勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    テイカカズラ
       

    韓国は、これまで米国からファーウェイ5G導入を見送るよう、度重なる要請を受けてきた。だが、「民間の決めること」として回答を避けてきた。こういう優柔不断な態度に対して、来年度の米国防権限法は厳しい措置を取ることになった。米国の要請に応じない国での米軍駐留について「手直し」する条項を含むことになった。

     

    韓国の「二股外交」は、前記の条項に該当することは明きからかである。韓国政府が、5G導入を拒否するという意思表示しない限り駐韓米軍の兵員の減少が行われる懸念が生じかねない事態となったのである。

     

    『東亜日報』(12月8日付)は、「米議会が超党派で『中国牽制』強化、韓国ももはや『民間企業のこと』ではない」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「米連邦議会が提出した2021年度の国防予算の大枠を定める国防権限法(NDAA)案に、中国牽制のための「太平洋抑止イニシアチブ」項目が新設され、22億ドル(約2兆4千億ウォン)が割り当てられた。同法案には、華為技術(ファーウェイ)やZTEなど中国企業の第5世代(5G)技術の使用国に対する米軍の兵力や装備の配備を再考するという内容も含まれた。バイデン次期政権の発足を控え、議会が中国に対する強硬対応を注文したのだ」

     

    米国防権限法では、駐韓米軍2万8500人が明記されている。だが、韓国はこれで安心できないのだ。「太平洋抑止イニシアチブ」項目によって、米軍駐留国がファーウェイ5G導入をしていれば、米軍の安全に懸念を生じるとし、兵員の減員を臭わせている。


    (2)「米議会が超党派で提出した国防権限法案は、中国の軍事拡張に対応する本格的な軍事力態勢・増強計画の準備を政権に求めると共に、同盟国にも事実上、中国包囲網への参加を強要する内容を含んでいる。米議会は毎年、様々な分野にわたって中国牽制を強めてきた。今回も、政権交代に関係なく、政権に詳細な軍事戦略を立てるよう求めたのだ」

     

    国防権限法は、米国防省の予算編成にタガをはめている。来年については、超党派で同盟国に対して中国包囲網への参加を求めている点に大きな特色がある。米国との同盟によって安全保障上でメリットを得ながら、韓国は中国と「誼」(よしみ)を通じようというのである。これは、どう見ても「二股外交」である。韓国では、これを「米中バランス外交」と勘違いして得意がっている。米国は、この勘違い外交を「糺す」強い意思である。

     


    (3)「バイデン次期政権の中国政策はまだ具体化されていないが、トランプ政権の突発的・一方的な対応とは異なり、制度的・多国間アプローチになるという予想が多い。だが、米国の利益を掲げる鷹派の基調は変わらないだろう。バイデン氏は「中産層のための外交政策」を標榜している。バイデン氏は、トランプ政権で中国に課した関税の撤廃を急がないとし、今後中国に対する際に活用する考えも示した」

     

    バイデン政権の対中政策は、トランプ政権とほとんど変更ないと見なされている。手を緩めれば、共和党から鋭い批判に晒されるからだ。むしろ、トランプ政権が見逃してきた韓国の「二股外交」は、バイデン政権では国防権限法を盾にして圧迫するであろう。

    (4)「首脳間の取り引きや2国間交渉を好んだトランプ政権に対して、米中関係の劇的な転換を予想する観測が少なくなかった。ルールと価値を掲げたバイデン次期政権で、米中対決が長期化する可能性が高い。また、バイデン式同盟重視政策は、同盟国の参加を当然視するだろう。今回、米軍の配備と中国企業の技術を結び付けた国防権限法案はその始まりかもしれない」

     

    バイデン式同盟国重視政策は、同盟国側の足の乱れを最も警戒するに違いない。韓国の「二股外交」は、これに抵触するだけに「目障り」となろう。南北交流も、米国外交の一環として行われる可能性が強まろう。文政権の「独自外交」は狭められる。



    (5)「これまで韓国政府は米国のファーウェイ締め出し要請に、民間企業が決めることだとして関与できないという態度を示してきた。ファーウェイ締め出しを宣言した英国とオーストラリア、セキュリティ強化を約束した日本の対応に比べて、のんきな態度だった。そこには、米中対立は長くは続かないという漠然とした期待もあった。しかし、そのような楽観論はもはや引っ込めなければならない。これ以上、韓国が傍観者になることはできない。政府が「民間企業のこと」と言えない時が近づいている」

     

    私には、これまで韓国外交が間延びしたものに映ってきた。その原因が、下線のように米中対立が短期終息と見ていたことにあったようだ。韓国外交は、朝鮮李朝時代もそうであったように、世界情勢に極めて疎い民族特性を持っている。兎の耳でなく鈍感である。現在の反日騒動も、そういう鈍感な韓国外交の特色を示している。日本と争えば、どういう反動が起こるかという点について考えたこともない民族である。余りにも、子どもなのだ。

     

     

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    相手国の機密情報を盗み出す手法は、今も変らない古典的手段が用いられている。女性スパイによる「ハニートラップ」(色仕掛けによる諜報活動)である。中国国籍の女が、米国で政治家たちと親密な関係を結び、スパイ活動を行っていた事実が明らかになった。米メディア『アクシオス』が7日(現地時間)報じて明らかにした。

     

    『大紀元』(12月12日付)は、「中国が世界で大規模なハニートラップ、米元情報当局者『米だけで数千人』」と題する記事を掲載した。

     

    米メディアはこのほど、中国の女スパイ、方芳(ファン・ファン)がカリフォルニア州などの民主党所属の議員に接近し、複数の男性と不適切な関係を結んだことを報道した。この報道で、ファンと男女関係があった同州選出のエリック・スウォルウェル下院議員への批判が集中した。『フォックスニュース』は12月10日、米情報機関の元当局者数人の話を引用して、中国人スパイの標的は一部の政治家ではなく、米政界はすでに「(中国当局に)極めて深く浸透された」と指摘した。さらに、世界的にもハニートラップを仕掛けており、中共ウイルス(新型コロナウイルス)が流行後、活動を活発化させているという。

     


    (1)「米元当局者の1人は、米国内に数百人から数千人の中国人スパイが潜んでいると話した。これらのスパイは名門校の出身で、流ちょうな英語を話す。彼らはソーシャルメディアのリンクトインとフェイスブックなどを使いこなし、標的の政治家に接近しているという。情報機関元官僚のデル・ウィルバー氏は、ターゲットの大半は既婚男性だと述べた。最近、同性愛者のターゲットと関係を持つスパイもいる。ウィルバー氏によると、中国人スパイは、性交渉の場面を写真や映像で記録し、脅迫に使う。「ハニートラップにはめられた政治家は、中国当局への情報提供を強要されている」という」

     

    中国人スパイが、仕掛けるハニートラップという人間として最も恥ずかしい行為に落込むと、蟻地獄の苦しみを味わうのであろう。日本でも上海領事館の書記官が、このワナにはめられ自殺する事件が起こっている。

     

    (2)「複数の情報機関の元職員は、中国人スパイは目的によって、さまざまな米国人を狙っていると指摘した。スウォルウェル議員の場合、スパイは、議員自身だけでなく、議員の友人、事務所のアシスタント、インターン生など、議員の周りの人にも接近した。目的は、この「価値の高いターゲット」の全ての人脈をスパイ活動に利用するためだ。過去数十年、経済界の大物、有名な教授は狙われていたが、その後、政治家が新たなターゲットになった。「数百万ドルの資産を持つ最高経営責任者(CEO)より、政治家のほうが簡単に引っかかってしまうからだ」

     

    政治家が現在、中国人スパイに最も狙われるという。それだけ、脇が甘いと言うことか。

     


    (3)「ファン・ファンは在サンフランシスコ中国総領事館の命令で動いていたという。中央情報局(CIA)の元官僚、ダニエル・ホフマン氏によると、ファンと違って、単独で活動する中国人スパイもいる。ターゲットとの間で、より高い信頼関係を築くためだという。この場合、米情報機関に発見されにくいメリットがある。ホフマン氏は、スパイが「スウォルウェル議員のような地方議員に接近したのは、彼らが実力者になる前から関係を築いておきたいからだ。今、大物政治家に近づくのは相当難しいと中国側はわかっている」と話した」

     

    米国における中国人スパイは、将来性の見込める地方議員に接近して関係を深めるという。こういう卑劣なスパイを封じるには、米国議員が自覚を持つことだ。議会で立法して、中国人女性が近づいたら、すぐにCIAへ通報するシステムをつくるべきだろう。それで、報奨金でも出せば、スパイも近づかないと思うが、さてどうか。

     

    (4)「英BBCはかつての報道で、ハニートラップの計画は中国各省の国家安全局(情報機関)によって実行されていると伝えた。各省は担当する国があらかじめ決まっている。上海市国家安全局は米国、北京市国家安全局はロシア、天津市国家安全局は日本と韓国をそれぞれ担当する」

     

    日本担当スパイは、天津市国家安全局という。「天津甘栗」に要注意である。

     

    (5)「リチャード・グレネル国家情報長官代行は10日、米『ニュースマックス』に対して、「多くの国会議員、民主党所属の州知事、地方政府の幹部」が中国人スパイのハニートラップにはまったと明かした。グレネル氏は、新型ウイルスの大流行の中で、中国のスパイ活動が「さらに活発化した」と述べた。同氏によると、中国の情報機関が米国に派遣したスパイは比較的インテリジェントな女性だ。「彼女たちは英語を話せるし、米国人のライフスタイルも理解している一方で、中国当局の政治思想も深く理解している」という」

     

    中国人女スパイは、高学歴だという。もったいない人生の送りかただ。せっかくの学歴も泥まみれである。虚しい人生であると同情したくなる。それが、中国の世界覇権に寄与すると信じ込まされている人間ロボットである。高学歴が、身を滅ぼしているのだ。

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    中国は、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)署名と同時に、TPP11(環太平洋パートナーシップ協定)参加意欲を見せている。だが、TPP11では国有企業についての条件が厳しく制約されている。国有企業中心の中国経済では、逆立ちしても参加は不可能である。それにも関わらず、「参加したい」と言い出した裏には、日本を懐柔して、参加条件の引下げを狙っていることが明らかになった。

     

    オバマ米大統領時代、TPPで対日交渉を担当した米通商代表部(USTR)次席代表代行を務めたカトラー氏は、実に興味深い事実を語っている。『日本経済新聞』(6月20日付)が報じた。

     

    「中国は一部のTPP11参加国に接触し、協定に関する情報を得て、各国が中国の参加の可能性についてどう考えているかを探ろうとしているようだ。中国の関心はさらに強まっているといえる。いくつかの考慮すべき点が、中国を動かしているようだ。まず米国は参加しない、日中韓など16カ国によるRCEPが、20年中の妥結に向け交渉中だ。RCEPは、中国がアジア太平洋地域の国々と経済を統合する、TPP11とは別の手段となる」

     


    「続いて中国が、TPP11に参加すれば、米国市場への依存度を下げ、米国による追加関税や制裁に対する脆弱性を減らすことができる。また、米国が保護主義に傾く中、中国が貿易の自由化と構造改革に真剣に取り組んでいることを世界にアピールできる」

     

    「TPP11を批准した国の中では、シンガポールが中国の参加を支持しているようだ。シンガポールのリー・シェンロン首相は19年6月、『中国の参加についてもシンガポールは歓迎する立場だ』と述べた。日本はより慎重にみえる。中国メディアによると、日本の政府関係者は『TPP11の高い水準のルールを受け入れる国はすべて歓迎するが、受け入れるかどうか決めるのは中国だ』としている」

     

    中国は、米国がTPPから離脱している間に、TPP11の参加条件を引下げさせて参加したいという「下心」を持っている。日本は、中国の下心を拒否している。中国メディアによれば、日本は「参加したいなら、堂々と玄関から入っていらっしゃい」という態度だとしている。

     


    北京大学国際関係学院の賈慶国教授(前院長)は、日本を牽制しながらTPP11への参加を狙っている。『日本経済新聞』(11月22日付)は、次のように伝えた。

     

    「中国が、TPP11へ加入を望む声は増えている。『TPP11にできるだけ早く入って新たなルールづくりに参加すれば、長期的にみて中国の利益になる』という意見だ。こうした声がさらに増えれば中国政府が正式にTPP11への参加を表明する可能性はある」

     

    下線のように、TPP11の参加条件を引下げ、中国が加入できるようにする、としている。これは、米国が「留守中」にTPP11を乗っ取りたいという意思表示である。

     

    日本にとっては試練になるだろう。断れば中国と敵対することになるからだ。かといって、簡単に受け入れるわけにもいかない。米国が絶対に同意しないからだ」

     

    ここでは、日本が中国の参加を断れば、日中関係が悪化すると脅迫している。実に、悪質な振る舞いである。中国に弱味を見せると、図に乗ってくるから断固、拒否しなければならない。

     


    日本が、以上のような中国の振る舞いに対して、ついに堂々と回答した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月11日付)は、「中国主席の国賓訪日「調整段階にない」駐中国大使」と題する記事を掲載した。その中で、中国のTPP11加入について、次のように語っている。

     

    中国が環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加を検討していることには『TPPは市場アクセスやルール面でとても高いレベルを求めている』と指摘した。『(中国のために)ルールを曲げて例外事項をつけるのはありえない』と強調し、中国が参加の基準を満たしているのか慎重に見極める考えを示した」

     

    ここで垂秀夫大使は、中国を参加させるために例外事項をつけるのはありえない、と断わり書を入れている。中国の「思惑」は、この駐中国大使の発言で拒否された。中国が、TPP11へ参加することは不可能である。

     

    米国が、TPPへ復帰すれば中国の米国市場へのアクセス権が大幅に制約される。TPP加盟国が関税面などで有利な立場に経つからだ。米中デカップリング(分断)は、米のTPP復帰でほぼ完成する。中国にとっては危機である。

     

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    中国経済の将来を担う半導体トップ企業の紫光集団が、2度目のデフォルトに陥った。日本では、1度のデフォルトで倒産だが、中国は必ずしもそうでない。銀行が運転資金を融資するケースもあるからだ。ただ、今回は、ドル建て債券のデフォルトも引き起しているので、資金調達の道が閉ざされる危険性が高まった。

     

    『日本経済新聞』(12月11日付)は、「紫光が2度目の債務不履行 中国、半導体国産化に壁」と題する記事を掲載した。

     

    中国の国有半導体大手、紫光集団が2度目の社債債務不履行に陥った。10日に利払い日を迎えた人民元建て債の利息を支払えなかった。同じく10日満期のドル建て債も償還は難しい状況だ。紫光集団は「傘下企業は正常に運営している」とするが、習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げる半導体国産化に支障を来す可能性もある。

     


    (1)「2018年12月に発行した社債の利払いが滞り、11月の私募債13億元(200億円強)に続く債務不履行となった。紫光集団は7日時点で「資金繰り難のため利息の支払いに不確実性がある」と表明、中国国内の格付け会社も投資不適格の「シングルB」まで格付けを引き下げていた。ドル建て債4億5000万㌦(約470億円)の償還に必要な資金の手当ても進んでいないもよう。紫光集団は20年6月末時点で1566億元の有利子負債を抱え、うち5割強が1年以内に期限を迎える」

     

    ドル建て債について、「クロスデフォルト」(一つの債務がデフォルトになれば、支払期限が未達の債務も支払い不能)になることを表明した。以下の記事は『ブルンバーグ』(12月10日付)が報じた。

     

    「同社が9日遅くに香港取引所に届け出た資料によると、クロスデフォルトとなる20億ドル相当の内訳は、2021年償還債10億5000万ドル相当、23年償還の7億5000万ドル相当、28年償還の2億ドル相当。紫光集団は11月半ば、人民元建て債13億元元相当で債務不履行となったが、ドル建て債でのデフォルトは初めて」

     

    2021年、23年、28年に償還予定である合計20億ドルについて償還不能を発表したことは今後、紫光集団が事業を継続しないこと、つまり「廃業」を意味する。これから経営を立て直す計画があれば、「クロスデフォルト」に持込む必要はないであろう。ドル建て債券のデフォルトは、海外購入層へ大きなショックを与えたはずだ。

     


    中国のトップ大学である精華大学系の紫光集団が、半導体という最先端分野で蹉跌した理由は、技術要因しか考えられない。単なる資金繰りという要因だけならば、支援できたはずだ。それが、技術要因で製品の歩留まりは低く、上昇する見込みがなければ、事業を閉鎖するしかないであろう。米中対立の長期化で、米国から技術支援を受けられない見通しが強まっている以上、早期の「店仕舞い」を決断したと見られる。

     

    (2)「過剰債務や収益化の遅れに加え、中国政府の補助金が削られたとの見方もある。紫光集団は中国では最先端の半導体製造技術を持つ。傘下の長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ)でNAND型フラッシュメモリーを生産、DRAM工場の建設も計画する。紫光集団は「当社は持ち株会社だ」と強調、グループ企業の生産活動に影響は出ていないとする」

     

    紫光集団が、「当社は持ち株会社だ」と強調しているという。持ち株会社は、企業活動の頭脳部分である。そこが、「脳死」を起こせば傘下企業にもいずれは影響する。資金繰り難が、生産活動に決定的な影響を与えるからだ。

     

    中国の半導体自給率は昨年、20%にも達していなかった。残り80%強は輸入半導体である。紫光集団が、まともな製品を生産できれば問題なく売れていたはず。それが売れず、運転資金に窮迫したのは、正常な製品が生産できなかったことを示唆している。

     


    中国政府は現在、半導体ブームを巻き起こすべく新規起業に補助金を出すと宣伝している。こういう状況下で、トップ企業がデフォルトに陥ったのはなんとも理解できない現象である。技術未成熟が、命取りになったと見るほかない。

     

    (3)「中国では債務不履行を起こした企業にも銀行が当座の運転資金を供給するケースが多い。紫光集団も現時点で経営が完全に破綻したわけではない。だが海外投資家も保有するドル建て債で不履行になれば今後の資金調達に影響を及ぼしかねず、紫光集団の再建は難度を増している」

     

    海外金融機関から大きな不信を買ったはずだ。ビジネス面での不利は否定すべくもなく、紫光集団の将来は暗い。

     

     

     

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    中国国家開発銀行と中国輸出入銀行による融資は、過去最高だった2016年の750億ドル(約7兆8000億円)から19年はわずか40億ドルへ減少した。本欄は、中国の経常収支が大幅に縮小していることから早晩、「一帯一路」は行き詰まると予想してきたが、その時期が来たようである。

     

    中国の経常収支黒字は、2014年の2360億ドル、15年の3041億ドルと絶好調であった。この状態が永遠に続くと見て、一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)と海外拡張路線に着手した。だが、その後の経常収支黒字は縮小に転じ、2018年は僅か254億ドルに急減した。19年は、1413億ドルに盛り返したが、もはや昔日の力はなくなっている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(12月8日付)は、「中国が対外融資削減、一帯一路への批判背景か」と題する記事を掲載した。

     

    中国が二大政策銀行の対外融資を大幅に縮小していることが新たな調査で明らかになった。両行の融資はほぼ10年にわたって大きく伸び、ピーク時には世界銀行に肩を並べるほどだった。米ボストン大学の研究者らがまとめたデータを『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙が確認した。それによると中国国家開発銀行と中国輸出入銀行による融資は、過去最高だった2016年の750億ドル(約7兆8000億円)から19年はわずか40億ドルに減少した。

     


    (1)「データをまとめたボストン大学国際開発政策センターのケビン・ガラハー所長は、米中貿易戦争も大幅な方針転換の一因だと指摘した。「2018年と19年は米国との貿易戦争のせいで不確実性が極めて高かったため、ドル資産を国内にとどめておきたかったのかもしれない」という。シンクタンク、海外開発研究所の最近の報告書によると、中国政府は今では融資の手法が持続不可能であることを認識している。「事業失敗のリスクを不釣り合いなほど多く負担する借り入れ国の利益よりも、中国企業や地元のエリート層の利益が優先される古いモデルは、各国の債務やリスクを引き受ける能力が低下するなかでますます持続不可能になるだろう」と同研究所は指摘している」

     

    このパラグラフでは、2018年と19年は米国との貿易戦争のせいで不確実性が極めて高かまっことが、「一帯一路」融資を絞った理由としている。だが、既述の通り中国の経常収支は縮小しており、米中対立の長期化がトドメを刺したと見るべきであろう。主因は、経常収支の黒字縮小だ。

     

    (2)「ボストン大のデータによると、中国国家開発銀行と中国輸出入銀行による融資は08年から19年までの総額が4620億ドルに上り、世銀が同期間に低・中所得国へ融資した4670億ドルにあと一歩まで迫った。ただ、一帯一路向けの中国の融資はガバナンス基準がずさんである場合が多く、一連の不祥事や債務国からの不満を招いている。最近の例を挙げると、一帯一路の最大の受益国の一つであるパキスタンは、中国企業が発電所の建設費を数十億ドル水増ししたと主張し、債務返済の条件を再交渉しようとしている。パキスタン政府は中国と自国の電力会社による不正行為と過大なコスト計上を非難している。マレーシアの複数の大型事業も論争に巻き込まれている」

     

    中国国家開発銀行と中国輸出入銀行による融資は、08年から19年までの総額が4620億ドルに上っている。世銀が同期間に低・中所得国へ融資した4670億ドルに匹敵する金額である。中国一国でこういう無軌道な融資を継続できるはずがない。ここら辺りに、無謀さが窺える。

     


    (3)「
    シンクタンクの英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で中国担当の上級リサーチフェローを務めるユー・ジエ氏によると、国有企業や国有銀行はリソースを海外事業ではなく国内に振り向けている。同氏は、中国が一帯一路を巡って「深刻な評判の失墜」に直面しているとの見方も示した。「(一帯一路の)対外拡張的な性質が他国を警戒させているうえ、政府は透明な計画の策定や債務外交の説明ができていない」。中国の世論も対外融資の逆風になっているとユー氏はみている」

     

    中国が、一帯一路融資にのめりこんだのは、高利融資(商業銀行並み金利)で利ざやを稼げること。万一、返済が滞れば担保を差し押さえて「永久租借」(100年間)して、中国軍の軍港にして海洋進出の基地にする、という「邪」(よこしま)な高利貸し的な発想に立っていた。それが、発展途上国からの批判の外に、先進国からも非難される羽目になった。

     

    (4)「ボストン大の調査によると中国の融資は比較的少数の国に集中しており、10カ国が総額の60%を占めている。最大の受け入れ国であるベネズエラ向けが12.%超を占め、パキスタン、ロシア、アンゴラが後に続く。融資を受けた事業は主に輸送などのインフラ、鉱業・石油採掘(パイプラインを含む)、発電・送電だった。ボストン大の研究者が確認した858件の融資のうち、124件は国立保護区内、261件は絶滅危惧種の生息地内、133件は先住民の居住地内の事業向けだった」

     

    ベネズエラは、「破産」国である。中国が、約500億ドルの融資をしている。担保は原油であるが、重質油で二酸化炭素が最も多いとされる。今後の「ノーカーボン」時代に、ただで貰っても要らない、と忌避される油質である。中国は、「爪を伸して」大損を被った形だ。

     

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