勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 韓国経済ニュース時評

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    米中対立の長期化を見越して、日本企業は「脱中国」で国内帰還(リショアリング)に積極的である。生産コスト面で国内生産が遜色ないことも後押ししている。片や、韓国企業の「脱中国」は消極的である。「労働貴族」と言われる戦闘的労組と、週52時間労働制がもたらす賃金コスト増を恐れている結果だ。

     

    この日韓企業の象徴的な動きは、それぞれの国内事情を表わしている。日本は、規制撤廃で柔軟な生産構造に転換している。韓国は、文政権になって一層硬直化しており、世界の動きと逆である。これでは、海外へ出た企業の国内帰還は難しいであろう。

     

    『韓国経済新聞』(9月10日付)は、「リショアリング補助金競争率11倍、日本企業『中国エクソダス』加速」と題する記事を掲載した。

     

    中国の生産工場を自国に移転しようとする日本企業が急増し、政府補助金を得るための競争率が11倍まで急増した。政府がインセンティブを強化しリショアリング(海外に進出した企業を自国に戻るよう誘導)政策を展開しても企業がなかなか呼応しない韓国とは対照的だ。



    (1)「9月9日の『日本経済新聞』によると、日本政府が7月末まで生産拠点移転費用の支援対象を公募した結果、1670件・1兆7650億円規模の申請が集まった。これは1600億円の支援予算の11倍に達する。日本政府は新型コロナウイルス流行を契機に中国依存度を低くするため、中国に集中する生産工場を自国に戻すサプライチェーン再編政策を施行している。中国の生産工場の稼動が止まると、日本では深刻なマスクと医療装備の不足が起き、高い中国依存度の問題点が浮上したためだ」

     

    日本政府によるリショアリング事業で、支援予算の11倍もの規模の申し込みがあった。日本企業は、米中対立の長期化という国際情勢の変化を的確に見抜いて行動していることが分る。1990年代からの急速な円高で、国内企業は一斉に生産拠点の海外移転を図った。今回は20年ぶりの情勢変化で敏感に動いている。一波が万波を呼ぶで、日本企業のリショアリングは進むであろう。

     

    (2)「日本政府は4月に発表した新型コロナウイルス経済対策にサプライチェーン再編政策を盛り込み2200億円の予算を配分した。中国依存度が特に高いマスクと医療用手袋、医薬品生産工場を中心に150億円を限度に移転費用の一部を支援している。上半期に574億円規模で実施した1次公募の時だけでも申請件数は90件、申請金額は996億円で競争率は2倍水準にとどまった。下半期に入り企業のリショアリング需要が急増したのは新型コロナウイルスの長期化と米中対立激化で安定したサプライチェーン確保の重要性が大きくなったためだと同紙は分析した。支援対象に選ばれたある中小企業は、「補助金がなくても国内生産は決めていた」とした」

     

    生産コスト面だけで中国へ進出した日本企業は、生産システムの合理化で、日中の差が縮小していることもリショアリングの背中を押している。「メード・イン・ジャパン」の持つ国際的な高い評価も魅力であろう。

     

    (3)「日本の雰囲気はサプライチェーン再編政策がこれといった成果を出すことができない韓国とは対照的だ。『フィナンシャル・タイムズ』はこの日、中国とベトナムに生産工場を持つ韓国の中小企業200社のうち韓国に復帰する意向がある企業は8%にすぎないという中小企業中央会の最近の調査結果を引用し、「多くの韓国企業は高い賃金格差と輸出市場へのアクセス性、韓国の労働者保護規制を理由に生産拠点移転に消極的」と指摘した」

     

    韓国中小企業で、中国とベトナムに生産工場を持つ200社のうち、韓国へ帰還したい企業は8%しかなかったという。韓国政府は、リショアリングを呼びかけているが、反応はこのようにいたって鈍い。理由は、文政権の高い労働者保護規制である。

     

    この高い労働規制が、韓国の若者の失業率を高めるという皮肉な結果をもたらしている。韓国における若年層(15~29歳)の失業率は昨年8.9%で、2009年の8.0%に比べて0.9ポイント上昇している。この期間におけるOECD平均は、14.9%から10.5%へと4.4ポイントも下落していた。韓国の動きは、世界と逆行している。文政権が労組の言うままに動き、最低賃金の大幅引き上げを行った反作用の結果である。最低賃金引き上げも、労働市場の需給実態を見ながら行うべきことを教えている。

     

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    安倍後も変わらない日本を認識

    韓国の生きる道は妥協しかない

    国際感覚に疎い86世代の限界

    文正仁特別補佐官は転向した?

    日本の「技術属国」に変わらず

     

    韓国が外交面で揺れている。行き詰まった日韓関係打開の手がかりがないからだ。一方で、米中対立は冷戦と呼んで差し支えない状況である。韓国は、これまでの二股外交で「経済は中国、安保は米国」という、二刀流がしだいに難しくなってきた。中国か、米国かと二者択一を迫られる時期は、刻々と迫っている。この認識が、韓国大統領府の一部に出始めた印象である。それは、韓国報道を細大漏らさずチェックしていると、微妙な「化学変化」に気付くのである。

     

    安倍晋三首相が突然、健康を理由に辞意を表明した。韓国では、安倍首相が退陣すれば日韓関係に雪解けが始まる。そういう期待報道が現れた。以下の記事が、その典型例である。

     

    「病気で退く安倍首相には申し訳ないことですが、我々には良い機会です。日本との外交関係を改善できる糸口になるかもしれないからです。安倍首相は実際、わが国には最悪の首相でした。(だから)日本との外交関係を改善できる糸口になるかもしれないからです」

     

    「安倍首相は、日本国内の保守世論と新冷戦という国際情勢の変化を背負っていました。それでも後任の首相は、安倍首相のように強硬派ではないでしょう。今から準備して先に手を差し出さなければいけません。日本は、失われた20年といわれますが、まだ経済大国です。経済から解決すればよいはずです。歴史は最後に解決しても…」 以上は、『中央日報』(8月29日付コラム)だ。



    安倍後も変わらない日本を認識

    この安倍辞任後への期待論は、間もなく大きく変わった。「第二、第三の安倍が登場する」との認識になってきた。

     

    「何よりも日本社会全般の雰囲気が変化した点をわれわれは冷静に認識しなければならない。そのため安倍氏が退いても、第2、第3の安倍氏が登場するよりほかはない。それが今の日本政界の現実で、社会全般の雰囲気だ。いわゆる、『主流の交代』が不動のものとして実現する。日本と戦って最後までいこうが、話し合いで問題を解決して和解しようが、一応このような日本国内の事情を正確に把握しておくことが必要だ」

    「もう一つ深刻な問題は、日本国内で親韓派が消滅直前になった点だ。たとえ残っていたとしても、自分の主張をするのが難しい雰囲気だ。これは日本のせいばかりにするのはなく、韓国側にも問題がないかどうか振り返らなくてはならないことだ。親韓でも反韓でもなかったが、最近になり確実な反韓に立場を固めた人も珍しくない。次期首相として有力な菅義偉官房長官もそのような部類に属すると考える。昨年、東京で会った政界消息筋によると、菅氏は自身の作品といえる慰安婦合意を文在寅政府が、事実上覆したことに対して反感と失望を私席で表したことがあるという」 以上は、『中央日報』(9月8日付コラム)が報じた。

     

    韓国の論調が、短期間にこれまでの日本批判一点張りから、「韓国原因論」に触れるようになっている。日本が、絶対に韓国と妥協しないと考えるようになった結果だ。日本全体で、嫌韓ムードが高まっているのである。

     


    日本経済新聞が昨年10~11月に実施した全国18歳以上の男女を対象にした郵便アンケート調査で、国・地域に対する友好意識を確認した結果、韓国に対しては回答者の66%が「嫌い」と答えた。前年調査では、61%であったから1年間で5%ポイントも増えた計算である。

     

    前記調査で昨年の「嫌い」国のトップは、北朝鮮(82%)、中国(71%)が1位と2位を占めている。韓国が、これら諸国に次いで「嫌いな国・地域」で3位だ。北方領土問題を抱えるロシアは、嫌いな国・地域で53%になり4位に下がった。韓国が、「嫌いな国トップ3」であることは、安倍首相の存在に原因があるという感情論を超えている。日本人全体が、強い「嫌韓」意識を抱いていることを示めしているのだ。

    一方で、日本に深く染み込んでいる「韓流」が、両国国民の文化的距離を縮めてくれるのでは、という楽観論も聞かれる。だが、「韓流」で日本社会が融和に向かうとの期待は過剰であろう。日本にとって韓国が、物珍しかったのは20年前の話である。(つづく)

     

     

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    「韓国大統領文在寅氏を逮捕せよ」という物騒な署名が、米ホワイトハウスの請願サイトで85万人弱(9月7日現在)の同意を集めているという。むろん、断トツである。この騒ぎは、文大統領が米国へ新型コロナウイルスをまき散らしたことと、米韓同盟の利益に反した行動を取っていることだという。米国で、文氏がこれだけの不人気とは驚きである。

     

    『朝鮮日報』(9月9日付)は、「『同盟を危機に陥れた文在寅を逮捕せよ請願、米政府サイトで圧倒的1位』と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスの請願ウェブサイトで、韓米同盟を危機に陥れた文在寅(ムン・ジェイン)大統領の逮捕を求める請願が圧倒的1位になっていることが分かった。

     

    (1)「ホワイトハウスの請願サイト「ウィー・ザ・ピープル」によると、今年4月23日に書き込まれた「米国に新型コロナウイルスをまき散らし韓米同盟を脅かす文在寅を逮捕せよ」と題する請願には84万9692人(9日午前11時現在)が署名した。掲示から4か月が過ぎたが、署名が続いているとみられる。この請願はユーチューブ(動画共有サイト)上の保守性向のチャンネル「太平TV」を運営するキム・イルソン元漢陽大兼任教授が書き込んだものと把握されている」

     

    韓国人がこの請願を書き込んだという。自国民が、外国で自国大統領を逮捕せよと請願する神経はどんなものか。先ず、極端な感情論に支配された行動であることは間違いない。ただ、米韓同盟を危機に陥れるような行動があることは事実だ。安全保障という国家の根幹に関わる部分で米国の庇護にありながら、米国の敵対国中国へ秋波を送る行動は不可解である。文氏は、これが「国益第一外交」と嘯(うそぶ)いているが、節操のない振る舞いだ。

     

    こういう無節操な外交姿勢は、米中双方から韓国が軽く見られる原因である。中国も本心は、「韓国の尻軽」とみて軽蔑しているはずだ。中国にとって韓国は「都合のいい国」に過ぎない。毛沢東は、米国の進歩派よりも保守派の政治家を尊敬していたという。理由は、実行力である。習近平氏は、韓国に対して進歩派を軽んじているであろう。文政権は、その罠にまんまと引っかかっているのだ。

     


    (2)「米国内の主要な懸案ではなく、外国の政治に関する事案が請願で1位になるのは異例のことだ。現在、ホワイトハウスの請願サイトの主な内容は次のようなものだ。

    ・ビル&メリンダ・ゲイツ財団に対する捜査(2位、65万4407人)

    ・警察の銃撃で死亡した黒人ジョージ・フロイド事件に対する真相究明(6位、44万2456人)

    ・ナンシー・ペロシ下院議長の弾劾(7位、40万1113人)-など、米国内の政治懸案がほとんどだ」

     

    上記の通りホワイトハウスの請願サイトでは、米国で極めて緊急性の高い問題がランキングされている。文大統領逮捕請求請願が、これらを上回って断トツであることに、組織的は「反文在寅」の動きが見て取れる。あるいは、米国人でも文氏の行動に反感を持っている人たちが、大挙して賛成票を入れているのかも知れない。要は、米韓同盟がギクシャクしていることを反映したものだ。韓国政府は、この不名誉は一件を深く反省すべきであろう。

     

    (3)「1か月以内に10万人以上が署名に参加すれば、60日以内にホワイトハウスから公式な回答がもらえるが、外国の政治懸案であるため、今回の請願について、ホワイトハウスは特に回答を出さないと伝えられている。今年4月18日にも「韓国の選挙が与党によって操作された」との請願があり、10万人以上が賛同したが、ホワイトハウスは公式の回答を出さなかった」

     

    米国政府は、外国の事案であるから回答しないという。当然である。ホワイトハウスが、公式見解を述べたら国際問題に発展する。ただ、韓国が米韓同盟を揺るがしていることは間違いない。米国政府は、内心で「同意」であろう。

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    韓国文政権の閣僚不祥事が、大きな問題になっている。秋美愛(チュ・ミエ)法務長官は息子の徴兵中、休暇後の帰隊遅れ4日間をカムフラージュするべく、部隊の上官を動かした疑惑が表面化して騒ぎが大きくなっている。一般兵では、帰隊が17分遅れたことを理由に「懲役刑」を科されていることと比べ、余りの不公平な扱いに韓国社会の注目を集めている。

     

    秋美愛法務部長官の息子ソ氏(27)は陸軍カチューシャ(在韓米軍内服務)一等兵だった2017年6月5日から23日まで病気休暇を取った後、部隊に復帰せずに釈然としない理由で4日間の個人年次休暇をさらに取り、「母親の影響力を利用した軍休暇未復帰」疑惑が降ってわいた。ソ氏は翌年8月に特に問題なく満期除隊した。

     

    ところが、この事件が起きた2017年に休暇を取った後、復帰しなかった一般兵士の多くは軍刑法上の軍務離脱罪を適用され、有罪を言い渡されていたことが分かった。このため、兵士たちの間からは「法務部長官の息子は未復帰でも除隊でき、土のスプーン(庶民)の子は未復帰なら監獄に行く」という声が上がっている。以上は、『朝鮮日報』(9月8日付)が報じた、

     

    秋法務長官は、元「共に民主党」代表を努めた人物である。前記の件は、与党代表時代に起こっている。政治権力を背景に軍部上層部に手を回して、息子の「帰隊遅れ」をもみ消したと疑われているのだ。また、平昌冬季五輪の際、息子を韓国軍通訳兵として派遣するよう圧力をかけた疑いも持たれている。この一件は、部隊上官による「有資格者の抽選制」で上層部からの圧力をかわしたことも判明。秋氏の間違った「母性愛」が、公使混同を招いたと批判の的になっている。

     

    『朝鮮日報』(9月9日付)は、「憤激する韓国20~30代『カネがなくバックもなければ前線で家畜のように苦労』」と題する記事を掲載した。

     

    秋美愛(チュ・ミエ)法相の息子の「軍服務特別待遇」疑惑を巡り、20~30代の若者らの怒りが沸き立っている。秋長官の息子が韓国軍で服務していたころに受けたという特別待遇疑惑が一つ、二つと加わるにつれ、軍服務を最近終えた年齢層からの批判がとりわけ強く出ているのだ。

     

    (1)「秋長官の息子の特別待遇疑惑に関する記事には、数百件から数千件のコメントが付いた。大部分は秋長官側を批判する内容だ。あるネットユーザーは「ほかならぬ軍隊の問題」だとして、「休暇復帰が1時間遅れるだけでも部隊全体がひっくり返るのに、無理強いをして国民を愚弄(ぐろう)している」と書き込んだ。別のネットユーザーも「無力で権力がないと家畜のように前方で余計な苦労をするのに、秋長官の息子は『ママ・チャンス』(権力者の母がくれた機会)で休暇だけでも58日」と書き込んだ」

     

    韓国は徴兵制である。男子は全員が軍務に服する義務を負う。秋法務長官の息子だけは、特別待遇を受けていたのだ。それだけに、20~30代の怒りは収まらない。文政権には打撃となろう。

     

    (2)「特別待遇疑惑を皮肉る反応も続いた。あるネットユーザーは「60万将兵に吉報がある」とし「今後、休暇延長は電話ですればよく、駄目だというなら『秋さんの息子はよくて私はなぜ駄目なのか』と問い詰めればいい。IT大国らしくこれからは電話で『通信セキュリティー』をして(休暇延長を)申告せよ」とコメントした。別のネットユーザーは「もっと言うなら、本人が(休暇延長申請を)やる必要もない。近所の顔見知りの兄さんに休暇延長申請をやってくれと言えばいい」と書き込んだ」

     

    事件の顛末は、秋長官の息子の上官が、帰隊遅れを心配して電話したら、本人は自宅にいた。すぐに帰隊を申し渡したところ、無関係の部隊高官が現れて、「この件は、私に任せろ」と言って4日間の休暇が認められていた、というもの。秋氏側が、韓国軍に手配して「4日間休暇」にすり替わっていたと疑惑対象になっている。

     

    (3)「秋長官の息子の弁護人団から「(秋長官の息子は)米軍KATUSA(在韓米軍部隊に配属された韓国軍兵士)で服務したので、休暇の規定は韓国陸軍ではなく米軍の規定に従う」という見解が示されると、これに対する批判が殺到した。これについて国防部(省に相当)は「休暇の規定はKATUSAも韓国軍の規定に従う」と反論している」

     

    秋長官側は、息子が在韓米軍部隊に配属された韓国軍兵士を理由に正当性を主張しているが、国防部はこれを否定している。

     


    (4)「ネットユーザーらは「KATUSAがいつから(休暇で)米軍の規定に従ってたんだ…。たびたび随分なことを言う」という反応だ。別のネットユーザーは「KATUSAとして服務した人だけでも韓国に何人もいるのに、話にもならない釈明をやって国民をだまそうとしてる」と書き込んだ。「なんとしてでも取りあえず切り抜けようと米軍の規定まで振りかざし、自分の足を切って恥をかいただけ」という反応もある」

     

    ここまで騒ぎが大きくなると、秋法務長官はいずれ進退問題になろう。文政権崩壊への第一歩が始まるであろう。堅塁を誇った文政権が、蟻の一穴で崩れるのだ。



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    韓国の文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保担当特別補佐官が、私人(延世大学名誉特任教授)肩書きで『ハンギョレ新聞』に寄稿した。肩書きは私人でも、現職の大統領特別補佐官に変わりない。文氏の発言は型破りのものが多く、中国礼賛・米国批判であった。南北朝鮮統一には、米軍の存在が「邪魔」というもので、米韓対立で決着のつかない問題は、中国に仲介して貰え、という非常識な内容であった。

     

    今回の寄稿は趣きを変えて「中国批判」に転じている。読む方が戸惑いを覚えるほどの「転向」である。文大統領の外交路線を変更させる「狼煙」のような位置づけかも知れない。中国の最近の外交が、脅迫じみていることから「覇道」と定義づけ、道徳に裏付けられた「王道」へ戻れ、と主張している。

     

    「覇道」や「王道」という言葉を目にして思い出すのは、孫文の著書『三民主義』である。中国は、決して武力を用いた「覇道」の道を選んではいけない。高い道徳による「王道」を進むべしと説いている。中国革命の原点は、この「三民主義」にあった。共産党が、これを乗っ取り換骨奪胎してしまったのである。この精神が生かされているのは、現在の台湾である。

     


    『ハンギョレ新聞』(9月7日付)は、「中国が新冷戦を避ける道」と題する寄稿を掲載した。筆者は、文正仁(ムン・ジョンイン)延世大学名誉特任教授である。

     

    (1)「マイケル・ポンペオ米国務長官が7月23日、ニクソン記念館で行った次のような主旨の演説を行った。

    ・共産党独裁が人民を抑圧する国

    ・覇権への野望で世界を脅かす国

    ・新型コロナウイルスを全世界に広げた国

    ・不公正貿易で産業技術を盗んで米国でスパイ活動をする国

    ・香港市民の自由とチベット・ウイグルの少数民族の権益を抑圧する独裁国家

    ・軍事力増強を通じて世界平和と南シナ海・東シナ海での海路の安全を脅かす国」

     

    もはや、コメントをつけるまでもない。周知の事柄である。

     

    (2)「8月24日、中国共産党機関紙「人民日報」がポンペオ長官の批判を26項目に分けて反論した。

    ・中国共産党は人民のための中国の特色ある民主主義に忠実である

    ・中国は反覇権主義を外交政策の基本規範とし、国際秩序を誠実に守っている

    ・新型コロナウイルスに関するすべての情報を透明に公開し、その克服のノウハウを国際社会と共有している

    ・不公正貿易に対する米国の要求を受け入れ、革新と研究開発(R&D)投資で米国と競争している。産業スパイ行為というのは事実無根だ

    ・香港の国家安全維持法は内政問題で、分離主義者や外勢と結託し、国基を揺さぶる人たちのみ適用される。また、ウイグルの政治犯収容所は潜在的テロ分子らに対する精神及び職業訓練場所だ

    ・中国の軍事力は米国に比べて劣勢であり、南シナ海と東シナ海で海路安全を国際法に基づいて完全に保障する」

     

    以上を読むと、すべて虚偽と言わざるを得ない。例えば、「中国共産党は人民のための中国の特色ある民主主義に忠実である」である。人民に選挙権も与えず、上からの指示で選ばれる代議員が決める政策は形ばかりである。この調子で言えば、北朝鮮も民主主義国になる。国民を監視し弾圧する政治は、民主主義でなく独裁主義と呼ぶのだ。民主主義の定義を変えてはならない。

     

    (3)「中国の立場を額面どおりには受け入れられない3つの理由がある。

    まず、中国政府の戦略的曖昧性と混乱だ。習近平主席は就任後、全人類とともに繁栄する「和平発展」と人類運命共同体、米国に言うべきことは言いながら協力と競争をするという「新型大国関係論」、周辺国と親善、誠意、互恵、そして包容関係を維持するという「親・誠・恵・容」政策、そしてアジア諸国と協力、包括、共同、持続可能な安保を模索するという「新アジア安全保障」構想などを提示した」

     

    習氏は、第1期政権では、国際社会と協調する姿勢もみせていた。

     

    (4)「中国は最近、和平発展に相反する「大国崛起」を追求しており、人類運命共同体を標榜する「一帯一路」構想も新帝国主義という非難を浴びている。「親・誠・恵・容」とは裏腹に、周辺国との紛争が絶えないうえ、アジア国家の期待を集めた「新アジア安全保障」は、形骸化して久しい。残ったのは「新型大国関係論」だけだ。このような戦略的曖昧性と混乱が周辺国の信頼を損ねている」

     

    第2期政権では、大国主義を臆面もなく掲げている。挙げ句に、世界覇権に挑戦すると言い出したのである。平和的手段での「協調と競争」であれば容認されるが、強奪・脅迫という帝国主義そのものに変貌している。

     


    (5)「次に、ホワイトハウスの「アメリカファースト」政策で米国の国際的地位が大きく損なわれたことを受け、中国では道徳的リーダーシップに対する議論が活発に行われている。例えば、清華大学の閻学通教授は、荀子を引用し、世の中には3つのリーダーシップがあるという。徳治で人と天下を取る王道、政治力と武力を通じて天下の一部を得る覇道、強圧で諸侯国一つ程度を強奪する強権の3つだ。閻教授は、中国が米国に勝つためには王道を歩まなければならないと主張する」

     

    中国が、世界に受入れられるための条件は、世界の普遍的価値である民主主義(独裁主義でない)を受入れるしかない。それは、共産主義の放棄である。腕力(軍事力)での世界支配は中国を滅亡させる。よって、中国の世界覇権論=共産主義放棄と同意語になろう。

     

    (6)「大規模な開発援助と最近の新型コロナ防疫の成功で、中国の国際的地位が改善したのは事実だ。しかし、果たして中国は米国を凌駕する道徳的リーダーシップを発揮して、世界の人々の心をつかむことができるのだろうか。THAAD(高高度防衛ミサイル)問題で韓国に示した態度、南シナ海での行動、コロナ禍以降人口に膾炙する「戦狼(せんろう)外交」など、振り返ってみると、中国外交は王道ではなく覇道と強権に近いものに見える」

     

    中国外交の現状は、覇道である。チェコ上院議長の台湾訪問に対し、臆面もなく「代償を払わせる」と恥ずかしげもなく言ってのける感覚は覇道そのもの。外道である。

     


    (7)「最後に、中国例外主義の問題だ。米国も例外主義を掲げているが、自由や民主主義、人権という普遍主義でこれを正当化しようと努めてきた。一方、中国の例外主義には、説得力のある普遍的な要素がない。文明国家や中国の特色ある社会主義、中国の特色ある民主主義という特殊性だけが強調される。中国が普通の国なら問題にならないだろう」

     

    中国の特色ある社会主義は、一国レベルで行う話だ。だが、世界標準にはなれない。他国が賛成しないからだ。この限界と矛楯を認識すれば、世界覇権論など出るはずがない。

     

    (8)「世界を主導するリーダー国になるためには、2つのうち1つを選ばなければならない。中国の特殊性を全世界に伝えて世界標準にするか、さもなければ中国の特殊性と普遍性を折衷しなければならない。前者の場合、「中国モデルによる世界支配」という反発が激しくなりかねない。結局、可能なのは後者の道しかない。中国指導部の柔軟性と変容性が求められる」

     

    このパラグラフの結論は、共産主義のままで世界覇権が不可能という事実だ。難しい話ではない。戦前の日本は「八紘一宇」というアジア覇権を目指して挫折した。ましてや、中国の世界覇権論などは、中国を滅ぼす危険性を秘めた大博打である。習氏の「戦犯1号」は確実だ。

     

    (9)「中国が、米国との新冷戦を避け、尊敬される大国になるためには、国家戦略の方向性を明確にしなければならない。和平発展路線に忠実で、王道を行動で示し、中国的特殊性と世界的普遍性を調和させてこそ可能なことだ」

     

    文正仁氏がこういう結論を出したことは、韓国外交が「親中朝・反日米」路線から決別する意味であろう。ここまで中国への認識を変えながら、韓国が中国への「秋波外交」を続けるとしたら、韓国も滅亡の運命にある。

     

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