勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国の7~9月期のGDPが、18日に発表された。最近の停電騒ぎや不動産バブル問題などが重なり、前年同期比4.9%増、前期比では0.2%増に急減速した。日本企業の事前予測では、約8割が「緩やかな減速」と甘いものだった。それだけにショックを受けているはずだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月18日付)は、「中国GDP4.9%増に減速 79月実質 素材高やコロナで」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国家統計局が18日発表した2021年79月の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質で前年同期比4.%増えた。46月(7.%増)から減速した。素材高による収益悪化で企業の投資が伸びず、新型コロナウイルスの感染再拡大をうけた移動制限が消費を抑え込んだ。中国景気の停滞感が強まっている。季節要因をならした前期比での伸び率をみると、0.%だった。46月の1.%から落ち込んだ」

     

    前年同期比では、4.9%増。前期比では0.2%増で年率0.8%増。これが7~9月期の中国経済の姿である。この事実をしっかりと見詰めることだ。

     


    10月ロイター企業調査によると、8割近くの日本企業が中国経済は緩やかな減速か、一時的な減速にとどまると見込んでいる。
    中国経済の減速について企業に聞いたところ、「当局のコントロール下で緩やかな減速にとどまる」が66%、「減速は一時的、当局の景気刺激策等で再加速」が13%となり、現段階で多くの日本企業は、中国経済が深刻な状況に陥るとは見ていない。10%は「来春にかけて底打ち」すると見ており、「中国発の金融危機に発展する」と回答した企業は11%にとどまった。『ロイター』(10月14日付)が報じたもの。楽観的であることが分かる。

     

    (2)「景気の減速感は、GDPと同時に発表した他の統計からも見て取れる。企業部門では、工業生産が19月に前年同期比11.8%増えた。19年同時期と比べた年平均の伸びは6.4%で、16月(7.%)より鈍った。新エネルギー車や工業ロボットは堅調だったが、9月に本格化した電力制限が素材や部品の生産の足を引っ張った」

     

    工業生産は、1~9月で前年同期比11.8%増だが、16月の7.%増よりも大幅に鈍っている。電力制限が素材や部品の生産の足を引っ張ったものだ。

     


    (3)「家計部門も伸び悩んだ。百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売を合計した社会消費品小売総額(小売売上高)は19月、前年同期比16.%増えた。19年同時期と比べた年平均増加率は3.%となり、16月(4.%)から減速した。夏場に再び広がった新型コロナの感染が、旅行や外食など接触型消費を抑え込んだ。雇用や所得の回復がもたついていることも、GDP4割弱を占める個人消費の足かせだ。19月の都市部の新規雇用は1045万人だった。前年同期を16%上回ったが、新型コロナ前の19年19月(1097万人)には届いていない。1人当たり可処分所得の伸びは過去2年間の年平均で7.1%と、16月(7.%)から鈍った」

     

    注目の小売売上高の1~9月は、19年同時期と比べた年平均増加率は3.%となり、16月(4.%)から減速した。何か分かりにくい発表の仕方で当局が、減速を覚られないように煙幕を張っている感じは否めない。要するに、悪化しているのだ。

     

    (4)「内需の不振とは対照的に、外需は堅調さを保った。79月の輸出入(ドル建て)は四半期ベースでともに最高となった。輸入原材料が値上がりし、輸出品への価格転嫁もみられ、単価の上昇で貿易額が膨らんだ。輸出から輸入を引いた貿易黒字は前年同期より15%ほど増えた。2四半期ぶりの増加だ」

     

    輸出は、世界的物価高の波に乗って順調だった。ここは明快な発表をしている。

     


    (5)「10月以降も素材高が企業収益を圧迫し、設備投資や雇用が増えにくいとの見方は少なくない。政府による不動産などの規制強化も需要を冷ます要因だ。共産党政権は地方政府にインフラ債の発行を加速させ、公共事業で景気を下支えする考えだ」

     

    地方政府にインフラ投資を増やさせるという、いつもの政策を発動しようとしているが意味はない。過去と同じ非効率投資の繰り返しである。従来であれば、住宅投資をテコ入れさせるが、これも不可能になった。四面楚歌とは、こういう状況を指すのであろう。次の記事は、中国の現状をよく伝えている。

     

    『ロイター』(10月15日付)は、「中国大型連休で見えた消費者の不安、景気減速助長も」と題するコラムを掲載した。

     

    中国の「ゴールデンウィーク(黄金週間)」は、輝きを失ってしまった。国慶節(建国記念日)に伴う大型連休期間は通常、飛行機のチケットから不動産物件まであらゆる需要が活発化する。ところが、今年の国内旅行関連収入は、前年比で約5%減少し、消費者の先行きに対する自信が揺らいでいる様子をそれとなく示唆している。だからといって中央政府が心動かされて政策支援を打ち出す気配も見えない。

     

    (6)「オンライン旅行会社の同程芸龍(トンチョン・イーロン)が事前に試算した連休中の国内旅行件数は、6億5000万件だった。しかし、政府が公表した実際の数字はそれより20%低かった。連休中の旅行関連収入は600億ドルと、パンデミック発生前だった2019年当時の約6割程度にとどまっている。中国の厳しいコロナ対策が消費者心理に影響したのかもしれないが、当局が「感染者ゼロ」を目指す姿勢を緩める兆しはない」。

     

    連休中の国内旅行件数は、予想を大きく下回り20%減であった。2019年当時の約6割程度にとどまっている。

     

    (7)「さらに自ら招いた側面が、より強い経済的な痛みも存在する。これまでの大型連休は出稼ぎ労働者が地元に帰省し、不動産を物色する時期として定着していた。不動産セクターは、中国の国内総生産(GDP)成長率の約25%を占める大きな存在だ。その不動産販売も今年の連休中は15都市の平均で約33%減った、と民間不動産調査会社の中国指数研究院が見積もっている。当局による借り入れ規制が原因で、不動産大手の中国恒大集団の経営危機をもたらした。そうした期待外れの数字は、銀行が融資枠を使い果たし、企業が借金返済を迫られるようになるとともに、景気が一段と減速しかねないとの不安を裏付けている

     

    今年の連休中、15都市の不動産販売は平均で約33%減った。下線部のように、10月以降の中国経済に明るい兆しはない。

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    中国経済は、不動産バブル崩壊の典型的な紋様が出現しつつある。中央・地方の財政も土地売却収入を財源に組入れているからだ。地価下落が起れば、財政にも穴が開きかねず、不動産バブル崩壊の影響が、ジワリジワリと広がってきた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月17日付)は、「中国銀行に資本不足の足音、地価下落で公的支援先細りも」と題する記事を掲載した。

     

    中国の銀行業界に資本不足の足音が近づいている。中国恒大集団以外にも債務不履行(デフォルト)の懸念が広がる不動産向けの融資は資本の半分超にのぼり、大幅な資本不足が現実味を帯びる。中国政府の財政は土地売却収入に支えられており、地価下落が続けば政府が銀行を支援する力も低下しかねない危うさがある。

     


    (1)「中国建設銀行幹部は15日、投資家向けに「恒大向け融資残高は相対的に少ない。リスクは管理可能だ」とコメントを出した。同行の株価は不安定な動きを続け、8月には約4年ぶりの安値圏に沈む場面があった。その他の銀行にも売りが広がり、建設銀を含む四大国有銀行の株式時価総額はピークの2018年を4割弱下回る水準にある。不動産バブルが崩壊すれば大規模な焦げ付きが発生し、銀行が窮地に追い込まれかねないと警戒されているためだ」

     

    中国4大銀行は、軒並み株価が下落している。不動産バブルが崩壊すれば、大規模な焦げ付きが発生しかねないと警戒されている結果だ。

     

    (2)「中国の銀行は、巨額の資金を不動産向けに貸し込んでいる。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、中国の銀行の不動産融資(6月末)は14兆2000億元(約250億円)。銀行融資全体の7.4%を占める。一部の銀行はより深く不動産融資にのめり込んでおり、申港証券によると上海・深圳市場に上場する41銀行のうち上海銀行、浙商銀行、平安銀行など6行は法人融資に占める不動産業の割合が10%を超える。これら不動産融資の総額は商業銀行の資本(約25兆5000億元、中国銀行保険監督管理委員会調べ)の半分超に相当する。不動産を担保にした融資などを加えると規模はもっと大きくなる」

     

    不動産融資全体では、中国商業銀行資本の半分を超えている。これは、危険な動きである。地価下落があれば、焦げ付き債権増加は確実である。これが、銀行経営を圧迫する構図である。

     


    (3)「米シティグループは、広義の不動産関連与信が約130兆元と試算する。不動産担保ローン(約58兆元)、住宅ローン(34兆元)、地方政府傘下企業の不動産関連融資(約20兆元)、「影の銀行」(シャドーバンキング)の不動産関連ローン(約2兆元)が含まれ、資本の5倍に相当する規模だ」

     

    米シティグループの試算額では、不動産関連与信が130兆元にも達するという。資本の5倍にも相当する。不動産市況が、下落に転じると大変な騒ぎに発展するはずだ。

     

    (4)「中国の不動産業界では、恒大以外にも返済に行き詰まる企業が相次いでいる。香港市場に上場する中国地産集団(チャイナ・プロパティーズ・グループ)は15日、同社子会社が発行した2億2600万ドル(約260億円)の米ドル債について、同日の償還期限までに元利金を支払えず、債務不履行に陥ったと発表した。中堅の新力控股は18日に償還期限を迎える2億5000万ドルの社債について「デフォルトに陥る可能性が高い」と公表。建業地産も11月8日が期限の4億ドルの社債償還が不透明になっている」

     

    中国恒大は、まだドル建て社債のデフォルト宣言されていないが時間の問題である。恒大以外の企業では、ドル建て社債デフォルトが相次いでいる。

     


    (5)「中国は公的資金で金融システムを支えてはいるが、先行きには不安がある。「中央・地方政府の財政と不動産市況が絡み合っている」という特殊な構造が中国にはあるからだ。中国では政府が土地を売却した代金が財政収入の大きな部分を占める。20年の土地売却収入は中央・地方政府合計で約8兆4000億元と、税収総額(約15兆4000億元)の5割超に相当する規模だ

     

    中国は、公的資金で金融システムを支える意思を示している。ただ、中国財政自体が土地売却収入に依存してする特殊性を抱えている。この状況では、「一蓮托生」という最悪事態も完全否定できない構造上の弱点を内包している。

     

    (6)「その土地売却も不動産市況の悪化で難しくなりつつある。中国財政省によると、8月の土地売却収入は前年同月を2割近く下回った。不動産開発会社が高値での応札を回避するようになっているためで、地方政府による入札が不調に終わるケースが出ている。北京市が10月に実施した入札では、43カ所のうち26カ所で応札希望がなく、市政府は結局、入札延期に追い込まれた」

     

    地方政府では、土地入札が不調になるケースも出はじめている。バブル熱は冷めてきたのだ。資金繰りが続かなくなっている結果である。

     

    (7)「中国は政策の一部軌道修正に乗り出している。中国人民銀行(中央銀行)は15日、幹部が会見で金融機関に不動産業界への融資を続けるようメッセージを発した。不動産業界の資金繰りを一時的に緩和する効果はありそうだが、土地と銀行財務と財政余力が結びついた特殊な構造を制御するのは容易ではない。中国が日本と同じようなバブル崩壊と長期の後遺症を回避しようとするなら、綱渡りの政策対応を成功させることが条件となる

     

    日本は、財政と土地バブルが直接の関係になかった。中国は、これが直結している。安易な財政構造である。余りにも「原始的財政構造」と呆れるほかないのだ。中国の前近代性が綻びを見せている。

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    「土地錬金術」経済は破綻へ

    現実になってきた灰色のサイ

    30年後へ先送りの共同富裕

    財産課税なし金持ち天国実現

     

    中国は、金持ちを超優遇する国である。具体的には所得分配の不平等性を示す「ジニ係数」の高さで証明されている。恒常的に、「0.4台後半」でいつ社会騒乱が起って不思議のない状態である。中国全土に監視カメラが設置されている理由は、国民を監視しなければ国家を維持できないほどの不平等状態に陥っている結果だ。ジニ係数で言えば、米国は「0.39」(2018年)である。日本は「0.33」、フランス「0.30」である。いずれも、0.3台に止まっている。ジニ係数は、値が低いほど良い状態と定義づけられている。

     

    中国が、社会主義を標榜しながらこの高いジニ係数であるのは、一度も選挙がない結果だ。反乱さえ防げば、政権維持に当っての懸念はない。こういう政治状況が、権力者を増長させて恣意的な政治を可能にさせる仕組みを維持させている。

     


    中国は、政権交代論を「謀反」と位置づけている。全土に張り巡らした監視カメラで、そういう謀反の芽を摘んでいるのだ。共産党に都合のいい仕組みを考案しているが、それにも限界がある。現状がその危機状態にあるので、習近平氏は国民の怒りの矛先を「共同富裕論」を持出してかわそうとしている。その希望の星であるべき「共同富裕」は、習氏の最新論文(共産党理論誌『求是』に掲載)によれば、2050年頃になるというのだ。

     

    「土地錬金術」経済の破綻へ

    7月以降、あれだけ矢継ぎ早に「共同富裕論」に繋がる規制策を実施してきたが、ここで急ブレーキが掛かった形になったのはなぜか。中国の経済改革で、最大の難問である「不動産問題」に突き当たった結果であろう。

     

    習氏は最近、出生率を急低下させている要因として、次の点を上げてきた。

    1)教育費の値上り抑制で学習塾を廃止する。

    2)パソコン・ゲームの費用を削減する。

    3)住宅価格の高騰を抑制すべく、不動産開発企業の負債依存経営を規制する。

     


    前記の項目中で、1)や2)は問題なく実施できても、3)の不動産開発企業の経営規制は、しだいに簡単でないことが明らかになってきた。

     

    それは、中国経済(GDP)の4分の1が、不動産開発関連であることで、とりわけ地方政府の財源収入では大きなウエイトを占めている。不動産開発を抑制すれば、土地払い下げ需要が減って、地方政府の財源が自動的に減少するのである。中国の税制では、この土地売却収入が従来、地方税収の5割強を占めていた。去年は3割程度とされている。この隠れた要因を習氏は見落としていたのである。

     

    私は、地方政府が不動産バブルに深く関わっていることを繰り返し指摘してきた。地方政府は、財源をつくる上で土地売却収入が不可欠な手段である以上、恒常的に地価引き上げに走る公算が大きいことを突いてきた。この状態が改まらない以上、中国の不動産バブル継続は不可避であると指摘したもの。このまやかしが現在、破綻しようとしているのだ。

     

    地方政府は、土地を錬金術に使ってきた咎めに直面している。古代エジプト以来、「錬金術」は人間の悪夢として試みられ失敗してきた。中国は、土地を「通貨」代わりに利用して、今や大失敗したのである。それは、後述のように税制を根本的に歪め、所得の不平等性(「ジニ係数」)を高めたのである。

     


    都市部の住宅は、2017年時点で6500万戸も余剰(空き家)となっている。その率は21%だ。北京市民の9割強は、持家という統計(人民銀行発表)が発表されている。住宅普及率は天井圏なのだ。今後の新築家屋は、余剰家屋を増やすだけの段階である。この事実を当局も市民も認識せず、住宅=値上り資産と誤解するまでとなっている。大いなる錯覚だ。

     

    前記の空き家6500万戸が、値上り益を見込めず、一斉に売り出されたらどうなるか。中国では、住宅内部の造作をしないで購入者に引き渡す習慣である。よって、空き家は新築物件同様の価格帯で販売できる。日本では中古物件扱いだが、人間が住まなかったので新築扱いが可能なのだ。

     

    こうした空き家物件の存在を考えれば、住宅建設需要は急減し、土地購入需要も消えてしまうはずである。すでに、6月以降の土地入札件数は激減している。

     

    ロイターが1000件余りの告示情報を分析したところ、現在進んでいる6~10月期の入札は9月30日時点で、入札が撤回されたり、応札のなかった区画が全体の約40%に達した。第1回入札ではこの比率は5%だった。ロイターの調べによると現在、北部の天津は61区画のうち、売却されたのが40区画。遼寧省の省都、瀋陽は46区画中19件に過ぎないのだ。

     

    ムーディーズは、今年の土地売却額の伸びが1けた台の前半にとどまり、来年はマイナスに転じると予想している。昨年は16%増だった。また、土地売却の状況がさらに悪化すれば、負債額が大きい天津や遼寧省などは、債務返済に窮しかねないという。「土地錬金術」経済の破綻が、これから証明されることになろう。(つづく)

     

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    中国恒大の経営危機は、世界中の話題になっているが、中国当局は具体的対応をせずに沈黙している。その中で、中国人民銀行(中央銀行)が、ようやく次のような発言をした。

     

    『ロイター』(10月16日付)は、「中国恒大問題の金融システムへの波及は制御可能 人民銀当局者」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民銀行(中央銀行)の金融市場担当責任者は15日、経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団の債務問題が金融システムに及ぼす波及効果は制御可能だと述べた。中国恒大の債務問題に関する当局者の発言はまれである。

     


    (1)「
    金融市場担当責任者は、記者会見で「中国恒大はここ数年、経営がうまく機能しておらず、市場の変化に応じて慎重に事業を運営せずにやみくもに事業を多角化、拡大していた」と指摘。中国当局は中国恒大に対し資産売却と建設プロジェクトの再開を強化するよう求めており、そのための資金調達を当局が支援するとしたほか、各金融機関の中国恒大に対するエクスポージャーは大きくないと述べた」

     

    人民銀行は、中国恒大支援で資産売却と建設プロジェクトの再開に必要な支援をするというもの。これまでの沈黙を破って、後始末に動き出すことを明らかにした。これで、当面の資金繰りが付くメドがついた。工事中断のプロイジェクトを再開させ契約者に住宅を引き渡す準備が始まる。

     

    (2)「海外で社債を発行した不動産会社は積極的に返済義務を果たすべきと強調した。今年の第1~第3・四半期については、「いくつかの都市で不動産価格が急激に上昇したため、個人向け住宅ローンの承認と発行が抑制されたが、住宅価格が安定すれば、これらの都市の住宅ローンの需給も正常化する」とした」

     

    下線部の外債(ドル建て債)の償還義務を果たすように強調しているが、それだけの話である。住宅ローンも住宅価格が安定すれば住宅ローンの規制緩和を示唆している。「不動産バブル」の延長線を続ける積もりだ。

     

    (3)「一方、中国恒大集団は深圳証券取引所に提出した書類で、2020年に発行した人民元建て社債について、10月19日の利払い日に予定通り支払いを行う意向を示した」

     

    人民銀行は、人民元建て社債の償還を予定通り行うとしている。ドル建て債については、人民銀行は預かり知らないという姿勢である。ここに明白になったのは、ドル建て債券はデフォルトの可能性を認めていることだ。端的に言えば、海外のドル建て債券者については、人民銀行が責任を持たないという意思表示でもあろう。

     

    中国当局は、積極的にドル建て債券を発行させて外貨準備高を積上げさせながら、いざ返済の段階になったら「われ関せず」という無責任な姿勢を取り始めている。

     

    海外投資家にとって重要なのは、中国企業の発行する社債の1割弱が外貨建て債であることだ。23年までの外債償還額は、1720億ドルにのぼる。気がかりなのは、外貨建て債で債務不履行が増えていることだ。中国恒大では、デフォルトには至っていないが、すでに3本の利払い遅延が起こっている。

     

    リフィニティブなどによると2020年以降に、少なくとも10本以上のドル債が債務不履行を起こしている。北京大学系のIT(情報技術)大手、北大方正集団は20年2月に会社更生手続きに相当する「重整」に入り、複数のドル建て債で元利払いができなくなった例もある。

     

    国有半導体の紫光集団もドル債の債務不履行を繰り返した。2月には、米シティグループの香港法人が利払いや償還を求めて訴訟を起こしている。「中国企業が債務不履行を決断するハードルが低くなっており、国債や政策銀行債しか安心して投資できない」(外国銀行)といった声が漏れ始めているという。『日本経済新聞』(5月12日付)が報じている。

     

    中国企業が発行した社債のうち、2023年までの3年間に満期を迎える総額は2兆1400億ドル(230兆円超)に達する。18~20年の1.6倍の規模だ。中国企業にとって正念場が続くことは間違いない。

     

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    習近平氏は、米国が参加していない機会を狙ってTPP(環太平洋経済連携協定)加盟を目指して、加盟国へアピールを繰返している。TPPでは、加盟条件として国有企業のウエイトの高まりを禁じている。中国は、これだけでもTPP加盟は不可能だが、こういう状況を改善する意思を見せず、一段と国営企業のウエイトを高めている。現実は、矛楯した行動を取っているのだ。

     

    国営企業は、どこの国でも非効率な存在である。中国も、その傾向に変わりない。現実に、赤字企業の比率が、民営企業を上回っているほど。一方、利益面では国営企業が民営を上回るという独占状況を顕著にさせている。民営企業は、それだけ苦境状態に置かれているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月16日付)は、「中国『国進民退』鮮明、18月期利益 国有強化のひずみ」と題する記事を掲載した。

     

    中国で国有企業と民間企業の収益が逆転した。18月期の利益総額は、国有企業が民間企業を8%上回った。13年ぶりに通年で国有が民間をしのぐ可能性もある。民間は、当局の規制強化で資金調達が滞り、「川下」の消費財関連に多いため原材料価格の高騰で打撃を受ける。「国進民退」と呼ばれる、習近平指導部の国有強化のひずみが表面化してきた。

     

    (1)「中国では資源や素材といった「川上」の分野で国有が大きな占有率を持つ。例えば、原油生産は中国石油天然気(ペトロチャイナ)、中国石油化工(シノペック)、中国海洋石油(CNOOC)の国有3社がほぼ独占する。3社の16月期は、売上高が原油高を追い風に前年同期比25割増だった。純利益は、ペトロチャイナとシノペックが黒字に転じ、CNOOCは前年同期の3.2倍に達した。中国政府が余剰生産能力の削減を進める鉄鋼分野で、中国宝武鋼鉄集団の生産量は世界最大規模だ」

     

    産業の「川上」部門は、国有企業が独占している。最近の原油値上りを反映して、原油部門は大きな増益を記録している。

     


    (2)「習指導部は主に安全保障の観点から国有企業を重視してきた。習国家主席は2020年4月の共産党内組織の会議で「国有企業も改革や合理化が必要だ」と指摘したが、「絶対に否定や弱体化はできない」とも述べた。一方、民間に多い中小零細企業の就業者は全体の8割を占める。中国国家統計局によると、主力事業の年売上高が2000万元(約3億5000万円)以上の製造業(鉱業など含む)による1~8月期の利益総額をみると、国有が1兆7748億元(前年同期比87%増)、民間は1兆6429億元(同34%増)だった。通年でも国有が民間を上回れば、リーマン・ショックで世界経済が混乱した08年以来となる」

     

    主力事業の年間売上高2000万元以上の製造業は、1~8月期で国有企業が民間企業を大幅に上回った。通年でもこの基調が続けば、08年以来13年ぶりとなる。

     

    (3)「18月期に限れば、利益で国有が民間を上回ったのは19年以来2年ぶり。18年も同様だった。だが、両年はともに、12月までのデータがそろった段階で民間の利益が大きく上振れし、国有より多くなった。9月以降の見通しについて、中国の統計に詳しいエコノミストは「年末の税還付や通年ベースでの統計処理によって最終的に民間企業の再逆転もありうる」と指摘する」

     

    現状は、1~8月期であり残り4ヶ月を残している。この間に変化が起これば、逆転もあり得るという。

     

    (4)「民間には国有と比べ、大きく2つの不利なポイントがある。一つは、銀行融資など資金調達での官民格差だ。信用力が高い国有は低利の資金調達が容易だが、民間は銀行からの低利借り入れが難しいケースも少なくない。中小企業にとっては、銀行融資以外の「シャドーバンキング」が重要な調達先だったが、金融監督当局の規制強化で大幅に細っている。こうした事情で民間の財務コストは高止まりしやすく、収益を圧迫する。18月期の財務コストは国有が前年同期より0.%減ったが、民間は2割近く増えた

     

    ここがポイントである。民間が国有に比べて不利な点が2つある。

    その一つは、国有企業が民有企業に比べて金融面で優遇されていることだ。財務コストは、下線のように天と地もの差が付いている。国有は減って民間が逆に増えているのだ。

     


    (5)「もう一つは民間の価格転嫁の遅れだ。製造業では川上の分野に国有が集中して寡占状態になる一方、民間は消費者に近い川下の企業が多い。川下の方が競争の影響を受けやすい。9月の卸売物価指数をみると、川上の生産財は前年同月比14.%上がった。だが、川下の生活財は同0.%上昇にとどまった。消費回復がもたついている。8月末の赤字企業の比率で、民間は19%と、新型コロナウイルスがまん延する前の19年8月末(16%)を上回った。国有は28%で、8月末としては10年ぶりの低水準だった。

     

    もう一点は、価格転嫁力の相違である。国有は、独占的に市場を支配しているが、民間にはその力がないことだ。これは、市場への影響力の差を示している。具体的に言えば、生産者物価の高騰と消費者物価の緩やかな上昇の差に表われている。

     

    こうした市場支配力の差によって、8月末の赤字企業の割合は、国有企業が10年ぶりの低水準に止まった。民間企業は、19年8月末を上回った。

     


    (6)「国有などによる民間への出資も、国有の利益総額を押し上げているようだ。報道によると、20年に国有や政府系ファンドが経営権を握った中国の上場企業は48社。新型コロナなどで経営が悪化したハイテク分野をはじめとする民間への出資例が目立った。国有による民業圧迫は技術革新につながる活力をそぎ、雇用回復の重荷になる。国有の多くは経営がなお非効率で、成長の足かせになりかねない。中国は環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請したが、TPPは国有企業の優遇を禁じている」

     

    国有企業の利益総額が伸びたのは、民営企業への出資による支配強化の結果である。これも、市場構造への影響力強化の結果である。要するに、国有企業は見せかけの利益増加に過ぎない。こういう状況では、TPP加盟など「お笑い種」と言うべきだろう。

     

     

     

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