勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > アジア経済ニュース時評

    caedf955
       

    中国は、高学歴化が進んで大学(短大を含む)進学率が71.98%(2022年)と日本の62.14%(2020年)を追い抜く勢いだ。こういう中で、卒業=失業という皮肉な結果になっている。若者は、アルバイトで食いつなぐほかないだけに、徹底的に「節約志向」が定着している。見栄を捨て、その日暮らしに徹しているのだ。

     

    『時事通信』(3月5日付)は、「人の目を気にしない、無駄なお金を使わない 若者の『節約志向』が広がる 経済状況厳しく」と題する記事を掲載した。筆者は、日中福祉プランニング代表王青氏である。

     

    最近、中国の大学生を中心とした若者の間で、冬の必需品〝ダウンコート〟の代わりに、男性は人民解放軍の冬の軍服(カーキ色の中綿の長いコート)、女性は花柄の中綿ジャケットがトレンドとなっている。これらはいずれも経済成長前の時代、すなわち今の若者の親世代が若き時代にあったファッションだ。数年前まで、冬物というと、若者はこぞって「ザ・ノース・フェイス」のダウンコートを愛用した。特に大学生をはじめ、みんな同じブランドを着ているため、「ノース・フェイスは大学の制服?」と言われるほど一時話題となっていた。

     

    (1)「若者の消費概念や消費パターンは大きく変わった。以前は「メンツを重んじ、流行に追随する」風潮だったのに対して、今は「人の目を気にしない、無駄なお金を使わない、必需品や低価格のものを選ぶ」というようになった。この変化について、中国の官製メディアは「〝質素〟の風潮が若者の生活に回帰したことは、若者の〝モノ〟に対しての価値観が変わった表れだ。理性的かつ合理的な消費行動は、成熟し、多様化した消費コンセプトを示している」と称賛した。かなりポジティブな見方であるが、中国国内の専門家はそう思わないようだ。「物価上昇に収入減少など、若者たちが厳しい経済状況に直面しているからだ」と指摘する」

     

    流行を追うのは、若者の特権である。その若者が、オールドファッションに身を固めて街中を闊歩している。時計の針が、逆回転している感じである。理由は、収入が少ないからだ。身丈に合った生活を余儀なくされている。

     

    (2)「事実、コロナが終息した以降、中国経済の回復が予測されたより鈍く、若者の失業率が今も高止まりのままである。昨年8月、中国国家統計局は16~24歳の失業率の公表を一時停止すると発表した。「統計の改善のため」と説明したが、この年齢層の直近6月の失業率は21・3%と過去最悪を更新したことで、中国のSNSでは「臭いものにふたをするだけだ」とさめた書き込みが多かった。実際、北京大学の張丹丹副教授は、昨年3月の16~24歳の失業率は46.5%であるという研究調査結果を明らかにした」

     

    若者の失業率は、異常な高さだ。大学を卒業しても就職先がないので、大学院へ進むという「時間稼ぎ」が行われている。それ以外の多くは、アルバイトで生計を立てている。

     

    (3)「近年、大学の新卒者も深刻な就職難に直面している。「卒業すなわち失業」は社会問題となった。また、大手企業の大規模なリストラなどで、多くの若者が定職に就けず、デリバリー配達やタクシー運転手などのアルバイトで一時をしのぐ。こうした中では、「いかにお金を使わず楽しむのか」が、若者の大きな関心事となる。昨年から中国の若者の間で、「City Walk」(街散策)がトレンドとなって、注目を集めている。中国では、伝統的な観光地でなく、自分たちが住む街の文化や歴史的なスポットなどを巡って、新しいことを発掘し、楽しむことだ。それは日本でいう「安近短」に近いだろうか」

     

    仕事のない若者は日中、家に閉じこもっているわけにも行かず、「City Walk」に精を出している。

     

    (4)「『節約志向』が若者の外食にも影響を与えている。熱いご飯とおかずを食べる習慣があるため、弁当文化がなかった中国だが、「最近、弁当を持参するOLが増えて、会社側が電子レンジを設置してくれた」と筆者の友人が話してくれた。そして、地域の高齢者向けの食堂や安いファストフード店を利用する人も多い。出費を最小限に抑える若者たち。一方で、今の中国の高齢者世代は、モノがなかった時代を過ごしてきた故に、「無料のものが大好き」で、節約志向が人一倍強い。そして、中年層は不透明な先行きで大きな不安を抱えて、財布のひもを固くしている今日。もし全世代でお金を使わなくなったら、経済が底抜けになるのではと危惧してならない」

     

    弁当文化のない中国が、現在は昼食代を節約して弁当持参という。高齢者世代は、物不足の時代を経験しているので、節約心が極めて強い。中国のオール世代が、節約に努めている以上、消費回復は期待薄であろう。

    あじさいのたまご
       

    財政均衡と重商主義

    今後4年が苦難期に

    得意技GDP改ざん

    女性44%が非婚化

     

    中国は、3月5~11日の日程で全人代(国会)を開幕した。首相は、この全人代終了後に内外記者団と会見することが、ここ30年間の慣例になっていた。だが、中国は今年から27年の共産党大会まで、首相記者会見を行わないと発表した。記者会見中止理由が、明らかにされていないだけに憶測を呼んでいる。

     

    共産党指導部は現在、政策決定権を完全に掌握している。国務院(政府)は、単なる執行機関に成り下がったので、首相が記者会見する必要もなくなった、とされている。ならば、習近平氏が共産党総書記として記者会見する方法もあろう。だが、神格化されている習氏の記者会見などあり得ないことである。結局、中国の実情を説明するには、首相記者会見が最も相応しい形であることに落ち着くのだ。その記者会見が、取り止めになった。

     

    中国は、なぜ24~27年まで首相記者会見を中止するのか。これは、中国経済が最も厳しい局面へ遭遇する時期であるからだ。それだけに、記者会見でボロを出したくないという警戒観が先立っているに違いない。中国当局の自己防衛本能が、前面に出ている感じである。

     

    中国指導部が警戒しているように、これから4年間の中国経済は「ドン底」状態へ落ちこむ。だが、その後に順調な回復期が訪れるという「自立回復」期待も持てないのだ。不動産バブル崩壊という重圧が、中国の中間層を直撃しており個人消費を抑制するからだ。その意味でも、住宅不況を放置するのでなく、住宅購入しながら未竣工である3000万戸の救済が不可欠になる。中国政府は、こうした個別救済が「バラマキ」に映るようである。全く、見当違いなことを言っているのだ。

     

    膨大な未竣工住宅問題が解決に向えば、住宅不況に歯止めが掛るだろう。さらなる価格下落を止められれば、家計資産の7割が不動産である中間層の消費マインドを好転させられるはずである。習氏は、こういう抜本策が財政赤字を増やすので拒否しているのだ。目先の財政赤字拒否が、将来の中国経済の展望を奪っている形である。

     

    財政均衡と重商主義

    全人代では、24年の実質経済成長率目標が「5%前後」と発表された。この目標を実現する具体策は、発表されなかった。中国経済を動かすテコは、財政赤字拡大しかないが、当局は極めて慎重である。財政赤字の対GDP比は今年、3%と見込んでいる。昨年が3.9%であったから、財政赤字の相対的な規模は縮小される。これで、「5%前後」のGDP成長率をどのように実現するか批判が殺到している。

     

    習氏が、財政赤字拡大を恐れているのは、古典的「財政均衡論者」であることだ。それは、それで非難されることでないが、経済の状況において柔軟に対応すべきであろう。習氏に、それが見られないのだ。目先に「1元」ケチれば、将来は「100元」も損することになりかねない。現状は、まさにこの局面である。

    習氏の財政均衡論は、「重商主義論者」となって現れている。EV(電気自動車)、電池、太陽光発電パネルの3種を輸出して、世界シェアの過半を握れという現実離れした目標を立てている。重商主義とは輸出を最大化し、輸入を最小化する経済政策である。16~18世紀にヨーロッパで支配的な考えであった。習氏は、この古い重商主義に戻っており、熱烈な財政均衡論によって、中国経済の難局に対処できると信じているのであろう。

     

    習氏は、財政赤字不拡大=重商主義論という背景で、自己の立場を擁護している。最大の目的は、「終身国家主席」を目指しているところにある。経済成長率は低下しても、財政は健全という裏付けがあれば、国内で弁解ができるからだ。その代わり、国内経済はガタガタになる。この状況については、後で触れたい。

     

    習氏が、財政赤字拡大を恐れている背景には、もう一つの理由がある。格付け会社による格付け引下懸念である。ムーディーズは、中国の信用度について昨年12月、現在の「A1」(上から5段階目)から一段階引下げる警告を出した。ムーディーズでは、引き下げ警告が出た場合、翌年に実行されるのがパター化している。となると、今年は「A2」(上から6段階目)に引下げられる公算が大きい。このA2は、「将来のある時点において、支払能力に影響を及ぼしうる要因がある」という事態が想定される段階なのだ。

     

    中国は、発展途上国をひとまとめにして米国へ対抗する姿勢をとり続けている。だが、中国の信用度が「A2」以下へ低下したのでは、他国への威厳を保てなくなる。こうなると、国内経済情勢がどのように悪化しても「対外メンツ」を維持して虚勢を保つことを優先するであろう。

     

    中国の王毅外相は3月7日、中国経済衰退論に対して「中国の次はやはり『中国』だ」と見栄を切った。中国のGDP世界2位の座は、インドが急接近するまで安泰である。それだけに、財政赤字拡大を阻止して、さらなる格付け低下を回避したいのであろう。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    a0960_008564_m
       

    中国は、インフラ投資に当てたインフラ債の元利払いについて、インフラから上がる収益を充当している。インフラ債は、こういう性格から一般的な国債に分類していない。だが、深圳市の発行したインフラ債が、7年満期中5年を過ぎたことから途中償還できる権利を放棄して、満期まで元金償還を延期することになった。これは、インフラ債のリターンが想定範囲より少ないことを意味する。インフラ債が、償還で問題を起こせば政府が代替しなければならない。インフラ債が、時限爆弾になってきた。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月10日付)は、「中国で『地方債ショック』、不動産不況 負の連鎖に」と題する記事を掲載した。 

    中国の地方政府が発行する地方債市場に綻びが生じている。焦点はインフラ開発などを目的としたインフラ債(専項債)だ。不動産不況が飛び火し、国債残高に迫る25兆3000億元(約520兆円)市場にショックが走る。中国経済に対する不信感が広がれば、投資家離れに拍車がかかりかねない。

     

    (1)「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)開幕直前の3月1日、地方債市場に「深圳ショック」が走った。広東省深圳市政府が2019年に発行したインフラ債2億元について「早期償還権を行使しない」と発表したからだ。同債券は7年満期で発行5年後の24年から深圳市政府が早期償還するかどうか選べる権利が付く。こうした早期償還の権利は、行使するのが市場の慣行だ。想定外の「不行使」で投資家の不安が広がり、同債券の流通利回りは2%台に跳ね上がった。深圳市が早期償還を見送ったのはなぜか。同市は理由を明らかにしていないが、不動産不況の波及が要因にある」 

    健全財政を誇る深圳市が、インフラ債の早期償還の権利行使を見送った。深圳市財政の逼迫化を示す話である。 

    (2)「深圳市の問題は、再開発の事業主体に選んだ中堅不動産開発会社の佳兆業集団(カイサ・グループ)にある。同社は、不動産販売の不振で資金繰りに行き詰まり、21年に格付け会社フィッチ・レーティングスは「部分的なデフォルト(債務不履行)」と認定した。中国のインフラ債は、プロジェクトの収益から元利金を返済するレベニュー(収益)債の形式を採用する。事業主体のカイサ・グループの経営行き詰まりで、再開発プロジェクトの行方が不透明感を増す。インフラ債償還には、深圳市政府の支援が不可欠な状況だ」 

    深圳市のケースでは、インフラ事業を担当した建設業者の経営破綻により、引き起こされた事態だ。ただ、こういう場合、建設業者を変えて事業継続が可能なはず。そういう代替手法をとらなかったのか。プロジェクトそのものに問題があったのだろう。

     

    (3)「中国のインフラ債は膨張を続ける。李強(リー・チャン)首相は5日の政府活動報告でインフラ債について「24年は前年比1000億元増の3兆9000億元を発行する」と明らかにした。中国の調査会社Windによると、インフラ債の発行残高は3月8日時点で約25兆3000億元にのぼる。地方政府の信用力のみを背景に発行する一般地方債(約16兆元)を大きく超え、国債(約30兆元)に迫る規模だ」 

    3月8日時点で、インフラ債発行残高は約25兆3000億元で国債に迫る規模だ。インフラ債がプロジェクト利益で返済できない事態になれば、政府負担に付け替えられる。 

    (4)「インフラ債の資金使途は、経済開発区など工業園区の開発が半分近くを占め、有料道路が続く。資金使途は拡大を続けており、中国の広域経済圏構想「一帯一路」や文化・旅行、新エネルギー事業なども対象となる。中国政府にとってインフラ債は、財政赤字額に算入しないで済むメリットがある。中国の24年の財政赤字は4兆600億元、国内総生産(GDP)対比では3%を見込んだ。この数字に含むのは、国債と一般地方債のみで、インフラ債は含まない。インフラ債は、一般会計に当たる「一般公共予算」収入ではなく、プロジェクト収入または特別会計に当たる「政府性基金」収入が返済原資となるからだ」

     

    一帯一路プロジェクトまで、インフラ債で賄ってきた。このプロジェクトは、不採算事業が多いので元利償還は無理である。政府債務として付け替えられるのは、不可避であろう。インフラ債は、国債発行の抜け道として利用されてきた。問題含みであることは間違いない。 

    (5)「残高25兆3000億元にのぼるインフラ債の発行主体には、財政力の弱い小規模な地方政府が少なくない。開発したプロジェクトが失敗に終わった場合、最終的に政府が債務を丸抱えする構図は、地方政府傘下のインフラ投資会社「融資平台」問題と共通する部分がある。藍仏安財政相は6日の記者会見でインフラ債について「借り入れ、資金利用、管理、償還までの全過程で管理体制を改善する」と表明した」 

    インフラ債は、元利償還に当って「融資平台」問題と同じ脆弱性を抱えている。これまで、融資平台のリスクに焦点が当っていたが、インフラ債も同じ危険性を持つ。 

    (6)「(格付けで)格下げを恐れる中国政府は、表面的な健全財政をアピールする。だが、そのために責任の所在があいまいな資金を調達することは、債務規模を膨らませ、かえって長期的な信用力を損ないかねない。UBSの汪濤・首席中国エコノミストは「長期的には、地方政府がそんなに多くの投資をするべきかどうか、市場に任せるべきかどうかを考慮する必要がある」と話している」 

    中国経済は、インフラ債や融資平台という二大債務を抱える。低成長経済に耐えられない構造になっている。

    テイカカズラ
       

    韓国総選挙は、4月10日である。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権への支持率は最近、40%台へ回復してきた。与党「国民の力」支持率も、最大野党「共に民主党」を僅差でリードするなどの変化はみられるが、薄氷を踏む状態である。総選挙で、与党が勝利を収め得られなければ、韓国は政治も経済も危機打開の道筋も求められない最悪事態へ落込むであろう。

     

    『聯合ニュース』(3月9日付)は、「韓国総選挙まで約1カ月、政権の命運分ける尹大統領の「中間評価」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権にとって今後の国政運営を左右する正念場となる総選挙が、尹大統領の就任2周年を1カ月後に控えた4月10日に実施される。今回の総選挙の意味を巡ってはさまざまな意見があるが、5年任期の折り返しを前に行われる選挙だけに「中間評価」という性格を帯びざるを得ない。さらに、今回の総選挙はそれ以上の政治的含意を持つことになるというのが政界全般の認識だ。

     

    (1)「大統領室の高官は8日、聯合ニュースの取材に対し「立場の異なる政党が多数党になり、事あるごとに衝突すれば国政は足を引っ張られるしかない」とし、「与党が勝利すれば今後の国政運営が根本的に変わる可能性がある」と述べた。尹大統領は就任後、野党が過半数の議席を握る「与小野大」の高い壁に阻まれてきた。不利な構図の中で、女性家族部の廃止など大統領選での主要公約すら守れていない状況だ。巨大野党はコメの超過生産分の政府買い上げを義務付ける糧穀管理法改正案、看護法改正案、労働組合法改正案のほか、韓国教育放送公社法・放送法・放送文化振興会法の「放送3法」改正案などの可決を主導し、尹大統領を圧迫した」

     

    韓国国会は、野党が過半数の議席を握る「与小野大」である。尹大統領は、この高い壁に阻まれて公約はほとんど実現できないままの状態だ。唯一、日韓関係が正常化しただけだ。

     

    (2)「新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)以降、世界的に景気が悪化し、ウクライナ戦争やイスラエルとイスラム組織ハマス間の衝突など大きな悪材料も重なった。さらに、北朝鮮もミサイルの発射実験や軍事偵察衛星の開発など挑発の度合いを高め、現政権を苦しめた。国政運営の両軸である多数党のバックアップも、国民からの支持も得られなかった尹大統領にとっては、文字通り「弱り目にたたり目」となった2年間だった」

     

    韓国経済は、パンデミック後の世界的な調整の波にのまれて輸出不振が続いた。こうした、不運によって、高金利下での停滞状態にある。

     

    (3)「与党はこのような二重苦を打開するため、総選挙に総力戦で挑む構えだ。総選挙で勝利すれば、これまで遅々として進まなかった尹政権の国政課題である医療・教育・労働・年金の「4大改革案」を軌道に乗せることができる。尹大統領は今月5日、今年の業務報告を兼ねて開催した国民との討論会で、企業が労働者に支給する出産支援金を全額非課税とするための所得税法改正や各種開発事業の推進を約束したが、このような国民生活・経済回復策にも弾みがつくとみられる。一方、総選挙で敗北して巨大野党との対立を続けることになれば、これまで進展のなかった国政課題は有言不実行に終わる公算が大きい。そうなれば任期後半に入る現政権の国政掌握力はさらに落ちざるを得ず、早期にレームダック(死に体)に陥る恐れもある」

     

    与党が勝利できれば、尹政権の国政課題である医療・教育・労働・年金の「4大改革案」を軌道に乗せられる。韓国が少子化で消えるかどうかの瀬戸際に追い詰められている以上、「4大改革」は不可欠である。だが、左派勢力によって阻まれている。

     

    (4)「ここで手本になるのは、任期中盤に総選挙が行われた文在寅(ムン・ジェイン)・朴槿恵(パク・クネ)両政権だ。文政権は就任から約3年後の2020年4月に実施された総選挙で、当時の与党「共に民主党」と比例向け系列政党で定数300のうち合計180議席を確保する大勝を収め、安定した任期後半を送った。文大統領退任直前の22年5月には、検察の捜査権を大幅に縮小する法案を公布して任期を終えることができた」

     

    文政権は、与党の絶対多数支配によって、文氏が退任後も捜査されないようにする万全の準備をする余裕まであった。

     

    (5)「一方、朴政権は発足から3年後の16年の総選挙で与党「国民の力」の前身・セヌリ党が第1党から転落し、党の内紛が激化。翌年の朴氏の弾劾にまでつながった。導火線となったのは朴氏の長年の知人、崔順実(チェ・スンシル)氏の国政介入事件だったが、少数与党の構図の中でセヌリ党のガードが崩れたことが決定打となった。したがって、今回の総選挙でも与野党に分かれて陣営が結集したこれまでの大統領選の構図が再現される可能性が高いとみられる。明知大の申律(シン・ユル)教授(政治学)は「与小野大になれば、(現在の)第21代国会よりさらに劣悪な環境になるだろう」と述べ、政治評論家のパク・サンビョン氏は「少数与党になればレームダック化するだろう」との見通しを示した」

     

    朴政権は、「親朴」と「反朴」がいがみ合い小数与党へ転落し、それが弾劾への引き金になった。今回の総選挙で与党敗北という事態になれば、韓国は改革もできずに落勢を強めることになろう。今回の総選挙は、韓国の未来がかかったものとなる。

    a0960_008564_m
       

    デフレ「街道」まっしぐらの中国は、2月の消費者物価が6ヶ月ぶりにプラスとなった。春節(正月)のお祝い気分で、いつものケチケチ精神から解放されたのであろう。生産者物価指数は、前年比2.7%の下落である。17ヶ月も、このマイナス状態が続いている。

     

    『ロイター』(3月9日付)は、「中国、2月CPIは半年ぶり上昇 春節の支出寄与 PPIは下落続く」と題する記事を掲載した。

     

    中国国家統計局が9日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.7%上昇し、6カ月ぶりのプラスとなった。春節(旧正月)に関連した支出が寄与した。一方、生産者物価指数(PPI)は下落が続いた。

     

    (1)「2月のCPIは、前年比上昇率が市場予想の0.3%を上回り、11カ月ぶり高水準を記録。豚肉、生鮮野菜など主要な食料品のほか、春節前後の需要増に伴い旅行の価格が上昇した。1月は前年比0.8%も下落した。14年余りぶりの大幅なマイナスを記録していた。2月は、比較対象である前年同月の数字が春節に伴う支出増で高かったことなどが響いた」

     

    品目別にみると、食品は0.%低下したが、下落率は1月の5.%から縮まった。このうち、食肉消費の6割を占める豚肉は0.%上がり、23年4月以来のプラスに転じた。中国人にとって最大の好物は豚肉である。その豚肉がようやくわずかな上昇率をみせた。春節で需要が戻ってきたのだ。一時的とみられる。旅行関連の価格も23.%上昇した。春節を祝う気分が出てきたのだろう。

     

    (2)「ピンポイント・アセット・マネジメントのプレジデント兼チーフエコノミスト、Zhiwei Zhang氏は、「中国のデフレが終わったと結論付けるのは時期尚早だ」とし、「内需はまだかなり弱い。新築マンションの販売はまだ安定していない」と述べた。1~2月のCPIは、前年比横ばいだった。内訳では食品が3.4%、非食品が0.9%、それぞれ下落した」

     

    2月のCPIが、プラスになったからと言って、景気が上向く訳でない。春節の消費増えたからに過ぎない。一時的現象であろう。

     

    (3)「2月のPPIは、前年比2.7%下落。下落率は1月(2.5%)から拡大し、市場予想(同)より大幅となった。PPIの下落は17ヶ月続いている。」

     

    PPIの内訳をみると、産業構造の川上や川中にあたる生産財は3.%下落したほか、川下の最終製品など生活財も0.%下落した。耐久消費財が値下がりした結果だ。中国は、国内の過剰生産を輸出に向けると警戒されている。特にEV(電気自動車)で輸出攻勢を掛けるとみられる。

     

    (4)「中国はこの1年、不動産会社の債務問題が長引く中で低成長に見舞われてきた。国際貿易の低迷や国内投資の落ち込み、地方政府の債務問題も成長を一層押し下げている。政策当局者はさらなる措置を講じ「新たな質の生産力」を生み出すと表明している。中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は6日、1月に銀行の預金準備率を0.50%引き下げたが、さらに引き下げる余地があるとの認識を示した。李強首相は5日、2024年の経済成長率目標を5%前後に設定すると表明。インフレ目標は15年以降示してきた水準に沿って3%に設定した。23年のCPI上昇率は0.2%と政府目標を下回った」

     

    金融政策では、政策金利の引き下げには手をつけず、預金準備率の引き下げで流動性供給を増やしている。だが、借入意欲は極めて弱く貸出残高が減少するという異常事態を迎えている。経済常識から言えば、中国は「流動性の罠」という最悪事態に落込んでいる。金融を緩めても資金需要が起こらないのだ。

     

    (5)「UBSのエコノミストは、今週のリサーチノートで「3%のCPIインフレ目標にもかかわらず、われわれはCPI・PPIインフレの回復が小幅にとどまるとみている。不動産不況が深まれば、デフレリスクが高まる可能性がある」と指摘した」

     

    中国経済のカギは、不動産不況の動向にある。需要が弱く、目先の回復は望めない状況だ。最大の要因は、住宅購入契約を結んでも、確実に完成住宅が手に入るかどうか保証がないことだ。3000万戸とされる未竣工住宅を抱える状況で、新規に住宅が売れるはずがない。

     

     

    このページのトップヘ