勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    野党第一党である立憲民主党の枝野代表が12日、衆院選での議席減の責任を取り、正式に辞任した。後任を決める代表選は、19日告示、30日投開票の日程で行われる。

     

    立民党は、日本共産党とともに議席を減らした。総選挙で野党統一候補を出したことが、これまでの支持者離れをもたらした理由でないのか。そういう指摘が多い。本欄でも、この見方を早くから打ち出してきた。一方、自民党は「立憲共産党」と揶揄した演説をしていた。これが、立民党候補者から中道派を遠ざけたとする,自民党悪者説も流れている。

     

    諸説が入り乱れているが、立民党の地方組織が弱い点を指摘する向きもある。地方組織は労働組合である。連合は、野党統一に共産党を加えたことに強い不快感を示した。トヨタ労組は、候補者擁立を断念したほどだ。労働運動の現場では、共産党系労組と一般労組のせめぎ合いが厳しい。選挙運動では、この水と油の両組織が一緒に手を組むことの難しさを示しているのであろう。

     


    連合系労組が、共産党との共闘を拒んだ本当の理由は、安全保障であろう。共産党は、自衛隊違憲論、日米安保条約否定などと現在の世界情勢の流れから孤立している。現実論から見れば、異質の存在という認識であろう。この問題が、立民党の議席は減らしたのでないか。

     

    『日本経済新聞』(11月12日付)は、「立民、逆風の深淵 中朝は自民の『援軍』か」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の吉野直也政治部長である。

     

    選挙における外交・安全保障政策は票にならないという通説が崩れつつある。衆院選で負けた立憲民主党は枝野幸男氏が代表を辞任する。共産党との共闘が敗北の一因だ。共闘の何がマイナスに作用したのか。その深淵には中国と北朝鮮の存在がある。

    東アジアの安全保障上のリスクは中国と北朝鮮である。

     


    (1)「中国の習近平国家主席は任期を撤廃し、台湾との統一を公言する。国際法を無視して南シナ海に人工島を建設し、東シナ海の沖縄県尖閣諸島付近では挑発行動を続ける。日本最西端の沖縄県与那国島からわずか110キロメートルほどしか離れていない台湾での有事は、日本有事にほかならない。衆院選の公示日に弾道ミサイル発射実験をした北朝鮮の金正恩総書記の蛮行も同様だ。国連安保理決議を平然と破る北朝鮮は国際的な孤立を深めており、その暴挙には日米安全保障条約に基づく同盟関係を中心に対処するしかない」

     

    現行の日本憲法成立の時代背景は、自らの起した戦争の悲惨さを強く反省した結果である。現在は、海の向こうから仕掛けられる戦争の被害をいかに防ぐかが時代の要請になってきた。かつては、戦争加害者としての反省である。現在は、逆になって戦争被害者にならないための工夫が求められているのだ。こういう180度も変わった国際情勢の変化に対して、立民党は余りにも不用意であった。この点を、どうするのかが問われている。

     


    (2)「共産党が掲げる日米安保の廃棄と自衛隊の解消の政策は、東アジアの安保の実態と乖離(かいり)している。立民の外交・安保は日米安保が基軸だが、共産党の外交・安保の印象が重ね合わされ、支持を失った恐れがある
    。選挙での外交・安保への認識の変化は米国の大統領選にもみえる。伝統的には失業率など経済を含めた内政が当落を左右してきた。ベトナム戦争の是非や、イラン米大使館人質事件での失態なども選挙で取り上げられてきた。それでも投票行動は生活に直結する経済の要因が大きかった」

     

    (3)「その経済に外交・安保が絡み合ったのが2008年の大統領選であり、16年の大統領選だ。08年はブッシュ(第43代)大統領が始めたアフガニスタンとイラクの2つの戦争に疲弊した経済に直前のリーマン・ショックが重なり、オバマ氏を黒人初の大統領に押し上げた。16年はトランプ氏が中国との貿易赤字に批判の矛先を向けた。中国が軍事と経済の両面で急成長し、米国の覇権に公然と挑む姿勢もトランプ氏の対中国強硬論と共振した。対中脅威論は20年大統領選でも影を落とした。中国と親和性があるといわれてきた民主党候補のバイデン氏も中国には毅然とした態度で臨まざるを得なかった。大統領に就任してからもそれを堅持している」

     

    昔は、経済成長率と消費者物価上昇率が、米大統領選挙の帰趨を決めるといわれてきた。要するに、国内事情だけである。現在は、安全保障政策が大きく問われるという変化が起こっている。米国の覇権に挑戦する勢力の台頭を前にして、政治は国内要因に加え安全保障政策が問われるようになった。こういう時代変化の波に乗れない政策に固執したのでは、国家が重大危機に陥る事態になったのだ。

     


    (4)「再び日本。中国や北朝鮮が蛮行を繰り返せば、繰り返すほど共産党と連携する立民の外交・安保への不安は増す。それは自民党への間接的な「援軍」効果を生み、対中国、対北朝鮮強硬論に合理性を持たせる。外交・安保で自民党と大きな隔たりがない野党、日本維新の会の躍進も、底流にはその安心感がある。維新と国民民主党は立民や共産党、社民党との国会対策協議の場にはいない。反対のために実現性の乏しい政策を訴える旧来型の野党からの脱却をめざす。枝野氏の後任を選ぶ代表選は共産党との共闘を続けるのか、見直すかが争点だ。台湾有事は遠い国で起こり得る出来事ではない。立民が国家の根幹である外交・安保への不信を抱えたまま「表紙」を代えるだけなら、党再生の好機を自ら放棄することになる」

     

    総選挙の予測が外れたといわれている。それは、メディアが日本の安全保障危機を適確に捉えきれなかった証拠であろう。大物政治家が落選するなど、今回の総選挙は国民の意識が微妙に変わってきている。選挙権が、18歳以上に引下げられているのだ。この現実を忘れていたのでなかったのか。痛いところを突かれたのだ。

     

     

     

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    中国恒大は、広大な債務の海でこそ生きられたが、政府による債務制限によって「いけす」へ移された途端に生命の危機を迎えている。デフォルト・リスクと隣合せだ。

     

    総額で1億4800万ドル超となる利払い延期分は、今月10日までが猶予期間となっていた。この猶予期間内に支払えなければ、正式にデフォルト(債務不履行)という際どいところであったが、複数の債券保有者は3つのドル建て債で利払いを受け取ったと報道された。これで、ひとまずデフォルト宣言される危機を免れた。だが、12月28日には総額2億5500万ドル超の利払い期限を迎える。安心はできないのだ。

     

    中国当局は、恒大集団に対してゆっくりと「解体」させる方針を立てているとの報道が現れた。本欄では、すでに『フィナンシャル・タイムズ』の記事で紹介したが、これを追認する内容である。

     


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月11日付)は、「
    恒大集団をゆっくり『解体』、中国が探る着地点」と題する記事を掲載した。

     

    中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の信用不安を巡っては、経営が完全に崩壊し、広範囲にわたり甚大な影響をもたらすとの懸念が出ていた。だが、中国政府は水面下で恒大集団の「解体」をゆっくりと進めている。金融リスクの管理において、当局が数年ぶりの重大な正念場を迎えていると言えそうだ。

     

    (1)「計画では、恒大の一部資産を国内企業へと売却する一方、住宅物件の買い手や取引先企業への打撃を抑えることで、内部崩壊のプロセスをうまく管理することを目指している。内情を知る関係筋への取材や政府の公式発表から分かった。中国当局は不動産ブームを極端に冷え込ませないよう目配りしながら、解体計画を進める必要がある。恒大は3000億ドル(約34兆2000億円)の負債に苦しんでおり、これには200億ドル近いドル建て債が含まれる。関係筋によると、外国人投資家への配慮は優先事項ではない。だが、他の不動産開発業者への連鎖破たんを防ぐには健全な信用市場が不可欠で、中国のイメージ悪化に対する懸念もあり、当局は状況を注視している」

     

    ドル建て債への元利金支払いは優先事項でないという。酷い話である。貴重なドルを入手しながら、返済面では努力しないとは中国社会の一端を見せつけている。

     


    (2)「恒大の解体には、数年を要する見通しで、詳細の多くはなお詰める必要があるという。恒大が何らかの形で存続する可能性はあるが、その場合でも規模はかなり小さくなるとみられている。目下の最大の焦点は、凍結されている多数の仕掛かり物件で、他の開発業者に引き継がせる可能性が高い。恒大がプロジェクトを抱える約200都市の大半では、中国当局からの指示を受け、仕掛かり物件のプロセスを担う作業部会が設置された。地方当局はまた、会計士を起用して恒大による地元財政への影響を精査するとともに、仕掛かり物件の引き継ぎについて開発業者と協議し、不満を抱えた市民による抗議デモなどを監視する法執行チームを設置するよう命じられた」

     

    下線のように仕掛かり物件の完成を急ぐことが、最大の関心事になっている。すでに販売代金を受取っているだけに、物件を渡さなかったら大騒動に発展する。中国共産党の威信が掛かった問題である。ここが、市場経済国との大違いである。

     

    (3)「中国政府にとっての最大の懸念は、すでに資金を支払っている物件を買い手に確実に届けることだ。恒大は未完成のマンション100万戸余りを事前販売している。これらのマンション物件が完成しなければ、多くの家計に痛みを伴う損失が生じる恐れがある。不動産業界は中国経済の約4分の1、家計資産の大半を占める。地元当局は恒大に対して、未完物件からの収入を政府が管理するエスクロー口座に移管するよう義務づけた。関係筋によると、地方政府は物件の建設が継続できるよう、資金の一部を恒大のサプライヤーに振り向けている。

     

    不動産関連が、GDPに寄与する比率は25%。家計資産の大半が不動産である。ここで業界2位の恒大が倒産という「大乱」を起こせば、中国経済はひっくり返るのだ。なんとも、底の浅い経済ではないか。

     

    (4)「中国政府は同時に、恒大の資産売却も支援している。9月には、中国の金融規制当局が恒大に対して保有する盛京銀行の株式20%近くを国有企業に売却するよう迫った。事情を知る関係筋が明らかにした。恒大は程なく、売却で合意した。恒大はこれまで、不動産物件をサプライヤーや請負業者への借金返済に充てたと明らかにしている。先月にはプライベートジェット2機の売却で5000万ドル余りを調達。今月にはネットメディア会社の持ち株を一部売却して、1億4500万ドルを確保している。ただ、恒大の不動産管理部門の過半数株式を26億ドルで売却する交渉は先月、決裂した」

     

    中国政府が音頭をとって、恒大の資産売却を進めさせている。恒大創業者私有のジェット機・豪華なヨット・別荘など高価な資産まで売却リストに入っている。

     


    (5)「関係筋によると、恒大問題への対応に関与する当局者は、不動産市場に深刻な打撃を与えることなく、解体計画を成功させるのに十分な手段や経験を有していると考えている。中国当局は近年、海航集団(HNAグループ)をはじめ複数の企業の経営危機に対処してきた経験から、民間部門の危機管理に自信を深めているという。ただ、中国当局にとってのリスクは、自らの経済運営能力を過信することだろう。恒大の規模を踏まえれば、その危険は特に大きい。さらに開発業者への土地売却の落ち込みも懸念材料だ

     

    恒大集団は、業界2位の売上規模である。これが、営業停止になっていることは、それだけGDPへの寄与がないことだ。これは当然、業界他社の営業にも響いて行く。不動産開発事業で支えてきた中国経済は、大きな蹉跌に直面するのだ。同時に、土地売却益も減少するから、財政的にもピンチになるはず。下線のように、中国当局は過信していると、足元を掬(すく)われるであろう。

     

    (7)「規制当局は中国債券市場の信頼感を高めるため、オフショア債務の支払いを履行するよう、公の場で企業に促している。さらに当局は厳しい不動産抑制策の一部を緩め始めた。国営メディアが報じたところによると、一部の地域は住宅ローン規制を撤廃した。また地方政府は、買い手への補助金支給に乗り出し、住宅価格の下落を食い止めるよう動いている」

     

    下線部は、これまでとも経済が苦しくなると、必ず緩和策に出てバブルの手助けをしてきた。また、この悪い癖が出ているが、今度ばかりは効果も薄いだろう。消費者が、過剰供給という実態を知ってしまったからだ。

     

     

     

     

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    米軍は、中国のミサイル攻撃への防衛に向けて着々と手を打っている。中国が、さしずめ攻撃対象にする可能性が高いと見られるグアム防衛に全力を挙げるという。

     

    アイアンドームとは、ロケット迎撃システムである。イスラエルが今年5月、パレスチナから撃ち込まれる数千発のロケット弾や迫撃砲を迎撃して成功した。その対空防衛システム「アイアンドーム」が目下、中国からの攻撃リスクを警戒する米軍によってグアムで試験運用されている。

     

    イスラエルのアイアンドームは、米国から16億ドル(約1750億円)の支援を受けて構築され、2011年から実戦配備されている。砲台とレーダーをつなぐネットワークで構成され、人口密集地を標的とするロケット弾を迎撃する一方で、空き地に向かっていると判断すれば放置する仕組みだ。過去のハマスとの軍事衝突でも使われたが、ここまでハマスが同時にこれだけ多数のロケット弾を連発したのは今回が初めてである。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月10日付)は、「
    米がグアムでアイアンドーム試験、中国ミサイル想定」と題する記事を掲載した。

     

    アイアンドームが迎撃できるのは特定のミサイルに限られている。米国はこれとは別に、宇宙空間から下降して標的を攻撃する中国の弾道ミサイルの脅威に備えるため、さらに防衛能力を強化する計画だ。アイアンドームの試験運用は、最大の脅威として警戒する中国の軍拡に対処するため、米国が多岐にわたる軍装備をアジア太平洋地域に振り向けている現状を浮き彫りにする。

     

    (1)「米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛プロジェクト責任者、トム・カラコ氏は「空軍基地などを構えるグアムを防衛できなければ、太平洋で米国の軍事力を誇示することは難しい」、こう指摘する。グアムは太平洋にある米領土の島で、民間人・軍人あわせ約19万人が暮らす。グアムにある米空・海軍と海兵隊の基地は、中国から約1800マイル(約2900キロ)の距離にあり、米領土にある米軍基地としては中国に最も近い」

     


    グアムは、アジアにおける米軍の象徴的な基地である。ここが、中国の攻撃で被害を受けたとなれば、沽券に関わるという意識なのだろう。中国は、グアムを攻撃すれば、海中の米攻撃型原潜がミサイル攻撃して「お返し」されることを計算に入れなければならない。米軍から蜂の巣にされる危険性が高いのだ。

     

    (2)「中国は8月、核弾頭を搭載可能な極超音速ミサイルの発射実験を行った。このミサイルは、宇宙空間から下降した後、飛行軌道が予測困難なため防衛システムの探知をくぐり抜ける恐れがあると警戒されている。中国はまた、グアムを射程に入れるとみられるシースキミング(超低空飛行)巡航ミサイルを発射できる爆撃機を増強し、これを誇示している。アイアンドームが導入される理由はここにある」

     

    中国は、極超音速ミサイルの発射実験を行っている。米軍は厳重な警戒体制である。アイアンドームを導入して被害を食止める戦略だ。

     


    (3)「アイアンドームは、イスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが米防衛大手レイセオン・テクノロジーズの協力を得て開発した。最長40マイル離れたところから発射される短距離ロケット弾や迫撃砲――パレスチナがイスラエルを攻撃するために使うような兵器――を破壊するよう設計されている。米議会は2019年、アイアンドームシステム2基を約3億7300万ドル(約420億円)で購入するよう指示。そのうち1基は本年度までに作戦区域に配備すべきとしていた」

     

    アイアンドームは、イスラエルで敵にとっては脅威的な防御率を示した。大量のミサイルがレーダーと高度なコンピューターシステムを駆使して、飛来するロケット弾を追跡し、その90%を撃ち落とすことに成功したという。

     

    (4)「巡航ミサイルは水平の直線軌道を進むため、パレスチナのロケット弾よりもミサイル防衛レーダーによる探知が難しく、一部は速度もはるかに上回る。前出のカラコ氏は「アイアンドームは暫定的な解決策に過ぎない」とし、最速の巡航ミサイルからの脅威に対しては有効ではないと述べる。しかし、アイアンドームは音速を下回るスピードの巡航ミサイルについては、一定の迎撃能力があることを示している。これには中国がグアムを標的に爆撃機から発射する可能性があると米国防総省が指摘している巡航ミサイル「長剣(CJ20」も含まれる。米軍が8月、ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場で行ったアイアンドームの実験では、8発の巡航ミサイル模擬標的の破壊に成功した」

     

    米軍は、すでに中国を仮想敵国としている。中国が米国と戦うことは、米同盟国が参戦することでもある。中国の食料自給率は最近、74%見当まで低下している。開戦になれば、海上輸送はストップする。グローバル経済に組み込まれている中国が、経済封鎖で受ける損害は大きなものがあろう。事態の推移によっては、中国国内で「反習近平」騒動が持ち上がらないとは限らない。無益な戦争はやるべきでないのだ。

     

     

     

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    中国の不動産開発大手である中国恒大の経営不安は、中国経済の土地依存性の大きさを世界中に告知することになった。中国経済は、土地が値上りし続けない限り、成長しないというあり得ない前提に立っている特異な構造なのだ。

     

    住宅不況は、住宅仲介企業大手である中原地産の上海・深圳市のオフィスで約1000人を削減する方針という。ジワジワと影響が広がってきた。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月9日付)は、「中国当局 不動産価格の安定へ規制 乱高下恐れる」と題する記事を掲載した。

     

    中国中部の湖北省武漢市では、新築住宅価格がこの1年で6%上昇している。だが10月に入ると、さらに気がかりな傾向が続いていきそうな兆しが出てきた。ある不動産会社が10月、開発物件の販売価格を最大30%引き下げたことを受け、すでに売買契約を結んでいた住宅購入者たちが抗議デモを起こした。国営メディアは先週、数人のデモ参加者が拘束されたと報じた。武漢で起きた問題は、国内の不動産会社を襲う危機が住宅価格を圧迫していることを示す最新の兆候だ。すでに中国経済全体を脅かしている不動産の減速を巡り、緊張感が高まっている。

     


    (1)「当局はここ数年、家計資産の大部分を占める不動産部門でバブルが発生しないよう、価格の上昇を慎重に抑制する措置を導入してきた。だが、不動産業界全体が縮小し、多くの企業がすでにデフォルト(債務不履行)に陥っているいま、一部地域では当局が価格の逆方向の動きを阻止する対応にも乗り出している。野村の中国担当チーフエコノミスト、ティン・ルー氏は「価格規制とは上限を設けることだけではない。地方政府は価格の急激な下落も恐れている」と指摘する。「不動産会社の過度な値下げ競争は防ぎたい考えだ」という」

     

    中国当局は、住宅価格が高値横ばいを維持できれば、最も理想的であるに違いない。住宅価格が値崩れしないかぎり、土地売却益は一定金額を維持して、歳入に貢献できるからだ。だが、この思惑は崩れかけている。住宅価格の下落が始まっているからだ。

     

    中国の不動産仲介大手・中原地産は4万人近くの従業員を抱えている。だが、昨今の住宅市況悪化を背景に、上海・深圳市のオフィスで約1000人を削減する方針だという。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月9日付)が報じた。仲介大手で人員削減始まったのは、住宅不況が本格化してきた証拠である。

     


    (2)「河北省の山間部に位置する張家口市では、2022年北京冬季五輪の競技エリアを擁することから価格が上昇していたが、最近は急落している。地元当局は9月、新築住宅を元値の85%未満で販売することを禁じるルールを導入した。価格の「二重の安定」を図るという。
    湖南省岳陽市や広西チワン族自治区桂林市など、他の都市でも同様の措置が講じられている。遼寧省瀋陽市は「不動産市場の健全な発展」を推進するため、過度な価格上昇と下落の双方を制限する「双方向の規制」を導入した。中国紙の毎日経済新聞によると、武漢の開発は同地域で最も需要の高いプロジェクトの1つとみなされてきた。だが現在は、新築物件の値下げが価格全般に及ぼすリスクを浮き彫りにしている」

     

    北京冬季五輪の競技エリアの張家口市では、9月に住宅価格の急落に見舞われている。地元政府では、約15%の値引き販売を禁じるルールを導入した。住宅価格の急落は、新たな土地需要にブレーキになって、地方政府の歳入にマイナスとなるからだ。地価と歳入が直結するという、世にも稀な「バブル連結構造」である。

     


    (3)「野村によると、20年は新築住宅の購入額が15兆5000億元(約273兆円)と、中古住宅の7兆3000億元の2倍以上に達した。新築住宅需要は中国の不動産会社の成長を後押しした一方、債務増加にもつながった。各社は昨夏以降、債務を削減するよう政府から圧力を受けている。大手の中国恒大集団が資金繰り難に直面し、複数の同業他社がデフォルトに陥ったことを受け、多くの企業はビジネスモデルを維持できるだけの現金を急いで捻出しようと、物件の値下げに動いている」

     

    中国当局は、不動産開発企業に財務3原則を作って、債務依存経営への脱出を求めている。だが、これまでが野放図な経営であったので、この財務3原則は急ブレーキになっている。債務返済には資産の現金化が、最も手っ取り早い方法であるので値引き販売は当然だ。これが、各社一斉となれば、市況急落は免れない。企業も政府も一蓮托生になる。

     


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月9日付)は、次のように指摘している。

     

    「中国の金融情報サービス大手、万得信息技術(ウインド)によると、2020年の土地売却収入は1兆3000億ドルと、地方政府歳入の84%に相当しており、その比率は19年の70%、15年の37%から着実に上昇している。だが、今後は不動産市況の冷え込みに伴い、土地売却も落ち込む見通しだ」

     

    「地方政府による土地売却が細れば、中国のもう1つの成長エンジンであるインフラ投資に回す体力が衰え、積み上がる債務を返済する能力も弱まるだろう。ゴールドマン・サックス では、地方政府の投資事業体が抱える債務(地方政府がよく使う簿外融資を得るための手法)が、2020年末時点で中国GDPの52%に到達したと分析している」

     

    中国経済は、完全な「土地本位制」である。私は、中国経済を分析するにあたり土地との関係を繰り返し指摘してきたが、このWSJの分析によって、中国経済の問題点が洗いざらい示されている。不動産バブルの沈静化は、中国経済の「死」を意味する。

     


    (4)「米金融大手シティグループのアナリストは10月、当局は「不動産価格に下限を導入することで、恒大集団の投げ売りに起因する価格下落を阻止しようとしている」との見方を示した。ただ、価格を規制すると「取引が枯渇する」ため「通常はうまくいかない」と付け加えた

     

    中国当局は、住宅価格を規制して下落を防止する動きに出ているが、これは取引量を減らして不動産市場を死に追いやる危険性がある。そうなれば、当局も大きな被害を受けるはずだ。自由市場への介入は、こういう事態を迎え、最後はお手上げになるのだ。

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    生涯にわたる最高指導者の地位

    国内外に蒔く波乱の芽どう潰す

    共同富裕へ逆行する中国共産党

    奈落の底へ突き落とされる危機

     

    習近平中国国家主席は、1953年6月15日生まれである。まだ、68歳だ。来年秋で国家主席に就任して2期10年となる。70歳前で現役を引退するにしては、余りにも政治的に「危険」過ぎる話だ。

     

    習氏はこれまで政敵をことごとく追放してきた。二人の元幹部は、終身刑で獄窓に繋がれている。当然、「反習近平派」は復権のチャンスを狙っている。こういう状況下で、習氏が現役を引退するには危険なのだ。そこで、「終身国家主席」として権力を握って、身の安全を図らざるを得ないのだろう。これが、中国政治の姿であろう。

     


    中国は、
    中央委員会第6回全体会議(六中全会)の終わる11月11日、「歴史決議」を発表と報じられている。その日は今日だ。いかなる内容になるか不明であるが、大方の見当はついている。習近平氏を「終身国家主席」にするのであろう。あるいは、そういう文言はないとしても、「習近平思想」を絶対不可侵なものと位置づけるのであるまいか。過去2回の「歴史決議」はそのような扱いであった。

     

    生涯にわたる最高指導者の地位

    中国共産党は過去100年間に二度、「歴史決議」を採択している。

     

    1回の決議は、新中国の建国前だった1945年に毛沢東が主導して起草した文書だ。

    2回の決議は、「改革・開放」政策に舵を切った鄧小平らが1981年に起草した。毛沢東が発動して多大な犠牲者を出した文化大革命(文革、1966~76年)を否定する一方、毛の功績も認めている。

     

    こういう歴史的経緯を見ると、今回出されるという「第3の歴史決議」がいかなる位置を占めているかを示唆している。習近平氏が、毛沢東、鄧小平に次ぐ第3の「偉大な政治指導者」の位置を獲得することだろう。毛沢東、鄧小平は、これによって生涯にわたり最高指導者の地位を保障された。

     


    習氏は、身の安全を保証される厚遇を受けるが、今なぜこの段階でこのような栄誉を自ら求めたのか。自ら叙勲を決めて受けるような話だけに、改めてその背景を精査することで、中国の将来展望が可能になろう。

     

    習近平氏による第3回の歴史決議モデルは、鄧小平ではなく毛沢東とされている。習氏は、鄧小平を超えた存在になったと自負しているからだ。これは、本人の言分で第三者の評価でない。習氏が、ここまで鄧小平を意識するのは、習氏の実父が首相になりたい夢を鄧が砕いたからとされる。習氏が、そういう私憤によって鄧小平へ対抗しているとすれば,お門違いも甚だしい。鄧が、毛の残した文化大革命の混乱を収束させ、経済復興の基礎を固めた功績は、習氏の遠く及ばないところだ。

     

    毛沢東は、1945年の「歴史決議」の前段として反対派を粛清する第1期の「整風運動」を展開した。そして歴史決議と同じ45年、最高指導機関を取り仕切る最高位として新設された党中央委員会主席のポストに就いた。この地位は、毛が死去する76年まで変わらなかった。

     


    習氏が、毛沢東の「歴史決議」に憧れるのは、毛が中国共産
    党中央委員会主席のポストに居続けたことにあるのだ。習氏は今後、国家主席のポストを離れることはあっても、共産党中央委員会総書記ポストを握り続けたい根拠として、「歴史決議」を利用するのであろう。これによって、「終身皇帝」の座を維持できると踏んでいるに違いない。

     

    国内外に蒔く波乱の芽どう潰す

    習氏がここまで「主席」ポストに拘るのは、自らの身の安全という理由だけでない。それは、習氏が仕掛けた国内と海外への挑戦が大きな波紋を招いていることである。

     

    1)国内では、不動産バブルを意識的に利用してGDP成長率を押し上げたことの矛楯解決である。不動産バブル崩壊の後遺症は、短期に収束するものでない。日本の例を見ても分かるように、10年単位の話である。日本は,「失われた20年」と喧伝されたが、中国も日本と同様に、人口動態の悪化から見て「失われた20年」になる懸念が大きい。この間に、中国経済は途端の苦しみに遭うはずだ。この矛楯の噴出をどう抑えるのかである。

     

    2)海外では、「戦狼外交」がもたらした「反中国意識」を世界中に広げたことである。具体的には、2020年6月、香港への強引な「国家安全維持法」導入が、中英協定の「一国二制度」を一方的に破棄することになった。これが、中国への信頼度を一気に崩したのだ。さらに、台湾侵攻を広言して、台湾空域へ中国軍機を連日送り込んで威圧するなど、にわかに、台湾問題が国際問題として浮上している。香港の民主化弾圧の嵐が、台湾へ広がるという民主主義国側での危機感を高めている。こうして、欧州を含めた「中国包囲網」が、形成されてきたのである。

     

    こういう内外で、二つの難問を抱えたのが習近平氏である。国内と海外で処理を誤れば、その責任は、全て習氏にはね返るのである。そのとき、習氏は責任あるポストに就いて居なければ、「欠席裁判」で全て習氏の責任にされる。事実、問題の発端は習氏の決断が引き起したものである。それだけに、手綱を握っていなければどんな晩節になるか余りにも危険過ぎるのだ。習氏は、「歴史決議」で身に余る栄誉に浴した。後は、晩節を汚さないように、このカードを御神体同様に守ることだ。(つづく)

     

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