勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国の習近平氏の国家主席3期目は、韓国経済を揺さぶる状況になってきた。世界の中国を見る目が、経済停滞を予知し始めているからだ。人民元相場は25日、1ドル==7.3084元で2007年12月以来の安値水準となった。

     

    韓国経済は、対中輸出が25%も占めて密接な関係にある。中国経済が停滞局面入りすれば、韓国へも大きな影響が出て当然。チャイナリスクは、コリアリスクに飛び火しかねなくなった。要注意だ。

     

    『中央日報』(10月26日付)は、「『チャイナリスク』が揺さぶるウォンの価値、複雑になる韓国銀行の通貨政策方程式と題する記事を掲載した。

     

    習近平3期による「チャイナリスク」の飛び火がウォンに降りかかった。25日のウォン相場は取引時間中に年初来安値まで急落した。米連邦準備制度理事会(FRB)の緊縮が火を付けた強いドルに続き中国リスクまで加わりウォンを引き下げたのだ。高物価圧力が続く状況で内外の変数が相次ぎ韓国銀行の通貨政策の方程式もさらに複雑になった。

    (1)「25日のソウル外国為替市場でウォン相場は前日より6.6ウォンのウォン高ドル安となる1ドル=1433.10ウォンで取引を終えた。この日のウォン相場は前日より4.30ウォンのウォン安となる1ドル=1444ウォンで取引を開始した後、一時1444.20ウォンまでウォン安が進んだ。取引時間中としては2009年3月16日の1488ウォンから13年7カ月ぶりの安値水準だ。ただ大引けにかけて外為当局の介入と推定されるドル売りがあふれウォンは上昇に転じて取引を終えた

     

    ウォン相場は人民元急落の影響で、一時1444.20ウォンまでウォン安が進んだ。取引時間中としては、13年7カ月ぶりの安値水準に落込んだ。当局の介入で終値は、1433ウォンで収まった。ヒヤリとされる場面だが、原因を探ればチャイナリスクにある。今後も、ウォン急落の危険性は去らない。

    (2)「この日ウォン相場が取引時間中に年初来安値を付けたのは世界金融市場を襲った「チャイナリスク」のためだ。この日上海外国為替市場で人民元相場は1ドル=7.3084元で2007年12月以来の安値水準となった。国際金融市場でウォンと人民元は同じ方向に動く傾向が多い。外国為替取引規制が多い人民元の代わりにウォンを売買し、ウォンが人民元のプロキシ通貨と見なされるためだ」

     

    人民元相場は、1ドル=7.298元(26日12時02分)と戻しているが、前日の急落後だけに様子みであろう。ウォンが、人民元のプロキシ(代理)通貨とまで言われている以上、人民元安に連動するのは避けられない。韓国の対中輸出比率が、香港を含めれば3割にも達しているからだ。


    (3)「韓国経済に対する不安感も大きくなることになった。中国経済の下方リスクが大きくなったためだ。韓国銀行は7日、「中国共産党全国代表大会見通しと経済的影響」と題する報告書を通じ、「習近平主席の影響力が強固になることでゼロコロナ、不動産部門のデレバレッジ(債務削減)など現在の政策基調が維持される可能性が高い。台湾問題と米中紛争はより深まる可能性があり、中国経済の成長に下方リスク要因として作用する可能性がある」と診断した。米中貿易摩擦により半導体とバッテリーなどの輸出のハードルが高くなるのも負担だ」

     

    韓国銀行による中国経済観は、中国の成長に下方リスクが掛かっているとしている。これは、世界共通の見方である。それだけに、人民元が売られているもの。習近平一強体制では、習氏の誤った判断を糺す人もいないので、中国の統制経済化は進む一方となろう。

    (4)「韓国の輸出で対中輸出が占める割合は25%だ。主要国のうち中国の経済成長率は韓国の輸出と最も相関関係が高くならざるをえない。そうでなくても消えつつある輸出動力に習近平3期目とそれにともなう中国経済の下方リスク拡大が冷や水を浴びせかねない。貿易収支赤字が持続し経常収支黒字幅が減ってウォン安をさらにあおる恐れがある」

     

    中長期的に見た中国の潜在成長率は、習氏の一強体制によって一段と低下する。これまで、2020年代の平均潜在成長率は最悪で4%とされてきたが、これすら割込む見通しが濃くなってきた。中国は、超高齢社会へ向かっており軍拡の余裕を失っている。大砲よりもバターが必要な時期である。勘違いしているのだ。

     

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    中国のGDPで、約4分の1を占める住宅販売は、一足早く「厳冬期」を迎えている。次々と出てくる不動産開発企業のデフォルト情報で、消費者はすっかり背を向けたままだ。1~9月の不動産販売(床面積ベース)は、前年比22.2%減と大きく落込んでいる。1~8月の23.0%減から見れば若干の改善だが、誤差の範囲であろう。

     

    中国不動産情報集団(CRIC)によれば、開発業者が新築住宅を販売するまでの期間は全国平均では約20カ月。小規模都市の一部では、50カ月になっているという。売れ残っている新築住宅のうち、小規模都市の在庫はおおむね約半分を占めている。住宅不況は、地方都市で深刻である。地方では、不動産開発がメイン産業だけに、地方経済の疲弊度がどれだけ大きいかを示している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「中国住宅市場に異変、相次ぐ新築中止『怖くて買えない』」と題する記事を掲載した。

     

    中国経済の回復が鈍い。7~9月の実質経済成長率は前年同期比3.%で年間目標(5.5%)を下回った。足を引っ張るのは住宅市場。混乱する現場を訪ねた。

     

    (1)「中国中部の河南省鄭州市に住む馬琳さん(24)は、「もし家を買い直せるなら、予約販売の物件なんて怖くて買えない」と悔やむ。予約販売とは完成前に新築物件を売り出すことで、中国ではごく一般的な販売手法だ。2023年9月の引き渡しを予定するマンションを20年末、160万元(約3280万円)で購入した。不動産開発大手の物件で「安心感があった」が21年秋に工事が止まった。開発企業の資金繰りが悪化したためだ」

     

    予約販売とは、青田売りである。日本の不動産バブル時代に、この青田売りが流行ったものだ。業者の倒産で問題が発生したので、いまは、「竣工後販売」である。中国では、青田売りが8割も占めている。不祥事が起こって当然であろう。

     

    (2)「不安に駆られた馬さんら購入者は67月、3度に渡り開発企業や地元政府に工事再開を迫った。8月半ばから地下駐車場などの工事がそろりと動き出した。それでも「地元の役人が共産党大会終了後も工事継続に関与してくれるか読めない」と不安顔だ。習近平指導部は21年から不動産向けの金融規制を強めた。バブル抑制を狙ったが、開発企業が資金不足になり、建設途中で工事を中断する物件が相次いだ。納期遅れも発生し、業を煮やした購入者が抗議のため住宅ローンの返済拒否を表明する動きが今夏に広がった」

     

    業者は、正常な経営であれば倒産するはずがない。青田売りで、建設資金は消費者が払ってくれるシステムであるからだ。それにも関わらず、デフォルトに陥るのは、地方政府が土地売却を煽っているので、資金が土地で固定されているはずだ。青田売りで、一番儲けたのは地方政府である。

     

    (3)「混乱を受け購入を見送る人が増え、マンション売買の低迷は長引く。中国人民銀行(中央銀行)の預金者向けアンケート調査によると、住宅の値上がり期待は79月に過去最低を記録した。馬さんが住む鄭州市は混乱の「震源地」。中国全体で300件を超した返済拒否のうち、13%が同市で起きた。予約販売への不信感が強まり、同市で8月に売れた中古物件は面積で珍しく新築物件を上回った。全国でも似た傾向がある。10月の国慶節(建国記念日)休暇の新築販売面積は前年同期を4割近く下回った。対照的に中古物件の取引件数は5割超増えた。中古ならばすでに完成しており、引き渡されないリスクは小さいのが人気の原因だ

     

    下線部のように、新築住宅よりも中古物件の取引件数が5割増である。ただし、「中古物件」と言っても、いわゆる中古でない点に注意すべきだ。投機用に購入して置いて現在、転売しているケースもあるはずだ。自動車で言う「新古車」である。

     

    (4)「竣工済みの新築物件を選ぶ人も増える。もともとは開発企業が値引きしやすい予約販売が人気だったが、22年は「完成物件」の比率が7年ぶりに前年を上回りそうだ。地方政府も竣工後に売り出す物件の開発を促す。工事中断による混乱を防ぐとともに、住宅建設に必要な国有地使用権を開発企業に売りたいためだ。需要が中古に流れると、地方政府の土地収入が増えない」

     

    売買契約を結んでも、確実に住宅が手に入るかどうか不明とは、世にも不思議な話である。中国ならではのことだ。「商業道徳」と、無縁の世界である。需要が中古に流れると、地方政府の土地収入が増えないという大きな問題が起こる。「土地本位制」経済の欠陥だ。

     

    (5)「北京市が9月に実施した土地入札では、売り出した18区画のうち7割超で「一定割合の戸数を竣工後に販売しなければいけない」との条件を付けた。予約販売から竣工後販売に切り替えると、開発企業の資金コストは2~3割上がるとの試算もある。資金調達コストが国有企業より大幅に高い民間企業には不利だ。実際、北京の入札でも落札企業のうち、民間の開発企業は1社のみだった」

     

    予約販売から竣工後販売に切り替えると、開発企業の資金コストは2~3割上がるという。建設期間中の資金手当で、金利が嵩む結果である。だからと言って、青田売りが推奨されてはならない。正常化の好機である。 

     

     

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    中国共産党大会最終日の10月22日、衆人環視の下で異変が起こった。胡錦濤前総書記(前国家主席、79)が係員に付き添われて突然、退席したことである。これについ、臆測が盛り上がっている。中国では、党や国の重要行事は綿密に式次第が計画され、政治的な動きは人目には触れないようにされるのが常であるからだ。

     

    偶然この前後の動きが、スペインの日刊紙『ABC』によって公にされた。胡前主席が退場させられた映像より前の様子を写した写真14枚は、サイトに公開されたのだ。それによると、習氏が合図をしてから一連の動きが始まっている。

     

    『中央日報』(10月25日付)は、「目くばせの後に随行員登場…中国胡錦涛氏の退場、習近平主席の指示か」と題する記事を掲載した。

     

    胡錦涛前国家主席が第20回全国代表大会閉会式の途中で突然連れ出されるように退場したことに対し、習近平国家主席の指示だったとの状況を捉えた写真が22日に外信を通じて公開された。

     

    (1)「この日スペインの日刊紙『ABC』は、胡前主席が退場させられた映像より前の様子を写した写真14枚をサイトに公開した。『ABC』によると、胡前主席の左側に習主席が、右側に習主席の最側近である栗戦書全国人民代表大会常任委員長が着座していた。胡前主席は机の上に置かれた赤い書類ファイルを開けようとして腕を伸ばすと、栗委員長が胡前主席の手をつかんでその書類ファイルを自分の方に持ってきた。すると、胡前首席は不快がるような表情を見せ、栗委員長は胡前主席に何か話しかけた。胡前主席は固い表情になった。これを見守った習主席は、どこかに目くばせしたように見え、孔紹遜中央弁公庁副主任が習主席の横に来る姿が写っている。続けて随行員とみられる男性が胡前主席の後に近づいた」

     

    胡錦濤氏には、赤い書類ファイルを見させない。最初からそう、仕組まれていたことが分かる。見られると拙い内容であったのだろう。人事案であったのかも知れない。習氏が、目配せして胡氏を連れ出したという連想が生まれるのだ。

     

    (2)「その後の様子は、AFP通信やユーロニュースなどの外信映像でも確認できる。映像によると随行員は胡前主席の腕をつかんで席から立たせようとした。これに対し、胡前主席は随行員と言葉を交わすようすで席から立つまいと抵抗した。習主席の前に置かれた書類にも手を伸ばしたが習主席が書類を自分の前に持ってきた。結局、胡前主席は随行員に連れて行かれるように退場した。退場しながら習主席に二言三言話しかけ、横に座った李克強首相の肩をたたく姿も捉えられた。この過程で習主席が胡前主席の中途退場を指示したのではないかという観測が出ている」

     

    中国国営通信は、胡氏が健康状態悪化で退場したと説明されている。それにしては、胡氏の席から立つまいと抵抗するような姿は解せない。明らかに、自らの意思に反して連れ出されることへの拒否姿勢である。

     

    (3)「台湾の『自由時報』はこの日、胡前主席を支えた随行員が、習主席の随行員だと在米中国科学専門作家の方是民(ペンネーム・方舟子)の話として報道した。『フォーリンポリシー』は、習主席の意図的な舞台演出である可能性に言及した。党内で自身と異なる政策を擁護できる人物の1人を「効果的に粛清」したと指摘した。この日行われた中国共産党の党規改正で、胡前主席が反対意思を表明するのを防ぐためだったとの推測も出ている。英『BBC』は、胡錦涛時代の改革開放が(習近平時代に)全く異なる方向に展開することを見せる象徴的場面だと解説した」

     

    胡氏が、党規改正に反対意思を示すことを防ぐための「連れ出し」とも解釈されている。これについて、『ロイター』(10月25日付)は、「中国胡氏の異例の党大会退席、秘密主義がさまざまな臆測に」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「胡氏は党のエリート集団とされた共産主義青年団(共青団)出身。共青団系の幹部3人も今回の党大会で党指導部から排除され、個人独裁を防ぐため党が築いた集団指導体制は事実上、瓦解した。こうした状況での胡氏の退席や、突然の退席のタイミングは「本当は一体何が、なぜ起きたのか」を巡る思惑を呼んだ。高齢から来る体調不良だったのか。もっと別の、例えば胡氏による抗議の表れだったのか。あるいは習近平総書記(国家主席)による胡氏追放劇だったのか-などだ」

     

    (5)「在中国の欧州商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は、「一つの時代が終わったように見える」とした一方、「率直に言って、極めて不気味に見えた」とも指摘した。ブトケ氏は「一人の老人が明らかに苦しそうにしているのに、場内の誰一人として寄り添う感情を何ら見せていないことに本当に驚愕した」と話した」

     

    この謎は、これからの習近平氏によって解かれるであろう。中国が、危険なゾーンへ入り込んでいる前兆であるかもしれないのだ。


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    習氏は、念願の国家主席3期目を手に入れたが、国民へのプレゼントである「ゼロコロナ解除」はいつになるのか。これまでは、来年春までは無理という見方が多かった。依然として悲観論が多い中で、3つの兆候を掴めれば解除への検討が始まるのでないか、という期待論もある。

     

    ところで、厳格なゼロコロナを行なってきた裏には、別の目的もあったのでないかと思われる。中国で社会不安が起こった時、政府が国民のすべての動向を把握する手法を実験していたと見られることだ。玄関を出れば、そこから監視カメラが個人を追っている。今回のゼロコロナによって、習氏は厖大なデータを蓄積している筈。共産党政権を守る手はずは、完璧に用意しているであろう。ゼロコロナの裏で、習氏は高笑いしていたはずだ。またとないチャンスが、到来したからである。ゼロコロナは、いつまでも続けたい気持ちもあろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月24日付)は、「中国のゼロコロナ政策 脱却に3つの兆候」と題する記事を掲載した。

     

    中国指導部は、22日に閉幕した共産党大会で厳格な新型コロナウイルス対策からの転換を明確に示さなかったが、エコノミストの間では悲観的にならなくてもいいとみる向きもある。モルガン・スタンレーの中国担当チーフエコノミスト、ロビン・シン氏は、向こう35カ月の間に、中国がゼロコロナ政策から脱却する可能性を示す3つの兆候を注視すべきだと指摘する。

     

    (1)「1つ目の兆候として、高齢者のワクチン接種が進んでいるかどうかが挙げられる。中国の保健当局によれば、7月23日までに2回接種を受けた60歳以上の高齢者の割合は85%と、5月の82%から上昇している。一方、80歳以上の高齢者の場合、その割合はわずか61%で、3回目以降の)追加接種を受けた人の割合では40%に満たない。このことが、中国が早期にゼロコロナ政策をやめないと多くの専門家がみる理由だ。最もぜい弱な人たちの死亡数が急増する恐れがあるためだ

     

    80歳以上の高齢者が、3回目以降の追加接種を受けない理由は、副作用による死亡事故が多発していることだ。これは中国製ワクチンが、副作用を解決しないままにしていることが大きな理由。中国市民は、メディア情報を信じず、裏情報に関心が強く、そこには多くの副作用が報じられている。

     

    (2)「2つ目の兆候は、中国製ワクチンの承認だ。同国初のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンはインドネシアで緊急使用の許可が下りた。だが中国本土では、mRNAワクチンはまだ規制当局から使用の許可が出ていない」

     

    中国も、mRNAワクチンの製法を手に入れたが、ワクチン効果がまだら状態という。米国モデルナに対して、中国はmRNAワクチンの製造方法の開示を要求して断られた経緯がある。インドネシアでは、中国製mRNAワクチンの緊急使用許可が下りたというが、中国政府は慎重を期して使用許可が出ないのだろう。ワクチン効果に自信が持てないのだ。

     

    (3)「3つ目の兆候は、中国当局と国営メディアがコロナによる脅威をどう表現するかだ。国民の不安を和らげようとして、コロナのリスクを大きく取り上げなくなるなら、それは変化の兆しかもしれない」

     

    官製メディアが、コロナのリスクを取り上げなくなれば、ゼロコロナも終りのシグナルになるかも知れない。

     

    (4)「シン氏は、これらの注目点にまだ大きな進展は見られないものの、引き続き期待していると話す。中国の公衆衛生専門家はこれらの点で前進する必要性を認識しており、前進すれば来年の春にはゼロコロナ政策を完全に解除できる可能性があるという

     

    中国は上手く行けば、来春にはゼロコロナ解除という吉報が出るかも知れないという。これは「僥倖」の類いだ。期待しないで待っているということであろう。

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    中国は、米国にとって「敵国扱い」になっている。半導体製品のみならず、半導体製造設備まで海外製を含めて輸出禁止にした。これだけでは飽き足らず、米国の農地や鉄道への投資まで禁止する準備が始まっている。11月の中間選挙を前に、与野党が、対中規制の立法を競う姿勢である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月24日付)は、「中国投資排除『農地』『鉄道』も 米国、規制強化検討」と題する記事を掲載した。

     

    米国が中国からの投資へ警戒を強めている。議会は鉄道事業や農地買収で中国企業による対米投資の規制強化を検討する。米国の技術や情報を奪われる安全保障上のリスクを考慮し、バイデン政権も足並みをそろえる。米中対立が一段と激しくなるのは必至だ。

     


    (1)「下院運輸・インフラ委員会のディファジオ委員長(民主党)は9月下旬、米国の鉄道事業に中国企業が参画するのを監視するよう運輸省高官に要請した。「米国の運輸製造業に対する最大の脅威の一つは台頭する中国国有企業だ」と警告した。問題視したのは世界最大級の鉄道車両メーカー、中国中車(CRRC)だ。ボストンやロサンゼルスなど全米各地で鉄道車両の製造契約を結んでいる。中国工場で製造した車両が米国に納車されれば、情報流出の懸念があるとして同社を調査するよう求めた」

     

    鉄道車両については、以前から慎重論が強かった。中国製車両に秘密カメラが仕掛けられて、映像が北京へ送られる事態になると、安全上も問題であるというもの。それにも関わらず、中国製車両を輸入しようというのは、余りにも暢気過ぎる。

     

    (2)「中国企業による土地買収の規制強化も浮上している。下院外交委員会で野党・共和党のトップを務めるマコール議員ら100人を超える議員団は1日、政府に土地買収の実態を調査するよう求めた。近年、中国企業による購入の動きが急速に増えていると主張した。特に中西部ノースダコタ州の米空軍基地に近い農地が買われたことがきっかけで関心が高まった」

     

    土地買収も問題になってきたテーマだ。米空軍基地近くの農地を買収されて、そこへカメラでも取りつけられれば、米空軍の動きは100%捕捉される。こういう危惧も以前に指摘されたこと。今まで、秘密保持策が実行されなかったほうが怠慢と言うべきだ。中国は、孫悟空の世界である。何をしでかすか分からない国である。用心すべきである。

     

    (3)「米国では2018年、安保の観点から外国企業の対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法律が成立した。米政府が管理する軍事基地などの近くの不動産を取得する取引を規制したが、米議会はさらなる規制強化の法案を検討する。

     

    中国による不動産取得には、十分に気を付けるべきである。

     

    (4)「米国企業による対中投資も規制を強化すべきだとの声があがる。与野党やバイデン政権は対中投資を審査する制度の創設をそれぞれ検討するが、産業界や一部議員の反対が強く、実施に時間がかかっていた。対外投資規制に激しく反対してきた共和党のトゥーミー上院議員は9月末の公聴会で、中国のみに対象を絞れば容認する可能性を示唆した。「米国企業が中国企業へ投資する場合に適用すべきだ」と語った。米国企業が対中投資を制限されれば、他国企業との競争で不利になりかねない。バイデン政権は米国企業の競争力維持と両立できるよう、的を絞った規制をつくる方針だ。経済界にはなお慎重な声があり、調整を進める。

     

    米国企業による対中投資も規制案が出て来た。ただ、中国の地政学的リスクが、強く懸念されている。中国の台湾侵攻で、米中対立が先鋭化すれば、米企業の対中投資が没収されるリスクも生まれる。もはや、対中投資にはリスク満載と考えるべき段階だ。


    (5)「米国ではバイデン政権と議会が超党派で対中規制を厳しくしてきた。投資に加えて、輸出でも対中規制を強化している。「商務省がこのルールを最も厳しい基準で施行するならば、中国共産党の戦略的目標の核心を突くことになる」。マコール氏は政府が7日に公表した輸出規制策をこう評価した。米政府が導入した新しい規制策はスーパーコンピューターや人工知能(AI)などの半導体の先端技術について、中国への輸出・生産を許可制にする。華為技術(ファーウェイ)など一部企業を対象にしてきた従来の規制から、中国との取引全体に網が広がる」

     

    先端半導体の対中輸出は製品・製造設備を含めて禁止された。それだけでなく、半導体に関わる米国籍技術者の就労も禁じることになった。命令に従わなければ国籍剥奪という重い処分を科す。戦時体制である。

     

    (6)「米国内の対中世論は党派を超えて近年、厳しさを増している。11月8日投開票の中間選挙を控え、与野党は対中強硬策をアピールし、支持拡大を競い合っている。バイデン氏は7日に半導体の輸出規制を発表し、選挙前に支持を得られやすいテーマの打ち出しを探っている。半導体の輸出規制も米議会からの要求に応えたという面がある。米中の覇権争いは長期化する見通しで、対中規制策は今後も相次ぐ公算が大きい」

     

    11月の中間選挙を前に、与野党ともに対中規制に熱を入れている。投票で有利になるからだ。国を挙げて、「中国警戒論」になっている。

     

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