勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    不況脱出を目指す中国は、世界中に安価な製品であふれさせている。20年余り前に、世界の製造業を席巻した「チャイナ・ショック」の続編でないかと警戒されている。米国とEU(欧州連合)は、中国製のEV(電気自動車)やソーラーパネルに対し、貿易障壁を引上げると警告しているほどだ。今回はブラジルやインド、メキシコ、インドネシアなどの新興国もこの輪に加わり、鉄鋼やセラミック、化学製品など、ダンピング(不当廉売)の疑いがある中国製品に狙いを定めている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月10日付)が報じた。

     

    『ロイター』(4月12日付)は、「中国輸出、3月は前年比ー7.5%と予想以上に減少 輸入もマイナス」と題する記事を掲載した。

     

    中国税関総署が12日発表した3月の貿易統計によると、輸出は前年比7.5%減、輸入は1.9%減でいずれも市場予測を大きく下回った。輸出は昨年8月以来の大幅な落ち込みとなった

     

    (1)「ロイターがまとめたエコノミスト予想は、輸出が2.3%減、輸入は1.4%増。輸出は前年同月が高水準だったため減少するとみられていたが、予想以上の落ち込みとなった。ただ鉄鋼輸出は2016年7月以来の高水準だった。輸入の減少は、国内需要の低迷を浮き彫りにした。3月の大豆輸入は4年ぶりの低水準となった。原油輸入は6%減少した。1~2月は、輸出が7.1%増、輸入は3.5%増だった。第1・四半期の輸出は、前年同期比1.5%増加。輸入も1.5%増だった」

     

    3月の輸出が前年同期比7.5%減に落込んだ理由は、EVの販売不振が影響しているであろう。調査会社ロー・モーションが12日発表したデータによると、世界の完全電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は3月に前年同月比12%増の123万台となった。中国で27%、米国とカナダで15%伸びたが、欧州で9%減少した。

     

    ここでは、欧州が9%減であることに注目すべきである。欧州の港湾には、大量の中国製EVが車庫代わりに留め置かれている。代理店までの輸送手段がないままに「見込み輸出」してきたものだ。これにも限界があるので、自動的に欧州向けEV販売が落ちてきているのであろう。とすれば、欧州でのEV不振は長引きそうだ。

     

    (2)「ジョーンズ・ラング・ラサールのチーフエコノミスト、ブルース・パン氏は、「為替変動による混乱に加え、3月の輸出入が予想を下回ったことは、野心的な成長目標を達成するためにより包括的かつ的を絞った景気刺激策が必要になることを示している」と指摘。「中国の貿易が再び成長の原動力となるまでには長い道のりとなるだろう」と述べた」

     

    ここでは、3月の輸出入が事前予想を大幅に下回ったことで、中国経済の底流が冷却に向っていると警戒している。24年は、「5%前後」という成長率目標を掲げているが、3月輸出が、昨年8月以来の大幅な落ち込みとなったことで、輸出で景気を支える方程式が崩れ始めたとみている。輸入減は、内需の落込みを反映している。こうなると、3月の

    貿易動向から明るい展望が消えるであろう。

     

    (3)「中国当局が個人消費や民間投資を促し、市場の信頼を回復させるための支援策を昨年後半から打ち出したことで、経済は今年、比較的堅調なスタートを切った。しかし成長は依然として不均一で、不動産セクターの危機が長引いていることなどから、アナリストは当面本格的な回復はないと予想している3月の貿易黒字は585億5000万ドル。エコノミストの予想(702億ドル)を下回った。3月の対米貿易黒字は229億4000万ドル、1~03月は702億2000万ドルだった」

     

    不動産バブル崩壊に伴う過剰債務の重圧は、これだけで内需の芽を押し潰している。習近平氏は、この過剰債務の重圧を「三種の神器」(EV・電池・太陽光パネル)を先頭にした輸出攻勢で切り抜けようとしている。だが、「三種の神器」が霊験あらたかでなくなってきたのだ。となれば、正統派の政策である個人消費刺激策に立ち返ることになるのか。ますます、経済政策の混迷が深まるばかりである。

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    米財務長官イエレン氏は、昨秋に次いで二度目の訪中によって、中国の過剰輸出問題の是正を申入れた。中国側は、近く米中で協議することで合意したが、見通しは暗いとする指摘が出ている。中国がこれを受入れれば、中国経済は文字通り「失速」するからだ。

     

    中国国家統計局は11日、3月の生産者物価指数(PPI)を発表した。PPIは、前年比2.8%下落と、前月の2.7%から下落幅が拡大した。企業が、売上を維持しようと価格を引き下げ、コモディテイー(商品)価格も下落する中、PPIは1年半にわたり下落が続いている。前月比では0.1%の下落であった。こういう中で、企業は過剰輸出へ向わざるを得ない事態に陥っている。

     

    『ロイター』(4月11日付)は、「中国の過剰生産能力、解消の見込みなし イエレン氏の警告無駄に」と題する記事を掲載した。

     

    イエレン米財務長官のような海外当局者が何を言おうとも、中国の工場はまい進し続けるだろう。イエレン氏は8日、安価な輸出品で市場を氾濫させて欧米企業の足を引っ張らないよう、中国政府に警告を発した。とはいえ、中国の過剰な工業生産能力は今後も続く可能性が高い。

     

    (1)「中国での4日間に及ぶ公式会合を終えたイエレン氏は、「これは以前にもあった話だ」と強調。2000年代初頭に中国の政策によって「中国産の安価な鉄鋼が世界市場に氾濫し、世界と米国の産業を壊滅させた」ことに言及した。現在、欧米その他の国々の政策当局者は、電気自動車(EV)、ソーラーパネル、リチウムイオン電池、その他の産業における中国の過剰投資について、内需を上回る水準に生産を押し上げているのではないかと懸念している」

     

    過去の中国過剰輸出問題は、自由貿易論によって仕方なく受入れられてきた。だが現在は、自国のサプライチェーンを優先するという経済安全保障意識が高まっている。この動機をつくったのは、中国発の新型コロナによるパンデミックである。こういう環境変化の中で、中国が再び輸出攻勢をかけることは受入れられなくなっている。

     

    (2)「中国は、過剰生産能力の抑制を約束する一方、欧米の不満は見当違いとしている。ただ、こうした懸念は一部の分野では正当化されそうだ。例えば、国際エネルギー機関(IEA)の21年の調査によると、中国のソーラーパネルメーカーは市場の80%超を支配するが、世界需要に占める(国内)比率は36%に過ぎない。同様に、業界データを引用したサウスチャイナ・モーニング・ポストの報道によると、CATL(寧徳時代新能源科技)を筆頭とする中国の有力バッテリーメーカーは昨年、747ギガワット時の電力を生産したが、これは実際に中国本土で購入された製品に搭載された387ギガワット時のほぼ倍だ」

     

    中国は、太陽光発電パネルで国内需要の2倍以上の生産を行っている。バッテリーでも2倍以上の生産である。各国が、経済安全保障のために最低限のサプライチェーンを確保したくても、中国からの洪水のような輸出でなぎ倒されているのだ。中国は自由貿易論を建前にしているが、国内では保護貿易である。こういう「使い分け」は、他国を納得させないであろう。

     

    (3)「過剰生産能力が、さらに広がる兆候もある。ロジウム・グループのアナリストによれば、稼働率は昨年初頭に16年以来の75%を下回った。稼働率低下は不動産関連セクターだけでなく、食品、繊維、化学、医薬品を含む産業全般で起きている。また、在庫水準も上昇している。これは、消費低迷と長引く不動産危機の中で経済成長を支えようとする中国の産業振興策によるところが大きい」

     

    中国では、主要産業の平均稼働率が75%を下回っている。過剰設備の存在を示唆している。

     

    (4)「4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増の1兆2000億ドルに達し、ハイテクやクリーンエネルギーなど戦略セクターをターゲットにしている。こうした支援策は効果が上がっているようだ。調査グループのカーボン・ブリーフによると、クリーンエネルギーセクターは、23年に過去最高の11兆4000億元(1兆6000億ドル)を経済にもたらして国内総生産(GDP)拡大の40%に寄与し、中国経済にとって最大の成長原動力となった。中国は、5%の成長目標を達成すべく今年もこの成功を再現しようとするだろう。中国の産業エンジンはフル回転していると言えそうだ」

     

    中国政府は、過剰債務に悩む不動産開発産業を放置して、製造業への融資を集中させている。4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増と急増した。こうした集中的な融資によって、クリーンエネルギーセクター(EV・電池・太陽光パネル)は、GDP成長率の40%も寄与している。中国が、過剰生産能力の再編に取組むとはとうてい期待できない、としている。

     

     

     

     

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    中国は、国内不況をEV(電気自動車)輸出で跳ね飛ばそうと猛烈なダッシュをかけている。米国は高関税でガードしているので、狙い目は欧州である。中国製EVは、「猫も杓子も」欧州へ殺到している。陸揚げされたものの、肝心の輸送の手配が遅れていることと販売難が重なって、港湾では大量のEVが滞留する事態に陥っている。いかに、無計画な輸出であるかを窺わせている。 

    『フィナンシャル・タイム』(4月10日付)は、「中国からの輸入車、欧州の港に滞留 輸送・販売が難航」と題する記事を掲載した。 

    欧州の港湾が輸入車の滞留で「駐車場」と化している。自動車メーカーや販売業者が、販売不振やトラック運転手の不足を含む物流の停滞に悩まされていることが背景にある。港湾業界や自動車業界の幹部は、集積する中国製の電気自動車(EV)が問題の主因の一つだと指摘している。陸揚げ後の輸送手段を確保せずに船積み予約を入れる企業もあるという。また、ドライバーや車両を移動させる設備が不足していることから、自動車メーカー全体がトラックの手配に苦労している面もある。

     

    (1)「欧州最大の自動車荷揚げ港として知られるベルギーのゼーブルージュ港を運営するアントワープ・ブルージュ港湾公社は、「自動車販売業者が港の駐車場をデポ(輸送拠点)として利用するケースが増えている。車両は販売代理店に保管されず、自動車ターミナルに集積されている」と述べた。また「主要な自動車港湾は軒並み」混雑に悩まされているとしたが、車両の輸出元については明言を避けた。一部の自動車業界幹部は、中国の自動車メーカーが欧州で思うように販売を伸ばせていないことが、欧州各地の港湾で車が滞留している大きな要因だと指摘している。ある自動車サプライチェーン(供給網)の管理者は「中国のEVメーカーは港を駐車場のように利用している」と語った」 

    欧州最大の自動車荷揚げ港であるベルギーのゼーブルージュ港は、中国製EVの「駐車場」代わりになっている。車両は本来、販売代理店に保管されるべきである。そこまで、達しない段階で「目詰まり」を起こしているのだ。販売不振を意味している。 

    (2)「業界幹部によると、一部の中国製EVは欧州の港に最長18カ月もとどまっているが、一部の港は輸入業者に陸揚げ後の輸送が確保できている証拠の提示を求めていた。ある自動車物流の専門家は、陸揚げされた車両の多くが販売業者や消費者に販売されるまでひたすら港にとどまっていると話す。事情に詳しい別の人物は、この状況を「カオス(混沌)」と表現した」 

    中国製EVの一部は、欧州の港に最長18カ月も止まっているという。売れる見込みもなく、輸出してきたことを意味する。中国の輸出統計では、EV輸出としてカウントされるのだ。実態は、全く異なっている。

     

    (3)「乗用車業界団体、乗用車市場信息聯席会の崔東樹・秘書長は「(中国のEVブランドにとって)欧州市場での内陸輸送は難しい」と述べた。中国ブランドは、「販売後」のサービスを改善する必要があると同氏は強調し、こう続けた。「ゲリラ戦のような自動車輸出を変えるべきだ。自分たちの首を絞めることになる」と指摘する」 

    中国乗用車業界では、「ゲリラ戦のような自動車輸出を変えるべきだ。自分たちの首を絞めることになる」と自戒している。 

    (4)「欧州で2番目に自動車の取り扱いが多い、ドイツのブレーマーハーフェン港で自動車ターミナルを運営する独物流大手BLGロジスティクスは、独政府が2023年12月にEVの購入補助金を打ち切った後、同社施設に車両が滞留する時間が長くなったという。比亜迪(BYD)や長城汽車、奇瑞汽車、上海汽車集団(SAIC)といった中国自動車メーカーの多くは、中国国内の工場稼働率を維持するとともに、欧州のEV需要を取り込むため、欧州への輸出を増やそうとしている。自動車ターミナルで目詰まりが起きている背景にはこうした事情がある」 

    欧州で2番目に自動車の取り扱いの多い、ドイツのブレーマーハーフェン港でも、中国製EVは滞留時間が長くなっている。中国国内では、工場稼働率を維持する目的もあり、欧州へ怒濤のごとき輸出を仕掛けている。

     

    (5)「23年の中国の自動車輸出は前年比58%増となり、自動車市場の大幅再編を促した。24年1〜2月は中国のEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、水素自動車の輸出先上位にベルギー、英国、ドイツ、オランダが並んでいる。中国の王文濤商務相は7日、中国自動車メーカー幹部が出席したパリでの会議で、同国がEVの過剰な生産能力を抱えているとの批判について「根拠がない」と主張した」 

    中国の自動車輸出は23年、前年比58%増である。この数字こそ、無秩序輸出の証であろう。EU(欧州連合)が、ダンピング輸出として調査するのは致し方ない。 

    (6)「自動車業界幹部によると、中国勢の多くは欧州でゼロからチームをつくり、物流問題に取り組んでいる。欧州市場に参入したばかりの各社は、優先的に対応してくれる運送会社の確保に手を焼いている。「トラック不足」は「非常によくある問題」だと事情に詳しいある人物は述べ、多くの輸送用車両を「(米EV大手)テスラが予約している」と付け加えた。「どの新参ブランドもこの問題に直面するだろう。事業規模が小さく、定期的に輸送しないなら(トラック運送会社の)最大顧客にはなれない」と業界幹部らは指摘する」 

    中国EVは、ゲリラ的輸出であるので、欧州の物流業界が「様子見」している状態だ。「良い荷主」になれるかどうか、見極めている面もある。まだ、信頼されていないのだろう。

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    格付け会社フィッチ・レーティングスは4月10日、中国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。中国の財政リスクが高まっているためだ。格付け自体は最上位から5番目の「シングルAプラス」で据え置いた。昨年12月、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、中国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更している。中国の財政、経済、制度に広範な下振れリスクが生じていると指摘した。

     

    世界三大格付け会社のうち、二社が格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたことになる。残るは、S&Pグローバルである。中国格付けをどのようにみているか。前記二社の見通し発表によって、おおよその見当がつくことになった。財政リスクの拡大だ。

     

    『ロイター』(4月10日付)は、「フィッチ、中国格付け見通し『ネガティブ』に下げ 成長にリスク」と題する記事を掲載した。

     

    格付け会社フィッチは9日、中国の格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げた。同国の財政見通しに対するリスクが高まっていることを理由に挙げた。新たな経済成長モデルへの移行で不透明感が高まっているとしている。格付けは「Aプラス」に据え置いた。

     

    1)「格付け会社ムーディーズも昨年12月、中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更。中国当局が債務問題を抱える地方政府や国有企業への資金支援を迫られることが予想されるほか、「不動産部門縮小に関連したリスク」も見通しの引き下げ要因とした。ナティクシスのアジア太平洋担当シニアエコノミスト、ゲーリー・ウン氏は「見通し変更は、成長鈍化や債務拡大という二重苦によって中国の公的財政の厳しさが増していることを反映した」と指摘。「中国がすぐにデフォルト(債務不履行)になることを意味するものではないが、地方政府の財政が悪化する中、LGFV(地方政府傘下のインフラ投資会社)で信用格差が広がる可能性がある」と述べた」

     

    中国は、不動産不況が経済に与える影響は「軽微」としている。現実は、経済の骨格を蝕んでいる。早急な手術によって、過剰債務処理をしなければならない事態へ向っている。

     

    2)「フィッチは、中央・地方政府の明示的な債務が今年、国内総生産(GDP)比61.3%と、昨年の56.1%から増加すると予想。19年の38.5%から大幅な悪化が見込まれている。一般政府財政赤字については、2024年にGDP比7.1%と、23年の5.8%から上昇すると見込んだ。予想通りなら、厳格化な新型コロナウイルス感染予防措置で景気が悪化した20年に記録した8.6%以来の高水準となる。今年の中国成長率については4.5%とし、昨年の5.2%から鈍化すると予想した」

     

    GDP比の財政赤字が、確実に膨張している。何らの対策も取らないで、「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の輸出急増で乗切るという破天荒な政策が失敗である。この輸出大作戦は、世界中へショックを広げ新興国からも非難の声が上がっている。中国は、外交的に新興国の味方を装っているが、逆の事態を引き起こしている。

     

    3)「フィッチは、「格付け見通しの修正は財政見通しに対するリスクが高まっていることを反映している。中国は不動産に依存した成長から、政府がより持続可能と考える成長モデルへの移行過程にあり、経済見通しの不透明感が高まっている」と説明。「近年の高水準の財政赤字と政府債務拡大は、格付けの観点から見て財政バッファーを縮小させた」とした上で「名目成長率の低下で経済全般の高レバレッジ管理の困難さが増し、偶発的な債務リスクが高まっている可能性がある」との見方を示した」

     

    フィッチは、中国の名目成長率がデフレの影響で、低下していることを重視している。23年のGDPは、「名実逆転」で名目成長率4.6%、実質成長率5.2%となった。この事態は、今後も継続する見通しが強い。となれば、負債管理が厳しくなる。日本の名目成長率は、23年が5.7%で1977年以来46年ぶりに日中が逆転した。

     

    ムーディーズは昨年12月、中国の経済成長率が24年と25年にそれぞれ4%、26〜30年に年平均3.%に鈍化するとの予測を示していた。人口動態の変化など構造的な要因で、30年までには潜在成長率が3.%程度に低下すると分析した。

     

    4)「中国財政省はフィッチの決定は遺憾だと表明。地方政府債務に起因するリスクの防止と解消に向けた措置を取ると強調した」

     

    中国政府は、政策の方向転換する気配を見せていない。このままだと、格付けは引き下げの一途という局面へ入り込む危険性が大きくなってきた。

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    習近平国家主席の「レガシイ」として始められた新行政都市「雄安新区」は、これまで7年の歳月を掛け14兆円が投じられてきた。この「人工都市」は、交通インフラも整備され高速鉄道は開業したが、駅舎の玄関は閉じられたまま。構内は、閑散としていたという。資源の無駄遣いは明らかである。

     

    『毎日新聞』(4月9日付)は、「『理想都市』閑散、習氏肝いりの『雄安新区』 7年で14兆円投入」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が、2017年に打ち出した新都市「雄安新区」の建設は、4月で7年を迎えた。

     

    (1)「北京市近郊に先端技術を駆使したスマートシティーを建設するという巨大プロジェクトで、これまでに6700億元(約14兆0231億円)以上を投入。しかし、習氏のトップダウンによる官製の「理想都市」にいまだ活気は見られず、民間活力によって中国南部の漁村を人口1000万以上の大都市に変えた鄧小平時代の「経済特区」との違いが浮き彫りになっている」

     

    鄧小平時代の「経済特区」は、深センにみられるような大発展を遂げた。だが、習氏の「雄安特区」は閑古鳥が泣いている。この差は何か。「雄安新区」が官庁・IT関係・教育という人々の生活からかけ離れた「都市づくり」であるからだろう。日本風に言えば、「赤ちょうちん」の店も必要。無機質な都市には、人間は住めないのだ。

     

    (2)「北京市から南西に約100キロ。昨年末に全面開通したばかりの高速道を走ると畑の中に突然、高層ビルが林立する街が出現した。街の中心部には、周囲数キロ四方にわたって、巨大な会議場やホテル、マンション、病院などが整然と建ち並んでいる。雄安新区は、首都・北京の過密化の解消を目的に、北京市と天津市に隣接する河北省の農村地帯に、新都市を建設する計画だ」

     

    巨大な会議場やホテル、マンション、病院などが整然と建ち並んでいるが、肝心の人間が住まないとは「世界七不思議」であろう。習氏の掲げる「中国式社会主義」の中身をみるような思いだ。

     

    (3)「35年までにITなど先端技術を駆使し環境にも配慮した200万人規模のスマートシティーをつくり、今世紀半ばには2000平方キロ(東京23区の面積の3倍強)規模に発展させるというもので、習指導部はこの構想を「国家千年の大計」と位置付ける。鄧氏が主導した「深圳経済特区」、江沢民氏の「上海浦東新区」と並ぶ「習氏のレガシー(政治遺産)づくり」(北京の外交筋)との見方もある」

     

    雄安新区は、35年までに200万人の都市になるという。行政・教育・ITという中国の「頭脳」が集結する形だが、強制的移住でもしない限り実現は困難だろう。こういう無機質な場所には、人間は住めないからだ。

     

    (4)「中国メディアの報道によると、雄安新区の開発されたエリアはすでに184平方キロに達し、建設された建物も4000棟以上となったという。中国メディアは「雄安新区は、大規模な開発と同時に、北京からの『非首都機能』の移転が重視される段階に入っている」と発展ぶりを強調している。ただ実際に新区を歩いてみると、住民の姿がほとんど見えない。商業ビルは空き店舗ばかりでマンションも空室が目立つ。建物は次々と完成し都市としての機能は整いつつあるのに、そこで生活する人の気配が感じられないのだ」

     

    人間は、聖人君子ばかりでない。日常的に息抜きする場所も必要だ。中国共産党が描く「理想社会」の一端は、雄安新区にあるかもしれない。だが、成功はおぼつかない感じだ。

     

    (5)「ひとけない住宅街で、ようやく出会った地元出身の清掃員の男性(74)にたずねると、「北京市から60万人もの人々が移住してくると聞いている。でもまだ移住者はほとんどいない」との答えが返ってきた。20年12月に開業した「アジア最大」とされる高速鉄道の「雄安駅」も訪れてみたが、巨大な正面玄関は閉じられ、駅舎内は驚くほど閑散としている。コロナ禍前は、ハイテクイノベーションの先行地域として注目を集めた無人バスや無人宅配車、無人清掃車にも出合うことはなかった

     

    習氏の理想郷は、経済政策もそうだが、現実とかけ離れている。現実との接点がない「空想」を追い求めている。世界覇権を狙うのも、この一環である。

     

    (6)「習氏肝煎りである雄安新区の特徴は、「中央政府主導のトップダウン」だ。低炭素や情報化を掲げ、新区に進出できる産業は事実上、IT関連やバイオ医学、新エネルギー関連などの分野に限定している。また「住宅は住むためのものであり、投機のためではない」とする習氏の方針の下、住宅を購入できるのは進出を許可された企業の社員など一部の人々だけで、不動産の売買も厳しく制限している」

     

    都市づくりは、民間の総意に任せるべきであろう。鄧小平時代の「経済特区」が成功したのは、民間が主体であったからだ。習氏の「民間嫌い」が、上からの「押しつけ」になっている。これが、失敗の原因になろう。

     

     

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