中国経済は、右を向いても左を向いても暗い話ばかりである。上海市の2ヶ月近いロックダウン(都市封鎖)が、中国GDPの2割を占める長江経済圏を麻痺させているからだ。こうして、4~6月期のGDPはマイナス成長に転落する予想が出始めている。
中国は、こうした状況下で民間テクノロジー企業に対する規制を緩和する方向に動き出している。その象徴的な話が、ネット企業の海外上場許可への動きである。配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)は、当局の指導を受けて米国上場の廃止手続きを進めるなど、ネット企業の海外上場は難しくなっていた。それが、一転して許可されるというのだ。
こういう「逆転劇」の裏には、李首相の粘り強い習氏への説得があったと見られている。李氏は4月、視察先の江西省で電子商取引(eコマース)企業が集積する産業パークを訪れた。eコマース業界は、ハイテク企業への弾圧に加え、制約のない自由市場主義的な行動を「無秩序な資本の拡大」として罰した習氏によって深刻な打撃を受けている。李氏は業界幹部や従業員を前に、「プラットフォーム経済」の活性化と起業家精神の促進を確約した。イベントの様子をとらえた動画によると、李氏は喝采する聴衆に向かって「プラットフォーム経済を支援する」「起業家を支援する」と訴えている。プラットフォーム経済とは、アリババグループなどネット関連のビジネスを指す。以上は,米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)が報じた。
『日本経済新聞 電子版』(5月17日付)は、「中国、ネット企業の海外上場容認へ転換 副首相『支持』」と題する記事を掲載した。
習近平指導部は中国のネット企業の海外上場を容認する方向に転換する。配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)が当局の指導を受けて米国上場の廃止手続きを進めるなどネット企業の海外上場は難しくなっていた。新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策で経済状況が悪化しているため、ネット大手の活性化でテコ入れをめざす。
(1)「中国国営中央テレビ(CCTV)のニュースサイトなどによると、中国の国政助言機関である全国政治協商会議(政協)が17日、デジタル経済の健全な発展の推進をテーマとする会議を開き、劉鶴(リュウ・ハァ)副首相が「プラットフォーマーの経済、民営企業の健全な発展、デジタル企業の国内外の資本市場での上場を支持する」と述べた。中国共産党は4月下旬に開いた中央政治局会議で、プラットフォーマーと呼ばれるネット大手が手がける経済について、健全な発展を促進するとの方針を確認した。今回のネット企業の海外上場を容認する方針への転換は具体的な進展とみられる」
習氏は、民間資本に対して強い不信感を抱いている。そのため、習氏がこういう決定を承認することは、中国経済が極めて厳しい局面にあることを覗わせている。昨年決めたネット企業への抑圧を、緩和するのは習氏の「敗北」を意味するからだ。
(2)「習指導部のネット大手に対する統制は、2020年11月にアリババ集団傘下の金融会社アント・グループの上場延期で始まった。アリババに対しても独占禁止法違反にあたる行為があったとして過去最高額の罰金も科した。ネット統制の法整備も進めた。「ゼロコロナ」政策などで中国経済への逆風は強まっている。海外上場容認への転換に続いて、習指導部がどのようなネット企業の活力を引き出す政策を打ち出すのかに注目が集まる」
李首相の影響力が、足元で高まっていることは確かだ。米クレアモント・マッケナ大学の裴敏欣政治学教授が中国国営メディアの報道を分析したところ、李氏が2021年に新聞の見出しを飾った回数は前年比で15回増えており、22年初頭のトレンドが続けば、通年では前年比でおよそ倍になる見通しだという。
同教授によると、21年以前の李氏は「実質的に存在していなかった」。だが、今では「日増しに良くなっている」とし、「習は根底では左派的な思想を持っているが、経済については戦術的な譲歩が必要だ」と述べる。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)から引用した。