勝又壽良のワールドビュー

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    中国が、レガシィー半導体の生産拡充に躍起となっている。4~6兆円の国策ファンドの設立に動いている。米商務省は、「レガシー半導体」について、中国の生産動向に関する情報収集を始めた。米国企業が、中国にどれだけ半導体で依存しているかを分析する目的である。「レガシー半導体」は、最先端ではないが世界経済にとって不可欠な存在になっている。中国は、レガシィー半導体で主要供給先になると、サプライショックが起こり兼ねないからだ。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月21日付)は、「中国、4兆円超の半導体ファンド構想 米包囲網に対抗」と題する記事を掲載した。 

    中国政府が独自の半導体サプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。成熟分野の製造装置を中心に投資を拡大する。過去最大の約4兆〜6兆円の国策ファンド構想が浮上しており、半導体の国内生産能力の2ケタ成長を持続させる。

     

    (1)「『(最先端ではない)主流の装置でもスマートフォン向け半導体で通常使われている7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの回路線幅に対応できる』。上海市で開催中の半導体展示会「セミコン・チャイナ」では、政府系の中国半導体装置最大手、北方華創科技集団(NAURA)のブースの映像に人が群がった。映像に映る製造装置は、米国が対中輸出を禁じる最先端の装置ではないとみられる。中芯国際集成電路製造(SMIC)は前世代の装置などを使って7ナノの半導体を製造したとされ、NAURAはSMICに協力しているとの見方も出ている」 

    中国には、「7ナノ」半導体を製造する正規の装置は存在しない。旧世代の装置を継ぎ足した職人芸で「試作」した程度で量産化は不可能とされている。 

    (2)「NAURAは習近平(シー・ジンピン)国家主席が唱えるイノベーションを通じた「新質生産力(新しい質の生産力)」を備える代表企業だ。米国の規制によって米国人技術者が去った半導体工場に大量の技術者を送り込み、稼働を支えているとみられる。23年12月期の売上高は前の期の1.4倍以上、純利益は1.5倍以上に増えた見込み。売上高で同業界の世界トップ10に入り、李強(リー・チャン)首相が視察をして高い評価を与えた。趙晋栄董事長は、20日に開かれたセミコン・チャイナの国際会議で「半導体技術の発展は製造設備のイノベーションでもある」などと指摘した。基礎研究の強化によって中国の製造装置産業を底上げする必要性を強調した」 

    NAURAは、中国半導体製造装置を製作する「希望の星」である。これが、独力でどこまで技術水準を引上げられるかだ。

     

    (3)「NAURAは、国策半導体ファンド「国家集成電路産業投資基金(大基金)」から支援を受けて成長した。大基金は15年発表のハイテク産業の育成策「中国製造2025」の議論をしながら設立され、国内の半導体サプライチェーンに投資するものだ。14年に始まった第1期は約1400億元(約2兆9000億円)、19年に始まった第2期の投資額は約2000億元に達する」 

    NAURAは、国策半導体ファンドからの投資を受けている。 

    (4)「中国メディアによると大基金はこれまで、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォン向けに半導体を供給したSMICや米アップルが調達を検討したメモリー大手、長江存儲科技(YMTC)といった有力企業や工場を対象に、100以上の投資を実行してきた。出資者の収益状況は不明だが、国有企業が中心で長期的な視点で投資しているとみられる」 

    国策半導体ファンドは、これまで100以上の投資を実行している。国有企業中心である。

     

    (5)「米国との対立長期化を受け、大基金の第3期の構想が浮上する。米ブルームバーグ通信は3月上旬、大基金が第2期を上回る270億ドル(約4兆1000億円)以上の資金を地方政府や国有企業などから集めて第3期の準備を進めていると報じた。第3期は人工知能(AI)向けを軸にするとの観測もある。国の競争力を左右するのにもかかわらず中国は出遅れている。投資額は4兆〜6兆円との見方もある。投資先は開発や生産能力が足りない成熟分野を中心に、最先端の分野も含むとみられる」 

    国策半導体ファンドの資金規模は、4兆〜6兆円との見方もある。過去、このファンド資金が、汚職の温床になって高官は逮捕されている。資金が、湯水のように使えるとされる。資金管理が、ルーズなのだ。それだけに、どれだけ成果を上げられるか疑問である。 

    (6)「中国の半導体輸入額は3494億ドルで、21年のピーク時に比べて2割減少した。一方、国内の販売金額は過去最高の1兆3000億元を超えたとみられ、国内自給率も高まる。中国の生産能力は2ケタ成長が続いており、SMICは回路線幅が5ナノに対応した半導体生産の準備を進めているとされる。 

    国内自給率を高めることで、世界のレガシィー半導体の高いシェアを狙っているとみられる。目的は、海外市場の掌握にある。

     

    (7)「米国は、製造装置の輸出規制を成熟分野に拡大するなど対中包囲網を強化している。中国政府は製造装置などを重点に強化する方針だ。セミコン・チャイナでは、23年の世界全体の半導体製造装置の販売額が前年比で2%減ったのに対し、中国大陸は28%増えたと紹介された。成長する国内市場を追い風に、NAURAなどは政府の支援も得て生産能力を伸ばす。中国の製造装置の国産化率は2割程度とされる。ある中国メーカー幹部は「35年には製造装置全体として70%をめざす」と打ち明ける。半導体を巡る米中のせめぎ合いはどこに向かうのか。中国製造装置業界の成長の成否が鍵となる」 

    中国の半導体製造装置の国産化率は現在2割程度とされる。これを、35年に7割を目指すという。前途遼遠である。10年先の世界半導体状況は、大きく変わっている。製造装置がなければ、半導体製造は不可能だ。この「根っ子」の部分を米国の規制で抑えられている点が、中国の弱みである。

     

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    中国は、豪州へ得意の揺さぶり戦術を行っている。AUKUS(オーカス:米英豪)による中国包囲網を緩めさせるべく、対豪貿易で揺さぶっているのだ。これまでは、豪州産の石炭・ワイン・食肉などの輸入規制をしてきたが、一転して輸入規制を解いて「ニーハオ」で輸入を増やすというのだ。これで、豪州を操れると計算しているところに時代離れした「古代中国」の戦法をみる思いがする。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月20日付)は、「中国、貿易拡大で豪州に接近 AUKUSへ揺さぶり」と題する記事を掲載した。

     

    中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は20日、訪問先のオーストラリアで同国のアルバニージー首相らと会談した。貿易拡大をテコに豪州へ接近し、米英豪による中国をにらんだ安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を揺さぶる狙いがある。

     

    (1)「王氏は20日、7年ぶりに豪州を訪問し、首都キャンベラでアルバニージー氏と会談した。中国外務省によると、王氏は「中豪が遭遇した障害は一つ一つ克服され、懸案も適切に解決されている」と述べた。アルバニージー氏は「豪中関係を相違によって定義するのではなく、双方の共通利益を探すべきだ」と語った。自ら率いる労働党政権について「今後も豪中の建設的な関係発展に努力する」と表明した。王氏は、同日にウォン外相と戦略対話を開き、中豪関係発展の重要性を確認した。中国が豪州産ワインに課す関税の撤廃などを話し合った」

     

    中国が、相手国からの輸入を禁止したり、再開する背景は何か、それは、中国古来の「朝貢貿易」という存在が影響している。中華王朝は、周辺諸国が臣下の礼を取り中国へ貢物を送ると、中華王朝がその返礼として物品を与えてきた。中国は、こういう「上下関係の意識」に基づいた貿易において、豪州を下にみているのだ。

     

    (2)「中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は2020年5月以降、豪州産のワインや石炭、木材などに貿易制裁を科してきた。当時のモリソン豪首相が同年4月、中国に対して新型コロナウイルスの発生源を巡る独立調査を求めたことへの報復だった。中国との対話を重視するアルバニージー現政権が22年5月に発足すると中豪関係は好転し、中国は大麦や木材などの豪州産品への制裁を解除した。外相戦略対話で豪州側は残るワインや食肉、ロブスターへの制裁措置を解くよう求めた」

     

    中国が、豪州への輸入禁止措置に出たのは、明らかに「中国上位」意識である。中国に不利な発言をしたから豪州を懲罰に付すという感覚である。著しい時代遅れである。この意識が、世界覇権を握るという妄想に繋がっている。

     

    (3)「王氏は訪豪に先立ち、18日にニュージーランド(NZ)の首都ウェリントンを訪れた。ラクソン首相やピーターズ副首相兼外相と会い、両国の協力をインフラ整備やイノベーション、気候変動への対応にも広げると申し合わせた。中国が豪州やNZに近づく背景にはオーカスへの危機感がある。オーカスは米英豪が連携し、インド太平洋で影響力を強める中国の抑止を狙う。核保有国である米英が豪州に原子力潜水艦の配備を支援する計画をもつ。豪州と相互安保条約(アンザス条約)を結ぶNZもオーカスの非核分野への参加に意欲を示す。ラクソン首相は23年12月、人工知能(AI)など先端分野でオーカスと協調する意向を示した」

     

    NZも一時期、中国へ大きく傾斜していた。だが、中国の実態が浮き彫りになるとともに、「正常化」してきた。「中国熱」が冷めたのだ。

     

    (4)「中国は、貿易や経済面で豪州やNZとの関係を強め、米英などとの分断を探る。日米豪とインドの協力枠組み「Quad(クアッド)」にも照準を定める。クアッドもオーカスと同様、対中抑止の強化を主な目的とする。豪州とNZは、米英カナダを加えた5カ国で機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」の加盟国でもある。米国を中心に通信傍受網を通じて電話やメールといった情報を集めており、中国軍の動向も対象に含む」

     

    中国は、豪州やNZとの関係再構築を図ろうとしている。だが、一度壊れた信頼関係は、簡単に修復できるものではない。中国には、そういう長い目での外交でなく、目先の利益で右往左往している。

     

    (5)「王氏は今回の訪豪で、同国のキーティング元首相との非公式な会談を予定する。キーティング氏によると、中国外務省側が会談を呼びかけた。同氏は、かねてオーカスに批判的で、原潜配備計画の費用対効果を疑問視してきた。豪州側には中豪関係の改善を対中輸出拡大に結びつけ、有権者に訴えたいとの思惑がある。与党・労働党の支持率は2月の世論調査で33%と、野党の保守連合(36%)を下回った。NZにとっても最大の貿易相手国である中国との関係は重要だ。

     

    中国が、今になって豪州接近を図るの「遅すぎる」のだ。稚拙外交の見本である。

     

    (6)「米国と同盟国の間にくさびを打ち込もうとする中国の動きに、バイデン米政権は神経をとがらす。ブリンケン米国務長官は19日、フィリピンの首都マニラでマルコス大統領やマナロ外相と会談した。南シナ海でフィリピン船に妨害行為を繰り返す中国を名指しで批判した。日本を交えた日米比は4月、米ホワイトハウスで初めて3カ国の首脳会談を開く。豪州の対中接近をけん制する動きもある。英国のキャメロン外相とシャップス国防相は豪州を訪れ、22日に両国の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催する。対中抑止などを念頭に、防衛協力を協議する見通しだ」

     

    豪州は、「クワッド」(日米豪印)や、「AUKUS」(米英豪)という対中包囲網に組み込まれている。こういう事態を作った張本人は、中国自身の「戦狼外交」にある。自分で原因を作った「罠」に苦しむのは、何とも不可思議なことだ。

    テイカカズラ
       


    中国軍は「偽の戦闘力」

    元インド軍中将の分析

    中国も経済分断で大損

    習氏は人生賭けた勝負

     

    戦前の日本は、海洋権益を求めて太平洋戦争へ突入した。中国も同様に、海洋権益への強い執着をみせている。これは、極めて危険な兆候である。他国の領土・領海への軍事進出にほかならないからだ。21世紀の先進国は一様に、領土拡張を否定している。だが、中国は「中華再興」を旗印に領土・領海の拡張を目指している。こうした戦略のすれ違いが、中国へ最大の外交上の難題となって圧力になっている。 

    習氏が、「終身国家主席」を目指していることは言うまでもない。憲法を修正してまで、国家主席の任期を延長したことは、習氏が台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させようとするサインと読むべきだ。そうでなければ、軽々に憲法改正をするはずがない。 

    中国が、台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させるには、軍事力へ依存するほかない。その中国人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中国国家の軍隊でないという特異の存在である。政党が所有する軍隊であることは、世界でも希な存在である。中国人民解放軍兵士は、全員が共産党員であるはずがなく、軍務中4分の1を政治教育に費やさなければという脆弱性を抱えている。「国軍」であれば、このような無駄なエネルギーを使う必要はない。これこそ、「党軍」の抱える本質的欠陥の現れである。

     

    中国軍は「偽の戦闘力」

    香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、3月11日閉幕した中国全人代で、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏が、人民解放軍に対して「偽の戦闘力」を取り締まると表明した。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられる。これは、中国軍にとって不名誉この上ない話だ。軍務の25%を政治教育に費やすのは、共産党への忠誠心を教え込むことにほかならない。忠誠心欠如の軍隊ほど、脆弱な存在はない。中国軍は、こうしたリスクにさらされている。 

    中国全人代常務委員会は、昨年末の12月29日、中国軍の高官ら9人を常務委員代表職から解任した。うち5人は、戦略ミサイル部隊であるロケット軍の出身である。これには、ロケット軍の作戦指揮をとる責任者である司令員だった李玉超氏も含まれていた。ロケット軍は、台湾へ軍事圧力をかける威嚇や、軍事行動をとる際に、最も重要な役割を果す部隊である。そのロケット軍で起こった不祥事だ。それだけに、事態は深刻である。 

    習近平氏が、進める徹底的な軍粛清の背景には、こうした深刻な規律弛緩が起こっていた。米情報機関の分析によれば、腐敗の広がりによって習指導部による軍近代化の取り組みを損ない、戦闘能力に疑問が生じさせているという。『ブルームバーグ』(1月6日付)は、次のように報じた。

     

    人民解放軍ロケット軍内部および国防産業全体の腐敗は、非常に広範囲に及んでいる。習主席が向こう数年間に大規模な軍事行動を検討する可能性は、これによって著しく低下していると、米当局者は考えている。米国情報では、汚職の影響の例を幾つか挙げている。燃料ではなく水を詰めたミサイルや、効果的な発射を可能とするようには蓋が機能しない中国西部のミサイル倉庫などである。 

    米国は、人民解放軍、特にロケット軍内部の腐敗が、軍事能力全体に対する信頼を失墜させたとみているのだ。習氏が、掲げる軍近代化の最優先課題の一部を後退させたと分析している。昨年後半の6カ月間にわたる腐敗捜査で、軍高官十数人が対象となった。軍への取り締まりとしては、現代中国において史上最大とみられている。

     

    元インド軍中将の分析

    米国の情報分析だけでは偏りがある。そこで、中国と国境線の紛争で対峙してきたインド軍幹部の中国軍に対する見方を紹介したい。 

    元インド陸軍中将で中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル氏が3月11日、時事通信のオンラインインタビューに応えた。その内容を要約すると次のようになる。

     

    1)中国の武器は、管理が不十分で誤作動を起こしやすい。

    2)中国軍の昇任は、習氏への忠誠心が基準であり実力に基づかない。

    3)台湾上陸作戦は、地勢的に困難だ。資源の足りない中国に長期戦は不可能である。

    4)中国は、台湾、南シナ海、日本、朝鮮半島、インドなどへの戦線拡大を恐れている。 

    具体的な内容を紹介したい。

    1)中国軍の兵器は粗悪だ。不正や怠慢のせいで管理がずさんであるからだ。制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席は昨年8月、装備の管理を抜本的に改めるよう指示したほど。22年8月に台湾周辺で行われた大規模演習で発射したミサイルは誤作動があったもよう。パキスタンなどに輸出された中国製兵器も、うまく作動しないことがあった。 

    2)中国軍の昇任基準は、能力ではなく習氏に対する忠誠心が左右する。こうした人事も影響し、中国軍は見掛けよりもはるかに弱い。新しい兵器を使いこなすには知識と経験が必要だが、有能な人材が足りないのだ。1979年以来、中国軍は本格的な実戦を経験しておらず、人事も能力重視でない。2020年6月、インドとの国境地帯で起きた中印両軍の衝突で、中国側の死者はインド側よりもはるかに多かった。(つづく)

     

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    あじさいのたまご
       

    中国の倪虹・住宅都市農村建設相は、3月9日の記者会見で「重大な債務超過に陥り経営が困難となった企業は、破産すべきものは破産し、債務再編すべきものは再編すべきだ」と発言した。こういう最悪ケースへ該当するのが、どうやら中国恒大集団のようである。恒大集団は、巨額の粉飾決算を行っていたことが明らかになっており、19~20年で売上高の50~78%もの水増し実態が浮上している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月19日付)は、「中国恒大集団、粉飾決算で窮地 政府が強硬姿勢に転換か」と題する記事を掲載した。

     

    経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団が粉飾決算で窮地に立たされた。計5640億元(約11兆7000億円)の売上高の虚偽記載で罰金処分が科されることが明らかになった。中国政府は「破産すべきは破産」と強硬姿勢への転換を示唆しており、恒大は生き残れるかどうかの正念場にある。恒大の主要事業会社で社債の発行主体である恒大地産集団は18日、中国証券監督管理委員会から41億7500万元(約870億円)の罰金処分を科されると発表した

     

    (1)「2019年に当期の売上高の約50%に相当する2139億元、20年に同約78%に相当する3501億元をそれぞれ水増しし、この虚偽記載に基づいて人民元社債を発行した疑いがある。創業者の許家印氏は終身にわたり、上場企業の取締役就任など証券市場に関連する業務に就けない。恒大は21年の財務報告で売上高の計上基準を変更していた。一般的な住宅の売上高の計上基準である「顧客に住宅を引き渡した場合」に加えて、新たに「販売契約に基づいて顧客が物件を受け入れるとみられる場合」との文言を追加していた

     

    住宅が竣工していないにもかかわらず、「青田売り」(住宅販売基準を販売契約時点にする)を堂々と売上に計上した。こうして、売上を水増ししたのだ。

     

    (2)「同委員会は19年と20年の恒大の財務報告について「売上高を前倒しで計上していた」と指摘しており、実際には計上基準を変更した21年以前から顧客に引き渡す前の未完成住宅を前倒しで売上高として計上していたもようだ。恒大の売上高に関しては香港の調査会社GMTリサーチが23年12月、「恒大は最大10年間にわたって収益を前倒し(で計上)してきた可能性がある」と分析し、「そもそも恒大は利益が全くなかった」と指摘していた。同委員会の処分に対して恒大は「弁明しない」と処分を受け入れる方針を明らかにした」

     

    恒大は、大々的に「青田売り」によって売上高を膨らませた。10年間にわたり、利益の先食いをする形で膨張し続けてきたのだ。破綻は、不可避であったろう。

     

    (3)「中国の倪虹・住宅都市農村建設相は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)期間中の記者会見で「重大な債務超過に陥り経営が困難となった企業は、破産すべきは破産し、再編すべきは再編すべきだ」と述べた。そのうえで「大衆の利益を損なう行為については法に基づいて調査・処分し、しかるべき対価を払わせなければならない」と厳しい対応を示唆していた。中国法に詳しいアンダーソン・毛利・友常法律事務所の中川裕茂弁護士は今回の処分について、「不動産業界に対する態度を厳しくし、取り締まりを強化するという中国当局のサインと受け取れる。積極的な処分や再編をためらわないという新たな政府方針が実行に移された格好で、恒大以外でも処分が続く可能性がある」とみる」

     

    中国不動産業界は、「青田売り」が一般である。このことから言えるのは、大なり小なり、粉飾決算を行っているリスクがあることだ。

     

    (4)「中国政府は1月、地方政府が支援すべき住宅開発プロジェクトを選別する不動産融資協調制度(通称ホワイトリスト制度)を創設した。不動産大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は15日時点で計272件の住宅開発プロジェクトがホワイトリストに入ったと公表した。同社の楊恵姸・董事会主席は年間報酬を12万元に引き下げるなど、世論に強く配慮する姿勢を示している。一方、恒大はホワイトリストについて数字を明らかにしていない」

     

    碧桂園控股は、金融機関の融資対象になっている。だが、恒大は融資対象から外されている。内情の深刻さを浮き彫りにしている。

     

    (5)「中国政府にとって最優先課題は、社会不安の高まりの回避だ。取引先の連鎖倒産や金融システム不安などを引き起こしかねない法的整理には一貫して慎重な姿勢を示してきた。一方、乱脈経営を続け、住宅価格高騰の元凶とされることもある恒大の救済に反発する世論も意識している。恒大は公式ホームページのデザインを刷新し、「新恒大(新しい恒大)」をアピールするが、計5640億元の虚偽記載で世論の見方は一段と厳しくなる見通しだ。恒大が生き残れるか不透明さが高まっている」

     

    中国政府は、不振の不動産業界に対して、救済するべきものと救済しない対象を明らかにしようとしている。これが、明らかになれば一波乱起こるであろう。

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    中国は、生産者物価(卸物価)指数が今年2月まで連続17ヶ月マイナス状態に陥っている。過剰生産が原因だ。2月の卸売物価指数は前年同月比2.%下落した。マイナス幅は1月の2.%から拡大した。泥沼状態である。この結果、輸出で大攻勢を掛けている。この被害国は、ブラジルやベトナムなど発展途上国へ広がっている。 

    『フィナンシャル・タイム』(3月17日付)は、「ブラジル、中国製品にダンピング調査 輸入急増で」と題する記事を掲載した。 

    ブラジル開発商工省は、中国の工業製品にダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして数件の調査に乗り出している。南米最大のブラジル経済は、安価な輸入品の大量流入を受けて揺らいでいる。同省は業界団体の要請を受け、この6カ月間で少なくとも6件ほどの調査に着手している。対象製品は金属シート、塗装鋼板から化学製品、タイヤに及ぶ。ブラジルが調査に乗り出したのは、中国の輸出品が殺到すると世界が身構えるタイミングだった。

     

    (1)「世界第2の経済大国の中国は不動産不況と内需不振を背景に、過剰生産能力の問題を抱えている。中国は経済テコ入れのため、太陽光エネルギー、電気自動車(EV)、電池などの先進の製造業に投資を行っている。中国の鉄鋼製品の輸出はブラジル向けだけでなく、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア向けもここ数カ月で急増している。先進国市場は、中国からの輸入品に対して広範にわたる対策を取り始めた。欧州連合(EU)は中国製EVへの反補助金調査に着手し、米バイデン政権は最近、中国製自動車に対して安全保障上の懸念を募らせている」 

    中国は、異常なほどの過剰生産能力を抱えている。地方政府が、補助金を出して生産を奨励してきた結果だ。市場経済であれば、こういう事態まで悪化することはない。 

    (2)「中国の2024年1〜2月の輸出は前年同期比で7.%増え、輸入の伸びを大きく上回った。野村のアナリストは15日付の調査報告書で「中国の輸出価格が長期的に下落しているため、中国と一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性がある」と指摘した。中国の税関データによると、同国の対ブラジルの輸出入は12月にいずれも3割以上増えた。 

    中国は、「巨船」が傾いているだけに、見栄も外聞もない切羽詰まった事態になっている。中国は、一部の経済大国の間で貿易を巡る緊張が高まる可能性を秘めている。

     

    (3)「中国との貿易摩擦は、対中関係の発展とブラジル国内産業の保護・育成を目指す左派のルラ大統領にとってジレンマとなる。23年に大統領に返り咲き通算3期目に入ったルラ氏は就任以降、産業政策を経済戦略の中心に位置づけている。だが、ブラジル政府はおそらく中国政府との対立を避けようとするだろう。中国はブラジル最大の貿易相手国であり、ブラジル産の大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している。ブラジルの23年の対中輸出額は1040億ドル(約15兆5000億円)を超えた一方、中国からの輸入額は530億ドルにとどまる。ブラジルは23年に大豆1億100万トンを輸出したが、対中輸出はその70%、金額にして約390億ドルに上った」 

    ブラジルは、中国へ大豆や鉄鉱石で23年の対中輸出額が1040億ドルにも達している。中国は、ここをついて輸出を急増させ対ブラジル貿易赤字の帳消しを狙っている。 

    (4)「ブラジルが最近着手した調査の一つは、同国の鉄鋼大手CSNの要請を受けて今月に入って開始された。CSNは22年7月から23年6月に特定の種類の炭素鋼シートの中国からの輸入が85%近く増えたと主張している。調査は1年半かかる見通しだ。開始に当たり、ブラジル開発商工省は「中国からブラジルへの輸出でダンピング行為があったことを示す要素が十分存在し、この行為により国内産業に損害が生じている」と表明した。ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入鉄鋼製品に9.6〜25%の関税を課すよう政府に求めている。中国からの鉄鋼・鉄製品の輸入総額は14年の16億ドルから23年に27億ドルに伸びている。鉄鋼の輸入急増は、ブラジル政府にとって特に頭の痛い問題だ。ブラジルは鉄鋼の主な原料である鉄鉱石の輸出で世界有数の規模を誇る」 

    ブラジルは、中国へ鉄鉱石を輸出して大量の中国製鉄鋼製品の輸入を招いている。

     

    (5)「中国産工業製品の流入急増に対して懸念を表明している新興国はブラジルだけではない。タイでは反ダンピング課税をすり抜けていると政府が中国企業を批判し、業界団体は市場に安価な鉄鋼が出回っているせいで多額の損失が出る可能性があると表明した。ベトナム政府は国内業界の苦情を受け、中国から輸入する風力発電タワーや一部の鉄鋼製品についてダンピング調査を始めた。 

    タイやベトナムも、中国製品の輸入急増に音を上げている。これまでは、中国企業の進出で潤っていたが、それを上回る輸入ラッシュに晒されている。 

    (6)「23年8月、メキシコは自由貿易協定を結んでいない国からの輸入品数百点に対して5〜25%の関税を課した。これにより中国は特に大きな影響を受けている。メキシコの措置は、米政府関係者からの圧力増大を受けて取られた。米国はメキシコが第三国から輸入する鉄鋼の原産地を明確にする努力が不十分ではないかと指摘している。貿易の専門家によると中国を念頭に置いた言葉だという」 

    メキシコは、中国へ数百点に対して5〜25%の関税を課している。米国は、メキシコ経由で割安な中国製品の流入を警戒している。

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