勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国の身勝手さは昔からだが、今度は防衛費をめぐって日本批判を始めている。岸田首相が、防衛費を対GDP比2%目標の発言をしたが、早速の批判である。「平和憲法にそぐわない」というのである。

     

    一方の韓国の防衛費は、対GDP比2%を超えている。日本は防衛費を増やしていけないが、韓国は許されるという理屈はどこから出てくるのか。NATO(北大西洋条約機構)でも、防衛費は対GDP比2%を共通目標にしている。日本が、いつまでも1%未満に止まっていることは、自国防衛に不熱心と受取られる危険性すら出るという国際情勢の変化がある。

     

    韓国政府が8月に発表した2022年(暦年が会計年度)の政府予算案で、国防費は前年比4.%増の55兆2277億ウォン(約5兆3000億円)となった。日本の21年度当初防衛予算に並んだ。今後も大幅な増額を予定しており、23年にも実額で日本を上回る可能性が出てきた。韓国は毎年、対GDP比で2%を超える支出を維持しているのだ。

     


    『ハンギョレ新聞』(10月14日付)は、「日本『中国に対する不安』で軍備増強、東アジア情勢をさらに不安にする可能性」と題する記事を掲載した。

     

    日本の自民党が防衛費をGDPの2%水準に引き上げ、現行の「防衛政策」を抜本的に見直すという公約を掲げたのは、日本が米国と力を合わせ、東シナ海などで強まっている中国の軍事的脅威に対抗するという決意を誇示したものとみられる。これに先立ち、菅義偉前首相は今年4月、日米首脳会談を終えた後に公開した共同文書で、52年ぶりに台湾海峡の平和と安定に言及し、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と宣言した。この決意を実行する具体的な措置を一つずつ取るということだ。

     

    (1)「10月12日に公開された自民党の政策公約集「自民党政策BANK」によると、日本が台湾海峡を含む東シナ海で展開されている中国の軍事的動向に非常に深刻な「安保不安」を感じていることが確認できる。自民党は「中国の急激な軍拡や、尖閣列島・台湾周辺等における軍事活動の急速な活発化・力を背景とした一方的な現状変更の試み、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展、最先端技術を駆使した“戦い方”の変化など、安全保障環境が激変している」とし、これらに対応するために日本の安保態勢を「抜本的に見直す」と明らかにした」

     


    中国の軍事的な台頭が、アジアの安保環境を大きく変えてしまった。公然と、台湾侵攻を言い募るまでになっている中国に対して、日本が無関心でいられるはずがない。台湾―尖閣諸島を同時攻撃して、米軍の軍事力を分散させ攻略を容易にする狙い、とまで語られる時代だ。

     

    日本が、防衛費をこれまでの対GDP比の1%未満から2%へ引き上げるのは、周辺国を驚かす事態ではない。韓国もすでに2%台に達しているのだ。ASEANからは、防衛費の増額を求められてきたほどである。日本は、ASEANでは最も信頼されている国だ。ASEAN全体の5割強の支持率を得ている。後へ米国、中国などが続いている状況である。

     

    (3)「日本がこのような決断を下したのは、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が3月に米上院軍事委員会聴聞会で「中国が今後6年以内」に台湾に侵攻する可能性があるとし、米中新冷戦の最前線である東シナ海の厳しい安全保障の現実に言及したからだ。すると、日本の防衛専門家らが先を争って「台湾有事が発生した場合、日本は第三者ではいられない」と主張し、政府の迅速な対応を求めた。その後、自民党の政務調査会は5月、「激変する安全保障環境に対応した防衛力の抜本的強化のための提言」と題した文書を通じて、日本は「防衛関係費を抜本的に増額すべき」と述べ、自民党外交部会の台湾政策検討プロジェクトチームは台湾事態に備えるための「法的整備を急いで終えるよう」要求した」

     

    下線部は、全くの誇張でナンセンスな記述である。台湾問題は、日米首脳会談やG7サミットでも共同声明で言及された。いわば、国際的な共通認識になっている。日本が、台湾問題を尖閣諸島と連動して捉えるのは、何ら非難される事柄でない。韓国は、半島国家で国際情勢の動向に無知で困るのだ。

     


    (4)「自民党のこの日の公約は、これらの要求に忠実に沿ったものといえる。まず、防衛費の大規模な拡充だ。日本の「防衛白書」(2021年版)によると、1995年から今年までの間に、中国の国防費は14倍、韓国は3.9倍、米国は2.7倍に増えているが、日本の増加率は1.8倍にとどまっている。GDPに対する防衛費の比率を比較しても、日本は0.95%で米国(3.29%)、中国(1.25%)、韓国(2.61%)より低い。自民党の公約は、日本の防衛費を北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標水準である2%に合わせることを意味する

     

    下線部が、重要である。日本の防衛費もクアッドの一員として、それなりの規模でなければ釣り合いが取れないことも事実であろう。日本の防衛費増額は、クアッドなど同盟国の義務を果たすためである。

     

    (5)「次に、「防衛政策」の大幅な見直しだ。日本の外交・安保政策の大きな枠組みである国家安全保障戦略、その下位概念である防衛計画大綱、これに基づいて自衛隊が備えるべき武器体系を定めた「中期防衛力整備計画」などは、東シナ海における中国の軍事的動向が今のように露骨でなかった2013年12月に策定されたものだ。日本が平和憲法の制約を事実上逸脱する軍備強化に乗り出したことで、韓国の計算も複雑になった。日本の軍備強化は中国と北朝鮮を刺激し、すでに始まっている域内の軍拡競争をさらに深刻にしかねない

     

    下線は逆である。中朝が攻撃的姿勢を取っているから日本の防衛費を増額させざるを得ないのだ。クアッド結成もその一環である。因果関係を間違えた、日本批判はお断りである。

     


    (6)「もう一つの問題は「敵基地攻撃能力」だ。自民党は公約で「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑制力を向上させるための新たな取組みを推める」と言及した。これは、北朝鮮などがミサイル攻撃を加える兆候を見せた場合、日本が発射地点を攻撃する能力を備えるという意味だ。今後、日本が北朝鮮の挑発に過剰な対応をすれば、韓国の意思とは関係なく朝鮮半島で残酷な戦争が起こる可能性もある」

     

    「敵基地攻撃能力」は、日本が単独で行うはずがない。クアッドの判断が優先されるであろう。軍隊は、もはや一国単位でない。同盟軍の一員という位置づけになる。韓国の言っている防衛論は、時代遅れそのものだ。

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    中国経済の約4分の1を占める住宅販売が、9月の最盛期が不振で終わった。10月の国慶節も客足は遠のいている。これまでにない現象だ。不動産開発企業は、値引きして現金回収に務めているが、その成果は上がっていない。来年のGDPは、1%台の成長率の公算も出てきた。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月13日付)は、「急変する中国の住宅市場、値引きでも買い手つかず」と題する記事を掲載した。

     

    中国で住宅販売が急激に落ち込んでいる。不動産開発大手が発表した9月のデータでは、前年同月比で20%や30%を超える減少が相次ぎ、中国経済の屋台骨を支える業界が大きく揺らいでいる。不動産融資の抑制を狙う政府の動きや、中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)をはじめとする開発会社の財務の健全性に対する懸念を背景に、買い手の購入意欲が冷え込んでいる。

     

    (1)「不動産開発大手は最近、9月の住宅販売データを公表。9月は例年、10月1日の中国の国慶節(建国記念日)に合わせた販売促進効果で販売が伸びやすいにもかかわらず、今年は大幅な落ち込みとなった。住宅販売の急減が続けば、景気に深刻な影響を及ぼす可能性がある。ゴールドマン・サックスによると、建設活動やサービスを含む住宅不動産市場は中国経済に大きな役割を果たしており、2018年時点では国内総生産(GDP)の約23%を占めた。建設と不動産サービス業界は出稼ぎ労働者や大卒者に多くの雇用を提供しているほか、開発業者への用地販売は地方政府の収入の約3分の1を占める」

     

    大袈裟に言えば、住宅産業が支えてきた中国経済は、ついにバブルの終焉で年貢の納め時になった。「いつまでもあると思うな不動産バブル」の状況がきたのだ。都市部は、21%の空き家を抱えながら、なお煽り続けた不動産バブルが終焉を迎える。

     


    (2)「モーニングスターのシニア株式アナリスト、チェン・ウィー・タン氏は販売減少について、住宅ローンに関する政府の規制強化と住宅購入者の間の不安増大が響いていると指摘する。顧客は購入した物件が完成に至らない可能性を心配しており、恒大集団の未完成物件についてのメディアの報道が、こうした不安に拍車をかけているという。中国政府が企業の借り入れ抑制を狙った「3つのレッドライン」と呼ばれる制限を昨年に導入するなど、開発業者は一連の変化への対応にも苦慮している」

     

    不動産業者に課された3つの「財務規律」は、ようやく金科玉条の物差しとして、業者の死命を制するまでになった。「共同富裕論」の建前上、緩和は難しいとみられている。不動産業者は、その首に鈴を付けられたのも同様だが、中国共産党もその返り血を浴びて、地方政府は、深刻な財源不足に落込む。

     


    (3)「不動産大手では、龍湖集団(ロンフォー・グループ)と華潤置地(チャイナ・リソーシズランド)が12日に住宅販売データを発表。香港証券取引所への提出資料によると、龍湖の9月の成約額は202億元(約3600億円)で、前年同月比約33%減少。華潤置地は24%近く減少した。開発大手の一部は、すでにそれ以上の大幅な減少を公表している。万科企業では34%減、中国海外発展(チャイナ・オーバーシーズ・ランド・アンド・インベストメント)は42%減だった。恒大集団はまだ取引所にデータを提出していない。ただ、914日には「メディアによるネガティブな報道」が住宅購入意欲の妨げになっているとしており、9月の販売は大幅な減少が見込まれている」

     

    不動産開発企業は、軒並み売り上げ不振に陥っている。消費者が、買い控えに入ったからだ。この流れが定着すると、簡単には元に戻らない。

     

    (4)「各社が今回発表した数字は、中国の調査会社CRICが以前に公表したデータとおおむね重なる。CRICは中国の開発大手100社の9月の成約額は前年同月比で36%減少したとしていた。調査会社ロジウム・グループの中国市場調査責任者、ローガン・ライト氏は販売減少について、さらに多くの開発業者への圧力となり、一部の業者は既存物件を完成できなくなったり、将来の計画を縮小せざるを得なくなったりする可能性があると指摘する。ライト氏は、こうした状況が続けば「引き締め策の一部によって業界全体の健全性が犠牲になるかどうか」が懸念されるとし、「財務状況の悪化と建設活動の落ち込みが経済全体に波及する」可能性があると警告した」

     

    日本は、1990年1月に株価が大暴落、同年秋頃から不動産の値下がりが始まった。不動産を担保に取っていた金融機関は、地価の15%値下がりで経営がぐらついた。担保価値を時価の8割と高いラインに設定した結果である。通常の担保掛け目は6割。中国では、日本以上の政府がらみの不動産バブルであった。その傷は、日本よりも深いであろう。

     


    (5)「販売減少を背景に、債務返済のために現金を回収しようとする開発業者が増え、さらに大幅な値引きに走ることも考えられる。これは住宅価格を押し下げる圧力となる。中国国営メディアによると、この1カ月間に少なくとも8都市の当局者が開発業者に対し、過剰と思われる住宅価格の値下げを禁止した。最低価格を設定したケースもある。

     

    地方都市が、住宅の値下がりにブレーキを掛けている。地価の値下がりが、地方政府の財源不足の拍車をかけるからだ。ここに見られるように、中国のバブルは、政府と業者の合作である。

     

    (6)「ゴールドマン・サックスのエコノミストは、土地販売が15%減、不動産販売・住宅価格が5%減となった場合、中国のGDPは来年1.4%押し下げられると試算している。最悪のシナリオでは、今年から来年にかけて土地販売が30%減、不動産販売が10%減となった場合、GDPの減少幅は4.1%になるという」

     

    このパラグラフは重要である。中国経済は、バブルの崩壊で大揺れである。政府は、ここまでの影響があるとは夢想もしていなかったであろう。「GDPの減少幅は4.1%」となれば、1%台成長になる。まさに、「恐慌」の到来になる。

     

     

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    中国の金融状況は、予断を許さない事態に陥っている。通常の銀行融資以外の新規株式公開、信託会社の融資、債券発行などが含まれる社会融資総量は、9月末に前年比10.0%増に止まった。少なくとも、2017年以来の低い伸びである。8月は10.3%増であったので、9月は0.3ポイントの減少になった。

     

    このように、中国の金融情勢は真綿で首を締められるようにジリジリと狭まってきている。中国当局によって、国有銀行25機関に対する民間企業との癒着を調査する影響はまだ出ていないが今後、この要因も加わると見られる。

     

    金融機関は、将来の発展性の認められる企業には積極融資をしたい。それが、「癒着」と誤解されて罰則対象にされれば、大変に不名誉な事態になる。こうして、金融機関本来のリスクを冒してまで融資する可能性が消えるのだ。中国経済にとっては、大きな損失になろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月13日付)は、「中国金融機関の癒着調査、問題の半分は手つかず」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産セクターに混乱が広がり、「共同富裕」が中国資本主義の新たな標語となる中、規制の風波が金融業界に及ぶのは時間の問題だった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が11日報じたように、今回の調査は今月から始まり、25の主要金融機関が対象となっている。

     

    (1)「中国政府は金融機関、規制当局、そして民間有力者の近過ぎる関係が、不動産大手の中国恒大集団の債務問題や、配車サービス大手の滴滴出行、フィンテック企業アント・グループなどハイテク企業の異様に迅速な上場プロセスにつながったと考えている。そうした疑念は確かに正しいかもしれない。しかし、中国政府が金融システム全体をより生産的な方向に導くための適切な政策を持っているかどうかは明確ではない。政府はハイテク分野の競争促進に改めて力を入れているが、それが銀行分野には当てはまらないことを踏まえればなおさらだ」

     

    中国政府は、民間有力企業と国有銀行が癒着していなかったどうか、に目を光らせている。中国恒大には、国有複合企業の中国中信集団が肩入れしていたことから、過剰な債務依存経営に走ったと見られている。これをきっかけにして、民間企業との癒着構造を摘発する構えである。

     


    (2)「中国の銀行は国有企業と親密なことで知られる。民間の大口債務者、特にこれまで「大き過ぎてつぶせない」とされてきた借り手が、商業的に疑問のある融資を受けていたことは疑う余地がない。中国恒大は最近、同社の事業資金を援助していた地方銀行の盛京銀行の持ち株20%近くを、地元の国有企業に15億ドル(約1700億円)で売却した。盛京銀行は現在、この株式売却益を融資の返済に充てるよう中国恒大に要求している。中国の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)も、中国恒大に積極的に融資してきた企業だ。中国恒大の本社がある深圳に近い中信銀行の広州支店の元支店長は現在、調査の対象となっている」

     

    中国恒大の創業者は、農家出身でありながら才覚を生かして、中国不動産開発企業で2位にまで上り詰めた。その間、随分と無理をしてきたのだろう。その過程が、これから丸裸にされようとしている。あちこちに「怪我人」が出るにちがいない。

     


    (3)「(当局の癒着調査で)金融機関に恐怖心を植え付け、不良債権を抑制するのは結構なことだ。ただ、それと同じくらい重要なのは、いかにして金融機関に優良な融資をさせるかである。改革計画が依然として弱く見えるのはその点だ。とりわけ、汚職取り締まりによって銀行はリスクを取ることをさらに嫌うようになるかもしれない。中国の大手銀行は、自分たちは絶対につぶれないという認識と、競合他社が競争のために預金金利を引き上げることへの厳しい制限に、長らく恩恵を受けてきた。その結果、大手銀行は他の金融機関や、大き過ぎるか政治的な重要性によってつぶせないと思われる企業への融資で安易に稼ぐことを好み、どの中小企業なら賭ける価値があるのか自ら考えることはしなかった」

     

    下線部が、中国の金融機関の鋭敏な信用創造能力を奪う危険性を示唆する。銀行業の務めは、成長性のある企業への融資によって発展の機会を与えることである。その機能を奪ってしまえば、金融機関は単なる「資金配分機関」に堕す。中国では、これからそのリスクが発現しそうである。

     

    (4)「このようなことは、より平等主義的な社会や大企業によるレントシーキング(自らに有利になるような法制度や政策の導入・変更を政府に働きかけ、利益を追求すること)の抑制を求める声とは明らかに一致しない。規制当局は中国の銀行セクターに競争を導入しようとするのではなく、むしろ預金金利の実質的な上限を維持している。今回のキャンペーンで、中国政府が悪玉を捕まえるであろうことは間違いない。ただし、腐敗している金融セクターの核心部分にとっては、より強力な薬が必要である」

     

    「角を矯めて牛を殺す」という言葉がある。銀行と企業との癒着は許されないが、余りに厳格にやり過ぎれば、「沈香(じんこう)も焚()かず屁()もひらず」になる。つまり、平凡な金融機関に終わってしまう危険性が高まるのだ。そのバランスをどう取るのか。中国は、難しい局面にきている。

     

     

    テイカカズラ
       


    半導体は、産業のコメから心臓に喩えられている。その半導体生産で、中国は大きく躓いている。中国が、米国覇権へ挑戦と大言壮語し、米国からきつい「お仕置き」を受けているのだ。普段から、大変お世話になっている相手に向かって絶対、言ってはならない言葉だった。ここが、中国の「田舎侍」の限界である。

     

    米国は、半導体の広範な技術とソフトの対中輸出を禁止した。半導体専門家によれば、「半導体はグローバルな分業体制が前提。どの国も独自のサプライチェーンはつくれない」と指摘する。その意味では、「平和産業」である。戦狼外交で他国を脅迫する中国が、半導体生産で協力を仰ぐのは、一段と難しくなっている。自業自得なのだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(10月12日付)は、「中国半導体『遠い』自給70%、2020年10%台の見方も」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が掲げる2025年に半導体自給率70%の目標達成が難しい情勢になっている。民間調査会社によると、20年の自給率は10%台半ばにとどまった。米中対立で製造設備の輸入が進まないことなどが原因だ。習近平指導部は政府系ファンドの投資拡大や補助金、名門大学に専門学部を設立するなど政策を総動員するが、実現は容易ではない。

     

    (1)「米中対立が先鋭化するなかで、米国から中国の弱点として狙われる半導体産業の育成は習指導部にとって喫緊の課題だ。15年に発表した産業政策「中国製造2025」では半導体を重点領域に選定し、当時で10%に満たない自給率を20年に40%、25年に70%まで高める目標を打ち出した。習国家主席の肝煎りである政策目標を実現するため、中国はこれまでも次々と施策を繰り出してきた」

     


    政府は、半導体への進出を奨励すべく多額の補助金も付けた。応募した多くは、補助金目当ての「素人企業」であった。半導体に対する認識は、この程度であったのだ。こういうレベルからの出発である。一筋縄でゆくはずがない。

     

    2015年当時の自給率は、10%にも満たなかった。それを20年に40%目標とは、大風呂敷であり過ぎた。現状では16%程度。これには、外資系企業の生産分も含まれている。中国企業だけでは10%見当と見られている。歩留まり率は低いはずである。

     

    (2)「その一つが半導体産業に特化した政府系ファンドの投資拡大だ。規模が最も大きい「国家集成電路産業投資基金」(国家大基金)の第1期の投資額は約1400億元(約2兆4500億円)に上った。14年秋に設立され、これが中国製造2025を下支えする役割を担った。米中対立を受け、19年にはさらに投資額約2000億元の第2期を立ち上げた。国家大基金は結果的にNAND型フラッシュメモリーを手掛ける長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ)の存在感を高めることに成功した。中芯国際集成電路製造(SMIC)のサプライチェーン(供給網)の整備のため材料や製造装置に多くの資金を投じ、中国を代表する半導体受託生産大手に育てた。20年には半導体企業への優遇措置も導入した」

     

    このパラグラフを読めば、「満艦飾」とも言える進出ラッシュである。だが、「金食い虫」に終わって、ほとんど成果は上がらなかった。技術には、技術開発と製造技術がある。半導体では、基礎技術から始めなければならず、その技術開発をどのように製品にするかという製造技術の問題が残されている。中国半導体は、この二つの関門を超えなければならないのだ。簡単に乗り切れるはずがない。

     


    (3)「中国メディアによると、半導体分野への投資額は20年に19年実績の4倍以上に達する1400億元に膨らんだ。中国で生産した半導体の販売金額は20年、14年の約3倍の8848億元に伸びた。一方、電気自動車(EV)の普及や自動運転技術の導入など自動車をはじめ多くの産業で半導体の利用が広がり、20年の半導体輸入額は14年比で6割増の3500億ドル(約39兆円)まで増えた」

     

    EVなど、半導体需要はうなぎ登りである。中国では、ニセ物半導体まで出回っているという。製造過程での不良品や中古品からの回収半導体が、新品を装っているという。

     

    (4)「輸入が急増した結果、米調査会社ICインサイツによると、20年の自給率は16%にとどまった。加えて過半を台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子、SKハイニックスなど海外メーカーの中国拠点が占めるとし、中国系だけでみた自給率はさらに下がるという。中国当局は「30%前後」との見方を示すが、それでも20年目標に届かない低水準だ」

     

    20年の自給率は16%と言われている。これには、外資系企業の生産も含まれている、純国産は10%見当とされている。

     

    (5)「習指導部は「半導体強国」への旗を降ろしたわけではない。中国政府の後押しを受け、異業種の有力企業も半導体分野に注力している。中国メディアによると、スマートフォン大手の小米(シャオミ)は関連するファンドなどを含め、21年に入って半導体関連企業20社以上に出仕した。EV大手の比亜迪(BYD)は近く、山東省の半導体企業を買収する見通しだ。約50万円の格安EVで知られる上汽通用五菱汽車は自前の半導体開発に乗り出した」。

     

    異業種から簡単に半導体へ進出できるはずがない。そういう安易さが、中国の非常識さを示している。 

     

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    習近平氏は、ここを先途と25国有金融機関と恒大集団など民間企業との癒着関係を徹底的に洗い直す作業に着手した。この結果、正常な融資活動が停滞気味になっている。それでなくとも、コロナ禍・停電・不動産バブル処理・共同富裕論と課題山積の中で、さらに手を広げて「習近平帝国」確立に向けて最後の総仕上げに入っている。

     

    これが、凶と出るか吉と出るかは分からない。経済の潤滑油である金融に齟齬を来たせば、一挙に歯車が逆回転しかねないほど、危ないところへ差し掛かっているからだ。経済に疎い習氏と取り巻きの民族派には、事態の深刻さを認識していないようだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月12日付)は、「中国金融機関と民間の癒着、習氏が徹底調査へ」と題する記事を掲載した。

     

    習近平国家主席は国有の銀行や金融機関が民間の大手企業と築いてきた関係に狙いを定め、経済における資本主義的な力を抑制する取り組みを強化している。

     

    昨年末に民間のテクノロジー大手に対する規制強化に着手した習氏が、今度は金融機関に対する徹底的な調査に乗り出そうとしている。9月に発表された調査計画は、ほとんど詳細が明かされていないが、計画を知る関係者によると、国有の銀行や投資ファンド、金融規制当局が民間企業と近づき過ぎていないかに焦点を当てている。特に注目されるのは、不動産大手の中国恒大集団、配車サービス企業の滴滴出行、フィンテック企業のアント・グループなど、中国政府がこのところ標的にしている企業だ。

     

    (1)「中国の反腐敗運動の最高機関が主導するこの調査は、中国経済の中核をなす25の金融機関が主な対象となる。10年近く前に権力を握って以来、習氏が疑念の目を向けてきたセクターに対する最大規模の取り組みとなる。来年後半に指導部の交代時期を控える中、中国の経済システムを西欧型の資本主義から脱却させようとする習氏の包括的な試みの一環でもある。習氏は慣例から外れ、通常の15年で2期までとされる任期を過ぎても、権力の座にとどまると予想されている」

     


    下線部は、重要な指摘である。「経済システムを西欧型の資本主義から脱却させる」とは、直接金融(証券市場)でなく、間接金融(金融市場)に絞る意向とも見える。こうなると、中国企業の資金調達の道は大幅に狭められる。金融は、「原始時代」へ戻るようなものだ。習氏は、カンボジアの「ポルポト」のような考えに取り憑かれてきたのか。金融鎖国である

     

    (2)「共産党の中央規律検査委員会の汚職摘発担当官は今月に入り、25の国家機関の事務所を次々と家宅捜索し、投融資および規制関連の記録を確認し、民間企業に関連する特定の取引や決定がどのように行われたかについて回答を求めている。関係者によると、不適切な取引を行った疑いのある個人は、党による正式調査を受け、後に起訴される可能性がある。また、不適切な取引にかかわったと判断された企業も処分されることになるという」

     

    25の国有金融機関の家宅捜査をはじめたという。大事になってきた。

     

    (3)「金融セクターへの追及の背景には、借り入れに頼る建設ラッシュへの経済依存を巡り、中国政府が対策を講じようとしていることがある。そうした建設は中国不動産セクターの混乱を引き起こしている。習氏は経済措置を強化することで、今後数カ月に成長を著しく鈍化させかねない状況を引き起こすリスクを負っている

     

    下線のように、融資活動が停滞すれば経済成長率は、一層の減速を免れない。

     


    4)「不確実性が高まる中、多くの銀行は既に民間のデベロッパーやその他企業への融資を控えているとアナリストは指摘する。北京大学のマイケル・ペティス教授(財政・金融)は、「不確実性が高まれば、それに対応する唯一の方法は、今やっていることをやめることだ」と述べている。しかし、規制環境を見通せないハイテク企業や、融資の流れを止められた民間デベロッパーなど、民間企業の経済活動の減速は、中国政府にジレンマをもたらす」

     

    国有銀行が家宅捜査されていれば、重要書類は持出されているはず。習氏は、自分の知らないところで、謀反の起ることを極度に警戒しているに違いない。疑心暗鬼の塊になっているのだ。

     

    (5)「一部の当局者によれば、習氏の目的は、中国経済の生命線である金融部門を党が完全にコントロールすることを確実にし、金融部門が民間の大企業や他の有力者に捕らわれ、国家の影響力が脅かされるのを防ぐことだ。中国国内では、金融部門は王岐山・国家副主席の権力基盤として知られる。王氏は1990年代、国有企業の中国建設銀行を率いていた時に頭角を現し、長年にわたって中国建設銀行をはじめとする国有金融機関の要職に自分に近い人物を据えてきた」

     

    下線部は、反革命の防止が目的である。盟友であった王岐山氏にも疑いの目を向け始めたのは、危機的である

     

    (6)「王氏は習政権の1期目に反腐敗運動の旗振り役を務めた際、金融部門の調査をほぼ避けて通り、他の経済分野の調査を進めた。だが、中国の金融リスクは増大し続けた。国有銀行がコネのある一部の高成長企業に積極的に融資したことも一因だ。王氏の政治的影響力はここ数カ月で低下している。長年の側近は8月、7100万ドル(約80億円)超の賄賂を受け取ったとして起訴された。関係者によると、王氏は現在調査に直面している金融企業のいくつかとつながりがあるという」

     

    最近は、習氏と王氏の関係がスムーズにいっていないという。王氏は、米国に多くの友人がいる。それだけに、習氏は警戒し始めたのだろう。独裁者固有の孤独に苛まされているのだろう。

     

    (7)「特に経営難に陥っている不動産デベロッパー、中国恒大への国有銀行の融資も調査対象になるという。中国恒大への主要な貸し手の一つが、現在調査の対象となっている国有の金融複合企業、中国中信集団(CITIC)だ。1970年代後半、中国で最も名の知られた「赤い資本家」の栄毅仁氏が資本主義の実験のために設立した中信の融資事業は、長年にわたり中国で最もウォール街に近い文化を作り上げてきた。彼らは旧来型の金融機関が敬遠してきたリスクを取り、中国恒大のような企業のために投資ファンドを設立することさえあった」

     

    中国恒大は、当局が警告し続けていたにもかかわらず、債務をテコにした膨張政策に走ったと指摘されている。この裏に、国有金融機関が絡んでいたという見方をしている。家宅捜査で、何が浮かび上がるか。中国は、新たな段階へ入る。

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