勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

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    文政権の登場で、韓国軍の「主敵」なる言葉が削除された。韓国軍には、法的に主敵が存在しないのだ。代わって、自衛隊が「主敵」代わりにされるという、倒錯した国防意識になっている。これによって、韓国軍の緊張感が大幅に低下している。南北の軍事境界線が、北朝鮮によって簡単に飛び越えられるという異常事態を招いているのだ。

     

    新年早々から前方の鉄柵が突破された。元旦だった1日午後、江原道(カンウォンド)東部の高城(コソン)地域を担当している陸軍第22師団最前方鉄条網が、民間人(推定)1人によって破られて北朝鮮に越えられたのだ。

     


    『中央日報』(1月3日付)は、「
    越北3時間過ぎても分からなかった韓国陸軍第22師団」と題する社説を掲載した。

     

    韓国軍当局は、越北者が非武装地帯の南側鉄条網(GOP鉄柵)を越えるとき、韓国軍の監視装備で捉えられていたがこれを見逃した。監視カメラの監視兵が、録画された内容を再生する過程で鉄柵を越える姿を確認したという。韓国軍のずさんな前方警戒が再び明らかになった。

    (1)「今回の警戒に失敗した部隊の措置過程はさらに深刻だ。鉄柵越え当時、鉄柵に設置されていた科学化警戒システムの光網体系で警報が稼働し、初動措置部隊が現場に出動したという。ところが出動した部隊は鉄柵に異常がないと判断して撤収したという。毎日点検している鉄柵は小さな問題が生じても即座に把握することができる。しかも第22師団地域の鉄柵は2012年ノック亡命(注:亡命者が韓国へ入国して、民家の戸をノック)以降、2回以上鉄柵を補強している。このため越えることすら難しいが、たとえ鉄柵の上を越えたとしても毀損された跡が残るようになっている。動物などによって頻繁に起こる誤警報だと考えて見過ごしてしまった可能性がある。普段の警戒心の緩みからきた結果とみられる」

     

    北朝鮮には、韓国との間に設けられている軍事境界線など、なきに等しい存在であろう。韓国へ「亡命」して、また北朝鮮へ「帰る」という極端なケースまで発生している。こういうケースが、文政権になって激増している。韓国軍は、北朝鮮のご機嫌取りに汲汲としている文政権を見れば、真面目に職務を敢行しようという気持ちも失せるのであろう。

     


    (2)「軍の警戒の失敗は一回や二回ではない。今回突破された第22師団は2012年ノック亡命から始まり、2020年11月柵越え亡命、昨年2月にはフィンを使った水泳亡命など、毎年潜入が発生している地域だ。相次ぐ警戒の失敗で第22師団長をはじめ多くの指揮官が職務解任された。そのような敏感な地域にもかかわらず警戒にまた失敗した。いったい精神をどこに置いているのかと非常に心配になる。しかも越北者が監視装置に捉えられた後、3時間以上も分からずにいたという。そもそも警戒勤務にあたっていたのだろうか」

     

    文政権になってからの軍事境界線を突破された事件では、船で韓国領へ入りこみ、民家の電話を借りたという噓のような本当の話しまである。これが、「ノック亡命」事件である。韓国は、陸軍だけでなく海軍まで,北朝鮮への警戒感が薄れている。北朝鮮軍が、この機に乗じて軍事境界線を突破しようとすれば簡単に実現しそうな雰囲気である。韓国軍の警戒心が緩み、北朝鮮軍から自衛隊へ代わっている。この裏には、文政権の「反日」が大きな影を落としている。

     


    (3)「文在寅(ムン・ジェイン)政府で警戒の失敗が大きくなった。過去2年間、前後方を含めてこのような警戒の失敗は11回に及ぶ。三陟(サムチョク)港で「海上版」ノック亡命をはじめ、鎮海(チンヘ)や済州(チェジュ)海軍基地への侵入、首都防衛司令部防空部隊への侵犯、泰安(テアン)地域への中国人密入国などが代表的だ。文字通り深刻な水準だ。過去のどの時期にも前後方の境界線が今回の政府ほど繰り返し突破されたことはなかった」

     

    北朝鮮は、経済破綻にもかかわらずに核開発を続けている。韓国軍は、そういう不穏な北朝鮮軍へ心理的に無防備状況である。これだけ見ても、文政権が北朝鮮へどれだけ強い思い入れがあるか分るであろう。

     

    (4)「警戒の失敗原因は、韓国軍が敵のいない軍隊になっているためだ。韓国政府の南北関係改善や終戦宣言の推進などに便乗し、北朝鮮軍を敵と思わなくなっている。弱り目にたたり目で、軍が政治に振り回されて軍人事に対する外部介入がひどくなった。軍幹部は政界を意識して強い訓練や軍規の確立よりも責任の負担が少ない安全中心に運営しているのが現実だ。しかし、軍隊が本分を忘れれば安保が危うくなる。その最大の被害者は国民だ。強い軍隊に生まれ変わることを願う」

     

    下線部は、国防上において重大な目標喪失に陥っている。韓国軍の存立基盤は、対北朝鮮防衛である。そのよって立つ精神性が剥がされてしまったのだ。これに代わって、自衛隊を仮想敵にしている。この狂った意識をどのように正常化させるのか。日本は、2018年12月に起こった韓国艦艇による海上自衛隊機へのレーダー照射事件が、韓国軍への信頼感を根底から打ち崩した。韓国軍は、自衛隊にとって友軍でなく、「敵軍」になっている。レーダー照射は、ロケットによる撃墜意思表示であり、敵国機扱いした証拠である。こういう経緯から、自衛隊は韓国軍との共同演習を避けている。自衛隊は、米英豪印や独仏の軍隊のほうにはるかに強い「親和性」を感じている。 

     

     

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    韓国外交は、米中の間に立たされて「曖昧外交」を続けている。これが、韓国の生きる道と誤解をしているからだ。こうして韓国は、米韓軍事同盟を築きながら、それを弱めるような動きに集中している。中国の仲介で、北朝鮮との融和を促進して貰いたいと願がっている結果である。

     

    その北朝鮮は、中国へ最低限の依存しかしないのだ。中朝関係が密接になると、中国が北朝鮮の内部崩壊を狙って介入することを恐れているのである。韓国が想像するように、中朝関係は一枚岩でないのだ。韓国はこの実態を理解せず、中国へ過大な期待を掛け、米中間で「曖昧外交」を続けている。危険な外国戦略だ。

     


    韓国紙『東亞日報』(1月1日付)は、「中国『韓米が近づくほど報復するだろう』ミアシャイマー教授インタビュー」と題する記事を掲載した。

     

    国際政治学の代表的な学者であるジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授は最近、東亜(トンア)日報との新年インタビューで、「韓国が米国に近づけば近づくほど、中国は韓国に報復するだろう。残念だが、これは韓国が支払わなければならない避けられない代価だ」と語った。

     

    (1)「米中対立について、「中国が強力になればなるほど、韓国の安保脅威は大きくなるだろう」とし、「誰が(韓国の)大統領になろうと、韓国と米国がどのような関係を結ぶかが最も重要な問題」と強調した。習近平国家主席の3選で長期政権体制を固めた中国が、米国を越える覇権国になろうと試み、その過程で韓国への圧力が一層強まるということだ。最も影響力のある現実主義論者のミアシャイマー氏は、米中覇権競争を最も正確に予測した人物」

     

    下線部は、今後の中韓関係において中国が横暴な振る舞いをするであろうという推測だ。中国は、相手が弱いと見れば徹底的に嵩に懸かった行動をする。逆に、相手が手強いと見れば後退するという「機を見て敏」である。韓国は、1000年単位で中国の支配を受けて来たから、本心で震え上がっている気の毒な存在である。

     

    日本はそういう卑屈な歴史がないから、中国と対等に振る舞っている。むしろ、中国の方が日清戦争敗北という古傷を抱えて、日本へ敵愾心を持っているほどだ。中国の日本への心情はともかくとして、日本が中国を恐れていないことは事実である。中国は、外交的に日本が極めて扱いにくい相手であろう。

     

    後のパラグラフに出てくるが、韓国は日本と対立せず、日本と協力して一体化することが、中国の圧力を逃れる道であるとミアシャイマー氏が説いている。韓国が、日本の堂々とした対中姿勢を見倣うべきという含意もある。

     


    (2)「ミアシャイマー氏は、「世界は『2次冷戦』に突入している」とし、「中国はまもなく米国と同等の力を持つようになり、今後30年間経済成長が継続すれば、米国を抜いて最も強力な国家になるだろう」と見通した。また、「米中が15年以内に台湾をめぐって戦争を行う可能性が高い」と見通した」

     

    このパラグラフでは、中国経済を過剰評価している。私のように46時中、中国をウオッチしている立場からすれば、完全は買いかぶりである。中国の宣伝に乗せられているとしか言いようがない。不動産バブルに支えられてきた中国経済が強靱であるはずがないのだ。それは、平成バブルに酔った日本経済のその後が証明している。中国経済は、日本の辿った道を歩まざるを得ない宿命を負っている。

     

    中国は米国と戦えば、半導体の輸入を100%止められる。これで、中国経済が持つはずがない。経済封鎖によって、食糧輸入や天然ガス輸入も止まる。こういう事態になれば、中国で内乱騒ぎが起こるであろう。反習近平派が起ちあがるのだ。それほど、国内に習近平反対派が存在している。

     


    (3)「特に、ミアシャイマー氏は韓国のいわゆる「安米経中(安保は米国、経済は中国)」外交について、「韓国が韓米同盟に専念しないのは愚の骨頂」と強調した。高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)事態で見ることができるように、中国の脅威が大きくなればなるほど、韓国は米国との安保協力を通じた生存を選択するほかないということだ。ミアシャイマー氏は、「韓国と日本が緊密に協力すれば、中国の脅威にうまく対応できるだろう」と助言した」

    韓国文政権が、日本を敵視して中国へ親近感を見せる。これは、理解し難い行動である。中国は、朝鮮戦争で韓国を侵略した国である。その国へ媚びを売っている。中国から冷淡な対応されても、一言半句の抗議もできずに泣き寝入りだ。文氏が自ら、「二度と日本に負けない」と宣言するほど、日本へは対抗的である。この調子で、「二度と中国に負けない」と言って見るがいい。そういう度胸は全くなく、ひたすら揉み手をしている。恥ずかしい限りだ。

     

    これでは、中国が韓国を属国扱いするはずである。韓国は、中国が一目置く日本と連携を深めるのが生きる道である。それが分らずに、「反日」で盛り上がっている。愚かと言うほかない。



     

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    昨年12月31日午前零時、前大統領の朴槿惠氏が赦免された。健康状態悪化が理由である。文大統領は、最初の大統領選で朴氏に敗北している。そういう「恨み」があったのだろうか、朴氏を獄窓へ送ったのかもしれない。

     

    朴氏は、財閥企業から資金を集めたことが収賄罪とされた。これは、歴代大統領がすべて行なった「寄付金」集めであり、この資金が財団結成資金に使われてきた。朴氏も同じ方法を行い、「贈賄」という罪名を着せられた。文大統領の政治師匠であった盧武鉉・元大統領も行なった方法だ。

     

    朴氏は、贈賄を受けたとされるが、懐に入った証拠はゼロ。それでも韓国大法院は、文大統領の威令に伏して有罪とした。文氏の「恨み」を晴らしたのである。贈賄罪の裁判は、最も難しく長期間を要するとされてきた。朴氏の裁判では、そのようなことはなく、打合せ通りという感じで短期間の裁判であった。韓国の大統領制では、このような恣意的判決が出されるリスクを抱えているのだ。韓国司法は、前近代的である。

     


    『中央日報』(1月1日付)は、「朴槿恵前大統領釈放『韓国与野党』保守統合か分裂か神経尖らす」

     

    先月31日に釈放された朴槿恵(パク・クネ)前大統領の今後の動きに政界が神経を尖らせている。何より与野党の計算と見方が異なる。国政介入事件捜査の当事者だった元検事総長が野党の大統領候補になっている逆説的状況のためだ。

    (1)「野党「国民の力」は、朴前大統領が尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補に力を与え結果的に保守陣営の統合につながるビジョンを描いている。これに対し与党は保守分裂の可能性に対する期待感を隠さないでいる。「閉じ込めた者」(尹候補)と「解放した者」(文在寅大統領)の二分法も印象づけている。これと関連し、朴前大統領側のユ・ヨンハ弁護士はこの日放送インタビューで「病院から退院する日に朴前大統領が直接肉声で国民にしたい話をするだろう」と予告した」

     

    朴前大統領の捜査に当ったのが、「国民の力」の大統領候補者の尹錫悦氏である。文大統領の狙いは、朴氏の赦免によって尹氏と対立させようという狙いだろう。文氏は、あのように「清廉の士」に見えるが、内実はとんでもない。「腹黒」である。次期大統領も与党候補に継がせ、自らの疑惑封じを目論んでいることは確実である。検察庁法を改革して政権疑惑捜査を封じることまで平気で行なった。それが、文在寅の本質である。私は、彼のあくどさを指摘し続けなければならない。

     


    (2)「朴前大統領の政治的基盤に当たる「国民の力」は、表向き淡々とした様子だが、本心は複雑だ。特に朴前大統領が収監中に支持者らとやりとりした手紙をまとめた書簡集が出版されてからはさらにそうだ。朴前大統領は、この本で尹候補のチョ・グク元法務部長官の捜査に対し「自分が歩いてきた足跡に対しては彼自身が最もよくわかっているでしょう。嘘が人々を、それも一部の人をしばしだますことはできてもすべての人を永遠にだますことはできない」と明らかにした。本には「だれかのために利権を与える、そんな醜いことはしたことがない」「至らなかったかもしれないが、腐敗と汚れが染みついた人生ではなかった」として国政介入事件捜査や弾劾に対し抗弁した部分も多い」

     

    尹候補は、朴氏の捜査を担当した。それだけに、両者には複雑な思いがあるだろう。文氏は、そこを狙って、保守派の分裂を策しているとも見られる。彼なら、やりそうな策略である。



    (3)「尹候補側には、今後朴前大統領との関係設定と関連し慎重ながらも楽観する雰囲気がなくはない。選対委核心関係者は、「結局政権交代が大義であるだけに政治的地位回復に向けても尹候補を直接批判するメッセージを出したりはしないだろう」と予想する。朴前大統領が尹候補に批判的立場を取る場合、過去の自身の政治的基盤全体を敵に回すことになりかねないだけにそのような選択はしないだろうという期待だ。だがこれは「ウリ共和党」など朴前大統領を支持し続けてきた人たちの間で「朴前大統領の心情が穏やかなはずがない」「尹候補が花束を送っても受け取らないだろう」という話が出ているのとはかなり温度差がある」

     

    文氏は、保守派を分裂させれば、次期政権も進歩派が握れる。そうなれば、文政権にまつわる疑惑捜査を封じ込められるのだ。仮に、この策略が成功するようでは、韓国政治の改革は不可能である。

     


    (4)「これと関連し与党では、野党圏の内部分裂の可能性を提起する人が多い。朴前大統領の政治的故郷である大邱(テグ)・慶尚北道(キョンサンブクド)地域で保守が分裂する場合、故郷が慶尚北道安東(アンドン)である「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補が相対的に善戦するという期待感も少なくない。民主党高位関係者は「朴前大統領がたとえ政治的に意味あるメッセージを出したとしても尹候補に得することはないだろう。書簡集でも尹候補周辺の人物に物足りなさを表わさなかったか」と話した。弾劾に肯定的だった権性東(クォン・ソンドン)、張済元(チャン・ジェウォン)議員を批判する支持者の手紙に「嘘でだまし扇動した者はだれでも代価を払うだろう」と答えたのをめぐってだ」

     

    与党は、保守派の分裂に期待している。保守派候補の李氏にまつわる疑惑を隠せるからだ。韓国の将来を考えれば、こんな低級な策動をしている余裕はないはずだ。次の政権が、韓国の将来の分水嶺になろう。これは、確実である。

     

     

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    韓国は、RCEP(東アジアの地域的な包括的経済連携)の発効(1月1日)に続いて、4月中にTPP(環太平洋経済連携協定)へ加盟申請書を提出することになった。韓国のホン・ナムギ副首相兼企画財政部長官は、12月27日に明らかにしたもの。具体的には、22年のTPP議長国であるシンガポールや副議長国のメキシコとニュージーランドをはじめとする加盟国と非公式の接触と協議を推進するという。

     

    韓国が、これまでTPP加盟を躊躇していたのには二つの理由がある。一つは、中国のTPP未加盟であること。もう一つは、日本との競合が激しくなり、さらに対日貿易赤字が増えることを懸念していた。中国は、すでにTPP加盟申請を出したので、この面の足かせはなくなった。だが、最大の鬼門である対日貿易赤字の拡大は未解決である。

     


    韓国では、日本製農水産物との競争が激しくなることが問題になろう。福島原発事故を理由にして、これまで東日本8県の農水産物へ輸入制限を掛けたままになっている。これは、TPP加盟問題で最大の障害になることを否定できず、韓国では頭痛の種であろう。日本が、WTO(世界貿易機関)へ提訴したほどの問題である。WTOの一審では、日本の勝訴になったが、二審で「風評被害」という根拠のない理由によって、韓国の輸入規制が認められた。

     

    日本としては、韓国がTPP加盟申請すれば、この問題をいの一番でとり上げる筈。韓国が輸入規制を撤廃しなければ、TPP加盟を拒否するだけだ。一転して、日本が交渉の主導権を握る形だ。日本には、失地回復のチャンスが訪れる。

     

    RCEPが、この元日に加盟10ヶ国(他に未批准国5ヶ国)で発効した、これによって、日本がRCEP加盟国中で、最大の利益(輸出増加)を受けることになった。UNCTAD(国連貿易開発会議)の試算によると、RCEPで域内貿易額は2%、約420億ドル(約4兆8000億円)拡大する。うち、日本の恩恵が最も大きく、域内向け輸出は19年比で5.5%、金額で約200億ドル増えるという。中国や韓国は、2%程度の輸出増を見込むので、日本の3分の1程度に止まる。

     

    日本政府は、日本の実質GDPが最終的に約2.7%押し上げられるとの試算を発表した。2019年度の実質GDP水準で換算すると、約15兆円に相当するという。労働需要は約0.8%増加すると見込まれ、2019年の就業者数をベースに人数換算すると、約57万人に相当するという。以上の試算は、『ロイター』(21年3月19日付)が報じた。

     

    日本は、RCEPでこれだけの利益が得られる試算だ。これは、日本にとって最大の貿易相手国の中国、3番目に大きい韓国と初めて結ぶFTA(自由貿易協定)になることも背景にある。みずほリサーチ&テクノロジーズによると、現行無税の品目を含めた即時撤廃率は中国で25%、韓国で41.%。発効時点で無関税になる品目は多くはないが、10年ほどかけて中韓ともに約7割の品目で関税が撤廃されることが大きな要因である。

     


    こうして日本は、RCEPにより中韓市場を開拓できるメリットが受けられる。韓国については、TPP加盟が実現すれば、関税率撤廃品目がRCEPより増えてメリットはさらに大きくなる。それは、工業製品のみならず、農水産物へも広がる可能性があるためだ。

     

    日本の農水省が、昨年12月28日公表した農林水産物・食品の21年1~11月の輸出額は、前年同期比27%増の1兆779億円となった。初めて年間で1兆円を超えたのだ。農産物では、牛肉や鶏卵、果実などが好調であった。海外で外食需要が回復し、家庭用需要も堅調だった結果である。

     

    従来の感覚では、日本の農水産物は競争力が低いとされていた。だが、業界の努力によって海外マーケットを開拓している。

     


    21年1~11月の輸出内訳は、加工食品を含む農産物が同24%増の7211億円。林産物は34%増の515億円、水産物は同33%増の2686億円となった。牛肉、日本酒、イチゴなどが過去最高額となっている。牛肉は同88%増の472億円に達した。イチゴは同73%増の32億円、ブドウは同12%増の44億円と好調である。

     

    韓国は、こういう日本の農水産物と競争しなければならない。日本が、競争力のないとされた農産物で地歩を固めている現状から見て、日本の「底力」に驚くはずだ。福島原発事故を誇大宣伝して、日本産品の輸入を大幅に制限してきたことによるブーメランに見舞われるはずだ。

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    韓国知識人が、日本をどう見ているか。それを適確に示す「寄稿」が朝鮮日報に掲載された。東京五輪開催や、最近の岸田政権によるコロナ防疫対策で、外国人の入国を禁じたことが、国家主義であると決め付けているのだ。

     

    国家主義とは、全体主義や民族主義を指す言葉である。こういう言葉の意味を理解しないで、不用意に「国家主義」を使う辺りに、韓国の硬直化した思想傾向が窺えて興味深い。右翼・左翼という「二分法」で議論するのが韓国だ。「敵・味方」論に立って、理屈の如何に関わらず、敵を攻撃して味方を擁護する。この韓国的議論こそ、日本人が苦手とする論法である。実態を見ないでレッテル貼りする。それが、韓国社会である。

     


    『朝鮮日報』(1月1日付)は、「コロナ禍の日本で国益を優先する国家主義が浮き彫り」と題する寄稿を掲載した。筆者は、崔仁漢(チェ・インハン)時事日本研究所所長である。

     

    (1)「『マニュアル社会』と呼ばれる日本は、これまで経験したことのない大災害である新型コロナ流行初期に右往左往していた。東京五輪を経て感染者は今年夏に一日2万人台まで増えた後、減少に転じた。今月に入ってからは100人余りにとどまっている。新型コロナ危機という状況において、ひたすら耐える日本人の忍耐力と日本社会の安定性は際立っていた。一方、対外的に見ると、11月30日に取った外国人全面入国禁止措置のように閉鎖的で国の利益を絶対的に優先する国家主義的な傾向が確認された」

     

    「マニュアル社会」は、決して卑下すべきことでない。規則通りに動くことが、民主社会の原則であるからだ。韓国のような前近代社会では、マニュアルが官僚機構によって歪められ、「敵・味方」論が、司法の世界まで支配している。嘆かわしい話だ。

     


    (2)「全世界から批判的な意見が寄せられたのにもかかわらず、2021年7月に東京五輪が強行された。その過程で、遅れたデジタル行政や医療システムにより感染者・死亡者が急増し、国際的に恥をかいた。しかし、辛抱強い国民のおかげで大きな混乱なく危機を乗り越えた。今年10月以降、感染者・重症者は大幅に減少する傾向にある。日本政府は11月30日に外国人の新規入国を禁止した。11月8日からビジネス目的の短期滞在者・技能実習生・留学生などに対して条件付きの入国を許可したが、わずか20日間で外国人の入国に関する政策を一転させ、日本の対外的閉鎖性を露呈した」

     

    東京五輪では、日本が多大な損害を被ったが予定通り実施した。それで、日本は非難された訳でない。むしろ、参加した選手から大きな感謝の言葉を頂いた。韓国からも選手が参加している。参加しなかった北朝鮮は、IOCから罰則として北京冬季五輪への出場を禁止された。こういう事情をご存じだろうか。

     

    下線部による日本批判は、そのまま韓国へお返ししたい。現在の韓国は、まさにこの状況下に置かれ、医療崩壊している。日本の医療体制を批判しながら、日本が現在、外国人入国を禁止していることを批判している。これほど矛楯して指摘はない。感染力が3倍も高い「オミクロン」株の拡大を防ぐには、やむを得ない措置である。

     


    (3)「今回の外国人入国禁止措置は、東京五輪開幕前に施行した防疫措置とはあまりにも違う政策だ。当時は新型コロナ感染拡大を理由に「五輪反対」という世論が圧倒的に強かったが、日本政府は国益レベルで五輪開催を押し通した。個人の安全と自由、国家間の自由な移動を保障する自由民主社会の基本価値を無視する「国家主義日本」の実体があらわになった」

     

    東京五輪開催は、国際的スポーツ祭典であり、すでに前年に延期しているだけに実施した。こういう開催国の苦しい立場を理解せず、一方的に批判するとはどういうことか。少なくも、隣国のとるべき態度でない。日本は、東京五輪で経済的な利益どころか大きな損失を被っている。それでも開催した。今回の外国人入国禁止措置は、東京五輪開催時のようなコロナ感染者の急増を防ぐ措置である。

     

    大仰に、「国家主義日本」と非難されるいわれはない。「国家主義」という言葉を濫用しているが、国家の防疫対策として最低限、許される行為である。中国は、西安市(人口1300万人)ロックダウンをやっている。日本が、国民の健康を守る権利と経済的な利益を守る立場から、「オミクロン株」感染拡大回避の措置を取るのは当然のことである。

     


    (4)「新型コロナ流行初期の日本人の反応は鈍かったが、その後、次第に安定した原因は何だろうか。歴史小説『坂の上の雲』を書いた日本の国民的作家・司馬遼太郎はかつて、小さな島国が短期間に国力を伸ばした原動力について「国家危機時の日本人のすばやい意識転換能力」と説明した。日本人は自然順応的で、新型コロナに無理に抵抗しなかった。韓国のようにウイルスを強力に制圧する考えはそもそもなかった、ということだろう」

     

    下線部は、筆者の防疫に関する知識の欠如を示している。韓国の行なった全数調査は防疫対策としては「下策」である。日本のように異常を訴える者を検査すること。同時に、集団感染予防が、国際的な防疫対策である。こういう知識もなく、日本を批判すべきでない。

     


    (5)「日本人は変化を非常に嫌う。絶体絶命の危機が迫るまでは、それまでの慣習や制度を維持する傾向が強い。古くからアジア大陸と切り離された島国という地理的特性が国民性に影響しているのだろう。彼らは外部環境の変化に非常にゆっくり反応するが、国家的な危機と判断されれば革命的な転換をしてきたという特性がある。徳川幕府から明治維新(1868年)が起こり、第二次世界大戦での敗戦後、軍国主義から自由民主主義・市場経済体制へと姿を変えてきた」

     

    日本で皇室が存在するのは守るべき伝統と、変えるべき政治・経済制度を識別している結果である。これは、日本人の誇るべき特性である。むろん、皇室に反対の意見もある。それは、個人に許される意見であって、そういう趣旨を発言できる自由が日本にあるのだ。

     


    (6)「日本は政治と官僚エリートの「官」が主導し、「国民」がそれについていく構造になっている。国家指導者である首相はこの2年間で目まぐるしく変わった。安倍晋三首相の8年間にわたる長期政権は幕を閉じ、後任の菅義偉政権は1年間という短命に終わった。そして、グローバルな感覚を持つ実力派・岸田文雄首相が今年11月上旬に登場した」

     

    このパラグラフは、日本の政治制度への無知を露呈している。日本は、韓国の大統領制と違い、英国流の議院内閣制である。議会の指名によって首相が代わる。それは、敏感な民意を政治に反映する政治制度だ。韓国では、大統領制の弊害が指摘されながら改革できない。この方が、はるかに硬直的で弊害が多いのだ。文政権が、5年間行なってきた政治はどうであったか。韓国国民は、それに満足しているのか。自問自答すべきだろう。

     

     

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