中国が、得意とする他国へ圧力を掛ける「戦狼外交」は、圧力を掛けられた側の国民が反発して、「脅し効果」はなかったという分析結果が出て来た。「一寸の虫にも三分の魂」で、国民が中国へ反発するからだ。圧力を掛けられた国の一つである韓国は、若者を中心にした「反中」が、「反日」を上回っている。
『ニューズウィーク 日本語版』(2月13日付)は、「『他国に圧力“戦狼外交”に効果なし』というデータ結果、実は中国国内向けアピール?」と題する記事を掲載した。
中国政府が自国の目標を他国に押し付けるために取ってきた高圧的な外交路線は、「戦狼外交」という言葉で知られている。しかし、意外なことに、そうした外交はあまり成果を上げていないらしい。
筆者(ベン・サンド:台湾ダブルシンク・ラボ研究員)が、所属する台湾の市民団体「ダブルシンク・ラボ」の「中国の影響力指数」プロジェクトでは、9分野99の指標を通じて、世界の82カ国における中国政府の影響力の強さを調べている。99の指標の中には、例えば「中国共産党に批判的な意見を述べたり、研究を発表したりした研究者が中国への入国を拒まれる場合がある」といったものが含まれている。調査対象国の180人を超す専門家の回答を通じてデータを収集している。
(1)「その昨年のデータを統計的に分析すると、予想外の結果が明らかになった。ある国が中国政府から受けている圧力の強さと、その国が中国寄りの政策を採用する度合いの間に、統計上有意な相関関係は見て取れなかったのである。この調査結果は、国際関係論の「強制理論」の考え方にも合致する。強制理論の研究では、冷戦後のアメリカなどの強国が軍事制裁や経済制裁を実行しても、小国の外交姿勢を思うように変えられない理由を解明しようとしてきた。この分野の研究によると、大国の高圧的な外交がしばしば実を結ばない理由の1つは、標的となった国の国民の反発にあるという」
下線通りの結果が現在、ブーメランとなって中国を襲っている。韓国の「反中意識」には大きなうねりが見られる。親中の左派陣営には困った現象になっている。欧州でも「反中意識」が顕著に見られる。EUが、新疆ウイグル自治区の人権弾圧を非難したところ、中国はEUへ報復した結果、中国・EU投資協定批准を棚上げされたままだ。中国にとっては大損になっている。
(2)「実際、韓国政府が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決定し、中国がそれに対して経済的な報復を行った際は、韓国の世論が激しく反発した。このような世論を意識して、世界の国々は中国の圧力に屈しないのかもしれない。中国の高圧的な外交が必ずしも効果を発揮しない理由としては、反抗的な国に長期にわたり圧力をかけ続けようとしないことも挙げることができそうだ。研究によると、中国が他国に課す輸入制限は平均1年程度しか続かない。サケの輸入を規制されたノルウェーがベトナム経由で制裁をかいくぐった例もある。では、中国政府はどうして、効果がないにもかかわらず、世界のさまざまな地域で高圧的な外交を続けているのか」
中国は、豪州へも圧力をかけて輸入禁止措置を取った。中国が逆に石炭や小麦の輸入で窮地に立たされ、自ら豪州へ歩み寄り外交的に大恥をかく結果になった。
(3)「研究者の間には、そもそも実際に外交上の成果を上げることを目的としていないのではないかという見方もある。あくまでも国内のナショナリストたちを満足させることが目的だというわけだ。もっとも、中国外交における高圧的な措置の中には、国民のナショナリズムに働きかける効果が乏しそうに思えるものもある。例えば、中国政府は一昨年、台湾産のパイナップルの輸入を停止したが、国民が喜ぶのはもっと派手な行動だろう」
中国外交が、極めて感情的であることは間違いない。外交は、理性的に行なわれるべきだが、中国は「国威丸出し」で圧力を掛けて失敗している。
(4)「中国政府の外交上の狙いは、直接の標的になった国ではなく、ほかの国々を牽制することにあるという見方もある。確かに、南アフリカやロシアは、中国から制裁を科されたわけではないのに、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の入国を拒んだ。あるいは、高圧路線に効果がないことに中国政府がこれまで気付いていなかっただけの可能性もある。この1月、戦狼外交のシンボル的存在だった趙立堅(チャオ・リーチエン)報道官が異動したことは、中国政府が外交路線を修正しようとしていることの表れなのかもしれない」
戦狼外交の「主」であった趙立堅氏が、1月から中国外交部の記者会見に現れなくなった。人事異動で部署が変わったためだ。ポストは横滑り、昇進しなかったという。趙氏は、コマ扱いであった。