勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

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    韓国では、コロナ感染者が急増して社会問題になっているだけでない。ディーゼル車に不可欠な尿素水の原料の尿素が、中国からの輸入が止まって大騒ぎである。間もなく、バスの運行にも支障が出るという事態に発展している。日本では、こういう問題は起こっていない。尿素水の原料であるアンモニアの8割を国産で賄っている結果だ。

     

    韓国紙『東亞日報』(11月6日付)は、「路線バス、尿素水品薄で来週から運行に支障」と題する記事を掲載した。

     

    ディーゼル車両の運行に必要な尿素水の品薄現象で、直ちに来週初めから一部の地域では「庶民の足」であるバス運行に支障を来たすものとみられる。宅配などの物流業界でも、来週からは運休する貨物車が登場するものと予想している。尿素水事態は物流大乱を超え、建設現場や農家、廃棄物回収などへと広がり、日常生活全般を脅かすだろうという危機感も高まっている。



    (1)「東亜(トンア)日報が5日、全国バス運送事業組合連合会の全国路線バスの尿素水の在庫現状を入手して分析した結果、全国4万5024台の路線バス(市内外の農漁村高速バス)のうち34.8%に必要な尿素水の在庫は、年末になれば底を打つ。京畿道(キョンギド)と全羅北道(チョンラブクド)は5日基準で、在庫が3日分しか残っていないバス会社もあり、直ちにバスの運行に支障を来たすものと見られる。特に、農漁村、僻地に投入される農漁村バスの尿素水使用の割合は77.2%で大きく、バスが唯一の公共交通手段である地域では、市民の足が奪われる恐れもあるという懸念が出ている

     

    地方での尿素水不足が深刻である。農漁村ではバスが唯一の公共交通手段だけに、尿素水不足に見舞われれば即、運行中止の危機に見舞われる。

     

    (2)「トラック運転手らは、尿素水を1リットルでも多く手に入れようと必死になっており、ガソリンスタンド周辺では、各貨物車が尿素水を入れるため、長蛇の列を作り、周辺道路では激しい交通混雑が起きている。特に宅配車や小型貨物車を運行する個人事業者は、「直ちに仕事ができない」と焦っている状況だ。大統領府は5日、尿素水需給の安定に向け、大統領府内の関連秘書官室が共同で参加するタスクフォース(TF)を立ち上げ、同日から一日非常点検体制で運営していくことにした。安日煥(アン・イルファン)経済首席がTFチーム長で、政策室および国家安保室秘書官らがチーム員として参加する。産業通商資源部は素材・部品・装備(素部装)需給対応支援センターを通じ、尿素輸入業界の輸入契約の現状と具体的な遅れの理由に関する資料を収集し、中国に改善事項を要請する予定だ」

    トラック運転手らは、尿素水がなければディーゼル車を動かせず死活問題になる。ガソリンスタンド周辺は、尿素水を入れるために大渋滞に陥っているという。政府も対策に動き出しているが、妙案はあるわけでない。輸入先が中国であるだけに、顔色をうかがっているとメディアは批判している。

     


    『朝鮮日報』(11月5日付)は、「韓国で尿素水品薄騒動、中国の顔色ばかりうかがう政府」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「中国の輸出規制に端を発する尿素水の品薄現象で混乱が拡大している。尿素水の原料である尿素の97%を中国産に依存しているため、中国が尿素輸出を中断したことで、ディーゼル乗用車133万台、貨物車55万台の計216万台が走れなくなる危機に直面したのだ。混乱が長期化すれば、宅配、貨物トラックだけでなく、消防車、救急車まで運転できなくなり、物流と公共セーフティーネット全体がまひしかねない懸念が高まっている」

     

    尿素水不足は、9月15日に中国が突然、尿素の輸出を禁止したことで発生した。中国国内の石炭不足で尿素生産が急減し、価格が高騰したため、輸出を規制し価格安定を図ったものだ。措置を受け、中国国内では尿素価格が安定に向かったが、韓国が打撃を受けることになった。

     

    韓国のネットは、日本の半導体素材輸出手続き規制強化で、あれだけの「反日運動」を行った。中国の尿素輸出禁止に対しては、「反中運動」をしないで、ただ「困った,困った」の連発である。余りにも対応が異なるという政府批判も出ている。

     

    (4)「10リットルが9000~1万ウォンだった韓国の尿素水販売価格は最近10万ウォンを超えた。尿素水10リットルで乗用車なら8000~1万キロを走ることができるが、大型トラックは300~400キロしか走れないため、供給不足による価格高騰が深刻化している。地方自治体も対応に追われている。ソウル市は最近管内の消防署に尿素水を使う非出動車両の運行を中止するよう命じ、ソウル地域のガソリンスタンドには尿素水の優先供給を求めた。緊急状況で最も早く動かなければならない消防車、救急車まで止まりかねない状況に直面した格好だ

     

    韓国国内での尿素水価格は、10倍にも跳ね上がっている。価格急騰は、品不足を反映しているので消防車や救急車まで、止まりかねないという深刻な事態である。

     


    韓国が尿素・マグネシウム・希土類など必須原材料の需給難に直面しているのは、中国に対する輸入依存度が高すぎるためだ、と指摘されている。希土類を原料とする永久磁石は86.2%、水酸化リチウムは83.5%を中国に頼っている。韓国貿易協会が国内輸入品1万2586品目を分析したところ、中国の比率が80%以上の品目は1850品目に達したという。米国(503品目)、日本(438品目)、ドイツ(121品目)、イタリア(108品目)を大幅に上回った。以上は,『朝鮮日報』(11月6日付)が報じた。


    文政権は、「脱日本」を掲げて気勢を上げた。これでは、「脱中国」も叫ばなければならない状態である。こういう尿素水問題が起って初めて、日本の方がはるかに実損のない方法であったかを知ったであろう。日本は、輸出禁止でなく「輸出手続き規制」であった。現実に、韓国の必要とする半導体3素材は全量、輸出していたのだ。

     

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    18世紀後半から始まった産業革命では、企業にとって大量生産によるコストダウンが、大きな生残り条件であった。この250年以上も続いてきた「掟」が変わろうとしている。コストもさることながら、必要な時に確実に入手できるという安全性が、企業の生残り条件というのである。

     

    こういう状況変化を決定的にさせたのが、昨年1月からのコロナ・パンデミックである。感染症拡大によるロックダウンによって、サプライチェーンは寸断され、その悪影響は今日に至るも続いている。供給の安全性が、企業の注目点になってきた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月2日付)は、「コロナで変わる企業経営、さらば外部委託」と題する記事を掲載した。

     

    国際貿易の機能が低下する中、企業経営者らは少なくとも短期的には、国外のパートナー企業とのつながりや、グローバル経済の利点に関する社会的通念を捨て、たとえコスト高になるとしても信頼性を高める道を選び始めている。一部企業は、労働力と生産施設を自社の近くに移したり、工場とサプライヤーとの距離を縮めたりしている。他の企業は、サプライヤーを買収したり、従来の外注業務を社内に取り込んだりしている。

     


    (1)「大手多国籍企業の多くの経営幹部は1世代以上の期間にわたって、実績のある戦略を活用してきた。その戦略は、コスト削減のため、遠隔地に低コストの製造施設を確保し、低スキルの仕事を外部委託し、ジャスト・イン・タイムの生産方式と海上輸送に依存するというものだった」

     

    中国が、世界のサプライチェーンの核になれたのは人件費の安さであった。大量生産によるコストダウンが、企業間競争の重要条件であった。この条件は今、大きく崩れた。安定した供給が保障されなくなったのである。このことによって、顧客を他企業に奪われかねない事態を迎えている。需要が安定的な伸びとなっており、顧客喪失が大きな損害をもたらすことになった。

     

    (2)「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて多くの企業は、原材料の調達のほか、生産部門労働者の採用、海上輸送のスペース確保などでもトラブルに直面することになった。投入資源の不足やサプライチェーン(供給網)の目詰まりによって、スニーカーから航空便、マクドナルドの朝食サービスに至るまで、すべての商品・サービスの量と質の確保が困難になった」

     

    一つの製品が、部品から加工まで一カ所で生産される時代ではなくなった。大袈裟に言えば、地球規模での分散化が行なわれている。それだけ、供給寸断のリスクが高まってきた。それを世界で最初に気付かせたのは、2011年の東日本大震災である。ここでの部品供給ストップが、世界製造業に影響を与えたのである。10年経ってますます、サプライショックのリスクが拡大されるようになっている。

     


    (3)「ゴールドマン・サックス とデル・テクノロジーズの役員でもあるカルマン氏によれば、自動車や医療、耐久消費財などの業界の一部顧客企業が、これまで欧州やアジアの製造施設に依存していた構造を、より南北米大陸重視の方向に変えることを望むようになってきたという。カルマン氏は「これら企業は現在、遠く離れた、極めて効率的ではあっても極めて柔軟性の低いサプライチェーンによって窮状に追い込まれ、商機を逃していることに気付き始めている」と指摘する」

     

    下線の重大性が、世界的に認識されるようになった。

     

    (4)「また、『こんな事態は2度と起きないので、必要なのは短期的な対応だ』と言う人がいる一方で、『われわれが想像していた以上に頻繁にこうした事態が発生するだろう』と言う人もいる。世界はこれまでとは大きく変わった。問題はパンデミックだけではない。天災もある。南部では洪水が発生した。竜巻、ハリケーンもある」とカルマン氏は語った。

     

    サプライチェーンの中断は、パンデミック以外にもある。異常気象の頻発である。一地点での生産拠点が持つ危険性を認識さたので、全世界へ広げる可能性がでてきた。それを支えるのは第5次技術革新である。「多品種少量生産」が、コスト増をもたらさなくて実現できる可能性が強まっているのだ。

     


    (7)「ベネトンの幹部らは、サプライチェーンでの遅れやコスト上昇の克服方法について検討することに今夏を費やした。同社の生産の約58%はアジアで行われている。ラオス、カンボジア、中国、タイのサードパーティー・メーカーを利用すればより安上がりになる。しかし、ベネトンCEOのレノン氏によれば、こうした場所では製造や素材が品質基準に合っているかどうかを確認するため定期的に現地を訪問する必要があるほか、生産のタイミングなどいくつかの面も同社の国外事業の監督下に置かれていない。計画では、今後1年から1年半の間にアジア拠点の生産を半減させ、その工程を地中海沿岸諸国に移転させる。同社によれば、この移転により輸送コストは削減され、出張期間は数週間から1週間へと短縮される」

     

    ファッションのベネトンは、イタリアが拠点である。今後1年半の間にアジア拠点の生産を半減させ、その工程を地中海沿岸諸国に移転させる。これによって、輸送コストや出張コストを削減可能という。製造業はアジア、という固定観念が揺らぐことになった。

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    中国の不動産開発大手、中国恒大は約3000億ドルの債務残高を抱えて資金繰りで苦闘している。債権者は、創業者である許家印会長の所有する資産に目を付け債務不履行前に、資金回収すべく必死である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月6日付)は、「中国恒大、デフォルト回避にプライベートジェット売却」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産開発大手、中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)は先月、プライベートジェット機2機を売却して5000万ドル(約57億円)余りを調達し、ドル建て債の利払いに充ててデフォルト(債務不履行)を回避した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

     


    (1)「関係者およびビジネスジェットに関するデータベースによると、米国の航空機投資家がジェット機を購入したという。中国恒大は先月、期限を過ぎた2本のドル建て債について30日間の猶予期間の終了間際に利払いを実施したが、ジェット機2機の売却手続きも同月に完了していた。オンライン上の記録や事情に詳しい関係者によれば、中国恒大は直近で4機のプライベートジェット機を所有しており、さらに1機を発注していた。同社の創業者である許家印会長は、その全盛期に豪華なジェット機を購入し、自身や幹部らが世界各地に移動する際に利用していた」

     

    中国恒大は、直近で4機のプライベートジェット機を所有。さらに1機を発注していたという。経営危機の実態を無視した動きだ。

     

    (2)「中国恒大が先月売却した社用ジェット機「ガルフストリーム」2機は、保有ジェット機の中では小型のもの。同社は現在、より大型で通路が2つあるエアバスのワイドボディー機「ACJ330」の売り出し広告を出している。事情に詳しい関係者1人によると、中国恒大が数年前に2億2000万ドル強で購入した同機は香港国際航空で保管されている。同社の負債総額は6月末時点で約3000億ドルに上り、この中には約200億ドルのドル建て債が含まれている。中国恒大は来週も、相次いで社債の利払い期限を迎える」

     

    大型で通路が2つあるエアバスのワイドボディー機「ACJ330」の売り出し広告を出しているという。航空会社並みの自家用ジェット機を所有していた訳で桁外れである。ジェット機2機は売却されたが、許会長の個人資産はまだ外にもある。

     


    『ブルームバーグ』(11月5日付)は、「
    中国恒大の債権者、許会長の個人資産に照準ー危機脱出に『誠意』必要」と題する記事を掲載した。

     

    債務危機にある中国の不動産開発大手、中国恒大集団の創業者、許家印会長が所有する全長約60メートルのスーパーヨット「イベント」は、香港の「ゴールド・コースト」ヨットクラブでもひときわ目立っている。

     

    (3)「恒大の巨大集合住宅プロジェクトの1つから徒歩約15分の港に停泊しているこのヨットは許氏の個人資産の一端にすぎないが、同社が3000億ドルを超える債務の履行に苦戦する中、こうした資産にますます厳しい視線が注がれている。中国当局は恒大の債務危機を緩和するため、許氏に個人資産をなげうつよう指示。同社がいつまでデフォルトを回避できるかを見極めようとしている債券投資家にとって、許氏の個人的なバランスシートは主要な不確定要素となっている。同氏の資産の多くが企業や関連会社の複雑なネットワークを通じて所有され、最終的な所有者が覆い隠されている可能性があることを考えれば、同氏の財力を推し量るのは容易ではない

     

    長いこと資金繰りに苦しんできたので、万一に備えて「資産隠し」の手も使っているのであろう。

     

    (4)「ブルームバーグ・ビリオネア指数の分析によれば、恒大が2009年に香港に上場して以来、許氏が受け取った配当は70億ドル超に上り、同氏はうち約33億ドルを投じて同社の株式や債券、高額資産を取得してきた。差額がどうなったのかは分かっていない。それでも許氏が持つ高額資産だけでも、まだ期限が到来していないか年内に猶予期間が終了する債券のクーポン4億ドル余りの支払いに役立つ可能性がある。そうしたぜいたく品(推定4億8500万ドル相当)には、自身や恒大の関連会社名義のヨットや社用ジェット機、邸宅が含まれる。恒大は先月、許氏が所有する株式と邸宅を担保に融資を受け、猶予期間切れ前に債券2本のクーポンを支払った」

     

    恒大創業者の許氏は、09年の自社株上場以来、70億ドル以上の配当金を得てきたという。想像もできない巨額配当金だけに、隠そうと思えばいくらでも隠せたはず。ヨットや社用ジェット機などぜいたく品は、推定4億8500万ドル相当になるという。

     

    資金調達に躍起になっている許氏が売却したり、抵当に入れたりする可能性のある高額資産は以下の通り。

     

    ヨット

    許氏は16年、ケイマン諸島に設立した関連会社のスカイ・グレートを通じてスーパーヨットの「イベント」を購入。データ会社のベセルズバリューによれば、価値は4510万ドル相当。10月29日時点で、このヨットは香港の屯門区の港に係留されていた。

     

    ジェット機

    恒大の複数の関連企業は少なくとも3機の社用ジェット機(ガルフストリーム、エアバスACJ319、エアバスACJ330)を保有。3機合わせて推計平均で約2億3600万ドル相当の価値を持つ。

     

    住宅

    ブルームバーグの分析では、許氏の関連会社が香港のピーク地区に保有する邸宅2軒の価値は計2億400万ドルと推定される。地元メディアの報道によると、いずれも許氏の盟友として知られる鄭一族が率いる新世界発展が開発した物件。

     

    その他

    世界の資産家500人を対象とするブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、現金と売却可能な資産を除き、恒大と関連会社に関する許氏の持ち分は約30億ドル相当。同社の株価は年初来で55%余り下げている。恒大がなお所有するプロサッカークラブ「広州FC」(旧「広州恒大」)は現在、生き残るために政府支援を求めている。ブルームバーグ・インテリジェンス9月の分析で、恒大のサッカー関連事業は無価値とされていた。

     

    これだけの巨額資産を所有していた。この資産家が、どのような運命を辿るのか興味深い。

     

     

     

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    習近平氏は、台湾への奇襲攻撃をかける準備であろうか。これまでは、兵員動員では法的な手続きを必要としてきたが、習氏が必要と認めれば一夜で決定できる離れ技を実現するという。ここまで行って、自らの権威を守ろうというのだ。14億の国民の存在は眼中になさそうである。中国軍は、台湾を侵攻して勝利できるのか。

     

    米国防総省の「中国軍事力報告2020」は、台湾侵攻に関係する中国東部戦区および南部戦区の兵力を台湾軍と比較している。それによると、次のような「陣容」という。

    陸上兵力 台湾8.8万人、中国41.2万人

    海上兵力 

    水上艦艇 台湾26隻、中国61隻

    潜水艦  台湾2隻、中国38隻

    航空兵力 

    戦闘機 台湾400機、中国600機

     


    一般に攻撃する側は、最低でも防衛側の3倍の兵力が必要とされている。台湾海峡の厳しい地形や気象を考慮すると、中国軍が台湾侵攻に必要な圧倒的兵力を保持しているとは言い難い状況である。それに最低限、AUKUS(米英豪)の潜水艦部隊が応戦する。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月5日付)は、「中国、国防動員の法的手続き不要に 台湾有事への備えか」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党の習近平(シー・ジンピン)指導部が紛争などの「有事」をにらんだ動きを強めている。国防に関する動員の決定や変更について、法的手続きを不要にするように改めた。台湾などを巡り、万が一の軍事衝突に備える思惑のほか、国内引き締めの狙いもありそうだ。

     


    (1)「中国は10月下旬に開いた中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会で、国が動員命令を発令すれば18~60歳の男性と18~55歳の女性に国防義務を負わせることができる「国防動員法」など関連4法について事実上、習指導部の意向で法的手続きなく変更できることを決めた」

     

    一晩で動員できる「素人部隊」では、戦争に役立たない。単なる士気高揚の狙いか、別の目的か。

    (2)「通常の法律制定や法改正は通常12カ月に1度のペースで開かれる全人代常務委で原則23回の審議が必要になる。今回の決定により、たとえば習指導部の意向で、動員命令の発令のほか、対象年齢を広げることなどが可能になるとみられる。中国は共産党一党支配で、習指導部の意向で法改正が可能だが、全人代の審議などには時間をかける」

     

    全人代の審議を省略して、習氏ら指導部の意思一つで動員令をかけられるという。太平洋戦争では、学徒動員によって学生を戦場へ送った。現代の近代化戦争で、非軍人を集めても足手まといになるだけ。あるいは、開戦を機に中国国内で反乱が起きないように監視する目的で一カ所へ集めておく狙いもあろう。つまり、新疆ウイグル族への監視と同様なことを始める積もりなのだ。

     


    (3)「習指導部は意識しているとみられるのが、台湾や南シナ海などで対立を深める米国との紛争リスクだ。米国は台湾と連携を深め、欧州や日本と中国包囲網の形成に動いている。米中首脳は衝突回避へ対話を継続する方針を申し合わせているが、偶発的な衝突の可能性がくすぶっており、習指導部も危機感を強めているとみられる」

     

    非軍事部門の人間をいくら集めても、軍事力増強にはならない。平時から,軍事訓練を受けさせていなければだめなはず。それを承知で動員令を下すのは、別の目的と見るほかない。

     

    (4)「軍への志願者を増やす対策も強化している。人民解放軍の機関紙、解放軍報によると、10月下旬に軍のトップも務める習近平・中央軍事委員会主席(国家主席)が軍人とその両親、結婚している場合は配偶者とその両親まで医療費を優遇する規定を承認した。近くの医療機関で優先的に診察を受けられる措置もとる」

     

    軍人優遇策を取っている。一人っ子政策の時代に育てられた若者が、軍務に就くことは大変である。優遇策をとらなければ志願者が集まらない時代になっている。

     


    (5)「約200万人いる人民解放軍は志願制を主体にして足りない分を徴兵する体制を敷いているが、主に志願者で新兵枠は満たされてきた。中国では少子化や経済状況の改善に伴う進学率の向上などで、若い人の間で軍人のなり手が不足し始めているといわれる。ある海軍OBは「いったん海上に出れば数カ月間はスマホが使えない生活が続く。恋人もできないと、軍人になりたがらない若者が増えている」と話す」

     

    労働人口が減っている時代に、志願兵を集めるのは困難である。中国共産党が、政治教育をいくらしても無理であろう。しかも、目的は侵略戦争である。兵士を納得させて戦場へ送るのは難しいことだ。こうなると、兵士の反乱という思いもよらぬ事態を招き兼ねない。

     


    (6)「若者向けの思想統制も強めている。中国のテレビや新聞などを管理する党中央宣伝部は10月下旬に上海市、江蘇省、浙江省、湖南省のテレビ局に娯楽番組の作成を抑制するように指示を出した。アイドルの追っかけや宣伝になる内容を「必ず断固として是正せよ」と伝えた。4地域は娯楽番組の制作が盛んな地域として知られ、全国のテレビ局に網をかぶせる目的がありそうだ」

     

    最近の娯楽番組への政府干渉の背景には、こういう「志願兵募集」という事情があった。戦時色を強めて、「いざ開戦」という算段である。習氏の名誉欲のために14億の国民を従わせる。何と、破廉恥な試みであるか。「中華再興」の実態は、習氏の見栄を満足させることなのだ。

     

    (7)「中国当局は全国のテレビ局に2022年末までドラマやドキュメンタリー、アニメ、公共広告などで習近平思想や党創立100年にかかわる内容を取り入れるよう指導した。党最高指導部の人事を決める22年秋の党大会が終わるまで習氏の権力集中が揺らがないように、愛党・愛国教育を強化し国民の意識を引き締める思惑がうかがえる」

     

    ここまで、国民を愚弄できるとは恐ろしいこと。一握りの人たちの自己満足のために、娯楽を統制する。戦時中の日本と瓜二つである。


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    あらゆる資金を軍拡費用につぎ込んだのだろうか、来年から迎える中国版「団塊の世代」の大量退職に当たり、過半地域で年金積立不足が発覚している。不動産バブルが弾ければ、これまでのように土地売却益を財源に繰り入れることが不可能だ。どうする積もりなのか。習近平氏は,これにはお構いなく「中華の夢」を振りまいている。

     

    この記事は、数字が多いので私のコメントだけでも読んで、中国の年金状況がいかに苦しいか、その片鱗だけでも知って貰いたい。日本の年金も楽ではないが、中国はメチャクチャである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(11月4日付)は、「中国公的年金、過半地域で積み立て不足細る現役世代」と題する記事を掲載した。

     

    中国で公的年金の積み立て不足への懸念が強まっている。2020年時点の支払い余力は、過半の地域で政府の基準を下回った。長年の産児制限で人口の現役世代が減り、財政による穴埋め額は増える。政府は定年延長や保険料の支払期間の延長を検討するが、市民の反発は強い。高齢化に対応し、年金制度を持続可能な形に転換する改革は難航している。

     

    (1)「都市部で働くサラリーマンや公務員に向けた強制加入の「都市従業員基本年金」(従業員基本年金)の収支や積み立て状況を調べた。中国の公的年金にはほかに、都市部の非就業者や農民が任意で加わる「都市・農村住民基本年金」(住民基本年金)もある。この2つが、20年末時点で計10億人をカバーする」

     

    中国の年金制度は、従業員基本年金と住民基本年金の二本建である。前者は、日本の厚生年金。後者は国民年金であろう。これで、ほぼ、10億人をカバーしているという。

     

    (2)「主流は従業員基本年金だ。20年の支出総額は住民基本年金の15倍だった。従業員基本年金の保険料負担は、原則として事業主が賃金総額の16%、従業員は8%。事業主が納めた分は、いまの高齢者への年金支給を支える基礎年金の給付にあてられる。従業員の保険料は制度上、積立方式の個人勘定に回るが、実際は退職者への支給を補う部分も多いという。賦課方式の日本の厚生年金に近いともいえる」

     

    主流は従業員基本年金である。20年の支出総額は住民基本年金の15倍にも達している。

     

    (3)「従業員基本年金の収入は20年、前年比16%減った。新型コロナウイルスで打撃を受けた中小企業の支援策として保険料負担を減免したためだ。高齢化で支出は4%増えた。積立残高は4兆8300億元(約86兆円)で、同1割超減った。残高が前年を下回るのは比較可能な10年以降で初めてだ。年金の持続可能性を示す支払い余力も低下。積立残高を月平均の支出額で割った月数をみると、20年は11.3カ月で5年前の16.4カ月と比べて、5カ月分短くなった」

     

    従業員基本年金は、積立残高を月平均の支出額で割った月数が減っている。2015年は16.4ヶ月。これが、20年には11.3ヶ月と5ヶ月分も減少している。「ダムの水」が減っているのだ。原因は、年金収入が減って年金支出が増えていること。景気の悪化が響いている。

     


    (4)「政府系シンクタンク
    の中国社会科学院などは、9カ月を「基準ライン」、3カ月を「警戒ライン」と位置づける。全国ベースでは基準を上回るが、地域別に見ると16の省・直轄市・自治区で基準に届かなかった。19年から5地域増えた。上海市や浙江省など経済が発展している地域も基準を下回った。東北地方の黒竜江省、遼寧省、内陸部の青海省は警戒ラインも下回る。黒竜江省は16年以降、積み立てが枯渇。人口流出による急な高齢化で社会保障制度の存続を危ぶむ声も多い

     

    旧満州や内陸部の年金残高月数が、警戒ラインの3ヵ月分を割っている。どうする積もりか。不動産バブルは、鎮火状況で土地売却益が減少している。財源はないのだ。

     

    (5)「すでに保険料収入では年金支給を賄えず、赤字幅が拡大している。従業員基本年金のうちサラリーマンや自営業者を対象にした部分をみると、14年から年金支給が保険料収入を上回る。財政からの補塡額が増え、20年は1兆1700億元に達した。保険料収入の4割に相当する。現役世代が細り、高齢化の負担が増しているためだ。20年時点で15~59歳の人口は10年より5%減ったが、60歳以上は5割近く増えた。中国人力資源・社会保障省の予測では、21~25年の退職者が4000万人を超える一方、生産年齢人口は3500万人減る」

     

    従業員基本年金のサラリーマンや自営業者対象の年金部分は、14年から赤字になっている。20年には、赤字部分が保険料収入の4割にも上がっている。働き手の生産年齢人口の急減と退職者急増の結果である。当然、起るべくして起っている財政赤字である。

     

     

    (6)「とくに22年からは中国版「団塊世代」の退職が本格化する。多くの餓死者を出した大躍進政策後の1962年から出生数が増えたためだ。定年の60歳に達する男性の数は2022年からの5年間で、21年までの5年間に比べ7割増える。中国政府は年金収支の安定に向けて制度改革の検討を始めた。年金の受け取りに必要な保険料の納付期間を現行の15年から引き上げる方針だ。保険料収入の増加を狙っており、社会科学院の鄭秉文氏は「(いまより)10~15年延ばすべきだ」と語る」

     

    来年から、中国「団塊の世代」の本格的退職が始まる。中国政府は、今頃になって年金制度改革の検討を始めるという。「ツー・レート」である。不動産バブルの恩恵で、いつまでも土地売却益に依存できると見ていたのであろう。「バブル呆け」である。

     

    (7)「抜本的な改革も避けられない。政府は25年までの5カ年計画の主要課題に法定退職年齢の引き上げを盛り込んだ。21年夏、地方政府が各界の意見を聞く座談会を開いたが、法整備などの具体策はなお不透明だ。市民の反発が根強いためだとみられる。定年延長で受け取れる年金の総額が減り、老後の余暇や孫の世話に影響すると心配する中高年が多い。若年層は、就職が一段と難しくなると懸念する」

     

    退職年齢引上げは、ここ10年ほど言われてきたが実現できずにきた。大衆の反対がつよいのだ。高齢者は、早く年金を貰い楽したい。若者は、就職難がさらに酷くなるというもの。大衆の反感を最も恐れている政府は、実行できず傍観しているのだ。習政権は、強そうだが定年延長もできず、右往左往している。

     

     

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