勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国経済は、お尻に火がついた状況に追い込まれている。ロックダウンである以上、やむを得ないとは言いながら、「急減速」である。手っ取り早い手段は、住宅ローンを緩和して、大量の在庫をはかすことだ。

     

    中国人民銀行(中央銀行)が、5月13日発表した4月の人民元建ての新規融資は、6454億元で3月の3兆1300億元から80%も急減した。アナリストは、1兆5200億元と予想していたから、悪化予想をさらに下回る「SOS」の状況に陥っている。超強気の習近平氏といえども、これでは李首相に兜を脱がざるを得なくなった筈だ。

     


    最近の地方政府トップ人事では、李首相の息がかかった国務院(政府)の大臣クラスが、栄転している背景が分るようだ。経済再建には、李首相仕込みのエリートでなければ無理という判断かも知れない。

     

    住宅ローンなど家計向け融資は、4月が5369億元で、3月よりも29%減になった。企業融資は4月が1兆9016億元。3月よりも24%の減少である。減少幅から見れば、家計向け融資の落込みが大きい。こういう背景もあって、住宅ローン金利が0.2%の引き下げになる。


    『日本経済新聞 電子版』(5月15日付)は、「中国、住宅ローン金利の下限下げ マンション市場低迷で」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会は15日、住宅ローン金利の下限を引き下げると発表した。1軒目を買う人が対象で、これまでより0.%低くした。銀行に金利の引き下げを促し、低迷が続くマンション市場をてこ入れしたい考えだ。1軒目の住宅ローン金利は、期間が同じLPRが下限だった。今後は「LPRより0.%低い水準」が下限となる。LPRは、政府が事実上の政策金利と位置づける金利だ」

     

    住宅は、1世帯1軒が普通である。これが、2軒目3軒目と複数住宅を持つこと自体が、不動産バブルの結果である。住宅は、いずれ経年劣化していくものだ。不動産バブルを前提にして値上りしなければ成り立たない話だ。政府が「勧進元」で不動産バブルを推進したから、2軒目、3軒目という異常な事態を引き起した。

     


    最優遇貸出金利(LPR)は現在、5年物は4.%である。今回の住宅ローン優遇で1軒目は0.2%の引き下げを受けられる。それでも、4.4%である。これで、高額物件の
    500万元(約9500万円)の住宅ローン支払いは、金利だけで月々34.8万円にもなる。20~30代の若者世代に購入可能か疑問である。共稼ぎでも支払いが困難であろう。中国の不動産バブルは崩壊して当然だ。これからの中国経済減速を考えれば、住宅不況は永続するだろう。

     

    (2)「不動産シンクタンクの易居不動産研究院の厳躍進氏によると、500万元(約9500万円)のローンを30年かけて元利均等で返済する場合、0.%の金利低下で毎月の返済額は600元ほど少なくなる。「過去の利下げによる月々の負担軽減額は150元ほどだったので、下限引き下げの効果は大きい」と指摘した」

     

    前のパラグラフで説明したように、中国の住宅価格は高騰し過ぎた。需要減になっても驚くことはない。

     


    (3)「住宅ローンの利回りは最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)の5年物が目安になる。現在の5年物は4.%なので、新たな下限は4.%となるもようだ。なお購入物件が2軒目以降という場合の下限は「LPRより0.%高い水準」で、従来のままだ」

     

    中国で複数住宅を持つことは、これからの人口急減を考えると、余りにも無謀である。住宅が値下がりに転じれば、中国経済は修羅場に陥る。余剰の中古住宅が、一斉に市場へ出てきて価格は急落し、新規住宅販売はストップするだろう。現在、味わっている苦しみ以上のことが起こるだろう。中国経済の行き詰まりは目に見えている。

     

     

     

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    最近の中国による政策は、すべてが空回りしている。習近平氏が鳴り物入りで始めた「一帯一路プロジェクト」は、パキスタンで反政府勢力によってテロ対象になっている。4月26日にカラチ大学で起きた残虐な自爆テロ攻撃が、中国への反抗姿勢を鮮明にした。

     

    自爆テロ攻撃によって、中国政府の教育機関「孔子学院」の院長、中国人スタッフらが犠牲になった。バルチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出している。BLAは、南西部バルチスタン州の分離独立を求めており、中国を標的としている。中国が、同州で港湾都市グワダルを建設すべく多額の投資をしていること自体に反対してきた経緯がある。

     


    グワダルは、人口10万人程度の街である。中国が、ここへ巨大港湾都市を建設して、いずれ中国が海軍基地へ変貌させるのでないかと観測されていた。インドや米国もその動向に注目してきた場所である。中国が、従来の一帯一路プロジェクトと全く異なる「熱意」を見せていたからだ。以下は,『ロイター』(2018年1月3日付)から引用した。

     

    中国はこの港町に、学校を建設し、医師を派遣した。さらに約5億ドルの無償資金協力を通して、新たな空港や病院、大学、そして切実に必要な水道インフラを整備すると約束しているのだ。これは、どう見てもグワダルを中国の「居留地」にする意図を覗わせている。

     

    アラビア海に突き出たグワダルの港は、石油や天然ガスを運搬するタンカーが往来する、世界で最も混雑した航路に面している。中国の無償資金協力には、新国際空港の建設費2億3000万ドルが含まれている。これは、中国が海外で行う支援の中でも、最大級のものだと研究者やパキスタン当局者は指摘する。

     

    「これほど無償資金協力が集中していることに、本当に驚いている」と語るのはシンクタンクのジャーマン・マーシャル・ファンドに所属し、ワシントンで活動する研究者アンドリュー・スモール氏だ。「中国は、これまで援助や無償資金協力をほとんど行わず、それらを実行する場合でも小規模になりがちだった」と指摘する。

     


    中国が、こうした至れり尽くせりの動きをすれば、「グワダルを乗っ取る積もりだろう」と疑われても仕方ない。バルチスタン解放軍(BLA)が、中国を標的にするテロを行なっている裏には、こういう憶測が働いたと見られる。

     

    パキスタン政府は昨年10月、グワダルでの反乱活動が活発なため、一帯一路の中心地をカラチへと移動する計画を立てた。それによると、カラチ港で船舶の係留施設の増設、漁港や640ヘクタールにわたる貿易区域の新設というもの。カラチ港と近くの島を結ぶ橋を建設する構想もある。中国は、35億ドル(約4000億円)の投資見込むという。

     

    一帯一路プロジェクトが、パキスタン南西部のグワダルから、東部のカラチへと変更された。それにも関わらず、バルチスタン解放軍がパキスタン大学で自爆テロを行なったのは、パキスタンにおける中国事業への反対を意味している。パキスタンと中国にとっては、大きな衝撃であろう。

     

    『日本経済新聞』(5月14日付)は、「パキスタンで続く中国標的テロ」と題する記事を掲載した。筆者は、シンガポール S・ラジャラトナム国際研究院 シニアフェロー ラファエロを務めるパントゥッチ氏だ。

     

    パキスタンの新首相に4月、シャバズ・シャリフ氏が就任した。シャリフ氏は就任直後、新政権が中国との協力関係を望んでいる趣旨の発言をした。しかし、4月26日にカラチ大学で起きた残虐な自爆テロ攻撃が友好ムードを打ち砕いた。中国政府の教育機関「孔子学院」の院長、中国人スタッフ2人、パキスタン人の運転手が犠牲になった。バルチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出した。

     

    (1)「南西部バルチスタン州の分離独立を求めるBLAは現在、もっぱら中国を標的としている。中国は、港湾都市グワダルのある同州で多額の投資をしているためだ。バルチスタン州の分離主義者は中国人を標的に、カラチの中国総領事館や証券取引所などを攻撃してきた。2018年にはバルチスタンに向かう中国人技術者が乗ったバスを爆破した。今回の孔子学院への攻撃は一線を越えている。最大の衝撃は、女性による自爆攻撃だったことだ。実行犯の女性は、高学歴の中産階級出身者で、2人の幼い子供がいた。このことはバルチスタン分離の大義が幅広く受け入れられていることを示している」

     

    カラチ大学での自爆テロの犯人は、高学歴の母親である。パキスタンで、中国への非難が高まっている証拠と言える事件だ。

     


    (2)「外部勢力が自らの目的のためにバルチスタンの大義を利用し、テロを支援した可能性もある。より大きな問題は、バルチスタン分離主義へのパキスタン国内の支持が高まっていることだ。武装勢力はますます野心的になっているようにみえる。1月には、東部ラホールの市場の爆弾テロで3人が死亡した。2月には、大規模な武装勢力がバルチスタン州の民兵組織の2つの基地を攻撃した。戦闘で少なくとも20人の過激派と9人のパキスタン人兵士が死亡した」

     

    パキスタンで、広く反中国ムードが広がれば、一帯一路プロジェクトは頓挫するほかない。陰謀論よりも、パキスタンと中国の関係が行き過ぎていることへの警戒信号と読めるのだ。

     

    (3)「孔子学院を標的にすることで、バルチスタンの武装勢力は、パキスタンに居住する数千人の中国人に明確なシグナルを送った。中国人のすべてが標的となっており、パキスタン当局が警護する必要がある人数は大幅に拡大している。攻撃が続けば、中国が自国民をパキスタンへ送るのはますます難しくなるだろう。さらに中国人が繰り返し狙われることで、中国の対パキスタン投資が現地で歓迎されているという神話が崩れる。パキスタンにはより高い透明性と関与が求められる。そうでなければ紛争は飛び火し、最も重要なパートナーである中国との間に問題が生じるだろう」

     

    中国が、周辺国へ見せてきた圧力は、民族主義集団を刺激するに十分なものであったのだろう。中国が仕掛けた「債務の罠」によって、発展途上国を食い物にした。こういう中国の無法な政策が、岐路に来ていると見るべきだ。一帯一路プロジェクトは、危機を迎えている。

     

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    習近平氏はプーチン氏という、思わぬ「伏兵」に足を掬われそうである。2月4日の習近平・プーチン首脳会談は、「限りない友情」を謳い上げたが、その20日後に運命の分かれ目が訪れたのだ。米ロ共同声明で高らかな友好関係を宣言した以上、ロシアのウクライナ侵攻で「ロシア反対」とは口が裂けても言えない立場になってしまった。

     

    「限りない友情」は、習氏の提案による文言という。それだけに、習氏は何とも都合の悪い事態に追い込まれたのである。中国が、ロシアを擁護せざるを得ない立場であることに、共産党内部で不満の声が高まっているという。中国が、これから米国と対立して行く上で、欧州を味方につけておきたかったはずだ。その欧州が、中国のロシア擁護によって「中ロ枢軸」と警戒感を強めている。ロシアの引き起した戦争で、中国まで白眼視されている現状に、党内の不満が鬱積しているのだ。

     


    ロシアが、ウクライナ侵攻で手痛い打撃を受け、戦線が膠着状態から後退局面へ転じる事態になる場合、習近平氏の立場はどうなるのか。共産党内の地位は揺らいで当然であろう。反習近平派が、習氏に反旗を翻す可能性が出てくるであろう。

     

    すでにその兆候はいくつか見られる。本ブログでは、その兆候について最近、いくつか取り上げ報じてきた。

     

    1)ロシア擁護が、引き起した習氏への不満(米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』)

    2)経済急減速に直面し、李首相が経済政策の舵を握り始めている(米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』)

    3)地方政府トップ人事で、3月から李氏が首相を務める中国国務院(政府)の部長(大臣)が栄転する事例が5人中3人に達している。習派は、劣勢である(『時事通信』)

     


    これが、今秋の党大会における習氏の国家主席3期目の人事にどのような影響を与えるかだ。仮に、習氏の国家主席を3期だけに限るという話合いがつけば、どういう事態が起こるかである。一応、頭の体操をしておくべきだろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月26日付)は、「5年限りの習近平続投なら敗北、面従腹背が深刻に」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員である中沢克二氏だ。

     

    (1)「この秋、中国共産党大会で決まる習近平(シー・ジンピン)続投の仕方が重要になる。15年に限る単純な党総書記続投だけで、超長期政権への展望がみえないなら事実上、敗北だ。求心力は衰えてゆく」。中国の政界関係者がささやく。裏にあるのは、2021年11月の党中央委員会第6回全体会議(6中全会)での「第3の歴史決議」採択から2カ月余りたった党内の微妙な雰囲気である。今のところ、多くの関係者らが確実とみているのは「22年党大会での習近平引退はないだろう」ということにすぎないのだ。それ以外の全ては、これから9カ月程度の闘いにかかっている」

     


    昨年11月の6中全会で「第3の歴史決議」が採択された。その後の党内の雰囲気は、微妙に変わっているという。ゼロコロナやウクライナ侵攻など、予期しなかった事態が起こっている。いずれも習氏にとってはマイナス点ばかりだ。

     

    (2)「普通の民主主義国家なら、残る任期が5年もあれば政権は盤石で、レームダック(死に体)化などありえない。だが、外からはうかがい知れない共産党内の権力争いで全てが決まる中国では、この常識が通用しない。5年先のトップが違う人物かもしれないと直感すれば、その瞬間から現トップへの面従腹背が深刻になる。それが中国の政治家、役人、経済界大物らの処世術だ。実際に例がある。07年の党大会で2期目に入った胡錦濤(フー・ジンタオ)指導部は、早くも翌年から内政、外交とも求心力の衰えが目立つようになる。重慶市トップに立った薄熙来(失脚後、無期懲役で収監中)は、政治的な野心を抱いて毛沢東に倣う「紅(あか)い歌」を歌う政治運動に突っ走る」

     

    中国社会は、「人縁社会」である。人間関係が縦軸になって動く社会だ。人は、将来性のある人物に集まって権力を動かすのである。中国の官僚は、マックス・ヴェーバーの指摘した「近代官僚制」でなく、皇帝による「家産官僚制」である。社会発展が未成熟な結果なのだ。

     


    (3)「先のない国家主席、胡錦濤を見くびる動きは、対日外交にまで影響した。それは胡錦濤主導で日本と結んだ東シナ海ガス田合意の不履行だ。日中和解を感じさせた08年の合意は、中国側の一方的な都合で条約交渉が進まず、放置された。原因は、利権が侵されると感じたエネルギー関連の国有企業や官僚、そして軍による面従腹背だった。胡錦濤が手を焼いた内政、外交で中央の権威に挑戦する動きは、08年夏の北京五輪をはさんで一層、激化してゆく。もし12年党大会後もトップとして君臨するなら、抵抗勢力をねじ伏せることもできた。だが既にその力は失われていた」

     

    東シナ海ガス田合意の破棄は、人民解放軍と国有石油会社の陰謀によって引き起されたものだ。彼らによって、利益を山分けしたのが真相である。こういう中国を相手にした条約交渉は不可能である。

     


    (4)「当時、最高指導部メンバーだった習近平は経緯を十分、知っている。レームダック化の怖さがわかるからこそ、超長期政権へのこだわりがある。習は、できることなら終身のトップをめざしたい。例えば、建国の父である毛沢東の地位だった党主席(党中央委員会主席)である。しかし、この地位を秋の党大会で勝ち取るには、毛沢東並みの確固たる実績が必要だ。3の歴史決議の文面上は、改革開放政策で中国を経済成長に導いた鄧小平の地位に迫り、追い越す勢いがある。ただ、党内の誰もがその内容に納得するには至っていない

     

    習氏が、鄧小平を抜くほどの実績を上げていないことは常識だ。ゼロコロナのもたらした大混乱と、プーチン擁護で欧米を敵に回した損失は計り知れない。こう見てくると、習氏の国家主席3期目は、すんなり決まりそうにない情勢のようだ。

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    中国のロックダウン(都市封鎖)は厳格を極めている。1人でも陽性反応者が出ると、すぐに消毒開始と接触者の隔離が始まる。やがて地域全体が封鎖される事態に陥り、「陸の孤島」になる。何とも、非合理的な防疫対策かと呆れるほかない。WHO(世界保健機関)も、見放しているほどだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月13日付)は、「中国都市封鎖、Apple1兆円減収予想も 先行き見えず」と題する記事を掲載した。

     

    中国が新型コロナウイルスの感染防止対策で講じた都市封鎖(ロックダウン)の影響が、米アップルの経営を直撃している。製品の大半が台湾企業の中国工場で生産されるためだ。4月からの工場停止で既に新製品の出荷が2カ月遅れる影響が出始めた。アップルは46月期に最大1兆円の減収影響を見込む。当局の規制は長引いており、中国経済を含めて影響が一段と広がる可能性がある。

     


    (1)「世界で販売されるアップル製品は現在、9割以上が中国で生産されている。生産委託先も限られ、台湾の電子機器の受託製造サービス(EMS)企業が大半を請け負う。具体的には、鴻海(ホンハイ)精密工業、和碩聯合科技(ペガトロン)、仁宝電脳工業(コンパル)、広達電脳(クアンタ)、緯創資通(ウィストロン)の台湾企業5社だ。このわずか5社が、全世界で販売されるアップルの主力製品のスマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad(アイパッド)」、ノートPCMacBook(マックブック)」を毎年ほぼ全量受注し、大半を中国工場で生産する。5社合計の中国での年間売上高は30兆円を超え、雇用は100万人規模になる」

     

    アップル製品の9割以上は、中国で生産されている。人件費が安いからだ。人件費が安ことは、それだけ社会全体が未成熟であり防疫体制が劣っているという意味であろう。これまで、気付かなかった中国の抱える潜在的な社会コストが現在、コロナで一挙に顕在化した。そう理解すれば、起こるべくして起こった事態と言える。

     


    アップルの生産下請け企業は5社である。その年間売上高は30兆円を超え、雇用は100万人規模になるという。中国経済を揺さぶる規模になっている。アップルにとっても、中国のロックダウンは大変な損害である。

     

    (2)「5社が生産する中国の地域も限られている。最大拠点が中国内陸部、河南省の「鄭州」。次に生産が集中するのが沿岸部の「上海・昆山」と「深圳」。この3地域だけで、世界のアップル製品の約8割が生産されているのが現状だ。そのため、5社が工場を持つ中国3地域で問題が起きれば、アップル製品の世界出荷に直ちに影響が出る構図になっている。今回、その3カ所全てで中国当局によるロックダウン措置が順次襲い、「アップルの生命線」が突かれた。特に深刻なのは、上海・昆山地区。上海でのロックダウンは3月末から既に40日間以上が経過したが、いまだ全面解除の見通しは立たず、アップル製品の出荷を直撃している」

     

    アップル製品が生産されている地域は、河南省の「鄭州」、沿岸部の「上海・昆山」と「深圳」の3地域でアップル製品の8割が生産されている。皮肉なことに、上海・昆山はロックダウン中である。鄭州市でも、新型コロナウイルス感染者の報告が相次いでいる。鄭州市新型コロナウイス疾病予防コントロールセンターは53日から移動制限を始めた。こうして、アップルは、次々と工場閉鎖の危機に遭遇している。

     


    (3)「特に2021年10月に発売した、人気の主力ノートパソコン「MacBook Pro」は厳しい。台湾のクアンタが上海工場で多くを生産するが、4月初旬から約4万人が働く同工場の稼働が緊急停止している。その結果、同パソコンの納期は日米などの主要国で7月上旬メドと2カ月先となった。アップルにとって、販売好調以外で新製品の納期が2カ月もかかるのは異例だ。もともと半導体不足の影響で納期が遅れがちだったが、中国の都市封鎖がさらに追い打ちをかけた形だ。クアンタの梁次震・副董事長は4月末、「工場の復旧率は4月末で3割。近く5割以上に回復させたい」と述べたが、全面再開のめどはいまだ立たない。同社全体の4月の売上高は前年同月比21%減となり、今年3月に比べて生産は半減した

     

    人気の主力ノートパソコン「MacBook Pro」も都市封鎖の被害を受けている。納期は、7月上旬メドと2カ月先と遅れている。アップル全体の4月売上高は前年比21%減に沈んだ。新製品の寄与が遅れるので、落込み幅は大きくなろう。

     


    (4)「アップル製品最大の生産拠点がある鄭州市でも5月に入り、事実上のロックダウンが始まった。当初は4日から1週間の予定だったが、11日以降も厳しい移動制限が続く。鄭州市には鴻海が最大工場を構え、現段階では正常な稼働を強調するが、予断を許さない状況だ。
    こうした点からアップルは4月末、「4~6月期に40億~80億ドル(約5100億~1兆円)の売り上げ機会を逃す可能性がある」(ルカ・マエストリ最高財務責任者)との見方を示した。ただ足元でも中国当局による行動制限は北京など各地で広がり、さらなる経営への影響が予想される」

     

    アップルは4月末に、「4~6月期に最大1兆円の売り上げ減」になるという。河南省の鄭州市もコロナ感染に脅かされている。さらなる売上減少に見舞われそうである。

     

    (5)「中国ではアップルに並び、独フォルクスワーゲン(VW)と米ゼネラル・モーターズ(GM)などが大手の外資メーカーとして存在感を放つ。だが、両社は中国以外にも多くの工場を構えてリスク分散を進めており、アップルとは事情が異なる。今後も、生産・販売ともに中国への依存度が高いアップルの経営は厳しそうだ」

     

    アップルの中国生産集中は、改めてリスクの大きさを示している。アップルは、インドで生産する計画を持っているが、とても中国リスクをカバーできる状況ではない。

     


    (6)「
    習近平(シー・ジンピン)指導部は今秋、5年に1度の重要会議となる党大会を控え、「ゼロコロナ」政策を徹底する構え。中国経済に詳しいみずほ銀行の湯進・主任研究員も「中国政府は今後も、ゼロコロナ政策やロックダウンは簡単には止められない事情がある」と指摘する。中国では60歳以上の高齢者が2億7000万人にのぼり、なかには基礎疾患を抱える人も多い。「そんな高齢者が多く住む中国の地方の医療水準は非常に低い。上海などの都市部でコロナ感染をしっかり食い止められず地方に感染が拡大すれば、一気に重症者が増え、容易に中国の医療体制は崩壊することを政府は認識している。だから今後もゼロコロナ政策をとる」と湯氏は指摘する」

     

    中国が、ゼロコロナを解除できない理由は、次の点にある。基礎疾患の多い高齢者が2億7000万人もいること。診療体制が不備であることを考えれば、ロックダウンはこれからも続けるだろうと悲観的である。中国経済のダメージは続く。

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    日本は戦後77年、戦争に巻き込まれる危険もなく過ごしてきたが、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、改めてアジアでも起こり得ることを示唆している。ウクライナ侵攻するロシアに対して、中国が反対を表明せずに精神的支援を送っていることは、台湾や尖閣諸島に対しても軍事行動を起す危険性を示しているからだ。

     

    こういう視点でウクライナ侵攻を見直すと、日本にも潜在的な軍事危機が迫っていることを否応なく認識させられる。ウクライナ軍が、NATO(北大西洋条約機構)諸国の軍事支援によって、当初の劣勢を盛り返している事実が、日本に対して同盟の必要性を改めて認識させてくれるであろう。

     


    『毎日新聞』(5月11日付)は、「ウクライナ戦争の教訓を日本は今後に生かせるか」と題する寄稿を掲載した。筆者は、元外交官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中均氏である。小泉首相が、訪朝したときの「裏方」役を果たしたことで知られている。

     

    (1)「ロシアと中国に相似性はないか。習近平総書記の掲げる「中国の夢」は「大ロシア主義」をほうふつとさせる側面がある。中華人民共和国建国100周年の2049年までに米国と並ぶ強国となること、アヘン戦争や日清戦争の屈辱を晴らし領土の一体性を取り戻すことが「中国の夢」の本質だろう。しかし米国と並ぶ強国となるための必須の要件は高い経済成長を続けることであり、国際社会との相互依存関係を切ってこれを実現するのは至難の業だろうし、今日、他国に対して軍事的に行動する必然性に欠ける」

     

    プーチン氏は、「大ロシア主義」を唱えている。習氏は、「中国の夢」を掲げる。政治体制も権威主義であり、似通った体質である。さらに、米国対抗という共通目標がある。ざっくり言えば、すでに米国への対抗で共同戦線を張っていることは間違いない。ロシアが、そのお先棒を担いでいると見えるのだ。現実には、その思惑は大きく外れた。

     

    (2)「従って、中国が主権国家に対して軍事的侵略を企図するとは考えにくい。ただ、中国領土の一体性を唱え、香港、新疆ウイグル自治区、台湾、そして尖閣列島の問題にどう行動するかは懸案事項だ。香港、新疆ウイグルについては人権問題との関連で他国の批判を受けても「中国化」を強行していくように思う。台湾は潜在的には中国の武力統一の対象だ。もし台湾が明確に独立の方向にかじを切る時、中国は軍事的行動を辞さないとする。台湾は米国の同盟国ではないが米国は国内法である「台湾関係法」で台湾への武器輸出などを行い台湾防衛に資するとともに、中国の軍事的行動の際にはしかるべき行動をとることを明確にしている」

     

    中国が、今後の急速な人口減少社会への移行を冷静に考えれば、戦争行為へ走る経済的なゆとりはない。専制政治では、かつての日本がそうであったように、「一か八か」の戦争を始める潜在的な危険性を抱えている。今回のロシアがその典型例である。衆知を集めた上での開戦でない。ごく少数(数人程度)の密議で「ゴー」サインを出して、取り返しのつかない結果になった。中国も同じ政治体質だけに、開戦する潜在的危険性を持っている。

     


    (3)「軍事介入をするとも、しないとも言わない「曖昧戦略」だ。台湾当局も「現状維持」を守る姿勢を保っているが、ウクライナがNATO加盟に大きく傾いていったように、台湾が独立の意思を明確にしていく時、中国はどうするのか、米国はどうするのだろうか。米国が軍事介入しないとなれば米国のアジアにおける立場は大きく損なわれることになる。アジアのほとんどの諸国は中国を最大の経済パートナーとしており、欧州のロシアとは大きく異なる存在感を中国はアジアで有している。台湾問題を軍事的に決着させようというシナリオはアジアの未来を変える」

     

    米国務省は、5月5日ごろにHPの台湾に関する概要を更新した。それによると、これまで記載されていた「台湾の独立を支持しない」「台湾は中国の一部だ」などの文言が消えた。代わりに「台湾はインド太平洋における重要な米国のパートナーだ」との文言が加わった。台湾への武器売却について、中国と事前協議しないことなどを定めた「6項目保証」にも新たに触れ、自衛力の強化を後押しする立場を印象づけた。『日本経済新聞』(5月12日付)が報じた。米国は、間接的に台湾防衛を支援する姿勢を滲ませている。

     


    (4)「尖閣諸島については、日本が施政権を行使する地域であり、日米安保条約の対象であることはこれまで日米両国が明確にしてきた。ちゅうちょする米国に日本政府が説得を続けた結果だ。従って、もし軍事的侵攻を企てれば日米との戦争になることは中国も認識しなければならない」

     

    中国が、尖閣諸島へ侵攻すれば、日米と戦うことになる。これは既定路線だ。

     

    (5)「ロシアにとってのウクライナ問題と、中国にとっての台湾問題などを取り囲む地政学的状況は異なる。ただ日本にとって最大のリスクは、ロシアと中国が連帯を強め米国を中心とする西側に対峙(たいじ)していくシナリオだ。ロシアの軍事力と豊富なエネルギーが中国の経済力に結びついた時の国際的影響力は強大なものとなる。アジアの多くの国々は経済的利益を重視するだろうし、日米の側につくことを当然視することはできない」

     

    中国は、ロシア製武器に依存している。そのロシア製武器は、西側諸国の部品に頼っている。よって、経済制裁が続く限りにおいて中ロが、西側と対峙するリスクは低くなる。すでに、ウクライナ侵攻でロシア製武器は、家電(冷蔵庫や洗濯機)からの部品を取り外し転用している窮状が窺えるという。経済制裁が、効いているのだ。

     

    (6)「日米の総計としての軍事能力は、露中を超えるのだろう。日米が強い同盟関係を維持することができれば対露、対中抑止力は維持できるだろう。しかし重要なことは、ロシアのウクライナ侵攻から見えてくる通り、関係国の行動の集積の結果が今日の事態に至っているということだ。中国やロシアにどう向き合っていくのか、「外交の力」が大きな意味を持つ

     

    下線のように「外交の力」が、戦争を未然に防ぐ役割をする。西側は、軍備を蓄えると同時に、中ロと話合うことも欠かせない。中ロに幻想を持たせないことだ。今回のウクライナ侵攻は、ロシアの幻想がもたらした悲劇である。

     

     

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