勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    米中対立が抜き差しならぬ局面に向かうとともに、中国から部分移転計画の企業が増えていることが分った。米国企業だけでなく、北アジア企業、中国企業も「中国脱走」計画という仰天すべき調査結果が出たのだ。米国市場の魅力が、中国市場よりも勝っている証拠であろう。習近平氏は、こういう現実を知らないで「強気一辺倒」では、取り返しのつかない事態に陥るであろう。中国の敗北だ。

     

    『大紀元』(8月11日付)は、「中国撤退に強い意欲、76%の米企業が移転の意向ースイス銀行が調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国、北アジア、米国での起業家アンケート調査では、調査対象企業の60%、85%、76%が、生産能力の一部を中国から移転したか、または移転する予定があると回答している。

     

    (1)「スイス銀行(UBS)の最近の調査によると、輸出志向型企業はその生産能力の一部を中国から移転する強い意欲を示している。多くのサプライチェーンの移転は、中国製造業への投資をさらに制限することになる。UBSのリサーチ部門、UBSエビデンス・ラボの起業家アンケート調査によると、中国では60%、北アジアでは85%、米国では76%の回答者が、生産能力の一部を中国から移転したか、または移転する予定があると回答している。現在、外資系企業は生産能力の一部を中国から移転することに意欲的になっており、この2年間でその傾向が強まっている」

     

    中国企業は60%、北アジア企業は85%、米国企業は76%の回答者が、生産能力の一部を中国から移転したか、または移転する予定があるという。ここで驚くのは、中国企業も中国を脱出することだ。輸出企業にとっては、中国に止まるリスクが大きくなってきたのであろう。

     


    (2)「スイスのUBSグループの汪濤アジア経済研究主幹兼チーフ中国エコノミストは、「外資系企業がサプライチェーンを中国以外に移転することや、中国本土への投資の遅れは、中国製造業への投資に2%の影響を与える可能性がある」と分析している。同氏はさらに「サプライチェーンの移転は他の関連業界にも波及するので、経済全体への影響がさらに大きくなる可能性がある」との考えを示した。それ以外にも、長期的に見た科学技術分野での米中分断が最も懸念される。中国側が先端技術を獲得できず、情報交換ができなければ、今後数年でこの分野の生産性や潜在的な経済成長が低下する可能性がある」

     

    下線部分の指摘は重要である。中国側が先端技術を獲得できず、情報交換ができなければ、今後数年でこの分野の生産性や潜在的な経済成長が低下する可能性がある点だ。先進企業が、中国を去れば諸々の損害を受ける。技術情報の杜絶は、決定的な出遅れ要因になる。これが、経済成長率を低下させるのだ。

     

    (3)「今年から、国際社会は科学技術の分野での「脱・中国化」が加速している。たとえば、ファーウェイは9月以降、チップを購入できなくなり、iPhoneの製造工場は中国から撤退し始め、サムスンも製造ラインを中国から移している。さらに米国はWeChatTikTokを禁じ、インドでも、WeChatTikTok、百度、ウェイボーなど100以上の中国製アプリを禁止した」

     

    米国が、本格的な米中デカップリングに動き出している。米国から切り離された中国企業は弱いものだ。米国から技術をスパイしてくる中国である。「泥棒国家」が、米国の出入りを禁じられれば、自らできることは限られる。習近平氏には、こういう本質的弱点を抱えていることが理解できなかったのだ。

     


    (4)「「中国人民銀行の易綱総裁は89日、中国経済は世界の景気回復を「リードしている」、第2四半期では世界で唯一プラス成長を遂げた主要経済国だと前向きな発言を連発した。しかし、米紙『ボイス・オブ・アメリカ』は4日、専門家の分析を引用し、「多くの専門家が中国の第2四半期の経済データに疑問を持っている」と指摘した。さらに「疫病流行が続く中、中国では都市や地区が封鎖され、さらに洪水災害は27の省に影響を与えている。このような大規模かつ深刻な災害環境の中で、中国経済がどのようにして持続的な回復に必要な勢いを得ることができるのか、想像しにくい」と述べた」

     

    専門家は、4~6月期の中国GDPが+3.2%成長になったことに疑問の眼差しを向けているという。不動産だけが支えた経済であるからだ。相変わらずの「住宅バブル」が、押し上げた「怪しげな経済」である点に変わりない。

     

    あじさいのたまご
       

    中国国家主席にとって、もう一つの頭痛の種が増えた。世界一の水力発電所を擁する三峡ダムに「決壊説」がつきまとっていることである。ダム建設中、北京大学の水利工学の権威者が、江沢民国家主席に対して、3度も建設中止を嘆願する文書を提出した、曰く付きのダムであることだ。全人代でも三峡ダム建設を巡って賛否が対立し、反対派の演説のマイク電源を切るまでして着工した経緯がある。環境保護派が、猛烈な反対運動が行なった点で当時、「中国の良心」ともいわれた。

     

    この三峡ダムに決壊説が消えないのは、建設当初からの反対運動が尾を引いている面もある。だが、「決壊しない」と言い切れない弱味を抱えていることも事実なのだ。

     

    『大紀元』(8月11日付)は、「三峡ダムの潜在的危機が中国共産党に打撃―米VOA」と題する記事を掲載した。

     

    中国では6月から、南部を中心に大規模な洪水に見舞われている。国内外の一部の専門家は、中南部に流れる長江に位置する巨大水力発電ダム、三峡ダムの洪水抑制能力について疑問視し、長江上流での記録的な豪雨でダムの決壊の可能性を指摘した。米国の専門家は、三峡ダムが安全上に大きな問題が起きれば、統治の合法性を主張する中国共産党政権にとって、致命的な打撃を与えるとの見方を示した。米『ボイス・オフ・アメリカ』(VOA)が8月11日報じた。

     


    (1)「中国当局は長年、三峡ダムが「万年に1度」、「千年に1度」の大洪水を防げると宣伝してきた。国営新華社通信は200361日に発表した評論記事では、三峡ダムが「万年に1度の洪水を抑制できる」と強調した。しかし今年に入ってから、中南部地域で数カ月深刻な水害に見舞われた後、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、三峡ダムの「(長江)中下流地域での豪雨に対応する洪水災害抑制能力が限られている」との見方を示し始めた。中国紙『経済日報』を含む一部の国内メディアは、三峡プロジェクトは長江流域での洪水防止システムの一部にすぎず、「万能ではない」と主張した」

     

    中国メディアが、しだいに三峡ダムの堅固性について、自信が持てなくなってきた様子が分る。

     

    (2)「三峡ダムの総貯水量は393億立法メートルで、洪水調節総容量が221.5億立方メートル。しかし、ダム上流の通年の入水量は4500億立方メートル。洪水調節総容量は、上流入水量の5%にも満たない。今年6月29日以降、三峡ダムは複数回、水門を開き放水を行った。米スタンフォード大学フーヴァー戦争・革命・平和研究所(以下はフーヴァー研究所)のマイケル・オースリン研究員は、VOAに対して、三峡ダムだけでは深刻な洪水を抑制できないと指摘した。豪雨が続き、長江上流地域にある古い小型ダムが故障すれば、「壊滅的な」事態が起きる

     

    三峡ダムの洪水調節総容量は、上流入水量の5%にも満たないことが判明した。三峡ダムだけでは深刻な洪水を抑制できないわけで、長江上流地域にある古い小型ダムが決壊すれば、「壊滅的な」事態が起るという。そのリスクが、大きくなっているようだ。

     


    (3)「長江流域の洪水問題を研究する米アラバマ大学のデイビット・シャンクマン地理学教授は同様に、三峡ダムは「今年のような大洪水に対応できない」とした。シャンクマン教授は、「三峡ダムの洪水抑制総能力は、ダム下流と長江中流地域の洪水抑制総能力のわずかな一部だ。一部の洪水を貯水できるが、今深刻な状況では役に立たない」と話した」

     

    このパラグラフの結論は、(2)と同じである。

     

    (4)「マイケル・オーリンス氏は、水害や三峡ダムに関して、中国当局の透明性が欠けているとの認識を示した。「中国当局が、三峡ダムのリスク、同ダム上流に位置する小型ダムのリスク、住民の避難措置、食糧や電力の保障について情報開示ができるか、透明性を持つことができるかが最大な問題だ」。三峡ダムの洪水抑制能力への疑問が強まるにつれ、同ダムの潜在的な危険についての懸念も拡大した。新華社通信は718日、同ダムに「変位、漏出、変形」が見られたと異例に報じた。報道は具体的な数値を示さなかったが、国内外では三峡ダムの決壊に関する危機感が一段と強まった」

     

    中国政府は、「ウソ情報」ばかり流さず、具体的なリスク情報を示すべきである。その方が、「万一」の事態においてリスク軽減に役立つからだ。

     

    (5)「人民日報傘下の「中国経済週刊」は、中国工程院の王浩・院士らの話を引用して、内外の疑念を払しょくしようとした。王院士は「洪水防止能力は、水に浸かれば浸かるほど、100年内にかえってますます頑丈になる」と話した。中国水力発電工程学会の張博庭・副事務局長は「仮に、原子爆弾が直接ダムに命中したとしても、せいぜい大きな穴を開けるくらいだ」と述べた」

     

    下線部は、完全なウソ情報である。

     


    (6)「米国の専門家は、王院士らの見方を否定した。カリフォルニア州にパシフィック・インスティテュート」の所長で水文気候学の専門家であるピーター・グリック氏は、「ダムは、時間の推移につれて頑丈になることがない。ダムが建設完了の時にその構造が決まった」と強調した。また、同氏は三峡ダムが原子力爆弾に攻撃されるのが「出まかせだ」と批判した。グリック氏は、「大型ダムによる環境への破壊を認識したため」、一部の国の政府が大型ダムの撤去工事を進めていると反論した」

     

    ダムは、時間の推移につれて頑丈になることがない。ダム建設時に、その構造によって「寿命」が決まるという。中国の「非良心的」専門家は、中国指導部の顔色を見て、ウソ情報を流すから気を付けねばならない。世界では最近、大型ダムが環境破壊に大きな影響を与えていることから撤去されているという。三峡ダムは、前世紀の遺物に成り下がってきた。

     

    (7)「オーリンス氏は、今年の大洪水は「文化大革命以来、中国共産党が直面した最大の課題だ」と指摘した。党と政府は、『三峡ダムが安全だ』と国民に強調しているが、治水が失敗し、ダムの安全性に問題が起きれば、党の統治の合法性に最も致命的な打撃を与える。これにより発生する経済損失や農業生産問題などで、中国で抗議活動や反体制デモが起きるからだ。三峡ダム問題は共産党政権が最も懸念している『ブラックスワン(めったに起こらないが、壊滅的被害をもたらす事象)』であろう」。

     

    このパラグラフは、極めて重要である。三峡ダムの崩壊が起これば、中国共産党に致命的な打撃を与えるという。新華社通信はこのほど、8月中旬にも三峡ダム地域では少なくとも2回の大雨に見舞われると伝えた。長江流域における中国当局の治水能力が依然に問われているのだ。

     

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    肩で風を切って歩いた中国が、突然の「反中国」という突風に見舞われている。米国覇権に挑戦すると威勢は良かったが、コロナ禍ですっかりその勢いが止まった感じだ。それどころか、世界の至る所で「反中ムード」が起こっている。パンデミックに対する中国の不遜な態度が反感を買い、香港問題がそれを増幅したようだ。習近平、最大の危機到来である。

     

    『中央日報』(8月9日付)は、「『よろしい、借りた金は返さない』中国はなぜ各国からこんな扱いを受けるのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「『代価を払うことになるだろう』。7月30日の劉暁明駐英中国大使の話だ。劉大使はツイッター動画記者会見で「中国をパートナーや友人扱いしなければ英国は代価を払うことになるだろう」と述べた。脅迫ではなく「結果を教えるもの」ともした。5G通信網構築事業から英国がファーウェイを排除したことを受けた話だ。駐英大使が脅すほど英国の反ファーウェイ戦線合流はそれだけ中国には衝撃だ」

     

    英中蜜月時代は、とっくに消えていた。香港の「一国二制度」を破棄された英国は、怒り心頭である。これまで中国と交わしてきた「5G導入問題」を白紙にしてしまった。香港の「一国二制度」破棄があった以上、当然の話だ。駐英中国大使が、英国は「代価を払うことになるだろう」と捨て台詞を吐いているが、代価を払うのは中国なのだ。

     


    (2)「『よろしい、金は返さない!』。5月にタンザニアのマグフリ大統領がした爆弾宣言だ。中国から借りた100億ドルを返さないということだ。前任の大統領が結んだ契約が話にならない条件だった。借りた資金でタンザニアに港を作るが、使用権は中国が99年間持つ。中国の港内活動に何の条件もつけていない。マグフリ大統領は「酒に酔ってなければできない契約」と話した」

    タンザニアのマグフリ大統領は、中国に100億ドルの建設費を払わないと激怒している。借りた資金でタンザニアに港を作るが、その使用権は中国が99年間持つという契約だ。こんな不平等契約はない。タンザニアの前大統領が騙されたのだ。

     

    (3)「英国とタンザニアの両国だけがそうなのではない。欧州ではフランスも、中国に友好的だったイタリアもファーウェイ排除に出ている。他のアフリカ諸国も中国との建設プロジェクト中止に乗り出している。習近平主席が6月の中国・アフリカ特別首脳会議で債務償還期限を延期することにしたが不満は相変わらずだ。習主席の一帯一路外交の野望に亀裂が入っているという評価が出ている理由だ」

     

    中国への不満が一挙に出てきた。欧州ではフランスとイタリアもファーウェイ排除に乗出してきた。「一帯一路」では高金利(平均3.5%)で建設資金を貸付けてきたことがばれてしまった。親切ごかしに「一帯一路」プロジェクトを勧めてきたが、その利益はすべて中国が吸い取るシステムであった。「酷い中国」という評価が生まれてしまったのだ。



    (4)「中国はなぜこうした扱いを受けるのだろうか。これまで中国が国際社会で影響力を広げた秘訣は2つだ。▽安価な技術力・労働力▽莫大な資金力。英国がファーウェイに友好的だった理由が前者だ。アフリカが中国と緊密な理由は後者だ。だがそれだけだ。「金で影響力は買えても、心は得られなかった」。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のエリザベス・ブラウ専任研究員の一喝だ。彼女は「中国の国際地位急落はこれまで中国がグローバル商業ネットワークだけ構築し友情を育まなかったため」とみる」

    中国は、「金で影響力は買えても、心は得られなかった」ことが、急速な離反国を生んでいる理由である。やはり、パンデミックと香港問題が中国への見方を180度変えたのだ。さらに「戦狼外交」が、決定的な中国離れを起こしたのであろう。

    (5)「前記のブラウ専任研究員の分析を見よう。ブラウ氏は米『フォーリン・ポリシー』誌への寄稿で、「中国は米国が数十年にわたりさまざまな国に作ったソフトパワーが皆無だ」と批判する。「率直に中国は米国ほど魅力的ではない。世界でだれが自発的に中国の歌、中国のテレビ番組、中国のファッションを見てまねるだろうか」ということだ。中国の影響力の「元手」は今年明らかになった。新型コロナウイルスで多く国の経済が冷え込んだ。ここに米国の反中戦線参加の圧力はますます大きくなる。中国が掲げた利点だけでは中国と一緒にやる理由が足りなくなった。むしろ中国に対し抱えていた不満が水面上に出てきた。英国とタンザニアの反中行動はこうした背景で出た」

    中国文化に魅力がないことも、中国離反を急速に起こさせた理由と指摘している。中国政治は権威主義で人権弾圧。胡散臭さがいつもつきまとっているのだ。こういう中国と深く交わりたいと思う国は少ないはず。因果応報とはいえ、習近平路線が失敗したのである。「愛される中国」にならなければダメなのだ。それには、習氏が引退することが前提になろう。

    テイカカズラ
       

    米ドル安にまつわる憶測

    FRBは世界最後の貸手

    デジタル人民元の厚化粧

    「高利貸し」中国の素顔

     

    世界の基軸通貨である米ドが、「ドル指数」で見ると7月に4%超の下げとなった。月間の下落率としては約10年ぶりの大きさとされる。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった3月は、世界的な米ドル資金不足が顕著で、ドル高になっていたのである。それが、現在のドル安相場で、いろいろと憶測が流れている。米国の景気や政治への不安の高まりから、マネーが逆流している、というのである。

     

    米ドル安にまつわる憶測

    米国は現在、新型コロナウイルスが蔓延している。11月の大統領選挙を前に、共和党も民主党も党大会によって正式な候補者選出ができないほどだ。こういう状況を見れば、「米国不安」説が出てくるのも致し方ないであろう。この状態が、1年も2年も続くのではない。一時的な混乱であろう。米国の強さは、「地下水脈」として世界経済をしっかりと支えているところにある。これこそ、基軸通貨国として盤石な強味となっている。

     

    金の国際価格は連日、史上最高値を更新している。米ドルの価値が落ちていることの反比例現象だ。基軸通貨米ドルの信認が問われているというのである。金の国際指標ニューヨーク先物相場は7月末、初めて1トロイオンス2000ドルを突破した。9年ぶりの最高値を更新し、改めて米ドル相場の下落と関連づけて注目されている。つまり、米ドルが下落して不安を煽っており、金に乗り換えているというのだ。

     

    市場では、「今後1年半のうちに1トロイオンス3000ドルを目指す」(米バンク・オブ・アメリカ)との声も飛び出したという。実需が乏しいのに金のさらなる上昇を信じて疑わないのは、世界の通貨取引の中心にあるドルの価値が低下に向かうとの見方を強めているためだという。以上は、『日本経済新聞』(8月9日付)が報じたものだ。

     


    前記の『日本経済新聞』は、現在の世界における米ドル需給状況を次のように説明している。

     

    「米連邦準備理事会(FRB)は3月、金融市場の動揺に対応して無制限の量的緩和に乗り出し、米政府の経済対策のための国債増発を事実上、支える構図になった。企業の資金繰りを支える社債購入にも着手した。さらに、ドルの確保に追われる各国に、それぞれの中央銀行とのドルスワップの枠組みで最大約4500億ドルを供給した。その結果、FRBが米国内に供給する資金量を示す『マネタリーベース』は5月に5兆ドル強と2月末比で約5割増えた。米国以外の中銀が外貨準備として抱える米ドルを合算した世界のドルの流通量『ワールドダラー』も5月に過去最大の8兆ドルに達した」

     

    世界のドルの流通量「ワールドダラー」は、5月に過去最大の8兆ドルに達したという事実に注目すべきであろう。3月にパンデミックによる世界経済への衝撃は、FRBによる果敢なドル資金供給によって、破綻することなく乗り切れたのである。仮に、FRBが米国だけの経済事情でドルを供給し、他の中央銀行とのドルスワップの枠組みを設定していなかったならば、「世界恐慌」が現実化する公算が大きかったであろう。FRBが、この危機を救ったと言っても過言でない。

     

    こういう事実を振り返れば、現在のドル安相場は世界経済危機を未然に防ぎ、小康状態にあることを示している。危機を防いだ大量のドル資金が、その役目を終えて金相場へ向かっていると見れば良いわけで、米国経済の新たな不安という解釈には賛同し難いのだ。

     

    FRBは世界最後の貸手

    FRBは、これまで世界の中央銀行になることを拒否してきた。一国の中央銀行は、「最後の貸手」として、金融的混乱を食い止めるべく貸出をして「連鎖倒産」を防ぐ義務がある。FRBが世界の中央銀行になることは、「最後の貸手」になる責任を負うのだ。今回のパンデミックでは、IMF(国際通貨基金)が1929年の世界恐慌再来という危機感を強調していたほど。こうした切羽詰まった状況で、FRBは「世界の中央銀行」として、最後の貸手に踏み切ったのである。この意味は、極めて重要である。FRBが、世界経済を支配する実力を備えた機関であることを示したことだ。(つづく)

     

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    中国の習近平国家主席は、後代の歴史家にどのように評価されるだろうか。「民族主義者」習近平は、国力を無視して米国へ挑戦して退けられ、急速に国力を消耗したと記されるであろう。現実に、中国が真っ正面から米国にぶつかっても、勝てる相手でないのだ。「速度制限」を大幅に上回って疾走してきた中国が、速度制限にゆとりを持たせて走っている米国に、耐久レースで勝てるはずがない。本欄は、米中関係を本質的にこのように見る。

     

    『日本経済新聞』(8月8日付)は、「米怒らせた中国 外交に変化の芽 」と題する寄稿を掲載した。筆者は、豪ロウイー研究所シニアフェロー リチャード・マクレガー氏である。豪紙『オーストラリアン』を経て、英紙『フィナンシャル・タイムズ』で北京、上海支局長を経験した。

     

    米国をはじめ多くの国々との関係が悪化する中国の指導部は、疑問を抱き始めているだろうか。表面的には、習近平(シー・ジンピン)国家主席らが軌道修正し、野心的な外交目標を後退させている兆候はみえない。

     

    (1)「中国人民解放軍のシンクタンクである中国軍事科学院の周波・名誉フェローは7月27日、香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』に寄稿した。周氏は米国との対立を、中国の「平和的」な発展への「逆風」とみているようだ。ポンペオ米国務長官は723日、演説し、米国は国際秩序を転覆させようとする中国の試みをもはや容認しないという姿勢を示した。中国は周氏のような論調を示し、厳しい対中批判をかわそうとしているようだ。中国の学者らの間には以前から、強引な外交・軍事政策によって米国を挑発していると習氏を批判する声が上がっていた」

     

    中国にとって「不運」なのは、新型コロナウイルスがパンデミックとなって世界に甚大な悪影響を与えたこと。もう一つ、香港に国家安全維持法を導入して「一国二制度」を破棄したことだ。これは、従来の中国イメージを一変させた。「何をするか分らない中国」というイメージを欧州に植え付けたのだ。

     

    欧州は、これまで米国と距離を置いて、中国への「親近感」を持ってきた。それが、パンデミックと香港問題で一変した。米国との距離を縮めて対中共同作戦を取るに至ったのだ。

     

    こういう海外における対中姿勢の変化は、中国国内の「習近平反対派」を勇気づけるであろう。中国経済が悪化すればするほど、「習批判」が高まっても可笑しくはないのだ。

     


    (2)「かつて改革開放にカジを切った鄧小平氏は、爪を隠して力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」という対外政策だった。習氏への批判派は、控えめな外交路線を貫くほうが、中国の国益にはるかにかなうと考えているようだ。中国のような大国が低姿勢を保つのは不可能なのかもしれないが、批判派は習氏を名指しせず、鄧氏の路線を持ち出して隠れみのにしようとしているらしい

     

    習氏は、実父と鄧小平の関係が悪かったことから、鄧小平を低評価する悪いクセがある。国家指導者としての器量は、鄧小平が断然、習近平を上回っている。鄧小平が健在であれば、現在のような米中関係になっていなかっただろう。

     

    (3)「中国の外交官らが他国に攻撃的な言動をする「戦狼外交」は、一時期に比べ鳴りをひそめているようだ。中国が新型コロナウイルスの感染拡大の危機から脱しつつあった時期、多くの国から激しい反発を受けたため、外務省の「戦狼」は頭を垂れておとなしくしているとみられる」

     

    「戦狼外交」(注:他国への戦闘的発言)は、世界の反感を買った。中国外交部に根拠のあやふやな「ウソ情報」を流させたところに、習近平氏の狭量さが見て取れる。子どもじみた発言だったのだ。習近平氏が、偉大なる指導者であれば「戦狼外交」などさせるはずがない。自ら、視野の狭い民族主義者であることを証明した。

     


    (4)「中国人民解放軍の戴旭氏は対外強硬派の論客とされるが、最近の寄稿で、中国が米国と比べた自らの弱点を認識して行動することを提唱している。戴氏はトランプ米政権の不安定で一方的な外交、特に貿易政策への不支持が広がっているにもかかわらず、米国と対立する中国の友人が増えるわけではないことに注目する。中国とともに、反米同盟を結成しようと名乗りを上げる国はないと論じた」

     

    パンデミックに巻き込まれている各国が、中国の味方になるはずがない。各国とも、中国へ賠償金を請求したいほどである。中国は、これで大きな借りができた。中国外交の制約条件となったのだ。

     

    (5)「戴氏は、中国が(米国の)ドアをたたき「米国を追い越し、米国に取って代わり、世界一になる」と声高に宣言すべきではないとも警告している。中国が先走っていることを認めているようだ。戴氏は、中国は日本に目を向けるべきだという。日本は中国よりも、他国に追い抜かれそうな米国の不安をよく理解しているとみているのだろう。貿易問題で米国の圧力にさらされている中国の政府高官は近年、米国への対処法について、日本の関係者に助言を求めているようだ」

     

    米中関係が悪化すると、中国は不安になって日本へ接近する。これまでの例が、それを示している。日本に、米国への仲介を頼むためである。ただ、これは日本を利用する、便宜的なものに過ぎない。日本と真の友好関係になろうと考えていないのだ。尖閣諸島への中国の姿勢を見れば、それは明らかである。中国の日本への「ニーハオ」は、つくり笑いに過ぎない。それを忘れると大変な目に遭うだろう。

     


    (6)「日本には貿易摩擦で米国の圧力をかわすために使った手法があるが、中国への重要な助言は「米国を怒らせるな」ということだろう。もちろん日本と中国は異なる。日本は(軍事面などで)米国に保護される立場でもあり、不利な立場に置かれていたといえる。中国にこうした制約はない」

     

    日本は、太平洋戦争で米国を怒らせた代償で原爆を浴びた。米国は、「ヤンキー精神」(開拓者精神)であることを忘れると大変な事態を招くのだ。

     

    (7)「中国は日本よりはるかに大きく、軍はより強大で、政治体制は西側に対する強力な敵愾心に根差している。中国の野心や鉄の規律などが、軌道修正を難しくしている。中国は既に「米国を怒らせてしまった」ため、現状の変更は容易でないだろう。米国だけでなく、歩調を合わせた世界の中国への反発が、当面続くことは確実だ。中国に友好国がなくなる懸念はあっても、各国の反発が、中国の行動に影響を及ぼすかどうか定かではない」

     

    中国は、すでに先進国をすべて敵に回してしまった。今さら、「ごめんなさい」とも言えないであろう。中国を救う道は、習氏が引退することに尽きる。中国が、保護主義を守って世界を敵に回せば、亡国の道へ通じるであろう。

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