特別補佐官の米国批判
米国は悪魔という根拠
国民の8割が親米感情
世界高評価の日本妬む
進歩派は淘汰の運命へ
米中対立は、様相を変えてきた。新型コロナウイルスによるパンデミックが始まった当初、中国外交部の記者会見では、「戦狼外交」と称せられるように、中国が世界に向かって言いたい放題の発言を繰返した。その挙げ句、新型コロナウイルスは米国が中国に持込んだものと、ツイッターを流して「米国犯人説」を強調した。
これに怒った米国が、中国批判を展開して一連の「中国封じ込め」政策に進んでいる。その間、中国は香港に保障されていた「一国二制度」(2047年まで有効期限)を廃止して、香港の「中国化」を強行した。1997年の英中協定を破棄したのだ。ここに、米中対立は、米英vs中国という構図に変化している。米英の背後には、EU(欧州連合)や日本も控えており、中国は意図せざる窮地に追い込まれている。
このような国際情勢の変化の中で、ひときわ注目されるのが韓国の動きである。韓国は、歴史的に中国との関係が深く、「事大主義」なる言葉に表わされるように、中国の威を借りて「威張り散らす」外交パターンが存在する。今回の米中対立に対しても案の上、「中国寄り」姿勢を見せる結果となった。
特別補佐官の米国批判
韓国大統領府の文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の外交・安全保障における最大のブレーンとされる。これまで、言いたい放題の発言をしてきたので、米国の外交専門家の間ではすこぶる評判の悪い人物として知られている。米国における韓国のイメージを大きく損ねてきたのだ。
その文特別補佐官が、個人の肩書き(延世大学名誉特任教授)で『ハンギョレ新聞』(8月10日付)へ、「『新冷戦』を作る三匹の悪魔」と題する寄稿をした。米国トランプ政権の対中政策を「悪魔」と罵ったのである。民主社会は言論の自由が保障されているから、いかなる意見の開陳も自由である。だが、韓国大統領特別補佐官の身分の人間が、個人の肩書きとはいえ同盟国の米国を「悪魔」と攻撃するのは著しく逸脱している。ここら当りに、韓国社会の「異常性」を感じるのだ。
文正仁氏は、前記の論文で、「レスリー・ゲルブ元米外交問題評議会議長が、2009年に発刊した『権力の規則』という著書を引用しながら「自説」を次のように展開している。
外交政策に関するホワイトハウスのレトリックによく登場するテーマがあるとすれば、それは敵対国の「悪魔化」である。具体的には、次の3点が歴史的な「悪魔発言」に該当する。
1)1980年代、レーガン元大統領はソ連を「悪の帝国」と規定した。
2)ジョージ・ブッシュ第43代大統領は、2003年の『一般教書』で北朝鮮、イラク、イランを「悪の枢軸」と称した。
3)マイク・ポンペオ米国務長官はこの7月、ニクソン図書館での演説で中国を「フランケンシュタイン」と呼んで事実上、中国との決別を宣言した。
前記について文正仁氏は、「行き過ぎた原則と理念、腹黒い政治、そして権力の傲慢がそのような常識を圧倒している。これら3匹の悪魔が常識に基づく外交政策の選択を奪っている」と決め付け米国を批判した。この文氏に見る外交センスは、妥当だろうか。
旧ソ連や現在の中国では、「悪魔」以上の侮蔑の言葉が公式の席上で用いられている。日本が尖閣諸島を国有化した際、中国首相は国連議場で日本を「泥棒」と二度も蔑む発言をした。「悪魔」以上の悪意を込めた言葉だ。こういう過激な言葉を用いる旧ソ連や中国を批判せず、米国だけを責める主旨は著しく穏当さを欠くのだ。
米国は悪魔という根拠
米国が前記3点において、「悪魔」と呼んだ国際政治局面は、米国が「国難」の時期に遭遇していたのである。
1)1980年代、レーガン元大統領はソ連を「悪の帝国」と規定したが、米ソの軍拡競争でソ連は脱落して、崩壊(1991年)した。ここに、第二次世界大戦後続いてきた「米ソ冷戦」が終結し、世界はイデオロギーで争うことから開放されたと思ったのだ。それは錯覚であった。約30年後、中国共産党が「共産主義」を掲げて、世界秩序改編に向け動き出したのである。(つづく)