中国は、世界最大の自動車市場である。世界の自動車メーカーは、こぞって中国へ進出している。自動車工場の集中する上海市は、3月末からコロナによるロックダウン(都市封鎖)に直撃された。こうして、サプライチェーンは、大混乱を来たす羽目になった。自動車工場の多い長春市も、2月からロックダウン中である。
問題は、工場の操業ストップだけでないことだ。高速道路を運転するドライバーは、感染予防で上海市内へ入れず、運転台で何日も過ごさざるを得ないという悲喜劇を生んでいる。有効なコロナワクチンがあれば、こんな漫画のような情景を見せないで済んだであろう。
『ロイター』(4月13日付)は、「中国『ゼロコロナ』、世界の自動車メーカーに試練」と題するコラムを掲載した。
中国当局が引き続きゼロコロナ政策に熱を上げているため、世界の主要自動車メーカーは「低速運転」を強いられている。新型コロナウイルスのオミクロン株に対する中国の厳しいロックダウン(都市封鎖)導入によってサプライチェーン(供給網)は動きが止まる一方、ウクライナの戦争が原材料コストを押し上げている。この状況を見ると、自動車業界は今年、2020年以上に厳しい局面に陥りかねない。
(1)「現在の中国は、自動車メーカーにとってかつてないほど重要な存在になった。当初は新型コロナウイルスの封じ込めに成功し、事業を急拡大できたからだ。データストリームによると、昨年6月末までの1年間の中国の自動車輸出額は、パンデミック前から倍増して約350億ドルに達した。自動車部品輸出額も40%強増え、750億ドルを超えた。多くのブランドやサプライヤーは中国工場を利用し、同国内と海外双方の需要を満たしてきた」
2年前の武漢で発症したコロナは、2ヶ月以上かけて沈静化した。これにより、中国政府はロックダウンが最良の道と錯覚し、ついに今回の上海市での「大感染」を招いた。ろくに効かない中国製ワクチンにも関わらず、欧米製ワクチンmRNAワクチンを導入せず、今回の事態を引き起したのである。その意味で、自業自得の面が強い。
(2)「代表例となったのは、米電気自動車(EV)大手・テスラ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の肝いりで設立された上海工場での生産が始まったのはパンデミック発生直前で、昨年になって年間生産能力を50万台弱まで高めた。その結果、同社の中国国内販売を2倍に拡大することができた。ところが、現在の中国当局は新型コロナウイルスを徹底的に抑え込むと約束しており、全てのメーカーがリスクにさらされている。感染力の高いオミクロン株向けの対策は、2020年当時よりも厳しくする必要があるためだ」
テスラは、4月一杯の操業停止を予定している。このほか、上海にあるフォルクスワーゲン(VW)の合弁工場も、3月に稼働が止まった。VWとトヨタ自動車がそれぞれ長春に展開している合弁工場は、3月半ばから止まっている。
有効なワクチンと治療薬があれば、難なく乗り越えられる「オミクロン株」である。それが、これだけの大騒ぎになったのは、ひとえに防疫体制の未熟さにある。「ゼロコロナ政策」は、原始的防疫方法なのだ。
(3)「実際、テスラの上海工場は少なくとも2週間は閉鎖されている。大手のフォルクススワーゲン(VW)から新興の上海蔚来汽車(NIO)まで、ライバル勢も生産を停止中。オミクロン株が出現した昨年11月以降、テスラの株価は20%、ゼネラル・モーターズ(GM)とVWの株価はともに25%以上も下落した」
中国株全般が、ロシアのウクライナ侵攻との連想で売り込まれた。中国株にはそれだけ、「国家リスク」の存在を証明したのである。いつ何時、何が起こるのか分らないのが、権威主義国家の潜在的リスクとして認識されたのである。
(4)「逆風はこれだけではない。上海は中国屈指の経済都市で、昨年の総生産額は約6800億ドルと、ほぼポーランドの国内総生産(GDP)に匹敵する。そこでも厳しい感染対策を打ち出したということから、当局が許容できない経済的な痛みの限界点が相当高いと分かる。つまり広州、吉林、深圳といった他の製造拠点も当面は、コロナとの共生ではなくロックダウンが選択される公算がずっと大きい。中国の自動車販売も陰りが見え始め、2月は前年比18.7%増だったが、3月は11.7%減となった」
中国が、なぜ「ウイズコロナ」を採用せず、「ゼロコロナ」に固執してきたか。それは、医療体制が先進国に比べて、数段も劣る結果である。例えば、モルガン・スタンレーの分析では、中国の2021年における集中治療室(ICU)の病床数は住民10万人当たりわずか4.4床にとどまる。これに対し、韓国と英国は約11床、米国は26床だ。これでは、ひとたびコロナが感染すれば、手の施しようがなくなる。現在、この状況に追い込まれているのだ。
ならば、「ゼロコロナ政策」でなく、欧米の効くワクチンを導入し、完璧な防疫体制を敷くべきであった。それを怠ったのである。中国は国民の手前、医療面で先進国並という見栄を張った。現在、その報いを受けていると言うべきだろう。
自動部品のコストが、ウクライナ戦争の影響で高騰している。ゼロコロナで生産ストップの上に、部品コストの高騰が加われば、企業にとって収益的に一段と苦しくなる。自動車需要減が、これに追い打ちをかけるのだ。