勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国国家統計局が、4月30日発表した4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月より2.7ポイント低い49.2へ急落した。好調・不調の境目である50を4ヶ月ぶりに下回ったのでる。家計の耐久財消費や住宅投資の持ち直しが遅れており、新規受注が落ち込んだことが原因である。

     

    製造業PMIは、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わった1月から50を上回ってきた。それが、4月には50割れとなって、中国経済の回復遅れを見せつけている。こうした事態は、鋼材相場の急落で証明された。中国の鋼材は、住宅建設が主要需要先である。住宅需要の回復が思わしくないことを示している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月30日付)は、「鉄冷え再来の懸念  鋼材5カ月ぶり安値 中国減速を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    鉄や非鉄金属など産業素材の価格が急落している。鋼材は約5カ月ぶりの安値をつけ、亜鉛は高値に比べ2割安い。中国のゼロコロナ政策後の景気回復を期待して2022年末から価格は上昇したが、需要の伸び悩みが明らかになってきたためだ。中国景気の腰折れへの警戒に加え、中国で余った鋼材が安価に輸出され、国際市況を悪化させる「鉄冷え」への懸念も高まっている。

     

    (1)「中国の商品先物取引所である上海期貨交易所(SHFE)に上場する熱延コイルは4月26日に1トン3928元(約7万6000円)と、終値ベースで5ヶ月ぶり安値を付けた。薄い鋼板を巻き取った熱延コイルは建築部材や産業機械の生産に欠かせず、中国の鋼材価格の指標だ。現地の鋼材市況の悪化を示している。非鉄金属や化学製品も下落が目立つ。亜鉛の国際指標は1月下旬の年初来高値と比べ2割安い。アルミも1月中旬の高値から1割下がった。建設資材として使う塩化ビニール樹脂のアジア価格も高値から6%安い」

     

    産業資材相場(鉄鉱石・熱延コイル・アルミニウム・亜鉛)は、3月後半からの下落が目立っている。需要不振が明らかになって「リオープン景気」が空振りになった。

     

    (2)「国内の商社関係者は、商品安について「期待の空振り」と昨年12月のゼロコロナ政策緩和後の産業素材の需要の戻りの弱さを指摘する。コロナ後の経済活動の回復を視野に入れて、川上の素材産業は生産を急拡大させてきていた。23年1~3月の中国の鉄鉱石輸入量は前年同期比約10%増の2億9434万トン。同時期としては過去最高となった。中国国内の粗鋼生産量も2億6160万トンと6%増えた。一方で、中国国家統計局によると、1~3月の製造業などの設備稼働率は74.%と、22年通年と比較しても1.3ポイント低い。1~3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.%増と市場予想(4.0%)を上回る強さをみせたものの、耐久消費財などの回復に力強さがみられない」

     

    製造業などの設備稼働率は、1~3月に74.%で22年通年と比較し1.3ポイントも低いことが分った。昨年は、ゼロコロナで経済活動が大幅に制限されていた時期だ。この1~3月の稼働率が、昨年通期より下回っているのは、中国経済の立ち上がりがいかに不調であるかを見せつけている。事態を楽観してはならい事例がここに出てきた。

     

    (3)「鋼材需要の過半を占める建設向けも低調で、1~3月の不動産開発投資は前年同期比で5.8%落ち込んだ。3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で大規模な不動産振興策が打ち出されなかったこともあり、産業素材の需要増への期待感は一段と後退した。丸紅経済研究所によると、中国の13月の粗鋼の生産量から鋼材の消費量を引いた供給過剰分は約2714万トンと2年ぶりの高水準となった。「鋼材の供給過剰が価格の下押し圧力となっている」と丸紅経済研究所の李雪連氏は指摘する」

     

    1~3月の不動産開発投資は、前年同期比で5.%も落ち込んでいる。これだけ、鋼材需要が減っていることを示している。報道では、住宅販売が微増としているが、それは住宅在庫が減ったという意味に過ぎない。まだ、新規建設へは結びつかないのだ。雇用状態が悪化している中で、住宅ローンを組んでまで住宅購入できる層は限られるであろう。

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    ピュー・リサーチ・センターが昨年行った世論調査で、米国と日本、韓国、オーストラリア、スウェーデンでは回答者の約8割が中国に好感を抱いていないことが分った。これらの国では政治家が、悪化する対中感情をテコに、中国の政治・経済的影響力を抑えるための政策が推進されている。例えば、米国である。半導体技術への中国のアクセスを制限するために、日本とオランダを説き伏せて実行へ持ち込んだ。中国の悪印象が招いた事態である。

     

    この悪印象をさらに強めかねない事態が迫っている。7月1日から実施される改定「反スパイ法」である。逮捕の基準が不明確であり、西側諸国への報復という見方が出ている。これでますます「反中国的」な動きを強めることになろう。

     

    『ブルームバーグ』(4月28日付)は、「『次は誰か』、中国の外国人駐在員に広がる不安-米ベインにも調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国指導部は外国からの投資を一層呼び込もうとしている様子だが、外国人駐在員の間では外国企業を標的とした新たな調査があるのではとの不安が広がっている。米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは今週、同社の上海オフィス従業員が中国当局から事情を聴かれたことを確認した。

     

    (1)「ベインの広報担当者はニューヨーク時間4月26日、上海オフィス内で「中国当局がスタッフに事情を聴取した」とブルームバーグ・ニュースに述べ、「適宜協力している」と説明。それ以上のコメントは控えた。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)はこれより先、中国の警察が約2週間前にベインの上海オフィスを突然訪れ、コンピューターと電話を押収したが、スタッフの身柄を拘束することはなかったと報じていた。事情に詳しい6人の関係者からの情報だという」

     

    米コンサルティング会社ベインに対して、中国当局はコンピューターと電話を押収した。威嚇するには十分な動きだ。身柄が拘束されれば、どうなるか分らない。暗黒社会の恐怖感を与えるのだ。中国嫌いになる理由に事欠かない舞台装置である。

     

    (2)「中国当局は3月、ニューヨークに本社を置く企業調査会社ミンツ・グループの北京拠点を捜索。その数日後にはアステラス製薬の社員を拘束した。在中国米商工会議所のマイケル・ハート会頭は、「われわれのビジネスコミュニティーはおびえ、会員企業は『次は誰か』と問いかけている。政府の意図とは関係なく、それがメッセージとして受け取られている」と指摘した」

     

    中国では一度、獄窓につながれたらどうなるか分らない恐怖感がある。GDP2位の国家がやるべきことではない。恐怖政治の対外版である。

     

    (3)「中国当局は3月31日、米マイクロン・テクノロジーに対しサイバーセキュリティー調査を始めたと発表した。先端半導体の対中供給を絶とうとする米主導の取り組みに対して、中国が反撃する用意があるというメッセージを米国とその同盟国に送るもの。すでに、中国事業に対し慎重になっている米企業をさらに遠ざける危険性もはらむ。企業調査を手掛ける米ミンツ・グループアステラス製薬の社員が、中国本土でほぼ同じ時期に拘束された件にも同じことが言えそうだ。詳しい拘束理由は明らかにされていない」

     

    詳しい拘束理由を明示しないところに、恣意的逮捕という印象を強める。先端半導体輸出禁止への報復と受け取られているのだ。西側諸国は人権第一で、中国のこうした暴挙に報復しないので「やられ損」になっている。

     

    (4)「中国の経済成長と企業利益には改善が見られるものの、外国投資家は中国株に慎重な姿勢を崩していない。地政学的な緊張は資金流入や中国株のパフォーマンスを抑え、トレーダーは米中関係がどこまで悪化するのか見極めようとしている。MSCI中国指数は4月に約5%下落し、世界最悪の部類に入る。アジアのファンドは米国勢とは異なり経済再開トレードの時期に中国をオーバーウエートとしたが、いまやエクスポージャーを減らす方向に動いている

     

    かつて親中派を公言していたウォール街も、今では中国に懐疑的になっている。習政権が民間セクターを締め付け、「中国は投資できない国になったのではないか」とマネーマネジャーは懸念しているからだ。中国のゼロコロナ政策廃止に伴い、「中国経済リオープン」を囃し立て上げた株価も、すでに「行って来い」に終わった。中国経済は、こういう形でじり貧に追込まれて行くのであろう。すべては、習氏の権威主義が招く事態である。 

     

     

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    中国は、韓国が「二股外交」に幕を引き、西側諸国と価値観同盟を結ぶという選択に焦っている。中国が現在、些細なことに「ケチ」をつけて、大げさに騒いでいるからだ。こういう中国の感情的な振る舞いは、韓国の離反が経済的にも手痛い打撃になっていることを証明する。中国半導体が、致命的な損害を受けるのであろう。

     

    中国は、韓国が米国と「鋼鉄の同盟」と結束を誇っているだけに、日本へ接近してきた。日本が半導体製造装置の対中禁輸措置を決めたことへの「陳情書」だ。日本人を「反スパイ法」で拘束する一方で、こういうアプローチをしてくる。利益のためには、メンツを捨て手段を選ばない動きをするのだ。

     

    『中央日報』(4月28日付)は、「中国の非難に焦りがにじみ出ている」と題する記事を掲載した。

     

    中国は、「鋼鉄同盟」を高らかに謳う韓米首脳を見守った不安が、凶器のような荒々しい言葉で噴出している。THAAD(高高度防衛ミサイル)事態以降、静かだった韓中関係が再び荒波に陥る雰囲気だ。

     

    (1)「環球時報元編集者の胡錫進氏は4月27日、「大勢は逆らうのが難しい」という題名のコラムで、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を露骨に非難した。尹大統領に対して胡氏は、「韓中修交以降、中国に最も非友好的な韓国大統領であり、韓国社会の反中感情をあおる実質的な煽動者の1人」としながら「韓国を悪の道に追い込んでいる」と直撃した。さらに「尹大統領は中国文化で定義する小人で、道徳性が不足していて戦略的夢遊病患者のように行動する」とし「中国はそのような政治家を叱責し、決して免罪符を与えてはいけない」と主張した」

     

    感情論での批判は、中国が苦しい立場であることを証明している。中国も感情過多に陥っている。「戦狼外交」の延長戦だ。

     

    (2)「前例を探しづらいほど過激な言葉での韓国非難だ。中国「戦狼」メディアの代表格である胡氏は、ソーシャルメディア2476万人のフォロワーを率いて、当局の意中そのままに世論を追求してきた。「中国は、戦略的決断を維持して尹政府とダンスを踊ってはならない」という部分で、今後の中国による反撃を予想させる」

     

    中国は、どういう形で韓国へ報復するか。5月のG7首脳会議では、中国による制裁に対する共同報復案が検討される。中国は、この「罠」に引っかかる恐れがあろう。

     

    (3)「韓国政府は、中国の態度にひとまず言うべきことは言うという姿勢だ。中国外交部が、尹大統領の台湾発言に対して20日「口出しを容認しない」と言ったことに、韓国外交部は「無礼な発言は容認しない」と正面から受けて立った。「日本にひざまずいた」という中国メディアの報道には、「傲慢が度を越した」と反撃した。反論とあわせて「武力による現状変更はしてはならない」という発言に興奮した中国に、「一つの中国原則を尊重する立場には変わることがない」と流した韓国外交部の応酬は時期適切だった。韓国の原則的な発言に興奮し、中国が外交的礼儀まで失ったという印象だけを残したのである。中国外交部はこの日も韓米共同声明を問題視して「台湾問題で間違った危険な道に行くな」と警告した」

     

    中韓の応酬で見せた韓国の対応は、堂々としていた。中国よりも「格上」という感じさえするほどだ。韓国が、冷静に切り返しており、過去になかった対中姿勢を見せている。

     

    (4)「韓米間半導体協力を巡り、「米国の命令に従えば韓国企業に被害が及ぶ」という中国の反応も過度な側面がある。米国の提案は、韓国企業が中国のチップ不足分を満たさないでほしいと言うことだ。こうなればチップ輸入量が減る中国が、直接的な打撃を受ける場合が出てくる。焦った中国が、遠まわしに韓国を圧迫したといえよう」

     

    米国は、韓国の半導体中国工場の生産量を今後10年間に5%増にすることにした。韓国半導体が、米国で補助金を受領するための条件である。中国の言い分は、この5%枠に縛られずに増産を要請しているのであろう。約束を破れば、韓国が米国から制裁される羽目になるから、契約破りは不可能なのだ。

     

    (5)「韓米会談以降、中国がどんな対応に出るかははっきりしない。だが、北朝鮮問題や輸出企業制裁など中国が使える手段は多様だ。中国が受ける圧力が大きくなるほど反撃の強度も強くなる可能性がある」

     

    中国は、米中デカップリングがもたらす影響を冷静に分析すべきである。台湾侵攻計画を捨てないことへのペナルティーだ。中国は、台湾侵攻を内政問題としている。ロシアも、ウクライナ侵攻を内政問題とするなど、全く同じ理屈である。戦争は悪という認識が、中ロに欠如しているのだ。これは、甚だ困ったことで、ペナルティーを科されて当然である。



    あじさいのたまご
       

    世界の著名投資銀行は、中国の1~3月期GDPが予想を上回る4.5%(前年同月比)を材料に、今年のGDP予測を上方修正するほど楽観的である。だが、順調に回復したとされる消費も中身を見れば、貴金属や宝石という日々の生活とは無縁の「貯蓄の変形」であった。こういう事実から、手放しの楽観論は誤解を生むであろう。現に、中国共産党中央政治局が警戒姿勢を見せているのだ。

     

    『ロイター』(4月28日付)は、「中国の持続的な景気回復 需要拡大が鍵―共産党政治局」と題する記事を掲載した。

     

     中国国営メディアによると、共産党中央政治局会議は28日、国内経済は回復しつつあるが、内需は依然不十分で、経済変革の障害となっているとの見解を示した。

     

    (1)「第1・四半期の経済成長が予想を上回る中、需要縮小、供給ショック、期待の低下という中国経済が直面する3つの圧力は緩和したとしている。国営メディアは「市場の需要は段階的に回復し、経済発展は上昇傾向を示している。経済の運用は良いスタートを切った」と報道。ただ「勢いは強くなく、需要は依然不十分だ。経済の変革と向上は新たな障害に直面しており、質の高い発展には多くの困難と課題を乗り越える必要がある」としている」

     

    下線部は、中国経済が回復軌道に戻っていないことを示唆している。1~3月期の成長率は、前期比では2.2%、前年同期比では4.5%である。世界の投資銀行は、この4.5%増が事前予想を上回ったとして、楽観的な予測に切り替えている。

     

    下線部では、質の高い発展には多くの困難と課題が存在するとしている。具体論は述べていいないのだ。弱点を西側諸国に掴まれるのを警戒しているのか。これは、個人消費に問題をはらんでいるからだ。

     

    3月の名目小売売上高(社会消費品小売総額)は、前年同月比10.6%増と、過去2ヶ月平均の3.%増を大きく上回った。だが、この中には金・銀・宝石が37.%も含まれていたのだ。これを除けば、個人消費は低調であった。決して、今年のGDP予測を上方修正するほどの中身でなかったのだ。市民が、金・銀・宝石を買い込んだ背景には、先行きの中国経済に警戒観をもった結果であろう。

     

    (2)「需要の回復と拡大が、持続的な景気回復の鍵を握ると強調。押し上げを図るため、積極的な財政政策を強化し、金融政策と連携する必要があるとした。一部に弱さが残っており、本格的な景気回復はまだ先だとみられるとし、サービス消費を押し上げるため、都市と農村の家計所得を増やす必要があると主張。民間投資を効率的に拡大する必要があるとも指摘した」

     

    中央政治局会議では、本格的な景気回復でないと結論づけている。『ブルームバーグ』(4月28日付)によれば、民間セクターへの支援を強化するとし、インターネット企業のイノベーション(技術革新)を支えるという。インターネット企業は、習氏の指示により強い圧力が加えられ整理を余儀なくされた。それが一転して、イノベーションを支えていくと豹変しているのだ。

     

    多くの失業者を抱えているので、このインターネット企業に吸収させようという狙いであろう。こういう政府の朝令暮改では、民間が一層の疑念を持つことになろう。行き当たりばったりで一貫した政策がないのだ。

     

    4~6月期のGDPは、どういう流れになるか。昨年同期のGDP成長率が低かったので、このベース効果によって、4~6月期は1~3月期よりも高くなり、前年同月比で5%を超える成長率が見込まれる。だが、前期比で見れば1~3月期に及ばないとスイス投資銀行ピクテが予測している。さらに、前期比では、1~3月期がピークであり、期を追うごとに成長率が鈍化するという厳しい見方だ。

     

    実は、このピクテ予測は、すでに『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(2月15日付)の「中国は世界経済を救う、当てにしてはいけない」と題する記事で明確にしていた。WSJは何を根拠にして、こういう予測をしていたのか。それは、コロナ下の貯蓄率が対GDP比で最も低いことだ。米国は10.7%に対して、中国は3.5%と最低であった。中国政府が、財政で家計の所得補填をしなかったことが影響しているのだ。

     

    こういうことから、中国ではゼロコロナ終了後に家計は一斉に、貯蓄増に励んでいる。消費は後回しだ。若者の高い失業率(約20%接近)が、消費を抑制している。この失業率は、これから改善される見通しはあるか。6月には、1200万人に近い卒業生が雇用市場へ参入する。これでは、失業率が改善するはずがない。景気回復論は、「蜃気楼」のようなものになろう。

     

     

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    ソ連崩壊後のグローバル経済で、中国は膨大な労働力を背景に世界のサプライチェーンの核に躍り出た。中国は、永遠に続くと錯覚しているが、すでに「脱中国」の動きを早めている。中国の人件費高騰と米中デカップリングは、これに拍車をかけているのだ。 

    モノづくり拠点は、先進国から発展途上国へと次々に移動していくという理論が、1935年に日本人経済学者・赤松要氏によって提唱されている。「雁行型経済発展論」と呼ばれるもの。モノづくり拠点も、雁が列をなして飛ぶように発展経路を変えるのだ。この理論が、現在まさに中国から周辺国へ生産拠点が移動することで証明されている。 

    『日本経済新聞 電子版』(4月28日付)は、「サプライチェーン激変、米台主導で進む 『脱中国』」と題する記事を掲載した。 

    米中対立や人件費の高騰などを受け、製造業による「脱中国依存」の動きが、ここに来て再び加速してきた。新型コロナウイルスの影響でこの数年間は停滞していたが、中国に巨大な工場を構える鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾勢を中心に、顧客の米国の要望を受け、米台が足元で本格再編の動きをみせる。新たな移転先はベトナムやインド。「世界の工場」の役割を担った中国は転換期を迎え、モノづくりは今後、西へと重心を移す。 

    (1)「世界のアップル製品の大半を受託し、中国で多くを生産してきた台湾大手が今、続々とベトナムで投資計画を打ち出す。主力のアップルなど、中国リスクを嫌う米国顧客の強い要望を反映した形だ。「特にベトナム北部は、今やアップル製品の新たな生産基地になってきた」。日本貿易振興機構(ジェトロ)ハノイ事務所で現地調査を続ける萩原遼太朗・調査ダイレクターはそう話す。具体的には、北部バクザン省ではアップル製品の生産で世界首位の鴻海の積極投資が続く。昨夏、3億ドル(約400億円)を追加投資し、3万人を雇用する計画を現地メディアが伝えたが、今年2月にはさらに45ヘクタールの広大な土地を57年まで賃貸する新規契約を結んだ。今後は脱中国を加速。25年までに中国以外での生産比率を約3割にまで引き上げるものとみられる」 

    モノづくり拠点の移動は、技術と資本を持つ台湾企業によって行われている。この台湾企業は、中国を世界のサプライチェーンの核に押し上げたが、今や「脱中国」の先兵になっている。中国では、採算が限界にきたかただ。

     

    (2)「ベトナムは中国と隣接し、部品調達でメリットがあるほか、魅力はやはり人件費だ。製造業の作業員の月給(基本給)でみると、中国が現在607ドル(8万円強)なのに対し、ベトナムは277ドルといまだ半分以下。人口も今年1億人を突破するとみられており、進出にあたっては「内需への期待も大きい」(萩原氏)。ベトナムはもともと海外企業の投資を呼び込み、中国から素材や中間財を仕入れ、米国に完成品を売って稼ぐモデルを築いた。近年は米インテルや中国大手の大型投資を呼び込んだが、今後は鴻海など長大な供給網を有するサプライヤーの投資機会が増えるとみられる」 

    ベトナムの魅力は、人件費の安さにある。中国の半分以下である。人口も1億人を突破するなど労働力に事欠かないのだ。 

    (3)「中国に代わって、世界一の「人口大国」となるインドへの投資の動きも活発だ。鴻海の経営トップの劉揚偉董事長は2月末、インドでモディ首相との会談を実現。帰台後の3月、業界団体の会合で「インド経済はこれから間違いなく離陸する。台湾はそのチャンスをつかむべきだ」と発言したが、その言葉通り、鴻海はインド南部のカルナタカ州とテランガナ州で相次ぎ工場用地を取得。最新の「iPhone14」を生産する南部チェンナイなどに続き、スマホ関連の工場を今後さらに増やす」 

    インドも、豊富な労働力でサプライチェーンを担う一角になる。アップル製品の重要な需要と供給の両面で期待がかかっている。

     

    (4)「台湾電機大手のある幹部は、「プリント基板の一大生産拠点である中国の武漢から今、タイに大移動が始まった。今後はタイが中国を超えるだろう」と、業界の急速な「脱中国」の動きに驚きを隠せない。プリント基板はパソコンや家電などデジタル製品に欠かせず、これもまた台湾企業が中心的な役割を担ってきた。従来の集積地は中国湖北省・武漢。中国全体で世界生産の約半分を担ってきた。だが、34月だけでもアップルの有力サプライヤーである台湾の欣興電子(ユニマイクロン)や華通電脳が相次ぎ、タイ進出を発表。急速なこの流れはもう止まりそうにない」 

    プリント基板の生産拠点は、猛烈なスピードで中国からタイへシフトしている。この主役も台湾企業である。

     

    (5)「『世界の工場』と言われた中国のモノづくりは、アジアへの分散が進み、転換期を迎えた(中国・広東省東莞市)。台湾勢による海外直接投資は13月、中国以外向けの比率が9割超(金額ベース)にも上った。中国向けが前年比で1割減となる一方、東南アジア・インド向けは5倍近くに増えた。明らかな構造的変化が起きている。台湾勢は中国が改革・開放路線を加速した90年代から本格進出し、中国にモノづくりを教え、「世界の工場」となるための先導役な役割を果たしてきた。だが30年余。台湾勢の動きが再び起点となり、中国中心に築かれた世界のサプライチェーンは今、大きく塗り替えられつつある」 

    台湾企業は、IT製品の受託生産で大きなアドバンテージを持っている。中国で利益を上げ、次は「脱中国」で動く。世界のサプライチェーンを動かす影の主役だ。

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