勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    中国の旺盛な消費の象徴である、11月11日「独身の日セールス」の通販は、これまで鳴り物入りのショーになっていた。販売額が刻々と発表されて、ついこれに引き込まれて買うという効果も狙ったのであろう。

     

    今年は、経済都市上海がゼロコロナで封鎖されるなど、消費環境は激変している。これを反映して、「独身の日セールス」は自粛ムードの中で行なわれた。販売額も公表しないという徹底ぶりである。それでも洩れてくる情報では、今年は不調ということだ。

     

    独身の日は2009年に始まったものだ。11月11日はシングルを意味する「1」が並ぶことから、独身者が自分への「ご褒美」を買う日という位置付けである。例年は、消費者の購買欲をあおるように取引成立額が報じられ、ネット通販企業が派手な発表会を開くなど、中国消費を象徴する「熱狂の祭典」として知られていた。

     

    今年の独身の日は、10月末から始まったがこれまで静かに過ぎてきた。近年は期間の延長も支えに販売額が増加を続け、21年の流通取引総額は約9500億元(約19兆円)に達した(米ベイン・アンド・カンパニー調べ)という。

     

    『ロイター』(11月11日付)は、「中国『独身の日』セール、最終日前半の売上高は4.7%減ー調査会社」と題する記事を掲載した。

     

    アリババ・グループ・ホールディングなど中国の電子商取引会社が開催した世界最大のオンラインセール「独身の日」は、調査会社によると最終日11日前半の売上高が4.7%減少した。

     

    (1)「調査会社の星図数据は、前半12時間の売上高が4.7%減の2230億元(310億ドル)になったとの推計を公表した。独身の日セールは、その名前とは裏腹に数週間にわたるイベントに発展しており、中国の小売需要の重要なバロメーターとなっている。だが、中国の厳しい新型コロナウイルス規制と急激な景気後退により、消費者心理は低迷している。また、習近平国家主席が「共同富裕」をますます強調し、拡大する富の不平等を解消しようとする中、アリババは1年以上にわたってイベントを巡る過剰宣伝を抑えようと努めている」

     

    習政権の目玉政策である「共同富裕」では、平等が強調されている。行き過ぎた宣伝で消費意欲を煽るなというムードの中で、今年の「独身の日セールス」が行なわれた。これまで販売額は、秒単位で発表されていたが、今年は取り止めになったほど、自粛ムードである。

     

    (2)「アリババは、自社のマーケットプレイス「天猫」で昨年より300万点多い1700万点以上の商品を提供し、過去最多級の29万ブランドが参加すると発表したが、イベントの取引額は過去最低の伸びとなりそうだ。同社は11日のイベント終了後に売上高を公表するとみられる。ベイン・アンド・カンパニーの調査によると、今年の消費支出を増やすと答えた人はわずか24%。また、米Yipit Dataによると、10月24~31日のプレセール期間中の天猫での取引は前年比横ばいだった」

     

    アリババは、過去最多級の29万ブランドで参加したが、売上伸び率は過去最低になったという。いかに消費意欲が低下しているかを示している。中国人民銀行(中央銀行)が10日発表した10月の人民元建て融資状況では、個人向け融資全体では180億元のマイナスである。マイナスとは、借り入れよりも返済が多いことを示す。将来所得への懸念から手持ちローンを返済する動きが広がっている可能性を示している。ここから、人々の消費を切り詰めている姿が浮かび上がるのだ。

     

    (3)「シティのアナリストは今週、アリババのこのイベントの流通総額(GMV)が5450億~5600億元(750億~770億ドル)となり、0.9~3.6%の伸びになると予想。昨年の8.5%増、2020年の26%増から大きく鈍化する。20年より以前は1日限りのイベントだった」

     

    アリババは、過去の「独身の日セールス」では、20年が20%増、21年が8.5%増であった。今年の伸び率は、シティのアナリストによると0.9~3.6%の伸びになるという。大幅な鈍化予想である。中国経済の現況をそのまま表している。

     

     

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    中国のEV(電気自動車)販売は、1~9月で前年比2倍以上の売れ行きである。これは、年内に終了する補助金への駆け込み需要増である。来年以降は、この反動でEV売れ行きの落込みは必至。株価は正直である。こういう業界事情を反映して振るわないのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月11日付け)は、「中国EV株の低迷、成長減速を示唆」と題する記事を掲載した。

     

    中国の電気自動車(EV)市場は活況を呈している。だが中国のEV関連銘柄の動きを少し見ただけでは、そのことは分からないだろう。

     

    (1)「中国の新エネルギー車(EVとプラグインハイブリッド車)の販売台数は、2022年1~9月に前年同期比で2倍以上に増加した。9月に国内で販売された自動車の4台に1台以上がEVだった。従来型のガソリンエンジン車に対するナンバープレート規制がある都市での販売が最も好調だった。モルガン・スタンレーによると、そうした都市での新エネルギー車の普及率は2022年1~9月で37%だった。ここ数カ月に上海や深圳などの都市で販売された車の40%以上がEVとなった。

     

    中国は現在、EV花盛りである。補助金が年内で終わるので駆け込み需要だ。来年は、補助金がないので、EVブームは萎む。過当競争が始まるのだ。

     

    (2)「中国EVメーカーの株価は低迷している。蔚来汽車(NIO)の株価は年初来67%安、小鵬汽車(シャオペン)は83%安となった。国内EV最大手の比亜迪(BYD)はそれよりましだが、株価は今年26%下落している。こうした銘柄は、市場が敬遠する他の中国株に連動して下がっている面もある。中国株の指標であるMSCI中国指数は今年、S&P500種指数の20%の下落に対し、34%の下落となっている」

     

    EVは好売行きだが、株価は不振というチグハグな格好になっている。来年のEV落込みを懸念しているのだ。こうなると、補助金はとんだ「仇」になりかねない。補助金なしの方が、安定的成長になったであろう。

     

    (3)「この暴落は、猛烈な急成長がすぐに減速し、競争が激化するのではないかという懸念を反映している。中国のEV販売はこれまで、不動産市場の崩壊と政府のゼロコロナ政策で打撃を受けた中国経済の低迷を跳ねのけてきた。しかし、年内に予定通りEV補助金が打ち切られれば、いよいよ経済の現実が追いついてくる」

     

    今年の景気にはEVが寄与したが、来年はこういう「フロッグ」がなさそうだ。来年のGDPが、今から心配される。

     

    (4)「価格競争も勃発している。テスラは先月、モデル3とモデルYの価格を最大で9%引き下げた。このため、特に同じ価格帯で競争している他のEVメーカーが追随する可能性がある。こうした動きは、ただでさえ材料費の高騰が頭痛の種になっているなか、さらに利幅を圧迫することになる。また、従来の自動車メーカーも今後数カ月でより多くのEVモデルを展開するだろう。販売の減速と利幅の縮小は、まだ利益を出せず、資金繰りに苦しむ新興EVメーカーにとって特に深刻だ」

     

    来年のEV業界は、値下げ競争が待っている。材料費の高騰が不可避である上に、値下げ競争になれば、脱落するEVメーカーも出てきそうだ。逃げ道は輸出であるが、海外市場開拓はどうなっているのか。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月29日付け)は、「中国EVブランド、欧州で待ち受ける障壁」と題する記事を掲載した。

     

    中国の自動車ブランドが続々と欧州に進出しようとしている。中国の先進技術に対する西側の購買意欲が、初めて試される大きな機会の一つである。ただ、中国ブランドが消費者と政治家の両方から賛同を得るには、まだしばらく時間がかかるかもしれない。

     

    (5)「欧州に既に中国車が存在するが、小規模で目立たない。BYDや高級EVを手掛ける蔚来汽車(NIO)などの企業は、小規模ながらBEV中心の市場であるノルウェーを販売実験場として使っている。NIOは昨年ノルウェーに進出を果たし、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、オランダでの発売に備えて準備を進めている。同社は来年、第2波として英国などにも進出する計画だ」

     

    欧州は、伝統的に欧州製自動車が圧倒的な売行きを見せている。そこへ新参者が斬り込んでも、討ち死には明白である。

     

    (6)「調査会社シュミット・オートモーティブ・リサーチの設立者マティアス・シュミット氏は、メルセデス・ベンツやBMW、アウディの牙城において、中国の高級モデルに大きな可能性があるとは見ていない。シュミット氏は、中国車のほとんどがノルウェーでまだあまり売れておらず、前世代のアジア高級車ブランドである日産「インフィニティ」や現代自動車「ジェネシス」、トヨタ「レクサス」なども欧州では苦戦していることを指摘する」

     

    日産やトヨタでも、欧州市場の開拓には骨を折っている。そこへ「新星」のように中国車が現れても、どこまで相手にされるかだ。甘い期待は持てないようだ。

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    韓国は、文政権による「反日運動」盛んなころ、頻りと韓国は「道徳の国」と自画自賛していた。返す刀で、「日本は非道徳の国」と蔑んだものである。こういう言い方は、韓国儒教(朱子学)独特の「自分は徳を積んだから偉い、お前は徳を積んでいない」という自己中心主義の発露だ。未だに、こういう妄念にすがりついているのが現実である。

     

    この「道徳の国」韓国で、かつては業績が優秀であった企業が、業績不振とともに「札付き企業」に成り下がる例が多いという。これは、普遍的な企業モラルが身に付いていない結果だ。「瀕すれば鈍する」とは、よく言ったものである。

     

    『中央日報』(11月10日付)は、「『悪い企業』が増えている」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のペク・イルヒョン産業チーム次長である。

     

    最近「悪い企業」と呼ばれる会社が多くなった。先月15日に系列会社の製パン工場で機械に挟まれ20代の労働者が死亡する事故が起きたSPCが代表的だ。従業員に12時間夜通しで勤務させ、2人1組の勤務原則を徹底せず、ふたを開けば機械が止まる自動防護装置を複数ある機械に設置しなかった。事故翌日に従業員を事故現場近くで働かせ、パンを作って死亡した故人の葬儀会場にパンを送った。

     

    (1)「先月17日、全社員に突然整理解雇を通知した乳製品企業のプルミルもある。オーナー2世が代表に就任した年から4年間にわたり赤字を出し、事業終了をわずか44日後に控えて1枚の公告文で従業員に会社から出て行けと言った。労使が、交渉に乗り出して従業員30~50%のリストラと売却を協議中だ。先行きは五里霧中である。以前からずっと「悪い企業」とされてきた会社もある。代理店に製品を売り付けたことが明るみに出て、自社が作る発酵乳乳製品に新型コロナウイルス抑制効果があると主張した南陽乳業がそうだ」

     

    「良い企業」が「悪い企業」に転落する背景として、日本企業には江戸時代から存在した「社是」がないのであろう。社是は、古くさいと思われがちだが、企業文化を表している。就職の際は、こういう文化のある企業へ就職すべきで、ゆめゆめ、初任給の高さに釣られてはならない。サラリーマン経験者としての実感である。

     


    (2)「これら企業もかつては「良い企業」とされた時期があった。「製パン王」と呼ばれる人物が会長を務め(SPC)、わずか3年前には採用を増やし雇用労働部から「大韓民国雇用優秀企業」に選ばれ(プルミル)、家計が苦しい子どもたちのため損失を出してでも特殊粉ミルクを作るとしていた(南陽乳業)会社だった。しかし、それぞれ誤った組織文化、経営陣の能力不足、非道徳的なマーケティングなどが触発した事故で転落した。SPCは40代の労働者の指切断事故、従業員の政府監督計画書無断撮影まで明らかになり、この1カ月間で謝罪文だけ4回出している」

     

    韓国では、社会で同じ過ちが繰り返えされている。喉元過ぎれば熱さを忘れる、だ。これは、韓国朱子学と深く関係している。「自分は偉い」という前提であるから、反省するとか、教訓を得るということはあり得ない。これが、韓国文化の最大の弱点だ。

     

    (3)「いまも、社会的叱責は続き不買運動も激しい。売り上げが10~30%減ったという製品もある。何人かの従業員は「悪い会社のイメージのため外部の人と会いにくい」と訴える。これら企業がいつ再び立ち上がることができるかは未知数だ。一度失った消費者の信頼を再び得るのは容易でないためだ。最近、食品会社の人たちは「いつ私たちもSPCのようになるかと緊張モード」と話す。だが工場で2人1組勤務の原則を守るのか、自動防護装置は設置したのかチェックしたという話は聞かれなかった。実際に事故も絶えない。9カ月前に挟まれ事故が起きた農心では、2日にもまた別の挟まれ事故で労働者が負傷した」

     

    「労災」は、企業の恥である。そういう認識が、韓国企業では希薄なのだろう。賃金の高さだけに関心を持っているから、総合的に企業を見る目が育たないのだ。日本企業の現場では、「労災ゼロ」が合い言葉になっていたことを思い出した。

     

     

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    中国政府は、インフラ投資も不動産企業救済もすべて地方政府へ押し付けている。国家財政の負債を少なく見せかけるための小細工である。地方政府は、こういう中央政府による見栄の犠牲になっている。

     

    地方政府の新たな負担は、不動産企業が建設途上で放棄した工事続行費用の支出である。これまで地方政府は、多額の土地売却益を捻出して地方財政を維持してきた。こういう趣旨から、不動産企業の不始末の面倒を見させているのであろう。だが、地方政府の打ち出の小槌になってきた「融資平台」(金融と建設事業の兼営)も、経営的に限界を超えている。「隠れ債務」が、対GDP比で52%にも達するとの試算が発表されるほどだ。「隠れ債務」とは、中央政府に届けていない債務である。こうして、「融資平台」の発行する債券にデフォルト危機が囁かれ始めている。

     

    『ブルームバーグ』(11月10日付)は、「中国不動産セクターに新たなリスク、地方政府の救済関与強化に懸念も」と題する記事を掲載した。

     

    中国不動産危機の深刻化に伴い、本土債市場の一角、11兆6000元(約234兆円)規模の「地方融資平台」セクターへの圧力が高まっている。国の後押しを受け地方政府が不動産開発会社の救済に乗り出しているためだ。

     

    (1)「今年に入り開発会社に代わり最も多くの土地を購入するようになったのが、地方融資平台、つまり地方政府の資金調達事業体(LGFV)だ。LGFVは今や、中国恒大集団などデフォルト(債務不履行)に陥った開発会社が手掛ける未完成事業の主な買い手となっている。地方当局が、不動産業界への関与を強めつつある現状について、アナリストらは警告を発している」

     

    中国政府は、地方政府による土地収入の「水増し」を規制し始めている。「融資平台」と呼ぶ傘下の投資会社に国有地の使用権を買わせることを禁じた。融資平台が土地購入のために借金を増やすと、地方政府の「隠れ負債」が膨張すると警戒するためだ。債務リスクを抑え込む狙いである。金融危機になりそうな芽を早く摘み取ろうとしている。

     


    (2)「ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、LGFVの信用力が弱まる可能性があると指摘。LGFVのデフォルトは今のところないが、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)はその可能性を排除していない。BEのデータは、最もパフォーマンスの悪いLGFV債の何本かで、平均信用スプレッドが1月中旬からほぼ倍増し10ポイント近くになったことを示している。こうした直接救済と不動産への関与強化は、中国の公的セクターにおける最も弱い部分の健全性に対する新たな懸念を生じさせている。11兆600億元に上るLGFV債は人民元建て社債の約3分の1を占めており、LGFVデフォルトは大混乱を引き起こす可能性がある」

     

    融資平台(LGFV)の発行する債券は今や、デフォルトリスクを恐れられ始めている。問題ありと見られるLGFV債は、すでに下落しており高い流通利回りに陥っている。LGFV債は、人民元建て社債の3割にもなっていることから、LGFV債のデフォルトが危惧されているのだ。

     

    (3)「クレジットサイツのシニアクレジットアナリスト(シンガポール在勤)、ツェリーナ・ツェン氏は、景気下降期に政府はLGFVに頼る必要があるが、「いったん政策の風向きが(悪い方に)変われば、われわれはLGFV公債デフォルトの可能性を排除しない」と述べ、成長が持ち直せば「中国は再び地方政府の債務一掃に焦点を絞る公算が大きい」と予想。その上で、今後6カ月間はデフォルトリスクが高まることはないとの見通しを示した」

     

    市場関係者は、LGFV債のデフォルトリスクを計算に入れ始めている。今後6カ月間は、デフォルトリスクが高まる恐れがあるという。これが現実化すると、「中国経済危機説」が言われるようになろう。

     

    (4)「BEの曲天石、チャン・シュウ両氏は、銀行からの借り入れを含めたLGFVの債務総額を最大60兆元と見積もっている。中国国内総生産(GDP)の約半分に相当し、デフォルトとなれば多大な影響が及ぶというのが2人の見方だ」

     

    ここでも、「融資平台」の抱える債務総額を最大60兆元としている。GDPの約半分と見ている。地価上昇がない限り、これら債務の返済は困難である。中国経済最大の泣き所だ。

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    習近平氏は、念願の国家主席3選を実現させた。その上、最高指導部メンバーは全員、習氏の取り巻き連中である。これまでの中央政治局常務委員会と異なり、反対意見はない。習氏は、胸をなで下ろしているに違いない。

     

    だが、この見方は早すぎるという指摘が出てきた、江沢民派と共産主義青年団(共青団)ががっちりと実務を握っていると指摘する。これから、習派・江沢民派・共青団が権力争いするというのである。現代の「三国志」が始まるのだろう。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月9日付け)は、「文革で学習能力が欠如する習近平ら『一強』体制が、うかうかできない理由とは?」と題する記事を掲載した。筆者は、練乙錚(リアン・イーゼン)氏である。経済学者で香港出身のコラムニスト。

     

    習近平国家主席は、24人の政治局員から反対派を一掃した。現首相の李克強を筆頭とする中国共産主義青年団(共青団)の出身者と、そのシンパと目される人物は排除された。

     

    (1)「それでもまだ「習が全権を握った」と言い切るのは時期尚早だ。なぜか。宿敵の共青団派はまだたくさんいて、おとなしく敗北を認めるとは思えないからだ。共青団は14~28歳の若者を対象とする党内の巨大なエリート養成機関だ。約8000万人が所属しており、ここで優秀な成績を上げれば党員として出世街道を歩める」

     

    共青団派は、8000万人もいる。官僚機構のあらゆるところに配置されている。習近平派は、一握りの派閥だ。

     

    (2)「その対極には、「太子党」と呼ばれる革命第1世代の党指導者たちの子弟がいる。太子たちは共青団を経由しなくても入党できる。彼らから見ると、共青団の人間は傑出した革命家の血筋を引かない「平民」であり、だからこそ若いうちに徹底的な洗脳教育を受ける必要がある。結果、太子党と共青団派は互いをさげすむ間柄となった。貴族のような立場の太子党は相手を執事のように扱い、共青団派は太子党を甘やかされた無能なパラサイトと見なす。そんな関係が、派閥間の対立を醸成することになった」

     

    「太子党」は、習氏の派閥である、習氏の父親は、革命第1世代である。共青団とは、水と油の関係である。

     

    (3)「共青団派は、今度の党大会で「党と国家の指導者(党和国家領導人)」と呼ばれる指導部から締め出された。とはいえ、70人ほどで占める最高幹部の役職(100前後)を除けば、無数にある党や官庁の要職を埋めるのは、結局のところ共青団系の人間になる。習は彼らの復権を阻止したいだろうが、そうすると国家機関のシステムが回らなくなる。一方で、元総書記の江沢民に連なる一派もまだ消滅してはいない。この国に13年も君臨した江は、毛沢東を除けば誰よりも(現時点では習近平よりも)長く総書記として党トップの座にあった。そして鄧小平が始めた改革・開放路線を忠実に引き継いでいた」

     

    江沢民派は、経済界に地盤を持っている。改革・開放路線に忠実だ。習氏は、改革開放政策を棚上げしたが、政敵・江沢民一派を根絶やしにしたいのであろう。だが、中国経済は大きな打撃を被ることを厭わないという壮絶さである。権力闘争のためには手段を選ばないのだろう。

     

    (4)「中国では四半世紀前から、異質な3つの政治勢力が共存している。政権の中枢を占める時の権力者と、それ以外の機関の多くを牛耳る共青団派、そして国有企業以外の経済部門で影響力を持つ江沢民派だ。中国は一党独裁の国家だが、今までは指導部内にもこの3つの勢力が混在し、一定のバランスを保ってきた。互いに牽制し合うから、党内対立も抑制されてきた。ところが習はひたすら自派の勢力拡大を追求し、指導部内で権力を集中させ、この微妙なバランスを崩してしまった。今の中国では、習近平派で固めた党中央と、締め出された共青団派や江沢民派の熾烈な争いが始まっている」

     

    下線部は、重要な点を指摘している。習氏は、太子党一派の利権拡大を目指している。習氏が、「三派鼎立」という安定性を崩した以上、中国は政治的に不安低化すると見ている。

     

    (5)「習自身を含め、今の最高指導部(政治局常務委員会)を構成する7人には重大な欠陥がある。政策の立案と執行に関して、誰にもまともな実績がないのだ。なぜか。問題の根は深い。7人全員が、あの文化大革命の時代に学齢期を迎えていた。1970年代の後半には、こうした世代の多くが(ほとんど読み書きもできないのに)「工農兵学員」として高等教育機関に入学できた」

     

    (6)「失われた学習能力は、ほとんど回復されなかった。習が演説の原稿を読み上げるとき、よく単語の発音を間違えるのはそのせいだ。中国人なら、みんな承知している。読み書きの能力だけでなく、人格形成にも影響があった。この世代は思春期を政治に翻弄された。まともな教育を受けて社会へ出る準備をすべき時期に、「文化大革命」の名の下で残酷さとずる賢さ、道徳的規範の完全無視をたたき込まれた」

     

    最高指導部7人が全員、文化大革命時に学齢期を迎えていた。正規の義務教育を受けていないのだ。一般教養に欠けている反面、権謀術数では秀でている。

     

    (7)「(習一派は)国内で政敵との壮絶な戦いを始めてしまった今、台湾攻めに乗り出せば内側から足を引っ張られる恐れがある。なにしろ共青団派や江沢民派にとって習近平を「台湾解放」の英雄に仕立ててしまうのは自らの墓穴を掘ることに等しい」

     

    習氏が、台湾解放の栄誉を得られるようにさせないとしている。台湾侵攻を妨害するというのだ。さて、どうなるかである。

     

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