中国の数ある泣き所の一つは、石炭依存経済であることだ。エネルギー源の62%にも達している。二酸化炭素を世界にまき散らしており、もはや「脱炭素」は先進国の責任と言っていられない状況にない。異常気象が、確実に中国を襲っているからだ。このまま行けば、50年後に中国中枢部である華北平原は夏期、人間が住めなくなると予測されているほど。お尻に火がついた格好である。
異常気象によって、中国の世界覇権狙いなど吹き飛ぶ形だが、住宅バブルに見切りを付けて、いよいよ、グリーン・エネルギーへ集中投資しなければならなってきた。石炭企業は厖大な雇用を抱えており、石炭閉山は失業者を生む。同時に、過剰債務を抱えているので、政府が救済する以外に道はなくなっている。泣き面に蜂というのは、いまの中国を指す言葉であろう。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月23付)は、中国の景気刺激策、『グリーン』に切り替え」と題する記事を掲載した。
中国の景気刺激策はここ10年ほど、住宅や鉄鋼業界を主役に据え、グリーンなインフラは脇役になる傾向があった。今回は、主役としてグリーンに目を向けているようだ。
(1)「中国人民銀行(中央銀行)は11月8日、新たな「二酸化炭素(CO2)排出削減融資制度」を発表した。この制度は、銀行がクリーン電力、エネルギー効率化、その他の類似プロジェクトに再融資するための低コストの資金を提供するものだ。その規模はまだ明らかではないものの、今後数年で1兆元(約18兆円)に達する可能性があるとHSBCはみている。銀行にはこの制度を利用する強い動機がある。銀行間の7日物レポ金利が約2.1%、人民銀の主要な貸出制度の1年物金利が約3%であるのに対し、1.75%という極めて低い金利だからだ。これとは別に、国営メディアは先週、クリーンコール(環境に優しい石炭技術)への2000億元の追加再融資プログラムを発表した」
銀行がクリーン電力、エネルギー効率化、その他の類似プロジェクトへは、破格の1.75%の低利融資を行うという。不動産開発投資が、もはや継続不能となって、新たなエース捜しが始まったところだ。
(2)「これらの新しい制度が融資を促進することはほぼ間違いない。とりわけ、電力部門の借り手のほとんどは国有企業で、銀行にとっては魅力的な債権となる。一方、排出量を迅速に削減したり、経済を財政的に一段と持続可能な軌道に乗せたりすることに関し、こうした投資の効果の程はそれほど確実ではない。人民銀は、各銀行が排出削減量を公表し、適格な第三者機関による検証を受けるべきだとしている。それでも、資金繰りに苦しむ地方政府が、低コストの銀行融資を受けるためにプロジェクトを「グリーンウォッシュ(環境配慮を装う)」する問題が出る可能性がある」
低利融資が魅力のために、「グリーンウォッシュ」で他へ資金を回す危険性も大きい。中国の金融機関ではやりかねないことである。それだけに、監督をしっかりやり、CO2排出削減量計算をさせるというのだ。
(3)「もう一つ問題となり得るのは、中国が2020年に風力発電へ膨大な投資を行ったばかりであることだ。中国のエネルギー規制当局によると、2021年前半の風力発電の廃棄率は0.3ポイント減の3.6%だった。最近の電力不足もあるため、2021年後半も廃棄率は低位安定すると思われる。だが、ここに来て石炭発電が復活しつつある」
風力発電投資は、2020年から拡大に向かっている。一方では、電力不足から石炭発電も復活させている。こういう状況下で、クリーンエネルギー投資がどこまで増えるか疑問視されている。
(4)「さらに、昨年は風力発電の投資額の伸びが送電網の投資額を75ポイント近く上回ったため、新たな風力発電所や太陽光発電所が、それを利用する送電網の容量がないまま電力を生産することになる危険性がある。一方で、より機動的な送電網や、揚水発電(風力発電などの余剰電力がある時に、水を高所にくみ上げておいて電力を蓄える方法)のような蓄電方法に新たな資金を投入するのは、おそらく有効だろう。こうした発表は、グラスゴーで開かれた気候変動会議を後にして、中国の石炭政策への批判をかわすための単なる見せかけと一蹴されがちだ。
中国では、風力発電投資をやっても送電線投資が足りず、無駄な発電になっていることが多い。今回もそういう調整がしっかりできているのか確証はない。統制経済であるため、投資主体が違えば調整がつかないのだ。これが、中国式社会主義の実態である。無駄の再生産に熱を入れている。
(5)「その背景には根本的な現実もある。中国は気候変動に極めて影響を受けやすい上、不動産に代わる成長の原動力を必要としている。中国政府が大幅な規制緩和の導入を長らく先送りしていることを踏まえれば、住宅市場に起因する著しい景気減速はまだ不可避なようだ。グリーンなインフラとテクノロジーのブームがそれに取って代わることができるかどうかは、まだ分からない」
このパラグラフは、中国の泣き所をぴしゃりと突いている。住宅部門不振をこのグリーン・エネルギー投資でカバーできる保証は全くないのだ。