勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国が、得意とする他国へ圧力を掛ける「戦狼外交」は、圧力を掛けられた側の国民が反発して、「脅し効果」はなかったという分析結果が出て来た。「一寸の虫にも三分の魂」で、国民が中国へ反発するからだ。圧力を掛けられた国の一つである韓国は、若者を中心にした「反中」が、「反日」を上回っている。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月13日付)は、「『他国に圧力“戦狼外交”に効果なし』というデータ結果、実は中国国内向けアピール?」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が自国の目標を他国に押し付けるために取ってきた高圧的な外交路線は、「戦狼外交」という言葉で知られている。しかし、意外なことに、そうした外交はあまり成果を上げていないらしい。

     

    筆者(ベン・サンド:台湾ダブルシンク・ラボ研究員)が、所属する台湾の市民団体「ダブルシンク・ラボ」の「中国の影響力指数」プロジェクトでは、9分野99の指標を通じて、世界の82カ国における中国政府の影響力の強さを調べている。99の指標の中には、例えば「中国共産党に批判的な意見を述べたり、研究を発表したりした研究者が中国への入国を拒まれる場合がある」といったものが含まれている。調査対象国の180人を超す専門家の回答を通じてデータを収集している。

     

    (1)「その昨年のデータを統計的に分析すると、予想外の結果が明らかになった。ある国が中国政府から受けている圧力の強さと、その国が中国寄りの政策を採用する度合いの間に、統計上有意な相関関係は見て取れなかったのである。この調査結果は、国際関係論の「強制理論」の考え方にも合致する。強制理論の研究では、冷戦後のアメリカなどの強国が軍事制裁や経済制裁を実行しても、小国の外交姿勢を思うように変えられない理由を解明しようとしてきた。この分野の研究によると、大国の高圧的な外交がしばしば実を結ばない理由の1つは、標的となった国の国民の反発にあるという

     

    下線通りの結果が現在、ブーメランとなって中国を襲っている。韓国の「反中意識」には大きなうねりが見られる。親中の左派陣営には困った現象になっている。欧州でも「反中意識」が顕著に見られる。EUが、新疆ウイグル自治区の人権弾圧を非難したところ、中国はEUへ報復した結果、中国・EU投資協定批准を棚上げされたままだ。中国にとっては大損になっている。

     

    (2)「実際、韓国政府が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決定し、中国がそれに対して経済的な報復を行った際は、韓国の世論が激しく反発した。このような世論を意識して、世界の国々は中国の圧力に屈しないのかもしれない。中国の高圧的な外交が必ずしも効果を発揮しない理由としては、反抗的な国に長期にわたり圧力をかけ続けようとしないことも挙げることができそうだ。研究によると、中国が他国に課す輸入制限は平均1年程度しか続かない。サケの輸入を規制されたノルウェーがベトナム経由で制裁をかいくぐった例もある。では、中国政府はどうして、効果がないにもかかわらず、世界のさまざまな地域で高圧的な外交を続けているのか」

     

    中国は、豪州へも圧力をかけて輸入禁止措置を取った。中国が逆に石炭や小麦の輸入で窮地に立たされ、自ら豪州へ歩み寄り外交的に大恥をかく結果になった。

     

    (3)「研究者の間には、そもそも実際に外交上の成果を上げることを目的としていないのではないかという見方もある。あくまでも国内のナショナリストたちを満足させることが目的だというわけだ。もっとも、中国外交における高圧的な措置の中には、国民のナショナリズムに働きかける効果が乏しそうに思えるものもある。例えば、中国政府は一昨年、台湾産のパイナップルの輸入を停止したが、国民が喜ぶのはもっと派手な行動だろう」

     

    中国外交が、極めて感情的であることは間違いない。外交は、理性的に行なわれるべきだが、中国は「国威丸出し」で圧力を掛けて失敗している。

     

    (4)「中国政府の外交上の狙いは、直接の標的になった国ではなく、ほかの国々を牽制することにあるという見方もある。確かに、南アフリカやロシアは、中国から制裁を科されたわけではないのに、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の入国を拒んだ。あるいは、高圧路線に効果がないことに中国政府がこれまで気付いていなかっただけの可能性もある。この1月、戦狼外交のシンボル的存在だった趙立堅(チャオ・リーチエン)報道官が異動したことは、中国政府が外交路線を修正しようとしていることの表れなのかもしれない」

     

    戦狼外交の「主」であった趙立堅氏が、1月から中国外交部の記者会見に現れなくなった。人事異動で部署が変わったためだ。ポストは横滑り、昇進しなかったという。趙氏は、コマ扱いであった。

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    米国が、中国へ先端半導体(14ナノ以下)の技術輸出を禁止し、日本とオランダもこれに同調したので、中国は自力で先端半導体を製造することが不可能になった。これを受けて、中国は汎用品半導体生産に特化する動きを見せている。このため、日本製の中古半導体製造設備に関心が集まっているのだ。これは、いずれ韓国からの対中半導体輸出減少を意味する。韓国には、新たなショックが起ころう。

     

    中国では現在、日本製中古半導体製造装置に対する問い合わせが急増しているという。香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)が2月9日(現地時間)、「日本が中国に対する半導体製造装置・技術関連規制を強化すると伝えられたことから、生産拡大やアップグレードするため外国製機器が必要な中国の工場は不安に駆られている」と朝鮮日報(2月12日付)が伝えた、

     

    『朝鮮日報』(2月12日付)は、「中国の半導体自力更生 韓国にとって対岸の火事ではない」と題する記事を掲載した。

     

    中国では、これまで需要がなく操業を中断していた国営半導体メーカーに突然受注が舞い込み、生産を再開する例が相次いでいる。今年初めまでは廃墟状態だったが、再び稼働を開始した福建省厦門(アモイ)市、泉州市の半導体工場もそうして復活した。中国のIT企業さえ存在を無視していた国営半導体メーカーに大規模な発注を行う救世主が現れたのだ。

     

    (1)「救世主はほかでもない通信機器大手の華為(ファーウェイ)だ。米国の制裁で海外から半導体を調達することも、独自設計した半導体を海外のファウンドリー(受託生産業者)に任せて生産することも難しくなったファーウェイが、自国の半導体メーカーを通じた半導体生産を本格化しているのだ。日本経済新聞は北京、武漢、青島から深センに至るまで仕事がなかった各地の半導体メーカーを復活させるのに華為が投入した資金を558億ドル(約7兆6500億円)と試算した。華為としては、米国の技術や設備を使わない独自のサプライチェーンをつくる以外に活路がなかった」

     

    ファーウェイは、国内の汎用品半導体生産を復活させるために、558億ドルもの発注をしているという。これも、韓国からの半導体輸出を減らす要因である。

     

    (2)「華為が、生き残りのための半導体ゲリラ戦を繰り広げている間も、米国の中国半導体業界に対する攻撃は止めなかった。バイデン政権は22年10月、14ナノメートル以下(NAND型フラッシュメモリーは128段以上)の先端半導体の製造技術と設備、人材の対中輸出を全面禁止した。中国に進出した米半導体企業は一夜にして中国を離れ、中国企業が雇用した米国の半導体技術者も全員が撤収した。中国半導体メーカー全てが華為と同じ境遇になったのだ」

     

    米国は、中国へ14ナノメートル(ナノは、10億分の1メートル)以下の先端半導体技術輸出を禁止。日蘭が、これに同調することになった。これでは、中国半導体企業もお手上げである。

     

    (3)「こうした状況で、今は自ら作って消費しなければならない状況となったのだ。最も象徴的な変化が中国最大の半導体企業、中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の技術、装備を使わない生産ラインを作ったことだ。「Non A」と呼ばれるこのラインでは、直ちに回路線幅40ナノメートルのロースペックの半導体を作ることができ、2年後には28ナノメートルまで微細化を進めることが目標だ。それもオランダのASML、日本のキヤノンなど米国以外の装備メーカーが引き続き設備を提供しなければ生産が不可能な状況だ」

     

    中国は、高度の半導体製造設備をつくれない国である。それだけに、今回の日米蘭による協調行動は、致命的な影響を与える。

     

    (4)「当面、全世界は台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン、インテルなどが作る先端半導体を使う国々と古い国産半導体を使う中国に分かれるだろう。iPhoneとテスラを購入できる中国の富裕層とは異なり、それほどの購買力がない普通の中国人は10~20年遅れの国産品を使わなければならない。数億人に上る彼らのおかげで、中国の半導体メーカーも持ちこたえることができ、技術力を蓄積するだろう」

     

    中国は、先端半導体を製造できないので、汎用品半導体生産に特化していかざるを得なくなった。その面では、製造技術を磨くチャンスになって、韓国からの輸入代替の役割を果たすであろう。韓国には痛手だ。

     

    (5)「日本と欧州の合計の1.5倍を超える人口を持つ中国でも、グローバルサプライチェーンとは接点がない独自の半導体サプライチェーンを構築することは不可能だ。しかも、先端半導体なしには米国を追い抜くという目標の達成どころか産業全般の後退が避けられない。中国が結局は自分たちの資源と市場をテコに米国と妥協し、グローバルサプライチェーンを再び揺るがすとみられているのもそのため。そのころの中国半導体市場は中国企業がシェアを拡大した後である可能性が高い。中国の半導体危機は韓国にとって決して対岸の火事ではない」

     

    下線部は、重大な誤認をしている。米国が、中国へ先端半導体輸出の全面的な禁止策に出たのは、中国の米国への軍事的挑戦を封じるためである。中国共産党が滅びない限り、この挑戦リスクは続くのだ。それゆえ、米国は中国へ絶対に妥協できない事情にある。米国が、先端半導体技術を中国へ輸出することはあり得ないことである。

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    中国の家計は、消費に慎重である。1月の貯蓄残高は、6兆2000億元(約120兆円)と、統計で確認できる2005年以降で最高となった。ゼロコロナが打ち切られたものの、未だ先行きが不確実な現在、収入は使わずに貯蓄する緊縮姿勢が続いている。

     

    2022年末時点で、預金残高と貸出残高の差は44兆5100億元(約871兆円)となり、年末時点で比べると遡れる1997年以降で最大であった。景気の先行き不安が強く、預金の伸びが貸し出しの伸びを上回ったもの。金融面で見た中国経済は、混乱が続いている。消費者は、先行き見通しが付かない限り、財布のヒモを緩めることはない。

     

    『日本経済新聞』(2月11日付)は、「中国家計のひも堅く 1月の貯蓄増 過去最高に」と題する記事を掲載した。

     

    中国で家計の貯蓄志向が根強く残っている。1月の新規貯蓄は6兆2000億元(約120兆円)で、確認できる2005年以降で最高となった。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わり外食や旅行などが持ち直しつつあるが、家計は慎重な姿勢を崩していない。持続的な消費回復には雇用や所得の改善が欠かせない。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)が10日、1月の金融統計を発表した。現預金総額(M2)は前年同月末から12.%増えた。16年4月以来の高い伸びとなった。中国では、春節(旧正月)休暇に入る前に従業員にボーナスなどを支給する企業が多い。春節前は他の時期と比べて貯蓄が増えやすい。22年も1月に新規貯蓄が膨らみ最高を記録したが、23年1月は前年同月をさらに15%上回った」

     

    春節前の1月にボーナスが支給される。従業員は、使わずにそのまま預金している形だ。1月の現預金総額が、前年比12.6%増である。将来のことを考えると、消費を控えているのであろう。

     

    (2)「中国の証券会社、広発証券は「住宅や耐久消費財の購入需要の戻りが鈍い」と分析する。住宅ローンが大半を占める家計による中長期資金の借り入れは1月、前年同月比7割減少した。昨年から続く2ケタ減の傾向に終わりが見えない。対照的に、企業による中長期資金の借り入れは7割伸びた。前年同月の3.6倍だった22年12月に比べて増加率は鈍ったが、22年8月以降2ケタ以上の伸びが続いている。政府が景気のテコ入れへ国有銀行を動員して、国有企業向け融資を増やしているとみられる」

     

    家計による中長期資金の借り入れは、住宅ローンが大半を占める。1月の中長期資金の借り入は、前年同月比で実に7割も減少した。住宅販売に動意が見えないのだ。新規に住宅を求める層が、減っている証拠である。これまでも住宅需要の過半が、値上りを見込んだ投機であった。これが手控えられれば、住宅販売に動きなどあるはずがない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月10日付)は、「中国新車販売 1月は35%減 春節変動や減税終了響く」と題する記事を掲載した。

     

    中国汽車工業協会が10日発表した1月の新車販売台数は、前年同月比35%減の164万9000台だった。前年実績を3カ月連続で下回った。春節(旧正月)に伴う大型連休の影響で来店客数が減ったほか、減税や販売補助金が2022年末に打ち切られた反動もあり、多くの企業の販売が落ち込んだ。

     

    (3)「販売内訳は乗用車が32.%減の146万9000台、商用車が47.%減の18万台でともに振るわなかった。春節連休が前年より早く1月に食い込み、販売店の客足が落ち込んだ。ガソリン車の乗用車を対象とする自動車取得税の減税が22年末に終わった反動も出た。電気自動車(EV)などの新エネルギー車は6.%減の40万8000台で、20年6月以来のマイナスになった。春節休暇の影響に加え、新エネ車が対象の販売補助金が22年末で打ち切られたことも響いた。輸出は30.%増の30万1000台だった」

     

    ガソリン車もEVも、それぞれ自動車取得税減税や販売補助金が22年末で打ち切られたので、今年の1月は反動減に見舞われている。

     

    (4)「企業別ではEV大手の比亜迪(BYD)が6割増でプラスを確保したが、2.4倍だった22年12月に比べ伸び率は縮んだ。中国民営大手の吉利汽車は3割減、独フォルクスワーゲン(VW)の現地合弁会社である上汽VWは4割減だった。日系大手もトヨタ自動車が2割減、ホンダと日産自動車は6割減と苦戦した。汽車工業協会は13月の国内自動車産業の見通しについて、「安定成長は非常に困難で、消費回復はまだ遅れており、政策による持続的な後押しが必要だ」と指摘した」

     

    EVでは、BYDの好調が続いている。他のメーカーは、大きく落込んだ。その中で、トヨタは2割減と落込み幅が浅かった。汽車工業協会は、1~3月について悲観的な見方で、政策支援の必要性を訴えているほど。春は遠い感じだ。

     

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    主要7カ国(G7)が、昨年12月にロシア産原油の輸入価格に1バレル=60ドルの上限制度を設けた。この結果、ロシアはこの1月の石油輸出収入が、前年比で40%も減少する事態になった。この大幅減収分が、原油輸入国などの「反射利益」となって転がり込んでいる計算になる。最大の受益者は、中国・インドのほかに海運会社という。

     

    『ロイター』(2月10日付)は、「制裁でロシア石油収入減少、『反射的利益』流れ込む先は」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはウクライナ侵攻を巡る欧米からの経済制裁により、政府の石油収入が大きく目減りした。この何百億ドルという金額を思わぬ形で流入しているのが海運、製油という2つの業界だ。だが、その中にはロシア系企業の影もちらつき、制裁効果を実質的に弱めている面は否定できない。

     

    主要7カ国(G7)が昨年12月にロシア産原油の輸入価格に上限制度を設けたことを受け、ロシア財務省が発表した1月の石油輸出収入は前年比で40%減少した。

     

    (1)「カーネギー国際平和財団の非常勤研究員、セルゲイ・バクレンコ氏は「公定価格が低くなったことでロシアの国家予算はここ数週間、苦境に置かれている」と話す。一方、通関統計に基づくと、こうした状況がもたらすメリットの一部はインドと中国の製油業者に波及しているが、最大の利得者は海運業者と仲介業者、そしてロシア企業であるはずだと付け加えた。バクレンコ氏はロシア石油会社・ガスプロムネフチの元戦略責任者で、ウクライナの戦争が始まった後に退職し、ロシアからも出国している」

     

    ロシア産原油価格には、G7によって1バレル=60ドルという上限が設けられた。ロシアは、これによって輸出価格を引下げざるを得なくなっている。この値引き分が、中国・インドのほかに輸送する海運業者などに流れている。

     

    (2)「欧米の対ロシア制裁は、恐らく一国への措置としては最も厳しい。米国とEUがロシア産エネルギーの購入を全面的に禁止するとともに、輸出価格が1バレル=60ドル以下でない限り、世界のどこにもロシア産原油を船で出荷してはいけないと定められた。これに伴ってロシアは、原油と石油製品のほとんどの輸出先をアジアに切り替え、インドや中国の買い手に対して、競合する中東産などよりも大幅に価格を引き下げている。また、船舶輸送や輸出価格の制限で買い手が取引に慎重になっている上に、自前の船団で全ての輸送を賄えないロシアとしては、多額の輸送費も負担せざるを得ない状況だ」

     

    ロシアは、窮地に立たされている。自国産原油の売り先は、アジアに限られており、輸送費まで負担する状況に追込まれているのだ。

     

    (3)「1月終盤時点で、ロシアの石油企業がインドと中国の買い手に提示した原油の値引き幅は、1バレル当たり15~20ドルだった。取引に関わった少なくとも10人のトレーダーやロイターが確認したインボイスから判明している。それだけでなくロシア側は、自国から中国ないしインドまで原油を輸送する費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払った。結果としてロシアの石油企業が1月に国内の港で受け取ったウラル原油の代金は、1バレル=49.48ドルと前年から42%も減少。北海ブレント価格の6割程度にとどまった、とロシア財務省が明らかにした」

     

    ロシアは、原油価格を1バレル当たり15~20ドル値引きし、さらに輸送費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払っている。こうして、ロシアの手取りは、1バレル=49.48ドルと前年から42%もの落込みだ。ロシア財政には、大きな痛手だ。

     

    (4)「ロシアの2022年の原油生産量は、日量1070万バレルで、原油と石油製品の輸出量が700万バレル。これに値引きや追加費用を加えて計算すると、今年の同国石油会社の収入は数百億ドル単位で減少することになる。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は5日、価格上限制のためにロシアの石油収入は1月だけで80億ドル減ったと述べた。ところが、こうした減収分のある程度がロシア企業に流れているので、同国の生産者や政府に本当はどの程度痛手だったのか、正確に数値化するのは難しい」

     

    ロシアは、今年の原油収入が数百ドル単位で減少するという。IEAによると、1月だけで80億ドルの減収に落込んだ。年に換算すると960億ドルの減収になる。これは、大変な事態だ。ロシアは、3月から5%の減産を発表している。狙いは、国際市況を押上げることであろうが、ロシア産原油価格には60ドルの上限制が引かれている。となると、中国やインドへ値上げ圧力を掛ける目的か。

     

    (5)「ロシアによる大幅な値引きで、インドと中国の製油業者も大助かりだ。インドのロシア産原油輸入は、ここ数週間で日量125万バレル超と過去最高を更新。販売価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているため、インドは購入代金を月間で5億ドル以上も節約できている。ボルテクサ・アナリティクスの中国アナリスト、エマ・リー氏は、昨年4月から今年1月までの中国のロシア産原油輸入が日量180万バレル強になったと話す」

     

    インドは、購入価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているので、最近は日量125万バレル超と過去最高を更新するほど。中国も、昨年4月から今年1月まで、日量180万バレル強の輸入になっている。この両国は、ロシア産原油価格の値下がりでメリットを享受している格好だ。

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    中国の戦狼外交は、確実に中国の評価を下げている。「唯我独尊」の独り善がりの振る舞いが、他国へ強い拒絶感を引き起している。それだけでない。東南アジアの有力国のインドネシアとフィリピンは、「脱中国」姿勢を強めている。中国による南シナ海不法占拠問題に対して、真っ正面から対抗する動きを見せているのだ。 

    「クアッド」(日米豪印)が、反中国スタンスで結束していることが、インドネシアとフィリピンは中国への「異議申し立て」をし易い環境を整えてきたと見られる。 

    『ハンギョレ新聞』(2月10日付)は、「東南アジアで中国の影響力が大幅下落「米国は小幅上昇」と題する記事を掲載した。 

    東南アジア地域で中国の政治・経済的影響力に対する評価が大幅に下落し、米国の影響力は小幅に上昇した。シンガポールのシンクタンク「東南アジア研究所」(ISEAS)は9日、このような内容を盛り込んだ「東南アジア国家報告書2023」を公開した。調査は、昨年11月から1月6日まで東南アジア地域の学界、財界、政府、市民社会、マスコミ関係者1308人を対象にアンケート調査を実施した。毎年行われる調査で今年5回目だ。

     

    (1)「経済と政治・戦略的影響を問う質問で、中国は5年連続で影響力が最も大きい国に選ばれたが、回答比率は減少した。中国が東南アジア経済に最も大きな影響力を持っていると思うかという質問に、今年59.9%が「そうだ」と答え、前回調査時の76.7%より16ポイントほど減少した。政治・戦略的影響力についての質問でも、前回の調査時には54.4%がそうだと答えたが今年は41.5%に減少した」 

    中国の政治・戦略的影響力について、肯定は41.5%で前回調査54.4%から12.9ポイントも減り、半分以下になっている。この背景には、ロシアのウクライナ侵攻で「反対」を表明せず、台湾侵攻へ含みを持たせていることもマイナスイメージに拍車を掛けているだろう。東南アジア諸国は、平和を欲しているのだ。 

    中国の政治・戦略的影響力低下には、米国が必死になって巻き返しをしていることも影響を与えているはずだ。中国の戦闘的外交姿勢が、「オウンゴール」となって中国離間を招いている。

     

    (2)「米国の経済的影響力に対する評価は10.5%で、前回調査時より0.7ポイント増加し、政治・戦略的影響については31.9%で前回調査時より2.2ポイント増加した。ジョー・バイデン米大統領が昨年5月、東南アジア7カ国などを含めてスタートさせたインド・太平洋経済フレームワーク(IPEF)に対しては、46.5%が肯定的な作用をすると評価したが、41.8%はまだ効果を判断するには早いと答えた。11.7%は否定的な作用を予想した」 

    米国が、TPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰していれば、米国の経済的影響力が10%などという低評価に終わっているはずがない。中国は、RECEP(東アジア地域包括的経済連携)加盟国である。ASEAN10ヵ国に加え、日本・中国・韓国・豪州・ニュージーランドを加えた15カ国が参加している。これが、中国の影響力を広げている理由だ。 

    米国は、TPPやRCEPに変わる組織としてIPEFを組織した。まだ、実効を上げていないだけに、評価はまちまちである。IPEFにはASEAN10ヶ国中7ヶ国が加わっている。

     

    米国が、遅ればせながら東南アジア重視の姿勢に転換している。特に、台湾有事に備えて防衛面で守りを固め始めたことが、東南アジア諸国に安全保障面での「安堵感」を与えている。これが、中国の影響力減殺になっているであろう。 

    米国とフィリピン両政府は2月2日、米軍がフィリピンで使える拠点を4カ所増やし計9カ所にすると発表した。以下は、『日本経済新聞 電子版』(2月3日付)が伝えた。 

    「オースティン米国防長官とフィリピンのガルベス国防相が2日、マニラで会談して拠点拡大に合意した。オースティン氏は会談後の記者会見で「我々は武力攻撃に抵抗する相互の防衛能力強化を約束する」と強調した。ガルベス氏も「フィリピンの防衛能力(向上)に向けて両国の連携を深めることで合意した」と述べた」 

    「フィリピンは海外の軍隊が駐留することを認めていないが、2014年に両国が結んだ防衛協力強化協定はフィリピンの軍事拠点5カ所について米軍の「巡回駐留」を認めた。米軍はフィリピン軍と共同訓練を実施したり、弾薬や燃料を備蓄したりできる。新たな拠点として想定されるのが、ルソン島北部や南シナ海に面する場所だ。ルソン島北部に拠点を置くことは台湾有事に備えることになる。過去に合同軍事演習を実施したルソン島北端から台湾最南端は約350キロメートルしか離れていない。フィリピンの軍事拠点が有事にも燃料補給などで活用できればインド太平洋地域における米国の作戦の柔軟性が増すことを意味する」。フィリピンが、台湾有事の際に米軍へ基地利用において全面協力することになった。中国には痛手だ。

     

    インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2022年12月、ベトナムのグエン・スアン・フック主席(当時)と首脳会談を行い、両国の最大の懸案だったEEZ確定交渉を妥結させた。両首脳はこれとともに、インドネシア側のEEZ内にあるナトゥナ諸島付近の大陸棚「トゥナ・ブロック」開発プロジェクトを巡っても最大限協力することで合意した。インドネシアが計30億ドル(現在のレートで約3900億円)を投じてガス田を開発し、2026年から天然ガスをベトナムに輸出することとした。トゥナ・ブロックには原油や天然ガスなど、エネルギー資源およそ1億バレル(原油換算基準)以上が埋蔵されているものと推定されている。以上は、『朝鮮日報』(2月6日付)が伝えた。インドネシアは、中国の圧力をはね返す覚悟を固めたのだ。

     

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