中国は、高学歴化が進んで大学(短大を含む)進学率が71.98%(2022年)と日本の62.14%(2020年)を追い抜く勢いだ。こういう中で、卒業=失業という皮肉な結果になっている。若者は、アルバイトで食いつなぐほかないだけに、徹底的に「節約志向」が定着している。見栄を捨て、その日暮らしに徹しているのだ。
『時事通信』(3月5日付)は、「人の目を気にしない、無駄なお金を使わない 若者の『節約志向』が広がる 経済状況厳しく」と題する記事を掲載した。筆者は、日中福祉プランニング代表王青氏である。
最近、中国の大学生を中心とした若者の間で、冬の必需品〝ダウンコート〟の代わりに、男性は人民解放軍の冬の軍服(カーキ色の中綿の長いコート)、女性は花柄の中綿ジャケットがトレンドとなっている。これらはいずれも経済成長前の時代、すなわち今の若者の親世代が若き時代にあったファッションだ。数年前まで、冬物というと、若者はこぞって「ザ・ノース・フェイス」のダウンコートを愛用した。特に大学生をはじめ、みんな同じブランドを着ているため、「ノース・フェイスは大学の制服?」と言われるほど一時話題となっていた。
(1)「若者の消費概念や消費パターンは大きく変わった。以前は「メンツを重んじ、流行に追随する」風潮だったのに対して、今は「人の目を気にしない、無駄なお金を使わない、必需品や低価格のものを選ぶ」というようになった。この変化について、中国の官製メディアは「〝質素〟の風潮が若者の生活に回帰したことは、若者の〝モノ〟に対しての価値観が変わった表れだ。理性的かつ合理的な消費行動は、成熟し、多様化した消費コンセプトを示している」と称賛した。かなりポジティブな見方であるが、中国国内の専門家はそう思わないようだ。「物価上昇に収入減少など、若者たちが厳しい経済状況に直面しているからだ」と指摘する」
流行を追うのは、若者の特権である。その若者が、オールドファッションに身を固めて街中を闊歩している。時計の針が、逆回転している感じである。理由は、収入が少ないからだ。身丈に合った生活を余儀なくされている。
(2)「事実、コロナが終息した以降、中国経済の回復が予測されたより鈍く、若者の失業率が今も高止まりのままである。昨年8月、中国国家統計局は16~24歳の失業率の公表を一時停止すると発表した。「統計の改善のため」と説明したが、この年齢層の直近6月の失業率は21・3%と過去最悪を更新したことで、中国のSNSでは「臭いものにふたをするだけだ」とさめた書き込みが多かった。実際、北京大学の張丹丹副教授は、昨年3月の16~24歳の失業率は46.5%であるという研究調査結果を明らかにした」
若者の失業率は、異常な高さだ。大学を卒業しても就職先がないので、大学院へ進むという「時間稼ぎ」が行われている。それ以外の多くは、アルバイトで生計を立てている。
(3)「近年、大学の新卒者も深刻な就職難に直面している。「卒業すなわち失業」は社会問題となった。また、大手企業の大規模なリストラなどで、多くの若者が定職に就けず、デリバリー配達やタクシー運転手などのアルバイトで一時をしのぐ。こうした中では、「いかにお金を使わず楽しむのか」が、若者の大きな関心事となる。昨年から中国の若者の間で、「City Walk」(街散策)がトレンドとなって、注目を集めている。中国では、伝統的な観光地でなく、自分たちが住む街の文化や歴史的なスポットなどを巡って、新しいことを発掘し、楽しむことだ。それは日本でいう「安近短」に近いだろうか」
仕事のない若者は日中、家に閉じこもっているわけにも行かず、「City Walk」に精を出している。
(4)「『節約志向』が若者の外食にも影響を与えている。熱いご飯とおかずを食べる習慣があるため、弁当文化がなかった中国だが、「最近、弁当を持参するOLが増えて、会社側が電子レンジを設置してくれた」と筆者の友人が話してくれた。そして、地域の高齢者向けの食堂や安いファストフード店を利用する人も多い。出費を最小限に抑える若者たち。一方で、今の中国の高齢者世代は、モノがなかった時代を過ごしてきた故に、「無料のものが大好き」で、節約志向が人一倍強い。そして、中年層は不透明な先行きで大きな不安を抱えて、財布のひもを固くしている今日。もし全世代でお金を使わなくなったら、経済が底抜けになるのではと危惧してならない」
弁当文化のない中国が、現在は昼食代を節約して弁当持参という。高齢者世代は、物不足の時代を経験しているので、節約心が極めて強い。中国のオール世代が、節約に努めている以上、消費回復は期待薄であろう。