韓国は、出資と経営が同一という非近代経営である。これは、財閥と呼ばれるものだが、日本が戦後の経済民主化で捨てた制度を採用している。端的に言って「時代遅れ」であることは言うまでもない。これからの激動期に、韓国財閥は試練にさらされよう。
『ハンギョレ新聞』(3月22日付)は、「カリスマをまとった韓国の財閥3・4世経営実績もなく血筋だけ」と題する記事を掲載した。
好きか嫌いかにかかわらず、財閥グループは韓国経済で占める割合が非常に高く、その財閥グループを牛耳る存在がまさにトップだ。現在は創業主の3~4世たちがCEOになっている。彼らは会社を設立しておらず、起業家精神があるわけでもなく、経験が豊富でもない。しかも、激しい競争を経てCEOの座に伸し上がったわけではない。彼らが最高の地位に就くためには、厳格な評価などの手続きは別にしても、正当化できる論理は必要だ。
(1)「ここで登場するのがカリスマだ。お世辞ではない。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が財閥トップたちと釜山(プサン)でトッポッキを食べたエピソードを見てみよう。サムスンのイ・ジェヨン会長は「しっ」という滑稽な表情のミームが拡散し、おでん屋の前には「イ・ジェヨン会長が立っていたところ」という表示も登場した。この些細なこのエピソードから、イ会長に人とは違うカリスマがあると考える大衆の心理がうかがえる。サムスン関係者たちが「わが会長」に対する評価をする時、他のことはともかく、「オーラ」は確実にあるという話をたびたび聞く。すなわち財閥3~4世の(地位を)正当化する根底にはカリスマがあるというのが関係者たちの言葉だ」
韓国左派は財閥を批判するが、一般は「名家」意識でみている。朝鮮李朝時代からの連綿として続く崇拝意識が働いているのだ。日本では戦後に、こういう「名門意識」は一掃されている。
(2)「カリスマCEOは、果たして企業の業績を改善するだろうか。様々な研究の結論は「断定するのは難しい」である。その中で代表的なのはカリスマのタイプによって実績改善の可能性が影響を受けるという解釈だ。過去の経営実績と華やかなキャリアなど客観的に観察できる事実に基づいて形成されたカリスマと、客観化されず漠然とした心理や期待を背景にしたカリスマはその結果も異なる可能性がある」
カリスマCEOは、世間がつくり挙げた虚像である。韓国は未だに、この虚像が生き延びる社会的な雰囲気が残っているのだ。
(3)「財閥の3~4世トップたちのカリスマには、客観的実体があるだろうか。過去の経営実績はない。実績があっても失敗が多く、創業者の故チョン・ジュヨン現代グループ会長の苦難、逆境、失敗とは比べ物にならない。高速昇進をしても、それを3~4世の能力だと考える人はほとんどいない。結局、カリスマの根源は財閥家という血筋に基づいたレガシーだけだ。創業者のカリスマと3~4世のカリスマはその種類が違う。後者のカリスマが実績改善に肯定的な影響を及ぼすとは期待し難いだろう」
韓国の財閥家のルーツは、李朝時代からの大地主とみられる。サムスンは地主であった。他の財閥もルーツを辿るべきだろう。
(4)「問題はここにとどまらない。まず、会社の経営が危機に陥れば、間違いなくカリスマCEOを求める声が高まる。財閥でいえば、カリスマ3~4世が会長の座に就くチャンスが生まれる。危機の時に現れた最高経営者は、組織を揺さぶるものだ」
財閥3~4世に、経営手腕があるとは限らない。実務経験がないからだ。ただ、家柄でカリスマ性を感じるだけだ。
(5)「二番目の問題点として、カリスマCEOは実績と関係なく莫大な報酬を受け取る。財閥の3~4世たちは典型的にカリスマに対する補償を受ける人たちだ。カリスマのある人がCEOを務めるべきだとし、超高速で会長の座までたどり着き、職級ごとに報酬を押し上げる。全知全能のスーパーマンであるかのように、複数の系列会社で役員を兼職し、報酬を重複受領する人もいる」
カリスマCEOは、事実上の「名誉職」である。トップとして、「座り」が良いということだろう。実務能力は、問われていないのだ。
(6)「三番目の問題として、カリスマCEOには大衆の関心を追い求め、会社内部に留まらない傾向がある。他の組織の仕事を受け持ったり、どこかで講演をしたりもする。最近は職務以外のことといえば、断然ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。SNSを通じてあらゆることに口を出すのがイーロン・マスク氏だ。韓国ではチョン・ヨンジン会長がこのようなタイプに当てはまる。もちろん個人的あるいは社会的活動そのものが問題であるわけではない。それが行き過ぎて本業がおろそかになる時に問題が生じる」
カリスマCEOは、大衆人気があるから多方面へ関心を示す。それは、大衆が欲していることでもあるのだ。
(7)「四番目の問題は、カリスマCEOに対する外部の評価は概して肯定的だが、問題は評価の正確性が劣るという点だ。アナリストがカリスマCEOに注目し、会社の成長可能性を肯定的に評価して投資を勧誘したものの、会社の実績が期待に及ばなかった事例は少なくない。このようなカリスマCEOに対する外部の評価とこれに基づいた生半可な予測が、財閥問題を深刻にさせる主なチャンネルの一つだ。専門家集団のほうが、一般国民よりむしろ財閥トップのカリスマを称賛する場合が多い」
下線部は、韓国社会の前近代性を雄弁に物語っている。「名門」をありがたがる崇拝意識が、未だにあるからだ。