中国は、不動産バブルが支えてきた経済である。本欄では、この点を一貫して指摘してきた。バブルで土地が値上りしない限り、中国経済は円滑に回らない仕組みになっている。
かつては、アヘンが中国社会を蝕んだが、現在は不動産バブルがその役割をしている。バブルが、中国経済を正常化不能なまでに冒しているのだ。現に、地方政府は住宅価格の値下がりを禁じる布令を出し始めている。地価値下がりが、土地売却収入減となり、地方政府に欠陥財政をもたらすリスクが高まってきたのだ。いずれ、財政機能は相当に制約されるであろう。
『日本経済新聞 電子版』(12月3日付)は、「中国、大都市も不動産値下げ制限 地方財政悪化に危機感」と題する記事を掲載した。
中国で住宅価格の下落が広がり、大都市でも不動産市場の救済に乗り出す動きが出てきた。新築物件の値下げ幅を制限したり、不動産融資の規制を緩めたりする。マンションなどの価格が下がると、地方政府に入る用地の売却収入が減りかねないためだ。人口流出などで景気回復が遅れ気味の中小都市だけでなく、大都市も警戒感を強めている。
(1)「四川省の省都、成都市は11月23日、「不動産会社と(投機を除く)住宅購入者の相応の資金需要は(満たされるよう)保障する」。不動産金融の規制緩和を発表した。開発資金の融資や住宅ローンの上限を緩め、速やかに融資を実行する。重点企業には融資期間の延長や金利負担の軽減も認める。中央政府が直轄する天津市は11月、不動産会社を集めた会議で、値下げ幅を制限するよう指示した。同市政府の関係者によると、新築物件を当局に事前に届け出た価格より15%超値引きすることを禁じる。大規模なセールを行う際も担当部局への報告を義務付けた」
地方政府は、住宅価格の値下がりに敏感である。土地売却収入が将来、減少する兆候であるからだ。住宅の大規模セールを行なう際には事前報告=チェックする意向を見せている。財政状態が悪化しているだけに、何とかそれを食止めたいはずである。
(2)「中国メディアによると、江蘇省の省都、南京市も値引き販売をした開発業者に市場をかき乱す行為をやめるよう命じた。今年夏以降、すでに20以上の都市が値下げ制限に踏み切った。値下げ制限はこれまで、大都市に比べて経済成長の速度が鈍く、マンションの在庫が高止まりしやすい中小都市が軸だった。政府の住宅ローン規制などをうけ、住宅価格が下落する都市はこの夏、一気に増えた。中国国家統計局がまとめた主要70都市の新築マンション価格をみると、5月に前月より下がったのは5地域だけだったが、10月には52地域と10倍以上になった。2015年2月以来の多さだ」
主要70都市で、新築マンション価格が値下がりしたのは、10月で52地域と4分の3にもなっている。こうなると、地方政府の土地売却収入減がそれだけ拡大する。中国は今後、急速な高齢社会へ向かうだけに、財源はいくらでも必要な時期を迎える。それだけに、土地売却収入減は打撃になる。
(3)「都市の規模別でみると、中小都市で先行して価格が下がり始め、大都市にも波及しつつある傾向がわかる。成都市、天津市、南京市は省都レベルの2級都市のなかでも規模が大きい「新1級都市」と呼ばれる。新1級都市の平均価格は10月、前月比0.1%の下落に転じた。北京市、上海市、広東省広州市、同省深圳市の1級都市は9月に上昇が止まった。このうち広州市と深圳市はすでに値下がりしている」
下線のように、広州市と深圳市がすでに値下がりしていることは、輸出(広州市)とIT企業(深圳市)の不振を先取りした現象である。注目すべきだ。
(4)「マンションの値下がりは、住宅ローンの審査厳格化で購入需要が落ち込んだことだけが理由ではない。政府の規制強化で不動産会社の資金繰りが悪化したことも影を落とす。開発する会社のほか、各社から代金でなく、不動産の現物を受け取った施工業者が現金化を急ぎ、値引き販売に拍車をかけた」
施工業者は、大量のマンションを現金代わりに渡されている。そこで業者は、大幅値引き(約30%)で、現金決済を条件にしている。これが、値崩れの原因の一つだ。
(5)「政府は不動産バブルが金融リスクを高めていると警戒してきた。新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込んで経済の正常化を進めつつ、不動産規制を強めた。だが、中国恒大集団など不動産大手の経営が揺らぐと、金融監督当局の中国人民銀行(中央銀行)などは方針を微修正した。不動産融資の過度な絞り込みの是正を銀行に求めた」
中国は、不動産金融が綱わたりである。締めすぎて不動産開発企業を苦境に追いやるのでないかと気を配っている。これが、不動産バブルの温床になっている。アヘン患者が苦しまないように、適当にアヘンを配ると同じことをやっているのだ。