勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    世界の工場と言われてきた中国に異変が起こっている。海外の製造業が、続々と工場を閉鎖しているからだ。海外製造業が、中国で直接雇用する労働力だけで4500万人と言われている。間接雇用を含めれば2億人にも達する。それだけに失業問題が深刻化している。

     

    『朝鮮日報』(2月1日付)は、「止まらない製造業の脱中国」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。

     

    新年が始まるとすぐ、中国国内の外資系企業による撤退ラッシュが始まりました。世界トップのカメラメーカーであるキヤノンが1月12日、広東省珠海市のカメラ工場の撤退を発表しました。

     

    (1)「キヤノン珠海工場はデジタルカメラ、ビデオカメラ、レンズ、イメージセンサーなどを生産しており、キヤノンの3大海外生産基地の一つです。珠海市内に20万平方メートルの敷地を持つ大規模工場です。一時は1万人を超える従業員が年間13億ドル(約1480億円)の売上高を上げていましたが、現在は従業員数が1000人に満たないそうです」

     

    (2)「最大の理由は、やはりカメラ市場の不振だったでしょう。この工場はスマートフォンの普及で市場が大幅に縮小したコンパクトデジタルカメラを主に生産していたという。キヤノン製品が新疆ウイグル自治区やチベット自治区の少数民族の監視や弾圧に利用されたという指摘が出て、米日政府による撤退圧力もあったといいます」

     

    キヤノンは、自社の3大海外生産基地の一つである珠海カメラ工場を1月12日、閉鎖すると発表した。キヤノン製品が、新疆ウイグル自治区やチベット自治区の少数民族の監視や弾圧に利用されたという指摘が出て、日米政府による撤退圧力があったとも言われている。

     


    (3)「2018年から貿易戦争の始まりで米中の体制競争が本格化し、中国国内の外資系企業は米国発の関税爆弾に直面することになりました。19年には武漢を発端とする新型コロナで中国国内の生産拠点の稼働が中断し、部品調達などに支障が生じました。生産拠点を中国に集中させてきた主要国が生産基盤の一部をインド、東南アジア、メキシコなどにシフトする世界的なサプライチェーン調整が始まりました」

     

    2018年の米中貿易戦争、19年には武漢を感染地とする新型コロナウイルスの蔓延化など、中国を取り巻く状況は厳しくなっている。こうして、生産基地としての中国の役割が再検討され、ASEAN(東南アジア諸国連合)などへの工場移転が始まった。

     

    (4)「脱中国の元祖は、香港の企業経営者たちでした。習近平国家主席が政権を握って以降、中国共産党がこれまでの改革開放路線から離れ、左傾すると最初に判断したのです。香港で最も富豪である李嘉誠・長江和記実業(CKハチソンホールディングス)元会長は2013年から17年まで韓国ウォン換算で17兆ウォン(約1兆6200億円)を超える中国・香港地域の資産を全て処分し、欧州に投資しました。他の香港の財閥も李嘉誠に追随しました。18年に米中貿易戦争が勃発して以降は、韓国、米国、日本、台湾の企業が相次いで東南アジアなどに生産基盤を移しました」

     


    香港で最大富豪とされる李嘉誠氏は、第二次世界大戦後に「香港フラワー」の輸出で巨万の富を築いた人物である。中国本土でも共産党幹部との親交を手がかりに手広く事業を展開した。その李氏が2013年から、突然の方向転換で中国・香港の全事業を売却(終了は2019年)して欧州へ投資したのだ。この離れ技は、見事というほかない。習近平氏の強権体質をいち早く嗅ぎ取ったのだろう。それにしても、地政学的感覚は世界一と言える。

     

    (5)「サムスン電子は19年から20年にかけ、恵州のスマートフォン工場、蘇州の液晶パネル工場とパソコン工場などを閉鎖。昨年にはサムスン重工業が寧波工場を閉鎖しました。ソニー、東芝なども中国工場を閉鎖し、タイなどに生産設備を移しました。米国もスポートウエアのアンダーアーマー、電動工具メーカーのスタンレー・ブラック&デッカーなどが米本土、ベトナム、インドネシアなどに生産拠点をシフトしました。台湾企業による脱中国の動きも加速しています。昨年、台湾企業の対中国直接投資は15%近く減少したといいます。中国にある工場を撤収し、米国、インド、ベトナムなどに生産基盤を移しています」

     

    サムスン、東芝などのIT関連企業が中国工場を閉鎖している。米国のスポーツウエア企業もASEANへ移転した、台湾企業も追随している。人件費アップが大きな理由だ。

     


    (6)「
    その中でも100万人を超える人を雇用してきた世界最大の電子機器受託生産メーカー、フォックスコン(鴻海科技集団)の離脱は中国にとって痛い出来事です。フォックスコンはそれぞれ数十億ドルを投資し、米国、インド、ベトナム、メキシコに生産拠点を建設しているか建設を計画中です。フォックスコンは20年時点で中国の輸出額の4.1%を占めていた企業であり、雇用だけでなく、中国の輸出にも大きな打撃が予想されます」

     

    台湾企業の鴻海(ホンハイ)は、中国で100万人も雇用してきた。それが、米国、インド、ベトナム、メキシコへ生産拠点を移している。中国にとっては、輸出減・雇用減で最大の痛手であろう。

     

    (7)「中国は、依然として世界最大の製造業国家であり、広大な内需市場を持っています。外資系企業が短期間に中国市場の市場とサプライチェーンを放棄することはないはずです。しかし、脱中国の流れは今後加速する見通しです。毛沢東時代に戻りつつある国でビジネスをするのは不安だからです。李克強首相は20年6月、国務院常務会議で2億人の雇用が懸かった対外貿易分野の企業がコロナによる経営難に陥らないように支援することを指示しました。党内の改革派が、脱中国問題に苦労していることを物語る事例と言えるでしょう。中国国内の外資系企業は、直接雇用規模だけで4500万人に達するとされ、下請け企業まで含めれば、その数はさらに巨大なものになります」

     

    中国では、雇用問題が悩みである。都市労働者だけで5%を上回る失業率(実際は、これよりも高い)である。GDP成長率が、6%以上でなければ失業問題を解決できない状況にあるのだ。

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    中国から、台湾を武力解放するという勇ましい発言が後を絶たない。最新の発言では、「2027年」までに行なうと期限を切ってきた。暴力団が、殴り込み時間を予告するようなものだ。

     

    中国側の言分を聞いていると、武器弾薬で米国を上回っているから、いつでも台湾を武力解放できるというのだ。こういう発言をする者は、戦争の本質を知らない「素人談議」である。中国は、「同盟の戦力」を理解できない単細胞である。「海軍力」と「海洋力」を混同しているのだ。「海軍力」とは、その国の持っている艦船数など。「海洋力」とは、「海軍力」を上回る上位概念であり、同盟国の総合戦力である。

     

    中国が、台湾侵攻に踏み切れば、台湾の軍事力に加え、日米英豪の海軍が結集することは火を見るより明らか。これに、仏海軍も加わるであろう。ドイツ海軍は不明である。中国へ義理立てして当初、様子を見ているかも知れない。勝敗の帰趨がはっきりしたとき、ドイツ海軍は遅れて加わるであろう。もしそうであれば、ドイツの信用はガタ落ちである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月31日付)は、「『27年までに台湾武力統一も』 中国人民大・金燦栄教授」と題する記事を掲載した。

     

    米中関係を専門とする中国人民大学の金燦栄教授は日本経済新聞の取材で、習近平指導部が2027年までに台湾の武力統一に動くとの見方を示した。台湾有事では中国人民解放軍がすでに米軍を上回る戦力を保持していると指摘した。金氏は習指導部の外交政策に助言する学者の一人とされる。タカ派の論客としても知られ、インターネットを中心に活発に発信している。

     


    (1)「習指導部は台湾統一を目標に掲げるが、時期は示していない。金氏は「22年秋の共産党大会が終われば、武力統一のシナリオが現実味を増す。解放軍の建軍から100年となる27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調した。米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官も21年3月、米上院軍事委員会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と述べた」

     

    クイズ番組のように、台湾侵攻への「時期」を当てることが流行っている。最も大事なことは、そのときの中国経済の置かれている状況である。中国が、台湾侵攻に踏み切れば短期で終わることはない。西側諸国は、民主主義防衛という大義によって結集するはずだ。香港に見る言論と人権弾圧の暴挙を、再び見過ごしできないからだ。まさに西側の「海洋力」が、中国の「海軍力」を圧倒するまで戦端を閉じることはないであろう。

     

    中国経済が、西側諸国の経済封鎖に耐えられるだろうか。食糧不足、エネルギー不足、国内の失業者群が不穏な動きに出ないだろうか。反習近平派が、好機と見て打倒に動き出す懸念もある。習近平氏が開戦を決意するには、自らの「生命」を賭けた戦争になろう。

     

    (2)「台湾有事では米軍が介入するかどうかが一つの焦点となる。金氏は「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」と主張し、「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と説いた。解放軍は中国近海に米軍艦艇を寄せつけない戦略をとっており、中国近海での対米国のミサイル攻撃力を磨いていることなどが念頭にあるとみられる」

     

    ここでは、日米海軍の潜水艦部隊の威力を完全に忘れている。もう一つ、中国は近代戦で勝った経験のない軍隊である。世界一の米海軍と対峙したとき、中国海軍は身体に震えは来ないだろうか。それが、戦勝経験のない軍隊の弱点である。

     


    (3)「
    日本では「台湾有事は日本有事」(安倍晋三元首相)との声がある。金氏は「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない。この問題で米国はすでに中国に勝つことはできない。日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない。新しい変化が起きていることに気づくべきだ」と語った。台湾の和平統一については「民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の下では難しい。24年の総統選で国民党の候補者が勝てば中台関係は改善するが、国民党は支持を得ていない」と非現実的との考えを示した。台湾の対応については「唯一できることは早く中国大陸と話し合うことだ。時間がたつほど台湾に不利になる」と統一に向けた協議を呼びかけた」

     

    下線部分のように、中国の最も恐れているのが自衛隊とされている。旧日本軍の歴史を引継ぎ、日中戦争では中国軍が山中深く追い込まれた戦史を持つからだ。これは、決して褒められたことでなく自慢もできないが、中国軍にとって自衛隊は「苦手意識」を持つ相手である。日清戦争では、中国艦船が戦わずして戦場を離脱したケースがあった。

     


    (4)「金氏は22年の米中関係について「21年より難しい一年になる。中国は秋に党大会があり、米国も11月に中間選挙を控える。極めて重要な政治日程で、対抗意識が鮮明に出やすい」と語った。台湾も11月に統一地方選挙がある。金氏は「選挙中は中国が批判対象となりうる。それが中米関係にも影響する」と分析した。日中は22年、国交正常化から50年を迎える。金氏は「中国政府は50周年の節目の関係安定を望んでいる。だが、台湾問題への安倍元首相の発言を含め、日本の保守化が進みすぎており、難しい局面にある」と話した」

     

    中国は、アジアの地域覇権を握れないとする見方がある。それは、日本の存在が障害になるからだ。日本が、中国と戦って戦前のような「八紘一宇」という神がかった事態を招くという意味でない。中国が、日本を無視して地域覇権国にのし上がれないことだ。日本を屈服させることはあり得ないという前提である。中国は、日本の存在に最大限の注意を払わざるをえない立場である。日本は、米中を繋ぐ貴重なパイプなのだ。 

     

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    現代自動車は2012年、中国市場で第3位のシェアを得ていた時代がある。それが、21年には12位へと大きく後退した。トヨタとホンダは、順調にシェア・アップに成功。昨年、トヨタは3位、ホンダが4位と健闘している。

     

    何が、日韓自動車の明暗を分けたのか。中古車価格の違いが、理由になっている。ソナタ(現代自)の車齢3年の価格は、新車の50%。トヨタカムリは78%、ホンダアコードは75%である。これだけの差があれば、中国の消費者は、日本車を選んで当然であろう。

     

    『朝鮮日報』(1月31日付)は、「中国自動車市場、THAAD以降12位に沈んだ現代自 尖閣紛争があっても3位のトヨタ」と題する記事を掲載した。

     

    昨年、中国で現代・起亜自動車の販売台数は53万台で、シェアは2.7%にとどまった。2009年に中国市場全体で2位にまで躍進した現代自は昨年、12位まで後退した。現代自グループが滑り落ちる間、日本のトヨタはフォルクスワーゲン、ゼネラル・モーターズ(GM)に次ぐ3位に浮上した。16年の4.5%(7位)だったシェアが昨年には約2倍の8.4%まで上昇した。同じ期間にホンダもシェアが5.4%から7.8%に伸び、4位に入った。

     

    (1)「中国人の反日感情は植民地支配など歴史的問題で反韓感情よりも根深いとされている。日本の自動車メーカーは12年、尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡る領有権争いで韓国に対する「THAAD報復」と似た政治的報復を受けた。しかし、その後の中国市場で現代自がどんどん押される一方、日本車が進撃できたのがなぜか。専門家は「THAAD問題だけでなく、結局は製品の競争力と戦略で負けたのだ」と分析した」

     


    中国車は過去、価格が安いだけと認識されていたが、今や性能を向上させ、コストパフォーマンスを備えたと評価されるようになった。所得水準が上昇して急成長した中国のスポーツタイプ多目的車(SUV)市場では、中国の現地メーカーが先行して新車を投入するなど、積極的に対応している。現代自は、こういう面で立遅れた。それに、「日独車」は高級車というイメージが出来上がっているが、現代自にはこういうイメージから脱落しており、国産車と正面から競争せざるを得ないと悩みを抱えている。

     

    (2)「中古車価格が安いことも、消費者が現代自にそっぽを向く理由だ。ソナタの車齢3年の中古車は価格が新車の50%だが、トヨタカムリは78%、ホンダアコードは75%だ。現代自に精通した関係者は「中国で現代車は発売から半年が過ぎると値引き販売されるという認識が固まっている」と話した。また、現代自が当初掌握していた中低価格車の市場は中国の現地ブランドに食われている。現地ブランド首位の吉利汽車は「帝豪」という準中型セダンをエラントラ(現代自)よりも500万ウォン以上安い1310万~1670万ウォンで販売している。帝豪は洗練されたデザインと高級感ある内装、中国人が常用する地図アプリを搭載し、準中型セダンのトップ10入りを果たした」

     

    現代車は、韓国の部品メーカーと一緒に中国へ進出した関係もあり、部品コストが現地企業より約3割も割高になっているという。これが、価格戦略にブレーキとなっている。さらに、中古車価格が日本車に比べて4分の1も安いことがマイナス要因になっている。

     


    (3)「韓国部品メーカーは、現代自だけに依存したので競争力が低下し、現代自の部品調達コストもトヨタやホンダなど競合各社より割高になった。竜仁大中国経営研究所長を務める朴勝賛(パク・スンチャン)教授は、「現代自は後から現地部品メーカーからの調達を増やしたが、現地部品メーカーは中国メーカーへの納品価格より30%割高で供給したと聞いている。現代自は中国メーカーほど安く車を作ることができなかった」と指摘した。中国経済金融研究所の全炳瑞(チョン・ビョンソ)所長は、「現代自は中国の1人当たり国民総生産(GDP)が5000~6000ドル水準だった当時は順調だった。しかし、1万ドル(19年)を超えた時代に対応する新たな戦略がなかった」と分析し」

     

    下線部は手厳しい批判である。2012年当時の中国市場感覚で、車づくりをしてきた欠陥を突かれた感じだ。現代車は、中国を撤退しインドネシアでEV(電気自動車)専門工場を築こうとしている。インドネシアは、日本車のメッカである。そこで、日本車との直接的な競合を避け、EVに特化して生残りを図ろうとしている。

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    中国恒大集団は、もはや経営再建が不可能であり「終戦処理」を急いでいる。最終的には、国有不動産企業が買収する説も流れているほどだ。こうした中で、中国は恒大集団の国内債権者を重視する一方、海外債権者を無視する動きをみせている。これが、現実のものとなれば、中国企業の信頼性に大きな傷がつき今後、海外投資家から敬遠されるだろう。中国の身勝手な振る舞いが、自分の首を締めるのだ。

     

    中国恒大集団の海外株主グループは1月20日、同社が実行可能な再建計画の策定を目指すと繰り返してきたが、海外債権者と実質的な交渉を行っていないと指摘した。同グループは、強制措置を真剣に検討する以外の選択肢はなく、法的権利を守るために必要なあらゆる行動を取る用意があるとの声明を発表した。

     

    具体的には、破産申し立てである。この事態になると、全債権者は平等な権利が保証され、現在行なわれている「国内債権者優先」は認められなくなる。これに驚いた中国恒大集団は、海外債権者との話合いの応じるとしているが、ただの時間稼ぎという側面も見え隠れしている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月31日付)は、「中国では『二級市民』?外国人投資家はご用心」と題する記事を掲載した。

     

    経営危機に陥っている中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の資産を巡る争いが熱を帯びてきた。ほとぼりが冷めた時に誰が生き残っているかは、投資先としての中国の将来を決定づけるだろう。

     

    (1)「香港市場に上場する恒大集団はすでにオフショア債券の一部についてデフォルト(債務不履行)に陥っており、債券は額面を大きく割り込んだ水準で取引されている。だが、ここ1週間には二つの重要な出来事が起こった。まずは、オフショア(海外)債の保有者が法的措置をちらつかせる書簡を送ったことを受け、恒大が26日、今後半年以内に「暫定的な再編計画」の公表を目指すと発表したことだ。二つ目は米オークツリー・キャピタルが香港にある推定10億ドル(約1150億円)相当の恒大の不動産について、有担保融資がデフォルトしたことを理由にその大半を差し押さえに動いたとの英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』報道だ。この不動産は恒大のオフショア債の再編で重要な役割を果たす可能性があった。FTによると、オークツリーはこれとは別に、恒大の国内大型プロジェクトに絡み、有担保融資を行っている」

     

    海外債権者でも、有担保融資はデフォルト同時に担保の処分によって債権の回収を行える。だが無担保債は、企業の経営力を信じるというだけ。債権回収に当っては、不確実性が壁になるのだ。同じ海外債権者でも、有担保と無担保ではこのように債権回収で大きな差が生まれる。

     


    (2)「一方で、恒大はオンショア(国内)債券については、本土の債権者――最終的には当局から何らかの支援が得られると見込んでいる可能性がある――との協議により、厳密な意味でのデフォルトを免れた。そのため、事業継続に資金が振り向けられ、恒大は引き続き仕掛かり物件の完工に充てている。その結果、オークツリーのような有担保の外国人債権者も回収に入り、恒大集団の正式な再編案が届く頃には、争うものが何も残っていない状況に陥るリスクが高まる」

     

    結局、無担保債権者が経営危機時に、最も酷い扱いを受ける。恒大集団のケースでも、現実にはその方向にあるようだ。中国企業が今後、ドル債を発行したくても恒大集団の「踏倒し」が壁になって、海外での資金調達が困難になろう。現在は、その瀬戸際にある。

     

    (3)「そもそも、オフショア債保有者の悲劇は自ら招いたところがあるのも事実だ。格付け会社ムーディーズによると、子会社に認められる借り入れ規模の上限や配当支払いの抑制といった恒大債の債務条項は、過去10年に著しく弱められた。しかも、極めて借金が多く、オンショア資産の大半が本土子会社の下に置かれている恒大のような会社の無担保債券を保有することは常に多大なリスクを伴う。とはいえ、恒大のオフショア債権者が厳しい仕打ちに遭えば、投資先としての中国の評価が突出してひどいことは否定し難くなる。過去1年に米市場に上場する教育サービス、ネットテクノロジー関連の中国企業の株主が経験したことを踏まえればなおさらだ」

     

    中国政府は、海外企業との契約不履行をなんら気にしていない驚くべき錯誤がある。最近の事例では、カナダと結んだ新型コロナウイルスのワクチン共同研究による「製品」ができても、カナダへの輸送を認めないという契約違反を冒している。

     

    海外債権者の無担保債について、国内債権者よりも不利な扱いをすれば、今後のドル債発行に大きな障害となる。そればが、中国経済の成長の芽を摘むことになるのだ。

     

    (4)「中国の一般企業および、地方政府傘下の投資会社の双方にとって、重要な資金調達源だった中国のドル建て社債に対する需要は、深刻かつ恒久的な打撃を受ける恐れがある。オークツリーが中国の裁判所を通じて恒大の本土プロジェクトについても追及し、失敗したとすれば、外国人にとってのビジネス環境全般が痛烈に非難されることになるだろう。しかしながら、中国の借り手や債券投資家は今のところ、少なくとも不動産を除けば、外国人の扱いに対する代償を払っていないようにみえる。これでは外国人投資家の多くが激怒しているのも無理はない」

     

    中国経済自体が、急減速に直面している。今後の中国経済の動向を考えれば、海外投資家との関係を良好に保つことが不可欠である。その命綱を、自ら目先の損得計算で断ち切れば、自沈速度を早めるだけだ。

     

     

     

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    北京冬季五輪(2月4~20日)の開幕が今週となった。米国では今回、国際オリンピック委員会(IOC)や米オリンピック委員会(UOC)などの公式スポンサー企業約20社はいずれも異例なまでに影をひそめているという。米国のテレビ視聴者は開幕日どころか、開催地が中国であることすら忘れている様子である。1月26日までに放映が始まった関係広告はわずか2本。どちらも開催国に触れておらず、選手に焦点を絞った内容だという。

     

    北京冬季五輪は海外で不人気でも、中国政府は、北京冬季五輪をきっかけにウインタースポーツの振興を図ろうと躍起になっている。国内経済を振興させる目的だ。この波に乗ろうと、日本のスポーツ関連製品メーカーは売り込みに躍起である。

     


    『日本経済新聞 電子版』(1月26日付)は、「
    北京五輪で輝く日本の技 ミズノやデサントのウエア」と題する記事を掲載した。

     

    24日に開幕する北京冬季五輪で日本の技術がアスリートの活躍を支える。関西にはミズノなどスポーツ用品大手のほか、独自の強みを持つ中小企業も集積する。新型コロナウイルスの感染防止対策など課題はあるものの、五輪でブランドをアピールし、成長の期待できる中国のウインタースポーツ需要を取り込む。

     

    (1)「白い生地を彩る赤と黒のストライプ。デサントのアルペンスキーウエアは派手なデザインに目を奪われるが、よく見ると、表面に縦の溝が入っている。「イルカの皮膚をヒントに開発した」と企画担当の宮下征樹氏は話す。斜面を高速で滑るアルペンスキーは空気抵抗を受けやすい。デサントは、イルカが泳ぐ際、皮膚が凸凹に変化して、水の抵抗を減らすことに着目。筋肉の動きにあわせて凸凹が浮き出る素材を開発した。日本代表のほか、強豪のスイス代表が着用する」

     


    スポーツウエアでは、北京五輪で中国スポーツメーカーの製品が注目され以後、トップメーカーへ急成長した例がある。TVによる宣伝効果は抜群であるだけに、冬季五輪でも同様の期待が掛かっている。

     

    (2)「ミズノも素材にこだわる。スピードスケートのウエアはニットにウレタンフィルムを貼り付けた伸びにくい素材を使う。前傾姿勢を保ちやすく、空気抵抗を減らせる。北京五輪モデルはニットの新素材を採用し、前回の平昌大会モデルより抵抗を約3%減らした。高木美帆選手ら日本代表に提供する。関西には古くから繊維や金属加工の産業が集積する。こうした土地柄を生かし、ミズノをはじめとしたスポーツ用品メーカーが育った。異業種からスポーツ用品へと事業を広げた企業もある。化学素材メーカーを源流に持つ日新企画(大阪府吹田市)は、スキーやスノーボードで使うプロテクターを手掛ける。天然ゴムやポリウレタンなどを組み合わせて、転倒時の衝撃を和らげる緩衝性と通気性を高めた」

     

    スポーツ用品では、デザイン・素材などの総合性が勝負のカギを握る。しかも、メダルを取る選手が着用したとなれば、宣伝効果は満点だ。日本メーカーは、素材大国・日本という有利性に恵まれて、「スポーツ用品」で金メダルを狙っている。

     


    (3)「平昌では、出場選手の6割超が採用したモーグル板を手掛ける企業がある。「ID one」ブランドで知られるマテリアルスポーツ(大阪府守口市)だ。板の横の金属製エッジに細い切れ目を入れて曲がりやすくした。元モーグル選手の上村愛子さんが現役時代に愛用した。平昌では使用選手が金を含む4つのメダルを獲得した。藤本誠社長は「北京でも最大6個は狙える」と自信を見せる」

     

    量産効果はなくても、選手に採用される器具は、その後に根強い人気が得られる。中小企業にとっては、大切なビジネスチャンスになる。

     

    (4)「世界が注目する五輪は、自社製品をPRする絶好の機会だ。ミズノは有力選手に製品を提供し、認知度を高めてきた。水野明人社長は「ブランド価値の向上が期待できる」と話す。中国のウインタースポーツ産業は、現地調査会社によると、2025年には1兆元(約18兆円)と20年の2.6倍に拡大する見通しだ。中国で今季からスノボウエアの展開を始めたデサントは「高機能品で需要を取り込む」と意気込む」

     

    中国のウインタースポーツ産業は、2025年の市場規模を18兆円(20年の2.6倍)と見込んでいるという。日本メーカーにとっては、突然の大市場が現れることになる。こちらでメダルを取ることもますます重要になってきた。

     

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