勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国を総合的に俯瞰するには、政治権力争いの行く末を占う意味でも、今後の経済問題がカギを握っている。マルクス用語で言えば、「下部構造(経済)が上部構造(政治)」を決めるという、あの名台詞が生きているからだ。

     

    中国経済は、2001年12月、WTO(世界貿易機関)へ加盟以来、自由貿易体制を利用して急成長してきた。だが、突然の米中対立によって経済のデカップリング(分断)を迫られている。中国は、自由貿易体制から締め出される危険性が高いのだ。不思議にも、中国自身がその道を選ぼうとしている。

     

    こうして、習氏が描いてきた世界覇権への道は、急に茨の道に変わってきた。中国経済が軌道から外れれば、「自立」は不可能である。食糧・エネルギーなどで米国などからの輸入に依存しているからだ。こういう現実に立ち返ると、習氏の世界覇権論は、白昼夢という印象を拭えないのだ。中国の下部構造(経済)が大きく揺らげば、上部構造(政治)に異変が起こって当然である。習氏は、そこまで計算に入れていないようだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(12月25日付)は、「習近平氏が毛沢東になる日は来るのか」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集員である。

     

    中国共産党という存在が、いまほど世界中で意識された時代はない。それは、党総書記で国家主席の習近平が北京・天安門の楼上に立った2021年7月1日、結党100年の大イベントで一つのピークを迎えた。しかし、22年は、さらに大きな注目を集めるだろう。5年に1度の共産党大会が、中国ばかりではなく今後の世界の行方をも左右するからである。

     

    (1)「世界第2位の経済大国は近いうちに経済規模で米国に追いつき、軍事・安全保障分野を含めた世界の勢力図を何らかのかたちで塗り替えるに違いない、とみられている。もしそうなら、われわれ日本を含めた各国が受け入れてきた「第2次世界大戦後の世界秩序」の再編が本格的に始まることを意味する。中国の改革・開放と急成長が長期にわたって成り立った基礎は、まさに戦後世界秩序にある。もしこれが変質して崩れるなら、中国の改革・開放も実質的な意味で崩壊してしまう。「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げて経済・軍事両面で米国超えを目指す習近平政権は今後、どう動くのか」

     

    下線部は、極めて重要な点を指摘している。中国は、第二次世界大戦後の自由貿易体制を利用し発展した。中国は、その発展基盤へ挑戦して、中国にとってより有利な秩序を構築しようという野望を持つに至った。この矛楯が、どれだけ大きいか。習氏は、そのことに気付かず、大きな落し穴に入り込もうとしている。中国にとって、危険この上ない事態である。

     


    (2)「当然ながら党内には、習の権力がこれ以上強まることに裏で異を唱える勢力が存在する。習がまず警戒しなければいけないのは、自分と同じような革命時代からの高級幹部の子息である「紅二代」だ。彼らには人脈だけでなく資金力もある。紅二代は、習政権の発足当時、自分たちの利益を代表していると考えた新星の登場を歓迎した。そして習の激烈な「反腐敗」運動に協力もした」

     

    習氏と同じ境遇の「紅二代」は、習氏が既得権益を守ると約束したので応援した。だが、それも、習氏の二期目から変って来た。「紅二代」を切り捨てたのだ。

     

    (3)「期待は2期目に入るころから急速にしぼんでゆく。習が抜てきするのは自らに近い側近ばかりで、紅二代への配慮は薄れてゆく。そればかりか、長期政権の確立に向けた個人崇拝の色を強めていく。習としては、早めに彼らの支持を取り付けるのがベストだが、できなかった場合に備えた布石も打っている。紅二代である本人にまでは手を出さないが、その側近らを汚職で摘発するのも一つの手段になる。すでに引退した人物でもその標的になる厳しい措置だ。こうした裏の戦いは、22年夏まで続くだろう」

     

    習氏は、長期政権を目指して「紅二代」重用から、側近重視の政治へ切り変えた。習氏が、「義理人情を無視する」と批判される理由はここにある。よくいるタイプだが、仲間を利用して立身出世し、あとは放り出すという冷たいタイプだ。この種の人間は、落ち目になった時、逆に寄ってたかって足を引っ張られる運命だ。

     


    (4)「中国経済は、インフラ投資拡大や輸出増に支えられてきた。だが、懸念材料は多い。20年、コロナ禍で打撃を受けた雇用や所得の回復はなお遅れている。特に問題なのは若者の就職難だ。21年夏、中国の大学、短大、専門学校の卒業生は過去最高の900万人超になったが、主力である民間企業からの求人は少なく、職が決まらない学生が非常に目立つ。首相の李克強が就職問題を最優先課題に挙げたのも危機感の表れだった」

     

    中国経済は、もはや総資本形成(民間住宅投資・民間設備投資・公共事業)依存度が、対GDP比で43%(2019年)という「異常経済」である。当然、この継続は不可能である。正気に戻らなければならない。個人消費が極端に抑えられた経済だけに、まともな就職先があるはずがない。大学生の好適の就職先であった「塾教師」は、政府の禁止令でゼロになった。100万人が失業したとされている。

     

    (5)「米中関係はいま、歴史的な転換点に立っている。50年という単位で両国の向き合い方を考えるなら、変質は避けられない。習近平政権は、2035年までに経済面で米国に追いつき、追い越そうとする具体的な目標を掲げている。軍事面も同じで、ここに米中両国の技術覇権争いが絡んでくる。米国側から見れば、自ら育てた中国が今度は米国を標的にしはじめたのを見過ごすわけにはいかない。これが米中「新冷戦」といわれる構造だ」

     

    2035年までに経済面で米国に追いつき、追い越そうとした前提には、自由貿易の存続があったはずだ。米中デカップリングは、この想定を破壊したのである。こうして、2035年計画は水泡に帰す運命である。基幹技術のない中国が、米中デカップリング下でどうやって成長率を維持できるのか。そんな妙案はない。

     

    (6)「米国超えを視野に入れた習近平政権による「2035計画」の内容が明らかになったのは、17年の中国共産党大会だ。この方面の勘に優れた前米大統領のトランプは、習近平政権が掲げはじめた、かつての中国とは異なる種類の野望に比較的早く反応し、一気に対中強硬路線に傾斜してゆく。米中対立をめぐっては、バイデン民主党政権の誕生でそれなりの変化があるとの見方もあったが、対中政策は一段と厳しい方向に進んでいる。特に日本、英国、EUなどとの同盟を強化して中国に対処する手法は明確である」

     

    米国の手早い反応で、中国包囲網が形成されている。技術遮断である。これには、中国もお手上げだ。一方の中国は、「一人っ子政策」によって、合計特殊出生率が昨年の「1.30」をさらに割込む公算だ。労働力不足の中で、技術封鎖を受ければどうなるか。習氏が、「第二の毛沢東」になれる経済基盤は、これから一層脆弱化していくと見られる。経済が失速すれば、習氏は道連れにされる運命だろう。

     

     

     

     

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    足下から崩れる危険性

    長短二つの難題抱える

    鄧小平賛同で反旗翻す

    韜光養晦が中国を救う

     

    中国は、次に指摘するように、極めて困難な局面を迎えている。

    1)短期的には、国内経済をどう立て直すか。

    2)長期的には、米国と対立して包囲されるマイナスが、中国の将来を救いのない局面へ追い込むことである。

     

    足下から崩れる危険性

    中国の国内危機は、不動産バブルが象徴するように、不動産=土地の価格をスパイラル的に押し上げ、それがGDPを支えてきたことにある。政府は、土地売却益を主要財源(約5割)にして財政運営を行なってきた。土地が、文字通り「打ち出の小槌」になった。童話の世界でなく、現実に起こっていたのである。

     

    これが、厖大な軍事費やインフラ投資に向けられてきたことは疑いない。この「打ち出の小槌」が今後、不動産バブル終焉になれば、使用不可能になる。代替財源をどうするか。中国の税制は、間接税が全体の3分の2を占め、直接税は3分の1である。先進国税制と、全く逆転した「大衆課税」国家である。共産主義を標榜しながら、大衆課税とは信じ難い話である。共産党幹部や経営者が優遇されている結果である。

     

    この事態を放置して、習近平氏は「共同富裕論」を大真面目に唱えている。これを実現するには、税制を変えることですぐに実現可能であろう。直接税を3分の2に増やし、間接税を3分の1に引き下げれば、庶民の税負担が軽くなって「共同富裕」へ近づく筈である。それを実現できないところに、中国の深い闇があるのだ。

     


    中国の長期的な悩みは、米中対立のもたらす途方もない「マイナス」である。中国は、22~23年には、人口減社会へ突入する。日本、韓国、中国という順序で人口は「自然減」(出生数<死亡者数)になる。高齢者への扶養が、減り続ける青壮年の負担に降りかかる社会が到来するのだ。こうなると、生産性向上は最大急務になるものの、生産技術進歩が米中対立で大幅に制約されるという壁が立ちはだかるのだ。

     

    具体的に言えば、半導体の生産である。中国は、半導体設計が可能でも、それを製品する技術が米国の輸出禁止令で不可能である。半導体は、今後の世界で不可欠な部品である。中国は、その必須技術を入手できなければ、人口減社会をどう凌ぐ計画なのか。

     

    基礎技術のない中国だ。独力で半導体製造技術を進歩させられ訳がない。高速鉄道も、日本の新幹線技術導入で壁を乗り越えられた国である。結局、米国との和解=覇権放棄が、中国の生きる道であることが明白である。習政権では、それができないというジレンマに陥っているのだ。

     


    習氏は、独裁体制を敷こうとしている。中国共産党100年において3回目の「歴史決議」まで行い、習氏の終身権力を認める形になった。習近平氏が、毛沢東や鄧小平に匹敵する「人物」として、承認されたからだ。実は、中国共産党内部でそういう受取り方をされていなかったのである。現実は、それほど経済が深刻な事態であるのだ。

     

    長短二つの難題抱える

    22年の中国経済の抱える問題点は二つある。

     

    1)中国のコロナ感染症対策は、「ゼロコロナ」である。これによってもたらされる経済的な損害が甚大である。つい最近では12月22日、陝西省の省都である西安市(人口1300万人)が、コロナ感染者累計(12月9日から)患者数が143人となり23日、都市封鎖(中国では「閉鎖式管理」と呼称)へ踏み切った。

     

    西安市の人口は、東京都(1400万人)とほぼ同規模である。これだけの大規模都市が、累計143人の患者が出てロックダウンになった。東京都の対応から見ると、想像もできない事態である。中国製ワクチンが効かないことや、医療施設が完備していないことから、超早期のロックダウンである。

     

    こうした「ゼロコロナ」対策は、習氏の指導によるものだ。「ウィズコロナ」を主張した医療関係者は、習氏から厳しい叱責を受けたという。医療専門家でない習氏が、ここまで干渉して決めていることには、中国国内で必ず反対者がいる筈だ。すべて習氏の指示を「唯々諾々」として聞いているとすれば、国を滅ぼす「大罪」に等しいこと。中国にも「義士」はいるはずだ。

     

    ロックダウンすれば、個人消費は低迷して当然である。1世帯につき2日に1回、1人だけが外出して生活用品を購入できるという。西安市内への出入りは禁止される。フライト情報サイトによると、西安発着便の85%以上が欠航した。東京都とほぼ同規模の巨大都市が、買い物も制限されている。窒息状態に陥ったのだ。

     

    2)不動産バブルの終焉は、中国経済の健全化にとって正しい選択であるが、今後の不動産投資の減少がもたらす需要減が、GDPを直撃することである。中国の住宅投資は、鉄鋼・セメントなど素材や耐久消費財買換えなど含めた関連需要が、GDPの25~30%を占めると推計されている。それだけに、不動産バブルの鎮火が、GDP成長率を引き下げるのだ。

     

    ドイツは、中国の不動産バブル鎮火に対して警戒信号を出している。ドイツの対中国輸出依存度は、8.0%(2020年:JETRO調査)であり米国の対中輸出依存度8.6%(同)を下回っている。EU圏は、36.6%と首位だ。それでも、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は、次のような厳しい見解(11月『月次報告書』)を発表した。

     


    中国恒大などの債務危機による中国不動産市場低迷で、ドイツの輸出が減少し、GDPの0.6%(ポイント)を失うことになる。『中国経済への依存度の高い国はGDPの損失がより大きくなる』と予測した。ドイツGDPは、21年が実質3.05%成長(IMFが21年10月推計)」

     

    22年のドイツGDPは、中国の不動産バブル鎮火によって、2%台前半に止まりそうである。ドイツですら、GDP0.6%ポイントの落込みを予測している。当の中国経済は、それを上回る負の影響が出て当然であろう。(つづく)

    次の記事もご参考に。

    2021-12-06

    メルマガ316号 「台湾有事は日米有事」、安倍発言で中国はピリピリ 弱点見抜く日本

    2021-12-20

    メルマガ320号 予想以上の経済失速 習近平は「顔面蒼白」 危機乗切り策やっぱり「同じ手!」

     

     

     

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    文大統領は、任期末の接近で大慌てである。大統領としての「レガシー」が一つもないからだ。ライフワークの南北問題解決で、朝鮮戦争の「終戦宣言」を出して何とか形を整えようとしている。だが、朝鮮戦争の当事国である米国は、この問題で冷淡である。

     

    この7月、任務を終えて米国に戻ったロバート・エイブラムス前在韓米軍司令官は、次のように語っている。「韓国政府の終戦宣言推進について、『私の疑問は終戦宣言をして何を得ようとするのかが明確でない点』とし、『終戦宣言を性急にすれば、戦争が終わったので1950年夏に通過した国連安保理決議を見直すべきという主張が出てくる可能性が出てくる。そうなれば急速に流れていくはず』と懸念を表した」(『中央日報』12月25日付)

     

    こういう事情を知りながら、文氏は遮二無二、「終戦宣言」工作を中国へ仕掛けている。

     


    『中央日報』(12月26日付)は、「北京五輪控えて韓中密着、オンライン首脳会談の可能性も」と題する記事を掲載した。

     

    文在寅(ムン・ジェイン)政権任期末に韓国と中国が高官級交流を強化し、オンライン首脳会談の可能性にも言及されている。特に終戦宣言の進展を望む韓国と北京オリンピック(五輪)の成功を望む中国の立場が重なり、首脳会談の議論に入る姿だ。お互いに対する両国のこうした内心は23日の韓中外務次官戦略対話で幅広く議論された。

     

    (1)「韓国外交部の当局者は24日、「両国はコロナ状況という困難の中にもかかわらず、首脳間の交流の重要性について認識を共有している」とし「(韓中外務次官戦略対話でも)多様な形で戦略的意思疎通を続けていくことにした」と述べた。文大統領と中国の習近平国家主席のオンライン首脳会談が開催される場合、その時期は来年1月が有力視される。来年2月には北京冬季五輪が予定されていて、3月には韓国で大統領選挙があるからだ。もちろん文大統領の退任を控えた時期に両首脳の会談(オンライン)が開催される可能性もあるが、来年1月を越せば形式的な会談に終わるというのが外交関係者らの一般的な見方だ」

     

    韓国は、中国と話を付ければ北朝鮮が自動的に中国の意向通りに動くという錯覚をしている。北は中国を信頼せず、むしろ米国へ関心を向けているほど。こういう北の微妙な心理を読まずに「独り相撲」している感じが強い。中朝関係は、一枚岩でないと指摘されている。

     


    (2)「外交筋は、「具体的な時期を決める段階ではないが、青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)の徐薫(ソ・フン)国家安保室長の訪中と韓中外務次官の戦略対話で首脳会談関連の議論が熟した状況」とし、「新型コロナとオミクロン株拡大の余波で対面首脳会談が難しいだけに、オンライン方式でも首脳会談を開催しようという共感が形成されている」と伝えた」

    韓国は中国への「異常接近」によって、米国がどのように反応するか、全く考えていないようである。韓国は、オンライン形式の中韓首脳会談を希望している。これで、ますます中国に軽視されることになろう。韓国は、米中双方から軽い存在に見られるだけだ。

     

    (3)「実際、韓中は高官級で幅広い交流を継続中であり、首脳会談に進む姿だ。先月、張夏成(チャン・ハソン)駐中韓国大使が中国外交トップの楊潔チ共産党政治局員に会ったのに続き、2日には青瓦台の徐薫国家安保室長が訪中して楊局員と会談した。韓中外務次官戦略対話も2017年以来4年6カ月ぶりに復活した。韓中が最近、お互い融和ジェスチャーを持続的に交換しているという点も、首脳会談開催へのステップになるという分析だ。まず韓国は米中間の人権問題の延長線上にある北京五輪「外交的ボイコット」に参加しないという立場だ」

    韓国は、法的に何の保証もない「終戦宣言」を出させたくて狂奔している。すべて、文氏の「レガシー」にしたいだけで後々、大きな安全保障問題に繋がるリスクを弁えない行為である。米国が、強く警戒している点だ。

     

    (4)「中国は最近、韓中友好を強調しながら親近感を表している。中国外務省の汪文斌報道官は13日、文大統領が「外交的ボイコットを検討していない」と一線を画したことについて「五輪の精神に基づく韓中友好の実現」と強調した。また、終戦宣言など文在寅政権の韓半島平和プロセス再稼働の意志に応じるかのように「朝鮮半島問題の政治的解決を推進し、朝鮮半島の長期的な安定実現に寄与することを望む」という立場を明らかにした」

     

    米国は、朝鮮戦争で国連軍を率いた立場である。中国は、北朝鮮とともに侵略軍である。韓国は、防衛軍である米国の了解を得ないで、侵略軍と話合いができるだろうか。こういう形式論からみても、韓国の中国詣では異常に映るのである。

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    およそ非科学的と言うほかない。陝西省の西安市(人口1300万人)は12月22日、コロナ感染者が52人(12月9日からの累計患者数143人)出たので即、都市封鎖(中国では「閉鎖式管理」と呼称)へ踏み切った。

     

    西安市の人口は、東京都(1400万人)とほぼ同規模である。これだけの大規模都市が、累計143人の患者が出てロックダウンになった。東京都の対応から見ると、想像もできない事態である。医療施設が完備していないことから、超早期のロックダウンである。経済への打撃は凄いものだろう。

     

    『大紀元』(12月24日付)は、「中国西安市、感染拡大で都市封鎖 出血熱も同時流行」と題する記事を掲載した。

     

    中国北西部の大都市、西安市で現地政府は22日午後、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、23日午前零時から「閉鎖式管理(実質上の都市封鎖)を実施する」と緊急通達した。中国衛生部の発表では、22日に西安市のウイルスの新規感染者は52人、12月9日からの累計患者数は143人、すべて「デルタ株」の感染で、「オミクロン株」の感染例はまだ見つかっていないという。 


     (1)「1世帯につき2日に1回、1人だけが外出して生活用品を購入できる。西安市内への出入りは禁止される。フライト情報サイトによると、西安発着便の85%以上が欠航している。緊急通達が発表された直後、市民が買い占めに走るなど市内は一時混乱状態だった。公共の場への出入りに必須の「健康コード」は、アクセスが殺到してシステムクラッシュが起こった。大紀元に寄せられた市民の情報によると、同市のPCR検査システムが21日に故障し、当日に採取したサンプルが全部無効になった。同市民は「寒風の中、5時間待ち続けた数百人は検査を受けられないと告げられて、大変なショックを受けた」と話した」

    1300万市民が、1世帯につき2日に1回、1人だけが外出して生活用品を購入できるという。大変な不便を強いられる。米英製のワクチン接種をしていれば、こういう極端な「巣ごもり」を強制されるはずもない。基礎科学力の劣る中国では、こういう防疫対策しかとれないのであろう。

     


    (2)「同市では最近、出血熱の感染も急激に増えているとみられる。市当局は、「予防可能、コントロール可能」としている。地元市民と名乗るネットユーザーから、「大勢の農民が感染して死亡した」「出血熱の治療指定病院は軒並み満床」「イチゴのビニールハウスはネズミだらけだ」といった投稿があった。同市当局は今回、「閉鎖式管理」であることを強調し、「都市封鎖」という従来の表現を避けた」

     

    出血熱感染も増えている。出血熱は、出血を特徴とする重篤なウイルス感染症である。出血熱は、多種多様なウイルスにより引き起こされる。この感染症は、ウイルスの種類により、感染者の皮膚や体液に触れたり、感染したげっ歯類の糞尿に触れたり、虫に刺されるか咬まれたり、汚染された食べものを食べたりすることで感染する可能性があるという。この出血熱の感染が拡大すると、中国の経済活動はさらに萎縮するはずだ。

     


    『ブルームバーグ』(12月24日付)は、「
    中国、西安市の当局者26人を処分-コロナ対策不十分で責任問われる」と題する記事を掲載した。

    中国当局は、新型コロナウイルスの感染拡大防止で十分な対策を怠ったとして、陝西省西安市の当局者26人を処分した。人口1300万人を抱える同市ではコロナ感染が広がっており、23日から大規模なロックダウン(都市封鎖)が始まった。

     

    (3)「コロナ根絶を対策の中心に据えている中国では、兵馬俑で有名な西安市が新たなホットスポットとなっている。来年2月に北京冬季五輪を控える中で、中国当局はデルタ株の一掃に手間取っているほか、これよりもはるかに感染力が強いとされるオミクロン株にも警戒を余儀なくされている。24日発表された西安市のコロナ新規感染者数数は49人と、前日の60人余りからは減少した」

     

    西安市は12月23日から、大規模なロックダウン入りである。24日は、新規感染者が前日の60人余から49人へと減った。ドックダウンの効果ではない。

     


    (4)「西安の感染拡大は、パキスタンからの航空便までたどれる感染から始まったもようだ。同市の空港から市中に広がり、感染のつながりは複数あるとされる。このため、接触者追跡の担当者も突き止めることに手間取っている。隣接する山西省のほか、北京でも西安に関連した感染が散発的に確認されており、全国的な感染拡大再燃を巡る懸念が強まっている。地元メディアが24日報じたところによると、西安市の当局者26人が規律検査・監察部門からコロナ対策の責任を問われ、処分を受けた

     

    西安市への航空便も大幅に運航停止となっている。当局者26人が処分されたという。大変な騒ぎである。

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    習近平氏は、絶対的権力基盤を固めていると見られてきた。先には、中国共産党100年において3回目の「歴史決議」を出すなど、毛沢東・鄧小平に次ぐ権力者の地位を手に入れたと見られてきた。だが、中国共産党機関紙『人民日報』(12月9日付)で、鄧小平の経済路線を賛美する論文が掲載されたのだ。この論文では、習近平氏に一度も言及せず、鄧小平についてはなんと9回も名前を挙げた。

     

    このことから、党内において経済路線をめぐる争いが起こっているとの憶測を生む事態になった。今年後半からの経済減速が、中国経済の屋台骨を揺るがしていることが原因である。習氏は、「共同富裕論」を掲げて、不動産投機抑制に動いている。これが、地価下落をもたらし地方政府の財源窮迫を招いているのだ。

     


    習氏は、不動産バブル抑制で経済減速の生む政治的摩擦を押さえ込める自信があれば、22年のGDPを5%強と低めに設定できる。だが、地方政府から反対が出て、高目のGDP成長率を要求されれば、5.5~6%成長率という高めに設定しなければならないと見る向きも出てきた。こうして22年の成長率目標が、習氏の政治権力の強弱を占う材料になるというのである。

     

    『ロイター』(12月22日付)は、「来年の中国成長率目標、習氏の『権力』知る手がかりに」と題するコラムを掲載した。

     

    中国は、世界金融危機以降で最も重要な国内総生産(GDP)成長率目標を設定する態勢に入った。かつて経験がないような一連の経済的試練に直面する中国は、成長率目標を今年の「6%以上」から、不良債権問題の重圧が持続的にかかり続けることを意味する水準まで、大きく下方修正する意向を示唆している。習近平国家主席が選択する目標は、中国をより効率的な発展の道筋に持っていくために、同氏がどれだけの力を備えているかを探る手掛かりになるだろう。

     


    (1)「先のコロナ禍で受けた痛手が消えていく中で、中国共産党には、実態以上に高まっている経済へのさまざまな期待を押し下げるべきあらゆる理由がそろっている。中央政府は、新変異株の脅威の先まで見据えて、既に不動産セクターの金融リスク抑制に乗り出した。中国の経済活動の25%から3割強を担う不動産セクターが、中国恒大集団などによって動揺する中で、当局はその崩壊を防ぐために全力を注いでいる。2兆5000億ドルに上る販売前物件の工事完成を見届け、消費者信頼感の急低下を避けるというのも対策の1つだ」

     

    習氏は、住宅が住むためであり投機対象でない、と分かりきったことを繰返している。ここまでしながら不動産バブル抑止に取り組んでいる。当然、来年のGDP成長率は低下する。

     

    (2)「ロックダウン(都市封鎖)の下で、小売売上高や国内観光、サービス部門は低迷が続いたが、そうしたマイナスをある程度帳消しにしたのが、海外からの医療機器と電子商取引関連の需要だった。だが、貿易相手の経済正常化に伴って、この流れがいつまでも続くかどうか不確かだ。また、生産性に関して言えば、中国の経済成長に貢献するどころか足を引っ張ってきた。国有企業優先の政策も、生産性低下に拍車をかけている。今年第3・四半期の成長率が4.9%にとどまった中国経済は、来年減速するとの見方が広がっている。あるいは単なる減速よりもひどい状況になってもおかしくない」

     

    今年10~12月期のGDPは、前年同期比4%台を割込むとの見通しが出はじめている。こうなると、22年のGDP成長率は5%強に止まる公算が強まろう。習氏は、不動産バブル抑制のため、低い成長率を甘受すべきとしている。この低成長路線が、党内で受入れられるには、習氏の政治基盤が強いことが前提になろう。そうでなければ、妥協を余儀なくされる。

     

    (3)「習氏は、「洪水のような景気刺激策」が当面実施されることはないと、投資家を納得させる努力を続けている。当局が融資や債券のデフォルト(債務不履行)を甘受しながら、大幅な利下げは差し控える姿勢だとうかがえる。これは成長率が4%近くと、政府顧問が提言している来年目標の5.5%程度よりはるかに低くなることを意味する。より保守的な成長率目標が採用されれば、中国経済の構造転換に対する習氏の本気度が示される。その場合の危険は、2015年の反汚職運動時のように、官僚機構が動かなくなることだ。地方政府の資金繰り圧迫にもつながる

     

    中国経済の構造転換には、住宅投資・設備投資・公共投資といった総固定投資比率の引下げが条件である。だが、そうなるとGDP成長率は低下する。この狭間にあって、中国経済は耐えられるかどうか。卑近な言葉で言えば、中国は手術(構造転換)する体力(GDP成長率)が問われる。地方政府は、低成長になれば財源不足で動けなくなると、指摘しているのだ。

     


    (4)「
    一方で、住宅とインフラの投資に再び寛容な顔を見せると、GDPの不均衡は解消せず、債務の対GDP比は一段と限界に迫る上に、当局による厳しい債務圧縮の掛け声は表面だけだと投資家に見くびられるだろう。習氏が金融システムに今後も与信縮小路線を維持させ続けることができるとすれば、同氏の権力の絶大さを物語るこれまでで最も強力なサインになる」

     

    地方政府の要求に従い、高目のGDP成長率を目標に掲げれば、不動産バブル抑制という構造改革は後退する。問題を先送りするだけなのだ。習氏は、こういう切実な要請を退けて、中国経済の改革を実現できるのか、である。その政治力が問われている。低めのGDP成長率=権力基盤は不動。高目のGDP成長率=権力基盤が動揺、という方程式が生まれるであろう。

     

    中国経済が、ついに手術台へ上がった。この状況で、米国と世界覇権を争うなど、白昼夢である。現実の厳しさに目を覚ますことだ。

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