勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、世界最大の自動車市場である。世界の自動車メーカーは、こぞって中国へ進出している。自動車工場の集中する上海市は、3月末からコロナによるロックダウン(都市封鎖)に直撃された。こうして、サプライチェーンは、大混乱を来たす羽目になった。自動車工場の多い長春市も、2月からロックダウン中である。

     

    問題は、工場の操業ストップだけでないことだ。高速道路を運転するドライバーは、感染予防で上海市内へ入れず、運転台で何日も過ごさざるを得ないという悲喜劇を生んでいる。有効なコロナワクチンがあれば、こんな漫画のような情景を見せないで済んだであろう。

     


    『ロイター』(4月13日付)は、「
    中国『ゼロコロナ』、世界の自動車メーカーに試練」と題するコラムを掲載した。

     

    中国当局が引き続きゼロコロナ政策に熱を上げているため、世界の主要自動車メーカーは「低速運転」を強いられている。新型コロナウイルスのオミクロン株に対する中国の厳しいロックダウン(都市封鎖)導入によってサプライチェーン(供給網)は動きが止まる一方、ウクライナの戦争が原材料コストを押し上げている。この状況を見ると、自動車業界は今年、2020年以上に厳しい局面に陥りかねない。

     

    (1)「現在の中国は、自動車メーカーにとってかつてないほど重要な存在になった。当初は新型コロナウイルスの封じ込めに成功し、事業を急拡大できたからだ。データストリームによると、昨年6月末までの1年間の中国の自動車輸出額は、パンデミック前から倍増して約350億ドルに達した。自動車部品輸出額も40%強増え、750億ドルを超えた。多くのブランドやサプライヤーは中国工場を利用し、同国内と海外双方の需要を満たしてきた」

     


    2年前の武漢で発症したコロナは、2ヶ月以上かけて沈静化した。これにより、中国政府はロックダウンが最良の道と錯覚し、ついに今回の上海市での「大感染」を招いた。ろくに効かない中国製ワクチンにも関わらず、欧米製ワクチンmRNAワクチンを導入せず、今回の事態を引き起したのである。その意味で、自業自得の面が強い。

     

    (2)「代表例となったのは、米電気自動車(EV)大手・テスラ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の肝いりで設立された上海工場での生産が始まったのはパンデミック発生直前で、昨年になって年間生産能力を50万台弱まで高めた。その結果、同社の中国国内販売を2倍に拡大することができた。ところが、現在の中国当局は新型コロナウイルスを徹底的に抑え込むと約束しており、全てのメーカーがリスクにさらされている。感染力の高いオミクロン株向けの対策は、2020年当時よりも厳しくする必要があるためだ」

     

    テスラは、4月一杯の操業停止を予定している。このほか、上海にあるフォルクスワーゲン(VW)の合弁工場も、3月に稼働が止まった。VWとトヨタ自動車がそれぞれ長春に展開している合弁工場は、3月半ばから止まっている。

     


    有効なワクチンと治療薬があれば、難なく乗り越えられる「オミクロン株」である。それが、これだけの大騒ぎになったのは、ひとえに防疫体制の未熟さにある。「ゼロコロナ政策」は、原始的防疫方法なのだ。

     

    (3)「実際、テスラの上海工場は少なくとも2週間は閉鎖されている。大手のフォルクススワーゲン(VW)から新興の上海蔚来汽車(NIO)まで、ライバル勢も生産を停止中。オミクロン株が出現した昨年11月以降、テスラの株価は20%、ゼネラル・モーターズ(GM)とVWの株価はともに25%以上も下落した」

     

    中国株全般が、ロシアのウクライナ侵攻との連想で売り込まれた。中国株にはそれだけ、「国家リスク」の存在を証明したのである。いつ何時、何が起こるのか分らないのが、権威主義国家の潜在的リスクとして認識されたのである。

     


    (4)「逆風はこれだけではない。上海は中国屈指の経済都市で、昨年の総生産額は約6800億ドルと、ほぼポーランドの国内総生産(GDP)に匹敵する。そこでも厳しい感染対策を打ち出したということから、当局が許容できない経済的な痛みの限界点が相当高いと分かる。つまり広州、吉林、深圳といった他の製造拠点も当面は、コロナとの共生ではなくロックダウンが選択される公算がずっと大きい。中国の自動車販売も陰りが見え始め、2月は前年比18.7%増だったが、3月は11.7%減となった」

     

    中国が、なぜ「ウイズコロナ」を採用せず、「ゼロコロナ」に固執してきたか。それは、医療体制が先進国に比べて、数段も劣る結果である。例えば、モルガン・スタンレーの分析では、中国の2021年における集中治療室(ICU)の病床数は住民10万人当たりわずか4.4床にとどまる。これに対し、韓国と英国は約11床、米国は26床だ。これでは、ひとたびコロナが感染すれば、手の施しようがなくなる。現在、この状況に追い込まれているのだ。

     


    ならば、「ゼロコロナ政策」でなく、欧米の効くワクチンを導入し、完璧な防疫体制を敷くべきであった。それを怠ったのである。中国は国民の手前、医療面で先進国並という見栄を張った。現在、その報いを受けていると言うべきだろう。

     (5)「ウクライナで起きた戦争により、人々の生活全般も苦しくなった。自動車メーカーは既に、半導体など重要部品の不足や原材料価格高騰にもがいている。例えば、バーンスタインによると、バッテリーの製造コストは最大で20%跳ね上がった。自動車メーカーからすると、今年は20年に負けないほど「アナス・ホリビリス(ひどい年)」になるのではないだろうか」

     

    自動部品のコストが、ウクライナ戦争の影響で高騰している。ゼロコロナで生産ストップの上に、部品コストの高騰が加われば、企業にとって収益的に一段と苦しくなる。自動車需要減が、これに追い打ちをかけるのだ。

     

     

     

     

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    習近平氏が、国家主席3選を狙うために、習氏の「無謬性」を証明し続けなければならない。習氏が、絶対に間違いのないことを国民に示すには、コロナ感染を阻止する上で、「ロックダウン」(都市封鎖)が不可欠としなければならない。

     

    上海市民は今、その犠牲にされている。上海市で1週間ロックダウンを行なえば、3兆7400億円の損失になるという試算が出てきた。上海は、中国経済の要である。その核を封鎖している。なんとも不思議な事態を迎えたのだ。習氏にとっては、自らの権力基盤を固める「必要コスト」である。

     


    英『BBC』(4月13日付)は、「上海のコロナ対策、ソフト路線をなぜ転換したのか」と題する記事を掲載した。

     

    上海がこのような厳しい制限措置を実施したのは初めてだ。先月までは、中国の他都市に比べて緩やかな対策を取っていた。市民らは自宅にとどまるよう指示されている。多くの人は食料や水を注文して買っており、野菜、肉、卵は政府の支給が届くのを待っている

    ソーシャルメディアに投稿された動画には、食料が不足し医療品の供給も不十分だとして、住民らが怒りの声を上げている様子が映っている。

     

    (1)「上海の対策が国内の他都市と違った主な理由は、中国経済にとって上海が重要だからだ。上海は中国の国内総生産(GDP)の3%超を生み出している。2018年以降は、中国の全貿易の1割を占めている。現地メディアの『財新』によると、上海の空港はパンデミック初期に、需要が高まった防護具や医薬品の半分近くの受け入れ拠点となってきた。上海浦東国際空港の国際貨物は2020年、340万トンに上った。北京、広州、深圳の空港を合わせたより100万トン多い」

     

    上海は、中国経済の核である。ここが、ロックダウンされれば、中国経済が「呼吸停止」と同じ反作用が起こる。その予防策が、無能なロックダウンであった。

     

    (2)「香港中文大学の研究によると、北京や上海のような巨大都市が2週間ロックダウンされると、中国の月間GDPが2%失われる可能性があるという中国の昨年の月間GDPは、平均9兆5000億元(約187兆円円)だった。つまり、ロックダウンが続く限り、1週間ごとに約1900億元ずつ失われていくことになる」

     

    ロックダウンを行なえば、1週間ごとに約1900億元(3兆7400億円)ずつ失われる勘定である。上海が4週間のロックダウンであれば、約15兆円の損失になる。その有効な備えであるワクチンがなかったのだ。

     


    (3)「ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のマーティン・ヒバード教授は、上海で取られている厳しい措置が、オミクロンのように感染力が高い変異株の流行対策としては不十分かもしれないと見ている。新型ウイルスの影響を軽減するには、すべての人々、「特に高リスクの人々へのワクチン接種」の奨励を最優先すべきだと話す。中国はこれまで、新型ウイルスのワクチンを110億回以上接種しており、全人口の86%超が接種済みとなっている。だが、年齢別で最もハイリスクの80歳以上の人々は、他の年齢層より接種済みの割合がかなり低いままになっている」

     

    有効なワクチンこそ、ロックダウンに変わる有効な予防策である。中国は、その点で大きな抜かりがあった。効かない中国製ワクチンに拘り、欧米製のmRNAワクチンを導入しなかったのだ。間違った民族主義による国産ワクチン重視に陥っていた結果である。

     


    (4)「中国国家衛生健康委員会は現在、高齢者へのワクチン接種を、地方当局の優先課題にすべきだとしている。また、mRNAを利用した種類のCOVID-19ワクチンの臨床試験も承認した中国はこれまで、国産ワクチンに大きく頼ってきた。ただ、オミクロン変異株には不十分だと判明している。同委員会は、「現在のワクチンはオミクロン対策としてまだ有効だ」としているが、これに中国製ワクチンが含まれるのかは明確にしていない」

     

    ようやく、mRNAを利用した種類のCOVID-19ワクチンの臨床試験承認したという。1年以上も遅れて、これから臨床試験だという。笑わざるを得ない振る舞いだ。

     


    (5)「上海では現在、市内を3つにグループ分けし、制限の一部を和らげている。「ロックダウン区域」、「コントロール区域」、「予防区域」の3種だ。新たな感染者が1週間確認されなかった地域は「コントロール」になる。新規感染者ゼロが2週間続けば、「予防」に警戒度が下げられる。感染者が少ない、あるいはゼロになった区域の人々は、住宅群内での移動が許可されるなど、より自由になる」

     

    上海市民の猛烈な反発で、市当局が妥協策に出たもの。上海市トップが、市民から苦情を言われる場面の動画が、瞬く間に市内を駆け巡り鬱憤晴らしになっているという。

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    中国の「ゼロコロナ」は、習近平氏が「中華帝国再興」の夢を諦め、欧米製のワクチンを導入すれば解決に向かうはずだ。ロシアのウクライナ戦争終結は、プーチン氏が腹を決めればそれで済むといわれている。この両国は、独裁国家ゆえにトップが納得しない限り、事態の解決が難しい点で共通している。

     

    習近平氏は、終身国家主席の野望を持っている。政策決定の尺度は、すべてこのスクリーンを経なければ決められないのだ。「ゼロコロナ」もその一つだ。「ゼロコロナ」によって、コロナ感染症拡大を食止める。これは、習氏の権威を高める上で不可欠な装置である。欧米とは違う、「人命尊重」の中国共産党という看板に利用したいのだ。

     


    次に掲載する記事は、やや抽象的な内容である。私のコメントだけでも読んでいただければ、全体を容易に把握可能であろう。中身は、良いことを言っているのだ。

     

    米『CNN』(4月10日付)は、「習近平氏がゼロコロナを止められない理由」と題する記事を掲載した。

     

    (1)上海では現在、厳格な措置へと舵を切り、ウイルスを抑え込もうとしている。習近平国家主席の指示によるとみられる今回の新たな命令は、高圧的な感染抑止策を支持する内容だ。大規模PCR検査、強制隔離、都市全体のロックダウンなどがこれに該当する。2年前に始まった中国のゼロコロナ政策は、湖北省武漢での事態の収束を受けて新たな段階に入った。いったん挙げた成果を確実なものとするため、大規模なワクチン接種のための時間を稼ぐ間、中国は大掛かりな検査と積極的な感染追跡で新たな感染者を特定。濃厚接触者と併せて隔離措置の対象としている。その後で当該地域の感染者数をゼロに戻す」

     


    中国は、2年前に始まった中国のゼロコロナ政策が、湖北省武漢での事態の収束において成功体験を得た。この成功体験が、その後のコロナ対策を大きく変えてしまった。「ウイズコロナ」へ転換する機会を奪ったのだ。

     

    (2)「政府は3月下旬、従来の戦略を少し変更し、自宅で使える迅速抗原検査キットを承認。新たな指針を発表して無症状者や軽症者の入院義務を取り下げた。この措置は国がより的を絞った、柔軟な手法を優先するようになったとの印象を与えた。このままいけばゼロコロナからの脱却にもつながると思われたが、最近上海で起きた感染者の急増はそうした手法の失敗を際立たせた。的を絞るやり方では、新たな変異株の感染拡大を食い止めることはできないことを示す形となった。今は改めてゼロコロナが強調され、これが中国の政治的支配層の中での悪しき誘因構造を強化する事態にもなっている」

     

    習政権も、ゼロコロナの欠陥に気付いている。そろりと、ウイズコロナに切り変えようとして失敗した。これまでのゼロコロナ政策で、社会的な免疫度が極端に低いのだ。コロナの真空地帯を人為的につくった報いである。

     


    (3)「習氏はゼロコロナ戦略のコストを最小限に抑えたい意向だが、今回の新たな取り組みによって経済が受ける損害は急速かつ急激に膨れ上がるだろう。経済的には国内消費を一段と押し下げ、サプライチェーン(供給網)の混乱が悪化。投資家の脱出にも拍車がかかる。ゼロコロナのみの追求は社会的な影響も伴う。例えば平時及び緊急時の医療へのアクセスが失われる。政策によって痛い目を見る人が増えれば、それだけ国民のゼロコロナに対する不満が拡散する恐れがある。不安から来る行動は(上海でのパニック買いに見られたように)、社会政治的安定を脅かすだろう。それによって党大会前の指導部の移行に混乱が生じるかもしれない」

     

    卑近な例で言えば、「箱入り娘」を突然、一人で外へ出して災難に遭うような話だ。ゼロコロナ政策は、目先の政治的成功を自慢するため上で優れている。だが、中長期的に見れば大きな矛楯を抱える。中国の現状がこれである。人間と同じで「社会的免疫」を徐々に付けることである。

     


    (4)「疫学的観点で言えば、国民をウイルスから遠ざけ、ワクチン接種の問題を棚上げすることで、中国は世界各国との巨大な免疫ギャップを持続させるだろう。それにより、逆説的ながらゼロコロナからの脱却を正当化するのが一段と難しくもなる。では、中国のゼロコロナ政策の限界点とはいったいどこだろうか? 政府の医療部門の最高顧問を務める曽光氏が昨夏述べたように、
    中国が制限を解いてウイルスと共存するようになるのは、政策の費用が便益を上回った時になるだろう

     

    ゼロコロナ政策を止めるポイントは、経済的な費用と便益の比較という正攻法に尽きる。

     


    (5)「曽光氏が予見していなかったのは、政策の費用と便益を比較検討する取り組み自体が今や高度に政治化されているという点だ。
    実績に基づいて権力の正当性が認められる中国にあって、社会経済的コストが高いとの理由でゼロコロナ政策を転換するのは、習氏個人の指導力に傷をつける行為となる。同氏は総書記の3期目を狙う立場であり、本人の利害もまた政策と結びついている。実際、最近の新華社通信の記事が再三述べているところによると、習氏は「自ら命令を発し、人員などの配置を直接決める」形で中国におけるコロナとの戦いに臨んでいるという」

     

    中国では経済的な費用と便益の比較という正攻法が、政治的な理由(習近平氏の権威を傷つける)で実現不可能である。これが、中国にとって大きな損失を招くのだ。

     


    (6)「深圳の新聞が最近掲載した記事は、ゼロコロナかコロナとの共存かという議論を「根本的に」政治システム同士の競争だと位置づけている。政治的な利害が極めて大きいため、ゼロコロナ政策に付随するとてつもないコストへの懸念は二の次にされている。とにかく是が非でも、いかなる犠牲を払っても遂行するというやり方で進められているのが現状だ。トップの指導層が、ゼロコロナに固執する精神構造を変えない限り、この政策は続く。ある国家主義者がブログにつづった言葉を借りれば、中国は「ゼロコロナとの共存を覚悟した方がいい。少なくとも向こう10年は」

     

    中国は、マックスヴェーバーの説いた「合理的経済計算」という尺度が存在しない国である。すべて、政治的思惑が優先される前近代社会である。ゼロコロナが、政治的利益を保証する限り、経済的利益を加味するウイズコロナへ移行しないであろう。習氏が実権を握る、少なくとも向こう10年は無理だろう。

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    中国が、これまで自画自賛してきた「ゼロコロナ政策」は、もはや収拾のつかない事態を招いている。上海市(人口2600万人)が、コロナ感染の坩堝と化しており、一般患者の治療は後回しという事態に陥っている。有効な治療薬とワクチンがあれば、このような地獄絵を防げたであろう。習近平氏の超民族主義が、欧米製ワクチンや治療薬の導入を阻止した結果だ。人災である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月11日付)は、「ゼロコロナに逆戻りの中国、オミクロンで窮地」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの封じ込めに向けて過去2年にわたり厳格な措置を広範に導入してきた中国の習近平国家主席は、上海で新たなアプローチを試みた。経済への打撃と「ゼロコロナ」戦略への市民の怒りに配慮し、感染が広がる上海市に対して一定の裁量を与えた。ところが、上海市はここ1週間に感染者が5倍近くに急増。米欧の状況と比べれば依然低いものの、7日には1日当たりの感染者数が2万人を超え、中国全体の感染者数を過去最多に押し上げた。習氏は感染スパイラルとロックダウン再開という、諸外国の首脳らが二度とみたくないと願う双子のジレンマに直面している。

     

    (1)「中国で感染力が強いとされる変異株「オミクロン株」が猛威を振るっている現状は、ゼロコロナ戦略を断念することの難しさを浮き彫りにする。ゼロコロナは市民の命を守り、当初はその有効性が証明された。これが根拠となり、中国は米欧よりもうまくウイルスを管理していると習氏は考えていた。しかしウイルスは感染力を強め、中国経済はぜい弱性を増した。今年3期目続投を視野に入れる習氏にとっては、確実にリスクが高まっている。加州クレアモント・マッケナ・カレッジの裴敏欣教授(政治学)は「習氏は追い詰められている」と話す。「今になってゼロコロナ政策を変更すれば、習氏の指導力にさらなる疑問符がつくだろう。これは政治的には許容できないものだ」と指摘」

     

    有効な治療薬とワクチンがなければ、ゼロコロナ政策をいくら行なっても無駄である。このことが、中国で証明された。コロナには、「中華帝国再興」というプロパガンダは効かないのだ。

     


    (2)「中国疾病対策予防センター(中国CDC)の疫学首席専門家、
    呉尊友氏は昨年11月の公開フォーラムで、中国が米英のような緩めの感染対策を講じていた場合、感染者は約2億6000人、死者は300万人余りに上っていたとの試算を明らかにした。中国で報告されている累計感染者は26万人弱、死者は5000人未満だ。これに対し、米国は確認されている感染者が8000万人、死者は100万人近くに上る」

     

    中国で「ウイズコロナ」を行なったならば、下線のような悲惨な事態を招いたという。これは、医療施設の不備、有効な治療薬やワクチン不足の結果がもたらすものだ。中国で報告されている感染者数や死者数は、すべてウソのデータである。現に、上海市の死者は1名と発表しているが、病院では多数の死者が出ている。

     


    (3)「中国国営の新華社通信が報じたところによると、習氏は3月17日、幹部らとの会合で、市民への影響を最小限に抑えるため、個別の状況に合わせてコロナ対策を調整するよう求めた。
    にもかかわらず、習氏は中央政治局常務委員会メンバーに対し、経済成長の減速を招いたとしても、中国は厳しい封じ込め措置から後退することはできないとの考えを明確にしていた。この非公開の発言について説明を受けた政策決定者に近い関係者が明らかにした」

     

    習氏は、今秋の党大会で国家主席3期目を目指している。経済成長も必要である。こういう迷いが、「ウイズコロナ」と「ゼロコロナ」の間で揺れているに違いない。だが、やはり「ゼロコロナ」へと舵を切ったのだ。

     


    (4)「上海市では目下、感染者は外出が制限され、他の疾患を抱えている患者は医療サービスがほとんど受けられない状況に置かれている。地元住民十数人に行った取材によると、当局による食料配布は一部で遅れている。地元当局はコロナ関連の死者について報告していない。WSJの取材では、少なくとも二カ所の高齢者医療施設で集団感染が発生し、うち一つでは死者が20人を超えることが分かった」

     

    医療施設は,すべてコロナ対応である。一般患者は治療して貰えない状況になっている。食料配布も遅れている。高齢者医療施設の一つでは、コロナ感染による死者が20人を超えている。

     

    (5)「中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では、ガンなど生命を脅かす疾患を抱えている患者が治療を受けられない悲惨な状況を共有しており、上海市でさらに無力感が広がる要因となっている。ミネソタ大学感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長は、「これまでのコロナ変異株との戦いは山火事を消すようなもので、成し遂げられた。だが、オミクロンは風のようなものだ。どうすれば風を止めることができるのか」と指摘する」

     

    オミクロンの感染は、「風」になって吹きまくっている。すべての感染者を隔離する。こういう原始的な手法では、間に合わないのだ。有効な治療薬とワクチンが必要な理由である。

     

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    欧米に完敗した中国の惨め

    勝負の分かれは「mRNA」

    党は市民の不満にお手上げ

    ストレスが他へ伝播すれば

     

    中国が今、新型コロナウイルスの蔓延で苦悩している。2年前の1月、武漢で発症したコロナをロックダウン(都市封鎖)で封じ込めたと、中国政府は自信満々であった。その後、欧米で感染が拡大し手を焼いている姿を見て、中国は冷笑していたものである。それが現在、一転している。中国が、逆に欧米から冷たい視線を浴びているのだ。

     


    世界のニュースは、ウクライナ戦争が独占している状態で、中国のコロナ感染情報は脇に置かれた感じだ。現実は、そのような生やさしい事態でない。上海市(人口約2600万人)は、「ゼロコロナ」という原始的な方法で対処し、解決へのメドが立たない状況にある。市民生活はもちろん、経済活動のすべてが麻痺状態に追いやられているのだ。

     

    最新状況では、4月7日に確認された無症状の新型コロナウイルス新規感染者が2万0398人。過去最多となった前日の1万9660人から、37%の増加である。症状がある新規感染者も824人と、前日の322人から2.6倍。症状のある新規感染者は、全体の3.9%だ。

     

    無症状の感染者もすべて隔離されている。有効な治療薬があれば、隔離しなくてもすむはずだ。それがないから、極めて原始的な措置に出ている。しかも、隔離施設が不足しているため、バスで12時間も揺られて、一緒に3人が小部屋に閉じ込められているというニュースが出回っている。

     


    欧米に完敗した中国の惨め

    中国疾病予防管理センター疫学首席専門家の呉尊友氏は7日、微博(ウェイボ)で、人口2600万人の大都市でも、2~3日に複数回のPCR検査を実施すれば、理論的には10日から2週間以内に「コミュニティーレベルで」感染者をゼロにすることが可能と指摘した。『ロイター』(4月8日付)が報じた。

     

    上海市当局の説明によれば、次のような内容である。14日間感染者が発生しなかった地区は一定の条件付きで外出を認める。一方、7日以内に感染者が発生した地区は引き続き封鎖する。7日間感染者が発生しなければ、敷地内の移動に限って認めるとしている。この解除条件にマッチする状況がいつ来るのか。現状では、予想がつかないのだ。

     


    コロナの感染をめぐって現在は、中国と欧米の立場が逆転している。その理由は何か。

    1)有効なワクチンを開発したかどうか。

    2)「ゼロコロナ」と「ウイズコロナ」の差による社会的免疫度の相違。

     

    大変に冷たい言い方だが、欧米の総合的な科学力と合理的思考の勝ちである。中国の権威主義による反合理主義との間には、格段の違いがあるのだ。欧米の科学的合理主義では、ものごとを理詰めに考える。中国の権威主義の下では、習近平氏の権威を失墜させないように、非合理的な政策の選択を行なうのだ。

     

    中国のワクチンは、不活化ワクチンである。これは、伝統的な製法である。欧米はmRNAワクチンである。新型コロナウイルスの遺伝情報を人に投与する最新技術だ。中国の技術レベルでは、このmRNAワクチンが製造できず切歯扼腕している。

     

    欧米では、この新型ワクチンが武器になって「ウイズコロナ」が可能になった。防疫と経済のバランスが取れるようになったのである。中国もmRNAワクチンを導入すれば、現在のような「ゼロコロナ」を強行する必要はなかった。だが、中国製ワクチンは世界最高の効果を持つと宣伝したために、いまさらmRNAワクチンを導入できなくなっている。

     

    勝負の分かれは「mRNA」

    昨年秋のG20オンライン会議で、習近平氏は中国製ワクチンと欧米製ワクチンの相互認証を呼びかけた。その狙いは、相互認証が実現すれば中国も大手を振ってmRNAワクチンを導入できるからだ。しかし、欧米側はこの習氏の提案を無視して無反応であった。効能の低い中国製ワクチンを承認する理由がないのだ。

     


    こうして、習氏の打った大芝居は失敗した。考えて見れば、習近平氏一人の権威を守るために、mRNAワクチンを導入できず、上海市でロックダウンの苦しみが続いている。「ゼロコロナ」は、習氏の権威を守るために編み出された「玉砕戦法」といえるのである。

     

    上海市は、3月28日から市内を東西に分けて段階的にロックダウンを実施し、4月5日に終了する計画だった。だが、全住民の検査を繰り返すたびに新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最多を更新した。こうして、4月5日になって改めてロックダウン延長を発表する事態になった。

     

    上海市にある大型の高齢者医療施設で、新型コロナウイルスの感染が広がっており、多くの患者が死亡していることが、内情を知る関係筋の話で分かった。金融ハブである上海市のコロナ感染状況が、当局の発表以上に深刻であることを示唆している。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月1日付)が報じた。

     

    中国では、80歳以上の高齢者でワクチンを2回以上接種しているのは半分にとどまっている。専門家は、以前からオミクロン株がもたらす危険性を警告してきた。上海で65歳以上の住民は400万人に上っている。中国の大都市としては、高齢層の比率が特に高いのだ。それゆえ、高齢者のコロナ死者が増えている。上海市内の大手病院では、用務係が3日連続で、病院から遺体を運ぶ仕事を手伝った。その後、自身もコロナで陽性となり、隔離施設に送られたという話が報じられている。それほど、深刻な事態である。(つづく)

     

     

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