勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    中国の数ある泣き所の一つは、石炭依存経済であることだ。エネルギー源の62%にも達している。二酸化炭素を世界にまき散らしており、もはや「脱炭素」は先進国の責任と言っていられない状況にない。異常気象が、確実に中国を襲っているからだ。このまま行けば、50年後に中国中枢部である華北平原は夏期、人間が住めなくなると予測されているほど。お尻に火がついた格好である。

     

    異常気象によって、中国の世界覇権狙いなど吹き飛ぶ形だが、住宅バブルに見切りを付けて、いよいよ、グリーン・エネルギーへ集中投資しなければならなってきた。石炭企業は厖大な雇用を抱えており、石炭閉山は失業者を生む。同時に、過剰債務を抱えているので、政府が救済する以外に道はなくなっている。泣き面に蜂というのは、いまの中国を指す言葉であろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月23付)は、中国の景気刺激策、『グリーン』に切り替え」と題する記事を掲載した。

     

    中国の景気刺激策はここ10年ほど、住宅や鉄鋼業界を主役に据え、グリーンなインフラは脇役になる傾向があった。今回は、主役としてグリーンに目を向けているようだ。

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)は11月8日、新たな「二酸化炭素(CO2)排出削減融資制度」を発表した。この制度は、銀行がクリーン電力、エネルギー効率化、その他の類似プロジェクトに再融資するための低コストの資金を提供するものだ。その規模はまだ明らかではないものの、今後数年で1兆元(約18兆円)に達する可能性があるとHSBCはみている。銀行にはこの制度を利用する強い動機がある。銀行間の7日物レポ金利が約2.1%、人民銀の主要な貸出制度の1年物金利が約3%であるのに対し、1.75%という極めて低い金利だからだ。これとは別に、国営メディアは先週、クリーンコール(環境に優しい石炭技術)への2000億元の追加再融資プログラムを発表した」

     

    銀行がクリーン電力、エネルギー効率化、その他の類似プロジェクトへは、破格の1.75%の低利融資を行うという。不動産開発投資が、もはや継続不能となって、新たなエース捜しが始まったところだ。

     


    (2)「これらの新しい制度が融資を促進することはほぼ間違いない。とりわけ、電力部門の借り手のほとんどは国有企業で、銀行にとっては魅力的な債権となる。一方、排出量を迅速に削減したり、経済を財政的に一段と持続可能な軌道に乗せたりすることに関し、こうした投資の効果の程はそれほど確実ではない。人民銀は、各銀行が排出削減量を公表し、適格な第三者機関による検証を受けるべきだとしている。それでも、資金繰りに苦しむ地方政府が、低コストの銀行融資を受けるためにプロジェクトを「グリーンウォッシュ(環境配慮を装う)」する問題が出る可能性がある」

     

    低利融資が魅力のために、「グリーンウォッシュ」で他へ資金を回す危険性も大きい。中国の金融機関ではやりかねないことである。それだけに、監督をしっかりやり、CO2排出削減量計算をさせるというのだ。

     


    (3)「もう一つ問題となり得るのは、中国が2020年に風力発電へ膨大な投資を行ったばかりであることだ。中国のエネルギー規制当局によると、2021年前半の風力発電の廃棄率は0.3ポイント減の3.6%だった。最近の電力不足もあるため、2021年後半も廃棄率は低位安定すると思われる。だが、ここに来て石炭発電が復活しつつある」

     

    風力発電投資は、2020年から拡大に向かっている。一方では、電力不足から石炭発電も復活させている。こういう状況下で、クリーンエネルギー投資がどこまで増えるか疑問視されている。

     

    (4)「さらに、昨年は風力発電の投資額の伸びが送電網の投資額を75ポイント近く上回ったため、新たな風力発電所や太陽光発電所が、それを利用する送電網の容量がないまま電力を生産することになる危険性がある。一方で、より機動的な送電網や、揚水発電(風力発電などの余剰電力がある時に、水を高所にくみ上げておいて電力を蓄える方法)のような蓄電方法に新たな資金を投入するのは、おそらく有効だろう。こうした発表は、グラスゴーで開かれた気候変動会議を後にして、中国の石炭政策への批判をかわすための単なる見せかけと一蹴されがちだ。

     

    中国では、風力発電投資をやっても送電線投資が足りず、無駄な発電になっていることが多い。今回もそういう調整がしっかりできているのか確証はない。統制経済であるため、投資主体が違えば調整がつかないのだ。これが、中国式社会主義の実態である。無駄の再生産に熱を入れている。

     


    (5)「その背景には根本的な現実もある。中国は気候変動に極めて影響を受けやすい上、不動産に代わる成長の原動力を必要としている。中国政府が大幅な規制緩和の導入を長らく先送りしていることを踏まえれば、住宅市場に起因する著しい景気減速はまだ不可避なようだ。グリーンなインフラとテクノロジーのブームがそれに取って代わることができるかどうかは、まだ分からない」

     

    このパラグラフは、中国の泣き所をぴしゃりと突いている。住宅部門不振をこのグリーン・エネルギー投資でカバーできる保証は全くないのだ。

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    中国の著名テニス選手の彭帥さんが、中国共産党元幹部との不倫関係を告白した後に安否の懸念が出ていた。この問題で、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が21日、彭さんとビデオ通話したと発表した。

     

    IOCによると、バッハ会長は21日に彭さんとのビデオ通話し「北京市内の自宅で、安全かつ元気にしている」との説明を受けたという。IOCは約30分間の会談中にバッハ氏と笑顔で通話する様子を収めた写真を公表し、彭さんが安全な場所にいることを強調した。五輪開催前の来年1月に北京で開かれる夕食会に招待し、彭さんから快諾を得たという。以上、『日本経済新聞 電子版』(11月22日付)が報じた。

     

    彭帥さんは、3度の五輪出場経験があり、テニス四大大会女子ダブルスでは2度も優勝した実績をもつ。女子テニス界では、超有名人だけに今回の騒動は中国のイメージを大きく傷つけた。それだけに、中国政府は来年2~3月に開催される北京冬季五輪・パラリンピックへの悪影響要因を取り除こうと必死である。だが、彭帥さんのSNSを削除したりした人権問題が残っている。女子テニス協会(WTA)は、中国に対する疑念を強めているところだ。

     

    『ロイター』(11月22日付)は、「IOCとの通話で懸念解消されず中国女子選手巡りWTA」と題する記事を掲載した。

     

    中国の張高麗元副首相に性的関係を強要されたと告発した同国女子テニス界のスター、彭帥選手が国際オリンピック委員会(IOC)とビデオ通話を行ったことについて、女子テニスのツアーを統括するWTAは22日、彭選手の安否を巡るWTAの懸念を解消するものではないという見解を示した。

     

    (1)「IOCによると、彭選手は21日にバッハ会長とビデオ通話を行い、無事で健康に北京の自宅で暮らしていると説明があった。また、今はプライバシーを尊重してほしいとの意向を示したという。これに先立ち、20日に友人との夕食会、21日に北京で開催された子ども向けテニス大会に姿を見せたとする写真や動画を中国国営メディア記者や大会主催者が公開したが、懸念を払拭するには至っていなかった」

     

    彭選手は、自分から自らのプライバシーを公にした。だがこれからは、無闇にプライバシーに踏込まない欲しいという話である。メディアの接近はお断り、だ。

     


    (2)「WTAの広報担当者は、「動画で彭帥選手を確認できたのは良かったが、彼女の健康に問題がないかや、検閲や強制を受けずにコミュニケーションできるかという点についてWTAの懸念を軽減したり、解消したりするものではない」と述べた。IOCとのビデオ通話については「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」と強調した」

     

    WTAは、彼女が中国政府の管理下に置かれて、自由を束縛されていないかを懸念している。人権侵害を何とも思わない国であるだけに、IOCのような暢気な立場と異なるようだ。

     

    (3)「この問題を巡っては、世界の人権団体などが中国の人権問題を理由に来年2月の北京冬季五輪のボイコットを呼び掛けている。WTAも中国からの事業撤退を警告している。張元副首相と中国政府は、この疑惑についてコメントしていない」

     

    張元副首相と中国政府は、黙殺して事態の鎮静化を待つ姿勢であろう。「人の噂も七十五日」なのだ。先進国と比べて、中国は100~200年も常識がずれている国である。

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    中国の資産家の感覚がようやく正常化されてきた。不動産に最大の関心を寄せていた投資家が、中国恒大のデフォルト騒ぎに先行きを不安視している結果だ。この動きが、定着すれば、中国の投資感覚が「国際化」してきたと言えるかも知れない。

     

    『ロイター』(11月21日付)は、「中国投資家の『不動産愛』に変化、株や債券にシフト」と題する記事を掲載した。

     

    不動産関連投資への愛着が強い中国の投資家が、長年の慣習を脱して株式など他の資産に資金を移している。当局が不動産セクターへの取り締まりを強めたからだ。不動産開発大手、中国恒大集団の債務危機が深刻化した9月以来、信託会社が発行する不動産投資商品への資金流入は落ち込んだ。不動産開発企業は国内で厳格な融資規制に遭い、国外の債券市場では借り入れコストが過去最高水準に上昇。投資家からの資金流入は、残る数少ない資金調達ルートの1つだったが、それが断たれようとしている。

     

    (1)「上海のビジネスマン、デズモンド・パンさんは、「かつての投資の鉄則が崩れてしまった」と語る。不動産投資信託につぎ込んでいた数百万元を、ヘッジファンド会社ブリッジウォーターの中国マルチアセット型ファンド「オール・ウェザー・エンハンスト・ストラテジー」に移そうかと思案中だ。ブリッジウォーター創業者で大富豪、レイ・ダリオ氏の笑顔が載ったパンフレットをめくりながら、パンさんは年率リターン19%のこのファンドなら代わりの投資先にふさわしいと考えている」

     

    不動産バブル崩壊は、投資資金の流れを変えている。新たに、年率リターン19%のファンドに乗り換えたという。今時、こんな高利の金融商品があるとは驚き。リスクも高いのだろう。

     

    (2)「中国の投資家は長年、不動産投資商品を愛好してきた。しかし政府が2017年にシャドーバンキング(影の銀行)を取り締まり始めて以来、こうした商品への資金流入は縮小傾向に。中国恒大が今年9月、理財商品でデフォルト(債務不履行)を起こし、多くの都市で投資家が抗議した一件が、この傾向に拍車をかけた。中国受託者協会によると、不動産に投資する信託資金は6月末時点で2兆1000億元(3293億ドル)と、前年比17%減少。対照的に、債券や株に投資する信託商品は35%増の2兆8000億元となった」

     

    不動産投信が減って、株式や債券の投信が人気を得ているという。利回りは落ちても、安心感を買っているもの。

     


    (3)「資金移動は足元の数カ月間で加速している。ユーズ・ファイナンス・アンド・トラスト・リサーチ・インスティテュートによると、不動産関連信託商品の資金調達は、9月に前月比38%、10月には同55%、それぞれ減少した。申萬宏源のFoFマネジャーは、「このごろは不動産関連の信託商品が売れない。顧客はリターンが比較的安定したファンド、例えばファンド・オブ・ファンド(FoF)やクオンツ・ファンドへの資金移動を強化している」と話した。最近、中国でマルチ戦略ヘッジファンドを立ち上げたレイリアント・グローバル・アドバイザーズのジェイソン・シュー会長は、「中国政府の政策は、不動産からの資金移動を後押ししている。これは資産運用業界にとって間違いなく朗報だ」と言う」

     

    不動産関連信託商品は、人気が落ちている。売れ行き不振は、それだけ資金調達額が減るので不動産開発企業の資金調達の道は細くなっている。これが、資金の流れを変えており、正常化され始めたと評価しているのだ。不動産が、途端に厄介者扱いである。市場の流れは速い。

     

    (4)「中国恒大のデフォルト懸念や佳兆業集団の資金繰り危機以来、不動産投資は信託商品だけでなく、銀行や独立系資産運用企業を通して販売される理財商品も打撃を被っている。不動産に特化した資産運用会社の幹部は、不動産開発企業の社債から資金が流出してハイテク・新エネルギー関連の株式にシフトする流れは不可逆的だと語る

     

    下線のように資金の流れが、不動産開発からハイテクや新エネルギー関連へ向かっているという。不動産バブルでせき止められていた資金が、ようやく他産業へ流れ始めた。良いことである。これで、不動産バブル復活の道は消えた。

     


    (5)「
    中国国際金融(CICC)の資産運用サービス責任者、リアン・ドンチン氏は10月の会合で、中国家計のバランスシートにおいて不動産は今後とも最大の構成要素であり続けるとした上で、不動産の強気サイクルを引っ張ってきた人口動態と流動性は消え去ったとの見方を示した。「今も不動産にとどまっている顧客資産の一部を、中国の将来の経済成長を享受できる資産に再配分するよう導くことは、資産運用会社にとって今後10年間で最大のチャンスになる」とドンチン氏は語った」

     

    下線のように、人口動態の変化と人口移動の流動性は消えたと判断されるに至った。約10年もの認識遅れであるが、過去を間違いと分かっただけでも大した変化である。

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    台湾と絡む習氏の終身皇帝

    還暦過ぎた中国経済の悩み

    トゥキディデスの罠を曲解

    米国は米中会談後に強気へ

     

    中国共産党は、結党100年を期して3回目の「歴史決議」を行った。過去2回の歴史決議をテコに、毛沢東(1回目:1945年)、鄧小平(2回目:1981年)が終身の最高権力者になったように、習近平氏もその座を保証される形である。

     

    中国共産党が、習近平氏に終身最高権力者の座を与えた裏には、過去の歴史決議が党内危機の高まった時期に決められた共通点を持つ。その意味で、今回の背景をつぶさに見ることで、中国共産党の危機感が炙り出されるはずだ。

     

    毛沢東の歴史決議は1945年であるから、第二次世界大戦が終結して新たな世界情勢が生まれるという混乱期であった。鄧小平の歴史決議は1981年で、毛沢東による10年間の文化大革命の大混乱が収束されて、中国の政治と経済の再建を目指す時期であった。

     


    台湾と絡む習氏の終身皇帝

    習氏による歴史決議は、中国が経済・外交で行き詰まった段階で、将来を模索する「決意表明」である。経済は、すでに下り坂に入っている。これからは、さらに厳しい急坂を下る段階に差し掛かった。外交的には、「戦狼外交」によって周辺国を敵に回してしまった。その中で、台湾をいかにして取り戻すかであろう。

     

    習氏が、歴史決議によって終身国家指導者の座を与えられた動機は「台湾統一」であろう。むろん、習氏が手を回して得たポストは明らかで、台湾問題をエサに上げていることは間違いない。実は、台湾統一問題が習氏にとって「諸刃の剣」である。失敗すれば、習氏は終身国家指導者のポストを失うリスクを抱えている。中国国内に潜む「反習派」は、その失敗を待って失脚させる企みも散見されるのだ。

     

    人民解放軍には、「台湾侵攻命令」が出れば、台湾へ出兵せず北京へ向かう動きがあると指摘されている。習氏は、これまで行なってきた政敵の追放によって、多くの敵をつくって恨みを抱えているのだ。「義理と恩情」という中国の伝統的徳目は、習氏と無縁な存在と指摘されている。反習派は、中国にゴマンと潜んでいるのである。

     


    私は日々、中国の経済危機を細大漏らさずに追っているが、もはや昔日の輝きがないことは繰返すまでもない。ここで、その経済的危機の根源を示せば、次の3点に要約できる。

     

    1)不動産バブルの後遺症がこれから本格化すること。

    2)住宅投資やインフラ投資主体の経済成長により、非効率投資が負担になっていること。

    3)出生率低下に伴う人口動態の急速な悪化で、潜在成長率が急悪化すること。

     

    前記の3点について、手短にコメントしておきたい。

     

    1)「共同富裕」を疎外している要因の一つに、住宅価格高騰がヤリ玉に上がっている。不動産バブルは、習政権が意図的に行いGDPを無理矢理、押し上げた原動力である。それが、行き過ぎたので、不動産開発企業に3つの財務比率の制約を設け、銀行融資規制を行っている。これをきっかけにして、例の中国恒大のデフォルト(債務不履行)が持ち上がっている。不動産開発企業の整理淘汰は不可避である。

     


    2)GDPを押し上げる目的だけで行なってきた住宅・インフラの投資が、中国経済の生産性を著しく引下げている。換言すれば、過剰債務を背負っていることだ。これが、他産業での必要投資を阻んでいる。中国経済の底上げに対して、大きな圧力になった。遅まきながら、この圧力を取り除かなければならない段階を迎えている。

     

    3)人口動態の悪化は、2011年から進んでいる。合計特殊出生率の低下だ。日本もそうであったが、最初はマイナス効果が目立たないものである。それが、10年を経過すると、「ガクッ」と落ちてくる。人間だって60歳の還暦時の体力はピンピンしている。それが、70歳を過ぎれば「やっぱり歳かな」と弱気を漏らす。人口動態も、全くそれと同じ現象である。

     

    還暦過ぎた中国経済の悩み

    以上のような要因によって、もはや中国経済に過大な期待を持つことは危険ですらある。潜在的な経済成長率は、急速に低下して当然になってきた。日本経済を顧みれば分かるように、国民全体が2000年前後から「異常」であることを認識した。金融機関の倒産が珍しくなくなったのだ。中国もこの状態へ突入するのは不可避である。

     


    中国は、2020年代に3%成長へ落込むと予測されている。前述の3要因が逆回転するのだから当然の話である。そうなると、中国では国民全体が共産党への忠誠心が薄れてくる。これが、中国共産党の最大危機である。忠誠心が薄れれば、共産党批判を始める。人権思想も生まれてくる。選挙で選ばれない政権が、銃剣で言論を弾圧している現状に不満を持って当然である。

     

    今回の「歴史決議」では、欧米式民主主義を採用しないと明記してある。選挙で選ばれた訳でもない中国共産党が、自らの権力基盤を守るため普遍的な政治制度である民主主義を拒否したのだ。この辺りに、中国経済の抱える矛楯がいかに大きいかを示している。

     

    習氏の「歴史決議」が、中国経済の危機を100%示したものであることは間違いない。このことから何が言えるか。「トゥキュディデスの罠」で注目された覇権国と新興国の争いの構図が、全く逆転することである。「トゥキュディデスの罠」を著書にしたアリソン教授によれば、覇権国の国力が低下し新興国が繁栄する結果、覇権戦争が起こったとされる。

     

    このアリソン説が、世界的に流布し最大の「信者」は中国であった。「米国の衰退:中国の繁栄」を信じて、「米国弱し」とする妄念に突き動かされ「戦狼外交」を行うまでになっている。(続く)

    外の記事もご参考に

     

    2021-11-04

    メルマガ307号 「衰退期」へ入った中国、コロナ禍さらなる重圧 「最後の藁」に気付かない

    2021-11-18

    メルマガ311号 習近平の「ジレンマ」、経済失速で立ち往生 台湾侵攻は「返り血浴びる」

     

     

     

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    米バイデン大統領は、北京冬季五輪への政府関係者の出席を拒否する「外交ボイコット」を検討中と答えた。米国が、外交ボイコットに踏み切る場合、同盟国との打合せがあるだろう。日本はどうするのか。

     

    中国は、こういう事態を見越して日本の林外相へ訪中を招待した。中国は,今夏の東京五輪へ閣僚クラスを送っている。日本はこれから「外交ボイコット」問題を検討するが、米欧と同調すべきことはいうまでもない。

     

    『日本経済新聞』(11月21日付)は、「北京五輪、岸田政権に懸念 米が外交ボイコット検討 人権巡る制裁、法律なく」と題する記事を掲載した。

     

    岸田政権の懸念材料として2022年2月に迫る北京冬季五輪が浮上した。バイデン米大統領が中国の人権問題を理由に外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」の検討を明言した。日本の同調を求める声が内外で強まる可能性がある。短期間で決断を迫られる事態も起こり得る。

     


    (1)「外交的ボイコットは国として開催への祝意を示さないメッセージになる。米国にはウイグルやチベットなどの人権問題、香港での民主化勢力への弾圧で中国側に強い姿勢を示す狙いがある。岸田文雄首相は19日、首相官邸で記者団に「日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と語った。現時点で同盟国や友好国に追随を求める米政府の発表はないが、年末にかけて米欧との協議で俎上(そじょう)にのることもあり得る。米国務省の報道官は4月、北京五輪に米選手団が参加するかを問われ「同盟国と議論したい」と答えた。5月にはペロシ下院議長が各国に外交的ボイコットへの賛同を呼びかけた。日本が北京五輪に派遣しなければ中国の反発が見込まれる。今夏の東京五輪は中国から閣僚級が来日した」

     

    下線部は、日本は米国と同調しない場合もあり得ることを示唆している。欧州では、中国の人権弾圧に嫌悪感を見せている。EU(欧州連合)が、対中政策で冷却化している現在、日本が、米欧の隊列を離れたパフォーマンスは、悔いを残すことになろう。はっきりと、現状が「冷戦下」という認識を持つべきなのだ。これと、日中外交は別に考えるべきである。

     


    (2)「過去の五輪の歴史をみるとボイコットはいくつかの段階に分けられる。最も厳しいのは選手団派遣の中止で、大規模な例に1980年のモスクワ五輪が挙げられる。米国が旧ソ連のアフガニスタン侵攻を非難し、同盟国に選手を派遣しないよう要請した。西ドイツや韓国など西側諸国を中心に50ほどの国が参加しなかった。日本も国内にボイコット反対論があったが、同盟国で安全保障を頼る米国に足並みをそろえた。84年の米ロサンゼルス五輪はソ連や東欧諸国、ベトナムなどが大会に加わらなかった」

     

    現状では、選手不参加問題は議論されていない。外交ボイコットである。中国は、東京五輪へ閣僚クラスを送ったが、最高指導部の人間でなかった。それほど、日本を重視した行動でなく、「お付き合い」程度であったのだ。日本が,このことを気にかける必要はない。

     


    (3)「選手団が開会式の入場行進や国旗・国歌の使用を拒否する方法もある。モスクワ五輪で英国、フランスなどは選手を派遣しつつ、開会式の行進に選手が参加せず、大会で自国の国旗・国歌を使わなかった。英仏の組織委員会は遺憾の意を示しつつ、参加を望む選手との折り合いをつけた。五輪では外交の一環で開会式や閉会式に政府代表を派遣する例が多い。それを取りやめる手法が今回米国の検討する外交的ボイコットだ。2008年の北京五輪の際も米議会や人権団体から当時のブッシュ大統領(第43代)に開会式不参加を求める声が上がった。中国政府のチベット自治区のデモ弾圧に批判が集中した。最終的には対中関係を考慮して出席した」

     

    日本は、欧米と協調して行動することが必要である。安全保障で欧米とスクラムを組む日本が、五輪だけは「別行動」はできないだろう。

     


    (4)「開催地変更を求める場合もある。米議会の超党派議員は今夏、22年の北京五輪を延期し、開催地も変えるよう国際オリンピック委員会(IOC)に要請した。米国内で北京五輪と1936年のベルリン五輪を関連付ける声がある。ナチスドイツの人種政策などが問題になっている状況で、米国は不参加を検討しながら踏み切らなかった。ポンペオ前国務長官は3月に「1930年代の出来事はいま、中国で起きている。ベルリン五輪によって開催国の政治体制に大きな信認を与えてしまった」と指摘した。

     

    下線部分の認識は正しい。ヒトラーがベルリン五輪をいかに利用したか、いま、史実がそれを明らかにしている。五輪はスポーツの祭典というが、政治ショーであることも忘れてはならない。

     

    (5)「中国の人権問題に対応するため、米欧は対中制裁を始めている。新疆ウイグル自治区の公安トップらの資産凍結を実施した。米欧主要国には人権侵害を理由として外国当局者に制裁を科す「マグニツキー法」と呼ぶ法律がある。欧州各国は制裁で米国と足並みをそろえる。日本には同様の法律がない。国際人権問題担当の中谷元・首相補佐官は15日、テレビ番組で法制定は「簡単にはいかない」と語った。人権問題に対応する手段が限られる日本は五輪への対応に焦点が集まることも考えられる」

     

    日本には海外の人権に関する法律がないから、中国の人権問題について見て見ぬ振りをする、というのは不思議な感覚である。法律問題より、倫理・道徳に関わる話である。当時の世界は、ベルリン五輪を盛大に祝ったが,その裏でヒトラーは何を企んでいたか。史実を検証すべきであろう。台湾侵攻が起こったらどうするのか。

     

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