勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    経済目標すべて的外れ

    中国除外でリスク軽減

    外貨準備3兆ドル攻防

    驚愕の海上運賃の暴落

     

    10月に終わった中国共産党大会で、習近平氏は国家主席3期目を決めた。憲法を改正してまで強行した、3期目の国家主席就任だ。新たに選任された最高指導部6人の中に、次期国家主席を予想させる人物は登用されなかった。このことから、習氏は4期目の国家主席を狙っていると見られる。習氏は現在、69歳である。最低限、79歳まで政権を担う決意であろう。

     

    今回の共産党大会では、習氏の世界政策が明らかになった。

    1)最終的に、武力による台湾統一を実現する。

    2)2049年(建国100年)に、米国と対抗する経済力・軍事力・外交力を備える。

     

    前記の目標が明らかにされたことで、西側諸国は緊張している。ロシアのウクライナ侵攻が、中国の台湾侵攻で再現すると受け取ったからだ。西側にとっては、台湾侵攻をいかに抑止しするか。それが、喫緊の課題になってきた。

     

    対中国への取り組みは、インド太平洋戦略対話の「クアッド」(日米豪印)のみに止まらず、欧州が関わる姿勢を明確にし始めていることは新たな展開である。中国にとっては、想定外の事態であろう。NATO(北大西洋条約機構)が、「戦略概念」で中国をロシアに次ぐ警戒対象にしたのだ。これを背景に、英国とドイツは日本と「外交・防衛2プラス2」の会合を持っている。いずれも、日本と「準同盟国」の役割を担うことになった。

     

    経済目標すべて的外れ

    習氏は、共産党大会で次の点も明らかにした。中国を2035年までに近代的な社会主義大国とし、1人当たり所得(名目GDP)を引き上げ、軍を近代化させる目標を明確にした。これによって、前述の通り中華人民共和国の建国100年を迎える2049年までには、中国が「総合的な国力と国際影響力において、世界をリードする」国にしたいと言うのである。

     

    2035年までに、1人当り名目GDPを2020年比で倍増させるには、年平均5%弱の経済成長率が不可欠である。だが、習氏が行なおうとしている「共同富裕論」は、逆に潜在成長率を引下げるので、実現不可能である。このことは、本欄で繰り返し指摘しているところだ。

     

    2035年に軍を近代化させるとしている。この軍拡路線は、経済成長率が低下しても行なわれるのであろう。これでは、北朝鮮並みの「先軍政治」に陥らざるを得ない。この延長で、2049年に軍事力だけでも米国へ対抗しようというものである。習氏が、政治の優先課題を経済発展から安全保障に移す考えであることは間違いない。

     

    共産党用語を用いて解釈すれば、専門家は「中国が、米国をたたき落として一番になり、世界を中国の利益と価値観に沿うような体制にする」ことだと指摘する。世界覇権の争奪戦が、これから始まるというのだ。こうした解釈は、これまであからさまにされたことはない。それが、こうして公然と語られるようになっている。世界情勢が、一挙に動き始めた不気味さを感じるのだ。

     

    中国は、世界戦略論の一環として「台湾解放」を位置づけている。台湾解放なくして、米国をたたき落とすことは不可能であるからだ。こう見ると、台湾解放が直近で行なわれるであろうとの差し迫った観測が出てくるのだ。

     

    ロシアのウクライナ侵攻によって、中国の台湾侵攻への壁が低くなったとする見方が増えている。中国は、ロシア軍の戦い方を反面教師にし、「速攻戦」を挑むであろうとされている。常識論で言えば、ロシア軍が手こずっているから、中国は台湾侵攻を断念するとの期待が強かった。先の共産党大会で、こういう甘い常識論が完全に否定された。

     

    特に危険なのは、中国最高指導部が全員、習氏の息がかかった人物であることだ。「イエス・マン」が揃えられたことは、「一夜の内に」台湾侵攻を決定する点で速攻戦にうってつけの構成になった。もはや、最高指導部内に開戦反対論を唱える人物もいないのだ。戦前の東条内閣のようなものである。

     

    中国除外でリスク軽減

    世界の証券市場では、「中国リスク」が全面的に登場したことで、中国を組み入れから除外する金融商品の販売を始めている。世界の投資家は、中国の政策や地政学面のリスクの高まりを警戒して、「脱中国」への需要が高まっているためだ。これまでと状況が一変したことで、中国への資金流入に大きな壁ができるであろう。中国の世界覇権戦略は、金融面ですでに大きな障害ができた形だ。

     

    中国株は、当局のハイテクセクターへの締め付け、不動産危機、米中関係緊張を背景にここ2年低迷している。新興国市場に投資するファンドの成績も不振を極めている。世界の投資家の間で、「中国離れ」が起きている結果だ。関係者によると、アジア投資を専門とし、140億ドル以上を運用する米国の資産運用会社マシューズ・アジアは、中国を除くアジア投資の新商品を発売した。(つづく)

     

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    テイカカズラ
       

    中国は、今さらながら「大言壮語」したことを悔いていることだろう。中国が、2049年に米国覇権を奪うと言ってしまい、取り返しのつかない事態を招いているからだ。米国が、中国へ半導体関連の技術・製造装置・人的指導を含めて、一切合切の輸出規制を発動したのである。米国籍の技術指導員に対しては、中国へ残留するならば、米国籍を剥奪するという厳しさ。すでに、職場を離れて帰国する指導員も出ている。

     

    サムスンは、日本から半導体製造機械を輸入した際、こっそりと日本の半導体技術者をアルバイトで雇い毎週、土日の二日間ソウルへ招いて技術を窃取した。二日間で、日本で得ている給料の1ヶ月分を払ったという。中国でも、こうやって手取足取りで半導体技術を習得していたが、これがすべて禁止された。中国の半導体にとっては、大打撃である。

    『日本経済新聞 電子版』(11月2日付)は、「中国半導体、米規制で自立に逆風 先端品欠き成算見えず」と題する記事を掲載した。 

    中国の半導体関連メーカーは、米国による輸出規制の強化を受け、習氏が目指す「科学技術の自立自強」への道のりは容易ではない。 

    (1)「習指導部が、ハイテク産業の振興策「中国製造2025」を発表し、10%にとどまっていた半導体自給率の向上を掲げたのは15年のこと。米調査会社インターナショナル・ビジネス・ストラテジーズ(IBS)が6月にまとめた報告書によると、半導体自給率は21年に24%まで向上。その後も上昇を続け、30年には50%を突破すると予測されていた。だが米政権が打ち出した半導体の対中規制の強化により、そのシナリオには強い逆風が吹く」 

    ここで言われている自給率は、純然たる中国企業による半導体生産ではない。海外企業が中国で生産している分も含めた数字だ。

     

    (2)「設計分野では、紫光展鋭など回路線幅が10ナノ以下の最先端商品の開発に成功していたが、米政権は中国国内での製造を食い止める方針だ。製造分野では半導体受託製造最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は14ナノ程度まで実用化し、半導体製造設備大手の中微半導体設備も5ナノに対応した設備の納入を実現。拓荊科技も10ナノ以下の技術開発を進めており、米政権の危機感は募っていた。そんななか、インパクトのある規制が課された。米政権は10月、先端半導体を生産する中国企業に製造装置や部品、技術を提供することを制限したのだ」 

    半導体製造設備の輸入を禁止されたのは痛手だ。中国には、製造設備をつくるノウハウはない。仮にあっても、特許を押さえられている。米国覇権を奪うなどという「山っ気」を起さなければ、すべてがウイン・ウインで行ったはずだ。習氏が、個人的野心で「終身国家主席」を狙うために脚色した面もあろう。愚かな発言をしたものである。

    (3)「中国の半導体関連企業で、米国民と米国の永住権保持者が働くことも審査の対象とした。実は、中国の半導体分野の企業では米国籍や永住権を持つ中国人の存在感が大きい。一部メディアによると、SMICの創業メンバーで現在は半導体大手の幹部を務める張汝京氏は米国籍として知られる。半導体業界に詳しい政府幹部は、「半導体人材は米国の大学院、米国企業を経て中国に帰国する例が多かった」と存在感の大きさを語る」 

    中国の半導体の人材は、すべて米国で育てられた人たちだ。その米国へ弓を引いて、「打倒する」などということを言えるはずがない。習氏の国際感覚のなさを暴露している。 

    (4)「すでにSMICをはじめ中国の半導体企業では、米国籍や台湾籍などの幹部の退任が相次ぐ。米中対立の先鋭化を受けて「中国の半導体企業から米国籍など海外の優秀な人材が離れてしまう恐れがある」(同)との懸念が現実のものになり始めた」 

    すでに、米国籍や台湾籍などの幹部の退任が相次ぐという。機械はあっても動かす人間がいないという悲劇が始まる。

     

    (5)「中国国内の有力半導体工場が、調達する設備での国産比率は2割にとどまる。半導体の増産や先端技術開発は、海外の装置や技術、人材に依存してきたのが実態だ。今後、半導体製造装置の調達に支障が出れば、半導体の増産そのものがおぼつかなくなる事態に陥る。米国側の戦略は、軍事などへの転用が可能な最先端半導体の現地生産を許さないことを最重視する。この領域で覇権を握る限り、米国は中国よりも優越的な地位を堅持できるからだ」 

    米国の怖さはここにある。日本は、米国と戦い敗れたことで、米国の底力を知っている。その後の日米経済交渉でも、日本をねじ伏せてきた。米国には、中国も立ち向かえない強さがあるのだ。米英の覇権争いでも結局、英国は兜を脱いだのである。こういう歴史を学ばずに、「米国衰退・中国繁栄」などという寝言はを言うべきでない。自らの無知を告げるようなものだ。

     

    (6)「ヒト・モノを抑えられた中国が、短期的に巻き返すことは現実的ではない。「半導体は米国との科学技術の戦いの最前線だ」。中国の半導体業界団体幹部の葉甜春・秘書長は10月下旬のイベントでこう強調した。現時点で中国が米国に打ち勝つシナリオは想定しにくいが、産業・軍事の核となる半導体でしのぐことなしに、米中逆転は成し遂げられない。「自立自強」に近道はなく、長い時間をかけて技術に磨きをかける必要がありそうだ」 

    中国は、逆立ちしても未だに「エンジン」をつくれない国である。精密工業が苦手な国である。こういうチグハグな国が、世界を乗っ取るという壮大な夢を描くこと自体、齟齬を来たすのである。大いに苦しむが良いであろう。

     

     

     

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    中国政府は、地方政府に対して国有地の購入禁止措置を発表した。地方政府は、これまで自らの金融会社である「融資平台」を通じて土地を購入して、見せかけの財源をつくってきた。こうした「隠れ債務」は、対GDP比で52%に達するとの試算が出ている。

     

    中国経済の「宿痾」であるが、解決策はなかった。中央政府が、高目のGDP成長率目標を掲げるので、それに合わせたインフラ投資を迫られた結果である。財源づくりとして、「融資平台」で土地購入させてきたのだ。元凶は、無理な経済成長を行なってきた中央政府である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月2日付)は、「中国、土地収入水増し規制 地方政府の『隠れ負債』警戒」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は、地方政府による土地収入の「水増し」を規制する。「融資平台」と呼ぶ傘下の投資会社に国有地の使用権を買わせることを禁じた。融資平台が土地購入のために借金を増やすと、地方政府の「隠れ負債」が膨張すると警戒するためだ。債務リスクを抑え込む狙いだが、住宅不況のもとで地方財政難の解決策は描けていない。

     

    (1)「政府の不動産規制や景気悪化に伴う住宅販売の減少をうけ、新規開発も減っている。土地が国有制の中国では、マンション建設に先立って地方政府から土地の使用権を買う必要がある。長引く住宅不況で使用権をめぐる入札も低調だ。財政省によると、9月の使用権売却収入は前年同月より26%少なかった。2021年9月も同1割超減っており、土地収入の落ち込みに歯止めがかかっていない」

     

    住宅販売の好不調が、土地売却益の先行指標になっている。現在の住宅販売は不振を極めているので、地方政府にとっての重要な財源(約3割)が不足することは目に見えている。

     

    (2)「収入不足の穴埋め役として融資平台の落札が目立ってきた。中国の証券会社、中泰証券によると、19月の土地収入のうち12%が融資平台による落札だった。地域別で融資平台の比率をみると19月の土地収入が前年同期から半減した江西省が27%と最も多かった。江蘇省、湖南省、四川省、重慶市も15%を超えた。省直下の市レベルでは比率が9割近くに及ぶ都市もある」

     

    地方政府は、土地売却益不足を補うべく、「融資平台」に土地を買い受けさせて地方財政の辻褄合わせをしてきた。これが、「隠れ債務」となっている。

     

    (3)「中国では地方政府は認可された債券発行以外の資金調達ができない。そこで融資平台が「別動隊」として資金調達し、公共事業などを手掛けることが少なくない。融資平台に土地を買わせることは、融資平台から地方政府へのつなぎ融資に近い。ただ融資平台が借金を増やすと、地方政府の「隠れ負債」が膨らむことになる。建築予定のない土地が塩漬けになれば融資平台の財務が傷む。さらに(融資平台が)経営難に陥れば地方政府が支援しなければならないためだ」 

    融資平台は、地方政府にとって都合のいい存在であった。ただし、地価が値上りし続けるという仮定が成立する場合だけである。現在のように値下がりが恒常化すると、隠れ債務の返済が不可能になる。

    (4)「財政省は地方政府の債務リスク膨張を警戒する。10月に「国有企業による土地購入などで見せかけの土地収入を増やしてはいけない」との通知を地方政府などに出した。この禁止措置で土地使用権の買い手が減り、地方政府の土地財政は一段と厳しさを増しそうだ。土地財政に詳しい北京市の大学教授は「中央政府である国務院が定める財政再建団体の基準に抵触する地方政府が増える恐れがある」と指摘する」 

    10月からは、見せかけの土地売却益を計上できなくなった。これは同時に、インフラ投資を行えなくなることで、経済成長には大きなマイナス材料である。

     

    (5)「中国の財政には、一般会計に相当する「一般公共予算」や特別会計にあたる「政府性基金」がある。国務院は、この2つの会計で地方債の利払い費が歳出全体の10%を超えた場合、「財政再建計画を発動しなければならない」と規定している。なかでも問題なのが政府性基金だ。同基金で管理する専項債と呼ぶインフラ債券は、中央政府の方針に基づき地方政府が発行を加速させてきたため、利払い費も膨らんでいる」

     

    地方財政では、地方債の利払い費が歳出全体の10%を超えてはならないことになった。これを超えると、「財政再建団体」に指定するという。だが、中央政府こそ責任を負うべきだ。安定した財源である固定資産税(不動産税)創設を回避しているからだ。共産党幹部が、固定資産税に反対しているのである。

     

    (6)「同基金の歳出は、新型コロナウイルス禍で財政難に拍車がかかる前は歳入に連動し、土地収入が歳入の大半を占める。融資平台による購入という下支えがなければ、歳入不足で歳出を抑える必要があり、「10%基準」に抵触するケースが膨らむ可能性がある。米S&Pグローバルは、省直下の市など地方政府の最大3割が22年末時点で、早期是正措置を求められる水準まで財政が悪化すると試算している。多くの地方都市は、不動産に依存した経済構造からの転換が進んでいない。地方財政難の解決策が見つからなければ、地方への移転支出など中央政府の負担が膨らむ」

     

    「10%基準」に抵触する地方政府は、最大3割にも達するという。この基準が厳格に適用されれば、地方政府のインフラ投資は不可能だ。それだけ、中国全体の経済成長率は低下する。結局は、中央政府の国債発行額が増えることになろう。

     

     

     

     

     

    ムシトリナデシコ
       


    文政権時代、外交指南役(大統領特別補佐官)であった文正仁(ムン・ジョンイン)氏が今、季節外れの自由貿易論を唱えている。無論、世界経済の発展には自由貿易でなければならない。だが、米中対立という安全保障問題が関わる局面では、自由貿易論は大幅に制約せざるを得ないのだ。

    仮想敵国が、自由貿易によって戦略物資を輸入して蓄積すれば、まさに敵へ「塩を送る」事態を招いて不利になる。過去30年間、中国は米国打倒の野望を隠し、自由貿易のメリットを存分に吸収して、牙(軍事力)を磨いてきた。戦略物資を製造する技術まで窃取してきたのだ。こういう現実を知った米国が、同盟国と謀って中国を戦略物資輸出対象国から排除するのは当然であろう。

    文正仁氏の自由貿易論は、中国に損害を与えてはいけないという深謀遠慮によることは間違いない。文氏は2019年12月、特別補佐官の肩書きで次のような発言をしたのだ。「北朝鮮の非核化が行われていない状態で、在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に『核の傘』を提供し、その状態で北朝鮮との交渉をする案はどうだろうか」と述べたのだ。

    これは、韓国が在韓米軍の撤退を前提とし、中国の核の傘に入るという構想である。これには、韓国が米韓同盟を破棄して、中韓同盟を結ぶという前提がある。こういう仰天発言をした人物が、中国を庇う自由貿易論を唱えるのは、至極、当然であろう。韓国左派に共通の認識だ。

    『ハンギョレ新聞』(11月1日付)は、「『経済安全保障同盟』が揺さぶる韓国の利益」と題する寄稿を掲載した。筆者は、文正仁・世宗研究所理事長(元韓国大統領特別補佐官)である。

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交政策の核心は、韓米同盟の強化だ。軍事同盟と価値同盟は、過去の保守政権でも提起された。尹政権は、新たに経済安全保障同盟を強調するが、多分に新しい概念だ。しかし、その分野で赤信号が感知されている。

    (1)「韓国政府は、韓米経済安全保障同盟の強化に注力してきた。インド太平洋経済枠組み(IPEF)に先導的に参加し、「チップ4」を含む半導体部門での協力も本格化している。サプライチェーンの確保だけでなく、先端科学や防衛産業に至るまで、様々な分野で米国との経済安全保障協力を具体化している。民間セクターでの協力はさらに目立つ」

    韓国が、IPEFやチップ4に参加するのは、すべて経済安全保障協力目的である。韓国は、米国によって防衛されている以上、同盟国の義務である。ロシアのウクライナ侵攻を見れば歴然としている。ウクライナが、NATO(北大西洋条約機構)へ加盟していなかったから起こった悲劇である。防衛して貰うには義務を伴う。ただ、それだけのことだ。

    (2)「韓国政府と企業の動きに批判がないわけではない。中身のある資本と技術が米国にすべて吸い取られ、韓国の先端産業は空洞化させられるのではないかという懸念が代表的なものだ。そのような心配にも関わらず、韓国政府と企業は、米国に事実上“オールイン”している。その後に展開された状況には、心配させられるばかりだ」

    米中対立は、世界を巻き込む冷戦規模へ拡大している。欧州まで、中国の危険性を強調している現在、韓国左派が無反応であるのは「鈍感」である。ドイツ企業も、中国撤退を検討している時代だ。自由陣営は、サプライチェーンで繋がらなければならない。

    (3)「直後には、北米以外の地域で生産された電気自動車と中国など懸念される国家から供給されたバッテリーや主要鉱物を用いた電気自動車を消費者が購入する場合、税額控除対象から除く米国のインフレ削減法(IRA)によって、現代自動車は大きな打撃を受けることになった。半導体分野での米国の輸出入規制など中国に対する牽制も、韓国企業に予期せぬ付随被害を与えている。輸出全体の60%、素材輸入の60%を中国と香港に依存している韓国半導体業界としては、米国のこのような措置は無視できないほどの強い衝撃にならざるをえない」

    半導体は、戦略物資である。民需用品だけでなく軍需用品に使われる以上、米国が中国への輸出を事実上、禁止処分にしたのは当然である。韓国も、この米国の規制に協力するのは同盟国としての義務である。

    韓国半導体は、輸出全体の60%、素材輸入の60%を中国と香港に依存している。米中デカップリング(分断)になることの被害は大きい。だからと言って、中国へ「塩」を送れないのだ。韓国は、米韓同盟による安全保障の利益を受けている以上、我慢するほかない。自由と民主主義を享受できるコストと見るべきだろう。仮に、米中が紛争状態になれば、自然に引き起こされる現象だ。

    (4)「問題は、米国のこのような動きが、一時的な現象ではないという点にある。経済部門での「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)は、今後の米国の対外経済政策の基本方針として定着している事実に注目する必要がある。10月12日に発表されたとバイデン政権の国家安全保障戦略報告書を見てみよう。中国との競争に勝つための産業政策と労働者および中小企業保護のための公正貿易を強調しているが、肝心の自由貿易は、報告書の末尾に儀礼的に言及されているだけだ」

    自由貿易論は、平和な時代の産物である。準戦時体制になれば、それは不可能だ。習近平氏が、先の共産党大会で見せた「戦闘的姿勢」に不安を感じなければ異常感覚と言うべきだ。

    (5)「経済安全保障は、保護主義に駆け上がる米国と開放型通商国家である韓国の間で、互いに有利な互恵同盟になれるだろうか。韓国政府は、軍事同盟と価値同盟のために経済的損失を甘受できるだろうか」

    元大統領特別補佐官として、韓国外交の指南役を務めた人物の発言とは思えないほど、現実を無視した理念先行である。平和時には通用する議論だが、準戦時体制下では非現実的空論である。ウクライナの悲劇をどう見ているのか。議論の出発点は、ここにある。

    テイカカズラ
       


    韓国経済は輸出で持っているが、貿易収支は4月から10まで赤字に陥っている。1997年のIMF(国際通貨基金)通貨危機(1997年)当時は、5カ月連続の貿易赤字であった。現在は、それを上回る長期の赤字継続である。今後の見通しも暗いだけに、「韓国経済危機」が指摘されるようになった。

     

    韓国経済は、人口5200万人である。国内市場が狭隘である分を輸出でカバーしてきた。こうして、GDP規模では世界10位であり、ロシアの12位を抜く健闘ぶりを見せている。ただ、所得分配の不平等によって、個人消費を46%と低位に押し止めている。それだけに、貿易赤字は韓国経済に大きな打撃を与える構造になっている。

     

    来年の輸出増加率予測は、IMF(国際通貨基金)によれば「ゼロ%」である。今年は、3%台後半の増加率とIMFは見ている。このことから、来年の韓国経済はどのような事態に追込まれるか危惧されている。

     

    『中央日報』(11月1日付)は、「韓国、今年より経済状況悪化 来年持ちこたえれば通貨危機防げる」と題するコラムを掲載した。筆者は、キム・ジョンシク延世(ヨンセ)大学経済学部名誉教授である。

     

    韓国経済は今年、貿易赤字幅は大きくなったが、年間経常収支は黒字が見込まれ、対外信用度は維持されている。しかしパーフェクトストームは押し寄せ続けている。特に来年の経済は安心できない。来年には米国との金利差がさらに広がり、ドル高により資本流出が加速化する恐れがある。

    (1)「ここに経常収支悪化も予想される。世界の景気沈滞は輸出依存度が高い韓国経済には致命的だ。特に米国が中国を排除した新たな世界的供給網を構築して中国の対米輸出が急減すると予想される。この場合、中国の成長率が鈍化する。韓国の対中輸出減少で、韓国の経常収支は赤字幅が大きくなる可能性がある。財政赤字に経常赤字まで双子の赤字が持続する場合、韓国経済の対外信用度は低くなり、資本流出と為替不安が大きくなりかねない」

     

    中国は、「田舎大名」宜しく大段平を切ったばかりに、米国から復讐を受けている。基礎技術のない中国が、米国打倒などゆめゆめ言ってはならない禁句である。習氏が、内弁慶で発した言葉が、大きなブーメランを浴びているのだ。この事態が解決しない以上、韓国の対中輸出は減少の運命である。

    (2)「外貨準備高減少とウォン急落もまた危機のシグナルだ。外国為替当局は、外貨準備高が十分あると強調する。実際、韓国は昨年10月から今年9月までで外貨準備高が524億ドル減り、9月の1カ月だけで197億ドル減少した。ここに為替相場もまた、年初より20%以上ウォン安に振れ1ドル=1400ウォン水準を大きく上回っている。今後、米国の利上げが持続する場合、ドル高でウォン安がさらに進み外為市場介入で外貨準備高はさらに減少することが懸念される」

     

    外貨準備高の減少は、ウォン安を食止めるための介入で消えた結果である。貿易赤字の動向から見て、外貨準備高はさらに減少するであろう。

     

    (3)「使える政策手段が制約されるのも危険だ。韓米間の金利差を縮小して、資本流出を防ぎインフレを低くするため、韓国銀行は金利を大幅に引き上げなければならない。金利を上げる場合、国内総生産(GDP)の104%と経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も高い割合の家計負債が不健全化し、不動産バブルが崩壊して金融危機に陥る可能性が大きい。通貨危機を避けるために金利を大幅に引き上げる場合、金融危機を懸念しなければならないジレンマに陥ることになったのだ

    外貨流出を抑えるには、さらなる利上げが必要である。だが、これには副作用を伴う。過剰な債務を抱える家計や企業への負担を増すからだ。皮肉にも、韓国では通貨危機を回避すべく行なう利上げが、金融危機を招くのである。韓国経済の脆弱性を余すところなく示している。

     

    (4)「景気低迷を防ぐための財政政策もまた制約されている。政府の過度な財政支出で財政健全性が悪化し財政支出を増やす余力が制限されているためだ。そのほかにも政治的不安定と北朝鮮の安保脅威も外国為替市場を不安にする。1997年の通貨危機も政権が交代し政治的に混乱した時期に発生した。今回も3月の大統領選挙後の政治的混乱は続いている。ここに最近北朝鮮の核攻撃の脅威が拡大し安保危険もまた高まっている。安保リスクが大きくなれば外為市場不安でウォンが急落する可能性がなお残る」

     

    韓国では、財政リスクと安保リスクが併存している。すでに財政赤字の拡大が問題視されている。今後の人口高齢化に伴う社会保障費の増大が、必然的に財政赤字を増やすからだ。また、北朝鮮の戦闘的な振る舞いも看過できないのだ。中堅国家・韓国は悩ましい構造的な問題を数多く抱えている。

     

    (5)「こうして見ると来年の韓国経済は安心できず、政策当局は危機を避けるため積極的な対策を事前に用意する必要がある。先に金利を徐々に引き上げて景気のハードランディングと家計負債不健全化、そして不動産バブル崩壊を防がなければならない。しかしこのようにする場合、米国との金利差が開き資本流出とウォン急落が問題になりかねない。これは金利政策のほかに外為市場安定策を別に立てて為替相場を安定させなければならない。米国との国際金融人的ネットワークを稼動し政治的チャンネルを利用して前回米国が韓国をはじめとする9カ国と結んだような一時的通貨スワップを推進し、外貨供給に対する不安感を引き下げる必要がある」

    韓国の通貨安定は、最終的にFRB(米連邦準備制度理事会)から短期のドル借入れしか道はない。米国は、韓国一国だけを救済できないので他国と同時に救済するであろう。それまで持ち堪えなければならないのだ。

     

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