勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

    a0960_006618_m
       

    左派は現実無視の空想追い

    文氏の書店経営が典型例に

    尹大統領の経済自由化宣言

    経済学者も現実を認識せず

     

    韓国左派の人々は、民族主義グループである。常識的には右派と称すべきだが、軍事政権に対抗して民主化運動を担ったことから、左派という区分けになる。民主化運動の意図は南北統一であり、北朝鮮の共産主義容認という点で紛れもなく左派である。

     

    冒頭からややこしい話を始めたのは、韓国左派が欧米左派と異なり、自由や実質平等を尊重する度合いがはなはだ少ないことだ。既得権益に身を纏っているのである。韓国は共産主義政党を禁じている。共産主義同調者は、それを隠して左派と称し、政治活動をしている面々も多いのだ。

     

    韓国左派が、共産主義容認であることは間違いない。中国への親近感は格別であるからだ。その筆頭は、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏であろう。大統領在任5年間の政策は、中朝接近と日本批判に費やしていた。民族主義の立場から言えば当然であろう。南北融和から南北統一へ進むには、日本批判をテコに中朝へ接近する構図を描いていたことは事実だ。

     

    韓国左派にとっては、中国経済の動向が最も気懸りのはずである。中国が、米国を凌ぐような発展を遂げれば、その力を借りて南北統一への夢が実現できると見ていたからだ。つまり、事大主義である。その中国経済は、大きな陰りがより明確になってきた。

     

    中国の2022年GDP成長率は3.0%に止まった。当初予想の5.5%前後という目標から見れば、達成率5割という不甲斐ない結果である。さらに、22年の人口が61年ぶりに減少して、人口減社会へ移った。これは、「中国全盛期」の終焉を意味するものである。韓国左派にとっては、政治的支え棒を失ったような衝撃であろう。

     

    左派は現実無視の空想追い

    韓国左派の政策は、文前政権5年間で明らかにされたように、現実からかけ離れた「空想」を追いかけていた。生産性を上回る最低賃金引上げを強行したように、現実に足を降ろした政策ではなかった。脱原発も強行した。発電コストの高騰を放置した結果、韓国電力に厖大な赤字を溜め込んで、巨額な債券発行を余儀なくされる。こういう、笑うに笑えない現象の連続であった。

     

    現実を無視して、ただ理想を追うことがいかに危険であるか。それは、文政権5年間で嫌と言うほど見せつけられた。

     

    文前大統領は、退任後も「個人の夢」を追っている。隠棲している平山村(約100戸:住民約500人)で、この2~3月頃に書店を開店するという。一見すると、読書好きの文氏らしい企画で微笑ましくもあり、拍手を送りたいところだが、「待てよ」という気持ちになるのだ。日本もそうだが、韓国でも小型書店は営業難で廃業に追込まれている。ましてや、読書人口は、平山村の500人のうち大目に見ても200人程度であろう。そういう、小さな商圏で書店営業が成り立つとは思えない。

     

    ここに、文氏独特の現実を無視した「理想論」先行の危険性が現れている。確かに、書店は人々の教養を高める上で不可欠としても、営業が成り立たなければ継続は不可能である。最低賃金の大幅引き上げや、脱原発の強行と同じ過ちに陥るのは必定であろう。ただ、文氏の熱烈支持者が、平山村まで出向いて本を購入することはあるかも知れない。だが、アマゾンで簡単に本を入手できる現在、この熱烈支持者の応援も次第に少なくなろう。

     

    もう一つ付け加えなければならない。文氏自身が、書店に立って働くと言う。これは、大統領経験者に付きそう警護官の仕事を増やすことになる。「税金無駄使い」という批判が出て来そうである。文氏に払われる年金で賄えば別だが、気になる問題だ。

     

    文氏の書店経営が典型例に

    文氏の書店経営問題を例にして、韓国左派が現実無視で空想を追っている現実を取り上げたが、中国接近論もこの範疇に入る。米韓は、安全保障条約で結ばれた関係国である。安全保障は、一国の安全を維持する上で絶対的な枠組である。韓国左派は、この現実を無視して中国との「二股外交」に力を入れてきた。

     

    文氏は、大統領時代に米朝関係のバランスを取る調整役を任じる程であった。いささか、自己過信に陥っていたが、中国との外交的パイプを生かせるという自負心もあったのであろう。だが、米国は世界戦略の一環として中朝問題を捉えていたのである。残念ながら、文氏にはそういう視点はなかったのだ。

     

    文氏は結局、大統領在任中に何らの外交成果も上げられずに退任した。頼みの綱とした中国が動かなかったからだ。中国の本心は、南北接近に反対である。北朝鮮は現状のままであれば、中国にとって韓国=米国との緩衝地帯になって中国の安全保障上、有利であるからだ。文氏は、こういう深読みができず、同盟国である米国よりも中国の顔色を伺う偏った外交政策になった。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2023-01-09

    メルマガ427号 韓国、「暴徒」化した貴族労組 労働改革の矢面「尹政権が決意」

    2022-11-17

    メルマガ413号 「病める」韓国政治、ウソ・煽動・非常識が罷り通る ほど遠い「先進国への夢」

     

     

     

    a1320_000159_m
       

    中国は、2022年末で人口減社会へ突入した。日本に次いで3番目である。21年に韓国が人口減へ移行している。中国の人口減は、世界最大の人口国であっただけに、その影響は国際経済のみならず、国際外交への影響力低下としても現れるはずだ。

     

    習氏が、国家主席へ就任したのは2012年である。それからの10年間は、中国にとって最も重要な時期であった。生産年齢人口比率は2011年にピークを打っていただけに、人口政策や経済政策で慎重に当るべき時期にも関わらず、人口抑制の「一人っ子政策」解除の時期を遅らせ、不動産バブルを煽るというミスを冒した。こういう二重の誤診によって、中国経済の全盛期30年が終わった。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月18日付)は、「中国の人口減少、成長鈍化より深刻」と題する記事を掲載した。

     

    2022年の中国人口は1961年以来初の減少に転じ、前年比85万人減の14億1200万人となった。政府の予想より早く到来した人口減へのシフトは、中国の歴史において重要な分岐点となり、同国経済と世界の工場としての同国の地位に大きな影響をもたらす。

     

    (1)「中国は人口が多いものの、米国などの富裕国と比較した労働者の平均所得で見ると、中所得の途上国に分類される。中国指導部は長年、米国を抜いて世界一の経済大国になるとの野心を抱いてきたが、この人口動態上の逆風が強まることによってその実現は一層困難になるだろうと、エコノミストらは指摘している」

     

    中国は、中所得国で人口減社会へ突入した。「未富先老」という事態だ。豊になる前に高齢社会を迎えることになった。

     

    (2)「中国の消費者は、欧米製の自動車および高級品にとっての成長市場を構成している。人口減少は、中国が投資や輸出ではなく、消費拡大を成長の原動力にする圧力にさらされる中で、消費者が減ることを意味する。消費がどんな形で回復するとしても、その勢いは労働市場の弱さと住宅市場の悪化によって抑制されるだろう。住宅価格の低下は家庭の資産を減らしている。16~24歳の失業率は、昨年夏のピーク時の20%近い水準からは低下したものの、昨年12月時点で16.7%と高止まりしている。クレディ・スイスの中国担当主任エコノミストのデービッド・ワン氏によれば、国民1人当たりの可処分所得の伸び率は、コロナ禍以前の8%前後から、今後5年間、年4%前後に減速する可能性がある」

     

    人口減社会になる前に、すでに生産年齢人口比率が2011年にピークを打っていた。それだけに、これからは労働人口=稼ぎ手の減少が激しくなるので、国民1人当たりの可処分所得の伸び率は、今後5年間は年4%と半減予想である。個人消費は伸びないのだ。

     

    (3)「労働人口が減少すれば、経済成長が抑制される可能性が大きい。労働人口が増加するか、労働者の生産性が向上した場合にのみ、経済は成長できる。S&Pグローバル・レーティングによると、中国の労働年齢人口は2014年前後にピークに達しており、その後は2030年まで年平均0.2%の割合で減少するとみられている。非営利の調査機関、全米産業審議会(コンファレンスボード)の推計によれば、生産性の伸びは減速してきており、2019年までの10年間の年間平均伸び率は1.3%にとどまった。それ以前の10年間の伸び率は2.7%だった」

     

    労働生産性の伸び率は、生産年齢人口の減少とともに落込んでいる。中国にとっては、この回復策が喫緊の課題になっている。

     

    (4)「中国はまだ、政府や企業の借り入れによる投資を奨励して成長を加速させるという、旧態依然とした戦略に縛られている。このモデルは長期的に持続不可能だと、エコノミストらは警告している。中国全体の債務残高の対国内総生産(GDP)比は、コロナ下で過去最高に達した。地方政府が借金をしてインフラ事業を進め、経済の活性化を図ったからだ。国際決済銀行(BIS)のデータによると、2022年6月時点での非金融部門の債務残高は51兆8000億ドル(約6630兆円)と、GDP比で295%に達している」

     

    昨年6月末の債務残高は、対GDP比で295%にも達している。最早、借入れに依存した経済成長は不可能になっている。これも、経済成長抑制要因になる。

     

    (5)「エコノミストらは、中国の習近平国家主席が多くの産業で自給化を進めていることと、民間企業の経営方法に介入したがる強い傾向を持っていることが、今後も中国経済から活力を奪い続けるとみている。中国政府は主要セクターで内製化を成し遂げるために、半導体や再生可能エネルギー、製薬などの優遇分野への低金利融資に資金を向けることを重視してきた。だが、こうした支出(比較的生産性が低い国有企業向けが多い)にはこれまで、無駄や腐敗という問題が生じており、真のイノベーションを裏付ける根拠は限定的だというのがエコノミストの見方だ。キャピタル・エコノミクスのアジア部門チーフエコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏は、「(共産)党の支配力を社会全体に及ばせようとする習氏の欲望は、市場経済の成長に取り組む意欲よりもはるかに強い」と話している」

     

    習氏は、民間経済活動を共産党支配下に組入れることに積極的である。これは、経済成長を抑制するので「逆噴射」同様の誤った政策である。結局、中国は習氏の統治によって、「寿命」を縮めることになった。

     

     

     

    118
       


    中国にとって2022年は、忘れられない年になるはずだ。人口減社会へ足を踏み入れたこと。GDPは、コロナにまつわる対策失敗で、政府予想の5.5%を大幅に下回る3.0%成長に止まったことだ。いずれも、中国の将来に大きな影響を与える意味で、重要な位置づけになった。

     

    人口減社会は、超高齢社会への入り口である。これによって、年金負担が中国経済へ大きくのしかかる。中国の場合は、年金所得代替率(税引き前:2020年)が71.6%と極めて高いことが、問題を深刻にさせている。それは、現役時代の所得の約7割強を給付する内容であるからだ。世界13位という高いランキングである。ちなみに、日本は32.40%(同)で世界43位。日本ですら、年金財政が大問題になっている。中国の高い年金所得代替率から見て、年金財政問題が中国を揺るがす事態は目前。中国は、軍備拡張に財源を回し、年金財政健全化の備えが全くないのだ。中国社会科学院は、年金積立金が35年に枯渇するとしている。当然であろう。

     

    22年のGDPは、3%成長に止まった。ゼロコロナに拘り、その挙げ句に一挙解禁という暴走を演じてしまった影響が出たもの。「フルコロナ」の第一波が終わるのは2月、第二波の収束は4月下旬と見られている。コロナの猛威はこれからだ。

     

    『ロイター』(1月17日付)は、「中国成長率、22年3%で政府目標大幅下回る 人口減など課題山積」と題する記事を掲載した。

     

    22年通年のGDP伸び率は3.0%で、政府目標の5.5%前後を大幅に下回った。21年は8.4%だった。コロナ禍当初の20年に記録した2.2%の伸び率を除けば、経済を疲弊させた文化大革命が終了した1976年以降で最低となった。

     

    (1)「22年の成長率への寄与度は最終消費が32.8%、資本形成(投資)が50.1%、純輸出が17.1%だった。第4・四半期GDPの伸び率は前期比で0.0%となり、前期は3.9%のプラス成長だった。12月の鉱工業生産や小売統計は、弱い数字だった。鉱工業生産は1.3%増で11月の2.2%増から鈍化。小売売上高は1.8%減で11月の5.9%に続きマイナスとなった。年間の固定資産投資は5.1%増

     

    22年のGDP寄与度は、資本形成(投資)が50.1%と過半を占めた。政府のインフラ投資が、中国経済を支えている。財源は国債など借入金である。成長率維持が目的で、不採算投資が行われている。投資のリターンはほぼゼロであろうから、債務を増やすだけという「自殺的投資」だ。最終消費が32.8%だ。これは、家計と政府の消費を合計した数値である。家計消費は20%以下か。悲惨な状態へ落込んでいる。

     

    (2)「オックスフォード・エコノミクスのシニアエコノミスト、ルイーズ・ルー氏は「12月の統計は総じて予想より良かったものの依然弱い。特に小売売上高など需要サイドがそうだ」と指摘し、「経済活動が再開しても、個人消費はすぐには回復しない。このため、再開後しばらく回復は鈍いというのが当社の見立てで、一連の統計はそれを裏付けている」と述べた。感染を抑え込むゼロコロナ政策の転換を受けて今年の景気回復に期待が高まったが、同時に感染者が急増し、これが短期的に景気の重石になる可能性が指摘されている」

     

    下線部分が、中国の直面する現実を現している。個人消費はしばらく回復しないと見ている。ゼロコロナで痛みつけられている結果だ。

     

    (3)「ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、ハリー・マーフィー・クルーズ氏は、「23年の中国は多くの困難が待っているだろう。新たなコロナ感染の波をうまく乗り切る必要があるだけでなく、住宅用不動産市場の悪化や中国輸出品への海外需要の低迷が著しい景気阻害要因になる」と分析した。一連の指標発表を受けてアジアの株式市場は軒並み下落し、人民元は1週間ぶりの安値を付けた

     

    人民元は、1ドル=6.76元と、前日の6カ月ぶり高値から下落した。中国の22年GDPが低調だったことや、旧正月連休前のドル需要に押されている。アジアの株式市場も下げ場面で振るわなかった。中国経済回復には、時間がかかるという予想によるものだ。

     

    (4)「不動産部門は、22年の成長を最も下押しした業種の一つとなった。通年の不動産投資は前年比10.0%減で、99年以降で初めて減少した。販売は24.3%減り、92年の統計開始以来最大の落ち込みを記録した。政府の業界支援策の効果は今のところ最小限にとどまっていることを示した。さらなる懸念要因は人口の減少だ。昨年末時点の人口は14億1175万人で、前年末から約85万人減少した。減少は61年以来となる」

     

    中国は、人口減という厳しい現実が突付けられれば、住宅需要が先細りする。国連の専門家は、中国の人口が50年までに1億0900万人減少すると予想。19年時点で予想した減少数の3倍以上のスピードになる。この現実を見れば、「これからも住宅需要が盛ん」などという予測は成り立たないであろう。

    a0960_007369_m
       


    中国の高い経済成長率を支えてきたインフラ投資「影の主役」、融資平台が破綻した。現在、表面化しているのは貴州省だが、雲南省や甘粛省にも波及する公算が強まっている。不動産企業の破綻に続いて融資平台の蹉跌へと不動産バブル崩壊の津波が拡大している。ここまで来ると、「中国経済破綻」という、動かし難い壁が立ちはだかった感じだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月16日付)は、「貴州省政府系企業、債務返済20年繰り延べ 地方財政悪化」と題する記事を掲載した。

     

    中国西部の貴州省政府傘下のインフラ投資会社が、銀行から融資された155億9400万元(約3000億円)の返済を20年繰り延べると決めた。不動産市況の悪化や新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策によって悪化した地方財政の厳しい台所事情の一端を映している。

     

    (1)「国務院(政府)は貴州省政府に対して返済繰り延べを認めていた。米格付け会社S&Pグローバルは「雲南省や甘粛省も追随する可能性がある」と警告している。同省人口第2位の都市である遵義市に本社を置く遵義道橋建設集団が2022年12月末に債務再編の実施を公表した。公告によると、新たな返済期限は20年とする。前半10年は利払いのみとし、後半10年に元本を分割払いする。金利は年3.0~4.%とする。同社はこれまでの融資条件を明らかにしていない。ただ、同社の発行済み債券の返済期限は3~10年、金利は年5.4~8.%となっており、新たな融資条件は同社に大幅に有利となる」

     

    中国は、中央政府が地方政府に命じてインフラ投資を行なわせている。肝心の資金調達は、全て地方政府任せだ。地方政府官僚は、将来の出世に響くために無理しても割り当てられたインフラ投資を行なった。その資金調達手段として、「融資平台」というトンネル企業をつくってきたもの。ここ10年ほど、この「融資平台」の抱える不良債権が問題となってきたが、ついに、「元金20年後払い」という超法規的決定で幕引きになった。

     

    (2)「同社は、道路や橋梁などのインフラ投資、不動産販売、建設工事施行などを主業務とする総合建設不動産会社。不採算プロジェクトによる資金繰り悪化が要因で、代金未払いなど多数の訴訟を抱えていた。22年6月末の負債総額は858億元にのぼる。元本削減は免れたとはいえ、今回の返済繰り延べによって、同社向け融資は不良債権化し、銀行が損失を負担する。にもかかわらず銀行が債務再編を受け入れた背景には国務院が22年1月に公表した貴州省政府向け意見がある。「(地方政府傘下のインフラ投資会社である)融資平台(プラットフォーム)が、金融機関との返済繰り延べや債務再編を交渉することを認める」と記し、中央政府が地方政府の返済繰り延べにお墨付きを与えていた」

     

    融資平台の抱える債務は、銀行では不良債権となって経営を圧迫する。中国政府は、こういう形で最後は、銀行に尻ぬぐいさせるという安易な方法で切り抜ける。本来であれば、公的債務として財政赤字に計算されるもの。それを、銀行に押し付けてすり抜ける便法を編み出した。

     

    (3)「米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、中国の地方政府の22年の財源不足は7兆5000億元(約142兆2000億円)と、18年以来4年ぶりの高水準となる見通し。ゼロコロナ政策などによる経済成長の鈍化、土地利用権売却収入の減少、景気対策を目的とした減税政策、インフラ投資の拡大が要因だ」

     

    22年の地方政府は、22年に約142兆2000億円もの財源不足に陥った。土地販売益の落込みの結果だ。換言すれば、不動産バブル崩壊が招いた結果だ。中国独特の「土地本位制経済」(学術用語でない)が破綻による。

     

    (4)「土地利用権売却収入の落ち込みは深刻だ。中国財政省によると、22年1~11月の土地収入は前年同期比24%減の5兆1000億元だった。財政悪化は貴州省に限らない問題となっており、S&Pは「貴州省と同様に債務圧力が強く、経済の発展が遅れている雲南省や甘粛省なども銀行融資の返済繰り延べによって債務返済圧力を緩和しようとする可能性がある」と指摘している」

     

    下線のように、雲南省や甘粛省も貴州省に準じた形で、銀行へ不良債権を押し付けて財政面の債務を整理する方式だ。この方式は、二度と使えない以上、融資平台の役割もこれで終わる。となれば、地方政府に新たな資金調達手段がなくなることを意味する。中国経済にとって大きな痛手だ。

    (5)「中国政府は、財政規律を確保するため、14年まで地方政府による地方債の発行を原則禁止していた。このため、地方政府出資のインフラ投資会社が、資金調達と公共投資を代替することが多かった。経済発展が遅れた一部の地方政府は財政余力が低下し、こうしたインフラ投資会社への資金支援に二の足を踏むようになっている。貴州省のように銀行に負担を肩代わりさせる動きが広がれば、今度は不良債権の増加を通じて地方銀行など金融システムに悪影響を及ぼしかねない」

     

    不良債権は、地方政府から地方銀行へ付け替えするだけになる。総合的に見れば、中国の国力消耗に繋がる話に変わりない。元本返済20年後の意味は、中国経済に当面の返済能力がないことを告白したようなもの。事態を深刻に受け取るべきだ。

     

    a0001_000268_m
       

    中国は一昨年7月、IT関連産業へ規制の網を被せた。無軌道な資本の発展を規制する、としてアリババなどが一網打尽の被害を受けた。これが、中国経済の足を引っ張ることが明白になると共に、再び「ゴー」への指令がかかったのだ。なんとも、朝令暮改というイメージを拭えない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月15日付)は、「中国、IT『是正完了』の虚実 アリババなど景気けん引役に 税収・雇用を懸念 政府関与は強化」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平指導部がIT(情報技術)業界への締めつけ一辺倒の姿勢を修正し、成長を促す方針に転換した。税収減少や若者雇用悪化への危機感が背景にありそうだ。新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策の撤廃と並び、景気回復のけん引役にしたい思惑とみられる。

     

    (1)「アリババ集団傘下の娯楽関連会社の株式1%を、政府機関傘下の会社が取得したことが13日、わかった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、通常の議決権よりも強い権限を持つ「黄金株」に似た株式という。FTは騰訊控股(テンセント)についても株式取得に向けた協議が進んでいると伝えた。

     

    中国政府は、アリババ集団傘下の娯楽関連会社に対し、通常の議決権よりも強い権限を持つ「黄金株」に似た株式1%を政府機関系企業に取得させ、事実上の支配下に収めた。これで、人事権を握って共産党員を役員に送り込むであろう。共産党支配権の拡大である。

     

    (2)「習指導部がIT業界の締め付けを強めたのは2020年秋から。馬氏が同年10月、政府批判と受け取れる発言をすると、直後の11月初旬、アントが上場延期に追い込まれた。アントはスマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」で10億人超のデータを握る。民間のIT企業が決済網を握ることへの警戒感があった」

     

    中国共産党は、あくまでも「国進民退」が基本である。躍進する民間企業の株主に、反習近平派(上海閥)が入って甘い汁を吸わないように監視させる役割である。

     

    (3)「習指導部は「共同富裕(共に豊かになる)」を掲げる。IT企業が巨額の利益を稼ぎ、独占的地位を利用して取引先に圧力をかけたことも統制強化の原因とみられる。政府は独占禁止法違反などでアリババなどに巨額の罰金を科した。21年にはデータ安全法と個人情報保護法、22年には改正独禁法をそれぞれ施行した。取引先への圧力をけん制し、M&A(合併・買収)の届け出義務違反も厳罰化した」

     

    世界の潮流は、ソフト全盛時代から再び、ハード全盛時代へ向かう。米国IT関連大企業が、相次いで人員削減に踏み切っているのは、ソフト全盛時代終焉を示唆する。これは、グローバル経済の終焉でもある。米中デカップリング時代は、ハードの時代を予告している。中国ITもこの流れから逃れられないのだ。

     

    (4)「副作用は深刻だ。IT業界を含む「情報伝達、ソフトウエア、ITサービス」の実質国内総生産(GDP)は18年に前年比27.%増えた。その後も2割前後の成長を保ったが、22年1~9月は前年同期比8.%に失速した。22年の中国成長率は3%前後と目標の「5.%前後」に届かない見通しで、IT産業の低迷も原因の一つだ」

     

    中国は、反習近平派を追込むためにIT関連産業を規制した。だが緩和しても、もはや元へは戻らないのだ。中国の人心が政治不信に陥っており、鄧小平が旗を振った「改革開放」という伸び伸びとした空気は消えた。後には、疑心暗鬼しか残っていない状況である。これでは、企業が萎縮する。大事な企業成長のタイミングを「政敵潰し」という政治要因で逸したのだ。覆水盆に返らず、である。

     

    (5)「1月、国営中央テレビ(CCTV)の番組にはアリババトップの張勇氏ら21人の民間企業家がそろって登場し、中国経済への楽観論を振りまいた。米国との貿易戦争や不良債権処理で株価が急落した18年秋も、劉鶴副首相らが登場して民間企業をさかんに持ち上げた。IT企業への唐突な「ほほ笑み」の裏に、中国経済の深刻な停滞への指導部の焦りが透ける。もっとも、国が運営に口出しする企業がイノベーションの担い手になることは少ない。出資などで国が関与を強めるほど、IT企業を経済成長のけん引役とする目標の実現は遠のく恐れがある

     

    下線部の指摘は、その通りである。米国が口を揃えて指摘するのは、イノベーションの意味づけである。人々のやる気が、イノベーションの出発点である。それは、自由という空気が開花させるもの。中国の国家監視下では、イノベーションは生まれないのだ。

    このページのトップヘ