韓国は、先の米韓外交・防衛「2+2会議」でクアッド参加を内示している証拠に、米韓共同声明において、米韓同盟の範囲が「朝鮮半島とインド太平洋地域の平和、安保、繁栄の核心軸」と定義した。これまでの米韓同盟の範囲である朝鮮半島に、インド太平洋地域が加わっている以上、韓国が一歩外へ踏み出していることは間違いない。
ただ、文政権がこれまで「二股外交」を行なってきた手前、掌返しができずに沈黙しているのであろう。中国とロシアは、韓国のこの微妙な立ち位置を理解せず、韓国がクアッドと無関係な存在とみているようだ。
『朝鮮日報』(3月23日付)は、「香港紙、韓国が日本より中国に融和的『経済を前面に出して韓中関係を改善すべき』」と題する記事を掲載した。
香港紙『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)は3月22日、中国が韓国と良い関係を維持する必要が高まったと報じた。
(1)「韓国と日本が最近、それぞれ米国との間で開催した高官級協議「2+2」で中国に対して異なるアプローチを示したことが、このような主張の根拠になっている。これに関連し、SCMPは「日本は強硬な立場だったが、韓国は(米中間の)力の対決の間に挟まれるのを避けようと努力し、やや融和的な立場を示した」と分析した。協議の後の米日共同声明では、中国が国際秩序に合致しない行動を取っていると批判したが、韓米共同声明では国際秩序に関する部分で「中国」が明記されなかったというわけだ」
日米共同声明と米韓共同声明では、世界情勢に与える影響度が全く異なっている。日米は、尖閣諸島や台湾の防衛で大きな関わりを持っている。米韓では、朝鮮半島の38度線防衛が当面の課題である。このように地政学的な重要性が異なる以上、米国の力の入れ方は違ってくるはずだ。
文政権は、これまでの行きがかりで中国との関係を保ってきた。トランプ政権もそれを認めてきた経緯がある。バイデン政権に変わって、米同盟国は価値外交で足並みを揃える状況になった以上、韓国へ外交路線切り替えの時間的ゆとりを与えていると見るべきだろう。
(2)「中国の遼寧大学変革国家経済政治研究センターの李家成・先任研究員は、SCMPとのインタビューで、韓国は日本と異なり、中国との領土紛争がなく、中国に対抗して米国側につくことには(日本より)慎重だったと主張した。さらに「韓国は中国が北朝鮮核問題の解決を支援することを望んでおり、経済的にも依存している」として、「一方で、米日共同声明を見ると、今後中国と日本の関係の展望が肯定的ではなく、両国関係は徐々に悪化するだろう」との見方を示した」
韓国には、米韓同盟という厳粛な安全保障条約が存在する以上、いまさらこれを反古にして中朝へ接近できるはずがない。もしそうするならば、国民の意思を問うべきであり、文政権が一存でできる話でない。最終的には、現存する米韓相互防衛条約に縛られるものだ。
(3)「華南理工大学のグオ・ハイ研究員は、米日の安全保障同盟は徐々に強まる見通しで、中国に対する日本の認識が変わるとは思えないとの見方を示した上で「中国は韓国との関係を強化する必要がある」と強調した。復旦大学の宋魯鄭研究員は、中国は独島(日本名:竹島)をめぐる韓日間の領土紛争を利用し、主に経済的手段を用いて韓国との関係改善を図る必要性が高いと明らかにした。ただし宋研究員は「韓中関係は、中国がどれだけ多くの政策的手段を有しているかにかかっている」として「現在、経済と貿易以外に、中国には韓国を活用する手段が多くない」と指摘した」
中国は、韓国と経済的な関係を強めて中韓関係の強化を狙っている。だが、米中デカップリングの進行によって、中国は米国市場からしだいに閉出されて行くはずだ。そうなれば、中国経済は規模縮小を迫られる。韓国は、そういう中国に経済的な魅力を感じなくなる。米中デカップリングは、米国のTPP(環太平洋経済連携協定)復帰が実現すれば、中国締出しが明確になるはずだ。
『朝鮮日報』(3月23日付)は、「ロシア外相がインド太平洋戦略を批判、韓国の参加を警戒」と題する記事を掲載した。
ロシアのラブロフ外相が中国けん制を念頭に置いた米国のインド太平洋戦略を強く批判し、韓国の参加を警戒した。
(4)「ラブロフ氏は23日の韓国訪問を前に、モスクワで19日(現地時間)に行った韓国特派員とのオンラインインタビューで、今回の訪問での韓国側との会談の主要議題に関する質問に対し「アジア太平洋地域で、韓国はロシアの非常に重要で展望あるパートナーだ。アジア太平洋地域の問題も協議する」と答えた。現在、アジア太平洋地域を再編しようとする試みがあり、インド太平洋地域という用語が導入されたとした上で、「この過程の意味は非常に憂慮される」と指摘した。東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした構造に対峙(たいじ)する何かを作ろうとする試みが行われていると述べ、否定的な立場を示した」
朝鮮李朝末期の外交は、日本・中国・ロシアの三派に分かれて争っていた。現在再び、これら三国に加え米国が韓国外交の帰趨に大きな関わりを持ち始めている。歴史の皮肉を感じるほかない。当時は、価値外交という理念はなかった。現在は、民主主議という大きな枠が掛っている。このことに重点を置けば、結論は自然に出るはずである。
中露が、韓国を味方につけようとしているのは、「合従連衡」という策略に他ならない。韓国を「弱い輪」と見てここへ手を突っ込めば、米国の同盟を崩せると読んでいる結果である。韓国は、節操のない国と見られているのだ。