勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国の不動産バブル崩壊は、世界の不動産業界の苦境と重なってきた。住宅市場から商業用不動産に至るまで、世界最大の資産クラスである不動産の価値が下落しているからだ。これが、世界経済に信用不安の波を引き起こす恐れすらあると指摘されている。

     

    こうした状況下では、中国不動産価格が暴落して割安になっても、中国だけの事情でないことが分かるはず。中国は、自力で不動産不況を乗り切るしか道がなさそうだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月23日付)は、「中国、不動産支援に転換 銀行の融資態度一変」と題する記事を掲載した。

     

    中国が不動産市場を支援する姿勢に政策を転換した。金融監督当局が国有銀行に融資を指導し、銀行の融資態度は一変している。危機に瀕していた不動産各社は生き残りの道が見えてきたが、不動産バブル問題の解決は先送りされることになる。

     

    (1)「上海市内で復星集団の郭広昌董事長が16日、「銀行の長年の信頼と支援に感謝します」と銀行団に謝意を示した。同日、中国工商銀行など8行と結んだ融資契約の総額は計120億元(約2300億円)にのぼる。復星は世界各地でリゾート開発やオフィスビルに投資しており、中国恒大集団の信用問題に端を発した不動産危機で資金繰りに窮していた」

     

    中国経済が昨年、人口減へシフトしたことは、最大の悪材料である。不動産のように長期保有資産にとって、中国マクロ経済の停滞予測は大きな衝撃だ。これが、不動産価格の頭を抑える要因になる。中国では不動産バブルが、再び起こらないこと。また、過剰在庫の存在を忘れてはならない。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)は13日の記者会見で、不動産大手に対して定めた財務指針「3つのレッドライン」を緩和すると明らかにした。2022年11月にまとめた不動産市場に対する包括的な金融支援策に続く措置だ。16日には、工商銀上海支店が上海市に拠点を置く不動産大手16社に計2400億元の融資を提供する意向を示した」

     

    不動産業界の逼迫する資金繰りを助けても、これが新規住宅需要を喚起する訳ではない。痛みのない過剰債務整理の方法がない以上、今回の緊急融資はかえって債務整理を遅らせる副作用の方が大きいであろう。住宅価格が、家計所得に見合った適正ゾーンへ下がるまで、新規需要への期待は無理だ。

     

    (3)「中国政府が政策転換したのは、不動産市況の不振が経済だけでなく、社会まで不安定にさせる恐れが出てきたからだ。22年夏には、工事中断で住宅の引き渡しのめどがたたないことに不満を強めた住宅購入者が、ローン支払いを拒否する事態に至った。住宅都市農村建設省が17日に開いた全国住宅都市農村建設工作会議は「住宅の引き渡しを確実に行い、住宅購入者に安心を与える」ことを23年の主な政策目標とする方針を決めた。一方、「住宅は住むものであって投機対象ではない」とするバブル抑制策は後回しとなった。今回の政策転換は、人口が減少する中での住宅市場のリスクを一段と高めかねない」

     

    今回の融資は、建設途上で中断している住宅建設を支援する「終戦処理費」である。「青田売り」商法で販売してきた住宅事業はこの際、竣工後の販売へと是正させなければ、事態再発を防げまい。

     

    『ブルームバーグ』(1月18日付)は、「ロゴフ氏『住宅価格10%、数年で確実に下げる』FF3.5%で高止まりも」と題する記事を掲載した。

     

    国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、米ハーバード大学教授(経済学)のケネス・ロゴフ氏は世界の住宅市場について、金利高止まりに伴い今年と来年は著しい価格下落に直面する見込みだと語った。

     

    (4)「世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)に参加したロゴフ氏は、インフレ抑制のため借入金利の引き上げがもう少し続く可能性が高いとの見通しを示唆した。ロゴフ氏は「株価と住宅は金利に合わせて動くが、株式の方が動きはずっと速い。私が考える通り、金利がしばらく高止まりするとすれば、米国だけでなく、世界的に住宅市場の下向き調整がまだ大いにあると思う」と述べ、「数年でさらに10%は確実に下げるのではないか」と予想した」

     

    世界的に住宅市場は、さらに数年で10%は下落すると見られている。金利の高止まりが理由である。過去10年続いた金融緩和が終わったので、不動産価格は下落基調にある。中国不動産に陽が当る可能性は低くなろう。

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    住宅高騰で出生率低下へ

    人口減で中国の運命変る

    年金所得代替率は9割も

     

    中国人口は、2022年に減少過程へ入った。国連の推計によれば、人口減は2031年と見られてきた。それが、9年も繰り上がったのは出生率の急減が理由である。国連によると人口世界一国は、27年にインドになると予測されていた。これも、23年に繰り上がる見込みだ。このように、中国の人口動態は急激な悪化を見せている。

     

    既述の通り、中国の人口減社会が従来の推計よりも9年も繰り上がったことは、習近平氏が国家主席の就任時期(2012年)と重なっている。それは、習氏の経済政策が出生率低下を余儀なくさせる要因を含んでいたことを示唆する。それは、不動産バブルによって住宅価格が高騰し、庶民の財力から住宅をますます遠ざけたことである。

     

    人口減は、日本や韓国もそうだが、国力の相対的衰退を予告するものである。潜在成長率の低下を意味するからだ。習近平氏は、国家主席就任と同時に、「中華再興」を旗印にした。こうして、焦った国力伸張策で不動産バブルを引き起したのである。これが原因で、住宅価格高騰による新居入手難で結婚できず、出生減を招くことになった。「中華再興」にとって、まことに皮肉な結果を招来することになった。

     

    住宅高騰で出生率低下へ

    中国は、儒教社会である。結婚でも古くからの慣習を守ってきた。結婚する条件として、男性側が新居を用意することが条件になっている。しかも、「一人っ子政策」によって、結婚適齢期の男性は女性よりも3000万人も多いとされる。これは、同時に結婚適齢期の女性を減らしていることでもある。こうなると、めでたく結婚できる男性は、新居確保が絶対的な条件となる。事実、運良く結婚できたと言う青年の場合、祖父母や両親からの援助で新居を入手でき、結婚に結びついたと語っている。

     

    住宅高騰が、婚姻件数を減らしたことは確かである。これによって、出生率は減少した。2022年の普通出生率(人口1000人当たり)は6.77。21年の7.52から大幅な減少になった。ここで、過去の普通出生率を見ておきたい。

     

    米中の普通出生率(人口1000人当たりの出生数)推移

          中  国   米  国

    2010年 11.90   13.00

      11年 11.93   12.70

      12年 12.10   12.60

      13年 12.08   12.40

      14年 12.37   12.50

      15年 12.07   12.40

      16年 12.95   12.20

      17年 12.43   11.80

      18年 10.90   11.60

      19年 10.48   11.40

      20年  8.52   10.90

      21年  7.52

      22年  6.77

    資料:世界銀行 最近2年は新聞報道

     

    注目すべきは、米中の普通出生率が18年以降に逆転していることだ。中国は、22年の普通出生率が6.77と急減し、17年の12.43に対して46%も減少している。これは、異常と言うべき減り方だ。新型コロナ感染は20年からである。その後のゼロコロナで、さらに低下幅が大きくなった。

     

    人口動態の面から言えば、中国はもはや米国と対抗する力を失った。ここ2年間の米国の正確な普通出生率を把握できないが、21年の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産するこどもの数)は1.66と6年ぶりに上昇した。普通出生率も増加している。中国とは真逆のことが起こっているのだ。21年の中国の合計特殊出生率は、1.16と見られる。米国との差は、0.50と大きく開いたのだ。米国には、移民という予備軍が控えている以上、中国は人口面でもすでに敵わない相手になった。もっとはっきり言えば、中国の負けである。

     

    合計特殊出生率は、潜在的な経済成長率を示している。一国の人口が、横ばいを維持する合計特殊出生率は2.08である。米中ともにこの水準を下回っているが、米国の合計特殊出生率は中国を上回っている以上、潜在的成長率の推移では、米国が有利であることを示唆している。

     

    今後、米国の経済成長率もゆっくりと低下するが、中国はそれ以上の幅で落込むことが決定的になった。これは、中国が米国をGDPで凌駕する可能性が消えただけでなく、高齢者の増加率が加速することで、年金負担の急増をも意味する。中国にとっては、ダブルパンチに見舞われる事態に陥ったのだ。

     

    人口減で中国運命変る

    中国の予想より早く到来した人口減が、中国の歴史で重要な分岐点となる。中国経済が、世界の工場としての地位を大きく低下させるであろう。中国指導部は長年、米国を抜いて世界一の経済大国になるという野心を抱いてきた。だが、人口動態上の逆風が強まることで実現は不可能になった。習近平氏は、その引き金を引いたのだ。具体的には、急速な高齢化による社会保障費の負担増、生産性の伸び率鈍化、高水準の負債残高、社会における格差拡大が今後、数十年にわたり中国の経済成長を圧迫するはずである。

     

    前記の諸問題は、本メルマガでこれまで縷々、指摘してきた事柄である。もはや、改めて取り上げる必要性もないほどだが、改めて中国の高齢化が駆け足で進んでいることに焦点を合わせて考えたい。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

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    中国は、隣国パキスタンに「一帯一路」工事をさせたが、当のパキスタンが過剰債務を背負いデフォルト危機に直面している。万策つきたパキスタンは、ムニール陸軍参謀長が1月上旬、1週間かけてサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問するほど窮迫している。ムニール氏は、債務不履行(デフォルト)に陥る事態を回避しようと、湾岸諸国に資金支援を求めることが目的だったと専門家らはみている。軍トップの「経済外交」はパキスタン政府が直面する危機を示唆していると関心を集めている。

     

    『朝鮮日報』(1月22日付)は、「パキスタンのグワダル港で行き詰まる中国の巨大経済圏構想」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。

     

    習近平国家主席の最大の業績に挙げられる一帯一路が、パキスタンでもめ事を引き起こしています。友邦パキスタンに数百億ドル(100億ドル=約1兆2800億円)を投資して確保した、インド洋北部のグワダル港。ここで昨年10月から大規模な住民デモが続き、工事は事実上中断された状態だといいます。

     

    (1)「中国は2015年、パキスタングワダル港に162億ドル(約2兆800億円)を投じて南アジアを代表する国際港湾として開発し、43年間直接運用することでパキスタンと合意しました。ここから出発して、北東へ3000キロ離れた中国・新疆ウイグル自治区のウルムチまで、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を構築するという大規模プロジェクトの一環でした。中国はこのプロジェクトの成功のためパキスタンに巨額の借款を提供し、習近平主席や李克強首相が直接訪問するなど、ことのほか力を入れていました。

     

    中国は、明らかにパキスタンを利用してCPECを建設させている。そのために、パキスタンが莫大な債務を抱えてデフォルト危機に直面しているのだ。本来ならば、受益者の中国が資金負担すべき工事である。

     

    (2)「CPECは事実上、一帯一路を代表するプロジェクトだと言えます。中国の立場からすると、米中衝突で南シナ海が封鎖されても中東産の原油や天然ガスを引き続き持ってくることができる、戦略的ルートだと言えます。中国の空母機動部隊がこの港に入れば、インドを軍事的にけん制することも可能になるでしょう。中国はグワダル港の建設と、中国につながる道路、鉄道、送油およびガスパイプラインの構築のため、2030年までに総額620億ドル(約7兆9500億円)を投じる計画を立てています

     

    中国は、2030年までに総額7兆9500億円もの投資をする計画である。中国自身が多額の資金を投下するので資金的余裕がなく、パキスタンの面倒まで見られないのであろう。だからと言って、パキスタンを巻き添えにするのは無慈悲なことだ。

     

    (3)「中国が2016年、正式に港湾の運営に入った後から、この地域では分離主義勢力のテロや住民のデモが絶えません。彼らにとって、中国のパキスタン政府支援とCPECプロジェクトはありがたいことではありません。ここでは2017年から、中国企業が建設したホテルに対する武装攻撃、駐パキスタン中国大使を狙った爆弾テロ、カラチ大学孔子学院バス自爆テロ事件などが相次いで起きています。パキスタン政府は3000人の軍兵力を投入して中国人保護に乗り出しましたが、テロは絶えません。パキスタン当局は2020年、グワダル港地域の中国人保護のため周囲に総延長20キロのフェンスを設置しましたが、これにより現地住民まで立ち上がりました」

     

    グワダル港地域は、パキスタンからの分離主義勢力が強く、「反中国」で抵抗しテロ事件まで起こっている。中国としては、最悪の地域へ手を出してしまったことになる。こうなると、投下した資金は稼働せず、中国も大きな損害を被っている。資金回収できない点では、パキスタンも中国もおなじ被害だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月17日付)は、「財政危機のパキスタン、軍トップが湾岸行脚し支援要請」と題する記事を掲載した。

     

    パキスタンのムニール陸軍参謀長は1月上旬、1週間かけてサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。表向きの訪問理由は軍事関係の強化だが、実際には資金支援についても協議したとされている。ある治安当局の高官は匿名を条件に「他の差し迫る問題と同様に、サウジのパキスタンへの融資見込みに関しても議論された」と語った。

     

    (4)「パキスタン中央銀行が保有する外貨準備高が45億ドル(約5800億円)にまで縮小するなか、パキスタンは今後3カ月間で約83億ドルの融資返済に直面している。サウジの現地メディアは10日、同国がパキスタン中央銀行への預金を30億ドルから50億ドルに増やすほか、最大100億ドルの対パキスタン投資も検討していると伝えた。これらの取引におけるムニール氏の役割は明らかにされていないが、専門家によるとパキスタン政府は同国で最も強力な政治的地位にあるムニール氏を派遣することで事態の緊急性を強調する狙いがあるとしている」

     

    パキスタンは、手薄になった外貨準備高を緊急に補強しなければならない。中国へ支援要請しても「無駄」と見られている。中国に経済的余裕がないからだ。

     

     

     

     

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    マズローの「欲求5段階説」によれば、人間は究極的に「自己実現を図る」としている。自分らしく生きるということであろう。中国のZ世代(1995年~2010年までに生まれ)の2億8000万人が、自分らしく生きることに目覚めている。習近平体制の中国では、共産主義を押し付けられ、これに反対することは拘束を意味する環境下に置かれている。最終的には、「国を出る」しか道はないという切羽詰まった状況だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月18日付)は、「悲観論広がる中国Z世代、『コロナ後」の習近平政権に難題』と題する記事を掲載した。

     

    中国の「Z世代」は、3年にわたるロックダウン(都市封鎖)や検査、経済的苦境、孤立といった試練を経て、新しい政治的な意見の表明方法を発見し、共産党のお先棒をかついでネットに愛国主義的な書き込みするか、そうでなければ政治的には無関心、という従来のレッテルを貼られることを否定しつつある。

     

    (1)「各種調査によると、Z世代は中国におけるどの年齢層よりも将来に対して悲観的になっている。そして、何人かの専門家は、抗議行動を通じてゼロコロナの解除早期化に成功したとはいえ、若者が自分たちの生活水準改善を実現する上でのハードルは今後高くなっていく、と警告する。精華大学元講師で今は独立系の評論家として活動しているウー・キアン氏は、若者がもはや中国の指導者に対する「盲目的な信頼と称賛の気持ち」を持ち合わせていないと付け加えた」

     

    中国の若者は、中国の指導者に対し「盲目的な信頼と称賛の気持ち」を持っていない。これは、成長過程が経済的に豊になっている時代だけに「欲求5段階説」を下位から上に上っている結果であろう。

     

    (2)「多くの中国の若者が選択しているのは、「躺平(何もしないで寝そべること)」で、「社畜」としてあくせく働くことを否定し、手に入る物で満足するという生き方だ。ただし、それは西側諸国のようにナショナリズムの台頭に反対するリベラル派とは異なる。本当のところ、こうした生き方に傾いている若者が、どれくらい存在するのかを示すデータは見当たらない。しかし、ゼロコロナへの抗議の前に水面下で醸成されていた要素はただ1つ。つまり彼らが予想する経済的な将来に対する納得いかない気持ちだ。コンサルティング会社のオリバー・ワイマンが昨年10月に実施し、12月に公表した中国の4000人を対象に行った調査に基づくと、Z世代はどの年齢層にも増して中国経済の先行きを悲観している。彼らの62%は雇用に不安を抱え、56%は生活が良くならないのではないかと考えている

     

    Z世代は、「未富先老」という厳しい現実をすでに肌身で感じとっている。彼らが、厖大なお年寄りの年金を支えなければならない現実を知っているのだ。だから、56%は生活が良くならないと自覚しているにちがいない。

     

    (3)「中国の若者のトレンドを調査している企業の創設者、ザク・ディヒトワルド氏はZ世代について「学習による悲観論だ。これは彼らが目にしてきた事実や現実を根拠にしている」と解説。ディヒトワルド氏は、共産党が今年3月の全国人民代表大会(全人代)で若者に「何らかの希望と方向」を提示することを迫られていると主張。そうした解決策を打ち出せないと、長期的には抗議の動きが再び活発化する可能性があるとみている」

     

    今年3月の全人代で、「若者対策」が出なければ、長期的に抗議姿勢を活発化させるであろう。

     

    (4)「習氏は年頭の演説で、若者の将来を改善することが不可欠だと認め「若者が豊かにならない限り、国家は繁栄しない」と言い切ったが、具体的な政策対応には言及していない。何よりも社会の安定を専一に思っている共産党が、Z世代により大きな政治活動の余地を提供するとは考えられない。例えば、Z世代に賃金が上がると期待させると、中国の輸出競争力は低下する。住宅価格をより手ごろな水準に下げれば、近年は経済活動全体の25%を占めてきた住宅セクターが崩壊しかねない。カリフォルニア大学バークレー校の都市社会学者、ファン・シュー氏は、中国政府がいくら「共同富裕」を唱えてもZ世代のために格差を解消するのは、事実上不可能だと言い切る」

     

    習氏は、若者にアピールすることの重要性を認識しているが、賃金を上げることも住宅価格を下げることもリスクが多すぎて実行不可能である。格差解消には、富裕階層へ課税することに尽きる。今なお、不動産税(固定資産税)のない国は中国ぐらいであろう。こういう課税上の歪みを是正すれば、格差はかなり解消する筈だ。

     

    (5)「こうした中で一部の若者は、中国国外に夢や希望を追い求めつつある。大学生のデンさん(19)はロイターに、もう国内で豊かさを手に入れる余地はほとんどないと語り「中国で暮らし続ければ選択肢は2つ。上海で平均的な事務仕事に就くか、親の言うことを聞いて故郷に戻って公務員試験を受け、向上心もなく無為に過ごすかだ」と明かした。彼女はどちらの道も嫌って移住する計画だ。こうした中で一部の若者は、中国国外に夢や希望を追い求めつつある。海のコンサートにやってきたアレックスさん(26歳)は「中国の体制を受け入れるか、いやなら出ていくしかない。当局の力はあまりにも強く、体制を変えることはできない」と達観している」

     

    習氏は、元共産党幹部の子弟を税制面で優遇しなければ、自己への支持率を落とすことを知っている。習氏が、自らの支持基盤を大切にする手法に拘る限り、Z世代の夢とは相反関係だ。Z世代に残された最後の手段は、自分の生まれた国を捨てるしかない。厳しい選択だ。

     

     

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    中国は、不動産開発が打ち出の小槌の役割を担ってきた。まさに、「錬金術」そのもので不動産バブルを愉しんできた。その状況が10年も続いたのである。地方財政は、約3割が土地売却益で補ってきた。それだけで足りず、地方政府に「融資平台」という金融と建設の事業を営む別働隊をつくって、インフラ投資を行なってきた。このインフラ投資資金も不動産売却益であった。

     

    要するに、不動産開発事業が地価を押上げた。住宅を建設する土地の売却益は、地方政府の財源となってインフラ投資を推進するという形で、さらに地価を引上げるという「地価引上げスパイラル・メカニズム」を形成した。だが、前記の融資平台には、最大60兆元(約1140兆円)の債務があると推計されている。地価下落の現在、返済のメドは立たないのだ。中国が、不動産バブルで負った傷は限りなく深い。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月20日付)は、「中国不動産ブーム崩壊、今年も成長の足かせか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の新規住宅販売は22年、28%減の1兆7000億ドル(約218兆円)と、5年ぶりの水準に落ち込んだ。床面積でもおよそ10年ぶりの低水準となった。開発業者によるデフォルト(債務不履行)が相次いだほか、未完成マンション物件の建設遅延、新型コロナウイルス感染対策に伴うロックダウン(都市封鎖)の影響で、消費者心理が冷え込んだ。中国の土地売却は22年、面積ベースで53%減り、国家統計局がデータの公表を開始した1999年の水準を割り込んだ。土地売却の急減は、不動産ブームだった近年と比べて、新規住宅の供給が今後著しく減ることを示唆している

     

    2022年の土地売却は、面積で53%減と半減である。これは、今年以降の住宅建設着工がそれだけで減ることを意味する。不動産バブル崩壊を象徴的に示す事例だ。

     

    (2)「これらのデータを総合すると、中国の不動産バブルがはじけたことに疑いの余地はない。しかも、市場の低迷は転換点を迎えるまで、しばらく続くだろう。政府がデータを追跡する主要70都市では全般的に、前月比で平均価格の下落が続いている。北京大学光華管理学院のマイケル・ペティス教授(金融)は「不動産業界のデレバレッジ(債務圧縮)への道のりは確実に長く、痛みを伴う」と話す。「まだまだ先は長い」と指摘する」

     

    不動産業界は、過剰債務を返済しなければならないが、前述の通り新規着工は減少する。どのようにして返済するのか、ラクダが針の穴を通る方が楽という言葉もあるが、厳しい道であろう。

     

    (3)「中国当局は過去10年に、開発業者による過剰な借り入れや投機筋の動きを問題視し、繰り返し不動産業界の抑制に取り組んできた。だが、業界の冷え込みが顕著になる度に、経済に与える打撃が余りに大きいため軌道修正を余儀なくされている、とペティス氏は指摘する。中国株・債券が最安値を更新したことを受け、中国当局は約2カ月前、開発業者への締め付けを緩め、住宅市場のてこ入れ策を相次ぎ打ち出した。国有銀行はそれ以降、資金を惜しみなく供給し、民間開発業者の債務返済と運営資金の確保を支えている」

     

    習政権は、景気回復の役割を住宅販売に掛けてきた。まさに、打ち出の小槌の役割を担った。今もまた、過去と同じ手法を用いているが、今回はこのマジックの効く客観的条件がない。人口減と過剰債務が、大きく立ちはだかるのだ。

     

    (4)「習近平国家主席の経済顧問トップを務める劉鶴副首相は今週、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で「不動産は中国経済の重要な柱だ」との認識を表明。中国は昨年の下期以降、不動産価格や住宅販売の大幅な落ち込みに直面し、多くの開発業者の資金繰りが悪化したと指摘した。その上で「適切に対処しなければ、住宅セクターはシステム全体の脅威となる可能性が高い。だからこそ、われわれは迅速かつ強力に介入した」とした。中国が17日公表した2022年の成長率は3%にとどまったが、中国は再び世界に門戸を開いており、今年は成長が加速するとの見方を劉氏は示した」

     

    不動産バブル崩壊は、中国の金融システムを直撃するリスクになる。融資平台は、最大1140兆円の債務を抱えているが、この返済の一つとして貴州省は「元金20年後払い」という気の遠くなるような条件を出した。土地売却益で返済するには、これくらい長い時間がかかるというのだろう。

     

    (5)「中国政府が導入した不動産セクター向けの措置は、開発業者の財務に関して住宅購入希望者の信頼感が改善することを目指している。これは販売を回復する上で不可欠だ。中国の新規住宅販売は、今年もせいぜい小幅な持ち直しか、最悪のシナリオでは悪化ペースが緩やかになる程度だとエコノミストらは予想している。また、コロナ禍まで爆発的に拡大し、中国経済をけん引してきた不動産市場が、バブルを繰り返すことはないとも指摘している。今後は、国有の開発業者が新規販売で市場シェアを伸ばし、いずれは民間勢を抜いて支配的な立場に立つ見通しだという」

     

    今年の住宅販売は、こじんまりしたものに止まる見込みだ。V字型回復はない。信用を失った民間不動産企業に代わって、国有不動産企業が前面に出るという見通しだ。

     

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