勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

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    習近平氏の「合い言葉」は、中国再興である。軍事強国になって、周辺国を屈服させる夢を描いているが、足元の大地は汚染で悲鳴を上げている。強国となる前に、人災によって国土が疲弊し、食糧生産は一段と下がる運命で疲弊する。

     

    元凶は、環境破壊である。経済成長を急ぐ余りに、環境保全を忌避した結果だ。文字通り、「中国の給水塔」とも呼ばれる長江、黄河、澜沧江の発祥の地である「三江源」上流では、確実に砂漠化が進んでいる。これが、中国の生態系状況や経済発展に重要な影響を与えているのだ。

     

    すでに、2020年から中国の食糧輸入量は急増している。大豆の自給率は、15%まで下がったのだ。中華料理に欠かせない大豆油。台湾侵攻による経済封鎖で、大豆輸入はストップする。戦争などしている余裕はないのだ。

     

    『大紀元』(11月5日付け)は、「禿げ山が人工的な緑に覆われ、調査記者 中国共産党の環境破壊を暴露」と題する記事を掲載した。

     

    中国の調査ジャーナリストは、中国本土の環境の悪化は衝撃的で今後、何十年も回復しない可能性もあるという。

     

    (1)「中国政府生態環境部副部長の翟青氏は、党大会中の記者会見で、過去10年間の「習近平と生態文明の思想」の指導の下、中国の生態環境保護が全面的に前進していると述べた。この公式発表について、中国大陸の調査記者・趙蘭健氏は10月23日の大紀元の取材で、中国の大気汚染地下水汚染土壌汚染などはいずれも「衝撃的な水準」にあると指摘した。人々の反公害デモは弾圧され、調査記者は黙殺され、環境部高官だけが虚構を語っている」

     

    生態環境部副部長の翟青氏は、中国が世界で最も早く大気の質を改善した国になったこと、7億7000万人分の飲料水の安全性評価が向上したこと、300種類以上の希少・絶滅危惧野生動物・植物の復元と個体数の増加など、数多くの成果を主張した。だが、現実の中国の環境は劣悪な状態に置かれたままだ。

     

    (2)「趙氏は、中国の長江、黄河、青海、チベット、内モンゴルなどの生態系の状況を10年かけて調査し、略奪的開発モデルが自然環境に与える惨状を目の当たりにしてきたという。2018年、趙氏は青海省南部のチベット高原にある三江源の各地に現地調査に赴き、多くの新しい砂漠の広がりを目の当たりにした。過去の地図と比較すると「この砂漠はここ30年の間に形成されたことがわかった」という。30年前は、墓地や沼地だった。「この砂漠の存在は、少なくとも三江源流域の生態環境が30年前と比べ衝撃的に変化していることを証明している。専門家にも話を聞いたが、三江源流上流の砂漠化が、実は上海や長江水系全体の水不足を引き起こしているとの見方もある」と趙氏は言う」

     

    チベット高原にある中国の水源地「三江源」は、30年間に大きく砂漠化が進んでいる。かつて、墓地や沼地であった場所が砂漠に飲み込まれているのだ。これが、上海や長江水系全体の水不足を引き起こしていると診断する。

     

    (3)「三江源は、文字通り「三江の源」を意味し、長江、黄河、澜沧江の発祥の地である。「中国の給水塔」とも呼ばれ、中国の生態系状況や国家経済の発展に重要な役割を果たしている。「長江や黄河、多くの水系が寸断されるなど、中国の生態環境が悪化していることは、誰の目にも明らかだ」。「水系の断絶は、河川沿いの農業、畜産業、漁業の発展にも影響を与える。したがって、これらの環境問題については、政府のスローガンがいかに優れていても、現実は誰の目にも明らかである」と指摘」

     

    すでに今年、黄河は異常渇水に見舞われた。川底がゴロゴロと露出して、船の運航も止まる事態に見舞われた。これからは、この渇水状態が常態化する危険性も考えられるのだ。

     

    (4)「趙氏の2014年報告書は、衝撃的なテンガ砂漠の汚染を明らかにした。地元の牧童たちは、砂漠の後背地に汚水池が出現し、地元企業が未処理の排水を汚水池に流していることを指摘した。彼の記事と写真はその後、政権によってインターネットから削除された。中国は2014年以降、メディアに対する統制が強化され、調査報道が厳しく弾圧されている。同時に、中国各地で数万人規模の大規模な反汚染デモが相次いで発生したが、いずれも中国共産党の軍と警察によって残酷に弾圧されている。中国の9割の都市の地下水は、企業による汚水の地下深部への排出により汚染されている。ある公益活動家は 「中国ガン村マップ」を作成した。公害のため、全国に数千のガン村があると趙氏は言う」

     

    習政権は、2014年以降に厳しい情報管理を行なっている。中国各地で発生した数万人規模の大規模な反汚染デモは、弾圧されている。事態は隠蔽されているのだ。だが、環境破壊の現実は、必ず結果して違った場所に出てくるもの。異常気象や食糧不足がそれだ。

     

    (5)「趙氏は、「習近平が緑の山河を提唱したが、地方政府は緑の山を復活させることができないでいた。その結果、山の上からプラスチック製の人工植物が何層にも広がって、禿げた山が人工的な緑の山になり、緑の山に緑のインクやペンキを吹き付けたところもたくさんあった」と述べた。彼は、「中国の自然環境全体の破壊、観光資源の破壊、生態資源の破壊は、今後数十年、あるいは数百年の間には回復しないかもしれない」と述べた」

     

    禿げ山にプラスチック製の人工植物を植えて擬装する。まさに、漫画である。この中国が、これから何ごともなく発展できるはずがない。あらゆることで、「因果応報」という合理的な結果は避けられない。「衰退」の二字が、待ち受けているのだ。

     

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    習近平氏の国家主席3期目就任で、台湾侵攻はもはや動かぬ現実として受け止められている。この予想だけでも、中国には莫大な損失である。中国への対外投資の見直しや、中国からの資本引上げなど、台湾侵攻を忌避する動きが顕著であるからだ。 

    習氏は、こういう経済的な損失を覚悟で台湾侵攻へ踏み切るのであろうが、中国経済の実勢悪と重なって、中国にとってプラスになることは一つもない。第一、勝利を得られる保証が何もないのだ。失敗すれば、習氏自身の首が飛ぶリスクを抱える。

    今回の国家主席3期目の実現で、習氏はすべての派閥を排除したことで、深い恨みを買っている。この恨みを晴らす舞台として、台湾侵攻が利用され「習近平打倒」の動きが始まっても不思議はなさそうだ。国内事情から、台湾侵攻をけしかける勢力が登場する可能性もある。習氏には、まさに自分の首を賭けた決断になりそう。大博打である。習氏に、戦争回避の仕組みのないことが気懸りだ。 

    『ブルームバーグ』(11月4日付)は、「米中対立、中間選挙後に激化か タカ派的な見方一色に懸念も」と題する記事を掲載した。 

    中国に対するタカ派的な見方一色になりつつあるのが今のワシントンだ。中国の振る舞いについてハト派な見方をしてはいないものの、米国側のロジックに懐疑的な中国専門家もいるが、極めて少数派だ 

    (1)「米中関係が悪化する中で、中国共産党の習近平総書記(国家主席)は異例の3期目入りを果たし、バイデン政権は新たな半導体輸出規制や中国による台湾侵略があり得るとの警告などあらゆる面で厳しい対中アプローチを続けている。元政府当局者やバイデン政権と定期的に話をする機会のあるアナリストらが匿名を条件に明らかにしたところによれば、台湾への軍事侵攻の可能性といった詰めの甘い議論を含め中国は脅威だという見方を一段と強めている米国のスタンスを懸念しているトップクラスの中国専門家もいる」 

    米国は、与野党を問わずに「反中国」で燃え上がっている。これは、危険だという指摘である。そのためにも、米中首脳が直接話し合う機会を増やすことは必要だ。誤解から、戦争を始める愚を防がなければならない。

     

    (2)「反中色が強まるワシントンのコンセンサスを支持する人々とは異なり、一部の専門家は好戦的な言葉を発する中国について、領土の一部と見なす台湾を武力で制圧する準備ができているとは考えていない。中国の台湾を巡る主張と「祖国統一」の誓いは何年も前から実質的に変わりないとの見方だ。こうした専門家はバイデン大統領が採るアプローチの一端を称賛するが、米中という世界1、2位の超大国が危機や紛争を早める可能性のある非難と報復的行為のサイクルに陥っていることに懸念を抱いていると話す」 

    冷静に考えれば、覇権を狙う中国とそれを守ろうとする米国との争いである。どちらに、問題があるかと言えば、覇権を奪い取ろうとする中国だ。中国が戦争を回避したければ、それなりの工夫があって当然。現状では、米国へ喧嘩を売っている構図である。 

    特に、習氏は自己の栄達と結び付けているところが事態を複雑にしている。習氏が、自己のメリットを考えないとすれば、国家主席3期を目指すことはなかった筈。こう考えると、問題の元凶は習氏にあると言えよう。ここが、国内の反習近平派によって台湾侵攻を利用し、習氏打倒に立ち上がるチャンスと見るかも知れない。

     

    (3)「米国防総合大学中国軍事問題研究センターのジョエル・ウスナウ上級研究員によれば、一部の米軍幹部が公にした中国が2027年までに台湾を占領するために動き出すかもしれないとの観測は、中国人民解放軍の創建100周年に当たる同年に中国が設定している軍現代化に関する内部目標に基づいているか、そうした攻撃に対抗するため米軍はすぐに準備する必要があるとのストラテジストらの懸念によるものだ。「あたかも中国共産党にとってある種の政治的タイムラインであるかのように、人々は『27年』にとりつかれている。私は事実誤認だと思う」と説明。「これは準備・用意についであり、『決定が下され、27年にこれを行う』ということではない」と論じた」 

    27年までに侵攻するかどうか、時間の問題は別として、侵攻する可能性は高い。なぜなら、国家主席3期就任は、台湾侵攻が条件であるからだ。

     

    (4)「台湾への関与を強める米国こそが、現状変更を試みているというのが中国側の見解だ。ワシントンにある在米中国大使館のナンバー3、井泉公使は2日、中国政府に台湾との統一に関する時間軸はなく、「武力行使を望んでいない」と中米関係研究所(ICAS)で講演。「5年もしくは10年以内だとか2035年、49年について話す人もいるが、私はそうは思わない」と述べ、「できるだけ早く台湾との統一を果たしたいが、タイムテーブルはない」と主張した」 

    中国公使の発言を額面通り受け取るのは、余りにも「初心」であろう。プーチン氏の発言を100%信じると同じことである。

     

    (5)「中国は、オバマ政権時代に南シナ海に人工島を造成し軍事拠点化。米政府や人権専門家は、中国がイスラム教徒の多く住む新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)を行っているとみている。香港に高度な自治を保障していた「一国二制度」を習政権が骨抜きにしたことも、米国側の厳しい対中認識形成の原因だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラムディレクター、M・テイラー・フラベル氏は、「米中関係が改善されると思えない。両国の関係がどれだけ悪化するか、その関係が競争から敵対的対立に変わるかだけの問題だ」と語った」 

    独裁国の発言は、それなりに割引かなければならない。ロシアのウクライナ侵攻の例もある。米国が、中国へ対抗しようとするのは当然。用心こそが、悲劇を未然に防ぐ手段であるからだ。

     

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    韓国から伝わる日々の経済情報は、陰鬱なものばかりである。来年の輸出増加率は「ゼロ%」と、IMFが予測しているほど。経済成長率は落込む。一方では、韓国銀行が消費者物価高騰抑制で、11月に再び0.5%の利上げが予想されるのだ。

     

    こういう最悪状態では、来年の新規雇用に大きな影響が出るとの予測が発表された。それによると、来年は今年の9割減という信じ難い状況になりそうだという。この裏には、終身雇用制と年功序列制が、労働力流動化を阻害している事実がある。「労働貴族」の強い要求で、こういう時代遅れの労働慣行が強化されている。

     

    終身雇用制と年功序列制という岩盤では、企業は雇用を増やせないのだ。解雇が流動的でないことは、雇用にも臆病にならざるを得ない。そうではなくて、必要な時に必要な雇用を確保する。それは、労働者の使い捨てでなく、労働者に雇用先選択の機会を増やす意味でプラスになる筈だ。韓国では、この理屈がどうにも理解されずに、若者へ失業という形でしわ寄せが行っている。

     

    『中央日報』(11月4日付)は、「韓国、憂うつな来年の『就職気象図』 KDI『新しい雇用80万→8万件』」と題する記事を掲載した。

     

    来年増加予定の雇用が8万個水準にとどまるという見通しが出ている。今年80万人に迫る就業者数の増加幅が来年には10分の1に減るという診断だ。

     

    (1)「3日、韓国開発研究院(KDI)は「最近の就業者数増加傾向に対する評価および今後の見通し」報告書でこのように明らかにした。コロナ禍の影響、ロシア・ウクライナ戦争、米国など主要国の政策金利の引き上げで景気鈍化が続いているが、最近の雇用市場は異例の好況を享受している。統計庁の発表によると、9月の就業者数は前年比70万7000人増えた。失業率は2.4%で、1年前より0.3%ポイント低かった」

     

    韓国の失業率が下がったのは、コロナ禍で退職した人々の「後釜」を雇用したからだ。問題は、終身雇用制ゆえに、来年の雇用数は減るという事態だ。何か、指定席の切符が売り切れたから、後の人は入場できませんという話である。

     

    一見、もっともらしく聞えるが、「指定席」(終身雇用制)という認識そのものが間違えている。労働市場の流動化で「入れ換え」が可能になれば、企業は試験的に新規雇用を増やしたいところも出て来る。それが、社会のダイナミズムというものだ。

     

    (2)「今回の研究を進めたKDIのキム・ジヨン研究委員は、「過去の経済危機に比べても最近の雇用回復傾向は異例に高い水準」とし、「韓国の労働市場だけで見られる現象ではない。米国など主要国でも失業率が過去最低水準を記録するなど景気状況と乖離した堅固な労働市場が維持されている」と話した。理由は様々だ。まず、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の流行、ソーシャルディスタンスによって2020~2021年に雇用が減ったことによる基底効果(比較対象数値が過度に低かったりして現れる統計錯視)が大きい」

     

    このパラグラフは、終身雇用制を擁護するための「言い訳」に過ぎない。これでは、雇用を増やすことによる経済成長は期待できない。働きたい人に雇用先を用意する。それが、成長する社会の神髄であろう。それは、労働市場の流動化にほかならない。

     

    (3)「キム研究委員は、「最近雇用拡大に最も大きく寄与した業種は専門・科学および技術サービス業、運輸および倉庫業、保健業および社会福祉サービス業など保健危機が引き起こした構造的な変化と関係が深い業種」と指摘した。だが、このような「成長なき雇用」も終わりに向かっている。KDIは今年79万1000人(見通し)の就業者数の増加幅が来年8万4000人に縮小されると予想した。今年の新規就業者数が多かったことによる基底効果に人口要因まで加わっている」

     

    このパラグラフは、「終身雇用制で欠員が出たから、今年は穴埋めをしたので、来年の雇用は減る」と言っているに等しい。余りにも、役所仕事の言分である。これでは、若者は救われない。雇用増は、労働市場の流動化によって可能になるのだ。

     

    (4)「これまでは人口が着実に増え、全体の経済活動人口数も増加してきた。しかし、少子高齢化で若年層人口が急速に減り、全体就業者数にも影響を及ぼし始めた。人口構造の変化は来年の就業者数を1万8000人減少させる影響を与えるものとKDIは観測した。キム研究委員は「人口構造の変化が就業者数にマイナス影響を及ぼすのは来年が初めて」と話した」

     

    韓国は、伝統的に誤解している。少子高齢化で若者が減ったから就業者が減って当然という認識だ。確かに、生産年齢人口(15~64歳)の減少は、潜在成長率低下をもたらすが、経済政策で就業者を増やせるのだ。日本がその例である。労働市場を流動化して、いつでも働ける機会ができれば、雇用側も容易に求人できる体制ができる。それが、結果的に失業者を増やさない秘訣である。韓国は、終身雇用制という石頭から脱却すべきである。

     

     

     

     

    あじさいのたまご
       

    中国経済は、重大局面に向かっている。GDPの25%以上を占める不動産開発企業が、今や身動きできない事態へ追込まれたからだ。香港上場の中国不動産開発企業の14社以上で、監査企業が職務を降りる状態になっている。

     

    世界の金融市場では、「チャイナラン」という言葉が交わされている。チャイナ+バンクラン(銀行取り付け)の合成語である。つまり、中国が世界金融市場の時限爆弾になっていることを意味している。これまでの中国は、「世界の工場」と言われたが、その面影はすでに消えている。これに代わって、「チャイナラン」という不名誉な形容詞が使われているのだ。

     

    『ロイター』(11月2日付)は、「中国不動産会社の監査役が相次ぎ撤退、企業統治に懸念強まる」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「香港に上場している中国の不動産会社は、少なくとも14社の監査法人が今年に入って監査役を外れたことが、証券取引所に提出された資料で明らかになった。長期にわたり決算を発表していない企業が数社含まれており、企業統治(ガバナンス)を巡る懸念が強まった。14社には資金繰り難に陥っている融創中国、世茂集団、佳兆業集団が含まれる。多くの場合、4大監査法人以外の会計事務所が代役を頼まれた」

     

    監査法人の辞任は、よほどの事情がない限り起こり得ないことだ。監査法人は、会計処理を巡って企業側と意見が合わない場合、責任のある監査ができないことを理由に辞任するケースはある。企業業績が、極めて悪いことを示唆しているのだ。

     

    中国の不動産企業で監査法人辞任が、二桁に上がっていることは、不動産業界が危機的状態にあることの証明である。事実、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の郭樹清主席は11月2日、一部の大手不動産会社の債務リスクが突出していると指摘した。また、一部地元金融機関のリスク管理能力が低いとの認識を示した。まさに、「バンクラン」の恐れが強いことを示している。

     

    政府が、こういう事態を把握しながら、何らの対策も取らずにいることは、手が付けられない事態に陥っていることを示している。

     

    (2)「監査役の撤退は今年に入って加速しており、「ビッグ4」の一角を占めるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)とデロイトも監査役を外れた。アナリストや香港の監査監督当局はこの傾向について、透明性とガバナンスの問題を浮き彫りにしていると指摘。決算発表の直前に監査役を外れるケースが多い点に注目すべきだとした」

     

    監査法人の「ビック4」に数えられているPwCとデトロイトが、監査法人を辞任している。監査監督当局は、この状態を危惧しているがどうにも手を付けられないというもどかしさを示している。

     

    (3)「香港の監査当局は先週、関係企業への公開書簡で、決算発表期直前の監査役交代によって監査の質が損なわれることに懸念を強めていると表明していた。S&Pグローバル・レーティングのディレクター、エドワード・チャン氏は、不動産会社の多くは既に債務返済に苦戦しているとし、新たな監査役が決算発表で何を公表するかに市場は注目していると述べた」

     

    決算発表直前の監査法人交代は、辞任する監査法人が企業に対してアドバイスする決算をしないことへの抗議である。「この決算では、会計的に適正な処理が行なわれた」と承認できないから、監査法人を辞任するという意味である。

     

    中国で優良不動産企業として、政府のお墨付きが出た旭輝控股集団(CIFIホールディングス・グループ)は、10月中旬にデフォルトする羽目に陥った。これは、市場に大きな衝撃を与えている。

     

    CIFIのデフォルトが注目されるのは、前記のように政府から直接支援する価値があると判断されたわずかな民間デベロッパーの一つであるからだ。近年、苦境に陥っている中国恒大集団など巨額の債務を抱えたデベロッパーとは別格とされてきた。CIFIと他の数社の民間デベロッパーは今年、国有会社の中債信用増進投資公司の全額保証による人民元建て債券の発行を許可された。懸念されるのは、こうしたCIFIなどの企業でも問題が起きるのであれば、おそらくどこも安全ではないということだ。事態は、ここまで悪化している。もはや救いはないのだ。

     

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    韓国の対外信用リスク(CDS)が、5年ぶりに高い数値になっている。韓国の国債の格付けは、財政赤字が少ないことを理由に、日本よりも2段階上のランクである。だが、昨今のウォン急落や貿易収支が7ヶ月連続赤字などを嫌気され、CDSは日本の2倍強という高さに跳ね上がっている。

     

    韓国紙『東亜日報』(11月2日付)は、「金融ひっ迫で韓国の対外信用リスクが5年ぶり高水準」と題する記事を掲載した。 

    韓国国内外の悪材料が重なり、韓国の対外信用リスクが5年ぶりの高水準を示した。

     

    (1)「11月1日、国際金融センターによると、韓国政府が発行する外国為替平衡基金債券(外平債)の5年物のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のプレミアムは、10月31日、前日より0.040%ポイント高の0.700%ポイントだった。米国と北朝鮮の対立で戦争危機が高まった2017年11月14日(0.707%)以来、最も高い水準だ。CDSとは、不渡り発生時に債権および融資の元利金を失うリスクに備えた信用派生商品だ。通常、国家経済のリスクが上がれば、国債CDSのプレミアムも上がる」 

    CDSは、債務不履行にともなうリスクを対象にした金融派生商品。対象となる発行体が破綻し、金融債権や社債などの支払いができなくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取る仕組みだ。保険のようなものだ。 

    韓国のCDSが跳ね上がっているのは、破綻リスクが高くなっているという意味だ。決して、褒められたことではない。

     

    (2)「韓国外平債の5年物CDSのプレミアムは、日本国債(0.310%ポイント)との格差が2倍以上に広がっている。国際格付け会社ムーディーズとフィッチが算定した韓国の国家信用格付けはAAで、日本(A+)より2ランク高いが、国家不渡りのリスクはさらに高いと評価されたのだ。韓国より信用格付けが2ランク高いドイツ(AAA)の国債CDSのプレミアムは、現在0.270%水準だ」 

    韓国外平債の5年物CDSのプレミアムは、.700%ポイントである。日本国債の0.310%ポイントの2.25倍である。日本はゼロ金利を貫き円安に見舞われているが、それでもCDSは、韓国よりも格段に低く安定している。日本の総合国力を評価した結果であろう。この数値を見ると、韓国が日本を抜いたなどと、口が裂けても言えなくなろう。

     

    (3)「最近、「レゴランド事態」が引き金となった金融市場のひっ迫と共に、韓国経済のファンダメンタル(基礎体力)の弱化をめぐる懸念も、韓国国内CDSプレミアム高騰の原因となった。同日発表された10月の輸出入動向によると、輸出は2年ぶりにマイナス成長し、貿易収支は25年ぶりに7ヵ月連続で赤字を出した。国内代表企業の三星(サムスン)電子のCDSプレミアムも0.678%ポイントで、年明け(0.215%ポイント)の3倍水準に高騰した」 

    サムスンのCDSプレミアムも、0.678%ポイントと高くなっている。13兆円の現預金を持っていても、半導体市況の急落という背景によって跳ね上がっているのだろう。それでも、韓国外平債の5年物CDSのプレミアム.700%ポインを下回っている。サムスンの方が、韓国政府よりも安全という皮肉な結果だ。

     

    (4)「ハイ投資証券のパク・サンヒョン研究員は、「かつても経常収支が悪化する時点で、常に信用収縮現象が伴った」とし、「中国の習近平国家主席の3期目続投にともなう世界資本市場の『チャイナラン』(中国回避=チャイナとバンクランの合成語)も、国内信用リスクを高める要因だ」と分析した」
    世界資本市場では、「チャイナラン」(中国回避)という言葉が使われている。中国も落ち目になったものだ。とても、世界覇権を狙う資格はなさそうだ。2049年に世界覇権を目指すとは、お笑い種である。 

    韓国の企業金融の混乱は酷いものだ。企業が、借入でノンバンクへ殺到している。韓国経済の弱点は、金融構造の脆弱性にあることは間違いない。

     

    『東亜日報』(11月1日付)は、「銀行からの融資が大変になるとノンバンクに ノンバンクからの融資が30%に迫る」と題する記事を掲載した。

    企業融資額の中でノンバンク預金取扱機関(ノンバンク機関)から受けた融資の割合が30%に迫り、2009年のグローバル金融危機後最高値を記録したことが分かった。銀行からお金を借りにくい企業が、相対的に金利の高い相互貯蓄銀行など、ノンバンク機関に対する依存度を高めている。

     

    (5)「特に景気萎縮に脆弱な不動産業と卸・小売業、宿泊飲食業で融資を相対的に多く受けていることが明らかになり、不良のリスクがより一層高いことが把握された。31日、全国経済人連合会(全経)が韓国銀行の分析結果によると、新型コロナウイルス感染症以降、企業の預金銀行とノンバンク機関を通じた融資は共に大きく増え、相対的に金利が高いノンバンク機関の融資の増加率が特に2倍以上高いことが分かった。ノンバンク機関とは、銀行ではないが、預金を担当する金融機関で、相互貯蓄銀行や信用協同組合、セマウル金庫などが該当する。9月基準の融資金利は、預金銀行が4.7%、相互貯蓄銀行は8.0%だった」

    日本のゼロ金利から見ると、ウソのような高金利である。9月基準の融資金利が、預金銀行(普通銀行)が4.7%、相互貯蓄銀行は8.0%である。これだけの金利を払って事業を行なうには、相当に高い粗利益を出さないと経営できないであろう。

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