勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国のコロナ感染が猛威を振るっていることから、日韓をはじめ16ヶ国が中国人入国に際し検疫を行なっている。これに対し中国は、報復措置として日韓両国だけにあらゆる「ビザ発給停止」措置を取った。他国に対しては、目下のところ「報復なし」だ。それどころか、米国には航空便正常化の作業を行なうという差別外交を行なっている。

     

    こうした日韓への「戦狼外交」は、今後の中国にとって極めて不利に作用するであろう。対中国への国民感情をさらに悪化させるからだ。それだけでない。安全保障面で、中国への警戒感を強めて米の同盟国として結束させるであろう。中国は、近隣国を「懲らしめる」という古代中国外交の素顔を見せており、近代外交とはほど遠い動きである。

     

    『中央日報』(1月12日付)は、「中国、韓日にビザ発給停止 米国には航空便正常化『ラブコール』」と題する記事を掲載した。

     

    中国が韓国と日本の国民の中国訪問ビザ発給を停止した中、米国に対しては新型コロナ局面で長期間中断している航空便運航の正常化に向けて積極的な動きを見せている。

     

    (1)「12日の中国新聞網によると、中国民用航空局運輸司の梁楠司長は10日、共産党対外連絡部が外国商工界の関係者を招請して開いた懇談会で、「民航局は8日から中国と外国の航空会社の運航再開申請を受けているが、ここに中国と米国を行き来する航空路線運営再開に対する両国航空会社の申請も含まれている」と伝えた」

     

    中国が、近隣国の日韓へはムチを当て、米国へはひざまずくという、相反する外交戦術を取った。これは、中国経済の危機を裏返したもので、米国へ半導体輸出禁止措置の緩和を求めたいジェスチャであろう。中国は、追込まれているのだ。同時に、国内向けに日韓へビザ発給停止措置で、中国が日韓よりも上位にあることを示すポーズを取っている。

     

    (2)「中国が、コロナ局面で3年近く維持してきた入国者隔離と到着後の新型コロナPCR検査を廃止して国境を開いた日、米国に対して航空便正常化の「ラブコール」を送ったのだ。梁司長は「民航局は現在、手続きを基づいて(航空便運航再開に対する)審査および承認作業を急いでいる」とし「中国と米国の航空会社が協定と市場の需要に合わせて両国間航空便を運営することを歓迎する」と述べた。続いて「民航局は航空便の運航再開過程で米国民航主管部門との意思疎通を強化し、中米間の航空便の順調な運航再開を推進する」と強調した」

     

    中国は、ともかく米国へ留学生を送って科学研究成果を窃取したいという強い衝動に駆られている。これまで、中国人留学生を使って、米国技術の持出しを行なってきたからだ。米国はこの点を全て把握している。FBI(連邦捜査局)は、その手口を大学や研究所へ周知徹底化させているほど。中国からの研究費贈呈にたいしても、FBIは目を光らせている。米国研究者で無申告の場合、逮捕されるのだ。

     

    (3)「米国に対するこうした措置は、中国が最近、韓国国民の短期訪中ビザと日本国民の中国行き「一般ビザ」の発給を暫定停止すると明らかにした中で取られたという点で注目される。中国発入国者に対する防疫を強化した国は、韓日だけでなく米国など15カ国を超える。特に米国は中国発入国者に対して航空便搭乗2日以内に実施したコロナ検査の陰性確認書の提出を義務づけるなど防疫を強化した。しかし中国は「差別的措置の実際の状況に立脚した対等な措置」とし、韓国・日本に対してのみビザ関連の報復措置を断行した」

     

    香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)によると、朝鮮半島専門家である中国人民大学国際関係学科の時殷弘教授は10日、インタビューで「中国は他国との二国間関係の流れの中で相互措置を取る」とし、「韓国が真っ先に報復措置のターゲットになったのは先月、韓国国会議員の台湾訪問のためなのかもしれない」と明らかにした。

       

    時教授は、特に「韓国経済が中国に大きく依存しているため、中国のターゲットになりやすかった」と分析した。同時に、他国には「ビザ発行中断」など韓国水準の措置を取らない可能性が大きいとし、韓国がこれに対応して中国に取る措置が多くないという点が韓国の弱点の一つだと分析した。

     

    さらに、「中国の寛容は(同じ行動でも)国によって差が大きい」とし、「他の西側諸国には報復してもその度合いは韓国よりさらに弱い可能性がある」と話した。中国は、米国は自国に対して非常に敵対的な措置を取る時に限って報復するが、韓国は比較的に弱い措置を取っても強硬な対応をとるということだ。以上は、『中央日報』から引用した。


     

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    昨年末の中国金融状況は、借入れ意欲も能力もない最悪の状態だ。すでに目一杯借りているので、新規借入れ能力が減退した状況である。このことは、名目GDPに対する借入残高が、すでに300%スレスレまで達していることで証明できる。水が、吃水線一杯まで来ている感じで、これ以上になれば、船が沈む状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月11日付)は、「中国、銀行に滞留するマネー 22年末の預貸残高差最大」と題する記事を掲載した。

     

    中国でマネーが銀行に滞留している。中国国内の預金残高と貸出残高の差は2022年末時点で44兆5100億元(約871兆円)となり、年末時点で比べると遡れる1997年以降で最大となった。新型コロナウイルスをめぐる混乱などで景気の先行き不安が強まり、預金の伸びが貸し出しの伸びを上回った。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)によると、人民元建ての預金残高は2022年12月末時点で258兆5000億元となり、前年末比11.%増えた。貸出残高は213兆9900億元で11.%増加した。年末時点で預金の伸びが貸し出しの伸びを上回るのは10年以来12年ぶりとなる。都市封鎖(ロックダウン)など「ゼロコロナ」政策や住宅不況で、企業や家計の先行きに対する懸念が強まったためだ。政府は景気対策として増値税(付加価値税)の還付を進めた。22年12月15日までに2兆4000億元を還付した。企業の資金繰り改善に役立ったが、新たな投資に慎重な民間企業が預金を増やしたとみられる」

     

    BIS(国際決済銀行)が公表した金融機関を除く債務残高(政府・企業・家計の合計)は昨年6月末時点で、51兆8744億ドル(約7100兆円)だった。国内総生産(GDP)比で295%となり、遡れる1995年末以降で最高となった。これは、中国がすでに過剰債務を抱える厳しい事態を示している。最早、新たな借入れ能力がないことを示すものだ。時間を掛けて債務を減らさなければ、新規融資など受けられるはずもない。

     

    (2)「家計の貯蓄志向も根強い。人民銀行が22年10~12月に2万人の預金者を対象に調べたアンケート調査によると、お金の使い道について「貯蓄に回すお金を増やす」との回答が61.%を占めた。確認できる02年以降で最も高くなった。21年末まで5割前後で推移していたのが、22年に入り一気に上昇した。家計の借り入れ需要も弱い。銀行が22年に融資した家計向け中長期資金の純増額は2兆7500億元と、前年比55%も減った。融資額は8年ぶりの低水準で、減少率は確認できる10年以降で最大を記録した。マンション取引が落ち込み、新規の住宅ローンが減った」

     

    家計も、住宅ローンなどを膨らませようとする筈はない。政府の不動産向け金融規制の強化や景気の悪化で住宅市場の低迷が長期化しているためだ。人民銀行の預金者向けアンケート調査をみると、昨年7~9月の場合、住宅に対する値上がり期待は確認できる09年以降で最小を記録した。当然であろう。

     

    (3)「人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会は1月10日、大手行などを集めた会議で不動産業などへの融資強化を指示した。実は企業向けの中長期融資は昨秋から大きく伸びており、22年12月は前年同月の3.6倍に増えた。政府が国有銀行を動員して国有企業向け融資を増やしているとみられる。国有企業に多くの資金が流れ込めば、経済構造が非効率になり成長を妨げる要因になりかねない」

     

    当局は無理矢理、貸出を増やそうとしている。最高指導部からの指示であろう。馬は、無理に水辺へ連れて行っても決して水を飲もうとしない。それと同じで、民間企業は、自社の返済能力を超えた借入をしないはずだ。現在の中国は、景気回復で相当に焦っている。

     

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    中国当局が、コロナ患者の関連統計を発表しなくなったのはなぜか。医療費負担を避けるためだ。コロナの定義を極端に狭くしており、個人に治療費を負担させる目的である。昨今の猛烈な感染スピードから見ると、命が助かってもあとに厖大な借金が残るのは確実な情勢である。ゼロコロナで苦しみ、「フルコロナ」で罹患すれば破産する事態だ。

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月10日付)は、「中国の新型コロナ患者、かさむ医療費負担」と題する記事を掲載した。

    中国の新型コロナウイルス患者が、かさむ医療費の支払いに悩まされている。過去最大の感染の波を受けた公的医療保険のカバー率引き下げや適用廃止が背景にある。各地方政府の発表によると、中国政府が感染を徹底して抑え込む「ゼロコロナ」政策を急転換した2022年12月以降、少なくとも14都市・省が、コロナ患者に無料で治療を施す制度を廃止した。中国でそれまで3年間は、コロナ診療に補助金が提供されていた。

    (1)「上海や広州の病院では、集中治療室入りした重症のコロナ患者に対する1日あたりの請求額が最大2万元(約39万1300円)に上るようになった。これは都市部での平均的な給料の約5カ月分に相当し、コロナへの感染リスクだけでなく、医療費で借金を背負わされる恐怖も不安要素となっている。保険会社は掛け金が割安なプランを何千万件と売りさばいてきたが、規制緩和に伴う感染拡大で請求が膨らむのを恐れ、保険金の支払いに及び腰だ」

    集中治療室入りした重症のコロナ患者は、1日あたりの請求額が最大2万元(約39万1300円)と言う。集中治療室の設備が少ないために需給が逼迫して価格がせり上がるのだ。保険会社も、余りの高額に支払に消極的になっている。理屈をつけて支払に応じないのだろう。

    (2)「中国の保健政策のあり方から、コロナに感染した証明を得るのも難しくなっている。保健当局がコロナによる死亡や疾患の定義を狭めたことに対し、世界保健機関(WHO)は1月上旬、感染拡大の程度を実際より小さく見せかけていると批判した。北京に本社を置く泰康保険集団の関係者は、請求を却下された契約者から苦情が相次いでいると明らかにし、自社が保険金の支払いを認める条件は「大変厳しい」と話した。「病院はめったに文書を交付しないのに、罹患(りかん)証明書を取得する必要がある」と指摘」

    保健当局が、コロナによる死亡や疾患の定義を狭めたのは、当局が無料治療する範囲を狭めて支払いを忌避する理由にしている。

    (3)「アナリストらによると、このような状況は所得の低い患者にとって重いストレスとなり、中国の医療保険システムが資金難にあえぐ中での不平等を浮き彫りにしている。病院や発熱外来は高齢の患者でパンク状態だ。米外交問題評議会(CFR)フェローのホワン・イエンジョン氏は、「中国の医療制度が誰にとっても手ごろでアクセス可能だったためしはない」と語り、「今回のコロナ感染拡大でその問題点がさらに悪化した」と続けた。中国政府は当初、無料のコロナ診療をパンデミック(世界的大流行)に対する勝利の象徴と位置付けていたが、22年12月に突然の方向転換を決めた」

    昨年12月、無料のコロナ診察は打ち切られた。財政的な負担が大きいためだ。

    (4)「人口が6400万人を数える東部の安徽省では1月上旬、コロナ診療で3割の自己負担が義務付けられた。北京に近い河北省三河市ではさらに厳しく、22年12月以降はコロナ患者自身が入院費の最大5割を負担しなければならない。多くの患者にとって、金銭的な負担は大幅に重くなった」

    安徽省では、昨年12月以降にコロナ患者の入院費は、最大5割負担である。これでは、富裕階級でないかぎり、経済的に安心して入院もできないであろう。

    (5)「中部の河南省で農業を営むガオ・シェングリさん(53)は1月、コロナの陽性判定が出た後、脳卒中を患った。地元の病院に2日間入院しただけで、年間の世帯所得の2倍以上に相当する15万元(約29万円)の請求書を受け取ったという。それからも1日あたり5000~1万元(約9万8700円~約19万5600円)の追加請求が発生し続け、家族は絶望に追いやられている。匿名を条件に取材に応じたガオさんの息子は「父には医療保険がなかった」と説明したうえで、「病院から毎日、支払いを催促されているが、そんなお金はない」と語った」

    このパラグラフでは、こういう高額治療費をどれだけの人が払えるのか疑問だ。日本人でも払えない金額である。医療の貧困が噴出している感じだ。

    (6)「中国都市部の中産階級も、保険金の請求を通すのに苦戦し、決して楽ではない。病院の多くは、コロナ検査で陽性判定が出ても、肺感染症が認められ、保健当局による審査に通らない限り、罹患証明書を発行しない。上海市第十人民医院の医師の1人は、コロナの診断件数を抑えるよう同市の保健委員会から指示されたと打ち明け、「大半のケースを呼吸器感染症と分類する勧告を受けている」と話した」

    コロナ患者として認められるのは「肺感染症が認められる」ことである。肺感染症になるのは、末期症状になってからであろう。経済的な理由で、土壇場までコロナ患者として認めない方針である。


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    中国は現在、コロナ政策の失敗で大混乱の極にある。政策の失敗は明らかであり、これが防疫政策に止まらず経済政策全般に及ぶという見方が浮上している。その結果、「中国の失敗を望むな」という主張まで出てきた。世界のGDP2位の中国経済の破綻は、世界経済を混乱に巻き込み、西側諸国もその巻き添えを食い、輸出が減るという構図からだ。

     

    ただ、安全保障という面から言えば、それと違った視点が浮かび上がる。中国の経済的後退は、軍事力拡張へ歯止めを掛けるからだ。そこで、中国の台頭をいかに管理するかという問題意識の登場になる。これは、かつての「中国民主化期待論」と同一線上に戻ることに気づくであろう。コミュニズムを信奉する国家の「台頭管理」は、すでに一度行なって失敗したことである。デモクラシーとコミュニズムの親和性は、不可能というのがこれまでの結論になっている。中国経済は、これからどうなるか、だ。

     

    『日本経済新聞』(1月11日付)は、「中国、深刻な景気減速」と題する記事を掲載した。元モルガン・スタンレー・アジア会長のスティーブン・ローチ氏へのインタビューである。ローチ氏は現在、米エール大学シニアフェローである。

     

    習近平中国共産党総書記(国家主席)の強権的な指導体制の確立が、従来の楽観から転じるきっかけだったという。中国はすでに深刻な景気減速に見舞われているとしたうえで「中長期的にも高成長には戻らない」との見方を示した。

     

    (1)「中国の国内総生産(GDP)は縮小していないものの、ほぼ不況入りに相当する状態といえる。今年の成長率は3%未満になるとみる。12年以降は8%前後で推移してきたことを鑑みれば驚くべき数字だ。中国は08年の金融危機時に世界経済の柱となり、その後も世界生産高の35%以上を占めていた。今は中国を頼りにできなくなったため、世界経済は危機的な状況に陥っている。中国経済の中長期的な成長も望めない。一人っ子政策は中国の人口動態にゆがみをもたらした。生産年齢人口の減少は想定以上に早く進んでいる。習近平指導部が打ち出す『共同富裕(ともに豊かになる)』政策は生産性を悪化させる」

     

    習氏が、国家主席に就任した2012年以降の経済成長は不動産投資やインフラ投資に支えられたもので、生産性の伸び率は急速に鈍化している。「国進民退」という国有企業優先の共産党政権固有の政策に回帰した結果だ。これは、鄧小平の「社会主義的市場経済」を放棄に繋がっている。

     

    (2)「過去25年間に中国を分析してきた米国のエコノミストのなかで、最も中国経済を楽観視していたのは私だった。習氏が最高指導者としての地位を確立してからは楽観視できなくなった。彼は17年の第19回党大会で、経済や政治システム、中国社会を支配するという見解を打ち出した。中国経済は市場原理に基づく自由化の力よりも、イデオロギー的な決定で動くようになってしまった」

     

    習氏が、共産主義本道を求めて政策を大きく転換させたことで、中国経済の生産性が鈍化している。経済成長よりもイデオロギー追求へと舵を切ったことは明らかだ。ただ、3年間のゼロコロナ政策で、経済政策的には完全は空洞が生まれている。これに気づき、ゼロコロナを一挙に廃止して「フルコロナ」に戻った。これは、新たな大混乱を引き起しているのだ。

     

    (3)「貿易戦争として始まった米中の対立は、技術を巡る戦争に姿を変え、新たな冷戦に突入している。両国が相手に対する誤ったナラティブ(物語)をあおりたてた結果、現在の状況に陥ってしまった。米国は貿易赤字を中国のせいにしているが、実際には米国の貯蓄率の低さに原因がある。中国は自国の台頭が戦略的に封じ込められ、経済の構造改革が妨げられていると米国を非難しているが、実際には中国側により多くの問題がある。この紛争に明確な勝者は存在しない。米中双方が打撃を受けている。私は著書の中で共通の問題を解決する方法として、米中の(経済などの)専門家を集めた事務局の設立を提案した。両国が自らの脆弱さと向き合わない限り、解決は見込めない」

     

    トランプ米大統領(当時)が始めた米中貿易戦争は、バイデン政権になって米中デカップリングへと拡大し、安全保障問題が前面に出て来た。中国は建国以来、内部的には秘かに「米国打倒」を共通認識にし、国力がつくまで目立たない動きをすることを目指していたのである。米国が、この動きを2015年ごろに初めて知って驚愕。トランプ氏が、米中貿易戦争を始めた遠因はここにある。

     

    (4)「中国の証券当局は、米上場企業会計監視委員会(PCAOB)による中国本土と香港の会計監査法人の検査を受け入れた。米国に上場する中国企業の透明性を高めるもので、米国の投資家が長年求めてきた。中国に資金を振り向けたいと考えている投資家は増えるはずだ。しかし、中国政府は成長力の高いインターネット企業に対して規制を強めている。知的財産の保護、産業政策や補助金を巡っても多くの問題を抱えている。中国経済の成長率が8%前後の高軌道に戻ることはありえない。中長期的な成長リスクを懸念すべきだ」

     

    米機関投資家は、今回のコロナ政策の混乱に大きな衝撃を受けている。中国の政策は事前の予測が不可能という根本的な弱点を露呈したからだ。投資には、「予測不可能」が最大の禁句である。未来を予測できれば、それによってリスク回避の手立ても可能になり、初めて投資対象になりうる。中国では、この最も重要な前提が消えたのだ。

     

     

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    ロシアのウクライナ侵攻によって、中国による台湾侵攻の可能性が高まっている。現実に台湾侵攻が起こった際、米軍は守り抜けるのか。有力な米シンクタンクのCSIS(戦略国際問題研究所)は、24回もの机上演習を行なったが、いずれも米軍の勝利となった。ただ、米軍も大きな損害を被るという結果になったという。

     

    米通信社『ブルームバーグ』(1月10日付)は、「中国が台湾侵攻でも『早期に失敗』 米軍が反撃でーシンクタンク分析」と題する記事を掲載した。

     

    米ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は9日、中国が台湾に軍事侵攻した場合、その企ては「早期に失敗」する一方、台湾と米海軍にも多大な代償を強いることになるとの机上演習の結論を公表した。

     

    (1)「CSISは「最も可能性の高い」シナリオとして、「中国による大規模な砲撃」にもかかわらず、台湾の地上部隊は敵の上陸拠点に展開する一方、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強されて、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻する中国軍は補給の増強や上陸に苦戦すると結論付けた。机上演習は計24回に及び、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加した」

     

    中国軍は、台湾海峡(最短で140キロ)を渡らなければならない大きなハンディキャップを抱えている。これが、最大の天然の要塞だ。米軍が直接、中国軍と戦う場合、自衛隊は燃料などを頻繁に米軍へ補給する補助態勢を取る。米軍は、こうした自衛隊支援下で隙間のない攻撃によって、中国軍を撃破する体制を組むのであろう。

     

    机上演習24回の結果、米軍が勝利を収めるというのは「完勝」と言えよう。ただ、米軍自体も大きな犠牲を払うとしている。それゆえ、戦争抑止こそが最大の勝利になる。

     

    (2)「CSISはその中で、日本の基地や米軍の水上艦を中国が攻撃したとしても「結論を変えることはできない」としつつも、「台湾が反撃し、降伏しないというのが大きな前提だ」と説明。「米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、後の祭りだ」とし、「この防衛には多大な代償が伴う」と指摘した。さらにリポートでは、米国と日本が「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、「そうした損失を被れば米国の世界的立場はにわたり打撃を受けるだろう」としている」

     

    肝心要の台湾が降伏してしまえば、米軍の戦いは水泡に帰す。台湾は現在、徴兵期間を1年に延長しており、「自由と民主主義を守る」姿勢を固めている。問題は、親中派の国民党が政権を取った場合、どうなるかだ。台湾市民は、「第二の香港」化を忌避しているので、「台湾人」としての誇りを守るために戦う士気を高めている。自主的に国防訓練へ参加しているほどだ。

     

    (3)「CSISが主な分析結果として挙げたのは、米国として「日本との外交・軍事上の結び付きを深化」させる必要があるとの点だ。具体的には、オーストラリアと韓国も中国との広範囲の競争では重要な存在であり、台湾防衛でも一定の役割を果たすかもしれないが、「日本が要だ。在日米軍基地を使わなければ、米軍の戦闘・攻撃機が効果的に戦闘に参加するのは不可能だ」と論じた」

     

    米国は、日本の協力が不可欠としている。日米の緊密化が、「自由で開かれたインド太平洋」防衛の要である。在日米軍は、具体的にどのような台湾防衛戦術を練っているのかを見ておきたい。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月9日付)は、「在日米海兵隊トップ、対中国で日本と『舞台作り』」と題する記事を掲載した。

     

    在日米海兵隊のトップで、第3海兵遠征軍司令官のジェームズ・ビアマン中将は、台湾などを巡って中国と武力衝突が起きる可能性に対し、アジアの同盟国と準備するため、自衛隊との指揮系統の統合や合同演習の拡大を速やかに進めていると明らかにした。ビアマン氏は『フィナンシャル・タイムズ』(FT)のインタビューに応じ、戦時に防衛すべき領土での軍事的な対応が「ここ1年間だけで飛躍的に増えた」と述べた。

     

    (4)「ビアマン氏によると、米国とアジアの同盟国は中国の台湾侵攻シナリオなどを視野に入れ、西側諸国がウクライナによるロシアへの抵抗を可能にした土台づくりをまねようとしている。「ウクライナであれだけの成功を得られたのはなぜだろうか。主因の一つは、2014年から15年にかけてのロシアによる軍事侵攻後、われわれが将来の紛争に向けて真剣に準備したことにある。ウクライナ軍に訓練を施し、補給品を事前に配備し、後方支援や作戦支援を実施する拠点を特定した」と、ビアマン氏は語った。「われわれはこれを『舞台作り』と呼び、日本やフィリピンなどでも舞台作りをやっている」と強調」

     

    ロシアのウクライナ侵攻前に、西側諸国は協力体制をつくっていたので、侵攻後に迅速な対応ができた。この経験を生かして、中国の台湾侵攻に備えフィリピンと日本で準備の「舞台づくり」を進めている。フィリピンは、米国へ強い協力姿勢をとり、フィリピンの米軍基地の利用を無条件に認める方針だ。フィリピンは、米軍の武器や補給品などを事前に配置しておく拠点を、現行の5カ所からさらに5カ所増やす計画である。

     

     

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