勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 中国経済ニュース時評

    a1320_000159_m
       

    中国は、不動産バブルが支えてきた経済である。本欄では、この点を一貫して指摘してきた。バブルで土地が値上りしない限り、中国経済は円滑に回らない仕組みになっている。

     

    かつては、アヘンが中国社会を蝕んだが、現在は不動産バブルがその役割をしている。バブルが、中国経済を正常化不能なまでに冒しているのだ。現に、地方政府は住宅価格の値下がりを禁じる布令を出し始めている。地価値下がりが、土地売却収入減となり、地方政府に欠陥財政をもたらすリスクが高まってきたのだ。いずれ、財政機能は相当に制約されるであろう。

     


    『日本経済新聞 電子版』(12月3日付)は、「中国、大都市も不動産値下げ制限 地方財政悪化に危機感」と題する記事を掲載した。

     

    中国で住宅価格の下落が広がり、大都市でも不動産市場の救済に乗り出す動きが出てきた。新築物件の値下げ幅を制限したり、不動産融資の規制を緩めたりする。マンションなどの価格が下がると、地方政府に入る用地の売却収入が減りかねないためだ。人口流出などで景気回復が遅れ気味の中小都市だけでなく、大都市も警戒感を強めている。

     

    (1)「四川省の省都、成都市は11月23日、「不動産会社と(投機を除く)住宅購入者の相応の資金需要は(満たされるよう)保障する」。不動産金融の規制緩和を発表した。開発資金の融資や住宅ローンの上限を緩め、速やかに融資を実行する。重点企業には融資期間の延長や金利負担の軽減も認める。中央政府が直轄する天津市は11月、不動産会社を集めた会議で、値下げ幅を制限するよう指示した。同市政府の関係者によると、新築物件を当局に事前に届け出た価格より15%超値引きすることを禁じる。大規模なセールを行う際も担当部局への報告を義務付けた

     


    地方政府は、住宅価格の値下がりに敏感である。土地売却収入が将来、減少する兆候であるからだ。住宅の大規模セールを行なう際には事前報告=チェックする意向を見せている。財政状態が悪化しているだけに、何とかそれを食止めたいはずである。

     

    (2)「中国メディアによると、江蘇省の省都、南京市も値引き販売をした開発業者に市場をかき乱す行為をやめるよう命じた。今年夏以降、すでに20以上の都市が値下げ制限に踏み切った。値下げ制限はこれまで、大都市に比べて経済成長の速度が鈍く、マンションの在庫が高止まりしやすい中小都市が軸だった。政府の住宅ローン規制などをうけ、住宅価格が下落する都市はこの夏、一気に増えた。中国国家統計局がまとめた主要70都市の新築マンション価格をみると、5月に前月より下がったのは5地域だけだったが、10月には52地域と10倍以上になった。2015年2月以来の多さだ」

     

    主要70都市で、新築マンション価格が値下がりしたのは、10月で52地域と4分の3にもなっている。こうなると、地方政府の土地売却収入減がそれだけ拡大する。中国は今後、急速な高齢社会へ向かうだけに、財源はいくらでも必要な時期を迎える。それだけに、土地売却収入減は打撃になる。

     


    (3)「都市の規模別でみると、中小都市で先行して価格が下がり始め、大都市にも波及しつつある傾向がわかる。成都市、天津市、南京市は省都レベルの2級都市のなかでも規模が大きい「新1級都市」と呼ばれる。新1級都市の平均価格は10月、前月比0.%の下落に転じた。北京市、上海市、広東省広州市、同省深圳市の1級都市は9月に上昇が止まった。このうち広州市と深圳市はすでに値下がりしている」

     

    下線のように、広州市と深圳市がすでに値下がりしていることは、輸出(広州市)とIT企業(深圳市)の不振を先取りした現象である。注目すべきだ。

     

    (4)「マンションの値下がりは、住宅ローンの審査厳格化で購入需要が落ち込んだことだけが理由ではない。政府の規制強化で不動産会社の資金繰りが悪化したことも影を落とす。開発する会社のほか、各社から代金でなく、不動産の現物を受け取った施工業者が現金化を急ぎ、値引き販売に拍車をかけた」

     

    施工業者は、大量のマンションを現金代わりに渡されている。そこで業者は、大幅値引き(約30%)で、現金決済を条件にしている。これが、値崩れの原因の一つだ。

     


    (5)「政府は不動産バブルが金融リスクを高めていると警戒してきた。新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んで経済の正常化を進めつつ、不動産規制を強めた。だが、中国恒大集団など不動産大手の経営が揺らぐと、金融監督当局の中国人民銀行(中央銀行)などは方針を微修正した。不動産融資の過度な絞り込みの是正を銀行に求めた」

     

    中国は、不動産金融が綱わたりである。締めすぎて不動産開発企業を苦境に追いやるのでないかと気を配っている。これが、不動産バブルの温床になっている。アヘン患者が苦しまないように、適当にアヘンを配ると同じことをやっているのだ。

     

     

    a0005_000022_m
       

    民主主義社会では、人権尊重は基本である。だが、中国は「人権思想」そのものが存在しない。最高支配者の思いのままに罪を着せられ、社会から葬られるのだ。この中国が、世界覇権を狙っている。背筋の凍る話だ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月30日付)は、「安泰でない中国エリート、名声しのぐ共産党支配」と題する記事を掲載した。

     

    中国では富や名声、影響力があっても汚名を着せられたり行方不明になったり、もっと悪い事態に陥ったりする危険が常につきまとう。この問題は、米誌フォーブスが11年に掲載した寄稿「友人には中国の億万長者になってほしくない」も指摘している。

     


    (1)「同寄稿は、中国共産党が発行する英字紙『チャイナ・デイリー』の記事にあるデータを引用し、それまでの8年間で72人の中国の億万長者が早死にしたと記している。引用元の記事はその内訳も明らかにしており、「72人の億万長者のうち15人は殺害され、17人は自殺、7人が事故死、14人は法に従い死刑が執行され、19人が病死した」とある。以来約10年、超富裕層を取り巻く状況が改善したと思う人は、中国の実業家で今は国外で暮らすデズモンド・シャム(沈棟)氏が9月に出版した「Red Roulette(赤いルーレット)」を読むとよい」

     

    中国共産党が発行する英字紙『チャイナ・デイリー』は、2011年までの8年間に、72人の中国の億万長者が早死にしたと伝えているという。この72人の人たちの内、19人を除けば非業の死である。ゾッとする事件だ。中国社会の暗黒ぶりを示している。

     


    (2)「シャム氏と元妻でかつてのビジネスパートナーだったホイットニー・ドゥアン(段偉紅)氏は貧困から身を立て、不動産開発で富を築いた。2人は絶頂期には北京で英高級車ロールス・ロイスを乗り回し、プライベートジェットで世界を飛び回った。ドゥアン氏は中国政界の大物との人脈を利用して事業を成功させていったが、17年に拘束され、行方がわからなくなった。突然の失踪が珍しくないことはこの本を読めば明らかだ。シャム氏とドゥアン氏は北京にある空港の拡張工事を手がけていた。だが北京の空港運営会社の総経理でこのプロジェクトの重要人物の一人だった李培英氏が何の説明もないまま姿を消し、両氏のプロジェクトは暗礁に乗り上げた。李氏は後に収賄罪で起訴され死刑が執行された」

     

    このパラグラフに書かれている事柄は、民主社会では絶対に起こり得ない話である。それが、日常的に行なわれている無法社会である。

     


    (3)「元妻のドゥアン氏は、政界との重要なコネクションとして、習近平(シー・ジンピン)国家主席の後継候補ともいわれた孫政才・重慶市党委員会書記(当時)と関係を築いていた。しかし、孫氏は党籍を剝奪され、18年に収賄罪で無期懲役の判決を言い渡された。シャム氏は、孫氏は「実は政治的な目的で葬られた」と主張する。ドゥアン氏がその後逮捕されたのは、孫氏とのつながりを問題視された可能性がある。あるいは、温家宝前首相の夫人との親密な関係があだになったかもしれない。温氏が今春、新聞としてはあまり規模の大きくないマカオ紙に寄稿した母を悼む文章は、暗に習氏を批判したものとして中国内のインターネット上で閲覧制限を受けた」

     

    中国は純粋な市場社会ではない、コネを付けた者が勝ちとなる社会である。このコネは、賄賂で結ばれているので、公安が狙いを付けた人物は必ず拘束できる社会である。民主社会からみれば、想像もできない暗黒社会と言って間違いない。

     


    (4)「
    国際的な名声があっても、権力を自在に振るう現体制の下では、それが自分を守ることにはならない。中国のインターネット通販最大手、アリババ集団の創業者で中国で最も著名な実業家の馬雲(ジャック・マー)氏は20年10月、大胆にも中国の金融規制を批判して以降、公の場にほとんど姿を現していない。中国人として初めて国際刑事警察機構(ICPO)の総裁を務めた孟宏偉氏も18年、中国に一時帰国した際に拘束され、昨年収賄罪で懲役13年6月の判決を言い渡された。そもそも体制の恩恵を受けて富や権力を手にした億万長者や共産党幹部が、同体制により引きずり下ろされても同情する向きは少ないかもしれない」

     

    アリババのジャック・マー氏は、政府批判をしたばかりに「追放」の身になった。秋口に欧州へ現れたことが報じられた程度である。ビジネスの第一線から姿を消してしまった。

     


    (5)「中国の国家権力が、反体制派の弁護士やジャーナリスト、学者らを弾圧する際はもっと苛烈だ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)の最近の報告書によると、当局は反体制活動家の家族にまでも、しばしば追及の手を伸ばしているという。中国の現体制では、政治と一切かかわらないようにしても安全を確保できるわけではない。ビジネスの世界は不透明でコネが不可欠なため、誰もがシャム氏の言うところの「グレーゾーン」に踏み込まざるを得ない。そして、そのことが贈収賄の容疑を招くリスクとなる。あらゆる組織は中国共産党の支配下にある。当局に拘束されれば有能な弁護士や気骨あるジャーナリストがどう頑張っても救い出すことはできない。中国の裁判の有罪率は99.%だ」

     

    中国の有罪率は99.%だという。公安の描くとおりの刑に処せられている。これで、「中国式社会主義」と嘯(うそぶ)いているから恐れ入るのだ。

     


    (6)「この体制の頂点に君臨する習主席は、毛沢東だけでなくレーニンやスターリンの思想も信奉する姿勢を示してきた。スターリンの下で秘密警察トップを務め大粛清を陣頭指揮したベリヤは、警察国家であらゆる個人に及ぶ危険性についてこう語った。『誰でもいいから連れてくれば、私がその人物の罪を必ず探し出す』」

     

    習氏は、権力を恣(ほしいまま)に使っている。この上、「歴史決議」によって、「終身国家主席」が約束されたようなものだ。習氏は、思いのままに国を操れてさぞやご満悦であろう。このことが、後になってどれだけ高いものに付くか。想像もできないのであろう。

    a0960_008711_m
       

    中国にとって外交上の最大弱点は、新疆ウイグル族弾圧である。このほど、流出した文書によって、弾圧は習近平氏の指導のもとで強行されていることが判明した。中国は、新疆ウイグル族問題が国内問題であり、海外からの干渉を許さないとしている。だが、今回の秘密文書流出によって中国はさらに厳しい立場へ追い込まれる。

     

    東京裁判では太平洋戦争責任が追及された。これになぞらえれば、習近平氏は新疆ウイグル族弾圧で国際法廷に立たされるほどの重大犯罪である。いつか、そういう時代が来るであろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月2日付)は、「ウイグル問題の文書流出、習氏の強い関与裏付け」と題する記事を掲載した。

     

    中国による少数民族ウイグル族への人権侵害疑惑を巡り、習近平国家主席が先頭に立って弾圧を指示していたことを示す新たな証拠が浮上した。英国を拠点とする非政府組織「ウイグル・トリビューナル」が中国政府の流出文書の写しをウェブサイトに掲載した。その文書は、新疆ウイグル自治区の動向を巡り、2014~17年に習氏や共産党幹部が非公開で行った演説の内容などが含まれ、一部は最高機密扱いとなっている。ウイグルへの強制的な同化政策はこの時期に策定・導入された。

     


    (1)「それによると、習氏は少数民族に関して宗教の影響や失業問題の危険性について警告しており、新疆の支配を維持する上で、主流派である漢民族と少数民族の「人口割合」の重要性を強調している。『ウイグル・トリビューナル』はロンドンで、ウイグル族に対する人権侵害の疑いについて審問を開催している。米ミネソタ在住の中国民族政策専門家、エイドリアン・ゼンツ氏は、ウイグル・トリビューナルから文書の真偽を調べるよう依頼され、他2人の協力者とともに鑑識を行った」

     

    新疆ウイグル自治区の動向を巡り、2014~17年に習氏や共産党幹部が非公開で行った演説の内容が、「犯罪」を裏付けている。中国は、西側諸国から厳しく追及される証拠の数々が公開されてしまったのだ。ジワリジワリと、中国の首を締めることになろう。

     

    (2)「ゼンツ氏によると、今回の文書は『ニューヨーク・タイムズ』紙(NYT)が2019年に報じた流出文書では明らかにされなかった一部とみられる。NYTは十数ページの内容について報じたが、完全な文書ではなかった。同氏は、NYTの報道について習氏がウイグルの同化政策の策定に直接関与していたことを示していたが、完全な文書で真相は一段と明らかになると述べている。「残虐行為の細部に与えた習の個人的な影響力は、われわれの認識をはるかに超える」とゼンツ氏は話す」

     

    今回の公開された文書は、すでにNYTで報道された文書とダブっているという。流出文書は、これから本格的に公開されるので、中国は枕を高くして寝られない事態になろう。

     


    (3)「中国外務省は、うわさを流布しているとしてゼンツ氏と『ウイグル・トリビューナル』を批判。「反中派の道化師がいかなるパフォーマンスを繰り広げようとも、新疆はさらなる発展を遂げるばかりだ」とコメントした。『ウイグル・トリビューナル』の審問は法的な根拠を欠くとした。情報の提供元は分かっていない。NYTの広報担当は今回『ウイグル・トリビューナル』が公表した流出文書について、2019年に同紙が報道したものと同一であることを確認。ただ、NYTは『ウイグル・トリビューナル』に文書を渡していないと述べた」

     

    中国は、例によって否定し相手を陥れる発言を繰返している。虚しいばかりだ。人類への犯罪であり、決して内政問題という矮小化された扱いで済むはずがない。こういう蛮行を許してはならない。

     

    (4)「11月30日、公表された文書の大半は2014年春のものだ。ゼンツ氏はこれに添えた要旨で、共産党の新疆政策に関する国営メディアの報道やその後に公表された政府文書と照らし合わせるなどして、文書が本物であることを突き止めたと説明している。ゼンツ氏によると、『ウイグル・トリビューナル』は情報提供者を守るため原本の公表は見送り、出所が分かるような部分を削除して、文書の写しを公表した」

     

    文書を公開した『ウイグル・トリビューナル』は、情報提供者を守るべく原本の公表を見送っている。いずれ、この原本が公開されるときは、中国共産党が滅びた時であろう。

     


    (5)「習氏が14年の演説で最初に触れた発言がその後、政府の政策文書にも記され、党幹部らも度々その文言を言及しているなどとゼンツ氏は指摘する。例えば、習氏は14年5月に新疆に関する会合で行った演説で、共産党は「人民の民主的独裁という武器の使用を躊躇(ちゅうちょ)すべきではなく、(新疆の宗教的な過激派勢力に対して)破滅的な打撃を与えることに注力すべきだ」と述べている。さらにこの演説では、強制労働の疑いが持たれているウイグル族への労働プログラムの前触れともとれる発言があった。米国はこの強制労働疑惑を理由に、新疆綿を使った中国品の輸入を禁止している」

     

    下線部は、習氏の過激発言によってウイグル族100万人が強制収容されることになったことを暗示している。習近平氏は、東条英機並みの「戦犯責任」を追及されるに違いない。

     

    (6)「文書によると、習氏は「新疆の雇用問題は顕著だ。暇を持て余した大量の失業者が問題を起こす傾向がある」と指摘。その一方で、組織で働けば「民族の交流や融合につながる」と述べている。また今回明らかになった別の演説で、習氏は「人口の割合と安全性は長期的な平和と安定の重要な基礎となる」と述べている。その6年後、新疆における漢民族の割合が15%にとどまるのは「低すぎる」として警告した同地域幹部はその際、習氏のこの発言をそのまま繰り返している」

     

    このパラグラフは、新疆ウイグル族が塗炭の苦しみを舐めさせられた背景が明らかにされている。習氏の指導であったのだ。

     

    (7)「ゼンツ氏は、「習氏が発したたった一文が、政策全体に影響を与えるだけの威力を持つ」と話す。同氏によると、『ウイグル・トリビューナル』は合計300ページにわたる11文書を入手した。このうち30日に公表したのは3文書のみで、残りは今後公表される見通しだ」

     

    『ウイグル・トリビューナル』は、全体で11文書を入手した。今回は、その内の3文書だけが公開された。残りは、まだ8文書もある。中国による「人類への犯罪」に関わる証拠が、これから、次々と白日の下にさらされるのだ。これで、中国が民主主義の敵になった。

    あじさいのたまご
       


    中国は、「共同富裕」の看板を高く掲げて貧困者へ夢を与えよとしている。その一環として3年ぶりに最低賃金引上げに踏み切る。最低賃金引き上げの恩恵に浴するのは、主として農民工とされる。この農民工の待遇改善が、共同富裕実現になるかと言えば、それは雀の涙にしか過ぎない。真の共同富裕実現には、所得再分配による格差縮小がカギを握るからだ。それには、税制改革で直接税の比重を上げることである。習近平氏は、この肝心の部分を逃げている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月2日付)は、「中国、最低賃金引き上げラッシュ 『共同富裕』を意識」と題する記事を掲載した。

     

    中国で最低賃金を引き上げる動きが相次いでいる。経済規模が最大の広東省をはじめ、2021年に入り20の省・直轄市・自治区が実施した。習近平指導部が掲げる「共同富裕(共に豊かになる)」のもと労働者の不満を抑える狙いだが、人件費の上昇は工場の国外移転を加速させる可能性もある。

     


    (1)「広東省では12月1日、地域別に月額1410~2200元(約25000~39000円)としていた最低賃金を1620~2360元に引き上げた。ハイテク産業が集積する深圳市では2200元から2360元へ7.%、自動車産業が盛んな省都の広州市では2100元から2300元へ9.%上げた。同省での最低賃金の見直しは18年7月以来になる」

     

    広東省は、18年7月以来の最低賃金引き上げを行なう。引上げ幅は7.3~9.5%である。消費景気を刺激する目的であろう。3年4ヶ月ぶりに一桁の最賃引き上げであるが、景況悪化の中だけにスムースに実現できるか見通し難である。

     

    (2)「広東省には自動車の合弁工場を運営するトヨタ自動車やホンダ、日産自動車をはじめ、多くの日系企業が進出している。大手の事務所や工場ではもともと最低賃金を上回る額を支給しており、「直接的な影響は全くない」(日系車大手幹部)。ただ、清掃や食堂などの外注企業が従業員を低賃金で雇用している場合があり、今後は外注企業から値上げを要求されるなど間接的にコスト増加につながる可能性がある」

     

    製造現場では、すでに最賃以上の賃金を支払っているので問題ないというが、サービス業での引き上げが、間接費引上げとしてはね返る可能性はある。

     


    (3)「中国の人件費はすでにタイやマレーシア、ベトナムといった東南アジアの多くの国を上回っている。日本貿易振興機構(ジェトロ)がアジアとオセアニアに進出した日系企業から聞き取っている調査では、20年の「製造業・作業員」の基本給(月額)の平均は中国が531ドル(約6万円)で、タイ(447ドル)やベトナム(250ドル)を上回った。韓国サムスン電子が19年に中国でのスマホ生産から撤退しベトナムに移すなど、中国から東南アジアに拠点を移した製造業は多い。今後も人件費の上昇が続けば、移転への圧力がさらに高まる恐れがある」

     

    中国の人件費は、すでにベトナムの2倍以上になっている。ここから、「脱中国」の動きに拍車をかけることは間違いない。

     

    (4)「中国の最低賃金は31ある省・直轄市・自治区がそれぞれの地域の実情にあわせて個別に見直す仕組みだ。中央政府は地方政府に最低賃金を2~3年に1度見直すように求めている。21年は北京市や上海市などの直轄市のほか、沿岸部の江蘇省や浙江省、東北部の遼寧省や黒竜江省、内陸部の内モンゴル自治区や陝西省などが引き上げを実施した。21年に引き上げが相次いだのは、20年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済が落ち込んでいたため、多くの地域で見送っていた反動もある」

     

    中国の最低賃金は2~3年に1度、各地方政府が実情に合わせて引き上げるシステムである。20年は、コロナ感染で引き上げを見送ったので、21年に持込まれた。

     

    (5)「習指導部が掲げる共同富裕に呼応する面も強い。8月に習氏が開いた党中央財経委員会の会議では、共同富裕の実現のため富の配分を強化するという方針を確認した。21年に最低賃金を引き上げた20地域のうち、半数は9月以降に実施した。最低賃金の引き上げで最も恩恵を受けるのが、「農民工」と呼ばれる農村から都市への出稼ぎ労働者だ。工場で働く場合は残業代が多く出るため、一般に最低賃金の2倍程度が実際の賃金の目安とされるが、所得環境は厳しい」

     

    最低賃金の引上げはむろん、所得向上を実現するから消費を刺激する。だが、間接税が全体の3分の2も占める現状は、個人への負担を大きくさせている。主要国では、間接税は3分の1、直接税が3分の2である。中国では、目に余る「大衆課税」を行なっている。この現状を改めるには、固定資産税や相続税を新設することである。だが、共産党幹部の反対で実現できずにいる。矛楯した税制を続けているのだ。

     

    (6)「習氏は22年秋の党大会で異例の3期目続投に向けた足場を固めているが、3億人近くにのぼる農民工に待遇改善をアピールし、さらに盤石にしたいという思惑もありそうだ。地方政府にとっても、労働力人口の減少で続き働き手が不足するなか、最低賃金の引き上げによって他地域から農民工を呼び込む狙いがある」

     

    習氏は、最賃引き上げで「善政」を施しているイメージをつくりたいのであろう。大衆が、これに騙され続けるとは思えない。いつかは、爆発するにちがいない。


    a0960_008571_m
       

    中国は、今や「オレ様意識」である。向かうとこと敵なしと錯覚している。中国が、インドネシア政府に対し、南シナ海南端の海域での石油・天然ガス掘削中止を要求する異例の書簡を送っていたことが、分かった。『ロイター』(12月1日付)が以下のように報じた。

     

    インドネシアのムハンマド・ファルハン議員によると、書簡は中国の外交官がインドネシア外務省に送付。インドネシアが掘削を行っている海域は中国の領海であり、掘削を中止すべきだと主張しているという。同議員は「掘削は中止しないと断固たる返答をした。わが国の主権だ」と述べた。関係筋によると、中国側は繰り返し掘削の中止を要求している。

     

    問題となっているのは、南シナ海南端の海域。インドネシアは「海洋法に関する国際連合条約」の下でインドネシアの排他的経済水域(EEZ)に該当するとして、2017年に「北ナトゥナ海」と命名した。中国はこの命名に反発。同海域は中国が領有権を主張する「九段線」の水域内にあると訴えている。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、「九段線」に法的な根拠がないと認定した。

     


    中国は、このように法的に領有権のないインドネシアのEEZまで干渉する異常な行動を取っている。国際法を無視して「やりたい放題」の振る舞いである。天誅が加えられても当然という仕儀だが、その適役が現れた。

     

    『ロイター』(11月30日付)は、「中国、自信過剰で誤算の恐れー英MI6長官」と題する記事を掲載した。

     

    英国の対外情報機関、秘密情報部(MI6)のムーア長官は11月30日、長官として初の演説を行い、中国政府は自信過剰のあまり、国際情勢を見誤る恐れがあると指摘した。

     

    (1)「中国政府は、西側諸国のもろさに関する自らのプロパガンダを信じ、米国政府の決意を過小評価している」とし、「中国が自信過剰のあまり誤算をするリスクがあるのは、紛れもない事実だ」と述べた。ムーア氏は「中国の台頭によって影響を受けた世界に適応することが、MI6にとって最大の優先事項だ」と断言。中国が攻撃性を強めている分野の筆頭に台湾問題を挙げ、「必要とあれば武力による解決」を欲しているのは、「世界の安定と平和に対する深刻な挑戦だ」とした。中国は、香港市民から権利を奪い、新疆ウイグル自治区で人権を侵害し、「世界中で公的な言説と政治的意思決定をゆがめようと」しているとも指摘した」

     


    中国が、自信過剰のあまり誤算をするリスクのあることは、多くの西側諸国から指摘されている。「米国衰退:中国繁栄」という間違いである。中国経済は、不動産バブルの鎮火で形勢逆転の様相を呈している。不動産開発需要は、GDPの約25%を占めており、これに代わる産業は存在しないのだ。地方政府は、土地売却収入を財源に繰り入れてきただけに、不動産バブルの鎮火は大きな痛手になっている。中国経済は、これから急坂を下る局面である。

     

    中国が、自信過剰から目覚めないと「第二のソ連」になるリスクを抱えている。習氏は、こういう事態を認識せずに「押せ押せムード」で領土拡大志向を続ければ、痛い目に会うのは時間の問題であろう。

     

    米国は、科学技術でも「覇権国」である。それに同盟国を糾合して中国包囲網を築ける包容性を持っている。あらゆる面で、中国がとうてい及ばない相手が米国である。太平洋戦争開戦前の日本も、米国の国力の大きさを認識していた。中国は、そういう客観的な認識もなしに米国を挑発することは余りにも危険である。

     

    『ブルームバーグ』(12月1日付)は、「米英豪の安全保障枠組み中国への「決定的取り組み」ーキャンベル氏」と題する記事を掲載した。

     

    米国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は1日、米英豪3カ国の安全保障協力の枠組みである「AUKUS(オーカス)」について、中国の行動に対する「決定的な取り組み」に相当すると説明した。

     

    (2)「キャンベル氏はシドニーを本拠とする国際政策シンクタンク、ローウィー研究所主催のイベントで講演し、中国による近隣諸国・地域への挑発的行動や、同国がオーストラリアに仕掛けている「経済戦争」の結果、ほんの7~8年前であれば疎遠になるだろうと予想された同盟関係が緊密になったと指摘した」

     

    中国の無謀な行動が、海外で次々と中国への反旗を翻す要因になっている。実に下手な外交であり敵をつくって歩いているのだ。中国国内では通用する「威嚇」「脅迫」が、海外では反感を持たれて逆襲要因になっている。豪州への経済的制裁が、「AUKUS」という軍事同盟を生み出した理由である。

     


    (3)「AUKUSについては、「中国の特定の行動や政策を巡り観察されるものへの明確な懸念であると同時に、われわれが自分たちの将来に関して役割を担い、立ち上がる決意」の表れだとし、「私はこの成果を非常に誇りに思い、関係する全ての国々にとって決定的な取り組みだと考える」と語った。豪州による原子力潜水艦配備も支援するAUKUSは、中国がインド太平洋で軍事プレゼンスを拡大する現状にあって、サイバーや人工知能(AI)を含む分野で、地域の主要同盟国間の防衛措置協力の強化に当たる。キャンベル氏はまた、米国が「中国との競争の初期段階」にあり、米国と同盟国が「戦略的環境」にどうアプローチするかにおいて、安定的かつ断固たる姿勢であることが重要だと述べた

     

    下線部は、米国の中国に対する断固たる決意を示している。中国は、覇権国米国の決意を甘く見てはいけない。自重すべきである。米国には、多数の同盟国が控えている。中国の「単騎出陣」と事情が異なるのだ。

     

     

    このページのトップヘ