FTのチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターである。

     

    中国の子供たちは間もなく、10歳という低年齢から「習近平(シー・ジンピン)思想」を必修科目として習うことになる。この事態は現代中国への警鐘とみるべきだ。国家主導で習氏を敬うことは、毛沢東への個人崇拝、そして毛沢東が進めた大躍進政策と文化大革命がもたらした飢餓と恐怖の時代をも思い起こさせる。個人崇拝と共産党支配という組み合わせは、スターリン統治下のソ連から、チャウシェスク大統領のルーマニア、金一族の北朝鮮、カストロのキューバに至るまで、たいていは貧困と蛮行を生む。

     


    (1)「今の中国が抱える富とその発展ぶりを考えると、こうした例とは無縁に思えるかもしれない。確かにここ数十年の中国の経済的変容には目を見張るものがある。そのため中国政府は、世界が見習うべき発展モデルとして「中国モデル」を宣伝するようになった。しかし、「中国モデル」と「習モデル」は区別する必要がある。鄧小平が軌道に乗せた改革開放の中国モデルは、個人崇拝の否定を基本にしていた。鄧小平は官僚らに「実事求是(事実に基づいて真理を追究すること)」を求めた。政策を毛沢東が出した壮大な宣言に基づいて決めるのではなく、どの政策の何が機能しているのかという現実的な経過観察を重ねながら判断していく重要性を説いた。官僚たちが新たな経済政策を試みられるようにするには、絶対権力と結びついたドグマや、それを守らないと自分がパージされるという恐怖から官僚を解放しない限り難しいと理解していたからだ」

     

    鄧小平は、官僚に対して「実事求是」を求めた。これは、「スローガン政治」のもたらす危険性を除去するためだった。政策の実効性を求めたのである。現在の習近平氏は、再びスローガン政治に戻っている。「共同富裕論」がそれだ。この名前の下に、全てが一括りで行われている。危険この上ないが、スローガン政治ではどうにもならないのだろう。

     


    (2)「一党独裁国家では、後継問題がしばしば深刻な問題として浮上する。任期制限の導入には、その問題を回避する狙いもあった。そして以来、1人の指導者によるカリスマ的支配より、中国共産党の集団による指導体制が重視されるようになった。しかし、習氏が国家主席に就任して以降、中国共産党は再び個人崇拝を重んじるようになった。17年の中国共産党大会では、「習近平思想」なるものを党規約に盛り込んだ。過去、在任中にこのような栄誉ある扱いを認められた指導者は毛沢東しかいない。さらに18年には、鄧小平時代に決められた国家主席の任期制限が撤廃され、習氏にとっては終身ではないにせよ、20年でも30年でも支配を継続できる大枠が整った」

     

    任期のない政権ほど危険なものはない。任期が区切られてこそ、新陳代謝が行われる。習近平氏は、かつての「皇帝政治」へ逆戻りする。革命原点は皇帝政治の打破のはずであった。その原点を忘れて、「権力の密」に溺れるのだ。人間の弱さをこれほど見せつけている政治もない。習氏を取り巻く一握りの民族主義者が、その権力の密を吸おうと習氏を唆しているのだ。それは、中央政治局常務委員で序列5位の王滬寧(ワン・フーニン)氏である。

     


    (3)「習氏への個人崇拝強化という最近の動きは、22年の中国共産党大会に向けた下準備にみえる。習氏が党を支配している以上、この党大会は無期限に最高権力を握り続けたいとする習氏の野望に対し、正式なお墨付きを与えざるを得ない。習氏の思い通りに事が進むのはほぼ確実だ。習氏の支持者や党内のその熱烈な一派は、この動きを大歓迎するだろう。そうしないわけがない。中国の指導者は"賢帝"ということになっているからだ。賢明な指導者は、中国の現代化に向けあらゆる正しい判断を下すはずだ、と」

     

    批判を許さない政治は、誤りを是正する機会を奪うことである。まさに、中国政治の暴走が始まるのだ。それは、習氏の生命の灯が消えるまで続くもの。毛沢東で経験済みである。

     

    (4)「最もやっかいなのは、事態が悪化した場合、その事実を自由に公的に指摘することが難しくなる点だ。個人崇拝とは、どんなケースでも、その偉大な指導者が周りの誰よりも賢明な人物であるというのが前提になっている。従ってその指導者が間違いを犯すはずがない、というロジックになる。中国で新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への習氏の対処を批判した者は刑務所に送られた。習氏の中国ではパンデミックについて公的調査が進むことも、議会での公聴会が開かれることもない」

     

    中国の「戦狼外交」は、習氏のワンマン体制確立のメッセージである。一切の批判を聞かず、逆にはね返すシグナルだ。こうして、海外に「反中国網」を自然につくらせている。自滅への第一歩である。

     

    (5)「習氏が指導者でいる期間が長引けば将来、必ず権力の継承を巡って危機が来る。現在68歳の習氏が高齢となれば、どこかで、統治するにはふさわしくなくなる。だがその時に、どうすれば習氏を退任させられるのか」

     

    68歳の習氏は、あと20年は実権を握り続ける意思であろう。中国を世界一に押し上げ覇権を握るという幻想に酔っている。現実の中国の力を知らないのだ。20年前を振り返れば、自ずと理解できるはずだが、取り巻き連中の甘言で正しい判断力を失っている。最悪事態に陥るのだ。

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