勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    日米首脳会談後、菅首相はファイザー社CEOとの電話会談で、ワクチンの増量入手を決めた。韓国が、これに強く刺激されている。憎い日本が、ファイザー・ワクチンの輸入増加に成功したので、韓国も引くに引けない立場のようである。

     

    米韓首脳会談は、5月下旬の開催予定である。外交部長官はその際、ワクチンと半導体のスワップ取引を米国へ提案するという。だが、米韓首脳会談のメインテーマは、インド太平洋戦略の安全保障問題である。韓国は、この肝心な点について曖昧にして、半導体・ワクチンのスワップ取引を持ち出せば、米国は驚くであろう。日米会談でも、ワクチン問題はテーマに上がっていなかった。

     


    韓国は半導体を取り上げているが、民間企業であるサムスンの領域である。サムスンの経営にまで介入することは越権行為なのだ。サムスンは、米国での設備投資について明確な意思を示さない限り、政府があれこれ話題にできないはず。それよりも、クアッド問題に対して、意思表示が必要である。話題をはぐらかしてはダメなのだ。

     

    『朝鮮日報』(4月22日付)は、「今急がれるのは韓米『半導体・ワクチン同盟』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「英経済誌『エコノミスト』(4月17日号)は、「米国のバイデン政権はより多くのコロナワクチンを確保するため、ワクチンの原料と製造設備の輸出を統制する国防生産法(DPA)を施行し、米国外でのワクチン生産が難しくなっている」と報じた。米国がワクチンにおいて自国優先主義に乗り出したことで、他国によるワクチン確保がさらに難しくなっているというのだ」

     

    現在の米国は、ワクチン輸出に向かって舵を切っている。中ロが、「ワクチン外交」を行なっていることから、米国も遅ればせながらワクチン輸出に取り組む。韓国は、こういう米国のワクチン外交について、ほとんど情報を掴んでいないようだ。

     


    (2)「米国が、このようにワクチンを戦略武器として取り扱い、ワクチンの物量確保に乗り出した結果、韓国におけるワクチン導入のスケジュールにも大きな支障が出ている。韓国政府は当初、今年9月までに全人口の60~70%にワクチン接種を終わらせ、11月までに集団免疫を獲得する計画だった。ところが、アストラゼネカとヤンセンのワクチンによる副作用、さらにはファイザーやモデルナのワクチン供給遅延によってその実現が難しくなることへの懸念が高まっている」

     

    米国では、ファイザーやモデルナが増産体制を取っているので早晩、過剰供給になる見込みだ。米国による「ワクチン外交」の展開を考えれば、「ワクチン・モンロー主義」に拘るはずはない。

     

    (3)「このような状況を突破するため、「米国のバイデン大統領が進める米国中心の半導体サプライチェーン構築に韓国企業が積極的に参加することへの見返りに、米国からワクチンの供給を受けるべきだ」との主張が産業界を中心に出始めている。「半導体・ワクチンの韓米同盟」を構築するということだ。昨年末から始まった半導体の供給不足は米国の主力産業である自動車工場をストップさせ、さらにはハイテク産業全般にその影響が広がりつつある」

     

    韓国は、「クアッド」についての議論が飛んでしまい、「ワクチン・半導体」スワップ取引に集中している。半導体・バッテリー・レアアース・医薬品の4種が戦略物資として取り上げられている。これは、「クアッド」の一環である。安全保障問題を素通りして、自国だけのメリット追及では、余りにも露骨な話になる。肝心の対中国の防衛戦略には加わらず、「ワクチン・半導体」議論をすれば、米国からピシャリとやられるだろう。相互の譲歩があって、初めて同盟が成立するのだ。

     


    (4)「バイデン大統領は今月12日、ホワイトハウスで米国国内への半導体投資を複数の企業に直接要求した。サムスン電子は、20兆ウォン(約1兆9300億円)規模を投資する米国半導体工場のライン増設を検討しているが、現時点で最終決定は出せていない。サムスン電子の半導体ライン増設は経済的な効果や産業全体への波及力、雇用増進などあらゆる面で韓国が米国に提示できる最高の交渉カードと評価されている」

     

    サムスンの経営トップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は現在、贈賄罪で収監中である。最近は、李氏を恩赦にして米国での半導体投資の指揮を執らせろという意見まで飛び交っている。ワクチン入手にまつわる話だ。仮に恩赦となれば、世界の物笑いの種となろう。

     

    (5)「盆唐ソウル大学病院のソ・ジョンソン碩座(せきざ)教授は、「米国が何の条件もなしにワクチンを提供することはあり得ない。そのため韓国が持つ最も強力な武器である半導体を積極的に活用すべきだ」とした上で「サムスン電子の李在鎔副会長のように、世界的なネットワークを持つ企業経営者が動いて米国への投資、米国企業に必要な半導体の優先供給を提案すれば、米国を動かせる可能性が高くなる」と主張した」

     

    韓国は、ワクチン入手のために大騒ぎである。インド太平洋戦略という重大なテーマについては、議論の俎上にも上げず目先の問題で右往左往している。これまでの、「中国詣」でから言えば、中国製ワクチン輸入が話題に上がってもいいはずである。だが、全くゼロである。代ってロシア製ワクチン輸入が議論されている。中国は、見限られているのだ。

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    ソウル中央地裁は21日、日本政府に賠償を請求した元慰安婦らの訴えを却下した。国家は外国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除の原則」を認め、1月にあった別の元慰安婦訴訟での判決とは正反対になった。

     

    韓国外交部は21日、この件について、「判決の詳細を確認しており、具体的な言及は差し控える」としながらも「被害者中心主義の原則に基づき、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するため政府はできる限りの努力を傾けていく」との方針を明らかにした。また、「日本政府が1993年の河野談話や2015年の韓日慰安婦合意などで表明した責任の痛感と謝罪、反省の精神に合致する動きを見せることを促す」と求めた。

     

    この外交部の日本への「注文」は見当違いである。ソウル地裁は、訴訟自体が国際法に違反していると断定しているもので、2015年の日韓慰安婦合意を骨抜きにした文政権の責任である。自らの責任放棄のもたらした案件を、日本政府の責任に擦り付けてはならない。

     


    『中央日報』(4月22日付)は、「慰安婦判決3カ月後に覆る、李容洙さん損害賠償訴訟で敗訴」と題する記事を掲載した。

     

    韓国裁判所が旧日本軍慰安婦被害者の2次損害賠償訴訟を却下し、原告敗訴の判決を下した。1月8日の1次賠償訴訟当時には原告勝訴の判決が出ていたが、それから3カ月で裁判所から正反対の判断が出された。裁判所は「国際慣習法や大法院(最高裁)の判例などによると、この事件で大韓民国の裁判所が日本国に対する裁判権を持っているとみることはできない」と明らかにした。「国際法上の国家免除」原則を認めたことで結論が変わった。

    (1)「訴訟の争点は「国家免除」を認めるかどうかだった。国家免除は主権国家間の平等原則に立ち、ある国は他の国の国内法に適用されないという国際法原則を指す。ただし、韓国は外国に対して国内裁判所の民事訴訟権の行使範囲を法律で決めたことはない。また、日本との間で国家免除に関連した条約等を締結したこともない。これについて裁判所は「国家免除を認めるかどうかの基準は専ら国際慣習法」と前提にした」

     

    「国家免除」を認めるかどうかは、国際慣習法に従うとしている。これが、正論である。その意味では、1月の判決は国際慣習法から逸脱したものだった。だが、3ヶ月の間に真逆の判決が出たことになる。

     


    (2)「慰安婦被害者側はこの事件で下記3つのことを理由として挙げ、国家免除が認められるべきではないと主張した。

    1)慰安婦に関連した日本国の行為は主権的行為としてみることができない強行規範(国際共同体維持のために必ず守られるべき規範)に反し、国家免除対象として認められない。

    2)仮に国家免除が認められて事件が却下された場合、被害女性のその後の権利救済手段である裁判請求権が消えて人間の尊厳性が侵害される。

    3)日本は外国に対する民事裁判権を法律で作って国家免除の例外を認めている点に照らして相互主義原則に反している」

    原告側は、上記3点において日本政府の責任を追及しようとした。とりわけ、2)の却下の場合、被害女性の権利救済手段がなくなると訴えた。この点について、裁判所は後述のように外交的かつ国内的手段によるべきと示唆している。

     


    (3)「韓国大法院は、「外国の主権的行為に対しては国家免除が認められ、司法的行為に対しては否定される」という制限的免除論を取っている。これを土台に、裁判所は「現在の慣習法は主権的行為に対して国家免除を認める制限的免除論が適用されるとみなければならない」と説明した」

     

    韓国大法院(最高裁)は、国家免除論を認めている。それにも関わらず、1月判決では国家免除論を適用しなかった。裁判官の心証しだいということか。

     

    (4)「裁判所は2015年朴槿恵(パク・クネ)政府当時に用意された韓日慰安婦合意に対する評価も判決に明示した。被害者は、当時締結された合意は被害者の意志を全く反映していないとし、権利救済手段とは認められないと主張してきた。裁判所は、韓国が加害国である日本に対して「外交的保護権」を行使したものだと認めた。また、合意には慰安婦被害者に対する日本政府次元の謝罪や反省が含まれていて、日本政府が資金を出して財団を設立し、財団を通じて被害回復のための具体的な事業を行う内容が盛り込まれたと判断した。裁判所は慰安婦合意に対して「日本政府次元の権利救済措置」とし「生存被害者のうち相当数が和解・癒し財団から現金を受領した」と根拠を説明した」

     

    裁判所は、日韓慰安婦合意の有効性を認めている。日本政府の謝罪が含まれていると認定しているのだ。日本政府の提供した資金10億円の半分近い金額が支給されたのは、日本の賠償を認めて受け取った証拠である。それにも関わらず、再度の賠償請求は「二重取り」である。提訴の資格はないのだ。

     

    (5)「当時、慰安婦合意が被害者の意見を取りまとめないなどの手続き上に問題があったが、これを裁量権の逸脱・乱用としてみることはできないといった。続いて「当時としては存命中の慰安婦被害者の数や年齢を考慮し、従来の立場を少し修正しても、できるだけ早く被害回復のための実質的な措置を用意しようとした」と評価した。裁判所は「大韓民国と日本の間の合意が現在も有効で、財団を通じて被害救済がなされた状況で国際法が国内法と合わないからと否定することは妥当だとみることはできない」と判決した」

    裁判所は、朴政権が日韓慰安婦合意を急いで締結した事情を認めている。これによって、文政権の骨抜きを批判していると見て良い。

     

    (6)「裁判所は、「韓日合意で被害者の損害賠償請求問題がすべて解決されたとはみないが、現時点で国際慣習法や大法院の判例によると、日本に対して損害賠償を請求するのは許容されない」と明確にした。続いて「慰安婦被害者の問題解決は、外交的交渉を含めて対内外的な努力で行わなければならない」とした」

    文政権への批判とも受け取れる。反日のために、日韓慰安婦合意を骨抜きにした責任は重大である。下線のように、文政権が背負うべき責任である。日本政府に対しては、何らの注文もない。全て解決済みであるからだ。

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    米韓首脳会談は5月下旬に開催される。日米首脳会談より1ヶ月も遅れる。これは、米国側の周到な戦略と見られる。日米首脳会談の共同声明を手本にして、韓国をどこまで引っ張りこむか、韓国に考えさせる時間を与えたと見られる。

     

    日米は、安全保障問題で一枚岩になって、中国の海洋進出へ対処しようとしているのに対して、韓国の関心は全く異なっている。北朝鮮の核・トリチウム放出問題・ワクチン確保というのだ。北朝鮮問題は当然、韓国最大のマターである。ただ、中国問題に付いての危機感は希薄である。トリチウム放出問題・ワクチン確保は、首脳会談のテーマでないはず。韓国の国際感覚は、完全にずれている。

     

    『中央日報』(4月21日付)は、「韓国野党議員『文大統領も日本のようにファイザー製ワクチン1億回分の確保を』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国野党議員が5月予定された韓米首脳会談を契機にして文大統領にワクチンの確保を求めた。

    (1)「20日、韓国国会で開かれた国民の力院内対策会議でキム・ソクギ議員は、「5月末、韓米首脳会談が開かれれば最も重要な課題がワクチンになると考える」とし、「日本首相は数日前、日米首脳会談が終わった後、現地でファイザーの最高経営者と協議して1億回分程度のファイザー製ワクチンを追加供給されると約束を受けたという。韓国大統領も今回米国に行って韓米首脳会談を行う契機にファイザー製ワクチンを日本のように1億回分程度を受けるように強く促す」と話した」

     

    ワクチン確保が、政治の大きな目的であるものの、米韓首脳会談の目的ではなかろう。日米首脳会談でも取り上げられず、テーマは中国の海洋進出に絞られていた。韓国のこういう姿勢から見ると、日米関係と米韓関係は全く次元が異なっていることを実感させる。これでは、バイデン氏が、文氏との会談を遅らせたくなるだろう。

     

    米国の狙いは別である。米韓首脳会談で、正式にインド太平洋戦略の「クアッド」加盟の返事をもらうことだ。

     

    (2)「国民の力の朱豪英(チュ・ホヨン)党代表権限代行は、「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が(来月)韓米首脳会談でワクチン外交の大きな成果を持ってくることを期待する」として「ワクチンの確保が最も重要な議題になるべきで、事前に徹底的に交渉と準備されるべきだ」と話した。また、「われわれの外交指標。外交力成績表は今回の韓米首脳会談でわれわれが良いワクチンをどれぐらい多く確保するかにかかっていると思い、多くの国民もその点に大きな期待を寄せている」とし「ワクチンは国ごとに自国国民の生命、安全、経済がかかっている最高の戦略物資だ。訪米前に両国間信頼回復のためにも尽力をつくすべきだ」と強調した」

    韓国野党は、ワクチン確保を前面に掲げている。だが、米国におけるワクチン供給は間もなく過剰になる。輸出解禁に踏み切っている事情を知らないのだ。米国が本格的な「ワクチン外交」に乗出すのだ。

     

    (3)「一方、文在寅大統領は19日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)で開かれた首席補佐官会議で韓米首脳会談に関連して「経済協力とコロナ対応、ワクチン協力など両国間懸案に緊密な連携のために心血を注ぐ」と話した」

     

    文氏の頭に、米国からクアッドへ正式加入を迫られることの準備はなさそう。今回は、もはや曖昧な返事で逃げられまい。文氏は、中国へお世辞をたっぷりと言っているが、バイデン氏から「本心」を聞かれるはず。ワクチンレベルの話でないのだ。

     


    『中央日報』(4月19日付)は、「文大統領の訪米に落ちる菅首相の影 ワクチン・北核・汚染水『難題山積』」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「青瓦台(チョンワデ、大統領府)は「行政的・外交的力を総動員してワクチン物量を確保する」(今月16日韓米首脳会談関連会見)という立場だが、結局カギは米国の対中国けん制など全般的な外交戦略に韓国がどれくらい呼応するかにかかっているとの分析だ。国立外交院のキム・ヒョンウク教授は「菅首相が訪米中に(ワクチン確保などの)成果をあげることができたのは、中国けん制に非常に積極的に協力したため」と話した。韓国が日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)安保協議体問題などに対して、以前よりも協力する余地を示すなら、ワクチン問題などでも成果を得る可能性も高めることができるという趣旨だ」

    下線部は、中国けん制という外交安保の基本問題とワクチン確保という短期的問題を混同した議論である。韓国は、この程度の認識で安全保障問題を捉えているとすれば驚くほかない。日韓関係も、こういう低レベルの認識とすれば、韓国をまともな外交相手にする気持ちになるまい。茂木外相が、韓国の鄭外交部長官と電話をしたくない気持ちが分かるのだ。

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    文大統領は、5月下旬にはバイデン米大統領と会談する身である。米中対立の現状と米韓同盟を考えれば、中国べったりの挨拶を送るのを躊躇するはずだ。文氏には、そういう外交的な常識が通じないようである。かつての学生運動家の乗りで、「中国絶賛」演説をした。中国の同盟国と間違われるほどだ。

     

    『中央日報』(4月20日付)は、「文大統領、習主席に『アジアの役割』 米国が懸念する発言を連発」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が20日、「開発途上国に対するワクチン寄付など多様なコロナ支援活動をしている中国政府の努力を高く評価する」と述べた。この日、オンライン会議形式に開催された博鰲(ボアオ)アジアフォーラムに送った映像メッセージである。



    (1)「博鰲フォーラムは中国が主導する「アジア版ダボスフォーラム」と呼ばれる。コロナ状況を勘案して非対面で進行された今年のフォーラムの主題は「グローバル大変化」だ。副題は「グローバルガバナンスと一帯一路協力の強化」。一帯一路は中国の習近平国家主席が提示した中国中心の国際秩序再編計画を意味する。しかし、青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)がこの日に公開した報道資料に、「一帯一路」の明記されたフォーラムの副題は抜けていた」

    中国の主宰する「一帯一路」は、弱小国を債務漬けにするとして、不評を買っているプロジェクトである。米国は、もっと公平性のあるプロジェクトを日本などと推進する方針である。文大統領が、こういうライバル関係の「一帯一路」へ祝辞を送るとは、同盟国として配慮が足りない。

     


    (2)「文大統領はこの日の映像メッセージで「アジアの役割」を強調した。文大統領は「アジア諸国は博鰲フォーラムを通じてお互いの違いを認め、共同の利益を追求する求同存異の精神を実践してきた」とし「求同存異は包容と共存の道であり、人類共同の危機であるコロナを克服するうえでも重要な価値であり原則だ」と述べた。「求同存異」は習主席の外交政策を説明する代表的な四字熟語だ」

     

    習氏が使う同じフレーズで、中国へ祝辞を送るのは、明らかに中国へ秋波を送るものだ。米国が、これをどう評価するかという配慮が欠如している。

     

    だが、この「両睨み外交」を推奨する意見がある。文正仁(ムン・ジェイン)前大統領特別補佐官である。「韓国政府の外交安保政策の目標は、戦争を予防し、朝鮮半島非核化の実現を通じて平和を強固なものにすることであり、そのために米国との同盟を堅固にし、中国との戦略的な協力パートナー関係を維持するということだ」(『ハンギョレ新聞』4月20日付)としている。

     


    この見方は、米中対立が激化していないころの話である。対立が激化している現在、韓国は同盟国としての「義務履行」を迫られて当然であろう。それを忌避したいならば、同盟は形式的なものに終わるはずだ。韓国が、米同盟国の「外様」に陥落している現状を知らないのであろう。

     

    (3)「文大統領、は習主席に感謝の意を表した後、貿易問題、コロナ対応、炭素ゼロ、新技術問題などに言及した。このうち貿易と半導体の供給再編など経済問題は、現在、米中間で戦争をほうふつさせる摩擦が生じているイシューだ。文大統領はまず貿易について「包容性が強化された多国間主義協力になるべき」とし「昨年締結した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を通じて域内経済協力のペースを速め、多国間主義に対する信頼の回復と自由貿易の発展が実現することを望む」と述べた。文大統領は昨年11月、中国が主導したRCEP加入に署名した状態だ」

     

    韓国が、ここまでRCEPを褒めるならば、TPP(環太平洋経済連携協定)へ参加申し込みをしなくても良いはずである。そうでないから、TPPへ参加を熱望しているのであろう。お世辞も度が過ぎれば嫌みになる。

     


    (4)「文大統領は、米中紛争の核心に浮上した半導体には直接言及しなかった。ただ、「新技術と革新ガバナンス協力で未来を準備すべき」と話した。また、「グローバルバリューチェーンが再編され、生産・供給システムのデジタル化が速くなり、技術発展と革新に対する要求がさらに大きくなっている」とし「アジア国家間の協力が強化されれば、未来を先導して危機に対応するのにも重要な役割をするはず」と述べた」

     

    この部分は、米中対立の焦点の一つである。中国が、韓国に対して半導体・バッテリー・レアアース・医薬品の戦略技術を「寄こせ」と言ってきたならば、どう対応する積もりなのか。いくら韓国でも、中国へ渡すとは思えない。となれば、こういう微妙な問題をスルーするのが賢明なのだ。「寝ている子を起こす」に等しい愚行である。

     

    (5)「文大統領は、需給をめぐる論争があるコロナワクチンに関しても、「アジアから共同対応をすべきだ」と主張した。文大統領は開発途上国に対するワクチン支援をしている中国を「高く評価する」とし「韓国も公平なワクチン供給、円滑な人材移動、果敢な財政投資などコロナ克服のための協力をより一層強化していく」と話した」

     

    韓国は二枚舌である。中国のワクチンを導入しないからだ。品質に問題があって採用を忌避している韓国が、こういうお世辞を言うのは今後、問題を起こさないだろうか。中国に付け入る余地を与えるのだ。 

     

     

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    韓国地裁は今年1月、旧慰安婦賠償をめぐって日本政府へ賠償支払い判決を下した。これにより、原告側は日本政府の資産差押えを地裁に申し立てていたが、このほど、ソウル中央地裁が、差押え手続きが「国際法違反の恐れがある」と通告した。毎日新聞が報じた。

     

    日本政府は、旧慰安婦賠償支払い判決に対して、2015年の日韓慰安婦合意で支払い済みであるとして拒否。さらに、「主権免除」という国際法に違反すると、韓国政府へ抗議してきた案件である。

     

    『毎日新聞 電子版』(4月20日付)は、「慰安婦訴訟 ソウル中央地裁、原告側に日本資産差し押さえの懸念指摘」と題する記事を掲載した。

     

    韓国のソウル中央地裁が日本政府に対し元慰安婦の女性への賠償を命じた第1次訴訟の確定判決と関連し、同地裁が訴訟費用確保のために韓国内の日本政府資産を差し押さえるのは「国際法に違反する恐れがある」と指摘し、執行されれば「憲法における国家安保、秩序の維持や公共の福祉と相反する」と懸念を示した。同地裁が原告側に通知した「決定文」を毎日新聞が入手した。

     


    (1)「決定文は、賠償に応じない日本政府への強制執行に韓国司法が慎重な見解を示し、事実上のブレーキをかけたと言える。1月の第1次訴訟判決は、元慰安婦の女性ら12人に対し、1人あたり1億ウォン(約970万円)の賠償を命じた。日本政府は「主権国家は、他国の裁判所に裁かれない」という国際法上の「主権免除」の原則に反するとの立場から訴訟に関与せず、控訴しないまま判決は確定した」

     

    「主権免除」が、国際法によって認められている。韓国では、慰安婦問題という人権に関わる問題であるので、「主権免除」に該当しないという説を唱える向きもあった。ただ、最終的には、国際司法裁判所の判断を仰がなければならないだけに、韓国側に慎重論も多く議論は割れていた。

     

    (2)「決定文は3月29日付で、判決を下した地裁判事とは別の判事が職権で出した。決定文は、賠償に充てるための日本政府資産の差し押さえについては言及していないが、強制執行手続きを進めることに対し国際法上の懸念を明確にしたことで、賠償手続きでも強制執行は難しい見通しとなった。決定文は、強制執行の手続きに関する主権免除について判断した。条約法に関するウィーン条約には「(国家間で交わした)条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を用いてはならない」とあり、この国内法には判決も含まれると指摘。「条約が国内的に違憲であろうと」順守する義務があるとの見解を示した

     

    下線部が重要である。条約の不履行は、国内法で違憲でも正当化できないとしている。ここまで指摘されると、文政権はグーの音も出ないだろう。

     


    (3)「日韓間の守るべき条約として、1965年の日韓請求権協定や、2015年の日韓合意を例示し、日本が10億円を拠出した「和解・癒し財団」から元慰安婦らが現金を受け取った経緯から「今回の訴訟に関して差し押さえなどの強制執行を行うことは、(原告の)権利乱用にあたる」とした。そのうえで実際に差し押さえなどが行われた場合、「我が国の司法の信頼を阻害するなどの重大な結果をもたらす」と懸念を示した。原告側は判決後に差し押さえられる財産を探したが見つからなかったとして、今月13日に裁判所を通じて財産を探す手続きに踏み切った。21日には、別の慰安婦らが日本政府に賠償を求めた2次訴訟の判決も予定されている」

     

    原告の過半は、日本が10億円を拠出した「和解・癒し財団」から現金を受け取っている。それにも関わらず再度、日本政府から賠償金を取り立てようというのは、職権乱用と厳しく批判している。賠償金の二重取りであるからだ。

     


    この一審判決が出たのは今年1月8日である。韓国紙『朝鮮日報』(1月9日付)は、「一国の裁判所が他国に賠償判決、国際司法裁判所の判例とは合わず」と題する記事を掲載した。

     

    ソウル中央地裁が8日、慰安婦被害者に対する日本の国家賠償責任を認めたのは「主権免除(国家免除)論」を排除した結果だった。「主権免除」とは、一国の裁判所が他国の主権行為を裁くことはできないというもの。

     

    (4)「裁判部は、「主権免除」は不変の価値ではないとみなした。裁判部は「韓国憲法27条1項、国連人権宣言などでも(被害者が)裁判を受ける権利を宣言している」とし、「反人権的行為に対し国家免除(主権免除)を適用したら請求権がはく奪され、被害者は救済を受けられない」と判示した」

     

    「主権免除」によって、一国裁判所は他国政府を裁くことはできないという国際司法裁判所の判例がある。韓国地裁は、この判例から逸脱した判決を出した。韓国特有の「国民情緒法」なるムード裁判の判決である。旧徴用工判決もこの類いである。



    (5)「こうした論理は、一部の国際法研究者らも受け入れている。イタリア最高裁は2004年、第2次世界大戦当時ドイツで強制労働させられたルイキ・フェリーニさんがドイツ政府を相手取って起こしたいわゆる「フェリーニ訴訟」で自国の裁判管轄権を認め、原告勝訴の判決を下したからだ。しかし相当数の国際法の専門家らは、今回の判決は国際司法裁判所(ICJ)の判例とは合わないとした。ドイツが「フェリーニ裁判」を巡ってイタリアを提訴すると、2012年にICJは「主権免除は武力衝突の状況で一国の武装兵力が相手国の国民の生命・健康・財産などを侵害するケースにも適用される」としてドイツの肩を持った」

     

    韓国でも専門家の意見では、大多数が今回の判決が「主権免除」と異なっていると指摘している。その例が次のケースである。イタリアで起こされたドイツ政府に対する「フェリーニ訴訟判決」は、ドイツ政府が不服としてICJに提訴し、ドイツの勝訴になっている。韓国地裁が、このICJ判例から見ても逸脱した判決であることは疑いない。

     

     

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