中国政府は、不動産企業への資金調達制限などを緩め、支援政策に転換することになった。大手に対して定めた財務指針「3つのレッドライン」を緩和するもの。これで、金融機関からの融資を受けやすくなるものの、肝心の家計に住宅購入の経済的ゆとりがあるかがポイントだ。中国政府は、住宅供給側を重視しているが、企業倒産を防ぐという意味だけである。需要側の事情を総合的に判断しなければ、住宅部門が経済成長の大きなテコになるとは言えないだろう。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月14日付)は、「中国住宅市場、復活してもコロナ前には戻らず」と題する記事を掲載した。
中国がいきなり成長重視の政策へかじを切ったことで、今年は住宅市場がようやく混迷から抜け出せるだろう。2023年の飛躍は約束されているかに見える。だが長期的な展望はまだ見えてこない。
(1)「中国政府はここ数年経済の重石となっていた政策を短期間でほぼすべて急旋回させた。新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策は撤回された。巨大民間企業、中でもインターネット技術分野に対する取り締まりは緩和され、不動産部門の債務抑制策も巻き戻された。中央と地方の両政府が不動産販売の落ち込みを食い止めるため、数カ月前から緩和策を打ち出していたが、今のところ効果はあまり上がっていない。住宅ローン金利は下がり、頭金の要件は緩和された。財務基盤が安定している民間の開発会社の一部は、負債や資本を通じた資金調達がはるかに容易になった」
13日に記者会見した中国人民銀行(中央銀行)金融市場局の鄒瀾局長は、次のように発表した。「主要30社の優良不動産会社に関して、「貸借対照表改善行動計画」を策定。負債額に厳しい上限を設けるなどした財務指針「3つのレッドライン」の数値目標を緩和する」というもの。主要30社は、不動産市場の約4割を占めている。緩和による効果は、せいぜい半分弱と見られる。
(2)「ゼロコロナ政策が社会原則となっていた間は、こうした支援策がそもそも十分に機能しなかった。ロックダウン(都市封鎖)やさまざまな寸断は住宅購入の追い風にならない。また、厳格なコロナ規制が収入や仕事といった経済面の不安をあおり、購入をためらわせる要因となっていた。ゼロコロナが解除されたことで、不動産には資金が還流し始めるだろう。中国の株式市場ではすでにこの流れが起きている。コロナ下でも中国政府は先進国のように家計に多額の現金を支給することはなかったが、貯蓄率の上昇は中国でも見られた。余剰貯蓄は消費を押し上げ、一部は不動産市場に流れ込むかもしれない」
株式市場では、すでに不動産株が上昇している。この勢いで、資金が不動産市場へ流れるかと言えば、その保障はない。住宅の値上り期待が少ないからだ。実需は、慎重である。購入した住宅が、確実に竣工物件として入手できるか、見定める必要がある。
(3)「中国の無秩序な経済再開とコロナ変異株「オミクロン株」流行による感染急増、さらに1月下旬の春節(旧正月)休暇が重なることを踏まえると、本格的な回復は少なくとも数カ月先になりそうだ。それでも、不動産販売は低調だった昨年と比べれば、年後半までに大きく上昇に転じる可能性がある。22年1~11月の住宅用不動産の販売額は前年同期を28%下回った。しかし、たとえ中国がコロナ規制解除後の感染増加をなんとか切り抜け、家計が支出を増やし始めたとしても、住宅市場はおそらく、2年ほど続いたこの危機以前の状態に戻ることはないだろう」
現状において、コロナ急感染の後遺症がどの程度に収まるのか見通し難である。数ヶ月先というのが多数説になっている。つまり、今年後半から回復に転じるという見方だ。住宅市場の場合、需要構造の変化から見て過去の状態へ戻ることはない。
(4)「財務が安定している不動産開発会社は今後数カ月を乗り切れる可能性が高いが、ブームに乗って手を広げすぎた、財務が脆弱な企業には難しいだろう。中国恒大集団などの大手もその可能性が高い。中国ではたいてい住宅を完成前に販売するため、こうした企業が抱える未完の物件は、多くの買い手候補に住宅購入をためらわせることになるだろう。中国海外発展など政府系の不動産開発会社は、民間ほどいばらの道ではないかもしれない。引き渡しがより確実な物件を購入者が求めるためだ。また、投機や投資目的の需要回復はさらに時間がかかりそうだが、これもゼロコロナ解除直後の混乱が収束するにつれ金融情勢や株式など競合資産がどうなるかにかかっている」
下線部は、住宅が住む目的でなく投資物件となっている現実を示唆している。しかし、再び転売で利益を上げるほど住宅需要が回復するかだ。その可能性は、限りなくゼロと見るべきだろう。中国全体(家計・企業・政府)が、対GDP比で300%近い過剰債務を抱えている現状では、債務返済が優先されるはずだ。これが、正常な経済行動である。
(5)「深刻かつ長期的な構造問題として、急速な高齢化がある。1人当たりの居住面積はすでに比較的高い水準に達している。また、一部の地域では、ブームの名残である未使用のマンションが多く残っている。苦境が続いた中国の不動産市場も、今年はいくらか一服できるだろう。しかし、不動産市場がこの20年間の大半のように、再び構造的成長の巨大な原動力となることはなさそうだ。このことは、商品市場の景色や、中国の成長が世界に及ぼす影響を大きく変えていくだろう」
このパラグラフでは、住宅の需要構造を分析している。中国は、22年から人口減少社会へ突入した。生産年齢人口比率も11年から低下している。こういう人口動態の悪化を見れば、不動産市場の活気が元へ戻るという期待はゼロに近いはずだ。