経済目標すべて的外れ
中国除外でリスク軽減
外貨準備3兆ドル攻防
驚愕の海上運賃の暴落
10月に終わった中国共産党大会で、習近平氏は国家主席3期目を決めた。憲法を改正してまで強行した、3期目の国家主席就任だ。新たに選任された最高指導部6人の中に、次期国家主席を予想させる人物は登用されなかった。このことから、習氏は4期目の国家主席を狙っていると見られる。習氏は現在、69歳である。最低限、79歳まで政権を担う決意であろう。
今回の共産党大会では、習氏の世界政策が明らかになった。
1)最終的に、武力による台湾統一を実現する。
2)2049年(建国100年)に、米国と対抗する経済力・軍事力・外交力を備える。
前記の目標が明らかにされたことで、西側諸国は緊張している。ロシアのウクライナ侵攻が、中国の台湾侵攻で再現すると受け取ったからだ。西側にとっては、台湾侵攻をいかに抑止しするか。それが、喫緊の課題になってきた。
対中国への取り組みは、インド太平洋戦略対話の「クアッド」(日米豪印)のみに止まらず、欧州が関わる姿勢を明確にし始めていることは新たな展開である。中国にとっては、想定外の事態であろう。NATO(北大西洋条約機構)が、「戦略概念」で中国をロシアに次ぐ警戒対象にしたのだ。これを背景に、英国とドイツは日本と「外交・防衛2プラス2」の会合を持っている。いずれも、日本と「準同盟国」の役割を担うことになった。
経済目標すべて的外れ
習氏は、共産党大会で次の点も明らかにした。中国を2035年までに近代的な社会主義大国とし、1人当たり所得(名目GDP)を引き上げ、軍を近代化させる目標を明確にした。これによって、前述の通り中華人民共和国の建国100年を迎える2049年までには、中国が「総合的な国力と国際影響力において、世界をリードする」国にしたいと言うのである。
2035年までに、1人当り名目GDPを2020年比で倍増させるには、年平均5%弱の経済成長率が不可欠である。だが、習氏が行なおうとしている「共同富裕論」は、逆に潜在成長率を引下げるので、実現不可能である。このことは、本欄で繰り返し指摘しているところだ。
2035年に軍を近代化させるとしている。この軍拡路線は、経済成長率が低下しても行なわれるのであろう。これでは、北朝鮮並みの「先軍政治」に陥らざるを得ない。この延長で、2049年に軍事力だけでも米国へ対抗しようというものである。習氏が、政治の優先課題を経済発展から安全保障に移す考えであることは間違いない。
共産党用語を用いて解釈すれば、専門家は「中国が、米国をたたき落として一番になり、世界を中国の利益と価値観に沿うような体制にする」ことだと指摘する。世界覇権の争奪戦が、これから始まるというのだ。こうした解釈は、これまであからさまにされたことはない。それが、こうして公然と語られるようになっている。世界情勢が、一挙に動き始めた不気味さを感じるのだ。
中国は、世界戦略論の一環として「台湾解放」を位置づけている。台湾解放なくして、米国をたたき落とすことは不可能であるからだ。こう見ると、台湾解放が直近で行なわれるであろうとの差し迫った観測が出てくるのだ。
ロシアのウクライナ侵攻によって、中国の台湾侵攻への壁が低くなったとする見方が増えている。中国は、ロシア軍の戦い方を反面教師にし、「速攻戦」を挑むであろうとされている。常識論で言えば、ロシア軍が手こずっているから、中国は台湾侵攻を断念するとの期待が強かった。先の共産党大会で、こういう甘い常識論が完全に否定された。
特に危険なのは、中国最高指導部が全員、習氏の息がかかった人物であることだ。「イエス・マン」が揃えられたことは、「一夜の内に」台湾侵攻を決定する点で速攻戦にうってつけの構成になった。もはや、最高指導部内に開戦反対論を唱える人物もいないのだ。戦前の東条内閣のようなものである。
中国除外でリスク軽減
世界の証券市場では、「中国リスク」が全面的に登場したことで、中国を組み入れから除外する金融商品の販売を始めている。世界の投資家は、中国の政策や地政学面のリスクの高まりを警戒して、「脱中国」への需要が高まっているためだ。これまでと状況が一変したことで、中国への資金流入に大きな壁ができるであろう。中国の世界覇権戦略は、金融面ですでに大きな障害ができた形だ。
中国株は、当局のハイテクセクターへの締め付け、不動産危機、米中関係緊張を背景にここ2年低迷している。新興国市場に投資するファンドの成績も不振を極めている。世界の投資家の間で、「中国離れ」が起きている結果だ。関係者によると、アジア投資を専門とし、140億ドル以上を運用する米国の資産運用会社マシューズ・アジアは、中国を除くアジア投資の新商品を発売した。(つづく)
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2022-10-10 |
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2022-10-17 |