勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

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    韓国の文大統領は、南北交流を自らの任期中に前進させるべく、米国との軋轢を覚悟して捨て身の戦法に出るのでないか。米国は、最近の韓国大統領府による「安保3人ライン」の人事交代に疑いの目を向けている。米韓関係が軋めば、韓国外交は完全な袋小路に入る。文在寅氏は、最後の賭けに出て来た。

     

    『朝鮮日報』(7月7日付)は、「韓国が韓米作業部会を迂回して南北直通トンネルを作りかねない」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が最近、外交・安全保障ラインを入れ替えて北朝鮮通を全面配置したことを巡り、米国政府内外から懸念の視線が送られている。行き詰まった南北関係を独自に解きほぐすため、韓国が「直通チャンネル」を開いて国際制裁を迂回しようとするのではないか、というのだ。ワシントンのある外交消息筋は「北朝鮮通を前面に押し出し、韓米作業部会も迂回する南北間のトンネルが作られることもあり得ると思う」と語った。

     

    (1)「新たな外交・安保ラインは、これまで多くの対北交渉の経験があったり、「民族優先」を強調してきたりした人物で構成されているのが特徴だ。徐薫(ソ・フン)国家安保室長はおよそ30年にわたり国家情報院(韓国の情報機関。国情院)で勤務しつつ対北業務を担当し、仁栄(イ・インヨン)統一相候補は全大協(全国大学生代表者協議会)第1期出身で、学生時代から統一運動を行ってきた。韓東大学の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授は「韓米関係など4強外交に対する理解が深い人物なしの、北朝鮮通一色で構成した人事では、きちんとした外交はやり難いだろう」と語った」

     

    北朝鮮通の人物3人が、揃って「安保ライン」に任命されたのは、米国にとって異色の組み合わせに映っている。米韓関係に精通した人物がいないのは、南北関係打開で米国を棚上げして行なう意志に受け取られている。これでは、米国の存在をないがしろにするもので、米韓関係にひび割れを起こす危険性が高まるのだ。この辺りが、文大統領の「直情径行性」を表わしている。

     

    (2)「米国は特に、対北違法送金事件で有罪宣告を受け、1年余り収監生活を送った朴智元(パク・チウォン)元「民生党」議員が国情院長に内定したことにショックを受けている雰囲気だ。対北制裁の専門家であるジョシュア・スタントン弁護士は「今の文在寅政権では、平壌へ現金を違法に流すことが重要な力量」だとしつつ、「これがワシントンにとって意味するところは何だろうか」と語った。「平壌大使が最後の夢」だと語る対北太陽政策論者を情報ラインのトップに任命することで、米国の反対があっても「対北融和の道」に進むというシグナルを送った-というわけだ」

     

    朴智元氏が、情報機関トップになったことに警戒観を強めている。かつて北朝鮮へ秘密資金を提供した人物だけに、米国は北朝鮮と秘密ルートを持っているはずと睨んでいる。その朴氏が情報機関トップに座ることは、韓国が「何をするか分からない」というシグナルを発していると米の警戒観を強めている。米国スパイ網は、韓国情報機関を監視する必要に迫られそうだ。

     

    (3)「タフツ大学のイ・ソンユン教授も、ツイッターに「朴智元は金正恩(キム・ジョンウン)に5億ドル(約537億円)を送金し、2曲のセレナーデまで添えた」とし「彼が韓国の情報トップになったことで、北朝鮮は『統一が今こそやって来たな』と思うかもしれない」と書き込んだ」

     

    朴氏の情報機関トップ就任は、北朝鮮に扉を開かせる契機になり得る。米国側には、こういう観測も生まれている。

     

    (4)「こうした中、北朝鮮は6日も韓米作業部会に対する不満を再度あらわにした。対外宣伝メディア「朝鮮のきょう」は6日、「いつまで恥辱と屈従に縛られようとするのか」というタイトルの記事で、韓国の政界やメディア、市民団体が声をそろえて韓米作業部会を批判していると主張した」

     

    北朝鮮の標的は、韓国批判から米国非難に向かってきた。文大統領が、今回の「安保3人ライン」で北朝鮮と秘密交渉を始めれば、米韓同盟は大きな傷を受けるだろう。南北関係発展か米韓同盟維持か、そういう難しい問題にぶつかりそうだ。その場合、韓国の安全保障は根本からひっくり返されるだろう。危ない橋だ。文氏にはその意味が分かっていない。

     

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    文大統領は、韓国がコロナを封じ込めたとし、「K防疫モデル国」宣言した。その後は、芳しくない状況が続いている。全国的に、感染者が増えているからだ。こうなると、「K防疫モデル国」宣言は色あせてくる。日本を見下していたころの元気さは、消えてしまった。

     

    日本も封じ込めに苦労している。ただ一つ救いなのは、感染源を特定できる点だ。東京の夜の歓楽街が、感染者の半分以上を占めている。彼らを「地下」に追い込むのでなく、「地表」に止まらせて、検査に協力させる「緩やかな」方式が成功するだろうと見られている。この方式を気長にやって行くしかないようだ。

     

    『毎日新聞』(7月6日付)は、「コロナ封じ込めに成功したはずの韓国で感染拡大する理由、自粛解除と防疫、両立の難しさ」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの感染拡大をいったん抑え込み、5月初旬に市民に対する外出や集会の自粛要請を解除した韓国が、再び予断を許さない状況になっている。首都圏だけでなく、南西部の光州(クァンジュ)市や中部の大田(テジョン)市など地方都市でも集団感染が相次いで発生し、新規感染者数が高止まりしている。

     

    (1)「感染が急拡大した光州市を3日に訪れた丁世均(チョンセギュン)首相は、市民に対し、「これ以上の感染拡大を防ぐため、市民一人一人の協力と参加が切に求められている」と感染防止対策の徹底を呼びかけた。光州市では6月27日から寺院を中心とした集団感染が発生し、75日正午現在で計80人の感染が判明している。政府は感染の拡大状況に応じて実施すべき防疫措置を3段階で設定しており、同市は2日、最も軽い「第1段階」から「第2段階」へと全国で初めて引き上げた。これに伴い、室内50人以上、屋外100人以上の集会や行事が禁止された。光州市を取り囲む全羅南道も、6日に第1段階から第2段階に引き上げると5日発表した」

     

    日本では、東京都の感染者数が突出している。これは、冒頭で指摘した「積極的な検査要因」による。韓国では、地方での感染者が増えている点に「封じ込め」の難しさを示している。

     


    (2)「韓国では2月から南部・大邱(テグ)市で新興宗教の信徒を中心に始まった「感染爆発」を、他の地域に拡散することなく収束させたことが功を奏し、4月下旬以降は国内の新規感染者数が10人以下となる日が多くなった。韓国政府は、感染拡大が落ち着いたと判断し、5月6日、市民に対する外出や集会の自粛要請を解除した。ところが、その直後に判明したソウル市内のナイトクラブでの集団感染をきっかけに、首都圏で複数の集団感染が断続的に発生。韓国政府は5月29日から首都圏に限って、再び防疫管理を強化し、「これから12週間が重要な山場になる」と外出や集会の自粛を呼びかけた。それでも、小規模な集会や行事を通じた感染が続き、さらに地方にも飛び火した格好だ」

     

    首都圏の感染急増が、地方に飛び火した感じである。その点日本は、ほとんどの地方で感染者「ゼロ行進」である。日本は、東京都の「夜の歓楽街」を封じ込められれば、乗り切れるという期待感が強まる。

     

    (3)「背景にあるのは、いったん感染拡大を抑え込んだことによる人々の「気の緩み」が原因の一つとみられる。政府が携帯電話の位置情報やクレジットカードの使用金額などを基に首都圏の人の流れを分析したところ、5月29日に自粛を要請した後の週末は、政府の呼びかけにもかかわらず、要請前からほとんど減っていなかった。6月半ばからは、新規感染者数に占める地方住民の割合が増加。光州市だけでなく、大田市でも訪問販売業者を通じた集団感染が起きている」

     

    「気の緩み」が、第二波を呼込んでいると指摘している。文大統領は、政治的意図で「K防疫モデル」を宣言した。結果的にこれが、気の緩みを生んだのであろう。口は災いの元である。

     

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    真面目な話だが、韓国の民主主義が危なくなっている。先の総選挙では、与党系を合併して176議席(定員300)と6割も握り、自由勝手なことが可能と振る舞っている。最大の問題は、検察に圧力を掛けていることだ。「検察改革」の大義名分で、与党関係者が関わった事件のもみ消しを公然と行い、これに従わない検察トップに辞任を促すという無法ぶりだ。

     

    文政権は一時が万事、このスタイルで政策を行なっている。外交関係も米韓、日韓と軋みが目立っている。国会で絶対多数を握ったという奢りが、各方面に現れている。「自由・平等・公正」を合い言葉にする文大統領だが、現実は「文主共和国」とさえ言われ始めている。危険この上ないことだ。

     

    『朝鮮日報』(7月6日付)は、「大韓民国は文主共和国、全ての権力は文から生ずる」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹である。

     

    盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2005年、千正培(チョン・ジョンベ)法務長官が史上初の捜査指揮権を行使したとき、強い反発が起きた。世論調査では、指揮権発動に「共感する」(26%)という回答よりも「共感できない」(64%)が倍以上に達した。与党の議員でさえも国会での対政府質問で「選出された権力だからといって検察を統制してはならない」と述べた。

     

    (1)「指揮権は法律に明示された法務長官の権限だが、発動した瞬間に自身も傷つく両刃の剣だ。その指揮権が2020年の大韓民国では趙子竜の古刀のように(後先考えずむやみに)使われる。秋美愛(チュ・ミエ)法務長官は、韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相の収賄事件の参考人だった前科者をどの部署で調査するのかをめぐり、指揮権を発動した。ハエを捕まえるために宝剣を抜いたのだ。検察総長が指揮権を部分的に受容すると「私の指示を横取りした」と述べた。歴代の法務長官が検察総長を指揮したのは15年前のただ一度だけなのに、秋長官は「こんなに言うことを聞かない総長は初めてだ」と言った。「こんな法務長官は初めてだ」という声がおのずと聞こえてくる」

     

    法務大臣が、検察へ「指揮権発動」(捜査中止命令)することは伝家の宝刀である。抜いてはいけないものと認識されている。日本でも吉田内閣時代の犬養法相が、指揮権発動により辞任に追い込まれた。それほど、重みのある権力行使である。文政権では、いとも簡単に「指揮権発動」を行い、法務長官は平然としてその任にあるという破天荒な政権である。韓国の民主主義が文政権によって狂い始めているのだ。

     

    (2)「一度も経験したことのない国を作る、と(文大統領が就任式で)述べていたが、本当に国が大きく変化した。3年前には考えられなかった事が、当たり前のように起きる。文政権は検察の捜査が青瓦台(韓国大統領府)の周囲に及ぶと、指揮部をまるごと左遷した。検察総長を侮辱し、あざけり「これでも辞任しないつもりか」とまるで暴力団のように脅迫する。大統領の手を血で汚さずに追い出そうというわけだ。政権を狙った捜査を権力で阻止することは、米国では大統領弾劾の事由になる。文在寅政権ではそれを検察改革と呼ぶ」

     

    文大統領自身、民主主義についての認識が歪なものであろう。自己を絶対的なものと位置づけ、「自分はすべて正しい」という思い上がりが、法務長官の異常発言を許す結果となっている。あるいは、何と批判されても「親中朝・反日米」路線を定着させる礎になるつもりなのだ。静かなる革命を狙っているとも見える。

     

    (3)「国会法制司法委員長の座は2004年から野党のものだった。その地位で保守政権をさんざん苦しめてきた人物が、現与党「共に民主党」の朴映宣(パク・ヨンソン)元法制司法委員長(在任2012~14)だった。朴氏がここにきて「法制司法委員長は与党のものだ」と述べた。自分が在任していたときは権力けん制、敵が務めれば国政妨害というわけだ。野党が抗議すると、17ある国会常任委員長全てを与党が独占する形を取った。1988年から議席の比率に基づいて与野党が分け合ってきた慣行までも破ったのだ」

     

    与党が、野党時代は法制司法委員長の座を「権力監視」の名目で確保してきた。ところが、国会で与党が絶対多数を占めると、法制司法委員長ポストを与党が奪い取る。国会運営で、野党の発言権を完全に封じる戦略だ。これで、文政権は安泰という計算だろうが、国民の目を忘れている。

     

    (4)「大統領の30年来の友人を当選させるために政治工作をした罪で起訴された人物たちは、与党の推薦を受けて当選し、国会議員の金バッジを着けた。自身を捜査する検察を、逆に改革すると言って立ち上がる。そのような国で、大学のキャンパスに入って大統領を風刺する壁新聞を貼った若者は、建造物侵入罪で戸籍に赤線が引かれてしまった」

     

    文政権は進歩派の看板を掲げるが、やっていることは真逆の「退歩政権」である。すべて、自己保身という最も醜い姿をさらしている。このことに気付かず「闊歩」しているのは、マンガそのものに映るのだ。

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    政治的な選民意識の錯覚

    文氏は徴用工で妥協せず

    外交面で大きな打撃必至

    技術面で日本の「属国」

     

    韓国文政権は、実質的任期が今年いっぱいとなった。来年は、次期大統領候補選びなどの政治日程が前面に躍り出てくる。文大統領が、落ち着いて政治に取り組めるのは年内が限度であろう。

     

    文政権が、こうした差し迫った政治日程で最優先に選択したのは、北朝鮮問題であることがはっきりした。次のような人事を行なったからだ。

     

    国家情報院(韓国の情報機関 国情院)院長

    韓国大統領府・国家安保室長

    統一部(省に相当)長官

    この「三人の安全保障ライン」人事の特色は、「北朝鮮通」であることだ。金正恩氏に気に入って貰い、なんとか南北交渉を行ないたいという懇願の臭いが極めて強い。

     

    文大統領が、任期中に南北問題を「1ミリ」でも前に進めたい一方で、対日外交における最大課題の「旧徴用工賠償」は、何らの動きも見せずにいる。かねてから、外交部長官(外務大臣)は、交代の観測がいくたびか流れたものの留任のまま。外交陣一新による日韓関係打開の動きは、全く見られないのである。

     


    ここから文大統領は、日韓問題解決の意欲を失っているという憶測を呼んでいる。韓国は、8月4日以降になれば、旧徴用工賠償で差し押さえている日本企業の資産を売却可能とされている。韓国司法当局は、政府からの意向が示されなければ、売却に向けてゴーサインを出すに違いない。いったんゴーサインが出れば、日韓関係は修羅場になる。それを覚悟で混乱を生み、日本へ自動的な「報復行動」に走らせ、日韓関係を徹底的に対立させる。そういう構図を描いているのかも知れない。

     

    韓国は、国内で昨年7月以来の「反日不買運動」を引き起こさせ、それを南北交流ムードに引入れる戦略を練っているのかも知れない。韓国政治においては、日韓問題より南北交流促進の方が、政治的に大きな得点になると判断しているのであろう。韓国与党が、次期大統領選の戦略で、反日運動を活用しようと戦術を練っているとしても驚きはない。現在の与党は、総選挙で絶対多数の議席を得て、「100%の信任を得た」と錯覚しているからだ。

     

    政治的な選民意識の錯覚

    文政権のメンバーは、「純潔な政治的DNA」を持っていると錯覚しているようだ。韓国進歩派は、「選民意識」を持っているというのだ。具体的には、「86世代」である。1960年代に生まれ80年代に学生生活を送り、韓国民主化運動に参加した人たちを指している。彼らは、当時の軍事政権と火焔瓶で立ち向かい、現在の民主化された韓国をつくり上げた、と自己評価している。

     

    こうしたエリート意識に支えられて、文政権の政策はすべて正しい、としている。これに反対する野党やジャーナリズムは、「選民への反逆」と大真面目で思い込んでいるのだ。例えば、次の指摘が興味深い。

     

    「昨年のチョ国(チョ・グク)前法務部長官問題の時も同様だった。与党関係者の中心的人物は、『チョ国はそんな人間ではない』、『もともと善良な人間』と擁護した。私募ファンド投資や子の入試不正の証拠があちこちから出てきても同じだった。『我々の仲間がそのような悪人だと罵倒されるのは我慢できない』と言った」(『朝鮮日報』7月5日付コラム「『選民DNA』を持つがゆえに悪事を働けない」)

     

    このような独特の「仲間意識」は、韓国が「宗族社会」の遺制によって無意識に動かされている証拠でもある。前述の「選民DNA」論は、この宗族社会の存在を見事に言い表している。こんな例もある。

     

    朴槿惠・前大統領弾劾のデモでは、100万の人々が「ロウソク・デモ」に参加した。その際、トラブルが起こり裁判沙汰になった。同じデモ参加者の中でのいざこざである。裁判所は和解させようとしたが、被害者・加害者の双方が納得せずに争った。裁判官が機転を利かして、被害者の「姓」を聞いたところ、争っている二人の「姓」が同じと分かり、即座に和解したという。同じ「姓」は、同じ宗族の出身であるからだ。こういう「ウソ」のような「ホントウ」の話が、今も残っている。(つづく)

     

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    中国が、米国経済を打倒するという目標で掲げた「中国製造2025」は今、影を潜めている。米国を刺激しすぎたためだ。目標自体を撤回したわけでない。隙を見て、米国に一泡吹かせようという狙いは生きている。だが、実現は難しい。

     

    「中国製造2025」とは、2025年までに中国製造業の基盤を固めるというもの。核は、半導体の自給率を70%に引き揚げるとしている。現状では15%見当であり、2024年にせいぜい21%程度と見られている。目標から見て、余りにも落差がありすぎる。その原因は何か。次の寄稿がその一端を明かしている。

     

    『朝鮮日報』(7月5日付)は、「中国の半導体は今後も韓国に追い付けない」と題する寄稿を掲載した。筆者は、スカイレーク・インベストメント=陳大済(チン・デジェ)代表・元情報通信部長官である。

     

    「中国の製造2025戦略」は、2025年までに部品と中間材の70~80%を独自生産して供給し、35年には先進国を追い抜くという野心に満ちた計画だ。ここで中国が最も困難を感じている分野は半導体だ。

     

    (1)「中国の半導体は現在、自給率が20%台(注:20%以下)にとどまっている上、メモリー半導体はほとんど韓国に依存しており、技術格差も3~5年あるという。これを解消するため、中国政府は2014年に「半導体の大躍進」を宣言し、300兆ウォン(約26兆円)を投資しつつ、一気にサムスン電子に追い付くと宣言。巨大な国営企業を設立した。最近、最先端のメモリーを開発し、韓国の半導体事業を追い掛けているかのように言われているが、まだ量産体制が整っていないため、市場での存在感はさほど大きくない。中国はいつごろ韓国に追い付けるのか。筆者の経験を基に予測すると、「しばらくは無理」ということになる」

     

    半導体は、大規模投資の典型的産業である。市況変動が激しく、設備投資時期の判断を誤ると経営に重大な障害が出るビジネスである。だが、それは製造ノウハウを十分に習得しているという前提が必要だ。中国の半導体ビジネスには、製造ノウハウが足りないのだ。これが、致命的な欠陥になっている。

     


    (2)「サムスン電子がメモリー分野でトップに立ち、16メガのDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)世界市場で60%以上のシェアを占めていた1994年のことだった。当時、メモリー事業部長だった筆者に製品担当役員は「不可解な不良が出る」と言って、電子顕微鏡の写真を数枚見せてくれた。普段は不良品がほとんど出ない半導体基板(当時200ミリ)の中央で発生した欠陥だった。500の製造段階と50日以上にわたる工程期間のどこでどのような問題が発生し、こうした不良につながったのだろうか。全部署の幹部を集めて毎日会議に次ぐ会議を重ねた。1日に数百億ウォン(数十億円)の損失が発生し、目の前が真っ暗になった。製造プロセスを変更して結果が出るまでに1カ月もかかり、設計まで修正して完全に解決するのに約6カ月を費やした。それこそ超大型事件だった」

     

    サムスンは1994年当時、原因不明の不良品が発生した。500の製造段階と50日以上にわたる工程期間のどこでどのような問題が発生したのかの究明を迫られた。製造プロセスの欠陥を発見するまで1ヶ月。解決に約6ヶ月もかかった。こういうプロセスを経て、正常な半導体製品の生産再開にこぎ着けた。これが、製造ノウハウになるのだ。

     

    (3)「サムスン電子が世界トップと称されるメーカーになれたのは、このような危機的状況でデータを基に話し合いを重ね、協業する会社へと進化していったためだ。こうした段階まで進むのに10年近くかかった。サムスン電子だけではなく、SKハイニックスも数々の難関を乗り越え、グローバル市場へと躍り出た。サムスン電子が世界トップと称されるメーカーになれたのは、このような危機的状況でデータを基に話し合いを重ね、協業する会社へと進化していったためだ。こうした段階まで進むのに10年近くかかった。サムスン電子だけではなく、SKハイニックスも数々の難関を乗り越え、グローバル市場へと躍り出た

     

    製造過程で完璧な自信を持てるまでに10年近くかかったという。

    ここで一言したいのは、日本半導体が衰退した理由である。決して、技術力が劣った訳でない。

    1)1990年代の日米半導体協定で生産の枠をはめられた

    2)異常な円高で競争力を失った

    3)バブル経済崩壊で、日本企業の経営基盤が崩れ、大型投資ができなくなった

    以上の3点である。惜しいことをした。

     

    (4)「中国が膨大な資金を投資して果敢にも挑戦状を突き付けてきている。特に中国政府がこの野心を陣頭指揮しているとしても、こうした過程を素通りすることはできない。現在の中国の状況を見ると、半導体の生産工場と設備は整っているものの、これを支える組織文化とノウハウの水準は、まだまだ遠い道のりが残っているように見える。中国が韓国に追い付くには相当長い時間がかかるだろう、と見ている理由だ。ただし前提はある。あくまで韓国企業が超格差を維持するためにたゆみない努力を続け、走る人の足を引っ張らなければ、ということだ」

     

    中国が、半導体の大型投資を行なっても、製造ノウハウを身につけるにはそれなりの時間が必要である。「中国製造2025」を引っ込めざるを得ない理由でもある。

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