中国が、レガシィー半導体の生産拡充に躍起となっている。4~6兆円の国策ファンドの設立に動いている。米商務省は、「レガシー半導体」について、中国の生産動向に関する情報収集を始めた。米国企業が、中国にどれだけ半導体で依存しているかを分析する目的である。「レガシー半導体」は、最先端ではないが世界経済にとって不可欠な存在になっている。中国は、レガシィー半導体で主要供給先になると、サプライショックが起こり兼ねないからだ。
『日本経済新聞 電子版』(3月21日付)は、「中国、4兆円超の半導体ファンド構想 米包囲網に対抗」と題する記事を掲載した。
中国政府が独自の半導体サプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。成熟分野の製造装置を中心に投資を拡大する。過去最大の約4兆〜6兆円の国策ファンド構想が浮上しており、半導体の国内生産能力の2ケタ成長を持続させる。
(1)「『(最先端ではない)主流の装置でもスマートフォン向け半導体で通常使われている7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの回路線幅に対応できる』。上海市で開催中の半導体展示会「セミコン・チャイナ」では、政府系の中国半導体装置最大手、北方華創科技集団(NAURA)のブースの映像に人が群がった。映像に映る製造装置は、米国が対中輸出を禁じる最先端の装置ではないとみられる。中芯国際集成電路製造(SMIC)は前世代の装置などを使って7ナノの半導体を製造したとされ、NAURAはSMICに協力しているとの見方も出ている」
中国には、「7ナノ」半導体を製造する正規の装置は存在しない。旧世代の装置を継ぎ足した職人芸で「試作」した程度で量産化は不可能とされている。
(2)「NAURAは習近平(シー・ジンピン)国家主席が唱えるイノベーションを通じた「新質生産力(新しい質の生産力)」を備える代表企業だ。米国の規制によって米国人技術者が去った半導体工場に大量の技術者を送り込み、稼働を支えているとみられる。23年12月期の売上高は前の期の1.4倍以上、純利益は1.5倍以上に増えた見込み。売上高で同業界の世界トップ10に入り、李強(リー・チャン)首相が視察をして高い評価を与えた。趙晋栄董事長は、20日に開かれたセミコン・チャイナの国際会議で「半導体技術の発展は製造設備のイノベーションでもある」などと指摘した。基礎研究の強化によって中国の製造装置産業を底上げする必要性を強調した」
NAURAは、中国半導体製造装置を製作する「希望の星」である。これが、独力でどこまで技術水準を引上げられるかだ。
(3)「NAURAは、国策半導体ファンド「国家集成電路産業投資基金(大基金)」から支援を受けて成長した。大基金は15年発表のハイテク産業の育成策「中国製造2025」の議論をしながら設立され、国内の半導体サプライチェーンに投資するものだ。14年に始まった第1期は約1400億元(約2兆9000億円)、19年に始まった第2期の投資額は約2000億元に達する」
NAURAは、国策半導体ファンドからの投資を受けている。
(4)「中国メディアによると大基金はこれまで、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォン向けに半導体を供給したSMICや米アップルが調達を検討したメモリー大手、長江存儲科技(YMTC)といった有力企業や工場を対象に、100以上の投資を実行してきた。出資者の収益状況は不明だが、国有企業が中心で長期的な視点で投資しているとみられる」
国策半導体ファンドは、これまで100以上の投資を実行している。国有企業中心である。
(5)「米国との対立長期化を受け、大基金の第3期の構想が浮上する。米ブルームバーグ通信は3月上旬、大基金が第2期を上回る270億ドル(約4兆1000億円)以上の資金を地方政府や国有企業などから集めて第3期の準備を進めていると報じた。第3期は人工知能(AI)向けを軸にするとの観測もある。国の競争力を左右するのにもかかわらず中国は出遅れている。投資額は4兆〜6兆円との見方もある。投資先は開発や生産能力が足りない成熟分野を中心に、最先端の分野も含むとみられる」
国策半導体ファンドの資金規模は、4兆〜6兆円との見方もある。過去、このファンド資金が、汚職の温床になって高官は逮捕されている。資金が、湯水のように使えるとされる。資金管理が、ルーズなのだ。それだけに、どれだけ成果を上げられるか疑問である。
(6)「中国の半導体輸入額は3494億ドルで、21年のピーク時に比べて2割減少した。一方、国内の販売金額は過去最高の1兆3000億元を超えたとみられ、国内自給率も高まる。中国の生産能力は2ケタ成長が続いており、SMICは回路線幅が5ナノに対応した半導体生産の準備を進めているとされる。
国内自給率を高めることで、世界のレガシィー半導体の高いシェアを狙っているとみられる。目的は、海外市場の掌握にある。
(7)「米国は、製造装置の輸出規制を成熟分野に拡大するなど対中包囲網を強化している。中国政府は製造装置などを重点に強化する方針だ。セミコン・チャイナでは、23年の世界全体の半導体製造装置の販売額が前年比で2%減ったのに対し、中国大陸は28%増えたと紹介された。成長する国内市場を追い風に、NAURAなどは政府の支援も得て生産能力を伸ばす。中国の製造装置の国産化率は2割程度とされる。ある中国メーカー幹部は「35年には製造装置全体として70%をめざす」と打ち明ける。半導体を巡る米中のせめぎ合いはどこに向かうのか。中国製造装置業界の成長の成否が鍵となる」
中国の半導体製造装置の国産化率は現在2割程度とされる。これを、35年に7割を目指すという。前途遼遠である。10年先の世界半導体状況は、大きく変わっている。製造装置がなければ、半導体製造は不可能だ。この「根っ子」の部分を米国の規制で抑えられている点が、中国の弱みである。