韓国は、朝鮮半島という地理的条件から有史以来、中国や北朝鮮とは切っても切れない精神的なつながりがある。朝鮮戦争によって、その「つながり」は大きなダメージを受けたはずだが、親中朝論者には蚊に刺された程度だ。むしろ、南北朝鮮統一の機会を失ったという理解だ。韓国進歩派と自称する人々は、この立場である。文在寅氏も、口には出さぬが心情的には中朝へ大きく傾いている。この反動が、反日米である。とりわけ、日本への恨みを持ち続けている。これは、永遠に消えないであろう。
『朝鮮日報』(7月17日付)は、「『イニ』と『晋ちゃん』がドブに放り投げた韓日現代史」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員だ。
暇さえあれば韓国に来て講演料を持っていく日本人学者がいる。その学者人生を通じて北朝鮮を賛美し、韓国の存在価値を否定してきた人物だ。史料の検証もなく金日成(キム・イルソン)を美化する一方で、明確な証拠が多いテロや拉致といった北朝鮮の凶悪犯罪は認めない。韓国の報道機関はそんな彼を「日本の良心」だという。韓日の歴史対立で韓国側の味方をするという理由だけでそう言っているのだ。
(1)「日本にはこうした部類の人間が多い。戦後の日本の自由と豊かさを享受しつつ、世界で最も抑圧的で貧しい北朝鮮を擁護するファッション左翼たちだ。それと同時に、自由と豊かさを志向する韓国を軽蔑した。政治では社会党、文化では岩波書店を中心に巨大勢力を構築した。彼らが権力を握っていたならば、韓国は今とは違っていただろう。だが、日本国民は彼らを主流として受け入れなかった。そうして捨てられた彼らは「反日」の旗を手に韓国で老後資金を稼いでいるのだ」
日本に存在する「ファッション左翼」は、韓国軍事政権時代の人権弾圧を非難する目的であったが、北朝鮮では今なお行なわれている現実を故意に触れようとしない。そういう意味で、片手落ちである。そのファッション左翼も現在、日本では大きく後退した。
(2)「韓日国交正常化時に受け取った日本の請求権資金が、浦項総合製鉄(現:POSCO)建設に使われたことはよく知られている。当然受け取るべきカネを受け取って使ったのに、何を大層な事のように言っているのか、と言うこともできる。しかし、それは知らないから言える言葉だ。賠償金や経済協力資金は使い道が厳しく定められている。カネが後進国の政治の下水溝から消えたり、銃や刀になったりしてはいけないからだ。浦項総合製鉄の資金はもともと農林水産業用だった。米国、英国、フランス、ドイツ、イタリアが韓国にそっぽを向いた。日本の同意がなければ、製鉄所建設はそのまま水に流されてしまうような状況だった。韓国の頼みに日本政府は同意した」
韓国の浦項総合製鉄建設は、日本の鉄鋼業界が技術支援した。八幡製鉄(現・日本製鉄)の稲山社長が音頭を取ってオールジャパンで支援したものだ。主要国は、すべて断った案件である。日本側の思いは、日韓併合時代への償いであった。韓国は現在、こういう日本の事情を理解することはない。
(3)「安岡正篤という保守主義者がいた。日本政府と新日鐵を説得して韓国に協力させた人物だ。一学者だったが、日本政界の舞台裏で実力者として大きな力を発揮した。彼は韓国の正統性を疑わなかった。韓国は共産主義と闘う防波堤だと考えた。この信念は自民党主流派の韓国観を支配した。彼らの努力が韓国にどのような影響を及ぼしたかは、李秉喆(イ・ビョンチョル=サムスングループ創業者)、朴泰俊(パク・テジュン=浦項総合製鉄初代社長)ら戦後第1世代の企業経営者たちの自叙伝を見れば分かる」
サムスン創業者の李秉喆氏は、戦前の早稲田に留学している。この経験を生かして戦後、日本企業に食込んで多くの技術支援を取りつけた。ただ、半導体は日本技術を窃取した。この間の事情は、李氏が私的な日本の会合で語っている。私は、その席にいて今なおその情景を記憶している。
(4)「かつて植民地支配した国と支配された国の中で、独立後、韓日のように発展的な関係を結んだケースはない。しかし、韓国の左派は「戦犯に助けてもらった」として韓国の経済発展をさげすむ。「戦犯」のレッテルを子どもたちが使う鉛筆にも貼る。韓国が滅びることばかりを待っていたデタラメ学者を「日本の良心」とあがめる。中国に盾突いた日本企業の財産を没収する。この国を二度抹殺しようとした中国に、カネと技術を惜しみなくささげる。米国の北東アジア安保のおかげで生き延びていながら、韓米日軍事協力を口にすると「いっそ中国・北朝鮮と手を組もう」と言う。彼らは現代ではなく、旧韓末時代(朝鮮時代末期から大韓帝国時代まで)を生きている。だから果てなく彼我を混同する」
このパラグラフは、韓国の実情を実に良く示している。私はしばしば、韓国外交が朝鮮李朝末期の混乱と同じだと指摘している。これは、韓国人の心情が中朝と繋がっている事実を雄弁に物語っている。こういう層に対して説得も対話も無理である。これが、反日の原動力になっているのだ。韓国人のざっと半分を占めているだろう。
(5)「安倍晋三元首相が死去するや、韓国の報道機関は彼を「日本の保守の心臓」と報道した。だが安岡正篤、岸信介、中曽根康弘、小渕恵三につながる日本の保守は彼らの質の低い手を読み、広い視野で韓日関係を導いた。安倍元首相は「晋ちゃん」という愛称通り、お坊ちゃまの限界から抜け出せなかった。文政権と同じ手で対決して保守の格を下げた。そういう点で「イニ(文在寅前大統領の愛称)」と「晋ちゃん」の時代はコインの裏表だ」
このパラグラフには異論がある。「安岡正篤、岸信介、中曽根康弘、小渕恵三につながる日本の保守は彼ら(注:韓国)の質の低い手を読み、広い視野で韓日関係を導いた」は結局、韓国の日本への甘えを増やしただけだ。日本が誠意を見せてもそれを理解せず、要求すれば何でも応じるという誤解をもたらした。その頂点が文政権である。安倍政権は、韓国の甘えを拒絶し、初めて「政経不分離」で対抗したに過ぎない。日韓関係の正常化開始のゴングである。
(6)「文政権は選挙で崩れた。無念の経緯で安倍時代も終わった。時代はこのように必然と偶然が重なる時に変わる。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は彼らが引き継いだ難題を解き始めた。両国はいつも難題を解きながら発展してきた。何かを始めれば、何もしない人々が必ず邪魔する。何かを成し遂げれば、それまで壊してきた者たちが再び壊そうと扇動するだろう。はねつけて前に進めばよい」
韓国側には、根っからの親中朝派がいる。この層は、日韓関係の正常化を望んでいない人たちだ。韓国経済が徹底的に疲弊し根拠なき自信が崩れなければ、まともに日本を見ることもないだろう。それまで待たなければならない。