勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    米中貿易戦争が中国に与える影響は、これから本格化する気配だ。8月の中国の貿易統計は、今後の中国経済の「運命」を示唆する。8月の対米貿易黒字は過去最大に膨らんだ一方、ドルベースの輸出の伸びは全体として鈍化したのだ。

     

    中国は、表面的には米国と「対等」を強調しており、一歩も下がらないポーズである。だが、米国という世界最大の市場を相手にして「互角に戦う」ことなどあり得ないこと。早く、自らの非を認め、WTO原則に従った経済運営が中国を救うことに気づくべきだろう。

     

    『ブルームバーグ』(9月10日付)は、「中国の貿易に陰り、トランプ大統領は全輸入品に関税の用意」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ米大統領は7日、追加関税を課す中国からの輸入品の対象を一段と広げ、全ての輸入品に「すぐさま」課税する用意があると述べた。エコノミストの間では通商摩擦が経済に即座に及ぼす影響は限定的との見方が優勢だが、中国人民銀行(中央銀行)前総裁の周小川氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、『経済への信頼に対する影響はより大きいだろう』と指摘した」

     

    中国人民銀行前総裁の周小川氏は、「経済への信頼」という微妙な言葉を使っている。具体的には、人民元相場の下落を意味していると見るべきだ。為替相場は、まさに「経済への信頼」そのものである。

     

    (2)「中国税関総署が8日発表した8月の貿易統計は、米中のにらみ合いの原因とその結果を如実に示した。対米貿易黒字は過去最大に膨らんだ一方、ドルベースの輸出の伸びは全体として鈍化した。IHSマークイットのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、ラジブ・ビスワス氏(シンガポール在勤)は、『米国による大規模な追加関税措置が迫っており、中国の輸出業者は今後ひどい打撃を受け、2019年の中国のGDP伸び率は落ち込む公算が大きい』と指摘。『米国が中国への関税措置を強化し続けたら、当局が影響緩和策を講じても、輸出セクターにはこの先、長期にわたる厳しい道のりが待ち構えている』と述べた」

     

    8月の対米貿易黒字は過去最大に膨らんだ。一方、ドルベースの輸出の伸びが、全体として鈍化したことは、深刻に受け止めるべきである。米国による大規模な追加関税措置が迫っているからだ。中国の輸出業者は今後ひどい打撃を受け、2019年の中国のGDP伸び率は落ち込む公算が大きいとの見方が出ている。この見解と、先の前・人民銀行総裁の発言を重ね合わせると、中国経済の受ける打撃のほどが予想できる。

     

    中国の輸出部門は、とりわけ大きな打撃を受ける。純輸出(輸出-輸入)は、昨年のGDP成長率に寄与したが、今年以降は大きく足を引っ張るのだ。無駄なインフラ投資をいくら増やしても「焼け石に水」になりかねない。習近平氏は、正念場を迎える。


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    米国は、2000億ドル関税発動の最終調整を終えた。いつ発動されるか時間の問題となっている。ところが、中国のIT製品に関税をかけることで、逆に米国の次世代移動通信システムの「5G」コストが上昇して、米企業にしわ寄せが来るという問題が明らかになった。これまでは、2000億ドル関税の発動が、米IT企業を守るとしてきた。想定外の事態が起こりそうだという。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月8日付)は、「対中関税は5G開発を妨げる、 米ハイテク大手が主張」と題する記事を掲載した。

     

    「5G」問題は、米国が絶対に中国の後塵を拝してはならぬという国家的な課題である。中国へ経済制裁を加えている理由もここにある。ところが、「上手の手から水が漏る」の喩え通り、とんだ落し穴にはまり込みそうだ。

     

    (1)「米大手ハイテク数社は第5世代移動通信システム(5G)で主導的な立場をとることを目指すトランプ政権の優先課題の一つを引き合いに出し、2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に追加関税を発動する方針に異を唱えた。半導体大手インテル、ネットワーク機器大手シスコシステムズ、パソコン大手デル・テクノロジーズなどのハイテク企業は米国で5Gサービスを本格展開する上で欠かせない製品への関税上乗せ阻止を目的に、米通商代表部(USTR)の説得を試みている」

     

    米国の「5G」製品に不可欠の部品が、中国からの輸入に頼っているという。その部品に高関税をかけられると、米国の「5G」製品はコスト高で不利になるというもの。対中経済制裁の主旨に反するのだ。

     

    (2)「インテルは6日遅くにUSTRに提出した文書の中で、その追加関税計画は5Gネットワークの構築に必要な製品のコストを引き上げることで『米国経済が当該技術を導入するペースを鈍化させ、米国の企業や関連機関は、同様の関税の対象にはなっていない、中国以外の外国の競合他社に後れを取ることになる』と主張した」

     

    米国は、こういう深刻な事態に陥るのを防がなければならない。米IT企業は、折角の対中制裁が米国通信企業の足下を揺さぶる事態を避けるよう、米国政府に申し立てている。

     

    (3)「追加関税は、5G技術でリーダーシップをとるというトランプ政権が掲げた目標に反しているようだ。トランプ政権は3月、シンガポール半導体大手ブロードコムが米クアルコムを1170億ドルで買収する計画を阻止している。外国企業による米企業への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)が、この買収案についてクアルコムの5G技術の開発を阻害する可能性があるとの懸念を表明したためだ。当時、トランプ政権は5G技術での主導的地位の確保を国家安全保障上の重要課題としていた」。

     

    米国政府が、シンガポール半導体大手ブロードコムが、米クアルコムを1170億ドルで買収する計画を阻止した理由は、「5G」技術の発展に不利ということだった。これほどまでに、「5G」を重視されている。

     

    (4)「USTRは追加関税の対象となる製品を最終的に決定する前に意見公募を行っている。リンジー・ウォルターズ大統領副報道官によると、トランプ政権が求めているのは中国が新たな5G市場で公正に競争することだという。『具体的なことについて最終決断はなされていない』と副報道官は述べた」

     

    米国政府は、米IT企業の申し入れを認めるのであろう。


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    米国トランプ政権は、通商面でもなかなか巧妙である。先ず、対中国の貿易戦争では日本を初めとする同盟国の足並みを揃えて、中国包囲網を作らせた。この包囲網が成果を上げられると見るや、日本との貿易摩擦を取り上げて改善を迫っているからだ。

     

    トランプ氏は、同盟国といえども手加減せず、貿易赤字削減を求めて二国間協定を迫ってきた。その結果、NAFTA(北米自由貿易協定)では、メキシコが妥協し、カナダにも改訂を迫っている。欧州(EU)も交渉に入っている。残るのは、日本だけである。11月の米中間選挙を目前に「日本攻略」に着手するようだ。

     

    米国が対中貿易包囲網をいかに形成してきたかを検証しておきたい。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月8日付)は、「遠のく米中通商合意、各国と対中包囲網形成へ」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米当局者は、NAFTAと米中の動向は相互に関連していると話す。米国は通商政策を巡り、メキシコとカナダとの緊張を和らげたほか、欧州連合(EU)とも暫定合意にこぎ着けており、対中包囲網で各国の理解を得られやすい状況が生まれた。米国とEU、日本はすでに、対中戦略を協議する会合を開いている。トランプ大統領は今週、『中国が望む合意を締結する用意はない』と言明した」

     

    トランプ氏の「ディール」は、最初に相手国へ大きな条件を持出して萎縮させてから、具体的な交渉に入るスタイルである。相手に言葉で一撃を加えて細目を詰めるのだ。こういう手法で、「同盟国へ喧嘩を売ってどうするのだ」という批判を浴びたが、米国はNAFTAやEUでも譲るべき所は譲っている印象だ。日本に対しても、「大きな問題になる」と例によって、口撃を加えている。日本はこれに怯んでは負けになる。理論的な攻め方で凌ぐしかない。

     

    (2)「中国は目下、両にらみの戦略を掲げているもようだ。中国当局者は、先月末にワシントンでの米中通商協議が不調に終わって以降も、米中は協議を継続していると強調することで、市場の不安払しょくに努めている。一方、米国の中間選挙前に、大きな進展を見込む中国の当局者はほとんどいない。中国当局者は共和党が選挙で惨敗すれば、対中協議でのトランプ大統領の姿勢も軟化するともくろむ。ただ、中国に選択肢はあまりないかもしれない。8月の米中協議では関係筋によると、トランプ政権の交渉団は一段と具体的な成果を要求した」

     

    中国は、もともと正統派の交渉が不得手である。相手の後方を攪乱させるゲリラ戦法が得意である。この手法は、米国相手では通用しないのだ。ディベートの米国である。正論で攻められたら、中国はどうにもならない弱い立場である。WTO原則を無視して、保護主義を貫いてきた。これが、中国経済を極度に脆弱なものにしている。米国がここをギリギリ突いているのだ。悲鳴を上げて逃げ回っているに違いない。米国へは、脅迫を言ったところで逆襲されるだけ。仮に、TVで交渉過程が見られるなら、世界中の人は米国の応援をするはずだ。「義は米国にある」からだ。

     

    (3)「通商政策を巡ってはトランプ政権内でも意見が分かれていたが、米国側は今回、かなり結束していたという。米国の立場は、補助金や国内企業優先の政策を減らすといった、より根本的な変革を中国に迫るライトハイザー代表の考えに傾いている。だが、中国側にとって、構造改革の要求を受け入れることは最も難しい。トランプ政権やその支持者は、中国が米国の政治を見誤っていると指摘する。トランプ大統領の立場が苦しくなるほど、民主党に迫られる形で、中国への強硬姿勢は強まるというのだ」

     

    これまで、米政権ではハト派とタカ派に分かれていたと指摘されてきた。前者は、財務長官や通商長官である。後者は、原則派である。中国に変革を迫るライトハイザー代表の考えが、米政権を一つにまとめたと言われる。米国のマスコミ報道では、タカ派を非難する調子であった。日本でも、米国による中国の構造改革要求は、内政干渉になるという社説を掲げた有力新聞社がいる。私はかつて、一連の日米経済摩擦を取材してきた人間として、「内政干渉論」は当らないと書いてきた。中国には、それだけの批判されるべき理由があるからだ。

     

    中国は、WTOルールを悪用してきた。それが抜本改革を迫られている。そのショックがどれだけ大きいかは想像を超える。

     


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    中国一の富豪、馬雲(ジャック・マー)氏は、きょう54歳の誕生日だという。歴史上の人物でない馬氏の誕生日をあえて書き記したのは、氏が本日、人生「次の選択」を明らかにすると報じられているからだ。中国の特定個人を取り上げることに違和感のある向きは、この記事を読まずに飛ばして頂きたい。後から、非難を受けるのは本意でないからだ。

     

    日本では、54歳は働き盛りである。中国では、ほとんどの人が55歳でリタイアする。健康上の理由でそれ以上、働き続けることが困難な環境に置かれているからだ。馬氏は、次の人生を教育事業に捧げたいという。中国人で、こういう崇高なことを目標にする人はほとんどいないのだ。多くの富豪が、さらなる富を求めて政治と癒着して突進する。馬氏は、こういう部類の人々と、一線を引いている。

     

    私は、馬氏の人生選択に強い共感を覚える一人である。米国メディアが競って取り上げているのは、経営者のジャック・マーと言うより、人間としてのジャック・マーの姿勢が心を打つのであろう。

     

    『ブルームバーグ』(9月7日付)は、「アリババの先にある人生『ジャック・マー財団』通じ教育の世界へ」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、アリババの共同創業者で会長を務める氏は、自身の名を冠した財団を創設すると表明。10日に54歳の誕生日を迎える馬氏は今後、経営から退いた米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏と同じような道を歩むつもりだと打ち明けた。ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、馬氏の資産は400億ドル(約4兆4200億円)以上中国で最も有名な経営者の1人となった元英語教師の馬氏は、約20年前にアリババを創業し、たまたまビジネスの世界に入ったと自らを語る。2013年に最高経営責任者(CEO)職は退いたが、時価総額が4000億ドルを超えるアリババの顔としての存在感を示し続けている」

     

    54歳の誕生日に、次なる人生目標に向けて歩み出す。私は、ビジネスで大成功した人間が、最初の夢であった教育の世界へ戻る。ここに、限りない人生の「格好良さ」を感じるのだ。ビジネスで成功しても、それは「仮の姿」と言っているのだ。普通であれば、このままビジネスを続けていた方が良いだろうに、と思う。ご本人は本来の夢に戻るという。人はそれぞれ、夢が違うのだ。

     

    (2)「馬氏は、『多くのことをゲイツ氏から学んだ。彼ほどリッチには決してなれないが、彼よりうまくやれていることがある。早めの引退だ』と馬氏。『いつの日か、それも近いうちに、教育の世界に戻るつもりだ。アリババのCEOでいるより、私にはずっとうまくできると思う』と述べた。それは年内かとの問いに対し、馬氏は肩をすくめほほ笑むと、『すぐに分かる。『ジャック・マー財団』を準備している。こうしたこと全てを10年間にわたり準備してきた」と答えた。個人資産を寄付するのか、他の資産家がしているように信託に資金を投じるのかは明らかにしなかった』

     

    「人づくり」は、人生最高の夢と語った先人がいる。事業を残すは次善の策。カネを残すは最悪の選択だ、と。これを言ったのは、後藤新平だっただろうか。馬氏が、この言葉に従ったかどうかは知らない。氏の年来の夢が、教育にあっただけであろう。

     

    (3)「馬氏の教育への熱意は、その重要性をたびたび強調している同氏をよく知る者にとって、驚きではない。中国の大学統一入学試験に2度も失敗するなど、馬氏は学生時代の不首尾もよく口にする。『良い学生と思われていなかった私だが、向上することができた。われわれは常に学び続ける。私はこのことに最も多くの時間を注いでいきたい』と話した」

     

    馬氏は、いわゆる「大学浪人2年」の生活を余儀なくされた。それは、育った環境が教育に不適なものであったのかも知れない。教育環境さえ整えれば、子どもの力は無限である。そういう信念を深く刻み込んでいるのだろうか。馬氏は、義務教育分野で余生を生きる覚悟とも受け取れる。私が、馬氏に深く傾倒する理由はここにある。


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    中国でアフリカ豚コレラ(ASF)の感染が拡大している。このブログで9月1日に取り上げた。他に日本国内の報道がなくて驚いていたが、9日朝にNHKがニュースで流した。これで、日本での認識が深まると思われる。

     

    『大紀元』(9月6日付)は、中国でアフリカ豚コレラ感染拡大 10例目確認」と題して、豚コレラ問題の続報を報じた。

     

    (1)「中国農業農村部は6日、安徽省滁州市で新たなアフリカ豚コレラ(ASF)の感染を確認したと発表した。83日に1例目の感染発生が確認されて以降、10例目となった。国連食糧農業機関(FAO)は5日、中国からアジア全地域に流行する恐れがあるとして、タイのバンコクで国際緊急会議を開催した。発表よると、同市鳳陽縣の養豚場で飼育されている豚886頭のうち、62頭にアフリカ豚コレラの症状があった。すでに22頭が死亡した。地元政府は封鎖、殺処分、無害化処理、消毒を急いでいる。中国当局は83日以降、約38000頭の豚を殺処分にしたとしている」

     

    中国のアフリカ豚コレラ(ASF)感染が拡大している。直接、人間に感染しないが豚が死亡する恐ろしい病気である。中国の感染源はロシアの豚肉輸入とされている。すでに、韓国でも中国への旅行者が中国土産でハムを購入し、病原菌が発見されている。日本でも、水際で食い止めなければ危険。中国でハム類を土産にすることは控えるべきだ。

     

    (2)「過去1カ月間、アフリカ豚コレラの感染は、8月初めに中国東北部の遼寧省瀋陽市で確認されてから、河南、江蘇、浙江、安徽、黑龍江に急速に広がった。現在、6省の10カ所の養豚場で感染が確認された。中国メディ『新京報』(1日付)によると、農業農村部担当者が「中国は世界最大の豚肉生産国と消費国で、養豚業は中国経済と国民生活にとって重要な産業だ」とし、感染拡大に警戒感をあらわした。同部の豚肉卸売り価格月別統計では、感染に関する報道がなかった7月には、1キロ当たり17.35元だったと示された。9月現在は19.64元で、7月と比べて約13%値上がりした。米中貿易戦による飼料価格の上昇に加え、中国の豚肉価格がさらに値上がりする見通しだ」

     

    中国の豚肉が値上がりしている。世界一の豚肉生産国であり消費国は中国だ。豚肉はすでに値上がりに転じている。感染に関する報道がなかった7月には、1キロ当たり17.35元だった。9月現在は19.64元で、7月と比べて約13%値上がりした。感染拡大は豚肉価格を押上げるので、消費者の不満が高まるであろう。

     

    3)「FAOは、アジア全域への感染拡大を食い止めるため、同日タイで3日間の緊急会議を開幕した。タイ、日本、韓国、ベトナムなど10カ国の政府関係者、動物疫病専門家、養豚企業担当者らが出席した。FAOはバンコクに越境性動物疫病緊急センターを設置する。FAOは今年3月に公表した調査書で、アフリカ豚コレラの感染が中国に拡大すれば、『動物の健康、食品の安全や食糧安全保障に壊滅的な結果を引き起こす』『東南アジアへの感染拡大の可能性が高まる』と警告した」

     

    中国での感染拡大は、旅行者の土産を介在にして、アジア全域へ飛び火するリスクを含んでいる。くれぐれも、中国で豚肉製品を土産に日本へ持ち帰る危険性を共有することが必要だ。


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