野党第一党である立憲民主党の枝野代表が12日、衆院選での議席減の責任を取り、正式に辞任した。後任を決める代表選は、19日告示、30日投開票の日程で行われる。
立民党は、日本共産党とともに議席を減らした。総選挙で野党統一候補を出したことが、これまでの支持者離れをもたらした理由でないのか。そういう指摘が多い。本欄でも、この見方を早くから打ち出してきた。一方、自民党は「立憲共産党」と揶揄した演説をしていた。これが、立民党候補者から中道派を遠ざけたとする,自民党悪者説も流れている。
諸説が入り乱れているが、立民党の地方組織が弱い点を指摘する向きもある。地方組織は労働組合である。連合は、野党統一に共産党を加えたことに強い不快感を示した。トヨタ労組は、候補者擁立を断念したほどだ。労働運動の現場では、共産党系労組と一般労組のせめぎ合いが厳しい。選挙運動では、この水と油の両組織が一緒に手を組むことの難しさを示しているのであろう。
連合系労組が、共産党との共闘を拒んだ本当の理由は、安全保障であろう。共産党は、自衛隊違憲論、日米安保条約否定などと現在の世界情勢の流れから孤立している。現実論から見れば、異質の存在という認識であろう。この問題が、立民党の議席は減らしたのでないか。
『日本経済新聞』(11月12日付)は、「立民、逆風の深淵 中朝は自民の『援軍』か」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の吉野直也政治部長である。
選挙における外交・安全保障政策は票にならないという通説が崩れつつある。衆院選で負けた立憲民主党は枝野幸男氏が代表を辞任する。共産党との共闘が敗北の一因だ。共闘の何がマイナスに作用したのか。その深淵には中国と北朝鮮の存在がある。
東アジアの安全保障上のリスクは中国と北朝鮮である。
(1)「中国の習近平国家主席は任期を撤廃し、台湾との統一を公言する。国際法を無視して南シナ海に人工島を建設し、東シナ海の沖縄県尖閣諸島付近では挑発行動を続ける。日本最西端の沖縄県与那国島からわずか110キロメートルほどしか離れていない台湾での有事は、日本有事にほかならない。衆院選の公示日に弾道ミサイル発射実験をした北朝鮮の金正恩総書記の蛮行も同様だ。国連安保理決議を平然と破る北朝鮮は国際的な孤立を深めており、その暴挙には日米安全保障条約に基づく同盟関係を中心に対処するしかない」
現行の日本憲法成立の時代背景は、自らの起した戦争の悲惨さを強く反省した結果である。現在は、海の向こうから仕掛けられる戦争の被害をいかに防ぐかが時代の要請になってきた。かつては、戦争加害者としての反省である。現在は、逆になって戦争被害者にならないための工夫が求められているのだ。こういう180度も変わった国際情勢の変化に対して、立民党は余りにも不用意であった。この点を、どうするのかが問われている。
(2)「共産党が掲げる日米安保の廃棄と自衛隊の解消の政策は、東アジアの安保の実態と乖離(かいり)している。立民の外交・安保は日米安保が基軸だが、共産党の外交・安保の印象が重ね合わされ、支持を失った恐れがある。選挙での外交・安保への認識の変化は米国の大統領選にもみえる。伝統的には失業率など経済を含めた内政が当落を左右してきた。ベトナム戦争の是非や、イラン米大使館人質事件での失態なども選挙で取り上げられてきた。それでも投票行動は生活に直結する経済の要因が大きかった」
(3)「その経済に外交・安保が絡み合ったのが2008年の大統領選であり、16年の大統領選だ。08年はブッシュ(第43代)大統領が始めたアフガニスタンとイラクの2つの戦争に疲弊した経済に直前のリーマン・ショックが重なり、オバマ氏を黒人初の大統領に押し上げた。16年はトランプ氏が中国との貿易赤字に批判の矛先を向けた。中国が軍事と経済の両面で急成長し、米国の覇権に公然と挑む姿勢もトランプ氏の対中国強硬論と共振した。対中脅威論は20年大統領選でも影を落とした。中国と親和性があるといわれてきた民主党候補のバイデン氏も中国には毅然とした態度で臨まざるを得なかった。大統領に就任してからもそれを堅持している」
昔は、経済成長率と消費者物価上昇率が、米大統領選挙の帰趨を決めるといわれてきた。要するに、国内事情だけである。現在は、安全保障政策が大きく問われるという変化が起こっている。米国の覇権に挑戦する勢力の台頭を前にして、政治は国内要因に加え安全保障政策が問われるようになった。こういう時代変化の波に乗れない政策に固執したのでは、国家が重大危機に陥る事態になったのだ。
(4)「再び日本。中国や北朝鮮が蛮行を繰り返せば、繰り返すほど共産党と連携する立民の外交・安保への不安は増す。それは自民党への間接的な「援軍」効果を生み、対中国、対北朝鮮強硬論に合理性を持たせる。外交・安保で自民党と大きな隔たりがない野党、日本維新の会の躍進も、底流にはその安心感がある。維新と国民民主党は立民や共産党、社民党との国会対策協議の場にはいない。反対のために実現性の乏しい政策を訴える旧来型の野党からの脱却をめざす。枝野氏の後任を選ぶ代表選は共産党との共闘を続けるのか、見直すかが争点だ。台湾有事は遠い国で起こり得る出来事ではない。立民が国家の根幹である外交・安保への不信を抱えたまま「表紙」を代えるだけなら、党再生の好機を自ら放棄することになる」
総選挙の予測が外れたといわれている。それは、メディアが日本の安全保障危機を適確に捉えきれなかった証拠であろう。大物政治家が落選するなど、今回の総選挙は国民の意識が微妙に変わってきている。選挙権が、18歳以上に引下げられているのだ。この現実を忘れていたのでなかったのか。痛いところを突かれたのだ。