文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、来年5月までが任期である。余すところ一年余りとなった。この最後の一年で、念願の南北対話の突破口を開けと国家安全保障会議(NSC)全体会議で発破を掛けた。この会議では、米国のインド太平洋戦略にも初めて言及し、米国の「ご機嫌取り」もするなど、これまでになかった「全方位」へ気配りしている。
南北対話に道を開くには、米朝関係が打開されなければならない。だが、米国バイデン政権は従来のトップダウン方式による交渉を否定している。ボトムアップ方式の交渉積み上げである。こうなると、米朝が来年5月まで、ボトムアップ方式で首脳会談を開催できるまでに関係改善できるか見通し難である。そこで、文氏は7月の東京五輪を利用し、日本・米国・韓国・北朝鮮の4ヶ国首脳会談開催に持込みたいというのである。
文大統領は、夢のような話を実現させようというのだ。「すべての道はピョンヤンへ通じる」と信じているだけに、今後の韓国外交は混乱必至である。
『朝鮮日報』(1月22日)付は、「『朝米・南北対話の突破口』、トランプを相手に使った政策に再び言及した文大統領」と題する記事を掲載した。
バイデン米国大統領就任を、「米国の帰還」を歓迎する文大統領の言葉は、表向きはバイデン政権の政策に歩調を合わせたかのように聞こえる。しかしその裏面にはトランプ時代の米朝・南北対話への復帰に対する期待と意思も込められている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が言及した「3年前の春の日」を再現するということだ。
(1)「文大統領は国家安全保障会議(NSC)全体会議を主宰した。文大統領自ら主宰するNSC全体会議は「ハノイ・ノーディール(米朝首脳会談決裂)」対策のため2019年3月に開催して以来1年10カ月ぶりだ。バイデン政権発足を「韓半島平和プロセス」再稼働のモメンタム(契機)にしたい文大統領の意思が反映されたのだ」
文大統領は、南北対話開始による「韓半島平和プロセス」に執着している。それには、米朝の対話が進まなければならない。現在では、その見通しはゼロである。文氏は、韓国が米朝関係改善の糸口をつくると意気込んでいる。だが、バイデン政権は従来方式の交渉を否定しているのだ。韓国は、インド太平洋戦略に参加するような口ぶりである。これは、中国を刺激し北朝鮮へ、安易に南北対話に乗るなという差配をさせるかも知れないのだ。そうなると、韓国が独自に動く余地は限られるはずである。結局、韓国はあちこちを突いてみても、解決案は出て来そうもない。
米中対立の長期化という国際環境の中で、南北関係はどうあるべきか。米韓同盟の緊密化による以外、道はなさそうだ。南北関係は、米中関係が好転しない限り前進しないであろう。これが、冷厳な現実と言うほかない。
(2)「シンガポール合意は、トランプ前大統領が自らの治績として任期中に一貫して宣伝してきたもので、バイデン政権の方向性とは距離が遠いとの指摘もある。次の国務長官に指名されているブリンケン氏も先日行われた米議会上院での公聴会で、従来の対北朝鮮政策に対する全面的な再検討に言及し「どのような選択肢が北朝鮮を交渉のテーブルに引き出す圧力を高めるのに効果的か検討する」との考えを示した。トランプ式の即興的なトップダウン外交ではなく、制裁の強化に焦点を合わせるということだ」
米国新政権は、北朝鮮に対して制裁強化に動き出す意向を見せている。文大統領が、想像している状況とは全く異なっている。米国は、トランプ方式の米朝交渉を否定している。文氏の描く構図は、トランプ式のトップダウンである。これは、米韓関係で大きく食い違う点だ。韓国も、米国式のボトムアップ方式の外交戦略に転換せざるを得まい、となれば、今回の韓国外交部長官交代は、何の意味もなさないだけでなく、むしろブレーキ役になりかねないリスクを抱えている。
(3)「会議の席で文大統領は、「長い膠着状態を一日も早く終わらせ、朝米対話と南北対話に新たな突破口を見いだし、平和の時計が再び動き出すよう最善を尽くしてほしい」「われわれ政府に与えられた最後の1年という覚悟で臨んでもらいたい」と述べた。早期の米朝対話実現の必要性を強調したもので、3日前の新年記者会見で「シンガポール宣言から再び始めねばならない」と語ったこととも相通じる話だった」
韓国は、南北対話を急ぎたいとしても、当の北朝鮮はどうなのか。これまでの北朝鮮の動きを見れば、そういう気配はない。北朝鮮は、金支配体制の保障に関心を持っているだけだ。こういう相手と、なぜそこまで大慌てして交流を急ぐのか。不思議といえばこれ以上、不思議な話もない。韓国の安全保障が第一であり、南北交流はその次の課題であろう。韓国の安全保障を犠牲にした南北交流はあり得ない。現状は、その危険性が高いのだ。
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