勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国企業への信頼が大きく崩れている。中国恒大は、外債の利払いが三回も不可能になる事態に陥った。この連鎖によって、不動産開発企業全般へ不安が拡大している。その根本には、中国経済への疑念の深まりがある。中国恒大がばらまいた負の材料が、改めて中国の抱える根本的な問題をあぶり出したのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月16日付)は、「中国不動産、社債市場で強まる警戒、恒大以外も調達難」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産会社の資金調達が一段と難しくなってきた。社債市場では中国恒大集団以外にも債務不履行(デフォルト)の懸念が高まり、これまでに発行した社債の価格が急落。10月の発行事例はこれまでなく、市場での調達環境の悪化を映す。当局の規制で銀行融資も減少。中国の不動産会社は日本の国内総生産(GDP)を上回る巨額債務を抱えており、金融市場で警戒が高まっている

     


    (1)「中国の不動産販売額で業界トップ3に入る恒大は9月以降3回、米ドル建て債の利払いを見送った。30日間の猶予期間が終わる10月23日ころに格付け会社によるデフォルトが確定する可能性が出ている。恒大以外の中堅も厳しさを増している。主要都市でマンション開発などを手掛けるキンエン・リアル・エステートは15日に償還期限を迎える2億ドル(約230億円)のドル建て債について、2023年満期の社債との交換を提案した。格付け会社フィッチ・レーティングスは実現すれば部分的なデフォルト(RD)になり得るとの見方を示す」

     

    恒大は業界2位であるが、過剰な債務依存で政府の設定した財務3ルールに事実上、全て不合格という悲惨な状態である。中堅の不動産開発企業も資金繰りで苦境に立たされている。

     


    (2)「中国調査会社の克而瑞(CRIC)は15日、「不動産会社は借り換えや現金確保が難しくなっており、業界全体の信用リスクが高まっている。政策が緩和されないとデフォルトが増える可能性がある」と指摘した。中国当局は不動産会社が守るべき財務指針「3つのレッドライン」や不動産融資の総量規制などを導入し、低格付け企業への視線は厳しさを増す。リフィニティブによると、7~9月の中国不動産会社の外債発行額は約19億ドルと、前年同期比61%減少した。UBSウェルス・マネジメントは年内に償還を迎える不動産関連の債券を45億ドルと推計したうえで「財務体質が脆弱なシングルB格銘柄のデフォルトリスクが高まる。新発債の発行による借り換えは難しい」とみる」

     

    7~9月外債発行額は、前年比61%減である。明らかに恒大問題が悪影響を及ぼしている。年内償還額が45億ドルと推計されているが、このうちどれだけまともに償還できるか不明である。中国の不動産開発企業は、債務に依存した経営だっただけに、ひとたび融資規制にかかるとお手上げである。

     


    (3)「銀行融資や「シャドーバンク(影の銀行)」を通じた資金調達も細っている。当局は1月に銀行の総融資残高に占める住宅ローンや不動産会社向け融資の割合に上限を設けた。銀行による9月の中長期融資は企業向けが前年同月比で35%、個人向けが同27%それぞれ減った。銀行の帳簿に計上されない委託融資、信託融資、手形引き受けは19月の累計で1兆5671億元のマイナスだった。返済が調達を上回ったことを示し、マイナス幅は前年同期の9.5倍となった」

     

    9月の社会融資総量(銀行融資+株式公開+信託会社融資+債券発行)は、前年比10.0%増であった。8月の同10.3%増から縮小している。2017年以来の低水準である。中国経済全体が、「縮み志向」になっている。信用不安による典型的な現象である。

     

    (4)「野村国際の推計では、中国の不動産開発会社が抱える債務は6月末時点で33兆5000億元(約590兆円)と、日本の名目GDP(約540兆円)を上回る。多くの企業が債務に依存した開発を続け、16年末に比べて1.8倍に急拡大した。陸挺・中国首席エコノミストらは、「中国不動産会社のデフォルトは増えるだろう。特に内陸部や北部への投資が多い中小業者がリスクを抱えている」と指摘する」

     

    中国不動産開発企業が抱える債務残高は、6月末時点で約590兆円と、日本の名目GDP約540兆円を上回っている。異常の一言である。過剰融資=過剰投資は明らかで、不動産バブルが崩れた後は、「ぺんぺん草」も生えないであろう。「ぺんぺん草」とは、戦後の日銀名物総裁の一万田尚人が言った有名な言葉である。「過剰投資した後はぺんぺん草も生えない」と。

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    習近平氏は、機を見るに敏である。「共同富裕論」を唱えて、テック産業や不動産開発企業への規制を強め、所得分配の是正という正義の御旗を立ててきた。だが、不動産企業の資金繰りが急悪化し、不動産販売が落込むや否や、方向転換の兆しを見せ始めている。肝心の景気を脱線させたのでは「元も子もない」とばかりに、「共同富裕実現は2050年ころ」と先延ばしを示唆した。

     

    中国経済は、不動産市場の低迷やエネルギー危機、消費者心理の悪化、原材料費の高騰とあらゆる方面から打撃を受けている。国家統計局が18日に発表する7~9月(第3四半期)の国内総生産(GDP)統計は、こうした厳しい状況を如実に示すことになりそうだと、『ブルームバーグ』(10月15日付)が報じるほど。ブルームバーグのエコノミスト調査によれば、7~9月のGDPは前年同期比5%増と、4~6月(第2四半期)の7.9%増から大きく減速する見通しという。

     


    こういう悪い情報は、習氏の耳にも届いているはず。つい先日までは断固、「共同富裕」を行う意思を見せていた習氏が、急にトーンダウンした論文を発表したのだ。

     

    『ロイター』(10月15日付)は、「中国の共同富裕2050年ごろまでに実現へー習主席」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は、2050年ごろまでに「共同富裕」を基本的に実現すると表明した。ただ、実現できない社会福祉を公約に掲げるべきではないとの認識も示した。

     

    (1)「共同富裕は格差是正を目指す広範な政策。この政策の下でハイテク産業や民間教育産業の行き過ぎを取り締まる動きも出ている。習主席は、共産党の理論誌『求是』に公表した論文で、今世紀半ばまでに所得・消費格差が「妥当なレンジ」まで縮小するだろうと予想ただ、政府は実現できない約束をするべきではないとし、「福祉主義」の「わな」に陥ってはならないと述べた」

     


    習氏は、共同富裕論の実現を目指して「脱兎」のごとき勢いで、
    ハイテク産業や民間教育産業の行き過ぎを取り締まり、さらに不動産開発企業の財務内容弱体化を取り上げて、不動産バブルを取り潰す勢いを見せてきた。

     

    ところが、「共同富裕」の実現は2050年ごろと間延びした論文を共産党理論誌『求是』に発表していたことが判明。これには、二度ビックリである。不動産開発企業を痛めつけると、肝心の中国企業が「失速」することが分かったのだ。

     

    この事実こそ、習氏は中国の脆弱な経済構造を全く知らないで、「共同富裕」という言葉に飛びついたのであろう。「共同富裕」を実現するには、まず、富裕層に固定資産税と相続税を受入れさせることだ。これによる安定した税収源を確保して、「バブル依存経済」から脱却すべきである。こういう手堅い前段の対策を怠って、「不動産バブルはけしからん」という感情論で不動産開発企業だけをヤリ玉に上げ、経済失速の前触れの前で立ち往生し始めたのであろう。これが、偽らざる習氏の現況と言えそうだ。

     

    (2)「習主席は、社会階層の「固定化」は防ぐべきだが、「寝そべり」も避けるべきだと主張。中国では、競争に勝ち抜くことを諦めた「寝そべり族」と呼ばれる若者が増えている。習主席は、草の根レベルの公務員の給与と国有企業の労働者の給与を引き上げるべきだとも主張した」

     

    このパラグラフは、なんの脈絡もない記事である。読み手としては、何を言いたいのか頭をひねざるを得ない。習氏の胸中を察すると、「共同富裕」=ジニ係数低下は先の話だが、「寝そべり族」という就職・結婚などに関心を持たない青年達に希望を与えたい。そのためには、草の根レベルの公務員の給与と国有企業の労働者の給与を引き上げる、と言っているのだろう。

     

    この程度の話が、笛や太鼓で騒いだ「共同富裕」実現の第一歩なのだ。すっかり肩すかしを食った形である。

     


    『ロイター』(10月15日付)は、「中国、銀行の住宅ローン規制を年内緩和と関係者ー恒大波及懸念の中で」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局は、国内大手銀行の一部で住宅ローンに課していた制約を緩和している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。不動産開発大手、中国恒大集団の債務危機による影響の波及を巡り、当局が懸念を強めていることをあらためて示している。

     

    (3)「非公開情報だとして匿名を条件に話した関係者によると、金融規制当局は先月下旬、10~12月(第4四半期)に住宅ローンの承認を加速させるよう一部の主要銀行に求めた。また、銀行側は融資枠を広げるため、住宅ローン担保証券(RMBS)の発行申請も認められたという。今年前半に導入した抑制措置を和らげる」

     

    住宅販売落込みをカバーすべく住宅ローンの緩和に踏み出したという。だが、中国恒大を初めとする不動産開発企業のデフォルト騒ぎが収束しない限り、消費者が安心して住宅購入に動くとは考えにくい。すでに、都市部住民の9割超が自宅保有である。これから購入するのは投機用である。中国政府は、それを知りつつ投機の手伝いをすることになる。なんと、矛楯した行動であるか。この程度の知恵で、中国経済は回っている。不健全極まりない。

     

    (4)「習近平国家主席が、不動産市場抑制に向けて厳格な措置を維持する中で、中国恒大の流動性危機が他の不動産開発企業にも広がりつつあるとの警戒感が強まっている。年明けに始まった不動産セクターに対する異例の銀行のエクスポージャー規制で貸し出しは細っていた。住宅ローンが組みやすくなれば、実需中心の一次取得者は下支えされ、売買も押し上げられる。一方、銀行はRMBS発行によって融資分をバランスシートから切り離し、貸し出し余力を確保できる」

     

    住宅ローンが組みやすくすれば、空き家を増やす一時的な景気刺激策に終わるのだ。GDP成長率の急減を避けるには、無駄な住宅投資をさせる以外に道はなくなっている証拠である。これで、中国経済が米国へ対抗する力を付けられるはずがない。まさに、刹那的な経済刺激策である。

     

     

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    中国恒大の債務残高は、中国名目GDPの2%にも相当する3000億ドルに達している。2008年のリーマン・ショックと喩えられるが、リーマン・ブラザースの債務残高は6130億ドルだ。中国恒大の2倍の債務規模であった。リーマンに比べて、恒大の債務内容がはっきりしているので、対応はリーマンほど困難とは言えないとの声も聞える。

     

    だが、この巨額債務はどう処理させるか、中国国内だけでなく、海外も注目している。米ドル建て債が195億ドルある(2021年6月末)もある。それだけに、米国政府も無関心ではいられない。習近平氏は、中国恒大をめぐって何ら意思を示さずに沈黙している。この間に、他の不動産開発企業にも悪影響が及んでいる。「沈黙は金」どころか、大きな問題を孕んでいる。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月14日付)は、「恒大問題、中国政府に選択の時」と題する社説を掲載した。

     

    中国の不動産開発大手・中国恒大集団がじりじりと崩壊に向かう中で、政府が包括的な対応策を用意しているとすれば、それはアジアで最もよく守られている秘密の一つと言えよう。習近平国家主席の率いる政府が介入し、少なくとも恒大の一部債権者の保護に動くことは明らかだ。ただ、誰がどのような形で優遇されるのか不透明なことは、もうひとつのリスクである。

     

    (1)「恒大が3000億ドル(約34兆円)以上の負債の管理面で問題を抱えていたことは、投資家や中国の政策担当者の間では何カ月も前から知られていた。今年8月以降、同社は国外の投資家向け債券の3件の利払いを期限内に履行できなかった。ただ30日間の猶予期間のおかげで、まだデフォルト(債務不履行)には陥っていない。

     

    恒大は、第一回の債券の利払いができなかったので、何も対応できなければ30日後にデフォルトになる。

     


    中国恒大の負債内訳は、つぎのようになっている。

    買掛金   9629億元(48.9%:取引先などへの支払い)

    借入金   5717億元(29.1%:債券含む)

    契約債務  2157億元(11.0%:マンション販売前受金)

    その他   2162億元(11.0%)

    合 計 1兆9665億元

    (2021年6月末)

     

    借入金(債券含む)は、全債務の29.1%である。普通のデフォルトでは、借入金の処理が大きな関心を呼ぶが、中国では買掛金(サプライヤーへの支払い)と契約債務(マンション購入者の前払い金)の扱いが最大の関心事になっている。中国当局では、この扱いを優先させている。借入金は後回しだ。金融機関借入は有担保であろう。債券も無担保というほどの高い信頼性があったと思えず、これも担保が付けられているであろう。

     

    となると、借入金はもっとも不利な扱いが目に見えている。とりわけ、外債の支払いをどうするのか。米国が関心を持つ理由である。

     

    (2)「中国政府がどんな対応を考えているのかは誰も知らない。恒大の現行の形態を維持する形での直接的な救済は考えにくい。同社の苦境の一因は、不動産価格を低下させるとともに不動産開発業界の債務を減らすという中国政府の広範な取り組みにある。また、債権者の法的優先順位に基づく欧米型の秩序ある破綻手続きが同社に適用されることもないと思われる。こうした手続きが取られれば、投資家は中国の法の支配について安心感を持つだろう」

     

    中国政府は、債権者の法的優先順位に基づく欧米型の秩序ある破綻手続きを適用する積もりならば納得できる。だが、買掛金と契約債務が優先されるとなれば、法廷に問題が引き出されるであろう。新たな紛争を招くのだ。

     

    (3)「しかし共産党は、恒大のサプライヤーになっている中小企業や、前払いした建物の完成を待っている住宅購入者に損害を与えるリスクは冒さないだろう。これらの債権者は、従来の破綻手続きでは大損をする可能性があり、恒大のオフィスの前で抗議した人もいる。習氏には、これ以上の社会不満に対応する余裕はない」。

     

    習氏は、国内の不満を抑えることを優先すれば、紛議が起って当然であろう。沈黙しているのでなく、対策を発表すべき時期である。

     


    (4)「現時点では、政府は対応を先延ばしする計画のように思われる。遅れている利払いを猶予するよう銀行に圧力をかけているほか、未完成の物件を他の開発業者に譲り渡す準備を進めているようだ。ローディアム・グループのローガン・ライト氏はこれを「静かな救済」と呼ぶ。政府が計画を公表することがないまま行われるからだ。それ以上のことは誰にも分からない。外国人投資家は自分たちが大損することを想定しており、その想定は恐らく正しいと思われるが、どれほど損をするかは不明だ。恒大などの不動産会社が発行した債券が取引される国外の市場は、この不透明感によって混乱している

     

    恒大の外債の扱いが不透明であれば今後、中国企業の外債発行は大きく制約されるはずだ。

     

    (5)「恒大のサプライヤーは、最も厄介な存在かもしれない。サプライヤーの多くは、売掛債権を中国のグレーな金融システム内で現金のように循環する金融商品に転換している。このため、返済が滞ると金融パニックが起きかねない。現金の代わりに不動産を債権者に提供するといった異例の解決法は、中国政府が意図する以上に経済から流動性を奪う可能性がある」

     

    売掛金は、支払手形になっている。そうなれば、金融システム内で現金のように支払手形が循環して当然である。中国政府は、売掛金=支払手形の決済法としてマンションを提供させれば、そこで手形が償却されてしまい、流動性を奪うのでないかと懸念している。あり得ることだ。

     


    (6)「政府は、恒大が保証する理財商品を購入した一般世帯への影響も懸念するとみられる。これらは債券に似た、規制が不十分な金融商品で、低金利の貯蓄口座に対する「安全」で高金利の代替商品として銀行などが販売したものだ。こうした商品のデフォルトを容認すれば、中間所得層の貯蓄者が困難な事態に陥り、さらなる政治的混乱を引き起こす可能性がある」

     

    理財商品は、多額の景品を付けて恒大社員相手に売却されている。この理財商品が償還されないと社会問題になる。

     

    (7)「習氏には、静かな救済策を捨てて、より明確な計画に移れるだけの時間的余裕がなくなりつつある。一層の明確化にもリスクがある。一般世帯や投資家は、政府の計画が不十分だと判断すれば激しく反発する恐れがある。とはいえ、不透明感が他の企業にも広がる中で沈黙を保つことは、ますます危険になっている」

     

    習氏が、恒大の問題で沈黙していれば不安を煽り立てることになって、習氏自信にも不利になる。習氏は、住宅投資で高いGDP成長率を実現し、鼻高々になってきたのだ。せめて、処理案ぐらいを提示すべき義務があろう。

     

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    習氏は、歴史に名を残す政治家を夢見ているという。中国経済の量的な成長でなく、質的な充実による「共同富裕」の実現を目指したいというのだ。古来、中国では「大同社会」が理想郷とされている。この観念は老子によるものである。そこで暮らす人々は、個人の欲得を求めるのでなく、全体の利益に奉仕する社会である。

     

    この「大同社会」が、現在の「共同富裕」となっている。これを実現するには、中国の特権階級になった共産党幹部に、まず欲得を離れて固定資産税や相続税を受入れさせることから始めるべきである。習氏に、それを実行する勇気がないようである。来年秋の党大会で、国家主席3選の支持を取り付けなければならないからだ。

     

    そこで手っ取り早く始めたのが、民間の富豪や企業に寄付金を出させること。また、不動産バブルで所得不平等の片棒を担いだ不動産開発業に規制を加えることである。習氏は、この手が成功すると見ている。だが、大きな誤算因子を内包していることを見落としている。不動産規制をやり過ぎると、中国経済の息の根を止める危険性があるのだ。不動産バブルを収拾する難しさがここにある。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月13日付)は、「恒大問題・電力不足、経済苦境を逆手に取る習政権」と題する記事を掲載した。

     

    中国の大手不動産デベロッパーが破綻の瀬戸際に立たされ、製造業者が中国全土で電力不足に苦しめられているなか、習近平国家主席は自らが招いた経済的な嵐に突入しようとしているように見える。だが、アナリストや政府の顧問らは、小幅な軌道修正を別にすると、習氏はこれらを「千載一遇のチャンス」として利用し、難しい構造改革を推し進めるとみている。

     


    (1)「共同富裕(推進)は、特にリスクが大きい。不動産価格を抑制し、所得格差を縮小する習氏の決意は、世界第2位の規模を誇る中国経済に利益よりも大きな害を及ぼす可能性があるからだ。「習氏は党大会に向けて準備を進めている」と中国専門家でシンガポール経営大学のヘンリー・ガオ准教授(法学)は話す。「多くのことで自分を記憶にとどめてほしいと考えているが、特に共同富裕を達成した功績を認めてほしいと思っている。(歴代の指導者は)中国を最速のペースで経済発展に導くことはできたが、社会全体の豊さという点では大したことができなかった」と見ているのだ」

     

    共同富裕が「大同社会」の現代版とすれば、経済面で2~3軒もの家を保有する特権階級を許してはならない。まず、「隗(かい)より始めよ」である。固定資産税や相続税という直接税を課して、間接税が6割というアンバランスな税制を是正することだ。これに手を付けず、「歴史に名を残したい」は欲張りすぎる。 

     


    (2)「習氏は、21年4月の共産党中央政治局会議で、中国経済が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)から比較的力強い回復を遂げていることは、特に不動産取引のような多額の債務を抱えた産業において金融リスクを減らす「千載一遇のチャンス」になると述べた。また、30年までに温暖化ガス排出をピークアウトさせ、60年までには排出量実質ゼロを達成するといった野心的な環境目標を追求するチャンスにもなると見ている」

     

    習氏は、これまでの景気が不動産バブルによって維持されていたことを見落としている。人民銀行の調査によれば、都市部住民の9割超がすでに持家になっている。2017年時点で6500万戸、21%の空き家(売却目的)が存在するのだ。一見、好景気に見えるが、実質はバブル景気である。取り巻き連中が、真実を知らせないのだろう。

     

    この見せかけの景気を本物と錯覚して、急激な温暖化対策を行えば、頻発する停電で経済活動は止まりかねない。「生活の質」追求には、もっと早くから着手すべきであったのだ。

     


    (3)「多くのアナリストは、恒大集団の債務危機は習氏と経済顧問が認識しているよりもはるかに大きな影響を中国経済に及ぼしかねないと警鐘を鳴らす。習氏らは、中国政府として経済生産全体の3割を占めると推計されている業界に規律をもたらす取り組みを放棄しないことを投資家に納得させようとしている」

     

    習氏は、不動産業界の規制を緩めない決意という。ただ、現実は不動産バブルが10年余も続いているだけに、急激な引締めはリアクションを高めるだけである。急激な金融面での引締めが、不動産開発企業を窒息させると同時に、中国経済の息の根を止めることになろう。急ブレーキを踏むよりも、静かに踏み続けることが要諦である。その時期を逸していることは事実だが、習氏が功を焦れば焦るほどリアクションは大きいはずだ。

     

    (4)「北京大学の中国金融システムの専門家マイケル・ペティス教授は、「彼らはモラルハザードを取り除く方法として市場を恐怖に陥れたいと考えている」と説明する。「人々が身を守るために行動を変えているせいで、恒大集団の問題は手に負えなくなるリスクがある。我が身を守ろうとすることは合理的ではあるが、多くの人がこれを組織的にやると、自己増強的な流れができ、事態を悪化させる」と指摘する」

     

    下線部は、意味深長である。個々人には正しい判断でも、全体か見れば誤った結果が出るという「合成の誤謬」問題である。それが、不動産規制でおこる危険性が大きい。具体的に言えば、急激な引締めで住宅価格の先安感が醸成されれば、一斉に住宅需要が引っ込んで、完全に売れなくなる。その場合、地方政府は土地売却益が減り、また住宅販売も不振に陥る。こうなると、GDPの3割を占める住宅関連産業は、完全にお手上げになる。こういうリスクが高まるのだ。

     


    (5)「中国政府の政策顧問の1人は、現金を確保するために恒大集団が最近実施した資産売却は、3050億ドルと推計される全体的な負債に比べると取るに足りないものだと述べた。あまりに急いで過度な圧力をかければ、同社は膨大な量の土地の売却を強いられるかもしれない。「恒大集団の開発用地の投げ売りは、中国の多くの地域で地価を押し下げかねず、非常に恐ろしいことだ」と顧問は話す。その場合、「唯一の現実的な解決策は、不動産業界全体を徐々に国有化することかもしれない」と付け加えた」

     

    習氏が功を急げば、不動産業を国有化して管理下に置くことだという。そうなれば、習氏は夜も安心して寝られるかも知れない。全てを直接管理しなければ気が済まない。次第に、独裁者特有の猜疑心が高まってきたのであろう。

     

     

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    インドネシア高速鉄道建設は、日本との契約寸前に中国へ横取りされた曰く付きの建設プロジェクトである。結果として、当初契約と異なり工期は遅れる、建設費は4割高となりインドネシア政府が損害を被ることになった。約束しても守らない。インドネシア政府は、中国商法に騙されることになった。

     

    『日本経済新聞』(10月14日付)は、「高速鉄道 中国案のツケ、インドネシア 費用膨張で税金投入検討 総工費が日本案の4割高に」と題する記事を掲載した。

     

    中国が主導してインドネシアで建設が進む高速鉄道の計画をめぐり、ジョコ大統領は6日、国費の投入を可能にする改正大統領令を公布した。当初の両政府の合意では、インドネシア政府に財政負担を一切伴わない触れ込みだったが、事前の事業調査の甘さが露呈して費用が想定を上回り、方針転換を迫られている。

     

    (1)「ジョコ政権は政府融資も選択肢に入れる。インドネシア国鉄社長は9月上旬、国会の証言で「高速鉄道事業が19億ドル(約2100億円)のコスト超過に陥っている」と表明し、政府に財政支援を求めていた。インドネシアと中国両政府は2015年9月に高速鉄道の建設で合意した。首都ジャカルタと西ジャワ州の中心都市バンドン間の140キロメートルを中国の高速鉄道技術で結び、現行の在来線で3時間半の所要時間を45分に短縮する計画だ」

     

    インドネシアと中国両政府は、2015年9月に高速鉄道の建設で合意した。中国は、工事欲しさに破格の価格を提示したほか、日本の測量図を使うという杜撰な工事計画であった。それが、工期の長期化と19億ドルもの工費割り増しという最悪の結果を招くことになった。

     

    (2)「インドネシア政府は当初、総工費を55億ドルと見積もった。起工式から5年を迎えた今年1月時点では60億7000万ドルに膨らむと見込んだ。その後、国鉄も資本参加する事業主体のインドネシア中国高速鉄道社(KCIC)が改めて費用を精査した結果、少なく見積もっても79億7000万ドルに達するとわかった」

     

    当初の総工費は、55億ドル。それが、60億7000万ドルに膨らみ、最終的に79億7000万ドルにまでなるという。こういう工費の膨張は、中国側がいかにインチキであるかを物語っている。一帯一路プロジェクトもこんな杜撰な調子で行っているのだろう。呆れた話だ。

     


    (3)「国鉄は国会証言で、土地取得や建設にかかる費用が想定を上回ったほか、計画の再三の遅延により、見込んでいた収入を得られなくなったことを追加費用発生の理由に挙げた。財務や税務などのコンサルタント料もかさんだという。KCICは当初、16年中に建設予定地の土地収用を終える方針だった。だが、当局が保有する土地データが実際と異なる例があり、所有者の把握が難航した。建設に必要な土地面積は予定より3割広いことが分かり、コストをかさ上げした」

     

    中国側だけを責める訳にもいかない事情がある。インドネシア側の建設用地買収が遅れ、かつ建設に必要な土地面積は予定より3割広いというおまけも付いた。これらが、建設費を押し上げた。

     

    土地収用問題は、最初から難航が予想されていた。中国は、そういう事情も知らずに、日本へ決まりかけた受注を横取りした。

     

    (4)「追加の費用負担を巡っても問題が生じた。全体の負担の枠組みは、75%を中国国家開発銀行(CDB)の融資、25%をKCICの資金から充てる取り決めになっている。KCICは資本の60%をインドネシア、40%を中国の企業で構成する共同事業体だ。ただインドネシア側がKCICの資本金を十分に支払っていないことが判明し、中国側は追加費用の捻出に向けたCDBの追加融資や中国企業の負担を拒否しているもようだ

     

    下線部は、中国の資金事情の悪化を反映している。他国の一帯一路でも、空手形を切って相手国を怒らせているケースが東欧などで続出している。これが、反中ムードを高める一因になっている。

     


    (5)「高速鉄道計画をめぐっては、当初、日本の政府開発援助(ODA)を通じた新幹線方式の提案が有力視された。日本案では総工費を6000億円と見積もり、うち4500億円を償還期間40年、金利0.%の円借款で充てる内容だった。日本企業が受注する条件付きだったとはいえ、1%以上する通常のODA案件の金利より低く抑えた。しかし、ジョコ氏は最終的に中国案の採用を決めた。インドネシア政府に財政負担や債務保証を一切求めず、技術も移転するという破格の条件が決め手となった

     

    ジョコ大統領が、中国案に乗ったのは政治的な理由とされる。インドネシア側が建設費を負担しないことが、功績になると踏んだもの。その後の工事遅延で、日本を誘い込む動きを見せたものの、日本側が辞退して関わりを持たぬようにした経緯がある。

     

    (6)「高速鉄道の工事の進捗率は現在79%にとどまり、開業は22年末までずれこむ見通しだ。完工は日本案で想定した21年よりも遅れるうえ、総工費も4割以上高い水準に膨らんだ。触れ込みに反してインドネシア政府が国費を投入する方向となり、中国案のメリットは薄らいでいる」

     

    日本案で着工していれば、今年は開通していた。総工費も日本案より高く付き、中国に全て騙された形である。この一件で、中国の高速鉄道建設案には大きな瑕疵がついた。

     

     

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