勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、台湾と国交を結んでいる国に対して、「物量作戦」で断交を迫る醜い外交戦術を行なっている。台湾を外交的に孤立させる目的だ。これに引っかかり、台湾と断交する国が確実に増えている。

     

    米国はこれを憂慮しており、台湾と断交した国は米国が経済援助しないと締め付けを厳しくしているほど。このほど、台湾シンクタンクが調査したところによれば、台湾との断交後に経済発展した国はないという。完全に、中国の口車に乗せられたことが分る。

     


    『大紀元』(7月21日付)は、「台湾と断交した国『長期的な経済成長は見られない』、台湾研究機関」と題する記事を掲載した。

     

    中国の圧力で台湾と国交を断絶した国は近年、増えている。台湾の最高学術研究機関である中央研究院の欧米研究所は5月、「台湾から中国に鞍替えした国々では長期的な経済成長が見られない」と指摘する研究報告書を発表した。米政府系放送局『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)20日付が報じた。

     

    (1)「中国が台湾と国交を有する国を説得する方法は、主に「経済的脅迫」「外交支援」「貿易投資」などであると同報告書は指摘した。現在、台湾と国交を有し、台湾を国と認めているのは、バチカン市国を含め14カ国となっている。調査ではアフリカ、ラテンアメリカ・カリブ海、中東欧、オセアニアの4地域の国について、中国や台湾との関係が経済に与える影響を比較した。台湾と断行後、中国へシフトした国、あるいは中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に参加した国は、期待していた長期的な経済成長を得られなかったと結論づけた」

     

    中国は、台湾と断交させるために露骨な「札ビラ」戦術を取っている。この誘惑作戦に負けたところが、台湾と断交している。中国は、「一つの中国」を盾にして、台湾との同時国交を認めず、必ず台湾と断交させる。

     


    EU(欧州連合)も、この「一つの中国」で台湾と断交しているが、台湾と復交しないまでも関係復活に乗り出している。台湾の半導体企業誘致がお目当てだ。最近、EUからの台湾訪問国が急増している。

     

    (2)「報告書は、アフリカのマラウイの事例を挙げた。同国は、2007年に台湾と断交後、中国と国交を樹立したが、2005~12年の間に中国からの直接投資で創出された雇用機会はわずか1万3000人で、中国が当初約束した30万人を大きく下回る結果となった。中国と国交を結んだ時、当時のマラウイ大統領は「我が国は貧困から脱却できる」と喜んだが、10年以上経った今も、地元住民はマラウイを「貧しい国だ」と考えているという」

     

    中国は国交結ぶ場合、大風呂敷を広げている。アフリカのマラウイも、この大風呂敷に騙された国である。30万人も雇用が増えるとやくそくしたのに、わずか1万3000人。約束の4%である。

     


    (3)「ラテンアメリカやカリブ海地域では、中国に乗り換えたことが、現地の経済発展を助けたと示す証拠はない。コスタリカ、ドミニカ、グレナダなどは中国と国交を結んだ後、台湾と国交を有する国々と比べて、経済成長が緩やかになっているという」

     

    コスタリカ、ドミニカ、グレナダなどは、中国と国交を結んだ後、台湾と国交を有する国々と比べて、経済成長が緩やかという。台湾と支援を結んでいる国は、米国からの支援が増えている可能性がある。中国は、台湾と断交させることが目的であるから、「釣った魚にはエサを上げない」のだ。中国という国は狡猾である。

     


    (4)「報告書はまた、そうした国々は、中国の経済援助や投資により短期的な経済成長を経験するが、長期的には巨額債務や貿易不均衡などによって成長が止まる可能性があると指摘した。いっぽう、台湾と国交を再樹立する国もある。太平洋南西部に位置するナウルは2002年に台湾との国交を断絶し、北京に切り替えたが、経済状況が改善しないため05年に再び台湾との国交を復活させた」

     

    太平洋南西部のナウルは、2002年に台湾と国交断絶したが、05には復交するというケースもある。中国と国交を結んでも良いことがなかったのだ。台湾も、一度は断交になった国と復交するというシーソーゲームを展開している。

     


    (5)「南太平洋のサモアは長年中国の同盟国であり、中国の資金援助もあって2000年以降経済が著しく成長したが、06年をピークに経済発展は減速し、ここ10年は停滞気味だった。中国が投資を続けているにもかかわらず、サモアの新首相は昨年、中国が出資する港湾プロジェクトを中止した。同国の対中債務はすでに高く、このプロジェクトを支援することは不可能だったからだという」

     

    南太平洋のサモアは、台湾と断交後に経済成長した。それも6年ほどで終り、その後は「鳴かず飛ばず」の状態だ。中国が、経済支援しないからだ。中国は、露骨な振る舞いをしている。

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    中国経済の4~6月期は、前年同期比0.4%とゼロ成長を辛うじて避ける最悪状態である。国家統計局は15日の声明で、「中国経済への下押し圧力は4~6月以降、著しく強まっている」とし、想定外の要因による深刻な影響があると分析するほどだ。下半期の回復期待どころか、さらなる悪化を予測する始末である。「持続的な景気回復の基盤は安定していない」との認識を示している。

     

    李克強首相は19日、経済成長目標に柔軟性を持たせることを示唆。過度な刺激策にあらためて慎重姿勢を示した。李首相は、世界経済フォーラム(WEF)が主催したグローバルビジネスリーダー特別対話に参加。雇用と物価の安定維持が最も重要なことだと述べ、雇用が比較的十分で、かつ家計収入が増加し、物価が安定している限り、やや高いあるいは低い成長率は容認できると語った。国営新華社通信が伝えた。現実には、雇用は深刻化している。

     


    このように、習近平氏の思惑と別に、中国経済を取り巻く客観情勢は厳しくなっている。今年の中国の経済成長率はどのレベルに落ち着くのか。改めて注目される。世界のエコノミストの予測では3%前後が「精一杯」と見られている。

     

    『ブルームバーグ』(7月21日付)は、「中国経済、今年の成長率4%割れとエコノミストーコロナや不動産響く」と題する記事を掲載した。

     

    中国の今年の国内総生産(GDP)成長率は4%に届かない見通しだ。ブルームバーグの最新エコノミスト調査が示した。新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策や不動産セクターを巡る危機、世界経済の見通し悪化が中国経済の重石となる。

     


    (1)「エコノミスト調査の予想中央値によると、2022年のGDP成長率は3.9%が見込まれている。従来見通しは4.1%だった。中国政府が設定した今年の成長率目標(5.5%前後)を大きく下回る。今年7~9月(第3四半期)のGDPは4.2%増と予想されている。従来見通しは4.5%増だった。10~12月(第4四半期)は5%成長と見込まれており、前回調査から変わらず」

     

    この調査は、ブルームバーグが世界のエコノミストを対象に行なったものだ。平均値であるから一応の目安になるが、独創性に欠ける。10~12月(第4四半期)が5%成長とは驚くほど高い。中国が、なり振り構わずにインフラ投資を行なうという想定だが、これは外れるであろう。

     

    李首相が無理な景気支えを行なわないと言明している。地方政府の「融資平台」が、さらなる債務に耐えられない状態にあることが判明している。破綻の危険性に直面している。こういう状況を見れば、10~12月期の5%成長率は眉唾である。

     


    (2)「ダンスケ銀行のエコノミスト、 アラン・フォンメーレン氏は「不動産のストレス拡大のほか、米国やユーロ圏の需要鈍化、新たなコロナ制限措置の不透明感による個人消費や小規模企業への大きな影響といった逆風の再燃に中国が見舞われている」と指摘。今年は2.7%成長にとどまると予想した」

     

    このパラグラフの指摘の方が、はるかに現実味がある。ダンスケ銀行のエコノミストは、今年は2.7%成長に止まると予測する。

     

    『ブルームバーグ』(7月15日付)は、「ゴールドマン、今年の中国成長率見通しを3.3%に下方修正-従来4%」と題する記事を掲載した。

     

    ゴールドマン・サックス・グループは、中国の2022年GDP成長率の見通しを3.3%と従来予想の4%から下方修正した。

     


    (3)「ワン・リシェン氏らゴールドマンのエコノミストは、4~6月GDP統計について、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う4、5月のロックダウン(都市封鎖)が予想より大きく影響したことを示唆していると指摘。7月に入り再び感染拡大が見られていることでサービス部門の活動が制限され、成長の戻りは20年のケースほど急激なものではない可能性が高いと分析した」

     

    ロックダウンの影響も大きいが、不動産は危機的状況に陥っている。不動産は、中国経済成長の「核」だけに、波及先が広範囲である。 

     

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    中国が、米韓の経済安保強化の動きに神経を使っている。米韓の経済関係が、より密接になってきたからだ。尹大統領は19日、訪韓した米財務長官との会談で米国との積極協力姿勢を打ち出した。また、「経済安全保障分野で米国のグローバルリーダーシップを全面的に支持する」とし、「韓米間の包括的戦略同盟が政治軍事安全保障から産業技術安全保障、さらには経済金融安全保障同盟として、より強固に続いていくことを期待する」とも話した。

     

    文政権時代には予想もできない米韓一体化路線の強調である。中国外交部の趙立堅報道官は19日、定例記者会見で米国が韓国にチップ4同盟を提案したことに関する質問を受けて「半導体産業は高度にグローバル化し、各国が分業して協力し、半導体技術の持続的な進歩をともに追求した」と答えた。同時に、「米国は一貫して自由貿易原則を標ぼうしつつも、国の力を乱用して科学技術と経済貿易問題を政治化・道具化・武器化して『脅迫外交』を繰り返している」と批判した。中国は、韓国への報復行為に走るか、が新たな焦点になってきた。

     


    韓国紙『東亞日報』(7月20日付)は、「
    強化される韓米経済安保同盟、中国の報復に十分備えなるべきだ」と題する社説を掲載した。

     

    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は19日に訪韓したイエレン財務長官と会って、「韓米同盟が政治・軍事安全保障から経済・金融安全保障同盟に一層堅固になることを期待する」と述べた。イエレン氏はこれに先立ち、LGサイエンスパークを訪れ、「中国のような独断国家が不公正な秩序を通じて各国の安全保障に脅威になることは阻止しなければならない」とし、韓米間の経済安全保障協力を力説した。イエレン氏は、秋慶鎬(チュ·ギョンホ)経済副首相、李昌鏞(イ・チャンヨン)韓国銀行総裁とも会って、様々な協力案を議論した。

    (1)「韓米経済安全保障同盟の強化は、2ヵ月前の韓米首脳の包括的戦略同盟宣言とインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加のレベルを越え、より具体的で深く推進される。韓米両国はこれまで多角的チャンネルを通じて、様々な経済安全保障協力案を議論してきた。今やその具体的なレベルと範囲を決める段階になった。特に、米国が8月末を期限に韓国政府に迫っている「チップ4(半導体4ヵ国)同盟」の参加も可視化してきた。中国との技術覇権争いで、先端技術は死守するという米国の意志が固いうえ、中国の反発を理由に拒絶することもできない状況だ。ロシアの侵略戦争で世界のサプライチェーン(供給網)に支障が生じている状況で、これまで韓国半導体が担ってきた国際的役割を高める契機になれるという計算も作用している」

     


    半導体が、今後の不可欠の戦略物資であることを考えれば、韓国の「チップ4」参加は義務と言える。韓国は、米国へ安全保障を依存しながら、「ビジネスは勝手にやる」というワケにはいかないのだ。そこは、割り切るほかない。「夫婦関係」と同じである。よそへ目を向ければ不倫として成敗される運命である。

     

    (2)「米国はすでに、自国の半導体産業の育成を掲げ、米国の支援を受けたグローバル半導体企業が中国と先端半導体で協力することを遮断する「ガードレール」条項が含まれた育成法案を推進している。チップ4の参加を苦慮している韓国にとって大きな圧力だ。一部では、韓国がチップ4に参加しない場合、米国と台湾、日本だけが参加するチップ3で出発し、オランダが合流する可能性があるという観測も流れている」

     

    中国最大の弱点は、半導体製造である。米国は、この弱点を突いている。韓国が、中国へ肩入れする動きは「裏切り」に映る。国家間の信頼を裏切ることになるのだ。韓国が参加しなければ、これまでの米韓一体化路線はご破算になる。

     

    (3)「予想通り、中国は反発している。中国官営メディアは、「韓国が米国に屈服する場合、得より損失が大きいことは明白だ」と主張した。韓国のメモリーチップ輸出で中国が占める割合が半分近く、韓国企業が報復対象になる可能性があるという警告だ。にもかかわらず、韓国の国益がかかった問題に躊躇することはできない。経済安全保障同盟は、選択の余地のない避けられない現実になった。ただし、国内5大製造業の根幹である原材料のうち9割が中国産であることも韓国が直面している無視できない現実だ。能動的な国益外交が切実だ。中国と戦略的に意思疎通を図り、各種協議の機会を通じて韓国の立場を説明するなど、不必要な摩擦や対立を生まないよう努めなければならない」

     

    米バイデン大統領は、中国の報復に対して共同で対応すると発言している。中国が報復するならば、「倍返し」するくらいの強い姿勢を見せないと、抑制効果は出ないだろう。共同で対抗するのも中国への「教育効果」になる。

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    中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は19日夜、世界経済フォーラムの会合で「高すぎる成長目標のために、大型の景気刺激策や過剰に通貨を供給する政策を実施することはない」と語った。今春に景気が悪化し、政府が定めた2022年の経済成長率目標は達成が難しくなっている。

     

    これまでは、大型財政出動でできるだけ目標の「5.5%前後」へ近づける方向であった。だが、これ以上の財政支出拡大は、地方政府の隠れ債務を増やして、重大事態招くという認識が深まったようだ。

     

    国営新華社が20日報じたところでは、李氏はオンライン形式で会議に参加し、あいさつしたもの。「事実に即して全力を尽くし、通年の経済発展が比較的良好な水準に達するよう努力し続けなければならない」とも述べた。中国共産党は4月に開いた中央政治局会議で「経済社会の発展に関する通年の予想目標を達成するよう注力しなければならない」と強調。22年の目標を堅持する方針を確認していた。これを取下げるものだ。今年16月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比2.%増にとどまり、目標達成が遠のいていた。

     


    『日本経済新聞 電子版』(7月20日付)は、「中国・貴州省政府、金融機関に債務返済延期など協力要請」と題する記事を掲載した。

     

    中国西部の貴州省政府が、傘下のインフラ投資会社などの債務について返済の繰り延べなどの支援をするよう金融機関に要請している。不動産市場の不振で財政が悪化する地方政府のあいだで、今後同様の動きが広がる恐れがある。

     

    (1)「7日、貴州省トップの諶貽琴(チェン・イーチン)省共産党委員会書記は、「返済繰り延べ、金利引き下げ、借り換えなどによって債務リスクを解消しなければならない」と金融機関幹部を招いた会議でインフラ投資会社に対する金融支援を要請した。諶氏の発言の背景には国務院(政府)が1月に公表した貴州省向け意見がある。「隠れ債務を増やさない前提で、(地方政府傘下のインフラ投資会社である)融資平台(プラットフォーム)が金融機関との返済繰り延べや債務再編を交渉することを認める」と記した。中央政府が地方政府の返済繰り延べにお墨付きを与えており、国有銀行をはじめ金融機関がこの要請を拒否するのは簡単ではない」

     

    貴州省は、これといった目立った産業もない地域だ。勢い、インフラ投資に頼った景気維持策を行なってきたが、それも限界を迎えた。貴州省の経営する金融会社「融資平台」が、金融機関に対して、金利減免・債務繰り延べ要請を始めたのは注目すべき動きである。

     


    (2)「中国政府は、2014年まで地方政府による地方債の発行を原則禁止していた。このため融資平台と呼ばれる地方政府出資のインフラ投資会社を設立して必要な資金を調達せざるを得ず、これが地方の「隠れ債務」を膨らませる原因となっていた。融資平台は採算性の乏しいインフラ投資で業績不振に陥る例が少なくない。自助努力による経営再建や資金繰り改善が難しければ、株主である地方政府か貸し手である金融機関が支援せざるを得ない。銀行が金融支援してくれれば貴州省政府はその分財政負担を免れるメリットがある」

     

    中国が、インフラ投資で景気を支えてきた裏側には、「融資平台」があった。ここへ「隠れ債務」を溜めて、あたかも中国経済が堅調な発展をしているような擬装をし続けてきた。それが、限界を迎えたのだ。不動産開発企業も「顎」を出し、インフラ投資の隠れ主役になった融資平台も、ついに「金融整理」に入った。習近平氏の「インフラ」「不動産」の二大看板が、頓挫の運命である。

     

    (3)「米格付け会社S&Pグローバルは「(融資平台は)資金の再調達が難しくなるだけで、本質的な信用改善にはつながらない」と警告している。財政省によると、中国の土地使用権の売却収入は6月、前年同月比4割減少した。15年5月以来のマイナス幅で、21年7月以降、ほぼ一貫して前年割れが続いている。財政悪化は貴州省にとどまらない問題となっている

     

    融資平台が行き詰まる一方、土地売却収入は、6月に前年比4割減に落込んでいる。地方政府財政は、破綻状況である。これでは、インフラ投資を強行させる「弾」(資金)の出所がなくなったも同然だ。

     

    (4)「中国の調査会社、Windによると、「城投債」と呼ばれる融資平台の債券発行残高は約13兆7500億元(約290兆円)にのぼる。銀行借り入れを含めるとさらに増えるとみられる。貴州省による債務繰り延べ要請は、これまで投資家が購入の前提としてきた「暗黙の政府保証」を崩しかねない」

     

    融資平台の債券発行残高は、約13兆7500億元(約290兆円)に上る。不採算投資であるからリターン(利益)は望めない。一時のGDP押上げだけの線香花火に終わった。後先を考えない「習近平戦術」の敗北である。 

     

     

     

     

     

    あじさいのたまご
       

    昨年夏、不動産開発企業で資金繰り難が起こっている以来、この問題は急速に拡大している。建設工事が大幅に遅延しているのだ。この結果、事前予約の住宅購入者は、住宅ローンを払い続けているが住宅入手のメドが立たず、ついにローン支払い拒否宣言をして企業へ対抗することになった。この動きは、300以上の地点に広がっている。

     

    中国国務院の朱光耀参事(2010~18年に財政次官)は、不動産セクターにハードランディングのリスクがあると警戒している。政府は、開発会社の流動性危機解決と返済ボイコットを止めるために、介入が必要であるという見解を述べる事態にまでなっている。

     


    『ブルームバーグ』(7月19日付)は、「
    中国住宅ローン返済拒否拡大・集団で解決迫る購入者 党大会前に難題」と題する記事を掲載した。

     

    中国で広がる住宅ローン支払い拒否の動きは、そもそも同国中部にある都市のマンション購入者がいつまでも物件が完成しないことにいら立ち、これに抗議するため始めたものだった。それが今では全国で何万もの人々が追随する事態となっている。

     

    (1)「最大2兆元(約40兆9000億円)相当の住宅ローンに関係する今回のボイコットは、資金難に陥る開発企業から国内の巨大銀行へと焦点が移ることで不動産市場の低迷がさらに深刻化する恐れもある。新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が景気を損ねる中、銀行は最も安全な収入源として住宅ローンに頼ってきた。政策当局は警戒態勢に入っている。金融規制当局は銀行に対し、物件の完成を支援するため開発業者への融資を増やすよう求めた。また、事情に詳しい複数の関係者によれば、当局は住宅購入者にローン返済の猶予期間を設けることも検討している」

     


    銀行にとって、最も好採算の融資が住宅ローンである。この住宅ローンで支払いボイコットが起きると、銀行収益構造が大きく響く。これまでも、住宅ローンを全額払い終えても、住宅が完成せず、コンクリートの肌がむき出しのビルで生活する人々の姿が報じられてきた。中国では、こういうルーズな建設業者がゴマンといるのであろう。今度は、集団で対抗するところに新味がある。

     

    (2)「銀行株の指数が下げる中でも、金融機関はリスクがコントロール可能であり、遅延物件に対するエクスポージャー(価格変動リスク)も小さいと相次いで説明し、投資家を安心させようと懸命だ。また、中国不動産企業の株式や債券も値下がりしており、これには同業の問題から守られていると長らく見なされていた一部大手も含まれる。DBS銀行(シンガポールの銀行)のマクロストラテジスト、チャン・ウェイ・リアン氏は、「こうした傾向に歯止めがかからず、雪だるま式に拡大すれば、中国の銀行の信用プロフィルの悪化につながる」と話す」

     

    住宅ローンは、返済確実という認識であった。それが、不確実になってきたのは、かつてない金融状況が起こっている証拠である。不動産バブルが始まっていると見るほかない。

     


    (3)「一連のボイコットはこれまでのところ、銀行の住宅ローンポートフォリオ全体のごくわずかにとどまっているとはいえ、抗議拡大のスピードが速く、多くを驚かせた。磁器で有名な江西省景徳鎮市で6月下旬、
    中国恒大集団が手掛ける未完成物件の900人の購入者が3ヵ月以内に建設を再開しなければ、住宅ローンの支払いを止めると地元政府や同社に訴えたことが発端だ。「われわれは家を必要としている」と題するクラウドソース文書の数字によると、この運動はそれ以降、今月17日時点で約91都市の少なくとも301カ所に広がっている」

     

    6月下旬に、江西省景徳鎮市で始まった住宅ローン支払いボイコット運動は、1ヶ月も経たないうちに301カ所のマンションで起こっている。このまま推移すれば、さらに拡大することになろう。

     


    (4)「今回のローン支払い拒否騒動は、中国特有の住宅購入リスクを浮き彫りにしている。多くの国・地域では物件完成前に購入者が手付金を払う必要はあるが、引き渡しまで住宅ローン返済は始まらないのが普通だ。一方、中国ではローン返済は最初の手付金と共に始まり、物件の完成が遅れるとこうした状況が数年続くこともあり得る。現金の蓄積で不動産開発業者は従来の物件の完成を待たずに新たなプロジェクトを始めることも可能だった。事実上、開発業者は住宅購入者から資金を借り入れていた形で、異なる点は借金を返済するのではなく物件を引き渡す必要があるという程度だ」

     

    事前予約によってローンを組む販売は、「青田売り」である。日本でもよく使われた手だ。現在の日本では姿を消している。問題を起したからだ。この危険な手法が、中国では一般化したのは、政府の不動産バブル「奨励」による。それが昨年7月、突然の方向転換によって、不動産開発企業の債務規制に乗り出したので、資金繰りが一挙に苦しくなった。起こるべくして起こった問題とも言える。

     


    (5)「
    DBS銀行のチャン氏によれば、中国の世帯が住宅ローン返済をやめるのは珍しく、銀行側にも全面的な支払いを要求する法的権利があることを考えると、今回の抗議はなおさら注目に値する。共産党大会を前に、当局が社会不安を抑えようとする中で、購入者は集団で行動すれば解決策を迫ることができるとの期待をつないでいるのかもしれない」

     

    下線部分の指摘は疑問である。販売契約者が、建物を引き渡す義務を履行しないのに、購入者に支払い義務を求めるのは片手落ちである。こうなると、業者が法的に一番、保護されることになる。企業擁護過ぎるのだ。

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