習近平氏は口を開けば、「中国式社会主義」と自画自賛している。だが、現在の長江一帯地域での停電騒ぎは、その自画自賛とほど遠いことを物語っている。異常気象による干ばつの責任は、「中国式社会主義」にないとしても、その対応を巡る当局の判断ミスは追及されるべきだ。市場経済であれば、こういう事態に対してもっとスマートな対応ができる筈だ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月27日付)は、「ぜい弱な中国の電力供給、猛暑に重なった政策ミス」と題する記事を掲載した。
中国では今月、干ばつで多くの工場が閉鎖に追い込まれ、市民は暗闇の中での通勤を余儀なくされた。上海中心部の観光名所、外灘(バンド)からも明かりが消えた。
(1)「干ばつによるエネルギー不足は、大きな被害を受けた四川省の地元当局者と電力会社幹部らの判断ミスによってさらに増幅されたことが明らかになった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が文書の内容を確認した。同省は7月、貯水池の水量を使い果たし、1年前を15%上回る水準まで他省への電力供給を増やしていた。当局者らは、通常は雨期に当たる8月に貯水池は再び満たされると見込んでいた」
これまで、自然エネルギーの重要性が叫ばれてきた。今回の四川省の停電騒ぎは、異常気象により水力発電が機能しなかった典型例になった。改めて「ベースロード」電源確保の必要性を突きつけている。自然エネルギーは万能でなかったのだ。今後の異常気象頻発リスクを考えると、中国はサプライセンターとして危険地帯になった。
(2)「今回の問題は、中国のエネルギーシステム自体のもろさと、気候変動に起因する異常気象に対するぜい弱さを露呈することになった。中国では、異例の猛暑に見舞われる中で、豊かになった市民による冷房需要が急増している。四川省は水力発電が盛んで、通常なら隣接する省に電力を融通することができる。だが、水力発電に頼るエネルギー供給は、干ばつによる影響をもろに受けやすい。同省には非常用の石炭火力発電所もあるが、フル稼働しても、不足分を補うことはできない」
中国産石炭は、有害物質が多く火力発電に向かない限界を抱えている。こうなると、ベースロード電源は原子力発電か水素発電に頼らざるを得まい。中国の、エネルギー問題は異常気象下において極めて深刻な事情を抱えていることを浮き彫りにしている。
もともと中国は、異常気象には最も脆弱体質と指摘されてきた。中国北部の水源不足が原因で、地下水を恒常的にくみ上げすぎてきた。その結果、華北平原は熱波に耐えられないという科学データが提示されている。「呪われた大地」になっているのだ。
(3)「四川省のエネルギー当局や電力取引所、国有電力配送会社である国家電網公司の子会社2社による内部報告書は、7月に警戒すべき兆しが出ていたにもかかわらず、当局者が干ばつ被害の深刻さを甘くみていたことを如実に物語っている。WSJがその内容を確認した。その結果、8月には4つの極めて大きな要因が一気に重なり、電力不足に陥ったと報告書の1つで指摘されている。具体的には、過去最高の気温と過去最大に上る電力需要、過去最少の降雨量、そして貯水池・水力発電所に流れる水量が過去最低となったことだ」
四川省当局は、事前に干ばつ被害の大きいことを予告されていた。それを無視して、他省への電力販売契約をしたことが、停電騒ぎを大きくした理由だ。四川省が、財源不足を補うべく背に腹を変えられずに、電力販売契約したものと推測される。「貧すれば鈍する」というケースだ。
(4)「四川省のエネ当局によると、冷房使用で一般世帯の電力消費が7月に前年比で45%も増加している。四川省は8月に状況が悪化した場合に備えてエネルギーや水の使用をできる限り節約する措置は講じなかった。むしろ、水力発電量を前年比4%減の水準に維持するため、貯水池の水量を大きく減らした。文書によると、8月半ばまでには、四川省西部の貯水池の水位は使用可能な最低水準をわずか4%弱上回る程度にまで落ち込んだ。雨期に貯水池の水量を減らしておくことは一般的な慣例で、楽観する根拠もあった。中国気象庁は8月の気温は平均を上回るものの、四川省北部と北西部で歴史的な平均水準を最大20%上回る降雨量になるとの予報を出していたためだ。同省の送電会社の文書から分かった」
中国気象庁も雨量の予測違いをした。四川省は、この予測に従いダムの水をほぼ空にして雨期に備えていた。中国水利省は、気象庁とは別に長期の水不足を予告している。四川省、この二つの上部機関の間で揺れ動いたのだ。気象庁にも責任の一半があるのだ。
(5)「四川省は複数の省との間で電力供給の取り決めを結んでおり、7月には240億キロワット時の電力を他省に振り向けた。別の文書によると、猛暑や干ばつによる電力ひっ迫に見舞われていた四川省は同時に、近隣の陝西省
に緊急の電力供給を依頼していた。だが、熱波が中国中部や東部にも波及する中で、四川省が他省から支援を得ることもできなかった」
干ばつは、四川省だけに起こった問題でない。周辺地域に起こっている。四川省が、電力不足に陥っても他省が救援できる余裕はなかった。
(6)「8月を通して記録的な熱波と干ばつが中国を襲う中で、状況はさらに悪化。四川省の当局者は8月15日、産業向けの電力供給を6日間制限したが、専門家からはそれでも過度に楽観的だとの指摘が上がっていた。結局、状況は改善せず、20日には制限措置が延長された。天風証券では四川省の停電だけで、中国の鉱工業生産を最大で推定0.6ポイント押し下げると分析している」
水利省は、発電できるまで水量が回復するには数ヶ月を要するとしている。だが、来年2月頃は渇水期を迎える。水力発電が満足にできるかどうか見通しは難しい。